酒カスエルフ、ダンジョンへ行く   作:エルフスキー

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前話に変更があります、すみません。
後書きもちょっと長いです


変幻

 

 リリルカ・アーデには習慣がある。少女は時折変身して、花屋へ花を買いに行く。

 切欠はお付きをする人の賭博遊びだった。品性のない闇賭博界隈、神々からも洒落にならない賭けをすることでお馴染みの酔っ払いは、その日自ら(エルフ)小姓(パルゥム)の耳をBETしてくれやがったのである。

 

 『既に半分千切れかけてござるけどな!』などと種族の尊厳を台無しにしつつ、結局帰雁は大勝ちした。

 その泡銭でリリルカに鱈腹食わせたのち……何を思ったか残った金で、大量の花を買ったのであった。

 

 帰雁は酒蔵に花を活けて回った。実に見事な出来栄えだったから、皆がもの言いたげだったのを覚えている。

 あの人には意外な特技が山程あって、その全てが洗練されているので、なんとなく納得が行かない気持ちにさせられるのだ。

 【ソーマ・ファミリア】の薄暗い本拠は、しばしの間生花で華やかになった。その後萎びて色褪せたゴミを、ちまちまとリリルカが廃棄する羽目になったのだけれど。

 

 ただ主神の居室の枯れ花を、ソーマが三秒ほど目で追ったから。少しばかり興味が湧いて、リリルカは安いブーケを買ってみた。

 見様見真似でも活けた花に、ソーマは五秒だけ目を留めたから。以来一つの習慣がリリルカに生まれた訳である。

 

 

「【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】」

 

 歌うように魔法を行使する。耳を細長くしようかと思ったが、自らの野暮ったい顔立ちが気恥ずかしくなって、代わりに平たい猫耳を生やしてみた。丸い眼を少しだけ細く、髪の長さも調節する。

 輪郭のまろさを消し、身なりを孤児の子供らしく。所持金を全身に分散して身につけ、メインの財布に5ヴァリスだけを収める。

 

 しかしあの花屋の店主には悪いことをしてしまった。山程のヴァリスを突き付けられガタガタ震えていた老夫婦を思うと、我が事のように胸が痛くなる。身内が本当にすみません。

 

 その償いでもないけれど、リリルカはいつも同じ花屋に通う。毎回違う姿かたちをしているから、彼らは自分が常連だとは気づいていないだろうが。

 

「……あの人が帰ってきたら」

 

 その時はもう一度、本当の姿で花を買おうか。ちょっと、いやかなり目立つ客だったと思うから、ひょっとして顔を覚えられているかもしれない。謝罪も兼ねて奮発してみても良いだろう。

 

 いやまあグレードを上げたとて、主神に花を愛でる機微が無いのは知っているけど。寧ろ華道のなんたるを語る免許皆伝エルフの方が解せないけれど……。

 

 されどそんな日常が、再びやって来るかは分からない。

 

 少女には無限の反骨心があったし、抜群のツッコミセンスがあった。齢に見合わぬ程の理知と、臆病に近い用心深さと、絶望的な身の上に対する諦念があった。

 それからほんの僅かながらに、近しい人への情がある。だからどうしようもない家族とも、結局は付き合えてしまうのである。

 

 なお例の守銭奴は別問題。彼は主神と用心棒に目を掛けられる(当ファミリア比)存在を脅威と捉えているらしく、何かにつけて邪険にしてくるからだ。

 

 いつも通りの日々を送る。毎日違う人間の顔で歩く。その日の糧をなんとか探して、僅かな余裕で花を買う。

 

 誰に命じられたわけでもないが、リリルカはその日常を、少し歪めてみることにした。

 

 

 

 

 

 檻に女が閉じ込められている。襤褸の装いに乱れた黒髪、夜霧に霞む朧月のような、どこか仄暗い印象を与える女である。

 彼女は所在なさげに手足を投げ出し、ぼんやりと鉄檻を眺めていた。憂げな表情を側から見れば、我が身の儚さを嘆く都落ちの姫君にすら見えるが。

 

「……暇でござる。しりとりとかせぬか?」

 

「またかよ……」

 

 『一人美人局』『美の暴力(物理)』『妖怪ござるエルフ』と謗られる怪人は、堂々たる姿でそっくり返った。

 

 既に散々ゲームに付き合わされた【イケロス・ファミリア】の面々は、うんざりした様子で肩を落とす。この囚人は酒浸りの癖に無駄な知能があるため、学のない十数名の悪漢相手では終始優勢な勝負をするのだ。

 

 初めこそ『嵌め』がある勝負で下品な賭けもしていたのだが……理不尽なほど強運な上に口を開けばトンチキなので、彼らのその気も萎えたらしい。

 誰にだって選ぶ権利はある。ツラが良けりゃ良いって訳じゃねえのである。

 

 しかし貧乏籤を引かされたものだ。日頃の行いが悪いからだろうか……だったら仕方ねえな。

 「頭ぁ」と困り果てた様子の団員に呼ばれ、ディックスはしみじみと世の摂理を呪った。

 

「殺しは勘弁しろ、ヒトもモンスターも在庫がねえよ。商品まで【闇派閥】に売らされてウチもカツカツなんだ」

 

「拙者そこまで血に飢えてござらんが……」

 

 殺戮兵器(キリング・マシン)のような扱いを受け、帰雁は不本意に口を尖らせる。【殺帝】でもあるまいに、暇潰しの娯楽で殺人をしたりはしない。

 

『ロキ神の若頭に完封されている割に、なんだ、案外知性があるのでござるなぁ』

 

『てめえを殺す』

 

 尤も彼女をキレさせて拘束されている分際で、遺憾に思う資格はないのであった。

 

 あらゆる派閥を盥回しにされた挙句、ヴァレッタ直々にモンスター用の檻(を所有する【イケロス・ファミリア】)にぶち込まれた失言エルフは、何処か懐かしげに寛いでいた。手持ち無沙汰を隠しもせず、極限までだらけきった様子である。

 

 主神イケロスがいたならば嬉々として暇つぶしに付き合っただろうが、男神は今『エレボスを応援する会』なるものに参加している。

 

 同郷の神々で神エレボスを囲い、

「ヘルメスRP(ロープレ)割と上手くて草」

「あーダメダメ、今のウザさが足りてない。エレンくん地金が出てまちゅよぉ」

「根暗渾身の名演光る。ゼウスに見せてぇ〜〜」

 などと彼を煽り散らかして遊んでいたので、暫くは帰ってこないだろう。

 

 「うるせーお前ら送還するぞ!!!」とキレるエレボスの目は“ガチ”だったが、調教師や密猟者を手放せない以上イケロスを送還することはできない。

 それを自覚しているからこそ、イケロスは護衛の一人も付けていないのだった。

 

 まるで迷惑客を相手にするかの如く、面倒そうなディックスが檻の前でしゃがみ込む。

 

「だったら酒か?女か?悪いが地下には碌なもんがねえぞ」

 

 酒池肉林の化身とでも思われているのだろうか……お酒は欲しいでござるが。帰雁はちょいちょいと彼の手元を指し、彼が飲んでいる液体を要求した。

 男はあからさまに渋い顔をする。酒を呑んでいるというのに、全くつまらなさそうな顔である。

 

「……下も下の酒だぞ。とにかく不味い。木精が混じって中毒にもなる。神酒を飲むような舌に合いやしねえよ」

 

「興奮してきたな……」

 

「話が通じねえ」

 

 男はグラスを探そうとするも、違う違うと身振りで示すと、更に渋い顔で酒瓶そのものを差し込んできた。

 

 独特の風味を舌先に乗せれば、何処かで出会ったアルコールの味がする。味覚の数倍鈍い海馬を動かし、顰めっ面で記憶を辿ると、数年前の記憶が浮かんだ。

 

「……あ。これなる火酒か。前にちゃんぽんしてぶっ倒れた奴でござるな」

 

「てめえ馬鹿なのか?」

 

「丸々一本飲み干したのだが、足腰立たなくなったでござる。成程、あれって中毒だったのだなぁ」

 

「てめえ馬鹿なんだな……」

 

 クピクピ火酒を含むエルフ。神の恩恵を肝臓の強化に割り振っているらしい。ディックスは哀れみの眼差しを向けながら、訝しむ気持ちでショットを呷った。

 

 記憶の通り不味い酒だ。酷い味がする。だから彼は酒が嫌いになった。地下には碌な物資がなく、酔うには毒入りのグラスを傾ける他なかったからだ。

 

 苦手意識というのはどうしようもないもので、“仕事”で外へ出るようになって以降も結局酔うほど飲むことはなく。

 女を抱く快楽も同様で、それらの欲求が収束したように、ディックス・ペルディクスは殺戮と拷問に傾倒したわけである。

 

 この女ならどうだろうか。天衣無縫の人殺し、救いようのない呑んだくれならば。

 ダイダロスの系譜に毒入りの火酒で中毒死する手合いは多いが、この女も一族の宿命に絶望した下らない一人に成り下がるのだろうか。

 

 

 ぷはッ!と清々しく息を吸う音がしたので、ディックスはぎょっとして檻の中を見た。当然の如く瓶は空、ほんのり頬を染めた帰雁が満足げに口元を拭っている。

 

「はー不味い。癖になる不味さでござる♡」

 

 ……色々と言いたいことはあったものの。この女が親戚に居なくて良かった、と心底から男は思った。

 

 





当方自分が読みたいシーンを書く自給自足型人間なんですが、イレレコでかなり欲を満たされてしまいまして、どうしたものかなと考え中です。公式の二番煎じは面白くないってそれ一番(略)

とりあえず前話から少しプロット変更してます。それに伴いこれまで以上にゆっくり更新になる可能性があります。
作者の我儘で申し訳ない。現状削除の予定はないので、気長にお待ち頂けたら幸いです。

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