酒カスエルフ、ダンジョンへ行く   作:エルフスキー

34 / 45
おまたせしました


花に風

 

「なぁソーマ、自分この後暇やろ?暇やんな?丁度ウチも暇してん」

 

「帰る」

 

「相変わらず陰気な奴っちゃなぁ!ウチら付き合いもそれなりになるやんけ。そろそろ心開いてくれてええんちゃう?」

 

 ロキは陰キャに絡んでいた。隣席の生徒に絡む男子中学生の如く、かなりダルいウザ絡みである。

 『神会』終了の宣言と同時ソーマがそそくさと立ち去ろうとする一方、ロキはガッチリその腕を掴む。

 

 ソーマはあからさまに嫌そうな顔をしたのち、構わずそのまま歩みを進めた。

 ズルズルとロキが引き摺られ、その手が掴んだ近場の男神(ヘルメス)が引っ張られ、彼の座る椅子までもが動く。

 き、帰宅の意思が強すぎる……!?ロキは戦慄した。

 

「ダウナー系の(ツラ)しとる癖してどっからその馬鹿力湧いてんねん!帰宅部主将か!全国大会狙っとんのか!」

 

「製造業従事者を……無礼(ナメ)るな」

 

「いや何のプライド!?変なとこ愉快な神やでホンマ……ちょ、ヘルメス、このままだと押し負けてまう、もうちょい踏ん張りや!」

 

「ろ、ロキ?あのロキさん?よりによってなんで髪を掴んで……ア痛たたたたた容赦が無い!千切れちゃう!俺の毛根が死滅しちゃうからぁ!?」

 

 二対一だが接戦だった。頭脳労働(わるだくみ)が主戦場のトリックスター二人に対し、二次産業では割とパワーがモノを言うのである。

 苦闘の末に引き合いが拮抗、ヘルメスの翼ある帽子(アトリビュート)がコロコロ虚しく床を転がる。

 

「一口十ヴァリスから!」「俺はロキに賭けるぜ、その優男(ニヤケ)面泣かせちまえ!」「てかこれどういう状況なん???」

 

 娯楽に飢えた神々は瞬く間に賭け事を始め、方々をヴァリスとお囃しが飛んだ。馬鹿騒ぎを察した老神(ウラノス)は早々に退室し、美神(フレイヤ)も退屈そうな溜息を残して帰ってしまう。

 残るは不謹慎な馬鹿くらいのものだ。此度は暗い話題を扱ったはずの議場だが、深刻なムードは微塵もない。

 下界の暗雲とは関係なく、神々のモラルは常に底辺を這いずっている。

 

 神々の罵声と歓声が響く中、遂に形勢がひっくり返った。

 頭皮を押さえてシクシクと哀しげに泣く巻き込まれのヘルメス。「うぉおっしゃァい!」とオッサン臭い声を上げて、ロキはオーディエンスにアピールする。

 足元にぶつかった帽子を拾い上げると、ソーマは深い溜息を吐いた。

 

 

 バベル高層階のテナントには、神々のみが利用できる店が並んでいる。うだつの上がらない男神どもが溜まるこの軽食店もその一つ。

 彼らはかつて来店した美神の再臨を夢見て、安いワンドリンクとテーブルチャージを延々と払い続けているらしい。

 カウンターに腰掛けたロキは白々しい笑みで言う。

 

「いやぁ、なんか悪いなぁ!奢ってもらうことになってしもて!」

 

「……帰りたい」

 

 ロキがソーマに絡むのはそう珍しいことでもない。とはいえ狙いはソーマ本神ではなく、男神の膨れ上がった財布だった。

 

 彼女は享楽を愛する典型的な神であり、また派手な遊び方を好みもするので、帰結として金遣いが豪快になる。

 故に【ロキ・ファミリア】では主神(並びに幼いアイズ)に対してお小遣い制が導入されているのだが、そんなものは月頭で使い切ってしまうのだ。

 

 なお計画性の塊たるフィン及び、大蔵省(ママ)ことリヴェリアが握る財布の紐は堅い為、【ロキ・ファミリア】の財政は安泰である。

 とはいえロキが好む『宴会(どんちゃん騒ぎ)』には別途の経費が落ちる辺り、全く慈悲がないわけでもなかった。

 

 一方【ソーマ・ファミリア】の規則においては、純利益の三割が主神の口座に直通する。本神が意図せざるとも、ファミリアの経済活動の根本にはこの趣味神があるからだ。

 されど神酒の制作費はガチガチに予算が固められている為、ソーマはポケットマネーに手を付ける用件がない。精々ザニスがチョロチョロ運用に持ち出すくらいのもので、資産は増え続ける一方だった。

 

 こんな暮らしを随分長く続けているので、ソーマは莫大な死蔵金を抱えし謎の高額納税者(エコノミック・モンスター)と化している。

 【ギルド】から腰の低いご機嫌伺いを受けるのも、ディアンケヒトに怪しげな投資勧誘されるのも、全て自業自得なのだ。

 

「他神の金で食う飯は最高やな!」

 

 ロキはなだらかな胸を張った。眷属の悪名高さ故に敬遠されがちな酒神派閥であっても、都市最大(ロキ・ファミリア)からすれば弱小である。集ってナンボの財布なのだ。

 

 そもソーマの眷属は権威に弱いか頭が弱いかの二択だから、仮にカツアゲ現場を見られたとて、「まあ、はい……程々でお願いします……」だの「わは!虐められてござる。ウケる」だのと主神を助けようともしないだろう。

 尤も権威に弱い方の眷属に、可愛い眷属たちは一杯食わされてしまったようだが……。

 

「そういやウチの眷属らが世話になったらしいなぁ」

 

「知らない」

 

「襲撃の被害とかはどうだったん?死人は出なかったっちゅう話やけど」

 

「分からない」

 

「ところで帰雁ちゃん元気?」

 

「いつぞやの抗争から見ていない」

 

「立て板に水!もうちょいコミュニケーション取ろうや!」

 

「……俺に聞きたいことがあるなら」

 

 俯いたままだったソーマがふと顔を上げ、真っ直ぐロキの顔を見た。

 

「さっさと言ってくれ。まだ終わらせていない作業がある」

 

「……おお、そら悪かったなぁ」

 

 ロキはビールを呷りながら、コイツはやっぱり白だよなぁ、と思う。

 

 神々の本性とは在り方そのもの。不変不滅とはそれ即ち、時勢程度で自らを変えられないことを意味している。

 ソーマは酒造りにしか興味がない。つまり原材料を手に入れられるだけの物流と、それを確保できる仕組みと、製造の環境があればそれで良いのだ。

 そんな神が敢えて反体制側を支援するだろうか?

 

 しかし現実として、【ソーマ・ファミリア】の資源が継続的に【闇派閥】へ流れていることは裏が取れている。となれば、やはり。

 

「帰雁ちゃんが居なくなった()()の『抗争』って、何時の話?」

 

「……半年は前だ」

 

 話は終わったとばかりに席を立ち、男神は一人店を出る。取り残されたロキはフンフンと鼻歌を歌いながら、一人答え合わせに満足していた。

 

 つい先日襲撃を受けたばかりにしては妙に損耗の少ない本拠。ファミリアの主軸たる神酒の販売になんら影響の出ていない現状。

 彼らは運営状況を保っている。最低限の支出を出すことで。

 

 タネを明かせば簡単な話だ。【ソーマ・ファミリア】は散発的かつ小規模な『抗争』で【闇派閥】に敗北しており、ザニス・ルストラは敢えて物資を奪わせている。

 協力関係でこそなくとも、コラテラルダメージを材料にして、両者はある種の取引をしているのだ。

 

 嫌らしいやり方だった。彼らは【闇派閥】に金を払っているようなものだが、あくまで自己防衛のためという名目がある。

 『正義』と『秩序』を背負って彼らを糾弾することはできても、【ソーマ・ファミリア】はその殆どがLv1の低級冒険者。正面から対等にやり合って太刀打ちできるはずがない。

 

 「弱者の事情など知ったことではない。ただ奪われるがままに死んでゆけ」などと言ってしまえば、【闇派閥】の言い分と変わらなくなってしまう。

 

「ま、どうとでもできる話ではあるんやけどな!」

 

 寧ろお誂え向きの状況があったものだ。下界の子の稚い策謀を前にして、悪戯の神はニンマリ笑う。

 ここは【勇者】率いる【ロキ・ファミリア】らしく、彼らを()()()やろうではないか……。

 

 ふと伝票の上に置かれた()柱分のテーブルチャージに気がつく。案外食えない神だと思いながら、ロキは乱れた髪を直す青年神を手招くのであった。

 

 

 

 

 

 

 血染めの桜が舞っている。狂い咲きの花々だ。女は不快感に眉を寄せながら、足元に倒れ伏す少女を見下していた。

 

 廃教会は相変わらずの寂れ具合で、それでも誰かが寝床を整えていたから、一夜を明かす程度は訳がなかった。それがなんとも腹立たしい。

 

「……忌々しい、花だ。うつくしいばかりで……人を惑わす。櫻には碌な思い出がございません」

 

「まだ喚くか、小娘」

 

 女は一つ嘆息したのち、止めを刺そうと歩み寄り……疾った一陣の風がそれを遮る。身の凍る重圧に晒されながら、リュー・リオンは剣を構えた。

 





やっと新刊が読める……

リア友が「酒カスにミニスカサンタを着せてほしい。靴も舐める」とか言ってきたんですけどどうしましょうね。コイツ頭おかしいのかな……

既出の誰との関係が好き?

  • ソーマ
  • ザニス
  • アルフィア
  • ミア
  • リヴェリア
  • メーテリア
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。