酒カスエルフ、ダンジョンへ行く   作:エルフスキー

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閑話 おらりお酒滓書簡・復

 

前略

 

 乱文で済まない、取り急ぎ筆を取る。未だオラリオでは入出国が制限されているそうだな。縁あって書簡を行商に預けることは出来たが、お前に正しく渡るかどうか。

 

 其方の混乱は極東にも及んでいて、外つ国との交易も鎖国の一歩手前にある。あの女神の引き篭もり癖は今更だが、【朝廷】内部でも妙な動きがあるのは確かだから、最悪五十年も経たずに内乱が起きるかもしれん。

 お前は暫く帰ってくるなよ、いや本当に。火種にしかならん。

 

 書いていて思い立ったが、出稼ぎがてら俺も西へ出るかもしれない。今日明日の話ではなく手元の子が育ってからの話にはなるか。

 この子達が付いてくるとも限らないし、お前のように独り立ちして手を離れる子もいるだろう。

 尤もお前ほど独立独歩を極めた弟子は居ないが……うん……すくすく健やかに育ってくれればそれ以上のことはないんだ、師としては。

 

 何れにせよ会いにいくから、まあ気長に待っていてくれ。気が長いのはお前の長所だ。但し呑気すぎるのは短所だから、その所は慎むように。

 体には良く気を付けなさい。それから無事に付け届けがあれば、少しずつ大切に飲みなさい。それ結構高かったんだぞ。俺は暫く節制することにする。

 

草々不一

タケミカヅチノオ

青藍氷水の我が弟子へ

 

追伸

 すまん。説教をする気は無いんだが、弟子を疑いたくもないんだが、俺は不安でな……。見当違いならそれで良い、酷い師匠と笑ってくれ。

 ……迷宮の『蓋』に()()()()()件、まさかお前は関わっていないだろうな?

 

 

 

 

 

 めっきり本拠に寄り付かなくなった女を捕まえられたのは僥倖だった。近頃白髪が増殖し十歳老けたと陰口を叩かれる男は、爆発物を運送するかの如く厳重な包装を押し付ける。正体不明の個包を一刻も早く手放したかったのだ。

 

「アンタへの郵便だ、確認してくれ。都市に入る前に裏のルートで回収したから【ギルド】の検閲には掛かってない」

 

「何たる言い草でござるか団長殿。師弟の温かな文通をまるで密輸扱いとは」

 

「紛れもなく密輸のルートで届いたんだよ……!」

 

 それは全く送り主の本意ではなく、『モガリ・帰雁』という宛先に謎の忖度が働いた結果である。メレンを経由する極秘ルートから密かに持ち込まれた師匠心は、要らぬ紆余曲折を経て弟子へと届いた。

 

 帰雁は書簡を最初から最後まで読み、僅かに小首を傾げて数秒。これ怒られる奴でござるかな……などと呑気に思案しつつ、自らの師が如何に公明正大な善神であるかをファミリアの同胞に説明するのだが、男の返答は無情であった。

 

「【呑んだくれ】を野に放った神が碌な奴な訳ねぇだろうがよ」

 

「うーむ熱い風評被害。我が師に邪神の名を着せてしまう……」

 

 流石に素行が宜しくない自覚はあるので、不肖の弟子はしょんぼりした。

 しょんぼりしながら小包に手を掛け、ぺりぺりと包み紙を剥がし……直前までの反省も忘れてパッと瞳を輝かせる。古着に包まれた一升瓶、その銘柄は。

 

「わーい“妖精殺し”!!!」

 

「なんて???」

 

「拙者の好みにドンピシャなお酒でござる!お師さま大好きありがとー!!!」

 

 帰雁は大喜びしてステップを踏んだ。これは素材の甘みを活かした素朴な味わいの銘柄であり、僅かな青みが清涼感を与える逸品だ。

 かつてとある妖精を殺す為の酒宴で振る舞われ、何故か標的以外の全員が死んだという曰くがあるが、現在も細々と製造が続く米酒なのであった。

 

 ルンルンとご機嫌に立ち去るエルフを見送り、男は深い嘆息を吐く。

 『大抗争』から早一年。【闇派閥】との抗争は未だ続くものの、立て続く大事件の混乱は薄れた。

 十全な情報収集・堅実な資産運用・何時でも身投げする覚悟さえ持っていれば大体の商売は上手くいくものだが、暴力そのものに特段の魅力を感じられなければ、戦争屋など続きはしない。

 

 かなり身銭を切る羽目になったザニス・ルストラとしては……戦争なんざ二度とするか!これに尽きる。

 鮮やか過ぎる裏切りを決めたと巷で評判の【酒守(ガンダルヴァ)】だが、当人視点では意味分からん経緯でオラリオに与する羽目になっているのだ。

 

「何がどうしてこうなったんだ……?」

 

 【殺帝】との交渉中【勇者】が乗り込んできたのが始まりだった。何故かクノッソスの存在の発覚に関わっていたことになった上、行方不明だった酒カスがプラプラ首を引っ提げバベルに襲来した辺りが決定打。

 後が無くなった【闇派閥】が何者かの入れ知恵でオラリオの『蓋』を爆破した時は、死にたくない一心から全身全霊でオラリオを支援したし、【ギルド】と『蓋』を直せる連中との繋ぎを付けたのも致命的だった。

 

 結果【フレイヤ・ファミリア】【ロキ・ファミリア】両団長を差し置いて、ザニス・ルストラは邪神派閥のブラック(ぶっ殺)リストの先頭に名を刻まれてしまったのである。

 

 最早おいそれと外出は出来ない。本拠地の地下牢を改造したシェルターで、この男はセルフ幽閉に励む羽目になった。それでも元気に金稼ぎを続ける辺り、腐った根性も貫けば強みになるらしい。

 

 ザニスは半ば躁であった。奇妙なアドレナリンが儲けに対する感覚をより鋭敏にする一方で、恐らく何らかの感覚が麻痺している。彼は目元を解しながらも、残った事務に戻ろうとし……

 

「団長殿♡」

 

「ヒィっ!??」

 

「一杯お裾分けして進ぜよう。特別でござるよ?」

 

 ぬっと現れたエルフがウィンクと共に酒瓶を傾け、盃を残して再び消える。

 男は呆然と透明な液体を眺め、何も思わずそれを呷り……ツーと静かに涙を流す。身に染み入る酒であった。

 

既出の誰との関係が好き?

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