水神の家族、フォンテーヌの守り猫   作:チナトロ先生

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ねこの復活。



再度の目覚め

 あたたかな日差しの中で目が覚めた。

 

 日の感じ方から、早朝だろうか。

 何故、この場所に……いや、自分はもう最期だと思っていたはずだった。

 

 身を起こしてみれば、最も動けた時期のように身体が軽く、視覚や聴覚が今までに無いくらいクリアになっている感覚がある。

 視界に何か小さな物が映った。橙色の菱形が中央に描かれた飾り……これはまさか、神の目なのか。

 

 目を凝らしてみると、地面の傍には橙色のオーラが見える。

 まるで知っていたことを思い出したかのように、それらが岩元素であることを理解した。

 

 それにしてもこの状況をまとめると、神の目に伴って普通の猫という存在を超越したのだと感じる。

 視覚聴覚だけでなく思考力や以前の記憶を思い出す力まで向上している感覚がある。

 確か、稲妻という国には数百年も生きている猫か妖怪のような存在の覚えがあった。

 

 細かいことは良いだろう。

 今はただ力を授かった幸運と、彼女を悲しませないことを喜ぼう。

 

 さあ、家へ帰ろう。

 

……

 

 目を覚ませば、いつも面倒を見ている猫は姿を消していた。

 

 獣医の診断と、ここ数日の様子から永くないことは嫌でも分かってしまっていた。

 猫は最期に姿を消すという。その日が来てしまったと感じる。

 

 けれど、10年間。10年間一緒だったのだ。

 賢い猫だった。

 決して粗相はせず、触られることを嫌がらず、誰かが訪れていても邪魔をすることは無かった。

 一人きりの日々でも寂しさを覚えなかったのはきっと彼のお陰だろう。

 

『いつか救いの日が訪れるまで、誰にも真実を伝えてはならない』

 

 いつか、それはいつなのだろうか。

 こうした別れをいくつ繰り返せばいいのだろうか。

 たった一度の別れで、もう胸は張り裂けそうに痛いのに。

 涙は止まってくれなかった。

 

 からり、と音が聞こえた気がした。

 

 いつものように、玄関にある彼専用の入口から入ってくる音だ。

 家を汚さないため、玄関で彼の手足を拭いてから家に入れるのがいつものことだった。

 彼もそれを理解していたからか、いつも外から戻ってくる時はこちらが気付くまで玄関で待っているのだ。

 

 けれど、この音は私の願望が作り出したものだろう。

 

「にゃっ」

 幻聴の声まで聞こえてきた。

 もう駄目だ、いっそう涙が溢れてきた。

 

「にゃ~~~~」

 これ幻聴じゃない!!

 

……

 

 神の目を咥えて家に帰ってみれば、目に涙を堪えた彼女が迎えてくれた。

 大丈夫、ということを見せるために力いっぱい伸びを見せる。

 

 目を白黒させた彼女に連れられて、獣医に行くことになった。

 

「健康体です。驚くべきことに」

「神の目の影響なのでしょうが、単なる獣医の我々には分かりません」

「様子を見るしかないでしょう。ただ、もう計り知れるものではない…そう思います」

 

 こんなことを言われた。

 よく考えても分からないだろうし、不思議パワーで妖怪化した程度に思っておこう。

 そういえば、こうなってから人の言葉もはっきり分かるようになったと感じた。

 

 そうして帰宅。

 

「よかった……本当に」

 ようやく彼女も安心したようだった。

 

 理由は全く分からないが、神様というものが在るのならば、今はめいっぱい感謝したい気持ちだった。

 

………

 

 それから、神の目は首輪に加工して持ち歩けるようにしてもらった。

 どれだけ生きられるかは分からないが、ずっとフォンテーヌに居続ける可能性がある以上、ある程度目立つことは避けられないし、フォンテーヌの住民たちに認知してもらう必要があると考えた。

 彼女…フリーナも来客の際には私のことを一緒に紹介するようになった。

 

 それから、自分は周りに誰も居ない所で元素力の練習を始めた。

 

 これがまた非常に難しいものだった。

 目を凝らせば岩元素のオーラとでも言うべきものは見えているが、それを自由に操作するというのは困難を極めた。全く新しい手足が一本生まれたとでも言うべきだろうか。

 

 ただ、長く続けているうちに多少の理解は深まり、地面の近くであれば岩元素を纏め、固定化することで素早く小さい石や尖った針のようなものを生み出したりできるようになった。これは、地面の近くであれば水中でも可能であり、慣れてくると水中の獲物を獲ることに有用だった。

 今は何とか足場を作り、それを移動させられないかと四苦八苦している。

 こちらは当分時間が掛かりそうだった。

 

……

 

 ある日、日課の散歩と元素力の練習を続けていた時、郊外の樹の下でウロウロしながら上を気にする黒猫を見つけた。

 樹上を見上げると、そこには恐らく降りられなくなったであろう白猫の姿が見えた。

 こちらへの警戒心を感じるが、樹上の白猫も心配なようでしきりに視線を彷徨わせていた。

 

 敵意が無いことを伝えるように静かに近寄って観察すると、よく見ると二匹の猫は恐らく成猫にも関わらず痩せ細っていた。

 かつて老婆が引っ越してしまった自分のように、何らかの餌事情があるのだろう。

 まだ元素の力で救出できるほどの技量は無かったため、素早く樹に登り、口に咥えて地面に降りる。

 素早い救出に二匹は目を白黒させていたが、間髪入れず、付いてくるように促すと二匹は顔を見合わせながら後ろに続いた。

 

 二匹には、獲物が豊富な小川を紹介した。

 今日のところは、元素力で素早く水中に針を作り出して獲物を仕留め、二匹に譲った。

 がっつく二匹を見て思うが、自分でなくとも、満たされる光景は良いものだ。

 

 調子が万全であれば、この川であれば飢えは凌げるだろう。

 二匹が獲物を捕ることに苦戦するようなら、しばらく面倒を見てもよい。

 なに、時間はいくらでもあるのだから。

 

 この黒猫白猫の二匹は番であり、彼彼女らの一族とは、とても長い付き合いとなるのだった。

 それこそ、何百年も続くほどの。

 

……

 

 今日も寝床(座布団)でウトウトとしている。

 何年経っても、暖かい日差しの中で眠るのは気持ちの良いことだ。

 

 フリーナが近づいてくる気配を感じる。

 

「キミは"神の目"を得ても何も変わらないんだね」

「にゃっ」

 そうとも。

 

「喋れるようになったりはしないのかな?」

「にゃ~」

 残念ながら。ただとても長い時を過ごせば変わるかもしれないよ。

 

「もう知らないうちに何処かに行かないでね」

「にゃあ」

 すまないが約束はできない。

 ただ、必ず家には帰ってくるよ。

 私は君の家族なのだから。

 

 

 そして、数十年の月日が流れた。




まだまだ先は長いですね。
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