水神の家族、フォンテーヌの守り猫   作:チナトロ先生

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ねこの出発。



旅の準備

 あれから随分と月日が経った。

 

 猫としての生活はほとんど変わっていないが、多少変わったこともある。

 

 神の目を得てから初めて裁判所――エピクレシス歌劇場という名称らしい――に入って裁判をフリーナの膝から見学したが、彼女の演技は堂に入ったものでとても感心した。

 気になったのは、元素力のような力を同行のヌヴィレット以外にもう一つ感じたことだ。元素力を持つ人物は私以外は、今はヌヴィレットだけかと思っていたが、他にも居るのだろうか?

 

 同族である黒猫と白猫の家族――黒白一族としよう、彼彼女らとの付き合いも長いものになった。

何しろこの一族ときたら、丁寧にも子供や親族を連れていちいち挨拶に訪れてくれるのだ。下手するともう十代を超える付き合いだ。そうすると、こちらも何かと手を焼きたくなってしまう。次代に狩猟場所や注意すべき点を案内するのは恒例行事で、一時的に子猫を預けてくるものも居るくらいだ。

 気付けば猫社会においては完全にボスになっている。何か異変があった時には真っ先に報告してくれるのでありがたい限りであるが。

 

 変わっていない、という部分で一つ困っているのは、元素力の扱いが一向に向上しなくなってしまったことだ。

 数年前、なんとか地面に自分が乗れる程度の足場を作り、勢いよく浮かせることで大ジャンプのようなことは可能になったが、これを一度飛んで地面から離れた状態から続けて実行することはできず、一度きりのジャンプになってしまっている。

 周りに師事できる者も居ないため、この点については考えていることがある。

 

 

 ある日、フォンテーヌの街から離れた場所まで散歩していると、初めて見る種族に出会った。

 

 子供くらいの体格で、独特の手と触覚と翼――記憶にある、メリュジーヌだ。

 彼女の目には理性が宿っており、こちらを見つけると小走りに近づいてきて声を掛けてきた。

 

「こんにちは!」

「にゃあ」

 こんにちは。

 

「びっくり!あなたご挨拶ができるのね!」

「にゃっ?」

 どういうこと?

 

 どうやら詳しく話を聞いてみると、彼女(そういえば名前を聞かなかった)は色々な言葉を勉強中だが、私の意図を込めた言葉を正しく読み取れるようだった。メリュジーヌにそういう設定があったかは分からないが、彼女らの種族は特殊な生まれの超常的な存在だと認識していたので、そういうこともあるだろう。

 

 言葉の意味が伝われば、狩場や言葉など色々と話すこともあり、何度か会って交流を深めていた。

 ふと思ったが、彼女に手伝ってもらうことができれば、以前考えていたことを実行に移しても良いかもしれない。

 早速に彼女に会ってお願いをする。

 

「にゃっにゃにゃっ」

 文字の書き方を教えて道具を渡すから、私の代わりに手紙を書いてもらえないだろうか。

 

「うん、大丈夫だよ」

「にゃにゃっにゃにゃっ」

 ありがとう。では近いうちにまた来るよ。

 

 早いうちに家に戻る。

 

 幸いフリーナは家に居たので、手足を拭いてもらい中に入る。

 いつもならば出窓の寝床へ行くのだが、今日は少し違う。

 

 部屋を見渡す。

 フリーナは家に入る私を見届けてから、ソファーに座って読書を再開しているようだ。

 

 さて、部屋に置いてあるカレンダーと……最近の新聞にちょうど地図があったな、これで良いか。

 これらを上手く咥えてフリーナの前のテーブルに持っていく。

 

 彼女の前で新聞に載った地図をてしてしと叩き、呼びかける。

 

「にゃあ~~」

「ん?どうしたんだい?」

 

 フリーナは私がしきりに叩く部分を見る。

 ずいぶんと月日が経った現在、彼女にはある程度言葉が分かることは理解されている。目の前で新聞を読んでいることもあるくらいだ。

 だから、私が目的のものをあえて差していることを理解してくれるだろう。

 

「……璃月がどうかしたのかい?」

「にゃあ」

 

 続いて、カレンダーの明日と来年の部分を交互に叩く。意図は伝わるはずだ。

 

「まさか、行ってくるのかい?」

「にゃあ」

 そうだ。

 一人きりの旅となるだろうが、伊達に魔物も歩くような外を何十年も回っていない。道中魔物などは居るだろうが、逃げ足や一人で生き延びることには自信がある。

 流石に往復で時間は掛かるだろうから、戻るのは来年になる予定だ。

 

「そうか、理解したよ。キミは岩王帝君に会いたいんだね。最近この辺りにも機械人形が居たりするようで不安だけど……どうしてもキミが行きたいというなら止めないよ」

「にゃああ」

 ごめんね。でも、どうしても、いつか必ず力は必要になると思っているんだ。

 

「必ず無事に帰ってくるんだよ」

「にゃあ」

 それはもちろん、ここが私の家だからね。

 

 

 その後、何とか手紙の道具を用意してもらい、メリュジーヌの彼女に会いに行った。

 そして、身に着けた首輪と書いてもらった手紙だけを携えて旅に出る。

 

 

 行こう、契約の神が統治する国へ。




評価バーに色が付きました、大変ありがとうございます。

メリュジーヌの設定は完全に捏造です。
個体名も出しません。好きなメリュジーヌで想像してね。ゆるして。

私はメインストーリーをガシガシ進めるのが好きなので、璃月編は短い予定です。
早めに本編を完結し、余った時間で番外を書くのが目標ですね。
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