水神の家族、フォンテーヌの守り猫   作:チナトロ先生

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ねこの労働。



璃月にて

 約100年前の大戦は終われど、岩王帝君の統治する璃月の地において、今も多くの魔物が蔓延っていた。

 しかし人々の生存圏を拡大するため、岩王帝君や仙人達、そして千岩軍は日々戦っていた。

 

 そうした日々のある日、岩王帝君と麒麟の血を引く甘雨は、魔の痕跡が報告された天穹の谷という地に居た。

 そこで報告のあったヴィシャップなどの魔物は速やかに滅された。

 

 警戒を解きかけた時、二人は自身を観察している元素力の存在に気が付いた。

 

「そこの者ッ!速やかに姿を現しなさい!」

 

 警告し油断なく弓を向けた甘雨の前に、木陰から小さな四足の獣が歩み出てきた。

 一瞬その小ささ故に瞠目する甘雨だが、首から下げられた神の目の存在に気付き警戒を解くことは無かった。

 

 その獣は外套を身にまとう岩王帝君と目を合わすようにゆっくりと近づきながら、ある程度の所で止まり、器用に背中に背負っていた手紙を地面に落とした。

 そして少しだけ離れると、座り込み顔を下げ、いわゆるごめん寝の体勢を取った。

 

 一向にごめん寝の体勢から微動だにしない獣の様子を見て、岩王帝君は地面に落ちた手紙を拾い上げて広げた。

 岩王帝君は興味深そうに内容を確認すると、甘雨にも手紙を読むように促した。

 

 甘雨は手紙の想像以上に真面目な内容に驚いた。

 

『お初にお目にかかります。岩王帝君様。

 私は岩元素の神の目を授かったフォンテーヌに住む猫のアルジャンと申します。

 私の同居する家族は水神のフリーナ様ですが、今回の件とは何ら関係はございません。

 私が貴方様にお目にかかりました理由につきましては、私事で大変恐縮ですが、私が神の目を授かってから約八十年、岩元素の鍛錬を拙いながらも独学で行っておりましたが、近頃は一向に成長が見られなくなってしまったことに起因します。

 私は岩元素の扱いについて理解を深めたいと思っておりますが、この件に関して師事できる者もいないため苦慮しておりました。

 そこで失礼とは存じますが、御高名な岩王帝君様のお力を間近で拝見させていただきたいと考え、参りました。

 大変恐縮ではございますが、そのお力を拝謁するご許可をいただけないでしょうか。

 

 猫の身であるため、私は喋ることはできず、人のような御礼はできませんが、同族の猫に意思を伝えたり、また人のおっしゃる言葉を理解することはできますので、私が力になれることであれば最大限に努力してまいります。どうぞお申し付けください。

 ただし、家族との約束で、一年後にはフォンテーヌへ戻らせていただく予定でございます。』

 

 要約すると内容は単純だが、猫がこれほど気遣いを見せるものなのか、と甘雨は困惑した。

 欠片も動揺が見られない岩王帝君は、頭を下げ続ける猫に問いかけた。

 

「ふむ、貴殿は何故力を求めるのか教えてもらえるだろうか?」

 

 猫は顔を上げ、岩王帝君の目を強く見つめた。

 その落ち着いた瞳は、自身のためでなく誰かのため、ということが不思議と甘雨にも伝わった。

 

「いいだろう。甘雨、アルジャン殿の力を借りたいものはあるか?」

「ええと、そうですね……少なくとも、今すぐに五つの案件は思いつきますね」

「それは良いことだ。では、甘雨から総務司に指示せよ。アルジャン殿の素性と滞在についてもな」

 

……

 

 フォンテーヌの海を越えるには、スメールの砂漠を踏破するのではなく、貿易のため少数存在する沈玉の谷にある遺瓏埠行きの船に乗せてもらった。

 フォンテーヌの人々であれば、自分が普通の猫でないことも理解されていたので、問題なく乗せてもらうことができた。

 そこからは陸路のため、それほど苦労せず璃月の地に辿り着くことができた。

 

 そこで偶然にも岩王帝君――モラクス殿と、甘雨殿へ見えることができた。

 

 そこからは話がとんとん拍子に進み、暫くは甘雨殿の指示で璃月の手伝いをしながら、時間のある時にモラクス殿の力を観察させてもらう許可をいただいた。

 

 当初こちらからは提案したものの、猫の身で璃月の力になれることなど無いと思っていた。

 しかしそこは膨大な知識と案件を抱える甘雨殿であった。如何なるものにも適材適所というのものはある、ということを思い知らされる結果となった。

 地元の猫たちと意思疎通しての鼠捕り業務の斡旋、猫ゆえに通り抜けられる危険場所の確認、住民から要望があった見えなくなった子猫の捜索、総務司への慰労など、仕事は多岐に渡った。

 

「仕事はいくらでもありますよ!」

「にゃあ……」

 使えるものは猫でも使うとはこのことか。

 

 しかし、やはり最も鮮烈なのはモラクス殿の力の一端を観察させてもらったことだろう。

 膨大でありながら、恐ろしく緻密な力の操作。あらゆる武器を扱い、全てが一騎当千の実力。

 元素力においては必要以上の破壊をもたらすこともなく、地形の変化すら自由自在。

 そして今までの全てのモラを生み出してきたという底知れぬ力の総量。

 

 それらの力を観察できたことで、多少なりとも元素力の理解や扱いは深まった。

 ただ、自身の殻を破るような成長は見られなかった。

 あと一歩、決定的な何かが足りていないという感覚があった。

 

 

…………

 

 

 忙しい日々の流れとは早いもので、約束の一年という期間はあっという間に過ぎ去った。

 

 帰還の日、モラクス殿は多忙の身ながらも、別れの場を用意してくれた。

 そこで千金にも勝る言葉をいただいた。

 

『貴殿は最大限こちらの要望に応えてくれた。

 総務司のみならず、璃月の人々が貴殿に感謝をしている。

 

 元素力を扱う先人として、最後に貴殿へ助言を送ろう。

 元素力とは、誰もが同じ基準で扱うようなものではない。

 ある者は剣と共に、ある者は隣で戦う誰かのために見出すこともある。

 その者自身の信念や信仰、生き様を現すものと言ってもよい。

 いずれ辿り着くそれぞれの奥義も同じことだ。

 

 貴殿は神の目を手にした時、何を願ったか。

 それをよく思い出すといい。

 それこそが、最も重要なものなのだから。

 

 それと一つ、貴殿にはあまり良くない報せがある。

 遺瓏埠の船からの報告になるが、少し前からフォンテーヌで多くの魔物や機械人形が姿を見せており、近日ではフォンテーヌ廷地区の方向へ向かっている姿が確認されているようだ。

 かの地には水神殿もいるであろうが、念のため貴殿には伝えておこう。

 

 最後に、貴殿には思った以上に助けになった者が多いようだ。

 見えるか、貴殿を帰還の前に一目見ようと集まった者たちだ。

 皆、別れを惜しんでいる。

 

 落ち着いたら、また璃月を訪れるといい。

 よければ、また手紙を見せてくれ。

 その時は、友となろう。』

 

この約束は、ずっと後に果たされることになった。




璃月編が一話で終わった。
番外で色んなキャラと再会編を書きたいですね。

こいつこんな手紙をメリュジーヌに書かせたのか(ドン引き)
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