水神の家族、フォンテーヌの守り猫   作:チナトロ先生

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ねこの奮闘。



フォンテーヌの守り猫

 フォンテーヌの行政機関パレ・メルモニアに属するヌヴィレットは最高審判官という立場だが、その立場故にフォンテーヌ廷で起こる全ての行政や出来事を把握している訳ではなかった。

 フォンテーヌ廷周辺で街へ向かう魔物と機械人形が確認された時、一先ずヌヴィレットは何をおいても人々の安全を確保するため、今発揮できる権能を出来る限り用いてフォンテーヌ廷の出入口へ結界を張った。これでフォンテーヌの街とその人々は問題なく守護された。

 

 だが、その日はヌヴィレットも与り知らぬところで、海を挟んで離れたエピクレシス歌劇場において、新進気鋭の劇団が演劇を行っていた。

 そして観劇を終えた者たちが外に出た時、魔物と機械人形――ヒルチャール達の人間への害意と、クロックワーク・マシナリーの暴走が偶然一致してしまった結果の襲撃――と鉢合わせることになった。

 

 一触即発の空気の中、傍に偶然居た猫たちが不意に大きな鳴き声を上げた時、空から呼応するように咆哮が響いた。

 

……

 

 フォンテーヌへの帰還には、璃月に旅した時と同様に遺瓏埠と行き来する船に同乗させてもらった。

 ただ、別れ際のモラクス殿の言葉が気になって仕方がなかった。

 船員の間でも、不安そうに近日のフォンテーヌについて噂が飛び交っていた。

 

 船がエリニュス山林地区に差し掛かった時、沿岸で同族の姿を確認したため、船を飛び降り元素力で海上に足場を形成しながら近づいた。

 この周辺を縄張りとする白猫へ帰還の旨を告げたところ、彼らもここ最近の状況を把握しており、警戒のため各地に同族を散らしてくれているとのことだった。また、同族やフォンテーヌの人々に危険が迫った時は大きな声を上げるよう周知していることも。

 

 その時まさに、聴覚が微かに遠くの猫たちの声を捉えた。

 

 岩元素で足場を形成して上空に飛び上がりながら、璃月にて習得した業の一つ――岩元素にて瞬時に獅子面を形成し、それを拡声器のように利用して咆哮を上げた。

 

 『今すぐ行く!!』

 

 形成した足場を飛び上がると同時に霧散させ、その場に残留した岩元素を利用して再度足場を形成しながら高高度へ移動し、方向を確認する。

 あの場所はエピクレシス歌劇場――そこで人々と魔物の姿を捉えた。

 矢のように空中を駆けた。

 

……

 

 魔物から逃げ惑う人々の中で、一人の子供が膝をついた。

 鋭利な剣を持つクロックワーク・マシナリーがその手を振り上げ、子供は恐怖に怯えながら身構え目を閉じたが、一向に衝撃は襲ってこなかった。

 子供が目を開けると、機械人形の凶刃は、上空から降り注いだ無数の金色の槍に全身ごと縫い留められ、その動きを止めていた。

 

 その時、子供の前を守るように一匹の猫が空から降りてきた。

 急いで大人が子供に駆け寄る姿を一瞥して、猫は視線を襲撃者たちに向けた。

 

……

 

 危機一髪であった。

 この時ほど、元素力を研鑽しておいてよかったと思ったことはない。

 眼前には多くの魔物たちが並んでいるが、なに、見たところ璃月で突然遭遇したエンシェントヴィシャップより怖いものはいない。

 ただし、後ろの者たちを一人も傷付けてはならない。油断せずに行こう。

 フォンテーヌ廷の方向は恐らく大丈夫だ。強大な元素力が感じられる。ヌヴィレット殿だろう。

 

 元素力で中空へ黄金の槍と鋭利な爪を形成し、近寄った魔物たちを牽制しつつ撃破しながら周りの様子に目を配る。

 やるべきことが定まっているからか、やけに状況が良く見えた。

 先ほど間に合った子供は雑貨屋の息子で、駆け寄った大人はその父親だ。あそこで心なしか目を輝かせながらこちらを見ている子供は猫の撫で方が少し乱暴な服屋の娘で、その隣にいる母親が心配そうな顔でこちらを見ている。

 誰も彼もが見たことのある顔だ。こんなことまで考える余裕まであった。

 

 ゆっくりと時が流れるような感覚の中で、モラクス殿の言葉を思い出した。

 初めての願い。それは家族と共に在ることだった。

 そして多くの猫たちと、フォンテーヌの人々の顔が浮かんだ。

 共に生き、護るべきものたちのことを。

 

 そうか、答えは最初からその内にあったのだ。

 

 呼応するように湧き上がり、荒れ狂うような元素力を制御する。

 

 視界に映る魔物達を地面より生じる金色の針山で縫い留め、撃滅した。

 これこそが自分の奥義だと確信した。

 

……

 

 フォンテーヌに住む者は皆、昔からフォンテーヌの街を堂々と歩く猫の姿を見ていた。

 幼い頃の自分や、大人となった自分の子供たちが乱暴に触れても、決して怒ることのない穏やかな姿を。

 そして水神と共にいる姿を。

 

 今その姿は、人々を守りながら迫りくる脅威を打ち払っている。

 元素力を自在に操り、獅子奮迅を見せる猫の姿を人々は強く心に刻んだ。

 

 この日より、この地で迫る脅威には猫たちの声と共に現れる守護者の姿があった。

 フォンテーヌの人々は、ずっと先の赤子まで語り継いだ。

 

 彼こそはフォンテーヌの守り猫なり。




日刊ランキングに姿が見えました、大変ありがとうございます。

明日の更新はお休みすると思います。
本編を完結できたら、ゲーム風のキャラ性能も書きたいですね。
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