水神の家族、フォンテーヌの守り猫 作:チナトロ先生
旅人――空とパイモンの二人は知恵の国スメールでの冒険を終え、妹の情報を求めてフォンテーヌを目指し、領内の港へ辿り着いた。
そこで二人はリネットとリネの兄妹と出会い、水神であるフリーナのユーモア溢れる歓迎を受けた。
ひとしきり歓迎を受けた後は、兄妹といくつかの細事を済ませた後、巡水船に乗り込みフォンテーヌ廷へ向かう途中で共に先ほどの光景について談笑した。
「そういえば、フリーナの傍に居た猫はあいつのペットなのかな?」
パイモンが問いかけた時、リネは少しだけ驚きを見せた。
「そうか、外の国から来た人は知らないこともあるんだね」
「びっくり」
リネットも全く驚いていないような表情で驚きを表明した。
そういえば、旅人は長い旅の中でその名前を聞いたことがあるような気がした。
「まさか、あの猫が有名なフォンテーヌの守り猫なの?」
兄妹は微笑を浮かべて頷いた。
「そう、あのお方が水神フリーナ様の家族であり、フォンテーヌの守り猫様さ」
「この国に住んでいて、アル様を見たことが無い人はいない」
「リネット、君はまた守り猫様をそんな呼び方で呼んで……」
「アル様自身から言われたこと。だから問題ない」
何やら二人で盛り上がる様子を見ていると、目を瞬かせたこちらにリネが気付いた。
「ああ、ごめんね。僕らだけじゃないけど、守り猫様にはお世話になったんだ。あの方がどれだけこの国にとって大事な方か、後で分かると思うよ」
兄妹と別れ、パレ・メルモニアという建物の前にある七天神像を見た時、旅人は兄妹の言葉の意味を理解した。
そこには七天神像と寄り添うように、荘厳な猫の像があった。
……
旅人を歓迎したフリーナが自宅へ戻るのを見届けて、エピクレシス歌劇場の地下へ向かい、友人へ声を掛けた。
「にゃあ」
止まっていた時間が、動き出す時が来たかもしれない。
この友人とは互いに一度も姿を見たことはないが、長い付き合いだ。言葉の意味は分かるだろう。
暗黙の了解はここに破られた。
『ああ……感じる。降臨者の気配だ』
『まもなく最後の劇が幕を上げるだろう』
『僕の最後の友人よ――どうか見守っていておくれ』
ああ、全てを見届けよう。
……
それから旅人はエピクレシス歌劇場のマジックショーで発生した事件を解決し、『棘薔薇の会』会長のナヴィアと出会い調査の末に「連続少女失踪事件」の真相を解明した。
その際に起こった執行官タルタリヤの有罪判決という出来事を見届けた後、ヌヴィレットの依頼で失踪したタルタリヤを探すためメロピデ要塞に潜入調査を行った。
旅人はメロピデ要塞の所長である『公爵』リオセスリと顔を合わせ、フォンテーヌに迫る海面上昇と原始胎海の水という脅威を知った。
メロピデ要塞を出た旅人は召使と遭遇し、フォンテーヌの状況について話し合うと共に、水神フリーナに不審な点があることを聞かされた。
旅人がそうした出来事を終えた翌日、緊急事態が発生した。
……
ここ最近は、虫の知らせから家には戻らず、見回りを終えた後も常にフォンテーヌ廷の最も音を拾える高い位置で備えていた。
そこで明け方に大地の鳴動を感知し、即座に目を覚ました。
この方向は――ポワソン町か!
すぐさま空中を全力で移動しポワソン町へ向かう。
空から見ると、周辺海域の水位が急上昇している様子が見えた。
まずい!!
ポワソン町に辿り着いた時、原始胎海の水特有の光沢が見えた。
そこから逃げ惑う人々の姿が見えた。恐らく、犠牲者は生まれてしまっただろう。
嘆いていても状況は悪くなる一方だ。
思考を振り切り、全力で元素力を行使する。
目に見える範囲で可能な限り足場と階段を形成し、逃げ道を構築した。
それに気付き、高い位置に逃げ出す者もいた。
だが、目に見える範囲すべてに力を行使するのは困難を極めた。
「アルジャン様!あの者を!」
声がした方向を見る。初老の男――棘薔薇の会のマルシラックだ。彼も住民の救助を手伝っていた。
彼の指さす方向を見ると、同じく棘薔薇の会のシルヴァがパニックに陥った住民を抑え、非常に危ない状況が見えた。
すぐさま足場を形成すると、シルヴァはそれに気付き、住民を連れていくのが見えた。
足場の維持に力を注いでいたその時、視界の端でマルシラックの足場が崩れるのが見えた。
同じく住民の救助を行っていた棘薔薇の会の会長ナヴィアも、その光景を見ていた。
……
旅人がポワソン町に辿り着いた時、そこには悲痛な空気が漂っていた。
旅人がナヴィアに声を掛けた時、隣に一匹の猫――以前フリーナの傍にいた銀色の猫に気付いた。
気丈に振る舞うナヴィアからのポワソン町の状況の経緯を聞いた後、続けてナヴィアは話した。
「旅人、こんな時だけど私から紹介するわ。守り猫のアルジャン様よ」
「にゃあ」
銀色の猫は一鳴きして会釈をすると、旅人の目をじっと見つめた。
「知っているかもしれないけど、アルジャン様はとても長く生きられていて人の言葉は理解できるし、見ての通り神の目を持っていて元素力を使えるわ。今回もアルジャン様が居なかったら、もっと犠牲者は多かったと思う。恐らくマルシラックだけでなくシルヴァも」
猫はその言葉を聞いて力及ばぬ自分を叱咤するかのように顔を伏せた。
そこから旅人とナヴィアは召使と合流し、避難の協力を提案され了承した。
代わりに召使から遺跡の調査を依頼されると、ナヴィアは猫に問いかけた。
「アルジャン様、もしよろしければご同行いただけないでしょうか」
猫はすぐに頷くと、三人と一匹で移動を開始した。
移動の最中、旅人とパイモンは猫にいくつか質問し、猫は首を振ったり鳴き声で意思表示しながら回答を続けた結果、二人からの呼び名は「アルジャン」となった。
当初二人は他のフォンテーヌ人と同じようにアルジャンへ様付けを提案したが、猫自身が首を振ってこれを拒否した。
パイモンが興味深そうに同行する猫を見ながらナヴィアへ問いかけた。
「なーなー、ナヴィアはアルジャンと仲がいいのか?」
「仲が良いかなんて畏れ多いけど……アルジャン様は私と同じ岩元素を扱われるから、戦える力を身に着けるためにお世話になったことがあるわ。それに、アルジャン様はよく出歩かれていて、フォンテーヌの人達は子供の頃にアルジャン様を撫でさせてもらったり、迷子になった時は家に送ってもらったりするわ」
「そんなことまでしてるのか!アルジャンお前、優しいんだな!」
「にゃあ~」
旅人の目には、心なしか猫が得意そうな顔をした気がした。
……
古代遺跡の探索中、突如石床が大きく崩れ出した。
危機を回避したと思った矢先、ナヴィアの足元が大きく崩れるのが見えた。
旅人の伸ばす手が届かず、こちらの岩元素の操作も間に合わないことを悟り、思わずナヴィアを追って原始胎海の水へ飛び込んでいた。
そこで気絶していた自身に気付くと、眼前には審判を受けるナヴィアと、民衆を食い止めそれを送り出すマルシラックの姿が見えた。
ナヴィアに手を伸ばす民衆――純粋精霊の姿に変わった彼らの前で、不思議とこの場でも操作出来た元素力を用いて壁を作った。
ナヴィアが民衆を振り切りこの場から無事に姿を消したことで、恐らく危機は脱したという感覚があった。
そして、この場に残ったマルシラックと対峙した。
「すまない、マルシラック。すまない。私の力が足りなかったばかりに……」
「いいえ、あの時、シルヴァだけでも救っていただき感謝してしています。フフ、しかし貴方様の声は初めて聞きますが、そういったお声だったのですね」
マルシラックはこの場にそぐわない明るい声で少し笑い、続けてこちらに喋りかけた。
「恐らく、今こうして話せるのが最後になりそうですね。せっかくですから何かお話したいことはあるでしょうか?」
「ナヴィアは……私を恨んでいないだろうか。守り猫などと大層な名で呼ばれながら、父を見殺しにした私を」
「貴方様は、ずっと気にされていたのですね……大丈夫です、過去の因縁は先日断ち切られました。それに、貴方様が人同士の争いから距離を置いていることを分かっていますし、貴方様が毎年カーレス様のお墓参りをされていることをお嬢様は知っておられます」
「そうか、だがその答えはあまりに私の都合が良すぎて、お前の姿は私の願望かもしれないな?」
「フフ、ではそうでないことの証明に、消えゆくものからのお願いをさせてもらいましょうか。フォンテーヌの予言は、防ぐことはできそうですか?」
「それを為すのは私では無いが、今の状況から、救済の可能性は十分にあると見ている」
「そうですか、それはよかったです。ではそれ以外ですと、お嬢様を無理のない範囲で見てやってください。それが私の望みです」
「承知した。いずれまた会おう」
「はい、ゆっくりお待ちしております」
穏やかな笑みを浮かべた彼の顔を目に焼きつけながら、意識の浮上を感じた。
ゲーム本編でマルシラックとシルヴァのことを知った時は悲しかったです。
猫は旅人が来てから常に国中を警戒して家に帰っていなかったため、フリーナは本編と同じように召使の襲撃を受けました。
明日も更新します。