水神の家族、フォンテーヌの守り猫   作:チナトロ先生

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ねこの観劇。



罪人のフィナーレ

 旅人は全ての準備を整え、フリーナをポワソン町のある部屋へ誘った。

 そこでフリーナから、予言への備えや調査を行っていたにも関わらず、解決策が何ら見つからないことを聞かされた。

 

 旅人はフリーナへ伝える。

 誰かと荷を分かち合うこと、それができぬまでも相談することを。

 星海の外から来た自分ならば、問題はない――そこまで告げても、フリーナは万一の可能性を捨てきれず、何も言わなかった。

 

 そして、舞台はエピクレシス歌劇場に移動し、フリーナが神ではないことについての審判へと移った。

 

……

 

 審判の最中、フリーナはヌヴィレットの隣にアルジャンの姿を捉えた。

 

 ああ、キミにすら僕は――フリーナの心中にかつてない絶望が広がる――だが、フリーナはそれでも、何があっても演じることを辞める訳には行かなかった。自身が諦めた時が、フォンテーヌの終わりだと鏡の自分に言われたから。

 

 しかし裁判は進み、フリーナは胎海の水に手を入れる――人と同じ影響が見られ、神でないことが明らかになった。

 

 ヌヴィレットは有罪を宣告し、諭示裁定カーディナルは「水神を死刑に処す」という判決を出した。

 

フリーナは絶望し、ただ黙ってその瞬間を待ち続けた。

 

……

 

 ステージではフレミネが紛失された石板を見つけ出し、フォンテーヌ人の出自に関する推理が続けられていた。

 

 だが、虚ろな顔で涙を流し続けるフリーナを見て胸がかきむしられるような思いだった。

 

 ヌヴィレットの隣から離れ、フリーナの傍に降りたが、彼女は一向に反応を返さなかった。

 彼女に過酷な運命を強いた存在にも、何も知らずに彼女を責める民衆にも、何よりも無力な自分に怒りを覚えた。

 

 旅人が災いの根源について口にした時、エピクレシス歌劇場が鳴動に襲われた。

 

 星海から巨大な鯨の怪物――呑星の鯨が現れ、民衆に襲い掛かるその瞬間、ヌヴィレットが攻撃を防ぎ、その隙に星海から姿を出した公子タルタリヤが攻撃を加えた。

 ヌヴィレットとタルタリヤは全力の反動で一息入れたその時、衝撃を受けた呑星の鯨は、怯んだと思うと、再度身を翻し民衆に襲い掛かろうとした。

 

 その光景を見て私の何かが切れた。

 

 まだ私の前で人々を襲うか!!

 貴様が――貴様さえいなければ!!

 

 怒りから吹き出る元素力を全て注ぎ込み、巨大な星岩を形成する。

 岩王帝君よ、ただ一度だけ、御業の名を貸してくれ!

 

 【天星】―――!!

 

 巨大な星が鯨を飲み込み、星界への穴に押し込んだ。

 

 タルタリヤは一瞬こちらに視線をやると、呑星の鯨を追って星界の海へ消えた。

 

 呑星の鯨を追い返した中、諭示裁定カーディナルがひときわ強く輝いた。

 

……

 

 切り離された世界の中で、私はステージの上に居た。

 

 旅人がフリーナの真実を目にし、ヌヴィレットはフォカロルスとの対峙を果たしていた。

 この場に居ながらも同時に別のチャンネルを見ているような感覚があった。

 

 ふいに私の目の前に、フリーナに似た少女が現れた。

 

 私は、その姿を知っていた――目の前に現れたフォカロルスへと懺悔せずにはいられなかった。

 

 

 すまない、私は、この結末を恐らく知っていた。

 だが、何も変えることはできなかった。

 すまない。

 

 

 フォカロルスは苦笑し、こちらに語りかけた。

 

『キミが何を言っているのかよく分からないけど、この場にキミを呼んだのは、最後にお礼を言うためさ』

 

『キミはフリーナと同じくらい、数百年間ずっとよくやってくれたよ』

 

『フォンテーヌの人々がその生を終え、母なる海に戻った時、キミに感謝することはあれど、悪人を除いて恨み事を言う人は一人も居なかったさ』

 

『フリーナも、君がいなければ、もっと過酷な日々を送っていただろう』

 

 それは、本当だろうか。

 

『間違いないよ』

 

 ……でも、どうしても、信じられないんだ。自分のことが。

 

『強情だなぁ、キミは。しょうがない……ほら、見てごらん』

 

 フォカロルスは視線を横に向けた。

 

 そこには、旅人を観客とし、フリーナの今までの演目――五百年の日々が再生されていた。

 

 共に目を覚まし、笑いながら食事を取り、時に同じ部屋で寒さに震える。

 演者としての彼女が居て、器用に二本足で立って拍手をする猫が見える。

 先が見えない不安な夜、呼ばれて枕元で眠ることもあった。

 

 苦しみも見えた。だが、笑っている時間も確かに存在した。

 

 春が来て、夏が過ぎ、秋冬を超えて、また春が来る。それを幾度も繰り返す。

 

 彼女の傍には、いつも一匹の猫の姿が見えた。

 

 

『ね、もう分かったでしょう?』

 

 フォカロルスの慈しむような眼差しは、どこまでも優しかった。

 

『フォンテーヌの神としてもう一度言うよ』

 

『人としての僕と、僕の子供たちを守ってくれて、本当にありがとう』

 

 その言葉を聞いて、胸にこみあげるものがあった。

 

 ああ、そうか。

 私の存在は、今までやってきたことは、無駄ではなかったのだ。

 

 ふいに視界が歪んだ。

 凍っていた時間が、溶け出したかのようだった。

 

『消えゆく僕じゃなくて、君が泣いてどうするのさ』

 

 すまない。だが、どうにも後からあふれてくるんだ。

 

『それじゃあ、しょうがないね』

 

 フォカロルスは、優しい顔をしたまま、待ってくれた。

 

 

『残念だけど、そろそろ時間が来たようだ』

 

『君には悪いけど、お礼だけじゃなくて最後にもう一つお願いをしてもいいかな』

 

 ああ、もちろん。

 

『これからも、人として生きるフリーナの傍に居てあげてほしい』

 

 ……それは私が望んでやることだから、お願いにはならないかな。

 

『ふふ、そう言うと思ってきたんだ。だから―――これ以上は無いよ!好きに生きて!』

 

 私はその答えに面食らった。

 驚いた私の顔を見て、フォカロルスは満足そうにいたずらっぽく笑った。

 

『さようなら、最後の友よ!』

 

 ―――さようなら、我が友よ!

 

 

 

 そして審判は下された。

 

 権能を取り戻したヌヴィレットはフォンテーヌ人の原罪を裁き、その罪は赦された。

 

 呑星の鯨は旅人たちと、数名の人物によって撃退された。

 

 フォンテーヌを襲った水難は、人々の備えによって、被害は最小限に抑えられた。

 

 

 ここにフォンテーヌは救済された。




次回、最終話です。

ここまで読んでいただき、大変ありがとうございました。
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