そこそこ慣れた1年生たち
AM7:00
「ふんふんふふーん」
青緑のミディアムロングの少女が、朝の身支度をしていた。
「今日もイオリに会えるっかなっ~」
デニッシュパンを軽く焼きながら、鞄の中身を揃えていく。
定期券、文房具、保湿クリーム、チョコ菓子…
「ほい」
最後にハンドガンを放り込むと一丁上がり。
「んー、おいし」
デニッシュパンとカフェオレを楽しみながら、スマホで予定表を確認する…
「ふんふん。ふんふん。22日…この日はバイト空いてるな。次の日もバイト無いし…行くならここだ。よし、イオリをショッピングモールに誘おう」
学園に行く目的が、友人と交流する手段となっている。
葉箱(はばこ) ソラハという名のその少女も、そんなごく一般の健全な学生の1人だった。
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銀色のツインテールを揺らし、1人の少女がゲヘナ学園の校門をくぐる。
スニーカーを鳴らし、ガララと一年生の教室の扉を開け、銀鏡イオリが入る。入学し1月が経過。学園生活にもそこそこなれた彼女は、自身の席に向かう。
「(今日の授業は数学と歴史の2限だったかな…終わったら次は風紀委員の所だ。ヒナ隊長の銃捌き…もっと近くで見たいな…)」
なんて思案しながら、席に着くと隣から声をかけられる。
「やあ、おはようイオリ」
窓際に座る、青緑のミディアムロングの少女が、すみれ色の瞳をこちらに向け微笑む。
「あぁ、ソラハか、おはよう。昨日はよく眠れたか?」
軽く手を上げイオリも挨拶に応じる。
「ううん、結局4時くらいまで起きちゃってた。おかげで睡眠時間は3時間くらいかな。たぶん授業中死んでると思うから、そっとしといてね」
「はー、そんな気がした。あんなメガサイズのカフェオレ飲むから。コーヒー好きも程ほどにしろよ。てか、寝てたら起こすからな!」
鞄と愛銃を机の横に掛け着席しながら、そんな会話を広げる。
入学して間もない頃、席が隣同士だったイオリとソラハは自然と友好関係を築いていた。
「えーしょうがないじゃん。僕、昨日は大量のカフェオレキメたい気分だったし。やっぱゲヘナのコーヒーは美味しいからね。ここに入学したからには、存分に堪能しないと。」
クルクルと。ハンドガンを人差し指で手遊びしながらソラハが言う。
「まあ美味しいのは分かるけど、別に私はお前みたいに毎日飲む程じゃないかなぁ…」
あと授業始まる前には銃仕舞えよ、と付け加える
「わかってるよーん……あっそうだ!」
パシッとハンドガンの動きを手の平で止め、ソラハが提案する。
「ねねイオリ、今度の22日は暇?隣駅のショッピングモールに行こうよ。」
銃をポイっと仕舞ったソラハが、ずいっとイオリに顔を近づける。すみれ色の瞳孔が興奮して開く。
「僕、そこにあるカフェに行きたいんだよね。イオリの好きな、チョコミントフラッペもあるよ」
「カフェ…」
イオリの脳内に、チョコミントフラッペがフワフワと漂う。黒と緑の魅惑の螺旋。
「それにイオリこの前、いい感じのグローブ買いたいって言ってたよね?なんか手に馴染むやつ。その手のショップもあるからさ」
行こうよ行こうよと、イオリの顔を伺うように頭を揺らし、青緑の髪がフワリと香る。
「あぁそういえば、そうだったな…うんいいよ。その日なら空いてるし、行くか。」
いい感じの、なんか手に馴染むグローブを脳内に浮かべたイオリの返事に、ソラハが笑う。
「よし、じゃあ決まりだね。それじゃあ僕も今日のバイト頑張らないとなー。そのためにも」
イソイソとノートや教科書を積み立て、一番上に柔らかい筆箱を置き、簡易枕を作る彼女に。
「いやいや、寝させないからな?」
上からイオリの手刀が入った。
ふぬっとうめき声が漏れた。
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次の日 AM11:00
もそもそとベッドからソラハが起き上がる。
「今日の授業は午後から2限だから…そろそろ準備しようかな。」
身支度をしながら、今度のショッピングモールには、何を着ていこうか、とフワフワと思考する。
「(イオリは何着てくるかなぁ…やっぱミニスカかな…プリーツスカート好きそうだもんね…)」
そうして朝食兼昼食を済ませ、学園に着いたソラハは、自身の窓際の席に座る。
「(本人に訊いてみるか…)」
頬杖をついて、トントンと人差し指を遊ばせ、イオリが来るのを待つ。が、現れない。
心配になりモモトークで連絡をすると…
『悪い、今日は風紀委員の活動が忙しくて行けそうにない。』
と返ってきた。ゲヘナ学園は他の学園都市同様に、単位制である。単位に支障が来さない程度に、部活動を優先するのは、ごく当たり前の事だった。
治安維持がメインの風紀委員や、学園運営の中心となる生徒会など、学園内での社会的必要性の高い部活動は、欠席数が多くても免除になるシステムがある。
それらの部活動は多忙な業務と、学業の両立が厳しいため、多くの学園都市がそのシステムを採用していた。
今までイオリは授業を休んだ事はなかったため、ぼちぼち、風紀委員の活動がメインになるのかな、とソラハはぼんやり考える。
時刻が13時半になり、事務員がブルーレイディスクの用意を始める。
「(今日はイオリ来ないのか…)」
そう思いながら、ソラハは再生された教育媒体へ意識を傾けた。
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その日の授業が終わり、生徒達がワラワラと自由行動を始める。
部活動やバイトに行く者もいれば、教室に残って雑談する者も。
窓際の席でソラハはノート等を収納すると、スマホを弄り始めた。
「(今日はバイトないもんな、もう家帰ろうかな…)」
青緑の髪の少女はチラチラと、教室の入口に視線をやっていた。
「……………」
日が、ゆっくりと傾きかけていた。
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PM6:30
仕事が終わったイオリは、帰宅の準備を終え、同僚や先輩に別れの挨拶を済ませる。
「(今日は1日中、風紀委員の活動してたな…)」
学園の廊下を移動しながら、今日を振り返ってると、まだ会ってない友人の顔が浮かんだ。
「(3時半頃には授業が終わってる筈だし、流石に帰ってるよな…)」
それでも、何となく、イオリの足は教室へ向かっていた。
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目的地についたイオリはドアを開ける。
居た。
空っぽの教室の中、夕暮れの、紫色に染まる空を、青緑の髪の少女が眺めていた。
机の上には飲みかけのパックジュースとスマホが置いてある。
こちらに気付いたのか、ソラハがゆっくりと振り向く。
「やあ…イオリ」
夕焼けに照らされたソラハが微笑む。
彼女に近づきながらイオリも返す。
「なんだ…まだ教室に残ってたんだな」
「うん、何となくね。」
そして、イオリは自身の席に向かうと、ポツリ、ポツリと二人は雑談を始めた。
今日の授業の事。イオリの部活動の事。ソラハが気になってるカフェの事。
何気無い内容だったが、少女達にとって、そんな事を話す時間は有意義だった。
やがて時刻が変わり、ソラハのパックジュースが空っぽになった頃、少女らは揃って下校し始めた。
「じゃ、僕はこっちだから」
分かれ道でソラハが告げる。
「あぁ、じゃあソラハ、また明日な」
イオリが手を上げる。
「うん、また明日ね、イオリ」
別れてから、そういえば、イオリに何着てモールに来るか訊くの忘れてたな、とソラハは思い出した。
「まあ、明日聞けばいいか」
それが彼女たちの日常だった。