僕はイオリの規則違反者!   作:ソーイラテ

10 / 10
10話 ゲヘナサンシャイン、波乱の午後

 

 

ガタンゴトン。

海沿いの線路を電車が走る。

4人用の座席に女子高生が向かい合うように座っていた。

 

「イオリ、起きて。起きて」

 

「ん...寝てたか」

 

「おはよ、見えてきたよ。今日の目的地」

 

車窓から巨大な施設が見えてきた。

 

「イオリ、あそこがゲヘナサンシャインプールだよ!」

 

「おお...アレか...めちゃくちゃデカイな」

 

野外プール故に、ここからでも巨大なスライダーの数々や、宿泊施設、幾多のヤシの木が見えた。

 

「ふふっソラハさん、はしゃいじゃってるね」

 

「そーいうエリカちゃんも、めっちゃテンション上がってるっしょ~?私には分かるよ~!」

 

「アハハっ、キララちゃんにはバレちゃうか。...うん、私もこういうプールなんて久しぶりだからね」

 

窓を齧りつくように覗き、思い思いの感想を述べる少女たち。

青い空にはもくもくと入道雲が浮かび、カラッとした日差しが照りつけていた。

 

窓際に置いていた誰かの麦茶から、たらりと水滴が流れた。

 

 

 

 

チケットを購入し更衣室に入る。

ロッカーを開け、各々持参したスマホやサイフ、銃火器を収納した。

 

着替え終わったらシャワーの所で集合ね、とキララが言ったので、ソラハは水着を持って着替えた。

 

鏡の中の自分を見る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うん.....なかなか言い感じ。流石、僕だ」

 

いつもの制服のときとは少し違って見える。

白のヘッドバンドで軽くまとめた青緑の前髪が、額に柔らかくかかっている。

 

淡いブルーのオフショルダー。

白い切り替えが入った胸元と、肩に小さなリボンがついている。

スカート部分は控えめなフレアで、太ももをほどよく隠す長さだった。

 

「やっぱこの青色にして正解だったね......うんうん。僕の髪色にも合うし」

 

クルリと回転すると、ふんわりとフレアが舞った。

手首にロッカーのキーバンドを付ける。

 

「よし、準備万端だ。皆の所に行こう」

 

イオリはどんな水着を着てくるかなぁ、と内心ワクワクしながら更衣室をでる。

 

「おーい、ソラハっちー!」

 

シャワー施設の軒下でキララが手を振る。

ビビッドピンクに黒のアクセントの水着、手首にはいつもの金のブレスレットを巻いている。

 

隣には黒を基調に赤のラインの水着、その上から黒のアウターを羽織ったエリカが立っている。

 

「ん、お待たせ。僕が来たよ。2人ともオシャレで素敵だね」

 

「ソラハさんも、カワイイよ。その水着、スゴく似合ってるね」

 

「白のヘアバンド、めちゃカワイイ~!!」

 

「フフン、ありがとう。なんたって、この僕のセレクトだからね。1日中悩んで買った甲斐があったよ」

 

ソラハが胸に手をあて、自慢気に微笑む。

 

「後はイオリだけだね...ふふっ、イオリはこの僕のお眼鏡に適うかな」

 

そう言った瞬間、視線の先に銀髪のツインテールが映った。

イオリだった。

ソラハの目が釘付けになる。

 

イオリは黒いビキニを着ていた。

白のラインが入った、かなり大胆なデザイン。

胸元も腰も、ソラハのとは比べ物にならないほど肌を露出している。

普段の制服では見えなかった肩や太もも、腹部のラインが、夏の陽射しの下ではっきりと浮かび上がっていた。

 

思わず息を呑んだ。

 

(……え?)

 

目を見開き、固まったままイオリを見つめる。

風紀委員のイオリが、こんなに肌を出している。

規則を厳しく取り締まる彼女が、こんなに大胆な水着を選んでいる。

 

(……な、なにその水着……)

 

顔が一気に熱くなる。

自分の控えめなオフショルダー水着が、急に子供っぽく感じられた。

イオリはこちらに気づいて、軽く手を挙げた。

 

「ん、私が最後だったか」

 

「キャ~!イオリちゃん、大胆デザイン!」

 

普段と変わらない声。

けれど程よく鍛えられ、しなやかな筋肉が露出し、それがあまりにも衝撃的だった。

 

(イオリの水着姿が……こんな、なんて……)

 

ソラハは慌てて視線を逸らし、耳まで赤くした。

日頃から鍛練を積んでる故の肉体美。

それを感じずにはいられなかった。

 

「……びっくりしちゃった......僕の負け、か」

 

小声で呟く。

それが、今のソラハに言える精一杯の本音だった。

 

「ん?何か言ったか、ソラハ」

 

「...なんでもないよ。イオリ、よく似合ってる」

 

「あぁ、ありがとう。ソラハも、なかなか言い感じじゃないか。可愛いな、それ」

 

イオリが屈託のない感想を言ってきたので、青緑の髪の少女は赤くなった顔を隠すように背けた。

 

「......うん、ありがとう......嬉しい」

 

 

 

 

皆でぞろぞろと施設を見て回る。

 

「へー、流れるプールもあるね」

 

エリカが興味を示す。

 

「通称、トレジャーリバー、だって。流されるだけで冒険気分!途中で洞窟を通ったりするらしいよ」

 

ソラハが解説を読み上げる。

 

「ふーん、スピードの激しいポイントもあるらしいな...大丈夫なのか、安全面」

 

イオリの発言に対して、ここはゲヘナの施設だったので、誰も深くは突っ込まなかった。

 

「ん、イオリ。一応安全面でも一応力を入れてるっぽいよ。アレみて」

 

『マリンセーフティ・アシストロボ登場!もし溺れそうな状況でも、即座にロボットが浮き輪を投げてくれます!』

 

背中にパックを背負った二頭身のロボットが、即座に浮き輪に空気を入れ、アームで正確に救助者へ投げる映像が繰り返される。

 

「きゃはは!腕にヘルパーをはめてくれるタイプもいるみたいだよ。すごいね!」

 

「強制的にヘルパー飛ばしてくるのか、誤作動したらダルそうだな、それ」

 

「まあまあ銀鏡さん、ここはゲヘナのプールだからね ...それくらいの方が万全かも」

 

「ふふん、まあ僕には必要ないけどね。」

 

「ソラハさん、結構泳げるタイプ?」

 

「そこそこね、子供の頃スイミングスクールに通ってたから」

 

エリカの質問に胸を張って答えるソラハを、イオリは少し顔を背けて、呟いた。

 

「...私、あんまり泳げないんだよな..」

 

「えっイオリ泳ぐの苦手なの?フフーン、この僕が直々に指導してあげようか」

 

目敏く聞いていたソラハがマウントを取ってくる。

 

「しょうがないだろ...風紀委員の活動で、体育のプール出れなかったんだから。あと、お前に教わるのは、なんか癪だから遠慮しとく」

 

えー、教えてあげるのに、と顔を近付けてくるソラハをグイグイ押しながら抵抗した。

 

「まあイオリが溺れても、僕が助けてあげるよ」

 

「無用だ、独学でなんとか泳ぐからな」

 

プイッと顔を反らすイオリを、キララとエリカは苦笑いで顔を合わせた。

 

 

 

長い金属製の階段が、プールの上へと続いていた。

ソラハは手すりを握りながら、一段一段と足を運ぶ。

下を見ると、水面がどんどん遠くなっていき、風が強くなり、濡れた髪が頬に張り付いた。

 

「……高い」

 

階段は予想以上に長く、曲がりくねりながら高さを増していく。

下の方では他の客が小さく見えて、スライダーのスタート地点が近づくにつれ、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 

(……本当に滑るのか、これ)

 

ようやく踊り場に出ると、目の前に巨大なスライダーの入口が現れた。

青いチューブがほぼ垂直に近く、下へと落ち込んでいる。

ソラハはそっと縁に手をつき、下を覗き込んだ。

水面が、とても遠くに見える。

 

「...ふうん、凄いスライダーだね。こっから見たら垂直なんだけど。別に僕はビビってはないんだけど、行くの?これに」

 

「元々このスライダーをダシにソラハが誘って来たんだぞ」

 

「そ、そうだった」

 

「大丈夫だよ、ソラハちゃん。こういうのは垂直に見えるようで、実際には違うから」

 

「あー子供の頃、滑り台でそういうのあったな。度胸試しするやつ」

 

「きゃはは!こういうのテンション上がるよね~!ソラハっちも行こ行こ」

 

「......」

 

「せっかくここまで登って来たんだ、滑るぞソラハ」

 

「ウン...」

 

通常、スライダープールは安全上1人で滑るものだが、ここはゲヘナだ。

ソラハの後ろにぴったりとキララが付く形で位置につく。

 

「ほらほら、ソラハっちー。行くよー!」

 

「うん.....うん.....イキマス、イキマス」

 

キララがブンブンとエリカとイオリに手を振ったので、力なくソラハも真似した。

 

「私たちも後に続くから、終わったらすぐ出ないとね、キララちゃん」

 

「もち!」

 

「行ってこい、ソラハ。絶対楽しいぞ」

 

「し、知ってるし。楽しいの、知ってるし。ビビってないもん」

 

「じゃあ問題ないな」

 

「......」

 

そして...

 

ザーー!

 

凄まじいスピードで2人が滑る。

垂直に近いからか、一瞬浮遊感が襲った。

 

「今体浮いたっ!シヌ!ヘイロー壊れちゃう!」

 

「壊れなーい壊れなーい!キャハハ!はやーい!」

 

「うわっ!また浮いた!やっぱ垂直だって!これ垂直!」

 

「アハハハハ!たのしーーー!」

 

「僕のヘイローーーーーー!」

 

着水した瞬間、大きな水しぶきが上がった。

 

「.....へ.......ヘイ……ヘイロ.....」

 

「ヘイヘイへーい!行くよソラハっち!2人もすぐ流れてくるから!」

 

ソラハがフラフラになりながら顔を上げると、すぐ横でキララが笑いながら腕を掴んできた。

 

「は、はひ」

 

目をぐるぐるさせたまま、キララに引っ張られ陸に上がる。

 

「ここで待っとこ。イオリちゃんとエリカちゃんもすぐ来るから」

 

案の定、少し遅れてイオリが着水した。

銀髪がびしょ濡れになって背中に張りつき、思ったより楽しそうな表情をしている。

 

続いてエリカも滑り降りてきて、穏やかな笑みを浮かべながらこちらへ泳いできた。

 

「なかなか迫力あったな」

 

イオリが水を払いながら言う。

 

「めっちゃ楽しかったよねー! 途中で体が浮くやつ、最高だった!」

 

キララがへへっと笑う。

 

「私は……思ったより速くて驚いた。でも、悪くないね」

 

エリカが濡れ髪をかき上げながら答える。

 

「皆、精神強くない...?それとも僕がへにゃへにゃなだけ...?」

 

「じゃあ次、もうちょっと高いやつ行くっしょ!」

 

「え」

 

「いいな、私も賛成だ。クセになってきた」

 

「あー。あっちの方にも、似たようなのがあったけど、アレが更に高いやつだね」

 

エリカが別の方角を見ながら言う

そして3人でソラハの顔を見やる。

 

「.......うぅ、行く、行くとも。さっきので若干高所には耐性がついたもんね」

 

「......ソラハ、無理しなくてもいいぞ」

 

イオリがニヤニヤしながら肩に手を置く。

 

「...してないし。行くし。この僕だよ、もう平気だもん」

 

「よーし、じゃあ向こうのスライダーまで競争ね!」

 

キララが言うとバタバタしながら皆で移動した。

 

水しぶきの音と、少女達の笑い声が混ざる。

濡れた髪から落ちる水滴が、陽光にきらきらと光っていた。

 

 

 

巨大な木製のバケツが、頭上でゆっくりと水を溜めていた。

透明な水が、少しずつ、少しずつ、縁まで近づいていくのを、ソラハとイオリはその真下で固唾を呑んで見上げていた。

 

「そろそろ、くるよ、イオリ」

 

「お、おう……」

 

イオリの声が、わずかに緊張しているが、ソラハも同じだった。

バケツが大きく傾き始めるのを見て、二人は同時に目を閉じた。

 

次の瞬間——。

 

ドォォォン!

 

大量の水が頭上から一気に落ちてくる。

冷たい衝撃が全身を包み、視界が真っ白になった。

水しぶきが周囲に飛び散り、二人は一瞬その場に立ち尽くす。

 

「……ぷふ」

 

ソラハが先に声を漏らした。

濡れた前髪が顔に張り付き、水滴が顎からポタポタと落ちる。

 

「はは……あはははっ」

 

思わず笑いが込み上げる。目を開けたイオリも、びしょ濡れのままソラハを見て、少し呆れたように息を吐いた。

 

「……ソラハ、楽しそうだな」

 

「だってすごかったんだもん。びっくりした。ある種の修行になるかもよ、これ」

 

濡れ髪をかき上げながら、まだ笑いを噛み殺しているソラハ。

イオリの銀髪もびしょびしょで、いつもより少しだけ柔らかい印象に見えた。

 

「一体なんの修行だよ」

 

「うーん、衝撃に耐える修行とか?...もう一回、やる?」

 

ソラハが聞くと、イオリは短く鼻を鳴らした。

 

「……まあ、悪くなかったな。もっかいやろう」

 

頭上では、すでに次の水がゆっくりと溜まり始めていた。

2人でソワソワしながらその時を待った。

 

キララとエリカが流れるプールの旅から帰って来た頃には、2人は修行僧のような後ろ姿をしていた、らしい。

 

 

 

 

プールサイドの野外カフェテラスは、陽射しを遮る白いパラソルが並び、程よい風が通っていた。

 

4人はテーブルを囲んで座る。

トレーの上にはホットドッグやフライドポテト、それに各々が選んだドリンクが並んでいた。

 

「いただきまーす!」

 

キララが元気よく声を上げ、ホットドッグにかぶりつく。

ケチャップが少し口の端についた。

 

「ん〜、美味しい〜!プールの後ってなんでこんなに美味いんだろ」

 

「運動した後だから、じゃないかな」

 

エリカが微笑みながらポテトを摘まむ。

彼女はホットドッグを半分に割って、丁寧に食べていた。

イオリは無言でホットドッグを手に取り、大きく一口かじると、表情が少しだけ緩んだ。

 

「うん、美味しい。マスタード、結構効いてていいな」

 

「でしょでしょ?」

 

ソラハはアイスのカフェオレを両手で包み込み、ストローを唇に当てた。

冷たい液体が喉を通る。

ミルクのまろやかさとコーヒーのほろ苦さが、夏の暑さを優しく溶かしていくようだった。

 

「……ん」

 

思わず目を細める。

プールで遊んだ後の体に、この冷たさと甘さが染みた。

ヘルツのクジラで淹れてもらうカフェオレとはまた違う、外で飲むからこその味わいだ。

 

「ソラハ、そんなに気に入ったか?」

 

イオリがこちらを見てくる。

 

「うん。なんか……今のタイミングにぴったり」

 

そう答え、もう一度ストローを咥えた。

氷がカランと鳴る音が、テーブルの上で小さく響く。

キララがポテトをソラハの方へ押し出す。

 

「はい、ソラハっちも食べなよ〜。分けてあげる」

 

「んー!ありがとう、キララちゃん」

 

ポテトを一つ摘まみ、カフェオレの後味と一緒に口に入れた。

塩気と冷たさが混ざり合って、思わず笑みがこぼれる。

陽射しは強く、遠くではまだ誰かがスライダーで遊んでいる声が聞こえた。

 

 

 

 

ご飯を食べ終わってしばらく休憩する事にした。

ロッカーから持ち出したスマホで、ワイワイと写真撮影会をする。

 

ソラハはサマーベットでスマホを弄っていると、アロヨンからメールが来てた事に気付く。

 

『そちらのプール施設周辺に、ごく弱いオーパーツ反応を確認しました。緊急度は低いです。遊びに集中して大丈夫ですよ。もし帰り際に余裕があれば、軽く確認してもらえると助かります』

 

画面をじっと見つめた。

 

(……ここにも、あるのか)

 

少しだけ胸の奥がざわつく。

でも、メッセージの文面はあくまで穏やかだった。

「遊びに集中して大丈夫」という言葉が、肩の力を少しだけ抜かせる。

 

「……ん」

 

小さく息を吐き、スマホを裏返してベンチに置いた。

 

「ソラハちゃん、どうしたのー?」

 

キララが覗き込んでくる。

 

「なんでもない。ちょっと連絡見てただけ」

 

「バ先の?」

 

「うん。でも今はいいって。遊んでていいらしい」

 

ソラハはそう言って、軽く笑った。

イオリがこちらを見て、短く言った。

 

「無理するなよ」

 

「してないって。今はプール優先」

 

そう答えて、キララが差し出したスポーツドリンクを受け取って額に当てた。

冷たい感触が伝わる。

 

「次、どこ行く?波のプール?それともまたスライダー?」

 

「キララちゃん、ジャグジーもあるみたいだよ」

 

「えっマジ?セレブの屋上にあるやつじゃん!行きたい行きた~い!」

 

キララとエリカの明るい声に、ソラハは小さく頷いた。

スマホの画面はもう見ていない。

ドリンクを口に含み、皆の会話に自然に戻っていった。

 

 

 

 

ミストゾーンは、細かい水煙が絶え間なく噴き出しているエリアだった。

白い霧のような水滴が陽光にきらめき、近づくだけで肌がひんやりとする。

キララが先頭で駆け込み、両手を広げてミストを浴びた。

 

「きゃはは!気持ちいー!」

 

ソラハも続いて足を踏み入れる。冷たい霧が顔や腕にまとわりつき、さっきまでの暑さが嘘のように薄れていく。

 

「……ん、これいいね」

 

イオリは少し距離を置いて立ち、ミストを避け気味にしていたが、ソラハに袖を引かれて仕方なく中へ入った。

銀髪がすぐに湿り気を帯びる。

 

エリカは穏やかに微笑みながら、霧の中でゆっくりと手をかざしていた。

4人は思い思いにミストを楽しみ、短い笑い声を上げる。

そのときだった。

遠くのプールサイドで、小さな機械音がした。

 

『救助します....救助します....』

 

最初は誰も気に留めなかった。

ミストの音と重なって、ただのアナウンスのように聞こえたからだ。

だが次の瞬間、黄色い浮き輪がいくつか、不自然な軌道で宙を舞い始めた。

 

ソラハが首を傾げる。

 

「……今の、なに?」

 

霧の立ち込めるプール施設の一角で、浮き輪投擲ロボが複数、一斉に動き出した。

 

『救助します!救助します!危険を検知しました!』

 

機械音声がけたたましく響く。

二等親のアームが伸び浮き輪を膨らませしだい投擲してくる。

センサーが赤く点滅している。

 

「うわっ!」

 

「あぶなっ!」

 

キララとエリカが慌てて回避する。

 

「イ、イオリ...」

 

「くっなんだコイツら...」

 

周囲を見渡すと、逃げ遅れた数人が浮き輪に捕らえられていた。

浮き輪が腕を固定するように締まり、その場にへたり込んでいる者もいる。

 

「ちょっ、重い……動けないんだけど!?」

 

「うぐっ……視界が……!」

 

悲鳴があちこちに響く。

 

「...風紀委員として......見過ごせないな!」

 

イオリの行動は早かった。

全力疾走でロッカーへ戻り、愛銃を取り出すと、拘束されてる人々へ発泡。

浮き輪の空気が抜け解放される。

 

「今のうちに逃げろっ!」

 

「あ、ありがとう!」

 

ソラハはキララ、エリカと顔を合わせた。

続くように武器を持ち出すと、人々の救助に向かう。

 

「僕も手伝う!」

 

ソラハが自身のハンドガンに視線を移す。

 

(ショットランサーも特殊スーツも任務の時しか持ち出せない...!久し振りだけど頼むよ、僕のハンドガン...!)

 

だがロボットたちが行く手を阻む。

 

 

 

『救助します!救助します!』

 

『救助します!救助します!』

 

 

「っ!」

 

高速で発射される浮き輪。

反射的に発泡するが当たらない。

 

(外したっ!?)

 

飛来してくるそれを、体を捻ってギリギリで回避する。

 

(くっ...最近、ショットランサーばっか使ってたから甘えてたんだ...!そもそも僕の射撃はダメダメだ...!)

 

パンッ!パンッ!

 

ロボットのカメラアイや、足の間接を狙うも悉く外れる。

 

(...今まで装備に頼ってたツケが出たな...!)

 

それでも相手の攻撃を回避できているのは、日頃の柔軟のお陰でもあったし、日夜の戦闘で動体視力が向上してたのもあった。

 

「むむむっ....!ふわっ!?」

 

水辺に脚を滑って姿勢を崩す。

その隙にヘルパー浮き輪が発射され、ソラハの片腕に複数のヘルパーが嵌められる。

 

(くっ...これが邪魔で銃が使えない)

 

そこへ一際大きな浮き輪が発射された。

ソラハの体を被うように迫る。

 

(マズいっ...!)

 

──ドンッ!

 

聞き馴染みの深いライフルの音がした。

目前の浮き輪に風穴が空く。

 

 

「イオリ!」

 

 

銀髪のツインテールがジャキンとハンドルを後ろに引いた。

 

「大丈夫か、ソラハ!」

 

「う、うんっ!」

 

ソラハを庇うようにイオリが前へ出る。

今のうちだなと、イソイソと腕の物を外す作業に移る。

 

「!」

 

そこへ複数のロボットが浮き輪を発射。

それらを避けながら、銀髪の少女がライフルを構え、正確にセンサーを撃ち抜いていく。

一発で一機、ソラハのハンドガンとは段違いの精度だ。

 

時にはバットのように振りかぶり、銃の後ろに付いたトゲトゲで浮き輪に穴を開けていく。

 

(……やっぱり、イオリはすごい)

 

ソラハは歯を食いしばった。

自分が前に出ても、足手まといになるだけだ、と思わず感じてしまった。

 

外し終えるとハンドガンを構えた。

 

「...イオリ!行けるよ!」

 

「よし...じゃあ行くぞ!ソラハ!」

 

「...うん!」

 

イオリに合わせて応戦する。

だが、いつものような力を発揮できない。

 

(むむ、刺突こそが有効なのに...!こんな時にショットランサーがあれば!)

 

放置されたビーチパラソルに視線が行く。

 

(あれだ...!いいもの見つけた...!)

 

隙を見て、パラソルを引き抜いた。

左手に傘、右手にハンドガン。

これまで培った経験を思い出してグリップを握り直す。

 

「疑似パラソルショットガンだね......行くよ……!」

 

最初の浮き輪が高速で飛来した。

反射的にパラソルを開く。

 

パァン!

 

布地に弾かれた浮き輪が軌道を変える。その隙に片手でハンドガンを構えて引き金を引いた。

 

弾は外れた。

 

「っ……防御は出来てるけど、扱いづらい...!」

 

パラソルの重力が重い。

普通の日傘とは全然違う。

 

普段ならもっと軽快に振り回せる筈だ。

 

(アロヨンさんの装備がないと……こんなに違うんだ...!)

 

またも自分の無力さを重い知る。

 

ゾロゾロと敵の数が増える。

だがその数機が別方向からの攻撃を食らう。

 

「ソラハっちー!」

 

「銀鏡さーん!」

 

キララとエリカがフォローに入る。

 

「わたし、戦闘とかあんまり得意じゃないけど!でもできるかぎりやるからね~!」

 

「そっち行ったよ!キララちゃん!」

 

キララの大声が聞こえる。

エリカがヒョウ柄のカスタム銃で応戦する。

 

(そうだ!それでも、今やれる最大限の事をやるんだ...!)

 

つまり、自分は防御に特化すればいい。

ハンドガンをしまう。

 

「イオリ!僕が守る!撃って!」

 

パラソルを盾のように構え、飛来する浮き輪を次々と弾く。

イオリは短く頷くと、容赦なく狙撃を続けた。

 

「ナイスだ!ソラハ!」

 

「うん!」

 

イオリのタンクとなり、攻撃を捌いていく。

そこでソラハは、センターにいるロボットだけ、不吉な赤い光を宿してる事に気付いた。

 

「イオリ、中央にいるやつ。たぶんアレが指示を出していると思う。アイツを倒せば他のも大人しくなる...筈」

 

「...わかった、あの真ん中の奴だな」

 

発射された攻撃をひたすら防ぐ。

展開した傘がイオリの射線の邪魔にならないように意識する。

 

(とにかくフォローだ!今の僕にできる事を努めろ!)

 

それもあってか、イオリの狙撃が周囲の機体を撃破していく。

 

リーダー機との一騎討ちになった。

 

(このロボット...!中にオーパーツがあるのかも...!感じる、あの感覚だ...!)

 

「そこだ!」

 

イオリの狙撃を回避するロボット。

流れるような動きで浮き輪を発射してくる。

 

(動きが一味違う...!未来でも予測してるみたいだ...!)

 

発射されたソレをソラハが防ぎつつ距離を一気に詰める。

 

「イオリっ!接近戦だ!」

 

イオリは首肯すると発泡しつつ、素早い動作でライフルを逆手に持ち、トゲトゲをカメラアイへ向かって振り下ろす。

 

その動きを知っていたかのようにロボットが腰を低くする。

発射された浮き輪がイオリの腕に巻き付く。

 

「まだだ!僕がいる!」

 

ソラハが傘を閉じて、両手で前へ突き刺す。

 

ガツンッ!

 

腕がビリビリと痺れる感覚。

ロボットの脚に突き刺さり、動きが鈍くなる。

 

「ナイスだソラハ!これでトドメだ!」

 

イオリが空いている手でなんとか構え、引き金を引く。

ロボットのカメラアイが粉々に破壊された。

 

動きが停止する。

 

「.....ふぅ.....」

 

2人して息を吐く。

 

「ふふっ...なんとか終わったね、イオリ」

 

「あぁ...これで他のやつの暴走も落ち着くだろ...落ち着いてくれ」

 

「ふふっ...」

 

ソラハがイオリの腕に何個も巻き付いたヘルパーを取る。

 

「これで安心だね...」

 

 

ソラハが息を吐いた瞬間だった。

 

 

機能停止したはずのロボットが、最後の足掻きのように弾かれた。

高速で発射された黄色い輪がイオリの足首に絡まる。

 

「っ……!」

 

イオリの体勢が崩れる。

流れるプールの縁に足を取られ、そのまま水面に引き込まれた。

 

「イオリ!!」

 

考えるより先に、体が動いていた。

パラソルを放り出し、ハンドガンを置いたまま、プールに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

冷たい水が全身を包む。イオリの体を必死に抱きかかえ、流れに抗いながら岸へ向かう。

 

(水の流れが早い...!)

 

そのまま人目のない、少し奥まった洞窟のようなエリアまで流された。

 

洞窟の奥は、思ったより静かだった。

遠くで流れるプールの水音が、低く響いている。

天井から落ちる水滴が、ぽたり……ぽたり……と、規則正しく床を叩いていた。

 

「イオリ、イオリっ……!」

 

陸に引き上げると、イオリは目を閉じたまま動かない。

口から水が溢れている。

 

(イオリ、泳げないんだった...!それで...!)

 

ソラハの手が、小さく震えた。

 

 

 

(……するしかない)

 

 

 

顔が熱い。

 

耳まで熱い。

 

でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

 

 

「イオリ……」

 

 

 

今日も、助けられた。

 

自分の未熟さを、改めて知った。

 

 

 

「……イオリ、するからね...」

 

 

 

所詮、素の葉箱ソラハの実力なんて、その程度だ。

 

それでも、今の自分にできる最大限のことをする。

 

そう誓ったのだ。

 

だが、激しく高鳴る心臓が、ソラハの動きを鈍らせる。

 

 

 

「...ふぅ......できる……僕はできる。なんたって、この僕だよ」

 

 

 

震える声で、虚勢を張る。

 

深く息を吸って、覚悟を決めると、銀髪の少女の顔を覗く。

 

 

 

 

「......イオリ.....僕が、絶対助けるから」

 

 

 

 

洞窟の薄い照明が、水面に揺れていた。

 

二人の少女の影が、静かに重なる。

 

時間が、少しだけ遅くなったように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

シスターフッドの大型犬ちゃん(作者:ZK)(原作:ブルーアーカイブ)

シスターフッドの長、歌住サクラコ。その側近のマシンガンを得物とするシスターは、シスターフッドの敵となる者を粛清するのだという…▼主人公ちゃん「一マガジンで何もかも一切合切決着します!」▼サクラコ「待ってください!止まって…!……わっぴー!」▼主人公ちゃん「わっぴー!…はっ!?」▼…ていうのを描きたい(願望)▼2026/06/20 1:44▼軌道修正のため4、…


総合評価:578/評価:7.81/連載:8話/更新日時:2026年09月17日(木) 02:59 小説情報

錆びた翼は戻らない(作者:黒っぽい猫)(原作:ブルーアーカイブ)

「全てを失くした私に、まだ働けと言うのですか?」▼約定を、希望を、夢を、正義を、そして何より主を。▼少女の大切なものは全て、掌から零れ落ちていった。▼「まだ生きねば、ならないのですか?」▼これは1人の少女、香黒チサトの物語。▼空になった彼女が、青く透き通った物語で紡いでいく、赤黒く歪んだ物語


総合評価:506/評価:8.12/連載:6話/更新日時:2026年08月27日(木) 22:05 小説情報

月は堕ち、日は昇らない(作者:ハイカスカス)(原作:ブルーアーカイブ)

▼ループに身を堕とした少女が、死の神へと縋り続ける話。▼シロコ*テラーの過去を直接見てきたのが1人だけだと寂しすぎるよなってことで殺し愛できる相手を生やしてみた。▼ただし至上命題はシロコ*テラーの抹殺であるものとする。▼良かったね何度でも繰り返せるから何度でもトライアンドエラーができるよ。


総合評価:577/評価:8.31/連載:17話/更新日時:2026年09月17日(木) 06:00 小説情報

先生がいないキヴォトスから来た一般生徒(覚悟ガンギマリ)(作者:かまくら御前)(原作:ブルーアーカイブ)

 ▼唐突だった、世界は紫光に包まれ天国は地獄と化した。光に包まれた生徒は我を失い、殺戮の限りを尽くすだけの人形となった。▼1日を超えるため、屍を増やし思いを託されその地獄を生きる。▼大切だった人達はいなくなり、終わらぬ絶望と孤独に苛まれる。何時だったか……心は凍り、生に意味を見いだせなくなる。▼ ▼そして、最後は頭を貫かれて意識は闇に呑まれた……はずだった。…


総合評価:859/評価:7.94/連載:10話/更新日時:2026年07月24日(金) 23:24 小説情報

偽アリスとして生きていく(作者:キヴォトスの企業担当を目指す人)(原作:ブルーアーカイブ)

アリスとはまた違う名もなき神々の王女の器に入ったオリ主君はサポートシステムに頼りながら生きていく…そんなお話。▼タグは後付けもありますし、亀投稿ですがお許しを…▼追記:ちょっと描き直しました


総合評価:412/評価:7/連載:7話/更新日時:2026年08月22日(土) 17:08 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>