朝
青緑のミディアムロングに、すみれ色の瞳の少女が登校している。
「ふんふん…書類選考は合格と、次は面接か」
少女の名は葉箱ソラハ。
件のバイトのメールを受け取り、スケジュールとにらめっこする。
「よし、この日でお願い致しますをしよう…それでD.U行くついでに、いい感じのカフェでも開拓して…」
通学しながら、予定を組み立てて行くと、ゲヘナ学園が見えてきた。
白い建物が並び、赤い旗が悠然となびく。
その豪華さ。
初めて来た時は「流石は3大校の1つ…」と思ったが、毎日通えば見慣れるもの。
正門をくぐると、背後から肩をポンポンとされた。
「ん?」
反射的に振り向いたソラハの頬へ、ぷにっと人差し指が刺さる。
「えへへ~ソラハちゃん引っ掛かった~!」
ピンク色のウェーブヘアが揺れる。
イタズラな笑顔のキララがいた。
「っやってくれるね。この僕に、置きほっぺツンを決めるなんて」
「んふふ~前方に、可愛らしい後ろ姿が見えたから~。やるしかないっしょ~」
「ン、この僕を褒めてくれるならいいよ、許してあげる」
ソラハが胸に手を当てて、偉そうなポーズをとる。
そのポーズが、キララの悪戯心をくすぐった。
「やった~~えいえいえいえい」
「んっ…ちょっ…プニりすぎ」
青緑の頭がくすぐったそうに揺れる。
「ねえソラハちゃん、今日の体育でバトミントンあるじゃん?一緒にやろうよ」
「あぁ…体育は学年合同だから時間一緒か。いいよ、僕の友だちも連れてくから、エリカちゃんも入れて4人でやろう」
「決まりね!」
校舎内に入り、廊下でキララと別れ、手を振る。
教室を目指していると、前方に見覚えのある銀髪のツインテールを発見した。
「(あっイオリだ!ふふ…さっきの悪戯、イオリに試しちゃお)」
手を後ろに組んで、そっと彼女の背後に近づく。
その肩に手を置こうとした瞬間。
「?」
何かに勘づいたように、イオリが振り向いた。
中途半端な体勢のソラハと目が合う。
「あっ…、おはよ。イオリ」
「あぁソラハか、おはよう。今日はいい天気だな」
「うん、ソダネ」
何となく残念な気持ちになったソラハは、イオリの隣に合流する。
「…ねぇイオリぃ、僕、今こっそり近づいたのに、なんで分かったのさ」
「…何となく、背後を取られてる気配がした」
「えぇ…風紀委員にもなると、そういう能力もつくの?」
「気配探知能力は持ってて損しないな。それに、現場で戦闘してると、嫌でも身に付く。」
「風紀委員ってすごいね…」
実際は、委員会のみながそういう事ができる訳ではない。
ただ、銀鏡イオリという少女の戦闘センスが高いだけだったが、当人はその非凡に気づいてない。
「ならば、僕は気配遮断能力を極めないと…」
「それ、極めて何に使うんだよ?」
ソラハが口に人差し指を当てて微笑んだ。
「ヒミツだよ」
⭐
授業が終わり、次の体育に向けて各々が準備を始める。
「イオリ、次バトミントンなんだけどさ、僕の知り合いと4人でやろうよ」
「ダブルスか、いいよ。4人でやった方が盛り上がるしな」
赤と白のシンプルな体操服に着替える。
雑談しつつ移動。
「それでなソラハ、準備運動を怠るとデメリットがあってな」
「ウンウン」
下駄箱でシューズに履き替え、爪先をトントン。
グラウンドへ向かうと、ラケットを物色してる2人を見つけた。
「やあ、キララちゃん、エリカちゃん。僕らが来たよ」
「ハロハロ~待ってたよ」
「おはようソラハさん」
「おはよう。それで連れて来たよ、こちらが僕の友だちのイオリさんでーす」
「銀鏡イオリだ、よろしく」
互いに自己紹介を済ませ、風紀委員直伝の正しい準備運動を4人で行う。
「銀鏡さん、風紀委員なんだよね、毎日忙しくない?」
柔軟しながら、エリカが質問する、
「んー、ちょっと忙しいかもな。でもその分、私はバイトとか入れてないし、案外エリカ達とそんなに変わらないじゃないかな」
「アハハ、確かにそうかも。この間、キララちゃんとこのクレープ屋さんがね、凄い繁盛しててね」
「ホントだよ~あの日の労働量はえげつなくって~特別手当てくれ~!って感じでさ」
「へえークレープ屋さんか、なんだか可愛いかも…」
「イオリ、クレープバイトに興味あるの?いいよねアレ。1回はやってみたいよね」
そんなこんなで準備運動を終え、ラケット選びに移る。
たくさんのラケットが入ったボックスを覗く。
「色んな色あるね、イオリ」
「そうだな、やたらバリエーションあるな」
「まま、性能は同じだから、どれにしても変わらないっしょ~!」
キララがピンク色を選ぶ。
ソラハもコバルトブルーを手に取り、イオリはパープルを掴む。
「じゃあ、あっちのコートに行こっか」
エリカがラケットでコートを指す。
3人が彼女の豹柄のそれに視線がいく。
ソラハが質問する。
「……エリカちゃん、そんなラケットどこにあったの」
「ふふ、これはね、下の方に埋もれてたんだよソラハさん。レア物だね。」
「えぇ…」
⭐
コート内
自然な流れでソラハ&イオリ、キララ&エリカでチームが作られる。
「イオリ、僕の背中は任せたよ」
「はいはい」
「エリカちゃん、特訓したアレを使うよ」
「なにそれ、知らないよ、キララちゃん」
ルール確認を行い、ゲームスタート。
「よーし、じゃあ行っくよ~!…てい!」
キララがシャトルを浮かし、勢いよく打つ。
「奥に来たか…それ!」
コートのバックにいたイオリが打ち返す。
「おっ銀鏡さん上手いね…はい!」
シュパンと、エリカが返す。
その落下地点へソラハが移動。
「僕の番だね!…えい!」
ブンッと、無造作に振られたラケットは空を切った。
ポテンと落下したシャトルを、イオリが拾う。
「ドンマイ、切り替えていけー」
「はーい」
再びエリカのサービス。
それをイオリが返し、キララの元へ。
「ソラハちゃん!」
気遣ったのか、キララがソラハのポイントへ飛ばす。
「いい球だね!キララちゃん!ていっ!」
ラケットに命中したシャトルが、ポテンと自軍に落ちる。
「……」
「......」
どこか、気まずい空気が流れる。
「……………ターーーーイム!」
イオリがやけくそ気味に叫んだ。
「ふふ、どうしたのかなイオリ、僕のプレイに問題でも?」
「あるに決まってるだろ。たく、これじゃあラリーにならないぞ」
向こう側でエリカとキララが苦笑いを浮かべていた。
「……だって僕、あんまし、やった事ないんだもん」
「なら、一旦基礎練にするか。おーい!」
イオリが2人を呼んで、練習の流れに移る。
「おけおけ。ソラハちゃん、最初はみんな初心者だよ!」
「うん、やはり僕もそう思うよ」
「なんで妙に偉そうなんだよ…まあいいや。エリカ、サーブ係を頼む。私が隣でソラハに教える」
「了解だよ銀鏡さん。…ソラハさん、こうね…手首のスナップを利かせるといんだよ」
「ふむふむ…」
ラケットの振り方を教わるソラハ、一通り素振りを繰り返す。
改めて位置につき、エリカのサービス。
「ソラハさんっ!」
「うーん、ていっ!」
命中するも、相手コートの内側に落ちた。
「イオリ、一応当たったよ」
すみれ色の瞳がイオリへ向く。
「うーん、もっと遠くに返したいな…たぶん腕の使い方がなってないのか?」
イオリが思案すると、ソラハの背後へ回る。
「?」
首をかしげ、視線を送るソラハ。
「よし、これでやってみるか」
そこへイオリが後ろから密着、ソラハの右手と自身の腕を重ねる。
「えっと…イオリ?」
「二人羽織作戦で行くぞ。私がおまえの手を操作するから、体で覚えろよ」
「か、体で…」
耳元で言われ、すみれ色の瞳が緊張気味に揺れる。
それを見たキララは「なんか楽しそうだね~」と笑い、エリカは「仲良しさんだね」と感じた。
「さあ…行くぞ!」
「ひゃいっ!」
エリカが2人の所へレシーブを打つ。
イオリがソラハの手を握って、打ち返す。
シュパンと心地よい音が響き、エリカの地点までシャトルが届く。
「おぉ…なんか行った」
「次来るぞ、ソラハ」
「っうん」
再度、打ち返す。
それは綺麗な円を描いた。
「イオリっ、なんかっ、ラケットの使い方っ、分かってきたかも!」
興奮した様子でソラハが言う。
「よしっもう1回だっ」
そこで、エリカの悪戯心が芽生えた。
今までは、ソラハ達のいる箇所へ狙って打っていたが、ちょっと遠くへ落としてみよう、と。
「行くよ!2人とも!」
エリカが大きく逆サイドへ打ち返す。
「!」
ソラハが反射的に体を動かし、イオリも密着したまま従う。
そこで、ソラハの足がもつれた。
「ふわっ」
「うわっ」
ソラハとイオリの小さな悲鳴が響くと、2人のシルエットが倒れた。
「あっちゃ~ソラハちゃん、イオリちゃん大丈夫~?」
キララが近づき身を案じる。
「ごめんごめん、やっぱそうなるよね。わー、2人ともあっついね」
エリカも近寄り、2人の姿を見ると、口元に手を当てた。
完成したるは、銀髪のツインテールに押し倒される青緑の髪の少女の絵。
絡み合う足、0距離のお互いの顔。
「…いてて、悪いソラハ。やっぱ二人羽織は無理があったか……」
イオリが心配そうに顔を覗く。
「…ソラハ?大丈夫か?生きてるか?」
「……ぅん…大丈夫れす…生きてます」
「やっぱ普通に教えた方が良かったかー。………ホントに大丈夫か?」
「……大丈夫だってば」
真っ赤な顔を手で隠しながら、少女は返事をした。
⭐
その後、先ほどのチーム分けでダブルスを再開した。
「ソラハさん!」
「んん…てい!」
「ソラハちゃん!」
「ってい!」
「そっち行ったぞ、ソラハ!」
「ていてい!」
「行っくよー!ソラハちゃん、キララ・ストライク!」
「んっ!ソラハ・スペシャル!」
「いーい感じじゃないか、ソラハ」
イオリが後方で腕を組んで、賛辞する。
ゼエゼエしながらソラハが言い返す。
「なんかさっきから、僕多くない!?」
「いいじゃないか、練習になって」
「うぬぬ…イオリがそんな後ろに位置してるからでしょ。ポジションチェンジを要求します」
ソラハがイオリの背中を押し、強引に前に連れてく。
「もう少し、おまえの師匠ずらする遊びを、したかったんだけどな~」
「しなくていいよ、そんなアソビ」
ソラハがバックにつき、ゲームが再開する。
「はあっ!」
イオリの右腕がしなる、シュパン!
風をきる綺麗な音。
ソラハはその後ろ姿を見ていた。
「(なるほど…あれが上手い人の動きか)」
イオリの頭上にシャトルが向かう。
ラケットを掲げ、右足を軸に、左足を少し浮かせる。
接触の瞬間、ダン、と左足を踏み込む。
その立ち姿が、はりつめた弓のようにソラハは見えた。
「はあっ!」
極限までチャージされた腕から、しなやかな高速ショット。
相手コートのすぐ真下。
エリカが反射的に前へ詰め、下から掬い上げる。
「くっ"弱い"っ」
ふわりと浮かんでしまったシャトルに、エリカが苦々しげに呟く。
「はい」
ポン、とイオリがそれをソフトタッチ。
逆サイドの真下を狙ったそれを、キララが滑り込みで取ろうとするが、地についてしまった。
「(イオリ、すごい)」
「やるね、銀鏡さん」
「へへん、これが風紀委員の力だ」
「悔しい~!もっかいもっかい!」
ゲームが再開する。
素早く切り込むイオリ、それにつられてキララとエリカの動きにも切れ味が増す。
ソラハは、試合がヒートアップする様を肌で感じた。
「行ったぞソラハ!」
「っ!………てぇい!」
すっかり容赦のなくなったショットに、必死に打ち返し、食らいつく。
みんなの動きに、加速する世界についていく。
キララの、エリカの打ったシャトルの軌跡を見る。
そしてイオリの反射神経を見る。
右へ、左へ、縦横無尽にコートを駆ける後ろ姿。
「(あのように…身体を使えば…)」
彼女のシルエットを、銀色の閃光を。
「(…………!)」
追い付きたい。
あの一連の動作、瞬き。
"彼女の流れ"に、合流する自分をイメージする。
「(僕だって…!)」
⭐
イオリは興奮していた。
やはりスポーツは良いものだ。
意識を研ぎ澄ませ、正しく体を振るう感覚が気持ちが良い。
「そこだ!」
脚力を、腕力を発揮するのが楽しい。
競技シーンにおいて、集中力の高まった人間が、オーバーワークする例は珍しくない。
「キララ・アサルト!」
キララの鋭いショットを返そうとした時、それは起こる。
一気に追い付こうと、ダッシュしたイオリ。
が、無茶な体勢だったのかそこで空振りした。
「(まずっスカッた…!)」
ラケットの先で、シャトルが墜落する。
その様が、ゆっくりに見えた。
その時、イオリの背後を青緑の影が抜けた。
「(ソラハっ!)」
試みるは、地面スレスレのそれの掬い上げ。
そのラケットは下段に。
「(いけるか!?ソラハ…!)」
膝を曲げ、ギリギリまで姿勢を低くした体勢。
そこから片足が前へ伸び、地につけ踏ん張りが入る。
体が弦の様に張られる。
そして、確かに強くなった体幹と、斜め下から振るわれたスナップ。
再び、天高く飛翔する羽。
「イオリ」
彼女の前髪から、すみれ色の瞳が見える。
それは汗なのか、ヨダレなのか、口元の水分を手で拭うと、笑った。
「これ、楽しいね」
満面の笑みが、イオリへ向けられた。
だからニヤリと返した。
「ああ、だろう?」
イオリは、背後にいる少女の存在を感じた。
「(そうだな…ダブルスはダブルでやる競技だったな)」
それから、2人の連携が始まった。
前衛で捌くイオリ、そこから届かない箇所のフォローに入るソラハ。
時には臨機応変にポジションチェンジしながら、クルクルと対応していく。
持ち前の脚力で一気に拾いに行くイオリ。
その隙を狙った返しを、予測し、適切に取りに行くソラハ。
「(それはそっちが取るやつだね、まかせたよイオリ)」
ソラハは、脳がクリアになる感覚を覚えた。
「(これは僕がとるやつだな)」
極限まで高まる集中力。
無言なのに、アイコンタクトと空気で、意思疎通ができる感覚。
イオリと自分という2筋の閃光が、コートを隙間なく疾走する。
「(この時間が、ずっと続けばいいのに)」
そう思った。
⭐
ごきゅごきゅ、と水筒のお尻が空へ傾く。
イオリは、スポーツ系が愛用してそうなそれから口を離すと、横で寝転がってタオルを被り、クールダウンしてる少女に声をかけた。
「ジュース、それで良いのか。いつものコーヒーとかじゃなくて」
彼女が、珍しくスポーツ飲料水を買ってきたので、質問してみた。
「こんなときくらいは、こういうのが飲みたいもーん」
顔にかけたタオルをずらし、すみれ色の瞳が向けられた。
「へえ、なんかソラハのレアなとこ見れた」
「なにそれ。てか相変わらずおっきいね、イオリの水筒」
芝生の上で心地よい風が、彼女たちの体を涼ませた。
遠くから、生徒たちの楽しげな声が聞こえる。
「…………」
「…………」
少しして、ソラハがゆっくりと体を起こした。
向こうのコートで、キララ達が手を振って呼んでいる。
「行くか」
「うん」
⭐
夜 ソラハの部屋
バランスボールに乗りながら、1日を振り返る。
「あー今日の体育は楽しかったなぁ。なんだか、体も以前より動かせるようになったし」
プラプラと足を動かしながら、今度はバイトの面接について考える。
「なんか勢いで応募したら、進んじゃったけど…」
窓から夜空が見える。
「まあいっか、なんとなくで受け答えして。受かっちゃったら、その時はその時だ」
キラキラと光る星を眺めてると、なんだか睡眠を促されてるような気がした。
「…明日は明日の風が吹く、だしね」
バランスボールを片付け、モゾモゾと布団に潜る。十分な運動による疲労感と、安心感を覚える星空が、彼女を夢の世界へ連れてった。
この時の少女はまだ、知らない。
そのバイトが、彼女の運命を大きく動かす事に。
事実、連邦生徒会開発部のテスターとなり、様々な兵器運用をする事を。
その過程で、彼女が直面する多くのトラブルを。
ショットランサー、それは槍と銃の機能を両立した複合兵装。
それを携え、青緑の髪の少女は突き進む。
その先で、銀髪の親友と衝突したとしても………
⭐
ご愛読ありがとうございます。
とりあえずここまで書けました。
これからワクワクする展開をお届けできるように頑張ります。