九十九物語   作:レガシィ

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最近ブルアカの方ばっかりだったので偶には投稿しなければ…


第六幕 騙して嗤う子供の戯れ(後編)

 "箱庭"の中は現世と隔絶された仮想の世界。語り怪を知らない一般人に悟られぬように語り怪を閉じ込めるための道具。故に中身はどれだけ壊れても、玩具箱の中が散らかるように外の世界に影響はない。

 

 二者二人が向かい合い、既に五分が経過した。

 

 その間、近衛は白に八発の稲妻を繰り出し、いずれも白は大した回避行動をとっていない。

 

(ンンッどんだけタフ何スかこの人!さっきから渾身の一撃を何発も撃ってンスよ!?)

 

「……終わり?」

 

 ぽんぽんと肩と服を叩いて土煙を払い、白は毅然とした態度で近衛の前に立つ。彼女の身体には火傷の跡すら無い。

 

「へ、ヘヘ。ンなわけ無いじゃないっスか。こんなの様子見ッスよ。次はこの倍の威力で撃つんで」

 

「そのセリフ、もう三度目だね」

 

 今の白は先日戦った鵺の時と同じ"風鬼(かざおに)"の形態。風を操作して雷撃の威力を限りなく相殺、肉体へかかる負荷を打ち消している。現在の白の状態を一言で表すなら、静電気で髪をフワフワさせているような感じである。

 

 間違いなく近衛は強い。本人の自負通りに天才。

 

 しかし、神の力に頼れぬ体術では"鬼"の白との相性は最悪、ましてその神の力でさえ今の白にはほぼ無意味と化している。

 

「ていうか、貴方は"語らない"の?」

 

「へっ!?あっ、祝詞はそのぉ……得意じゃないってゆーか……ンなもん無くても俺は強えぇんスよ!」

 

「そう……ねぇ、貴方はなんで鏡さんを狙ってるの?邪魔だからっていうのは理由として弱いよね」

 

「だぁれが教えると思うッスかぁ!?」

 

 バリリッ!!

 

 白は再び繰り出された雷撃を風で誘導して逸らし、話を続ける。

 

「なんっで!当たらないんスかぁ!?」

 

「そもそも語り怪を祓う立場の貴方がさっきの語り怪と行動を共にしてるのもおかしな話。もしかして、祓い屋の内部で派閥争いでもあったりして」

 

 近衛はピクリと身体を震わせ、明らかに身体の硬直と動揺を見て白は確信する。

 

「へぇ……となると、行動が激化した原因はテケテケ?だとしたら明らかに行動が速いし、もしかしてこれって貴方の独断専行?」

 

 さらに冷や汗を流し始め、分かりやすく誤魔化そうとするためにあたふたと両手で大きくリアクションする。

 

「ンななな、なわけねぇじゃねっスか!アンタ馬鹿っすね!バカ!バーカ!!」

 

「正直者は馬鹿を見るっていうしね、存外外れてもないんじゃない?」

 

「?……あ、う、うぅるせぇっスよ!」

 

 バキンッ

 

「へあっ?」

 

 皮肉をこめた白の煽りを遅れて理解し、先までの戦闘と同じように錫杖を振って鈴を鳴らし、雷を杖先へ集める。しかし、反復学習を得意とする彼女の前で 同じ手を見せるのは悪手。そもそも欲しい情報も漏らしてしまった彼にこれ以上の時間をかける必要もなく、白は一足に距離をつめ、錫杖の穂先を蹴り折って次手を封じ、襟元を掴んで投げ飛ばす。尻もちを着いて呆ける近衛の前にしゃがんで冷徹な目で勝利を語る。

 

「その錫杖。撃つたびに溜めが必要なんでしょ。大体3秒くらい。それだけ時間があれば、私は今のと同じ威力のパンチを5回は打てる。そうじゃなくても雷は大して私に効かないよ、奥の手もあるし」

 

「ぐぅっ、こンのっゴリラ女っーー」

 

 バチィッ!!

 

「ゴリラじゃなくて、"鬼"ね。次は本気で殴るよ」

 

 デリカシーの無い言葉に苛ついた白はかなり強めに頬をビンタする。真っ赤な紅葉が痛々しそうに跡を残し、脳が揺れた近衛はその場に白目を剥いて泡を吹いて倒れる。

 

「……クロエちゃんの方は終わったかな」

 

 ーーー

 

「で、まぁだやるにゃん?」

 

「ハァッ……ハァッ……ゲボッ……」

 

 クロエは前足を舐めて毛繕いながら全身至る箇所を噛み千切られ、人間なら死んでいるであろう出血量の白狐を見下して話す。

 

「ふ……ふふ……安心致しました……。衰え知らずの魔猫、流石は全てを黒く塗り潰す、化かしの大頭目"玄絵"……本日は退くことに致します。また出会える時を心待ちにしておりますわ」

 

 妖しげな笑みを零し、ガクガクと足を震わせながら立ち上がり、煙のようにクロエの目の前から姿を消す。化かしの効果が切れたか、箱庭が解除されたか、もしくはその両方か、徐々に人の気配が現れ始め、建物も全て何もなかったかのように姿を戻していく。

 

「術が解けたかにゃん。にゃら、白ちゃんもそろそろかにゃ」

 

 ピリリリッ

 

「にゃ、白ちゃん、終わったにゃ?」

 

「うん。でも、外に放り出されちゃったからそっちに戻るね。鏡さんは?」

 

「まだにゃん。でもまぁ心配ないにゃ、直に目を覚ますはずにゃん」

 

 電話越しのクロエの言葉に一先ず納得し、白は再び入館して倒れている鏡とそれを化かしているクロエの前まで到着する。

 

「起きそう?」

 

「もうそろそろにゃん。絵にかけられた呪いの気配が薄れてきてるにゃんから……ほら、噂をすればにゃん」

 

「え……わっ!?」

 

 絵の破片達から黒い靄のようなものが溢れて飛び出す。

 

 驚いて後ずさる白とそれを他所に欠伸をかいて飛び散った黒い靄を尾で弾くクロエ。ほぼ同時に目を覚ます鏡。

 

「お、おはようございます、鏡さん」

 

「おはようにゃん、目覚めはいかがにゃん?」

 

「最低だ。催眠系は面倒この上ない。白、仕事は終わり、帰るぞ。話すことが山積みだ」

 

「ちょっ、そんなあっさり……」

 

 あっさりと事態を認識して受け入れた鏡は立ち上がって先導し事務所に戻る。道中、先の二人の襲撃を簡潔に話し、事態をさらに深く理解する。

 

 事務所で緑茶をすする花子と、目があらぬ方向を向いてぶつぶつと独り言を呟く海馬が床に転がっていた。

 

「あら坊や、遅かったわね。そこに金額書かせた小切手置いてあるわよ」

 

「ん、お疲れ」

 

「う……わぁ……花子さん、何したの?」

 

「別に、語り怪らしく恐怖を教えただけよ。貴方も慣れなさい」

 

「私は遠慮しておこうかな……」

 

 自然と白は全員分のお茶を注ぎ、それぞれの前へ置く。

 

 鏡はとある人物へスマホでメールを送り、話し合いを始める。

 

「さて……今日の依頼で確信した。俺達を狙う何者かが行動を起こしてる」

 

「何者か……ですか。そういえば鬼丸の封印を解いたのも誰か分かってませんね。偶然とは思えません」

 

「さっきの女……"玉藻前"の封印も解かれてたにゃん。祓い屋の連中が人手不足で警備不足なのを明確に突いてるにゃんね」

 

「玉藻前っつーことは、俺を最近化かしてんのはソイツか。この間の依頼も玉藻前の仕業か」

 

「十中八九そうなるにゃん。奴に与する下っ端も絡んでそうにゃけど」

 

「玉藻前、祓師、コイツ(海馬)は今回の為の捨て駒だろうな……情報が足りねぇ」

 

(まさか衰退する祓い屋を子取り箱が手中に収めようとしてる?今の祓い屋なら国に対して権力を持ってる、あり得ない話じゃないが……"奴"にそこまでの知性があるとはとても……)

 

 頬を抑えながら近日の情報を整理する鏡に、白が薄く手を上げて発言する。

 

「これって、要するに祓い屋と私達。それと語り怪以外の何かがいるってことですよね?」

 

「まぁ……そうはなるんだろうが。それが祓い屋の中で二分化された勢力なのか、何処かの大きな語り怪勢力なのか、はたまた全く分からない異分子(イレギュラー)なのか……」

 

「……"子取り箱"……じゃ、無いんですか」

 

「「!!」」

 

 執拗に名前を出すのを避けていたその名を、予想しない形で白の口から飛び出し、花子と鏡が互いに目を見開いて机を揺らす。バツが悪く、目を背ける白に、背筋に悪寒が走るような瞳でその協力者に気づく。

 

「どこでっ!……クロエ、知ってやがったな」

 

「情報源は天狗の小僧にゃん」

 

「アイツもグルか……」

 

「この際、私に黙ってたのは良いんです。でも、こんなに大きな事件なら、私にも協力させてください」

 

 白はいかにも気にしてませんという態度で協力しようと鏡に言葉をかける。しかし、鏡はそれを考える間を置かずに一蹴する。

 

「駄目だ。いいか白……この件は俺達で終わらせる。お前には関わらせない」

 

「ッ……私が、ただのバイトだからですか?」

 

「違う」

 

「じゃあ、弱いからですか?」

 

「違う」

 

「子供だからーー」

 

「違う!」

 

「じゃあなんでですか!?」

 

「ッ……」

 

「私……これでもすごく感謝してるんですよ……」

 

 意思を曲げずに鏡は白の言葉を否定し続ける。

 

 声を荒げ、その後に言葉を失う鏡に白は心情を語りだす。

 

「ほんの……一ヶ月にも満たないような日々でも、私にとっては、かけがえのない日々だったんです。私は六華と水琴しか友達がいないし、両親との記憶なんて殆ど無いけど、二人がいるだけでも寂しくなかったし楽しかったけど……"家族"はいなかった」

 

 白の言葉が続くにつれ、鏡の脳裏にも共に過ごした日々と、自らが辿った筆舌に尽くしがたい過去が過っていく。

 

「勉強中にココアを置いてくれる優しさだったり、下らない鏡さんの冗談だったり、テケテケの時だって私を向かわせた自分を責めてたり。他人なのに、大事にしてくれてるって分かって」

 

 白の言葉は止まらず、どんどんと溢れ出していく。自分の喉に水分が足りなくなって声が掠れるのも構わず、拳を握りしめて言葉を紡ぐ。それを聞く三人の語り怪達の頬は赤くなっていく。

 

「ちょっと騒がしいクロエちゃんとのやり取りだったり、ツンケンしてても優しい花子さんだったり、最近は手鏡の向こうで鵺に勉強を教えたりするのも楽しいし、古崎さんみたいな友達もこれから増えるんだって、そう思って……」

 

 ポロッ……

 

「「「!!?」」」

 

 感極まってしまったか、白の両目から涙が溢れ出す。

 

 それを見た三人の赤く染まっていた頬は一瞬で青白くなり、驚愕の表情を浮かべる。

 

「幸福を知ってしまったから……大切を知ってしまったから……だから……だから……私もここを、皆を守りたいし……それに……もう、独りに……しないで……」

 

 ボロボロと溢れる涙を抑えきれずに声を上げて泣き始めてしまった白に、情けなくオロオロする三人。

 

 直後に事務所の扉が開き讃良と、もう二人の厄介な人物が現れる。

 

「やっほー!白ちゃ……ん?」

 

「なんじゃ、出直したほうが良いかの?」

 

「ご隠居!?と、あっ……」

 

「殺す」

 

「にゃっ!?所長しゃがむにゃ!」

 

 事務所の扉に立っていたもう二人とは白の親友達。先日のお礼の為か、菓子折りの紙袋を持っていた。しかし、六華は声を上げて泣く白を目にした瞬間、ノータイムで文字通りに"腰"から黄泉斬りを抜いて瞬時に距離を詰めて斬りかかる。

 

 僅かに早く、クロエが鏡の顔面を机に叩きつけ、斬撃から鏡を逸らす。

 

 ガッ!

 

 六華は刀を机に突き刺して溢れる殺気を隠さずに脅しをかける。

 

「白を泣かせた罪。百回死んでも足りないわよ」

 

「違う!いや違くは無いんだが、違う!」

 

「遺言はそれでいいのね」

 

「はっはっ。まぁ待ちなさい、六華さんや」

 

 讃良は六華を宥め、白にハンカチを差し出して笑い、水琴は普段少し見上げている白の頭をソファの後ろから撫でる。

 

「まずは白さんに話を聞くべきだと、儂は思うがの」

 

「そーだよ。白ちゃんが簡単に泣くわけないんだから」

 

「むぅ……ねぇ白、どうしちゃったの?アイツが原因なら斬るわよ?」

 

 黄泉斬りを納めて白の顔を自らの胸に埋め。背中を擦りながら優しく言葉をかける。泣いてしまって声にならないため、六華は優しく抱擁して待ち続ける。

 

 その間に讃良は固まってる鏡達に事情を聞く。

 

 簡潔に、白に必要以上の不安を抱かせてしまったことを話す。

 

「ふむ……そりゃお前さんが悪いわい」

 

「いやでもご隠居……アイツはついこの間まで普通に義務教育受けて生活してた学生ですよ。それに……居なくなるのは俺だって怖いんだ……」

 

「お前さんの過去はよう知っとる。得てから失う怖さもよう知っとる。だから、お前さんはそうならなければいい。儂ら語り怪に関わればその人間は怪談の1ページ。が、言い換えれば大事な存在、無くてはならない者となる。被害者だろうと、宿敵だろうと、それこそ家族だろうと。もう彼女は無関係ではいられないんじゃ」

 

「……」

 

「まぁ、お前さんも大人になった証拠じゃ。迷え若人。迷って答えを探して納得しろ。ある程度は儂も面倒を見てやろうて」

 

「はぁ……また今度、礼の品でも持っていきます」

 

「うむ。用事はまた今度でえぇ。そろそろ儂は行くぞ。厄介なのが来るようじゃからの」

 

 頭を乱暴に搔いて項垂れながら鏡は礼を伝え、讃良は近くにある祓い屋の気配を察して鏡に伝える。

 

「え、あぁ。そうだったな、そういえば」

 

 讃良は当然のごとく誰にも悟られた上で自然に退室し、クロエと花子は顔を見合わせて鏡の後ろで立ち尽くす。

 今の間に白は泣き止み、両サイドで慰める二人だが水琴は後ろから頭を撫で、恥ずかしいのか白は六華の胸に顔を埋めたまま耳まで赤くなっている。

 

(可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い)

 

「……探偵」

 

「?」

 

「チャラにしてあげる」 

 

「六華ちゃんらしい……」

 

 二人は事情を知り、六華は鏡への殺意を消して息を荒くしながら白を堪能……もといあやすことに集中し、鏡に向かって親指を突き立てる。

 

 それを横で水琴は呆れ笑う。

 

「……白」

 

「……なんですか」

 

「俺が悪かった。頭ごなしに否定しちまった……もう置いてかない。だから、あー……仲直りしよう」

 

「……」

 

「白?」

 

 白は立ち上がって鏡の隣に座り、赤く腫らした瞳で問いかける。

 

「ほんとう?」

 

「あぁ、本当だ。悪かった」

 

 ぽんぽんと頭を軽く叩き謝る鏡。それを正面から六華が睨みつけるが、白は気に止めずにそれを享受して鏡の懐に我が身を預ける。

 

「白?」

 

「もっと」

 

「…………」

 

 二分ほど白は鏡に甘えるが、その場の勢いが鎮まり流石に気恥ずかしくなった鏡が白を引き離すように促す。

 

「そろそろ離れてくれ。絵面がまずい」

 

「……じゃあまた後で。顔洗ってきます」

 

 一連の騒動が終わり、クロエはソファの淵で胸を撫で下ろし、花子もほっとしたのか溜め息をついてトイレへ戻る。そして、六華は殺意を滾らせる。

 

「いやほんと……すいません。許してください」

 

「……まぁ良くはないけどいいわ。白の可愛い姿を見れたし。ていうか、そういうことなら私にも手伝わせなさい」

 

「あ、私もー!」

 

「はぁ?本格的にお前等は関係ないだろ」

 

「あら、鬼丸国綱を捕まえたのは私よ?人間のコネだってあるし、私自身かなり強いと思うのだけど」

 

「私は特になんも出来ないけど、仲間ハズレはやだ!」

 

「それ言われるとなにも言えないんだが……」

 

「黄泉だってそういうことのために振るうべき刀よ。ていうかこのまま放置すると白がアンタに落ちそうでやだ」

 

「うん!私もそれやだ!」

 

「そっちが本音か。お前達言っても聞かなそうだし……まぁいいか。あんまり危ないことはさせられないからな」

 

「白と水琴の横にいれればそれで良いわ」

 

「二人が守ってくれるからだいじょーぶ!」

 

 二人の白と打って変わって真逆の豪胆、傲慢さに疲れた鏡はあっさり承諾する。そして、先程から放置されている海馬について気になった矢先、本日幾度目かの訪問者である虚無僧が現れる。

 

「いやはや。引き取りに来ましたヨ、ソレ。それト、私のところノがご迷惑をおかけしましタ。これ、お詫びでス」

 

「今日は菓子折りがよく集まる日だな。つか、思ってもねぇくせに」

 

「いやはや、そこは大人の礼儀。というやつですヨ」

 

「誰?」

 

「うわっ」

 

 戻ってきた白は虚無僧姿の祓師を見るなり顔を顰める。

 

 ピンときていない六華は疑問符を浮かべて虚無僧を見つめる、鏡は先日の契約のことから敵意を無くして話す。

 

「いやはや失礼ですネ、お嬢さん」

 

「良いんですか鏡さん。ぼんやりとしか覚えてないけどこの人祓い屋ですよね。しかも厄介な人」

 

「一応、一応な。コイツは今依頼人で、この間引き受けちまった」

 

「鏡さん(所長)がそう言うなら……お茶持ってきます」

 

「いやはや、お構いなク」

 

「あ、そうだ。六華、水琴、これ読んでおいて」

 

「なにこれ?」

 

「私がまとめた語り怪に関するノート。二人も協力するって聞こえたから、何も知らないよりはいいかと思って」

 

「ありがとう、助かるわ」

 

「ありがとう、じゃあ六華ちゃんよろしく!」

 

「はいはい」

 

 テケテケの件を朧気ながらに覚えてた白は渋々と納得し、客としてもてなす。鏡は事務机、白は依頼人の正面に座るいつものスタイルにプラスして白の横に六華と水琴が座ってノートを眺めながら話を聞く。

 

「えっと……お話しをお聞きします、虚無僧さん」

 

「?あぁ、いやはや、私としたことガ。私は九条月(くじょうつき)。悲しいことに、所長さんハ私の名前を呼んでくれなイので名乗るのヲ忘れていましタ」

 

 見た目で名前を呼ぶ白に名を名乗り、皮肉交じりに鏡の方をチラリと見て笑う。不機嫌そうに鏡は一拍置いて依頼を確認する。

 

「……依頼の確認を」

 

「いやはや、情緒のなイ。それでは改めて。私からの依頼は百怪談の玖番目、子取り箱の祓除、もしくは怪収でス」

 

「子取り箱って?」

 

「史上最悪の語り怪らしいよ。具体的な被害は知らないけど……」

 

「具体的と言われますトそうですネ……近い話ですト七十年前に村を一つ、総人口213人が一人残らず喰われていまス」

 

「にひゃっ……マジで……?」

 

 六華が言葉をつまらせたのに、追い打ちをかけるようにさらに情報を開示する。

 

「しかもこれは数ある大災害の中の一つでしかありませン。記録ヲ遡れバ、総死者数は一千万人と言ウ話さえありまス」

 

「ちょっと待って、そんな事件が何度も起きてるなら世紀の大事件でしょう?何で表沙汰になってないのよ」

 

「国ぐるみで隠蔽してるらしいよ。というか、それが今回の話の肝だと思う」

 

「そうだな。まず前提として、子取り箱は過去1度も祓われなかった。だが前代未聞の大災害を前に、祓い屋達は重い腰を上げ、ついに祓除に乗り出した。これが三十年前の出来事だ」

 

「いやはや、あの時ハかなり大変でしたねェ」

 

「でも……今、子取り箱の話が出るってことは……」

 

「そう、祓除は失敗した。日本は代償として領土内の三つの無人島と、4割強の祓師を失ったんだ」

 

「うっわ大敗。そんで、祓えなかったそいつって何処にいんの?」

 

「不明でス。しかシ奴にとって痛手なのハ事実、だったはずなんですがネ……」

 

「なんで言い淀むんです?」

 

「百怪談が何体か喰われた。奴の能力の一つに、喰った語り怪の力を扱えるってのが確認されてるんだが、それの拡張の為だろうな」

 

「確認されている限リ、二十四の"不死鳥"と九十一の"大蜈蚣"が捕食されていまス。どちらモ現在の祓師連でハ犠牲なしに祓えないと判断しテ監視に留めていたのですガ、監視役含めテ全員殺すカ喰われるカされてしまいましタ」

 

「さらにいうなら天狗の一部も喰われたらしい。被害が増えれば大天狗の大旦那も動くかもな」

 

「うわエグ、よっぽど恨みあるんだね」

 

「どうだろうな、奴にそんなものがあるかどうか……。姿形さえ不定形、凶悪で行動も一切読めない。決まっているのはいずれも子供の姿、それと能力の一端しか俺達は知らない」

 

 鏡は椅子に腰掛けたまま溜め息をつき、手慰みにペンを回す。三人の女子高生に話すには血生臭く、フィクションのような遠いような話。話が一段落すると、九条は天蓋をズラしてお茶を飲み干して立ち上がる。

 

「いやはや、恐ろしイ。それでは、新しい情報はありませんのデ、今日はお暇いたしましょウ。お嬢さん方モ、この話耳にした以上、逃げることなド無きよウ、お願い致しますネ」

 

 ガチャッ

 

 海馬を引きずって事務所の扉を開け、不穏な気配を天蓋越しにかもしながら三人に警告を残していった。

 

「なんか……怖い人だったね」 

 

「祓い屋の古参なんて大概あんなもんだ。さて……少し早いが今日はもう終いだ。お前等も帰れ」

 

「はーい」

 

「はいは……あれ、白は帰らないの?」

 

「あ、私ここに住んでるから」

 

「「……??」」

 

 白の不意の一言に二人の思考は固まり、ぽかんとしたあっけなく間抜け面になる。

 

「え、誰が?」

 

「私が」

 

「ここに?」

 

「うん。住み込みなの。学校もスーパーも大通りも近いし便利だよ。言ってなかったっけ?」

 

「あ~あ……」

 

 やっちまった。そう言いたげな鏡の表情が次の六華の行動とこの話の"オチ"を予想させる。

 

 ゴゴゴッ……

 

 捕食者が獲物を睨んだ時のように足が竦む。六華は事務所に入ってきた時と同様に腰から黄泉を抜き、鏡へ斬りかかる。

 

 その目は血涙を流しながら見開いていた。

 

「+#"-%¥##£×$÷^^'#:"!!!!」 

 

「ちょちょちょ六華ちゃん!待って待って!その刀はまずいって!?白ちゃん!一緒に止めてぇー!!?」

 

 結局、六華を止める為に白とクロエが協力して抑えて眠らせ、二人が納得するまでにあらゆる契約を結ばされた上で、事務所に住み込みで働くことを許可されたのだった。

 

 

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