九十九物語   作:レガシィ

6 / 12
特に書くことも無いので乞食しておきます。
感想や評価等、励みになりますので是非是非よろしくお願いします!


第三幕 勇む足なし警笛鳴らせ(後編)

【鏡送り】によって、姿見の中を通る白の身体はぐにゃりと曲がり、異界を通って飛ぶ奇妙な感覚、乗り物酔いのような感覚を無理矢理に抑え、鬼の力を準備する。

 

「古崎さーー」

 

 ガシャァンッ!! 

 

 飛んだ瞬間、白の軽い身体は鏡のデスクへと吹き飛ばれる。しかし、鬼の肉体を維持しているその身体には傷の一つもついていない。彼女は舞い上がった埃を払いながら部屋を見回す。

 

「遅いわよ」

 

 部屋の隅でガタガタと怯え、ボロボロの花子ともう一人、女子高生の霊に護られている古崎。三人の前には、上半身のみで直立し、本来あるはずの下半身は無く、へそがあるであろう部分からポタポタと血を垂らし続けながら、高らかな笑い声を上げているテケテケの姿。

 

『あ……し……ケヒっギャハハハ!!』

 

(痛……くはない。鬼化してて良かった。そうだよ、こっちから見えるんだから向こうから見えるに決まってるよ。……まぁでも、今はそれより)

 

 ケタケタと笑う語り怪を前に、白は一歩も引かずに堂々と構えてみせる。

 

(コイツをなんとかしないと)

 

 隠さない白(鬼)の怒気に、テケテケも異常を感じたのか笑うのを止め、ビリビリと肌がしびれる感覚を古崎達は感じる。

 

(やっぱり"鬼"……歴史通りの怪物ね。味方だと心強いわ)

 

(な、なななななんなのこの人……まさか白さん!? 急にこれ……本当に現実? 夢でも見てるの!?)

 

(…………)

 

(取り合えず皆無事。祓い屋ってのもいない。敵じゃないだろうし、この際あの霊のことは無視。それよりも今はコイツの方……時間いっぱい粘って、鏡さん達が来るのを待つ!)

 

 テケテケは出方を伺っているのかピクリとも動かずに白を見つめている。鏡の予想が外れたことはここにいる時点で確定しており、百怪談としてどこまでの強さがあるのか、白は知らない。

 

 だから、判断を誤った。

 

 バリンッ

 

「ーーッ!!?」

 

 突如、白の身体が窓から放り投げられる。二階から無防備に放り出されるも、白は受け身をとって着地し、テケテケへ向き直る。しかし、上半身のみの捉えにくい小さな身体と不可思議な挙動で路地裏へ走り出して視界から消える。

 

 そして覚える一つの違和感。

 

(誰もいない……? まだ遅い時間でもないのにこの感じ、口裂け女の時と……ッ!)

 

 バチンッ

 

 死角である背中に走る衝撃。テケテケのターゲットは完全に白へと移ったことを認識する。

 

「もう、考えることが多すぎるんだってば」

 

 白は力任せに腕を振るい、指向を絞らずにテケテケへ攻撃する。

 

 ヴォンッ!!! 

 

 怪力によって吹き荒れる旋風によって窓や車が吹き飛ぶも、テケテケはそれを回避して猛攻は止まない。

 

 バチンッ、バチンッ! ビキッ!! 

 

「ゔッ」

 

 あらゆる死角をついて続く攻撃、先程まで驚くだけだった白の肉体についに傷がつき、背中から血が流れ始め、左腕の骨にヒビが入る音がする。

 

(一撃ごとに逃げるから隙が無い! 道路の真ん中は不利すぎる、何か……!)

 

 白は狙われやすいように、自らの肉体の強度を耐えうる限界まで落とす。

 

 バチンッ!!! 

 

「ッッ!!!」

 

 背中に大きく傷ができ、演技でない白の苦痛の表情にテケテケは次の一撃で仕留められると確信したのか、狙い通りに挙動が単調になる。

 

(ここしかない……!)

 

 白は自らが吹き飛ばした車の中へと窓を割って侵入し、肩で息をしながら中でテケテケを待ち構える。その中で飛びそうな意識を繋ぎながら語る。 

 

「猛る……怪力、赤き角、それ即ち鬼たる証……岩を砕きて敵を討つ……!」

 

(イメージしろ!! "鬼"の怪力を!)

 

 テケテケは白の策略通り。彼女を襲うために割った窓から車に入り込む。

 

『ケッヒャァァアア……アァ!?』

 

「離さない……!!」

 

 ただならぬ白の覚悟を察知したテケテケは飛び退こうとする。しかし、それを折れかけの左腕で掴んで白は逃さない。

 

「……地獄に還れ」

 

鬼撃(きげき)

 

 ヒュッーーバゴォォンッッ!!! 

 

 折れた左腕で掴み、姿勢からして力の入らない女子高生の拳。しかし語って強化した鬼の一撃。腕を前に突き出すという、その単純な動作の一撃でテケテケの左半身を吹き飛ばし、一時的に戦闘不能へ追い込んだ。

 

『ケヒ……シガァ……ゲボ……』

 

 語りで一時的に身体に順応しきれない一撃を出したことで、小さな傷口が一気に開き出た右腕の出血を抑えて庇いながら、屋根が吹き飛んだ車の中から白は溜息をついてフラフラと出てくる。

 

「もう立たないでよ……ホントに……」

 

『ケ、ケヒッヒヒガビャァッッ!!!』

 

 しかし、白の懇願虚しくテケテケは片腕だけで立ち上がり、彼女へ向かっていく。しかし、白は焦っていなかった。もっと大きな獣の気配を背後から感じたから。

 

 ビタァンッ!! 

 

 白の背後から突然現れた巨大な猫の手によってテケテケは地面へと叩きつけられる。

 

「手を出すな。三下」

 

 不完全な鬼の語り怪である白以上に、漏れ出る完全な語り怪の怒気と妖気。テケテケの抗う気は完全に失せ、その場にべたりと倒れ伏す。

 

 そこに息を切らした鏡が合流する。

 

「はぁっ、白! 無事か!?」

 

 白は座り込み、ひらひらと力なく左手を振り無事を知らせる。そして指をさしてテケテケを怪収するように促し、鏡は姿見を準備する。

 

 無事を確認した鏡は冷静に努め、テケテケのみを鏡に映し出す。

 

「百怪談が四十九番目(しじゅうくばんめ)。"鏡"の語り、"吸い込まれる鏡"の怪。彼の世と此の世を繋ぐ扉。定員一名、ご案内」

 

【怪収】

 

 ギュルルルルッッッ……シュポンッ

 

 鏡に映る姿。途端に虚構の現実は崩れ、実物に向かって無数の黒い腕が伸び、抵抗しないテケテケは文字通りに鏡の中へと吸い込まれた。

 

 しかし、早々と怪収したテケテケを気に留めることもなく先に白に駆け寄り、膝を着いて肩を貸す。

 

「もう一度聞くが無事か? 怪我は右腕と背中か?」

 

「はい。後は疲れただけです。でも、ちょっと身体が動かなくて」

 

「無理に立つな、運んでやる。傷は全部浅いし鬼の力だ。物理的な怪我だし、明日には治る……依頼人達は?」

 

「ちょっと怪我はしてるかもだけど無事……あ、降りてきたよ」

 

「つ、つつ、白さんっち、血が……!?」

 

「掠り傷です。気にしないでください。それより、花子さんと……そちらの霊は?」

 

「は、花子さんは、私を庇ってくれて。この幽霊は、や、山根さんで……わ、わ私を護ってくれて!」

 

 花子さんは事務所で休んでいるらしく降りてこない。山根の幽霊も、目に見えるほど弱っている。

 

「なるほど……おい、山根とやら。もうその身体も保つの厳しいんだろ。何か言わなくていいのか。そのままだと未練が残るぞ」

 

『……無事なら良いのよ。古崎さん、元気でね』

 

「……ま、待って! な、なんで、その……私なんかを助けてくれたの……?」

 

 消えようとする山根の手を、勇気を振り絞って飛び出して握り締めて引き止める。そして、彼女に涙を流しながら問いかける。

 

「わ、私なんて、クラスの日陰者で、誰も気にしない空気みたいな人間で……貴方みたいな明るくて、友達が沢山いる人と関わることもないような、そんな底辺な人間なのに……なんで、死んだ後もそんなになってまで助けてくれたの……?」

 

『……私が轢かれた時に、貴方が真っ先に私を助けようとしてくれた。それこそ、本当に関係なんて薄いのに、泣きながら。そうね、その時かしら。貴方と、友達になりたいって思ったの。死んだのに、呑気なものよね』

 

 友達になりたいという、無邪気な望み。消えようとする彼女の前で拳を握りしめ、涙を零しながら、古崎はなけなしの勇気をもう一度振り絞り、大きな声で望む。

 

「だったら!! 今! 友達になってください! 山根音葉さん! まだ、お礼もちゃんと言えてないんです! だからまだ……逝かないで……!!」

 

 フワリと、浮かぶ身体と透ける手足で山根は古崎を柔らかく抱きしめる。

 

『良いのかしら……? 探偵さん、死に逝く人間と、未来を生きる人間が友達なんて……』

 

「さぁな。ただ疑問なのは……友達ってのは、そんなに複雑な関係なのか?」

 

『……古崎さん、私からも……お願いして、いいかしら……?』

 

 鏡の短く簡潔な言葉を汲み取り、古崎の言葉に強く頷き、彼女も同じ言葉を紡ぐ。

 

『友達に……なってください"……!』

 

「っ、はい"!!」

 

 ぐしゃぐしゃに涙で顔を歪め、目を擦りながら古崎は強く肯定する。しかし、時は無慈悲で優しく、待ってはくれない。それを二人は悟ってた。

 

『ありがとう。最期に、友達になってくれて……。ねぇ、唯子、約束して?』

 

「ゔん……!」

 

 留めるのは無理なお願いだと分かっているのか、彼女は約束の言葉を聞き逃さないように耳を静かに傾ける。

 

『私以外にも沢山、沢山の友達を作って、その人生を楽しんで。それで……い"っぱい思い出を作っで……将来、私に聞かせてね……ずっと、ずっと先で待ってるから……!』

 

 指切りをして、二人の少女は泣きながら約束を交わす。やがてすすり泣く声は静寂へと変わりいく。

 

「……霊との約束は、時に強い呪縛になる。気をつけろよ」

 

「……はい"っあのっ……わ"たしっ」

 

「分かってる。もうテケテケはいない。報酬は後日でいい、早く行ってやれ」

 

「ッありがとうございます!」

 

 古崎は走っていく。彼女が最期にいた場所へと。

 

「……良かったんですか?」

 

「まぁ、遅い時間でもないしお前の残り香がべったりだ。雑魚も寄り付かない」

 

「そう、ですか……あ、それと街が……」

 

 事が終わり、疲労感の次に押し寄せる脱力感が白を襲いながら、自らが起こした街への被害を気にして周りを見渡す。しかし、先程とは違う違和感が段々と強くなっていく。

 

「気にするな。どうせ現実じゃない」

 

「?」

 

 パチパチパチ……

 

 拍手の音が聞こえ、鏡達の前に天蓋を被った何者かが現れる。

 

「いやはや、美しい友情ですネ。怪物と人間ノ」

 

「チッ……よりによってテメェかよ」

 

「いやはや、私達"祓師"も例年に増して人手不足でしてネ。そんなことよリ、ソレは私の獲物なのですがネ。横取りは感心しませんヨ」

 

「黙ってろエセ虚無僧。こっちはテメェ等のせいで余計な被害が出てんだよ」

 

「いやはや、誰のおかげでその怪物の被害が現に出なかったとお思いデ? 私の【箱庭(箱庭)】が無ければ、今頃大事だったでしょうニ」

 

「言葉に気を付けるんだな、次は容赦しない」

 

 鏡は殺気と共に青筋を浮かべて虚無僧を睨みつける。クロエも同様に巨大化は解かず、威圧し続ける。

 

「いやはや、怖い怖イ。私は彼女を招いていませン、それが怪物の証拠でス。ですがまぁ、あそこまで成長したテケテケは部下の手には余る代物でしたから、結界オーライ。地縛霊ガ自らの領域外で戦ったのモ幸運でしたネ。もし踏切なラ勝ち目ハ薄かったでしょウ」

 

「ペラペラうるせぇぞ」

 

「まァ、どうせならそこの怪物も祓いたかったのです、ガァ!?」

 

 ボゥンッ!! 

 

 煽るようなスタンスを崩さず、言葉を変えなかった虚無僧に対し、クロエは尾だけをさらに巨大化して振り払って弾き飛ばす。

 

 虚無僧の男は驚いた声をあげるが、本体ではなかったのかその姿は煙に紛れて再び同じ場所に現れる。しかし、それを見抜いていたクロエが虚無僧の首に無数の針の幻影を見せる。

 

「いやはや、流石は"化け"の大頭目。私程度では遊び相手にもなれませんナ……今回は引きましょウ。あぁ、さっきの少女はお気になさらズ、ちゃんと出れましたのデ」

 

 ピーーッ

 

 尺八を吹き、煙がもうもうと立ち込め、気が付くと彼は消えている。そして、人々の喧騒も段々と聞こえ始めたころ、鏡は白を背負い、クロエは小さな猫に化ける。

 

「……今のが祓い屋、ですか……?」

 

「特に厄介な奴だ。詳しい話はまた今度な。取り合えずもう休め、片付けは明日やる」

 

「なら……お言葉に……甘えて……」

 

 白は穏やかに寝息を立てて眠り始め、事務所の有り様をみた鏡は大きく溜息をつく。

 

「山童でも呼ぶかな……寝室が無事なのが救いか」

 

 ーーー

 

 翌日

 

 例に漏れず、多少の筋肉痛と腕の怪我を抱えながら白は学校に行き、いつも通りの日常を過ごす。雲井に一応の報告で無事であることを伝えつつ、放課後のテスト勉強会を進める。

 

(あの後、古崎さんはどうしたかな。あれは呪いになるのか、それとも……ただの二人の友情譚になるのか)

 

「「白(ちゃ~ん)?」」

 

 深く思考し、昨日のことを考えていた白は、呼びかける二人の声ではっとして意識が戻る。

 

「あ、ごめん、少しボーっとしてた。なんだったっけ?」

 

「バイト、頑張るのは良いけど程々にしなさいよ? 私も美琴も心配なんだから」

 

「あのおじさん意外と優しいっぽいし、言ったら多分休ませてくれるよ」

 

「うん、ありがと。でも、疲れるのは偶にだし、他は家事だから大したことはないよ。それに、自分の為でもあるから」

 

「そう? なら良いんだけど……」

 

「……二人はさ」

 

「「?」」

 

「私の、親友?」

 

「「当たり前じゃん(でしょ)」」

 

「そっか。うん、ありがと」

 

「??」

 

「白、ちょっと本気で疲れてない? 明日はもうテストなんだし、今日はもう帰って休みなさいよ。美琴もこの調子なら大丈夫だし」

 

「そっそー、白ちゃんには元気でいてもらわないとねー!」

 

「なら……甘えちゃおうかな。ありがと二人共」

 

 疲労感もあり、少し落ち込んでいた白を二人は先に帰るように促し、いつもより早めに事務所へと帰る。

 

「ただいま、鏡さん」

 

「おかえりにゃーん……」

 

「あら、事務所の掃除終わったんですね」

 

「まぁ、意外と大したことなかったわ。窓も明日には直せるって山童が言ってたしな」

 

「山童?」

 

「まぁ、語り怪の大工だな。酒と肴用意すればある程度やってくれる。安く済むから割と重宝してる」

 

 大きな木の板をガムテープで貼り付け、隙間を新聞紙で埋めている不格好な窓を叩きながら簡潔に説明する。

 

 説明の後に白は寝室で着替え、制服をハンガーにかけてソファに座る。

 

「そういえば鏡さん。昨日の私の仮説は当たってたんですか?」

 

「流石というか、鋭いなお前」

 

「まぁ……依頼がなければ調べるだろうと思って」

 

「そうだな、答え合わせと、少し勉強するか」

 

 鏡は自分用の珈琲と白へココアを出して向かい側に座り、話し始める。

 

「まず、今からの話しに正否は無い。結果お前は一人の人間を救って百怪談を一幕怪収した。着地は完璧だったんだ。気に病むな」

 

「はい……そこは一応理解しているつもりです」

 

「ならよし。今回の件、端的にいうならほぼ白の予想通りだ。テケテケはニ週間前の事件よりさらに前、一ヶ月半前からいたっぽい。死者は今回の件が初めてだが、足音だったり姿を見せたりでジワジワと噂はローカルに広がってたみたいだな」

 

「それに、祓い屋が気付いて隠蔽したってことですね」

 

「そういうこと。多分、主に俺の耳に入らないようにだろうな。産まれた場所も近かったし、早期に怪収されるのが気に食わないんだろ、食い扶持も減るし」

 

 二人は飲み物を一口飲んで話を続ける。

 

「唯一、白が間違ってたのは語り怪の知性への理解だ」

 

「知性……?」 

 

「これに関しては俺の説明不足だ、悪い。まぁ、良い機会だ。ちゃんと百怪談について説明する」

 

 白は専用のノートに書き写す準備をする。

 

「語り怪には、大きく分けて三つのタイプがある。一つは口裂け女やテケテケみたいな都市伝説が有名になったタイプ。こいつ等は生まれた場所の地域差はあれど、個で産まれて成長する」

 

「成長っていうのは、単純な力や能力の幅のことですよね」

 

「そう。被害が出れば活動範囲が広がる。話に尾ヒレがつき、それに引っ張られるように能力も増える。そして、語り怪達は知能が無いわけじゃない。語りによっては現代の人間を容易に超えるし、テケテケや口裂け女でも、生れたてだから言葉が少なく本能に引っ張られているだけで平均的な知能はあるはずだ」 

 

「じゃあ、時間が経つ程、知能は理性に勝るっ……てこと?」

 

「そういうこと。結果的に人間との交渉や、人間に紛れての活動が可能なほどになる例もある。花子さんや俺みたいにな。それが怪収を続ける理由の一つでもある」

 

 鏡はクロエを呼び寄せて説明を続ける。

 

「二つ目は、同じ系統だが一体の頭を元に百怪談になるタイプ。これはクロエがそれに当たる。妖狐、化け狸、それら何かを"化かす"語り怪。それの代表が百怪談に名を連ねたようにな」

 

「それって……もしかしてクロエちゃんってかなり凄いんじゃないの? 正直、もっと九尾の狐とかの方がイメージが強いんだけど」

 

「玉藻前は伝説通り殺生石になっているから動かない。まさしく、触らぬ神に祟り無しって奴だな」

 

「文字通りちゃーんと石にして勝ったにゃん。大昔の化かしあいで私が勝って以降は、ずっと百怪談の二十五番目は私にゃん」

 

「気になるだろうが、俺との馴れ初めはそのうちな。で、三つ目は俺だ。道具や現象、観測不可能な語り怪の百怪談。そのまま道具が力を持つこともあれば、人の形を成すものもある」

 

「でも鏡さんは元々は人間なんですよね」

 

「俺は中でもかなり特殊なケースだ。先代、鏡の語り怪だった人間から継承した」

 

「継承……そんなことできるんですね」

 

「まぁな。そんで、これは百怪談じゃないから、なんなら覚えなくても良いが一応。土地神や理外の怪物……要するに語り怪でないながらも、それに分類するしかない完全な"外側"の奴らだ」

 

「初めの時に言ってた野良神とは違うんですか?」

 

「神の力の根源は信仰と神話だ。都市伝説やクリーピーパスタなんかとは訳が違う。語り継がれる"事実"により生ずる者達。俺も一度だけあったことがあるが……二度と会いたくねぇな」

 

 笑いながらも、当時の事を思い出したか鏡の顔は引きつっている。

 

「基本、現に干渉しないから放っていい。で、簡単に分けると、都市伝説型、物怪型、呪、神物型、本物の神。こんなところだ。これが俺の知る百怪談の全て」

 

「百の怪談っていうのは伊達じゃないんですね……一応聞くんですけど、私は百怪談に入ってます?」

 

「微妙なんだよなぁ。鬼は種類が多いし番号も決まってるんだが今は空席だ。ま、そこも調査していく。他は?」

 

「番号に関しては、誰かが決めるの?」

 

「いやこう、なんていうか頭に浮かんでくる。基本ないが、入れ替わることもあるし、詳しいことは分からん」

 

「う~ん……やっぱり、不確定なことが多いんですね。分からないことばかり」

 

「研究者もいるくらいだからな。俺もその端くれだが、本職には遠く及ばない」

 

(祓い屋に関しては別にいいかな……敵対してるってことだけ分かれば充分だし)

 

 白のノートの1ページが鏡の説明と彼女の考察で埋まる頃、インターホンが鳴る。

 

 白が出迎える、そこにいたのは古崎だった。彼女は最初よりは落ち着いていながらもおどおどとした自身のなさそうな挙動は変わらない。

 

「あ、昨日ぶりです古崎さん。すいません、あの後放っちゃって……」

 

「そ、そんな、貴方は命の恩人です! 頭なんて下げないでください!」

 

「でも……」

 

「おい白ー。取り合えず中通せー」

 

 事務室から呼びかける鏡の声に返事をし、古崎を案内して座らせ、客人用のお茶を出す。昨日とは少し違い、暗い雰囲気はあるものの憑き物が落ちた晴れやかな顔をしていた。

 

「あの……昨日は本当にありがとうございました。 山根さんと友達になれたのも、あの怪異から逃れられたのも皆さんのお陰です。本当にありがとうございました。それで、これ、報酬です。足りますか……?」

 

 感謝の言葉と共に古崎は封筒に入った札束を差し出す。

 

 特にお嬢様という雰囲気もない彼女の報酬は、明らかに無理をして出しているものと鏡には分かっている。

 

 パサッ

 

「ほい、返す」

 

 鏡は封筒の中から札束を取り出して半分にして戻し、古崎の手元へ投げ返す。

 

「へ? な、なんでですか?」

 

「なんでって、依頼は半分失敗だからな。なぁ? 白、クロエ」

 

「……そうですね、流石に色々と費用はあったので半額が妥当かと」

 

「それでも多いんじゃにゃーい?」

 

「だ、だから、なんでですか……!?」

 

「俺は最初に言ったんだよなぁ。無傷で解決してやるって。危険な目に合わせたのは事実で怪我もある。説明も不足してたし、こっちの落ち度が大きかった。俺は正当な報酬しか貰わない主義なもんでね」

 

「で、でも、い、良いんですか? 失礼かもですけど、その窓とか見てるとお金が……」

 

 ボロボロに補強された窓を指摘され、一同は黙ってしまう。そのタイミングで、花子が壁を抜けて現れる。

 

 弱っているものの、気丈な性格の彼女はいつもの態度を崩さない。

 

「野暮ね、全く」 

 

「あ、花子さん。おはようございます」

 

「えぇ、今日は眠るつもりだったけれど、野暮ったくて聞いてられないわ」

 

「あ、えと、花子さんも、昨日はありがとうございます」

 

「お礼を言えるのは良いことよ。だけど貴方、相手の気遣いを無駄にする言動は関心しないわ。子供なのだから大人の厚意には素直に甘えていればいいのよ。これだから最近の若者は……」

 

 各々口に出さないものの、年寄りのような表現と台詞を吐く花子に呆気に取られていると、古崎の額を軽く小突き、彼女は返事を迫る。

 

「ほら。こういう時、貴方はなんて言うの?」

 

「えと、あ、ありがとうございます!」

 

「おう。じゃ、依頼は完了、元気でな。また何かーー」

 

「み、皆さん!!」

 

 少し不満気でありながら、鏡達の優しさに甘えるように感謝を伝える古崎。終わりの雰囲気になる頃、彼女なりに勇気を振り絞って出し慣れていない声を出し、感謝とは別に想いを伝える。

 

「あ、あぁ、あの……依頼じゃないんですけど、お願いがあって、私と、と、とととっ、友達に……なってくださいませんか……!?」

 

「……は? 白はともかく、俺達とか? 大人と猫とババァだぞ??」

 

「祟り殺すわよクソガキ」

 

「音羽との約束は、皆さんがいなければ、言葉にすらなりませんでした。この縁は大切にしたいんです、だから、お願いします!」

 

 深々と頭を下げる古崎に、呆気にとられる語り怪の三者。白は立ち上がって古崎の隣に座り、優しく微笑む。「古崎さん。私も、ちょっと学校で同じことを考えてたの。だから、私からもお願いしていいかな? 貴方達の約束、是非手伝わせて」

 

「私も友達が増えるのは歓迎にゃ~ん。猫はさびしんぼにゃんだから」

 

「白さん、クロエさん……!」

 

「そこまで言われたら断る理由もないが……」

 

「不思議な娘ねぇ。語り怪と友達だなんて、面白いじゃない」

 

「探偵さん、花子さん……よろしくお願いします!」

 

 この時代には珍しく、友だちになって欲しいという彼女の純粋で不器用な願い。不思議で、偶然が重なり繋がった縁。

 

 これから彼女は、約束の為に勇気を振り絞る瞬間が多々訪れるだろう。心配はない、進むための足は、彼女にしっかりとついているのだから。




特異具リスト
神具、魔具、呪具、宝具、法具。それら全ての特殊な力が宿る道具の総称である。
No.66
種別 法具
【箱庭】
開発者 アポス=テリオール。
形状 5×5の立方体
特性
現実世界に仮想現実を重ねる法具。現世に影響を及ばせずに語り怪や霊を祓うのにもちいられる。
大くの語り怪に見られる"特異間"を再現したもので、効果もそれとほぼ同等のもの。素人にも扱えるため管理には注意が敷かれる。

追記 天蓋を被った大男になってましたが、現時点でそれは分からないことになってます。なので、"何者か"に変更されてます。体格が大きいのは事実です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。