九十九物語   作:レガシィ

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まず初めに、ものすごく期間が空いてしまったことをお詫びいたします。
理由としては二つ。
一つは事故で一ヶ月半ほど利き腕が使えなくなっておりまして、仕事やプライベートに影響がでてしまったため。
もうひとつは純粋なやる気の問題です。
数少ないながらも閲覧してくださった方、お気にいり登録して下さった方への感謝と、申し訳なさを抱えつつ、こへからも投稿してまいります。よろしくお願いします!


第五幕  夜見の元にて鍔迫り合う(前編)

 先日の依頼で白の財布は大分潤った。いや、大分どころではない。天狗の金払いが良いという話は聞いていたが、白の想像の桁が違った。人間社会の霊感商法が高額というのは知識に存在するが、語り怪にも同じ事が言えるようだった。

 

 事務所の机に鏡がぽんと置いたしっかりと重みを感じる札束が何かと白が問うと一言。

 

「お前の手取り」

 

「う、受け取れません……」

 

 これでも"前払い"というのだから一体どれだけの額を天狗から払われたのだろう。そんなことを考え、管理できないや金銭感覚が狂いそう等と交渉した結果、将来の貯金と言うことで納得し、鏡の持つ口座の一つに八割方いれられることになった。

 

「素直にもらえばいいのに」

 

「いえ…充分すぎますから」

 

 すっかり厚くなった財布を見ながら、恐る恐るバッグにしまう。翌日の準備は済ませてあり、何かの護身用に鏡お手製の"祓"と"護"の札を何枚か今回の為に買った旅行用のバッグに忍ばせる。

 

 早朝、ダボダボのジャージで欠伸をかきながら鏡と肩に乗ったクロエ、後ろに佇む花子が見送る。入口の白もそれに気づいて振り返る。

 

「おはようございます、鏡さん。ご飯は冷蔵庫にあるのでチンしてください。部屋の掃除や洗濯もーー」

 

「大丈夫だっての、それくらい俺でも出来る。お前は気にせず遊んでこい」

 

「そうよ。行ってらっしゃいな、子どもらしく」

 

「そうにゃん。気にしなくて良いにゃん」

 

「そうですか?じゃあ……行ってきます」

 

 バタンと、ドアが閉まる。見届けた後、三者はそれぞれ行動に移る。花子は噂を集めるためにトイレに戻り、クロエと鏡はソファで二度目の眠りに入った。

 

 ーーー

 

「おはよう。六華、水琴」

 

「おはよー!!」

 

「おはよう……」

 

 朝が弱い六華は目をこすりながら、逆に朝に強い水琴は元気に手を振って挨拶を返す。

 

「電車で3時間、バスで3時間半の合計6時間半……長旅ね……」

 

「だから朝早くに集合したんじゃん!ほら、乗るよ!」

 

「走ると危ないよ、ちょっと水琴〜」 

 

 ポヤポヤとした六華と落ち着きつつ内心浮かれている白、その浮かれっぷりを表に出してはしゃぐ水琴。花の女子高生らしく夏を楽しもうとする三人は、パンフレットやチラシ、WEBサイトでどこを観光しようかと話しながら電車に揺られバスに揺られて到着すし、バスの運転手がマイクを通して告げる

 

「間もなくぅ、終点〜、八津ヶ谷村前〜。八津ヶ谷村前〜。ご乗車ぁ、ありがとうございました〜」

 

 二人が両隣で眠り始めてから、眼鏡をかけて本を読んでいた白はアナウンスに気付いて本と眼鏡をしまい、二人を揺すって起こす。

 

「二人とも、もう着くみたいだよ。起きて」

 

「んぇ……着くの?」

 

「本当!?めっっちゃ遠かった!」

 

 三人はバスから降り、思い切り背筋を伸ばす。最初に口を開いたのは水琴。開口一番に大声で叫ぶ。

 

「着いたー!!っはっはっは!超〜田舎!!」

 

「こらこら、自然豊かとか長閑って言いなさい」

 

 六華が困り顔で水琴の頭に手刀で言葉を矯正する。

 

 横でいつものやりとりを見ながら白は深呼吸する。

 

(……おばあちゃんの旅館と似てて、落ち着く……)

 

 川のせせらぎ、虫の鳴き声、都会には存在しない目に良い青々とした大自然。

 

 三人で村の長閑さを実感しつつ旅館へ向かって歩き出そうとすると、村人であろうおばあさんから話しかけられる。

 

「あらまぁ、お嬢ちゃん達元気だごと。都会の子がい?」

 

「こんにちは。すいません、騒がしくしてしまって」

 

「こりゃ皆、別嬪さんだこど。良いの良いの野菜と山くらいしかねえ村やけど。ゆっくりしてっての」

 

「ありがとおばあちゃん!飴あげる!」

 

「普通逆じゃない……?いや強請るわけじゃないけど」

 

 田舎に若い三人が来るだけでも珍しいというのに、都会の学校では噂に、街ではすぐに声をかけられるほど顔の整っている三人。行く先々で同じような言葉をかけられ続ける。

 

「白ちゃ~ん……旅館まだぁ?みことちゃん疲れた〜……」

 

「もう少しだと思うんだけど……」

 

「あんなにはしゃぐからよ全く……あ、あれじゃない?」

 

 切り立った崖に支柱が何本か立ち、正午のこともあって熱気で揺らぐように映る旅館。一見、大きな民家にも見えるが"空夜荘"と書かれた大きな看板を目にして、チケットの名前と照らし合わせて確認し、着いたことに安堵する。

 

「着いたー……」

 

「早くチェックインして休みましょ。流石に暑いわ」

 

 旅館の扉を開けると旅館特有の木造の香り。大きな造花が中央正面に飾られ、刀や骨董品が並ぶ棚や和風な待ち椅子等が設置されている。目新しい光景にキョロキョロと目を配っている三人に、受付にいる和服姿の女性がちらりと三人を見やる。

 

「ほら水琴、受付行ってきて」

 

「はいはーい」

 

 小走りで水琴が受付に向かい、その間二人は荷物を運びながら、空いた時間でなんとなく周りを眺めてみる。

 

 古風な茶屋風の蛇の目傘に、備え付けてある団扇でパタパタと扇いで涼を取る。

 

 家柄からか、和を感じさせる立ち振舞いと生来の大和撫子を思う顔つき。思わず見惚れてしまい、正直者な白は口を開く。

 

「こうしてみると六華って……なんかこう、"和"って感じがするね?」

 

「ふふ、ありがと……でも、私は白の方が綺麗だと思うわ」

 

 顔を近づけてさらりと優しく長髪を撫で、薄く微笑む。僅かに汗ばんだ肌と妖艶なまでの微笑。並大抵の男女なら思考の間を置かずにころりと落ちそうなシチュエーションだがそうはならず、白は冗談交じりに微笑み返す。

 

「あはは、ありがと」

 

「……はぁ。駄目かぁ……」

 

「なにが?」

 

「いえ、こっちの話」

 

 六華は溜め息をついて近づけた顔を離す。チェックインを終え、鍵をチャリチャリと鳴らしながら水琴が駆け寄ってくる。

 

「三階だって!……また失敗したの?」

 

「うっさい。ほら、行くわよ」

 

 六華は鍵をひったくってスタスタと階段のほうに歩いていく。謝りながら小走りに追いかける水琴と、疑問符を浮かべながら二人の後を追う白。

 

「部屋広い!凄くない!?ほら、この謎のスペースも広い!」

 

 水琴は掛け軸がかかっている隣の小さなスペースに身体をすっぽりと収めたり、押入れや備え付けの浴槽を探検してはしゃぎ回る。

 

「流石に元気すぎるわよ」

 

「結構な間会えなかったからね、私だって楽しいもん」

 

「ねぇ~、今日どうする?まだ一時だよ?お祭り明日だし、村歩く?」

 

「私ちょっと行きたいところあるのよね。二人は来る?」

 

「暇だし、六華が良ければ行こうかな」

 

「私も〜」

 

 荷物を整え、軽装で旅館を出る。五分ほど歩いたところで古い木造建築の建物が見え、入口で三人はチケットを買うと、恒例のように話しかけられる。

 

「あれま、珍しいごど。とがいの嬢ちゃんだぢだがした」

 

「ん……?あ、そうですそうです。三人で旅行中でして」

 

「こんなとこじゃのうて、もっと行くとこあるやろ?」

 

「えっと、友達が懸賞で旅館のチケットを当てたので、折角ならと避暑に来てみたんです」

 

「懸賞〜?ほんなのあっだっけが?」

 

「多分…?」

 

 田舎特有の訛りで聞き取るのが難しいながらに受付のおじいさんと会話をして三人は中へ入る。

 

「行きたいところって資料館だったの?」

 

「六華ちゃん、歴女ってやつ?」

 

「まぁね。見てみると結構楽しいわよ。昔から旅行とか遠出した時には結構行くの」

 

 三人は別れて歴史的な資料や錆び付いた骨董品などを見学して回る。その中で、ふと目に付く刀が一本。

 

「あら、この刀……ちゃんと手入れされてるわ」

 

「おや、珍しいお客さんですね」

 

「……どちら様かしら」

 

「あ、すいません。私、ここの館長でして。受付の爺さんいたでしょう?あの人の息子です。どうぞ」

 

 名刺を渡してくるスーツと片眼鏡の若い男性。口調も訛っておらず、多少の警戒をしたが、館長という自己紹介で警戒を緩める。

 

「ごめんなさい、村はご老人ばかりだったから」

 

「ははは。過疎化の進んでいる村ですから。最近はおん……」

 

「おん?」

 

「いえ、なんでもございません。それより、その刀。良ければ解説などいたしましょうか?実はそちら、私の家の私物でして」

 

「折角だし、お願いしようかしら」

 

「はい。それでは」

 

 こほんと咳払いをして館長は語りだす。

 

「そちらの刀の名前は無銘、幕恋(まくれん)。反りが深く、小乱れの刃紋と長い切っ先が特徴の太刀であり、一説によると鬼丸国綱と同じ刀匠、栗田口国綱が鍛えたとされています」

 

「鬼丸……あぁ、ここの出身だものね」

 

「はい。名の由来は、その昔に許されない恋をしてしまった役人が、この刀で追手を屠り続ける逃走劇の末、二人で心中したのだとか」

 

「"恋"の話の"幕"を引いたってことね、ロマンチック。と同時に、作り話ね」

 

「えぇ。恐らくはそうでしょう。ですが、何度か手入れしたところ業物に違いはないかと」

 

「それはいいのだけど、その時代に無銘ならいくらでもあったでしょうに。何故これだけ手入れされて飾られてるの?」

 

「一つは私の趣味ですが……一番の理由は言い伝えですね。村に厄が迫る時、遠方より来たる巫女がその刀を使い邪の者を断ち切るだとか」

 

「失礼かもだけど……安っぽいわね」

 

「ははは、私もそう思います。ま、本当に救ってくれるのなら、低迷している今現在を助けて欲しいものです。この村も、老人の方々がもっと柔軟になって麓の街と合併なり開発なりしてしまえば楽になるものを……」

 

 深い溜め息をつき、失礼しましたと館長は一言謝罪して続ける。

 

「ところで……お客様、随分と刀にお詳しそうで」

 

「えぇ、家柄と、趣味ね。集めたりはしてないけど」

 

「さようでしたか、でしたら明日の夜は面白いものが見られるかと」

 

「ふぅん。楽しみにしておくわ。ありがとう」

 

「いえ。それでは、ごゆっくり」

 

 カツカツと革靴の音を鳴らしながら館長は去っていく。同時に二人が合流し、それなりの時間が経っていたことに気付く。

 

「ねー、お腹空いたー。お昼食べようよ」

 

「あら、もうそんな時間?」

 

 時計は一時半を指しており、ランチタイムには丁度いい時間になっていた。

 

「さっき、あっちにいたおばあちゃんがここ美味しいって言ってたよ」

 

 白が村の地図と思しきパンフレットを広げて指を差す。

 

「それじゃあ、そこに行きましょうか。水琴もそれでいい?」

 

「良いよ〜。ていうか地図って、もしかしてこの村スマホないの……?」

 

「流石にあるんじゃないかしら、医者とかは街から出張で来てるみたいだけど」

 

 現代から離れた田舎であることを小さなことで痛感しながら三人はぼちぼちとお店に行き、田舎特有のご飯と値段に驚きつつ舌鼓を打った後、食後のドリンクを楽しむ。

 

「ん〜!美味しかった〜」

 

 白と水琴はぶどうジュースとコーラを、六華はコーヒーを飲みながら三者は笑顔を見せる。

 

「さて……この後どうしましょうか。観光スポットとかあるのかしら」

 

「そういう時は現地の人に聞くのがいっちばーん。店員さーん!」

 

「はい、どうされました?」

 

「この辺ってなんか見所あるー?パワースポットとかそういうの」

 

「でしたら……そうですね、黄泉(よもつ)神社でしょうか」

 

「なにか御利益とかあったりするんですか?」

 

「古くから家内安泰とか、祈願成就とかですかね〜」

 

「行ってみよっか。他に行くアテもないし」

 

「そうね、お会計お願いします」

 

「はい」

 

 会計を済ませ、紹介してもらった神社へと一行は足を運ぶ。道中パシャパシャと写真を撮って小さな子どものようにはしゃぐ。なぜこうも毎日、それも夏なのに同じテンションでいられるのかと不思議に思いながら二人は後を追う。

 

「涼しくなってきたわね」

 

「ね。山の中ってもっと熱いイメージあった」

 

「で……これが神社?なんかみみっちぃね」

 

「山の中に佇む人気のない神社、厳かでいいじゃない」

 

 大きな鳥居をくぐり、なんの変哲もない神社を前に感想を述べる。大きく、恐らくは何十年と替えていない注連縄を見上げたり、まるで機能していないであろう鍵付きの扉を眺めたりした後、賽銭を入れて手を合わせる。

 

 各々願い事を秘密に、しばし夏の虫達の声に耳を傾ける。

 

「……ん?ねぇ、二人共、こっち来て」

 

「んー?」

 

「どしたの?」

 

 白は手招きして二人を神社の裏へ連れて行く。何となく見てみたそこには一本の山道を発見する。我先にと水琴が走り出し、二人も後を追う。

 

 暫く歩くと、ザワザワとした木々の揺らぎ、どんどんと鬱蒼になり昏くなっていく。

 

 涼しい。それよりも、もっと冷ややかな風が吹く。この感覚を、白は確実に知っている。

 

 不安に思った白は二人の袖を掴む。

 

「やめよう」

 

「え、どうしたの?涼しくていいじゃない」

 

「そうそう。それにほら、奥に祠?神社?あるよ。折角なら見に行こうよ」

 

「……」

 

 不安を拭えない白の表情。簪を髪に挿していつでも語り怪と対峙する準備をする。親友二人が危険に片足を突っ込んでいる。止めようにも、彼女たちは旅の浮ついた心からか危機感がなく、白の手を掴んで進んでいく。

 

 そして、祠の前に辿り着く。少し大きめでなにかを祀るように鳥居と狐の象と鳥の象が置かれている。

 

「んー……賽銭箱もないし、マジでただの祠?なーんだ、期待ハズレ〜。……中ならなにかあるかな!オープンザドア!ガッチャンコ〜!」

 

 パカリと祠の扉を開ける。普通に罰当たりな行為に六華は溜め息をつきながら諌め、白はゾワゾワとした気配に気を回す。

 

(何かいる……絶対に、やっぱり今すぐ離れないと)

 

「……刀?」

 

「刀だね!」

 

 水琴は軽い動作で刀を取り出し、折角ならと抜こうとする。六華もここまで来たらという感じで、刀身を見ようとする。

 

「んぎきーっ!抜けない!錆びてる?」

 

「本当だ、抜けないわね。ねー、白なら……白伏せて!!」

 

「ッ!?」

 

 六華が白の手を引いて地面に伏せさせる。暗くなっていて気づかなかったが、白を覆うほどの影が伸びていた。

 

 生物の警戒を解いていなかった白が気付なかった、後一歩六華が振り向くのが遅ければ白の身体は確実に斜めに両断されていた。背中に付けられた袈裟の傷がそれを証明する。

 

 六華は激怒する。しかし、それより先に白の安否を確認し、安堵する。

 

『貴様も語り怪か。しかし、不完全……』 

 

「語り怪……!」

 

「六華ちゃん白ちゃん!大丈夫!?」

 

「私は大丈夫。白は……白?」

 

 背中に傷が付けられた白が息を荒くして脱力し、六華に体重を預ける。背中にはどす黒紫の靄が身体を覆う。同時に、焼け焦げた"護"の札がヒラヒラと白の胸元から落ちていく。

 

「!?」

 

『そこな小娘は、語り怪を殺す儂の刀の呪いに蝕まれた、永くはないだろう。傷が浅い分、即死はしないが永く苦しむだろうて』

 

「ッ、アンタ何なのよ!!私達になんの恨みがあるわけ!?」

 

 深い暗闇から姿を現す大男。両目は濁りあらぬ方向を向き、まるで操り人形のように口をパクパクと動かして話し出す。

 

『名乗らねば武士の名折れ。儂は百怪談が十四番目。妖刀、鬼丸国綱。数世紀の封印から先日、解かれてな。丁度いい贄があったから出てきたまで。そこに貴様らが居合わせただけのことよ』

 

「理由になって無いわよ」

 

 六華は白を抱き締めたまま時間を稼ぎ、水琴はパニックになったのか口を開けながら六華に抱き着いている。

 

『男なら乗り換えようとも思うたが、女児三人とは互いに運の悪い。儂のことは天災にでもあったと思うがいい』

 

「ごめん、白!」

 

 刀を振り上げる鬼丸国綱。六華は白を手放し、水琴から抜けない刀をひったくって振り下ろされた刀を受け流す。

 

『ほう、現代の武士(もののふ)か……それに見合わぬ安綱(なまくら)か』

 

(やっぱり抜けない……この感じは錆じゃないわね……)

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!私達を斬るつもり!?」

 

『異なことを。儂は刀ぞ。人を斬るのが性だろうて』

 

「でも武士なんでしょ!?か弱い女の子を斬るものじゃなくない!?それにほら、戦いたいなら、強い人とやりたいでしょ!!」

 

『貴様……もしや儂と口八丁で交渉するつもりか?』

 

「だったらなに!?」

 

 半ばヤケクソで水琴は声を大きく交渉を仕掛ける。

 

『うぅむ、面白い。良いぞ』

 

「え、ほんと……!」

 

 一瞬安堵する二人の期待を裏切るように納刀し、ニヤニヤとした不気味な笑みで六華と握る刀を指差して条件をつける。

 

『条件はそうさなぁ……明日の月が満ちる晩、儂は貴様との死合を望もう』

 

「……死合ですって?」

 

『先の一撃を凌いだ技術、相手に足らず不足あれど、余興にはなろう。その鈍らを打った刀匠の名を横瀬三郎太夫。刀工としての名は安綱。それは奴の最期の傑作らしいぞ。精々儂を愉しませろ、小娘。呪いの進行は遅らせてやる』

 

『儂は神社にて待つ、遺言くらい書いておけ。負ければ、再び儂は封印されてやろう。そこの半端者の呪いも解いてやる』

 

 黄泉神社の方へと歩きながら背を向け、夜闇に溶け込むように姿を消す。

 

「……っぶはぁっ!……大丈夫、水琴!?」

 

「う、うん……私は平気。白ちゃんは……」

 

「……今の所、呼吸も安定してるし大丈夫そう。取り敢えず旅館に戻りましょう。白の手当もしたいわ。一応、その刀持ってきて」

 

「うん」

 

 白に上着をかけて背におぶり、三人は旅館へ戻る。幸いなことに傷は大分浅く、高熱などの症状も見られない。

 

 部屋に布団を敷いて寝かせ、二人は話し合う。

 

「ねぇ、六華ちゃん。あの話、本当に受けるの?」

 

「そうするしかないじゃない」

 

「あ、危なくない?」

 

「まぁ、はっきり言って無謀でしょうね。肝心の刀が抜くこともできないわけだし」

 

 持ち帰った刀をつつきながら六華は涼しい顔で答える。

 

「なんで……!なんでそんなに、落ち着いていられるの!?白ちゃんも、下手したら六華ちゃんだって死ぬかもしれないんだよ!?」

 

「水琴。落ち着きなさい」

 

 声を荒げる水琴と対極にお茶をすすっている六華。不安は勿論らしく、頬に冷や汗が伝っている。

 

「……ごめん」

 

「いえ、いいのよ」

 

 ピリリリッ

 

 静寂を破るように電子音が鳴る。二人は自分の携帯電話でないことを確認し、白のポケットを漁る。画面には、騙裏鏡と表示されている。

 

 二人は希望が見えたと思い、即座に電話に出る。

 

「!もしもし!!」

 

「ぉぅわっ、びっくりした。お前確か……西園寺か。白どうした?風呂かトイレか?」

 

「違うわよ!今大変なの!」

 

 ことの顛末を全て話し、携帯越しに鏡は相槌を打ちながら答える。段々と事の重さを理解していく六華は泣き言まじりに話し、つられて水琴も涙を流す。

 

「なるほどな……先ず一つ。お前達、あんまり自分を責めるな」

 

「でもっ、私達が白の警告を聞いてればっ……!」

 

「過ぎたことだ。起こっちまったもんは仕方ない。それより、対策を練るほうが先だが……俺は別件でこっちを離れられない。しかも、語り怪と何かしら約束を交わすってのは怪談の1ページになるってことだ。その対象にお前が入っちまってる以上、過度な介入は許されない」

 

「なんで?」

 

「なんでって……詳しくは分からんがそういうものだからな。その辺は俺の分野じゃない。変にちょっかいを出して取り返しのつかないことにはしたくない」

 

「うぅん……専門家の貴方が言うならそうなんだろうけど……」

 

「で、だ。一つ聞かせろ。お前は、刀があれば勝てるのか?」

 

「勝てるわ」

 

 食い気味に、自分を信じて疑わないその言葉を吐く。水琴と通話越しの鏡は一瞬言葉に詰まるが、すぐに話を戻す。

 

「……よし分かった。西園寺。とにかくその村の情報を余すことなく俺に話せ」

 

 鏡の言葉通りに水琴と会話を擦り合わせながら村の情報を伝える。

 

「神社……伝承……刀……よし、少し足りないが整った。西園寺、なんとかして館長に接触しろ。その後は俺に繋げろ。それと、その刀についても詳しく調べたい。写真でいいから送ってくれ」

 

「えぇ、分かったわ」

 

 電話が切れ、少しの沈黙の後に水琴が口を開く。

 

「えっと……どうする?六華ちゃん」 

 

「そうね、まずは……ご飯食べましょうか」

 

「へ?」

 

「白ももう少しで起きるだろうし、部屋に運んでもらいましょ」

 

「あ、えと、うん。分かった!腹が減っては戦はできぬって言うもんね!」

 

 フロントサービスの電話をかけ、部屋にご飯を持って来るように頼む。

 

「……六華、水琴……?」

 

「!起きた!大丈夫!?白ちゃん!どこか痛くない!?」

 

「うん?大丈夫……あっ、それより二人は!何とも無いの!?」

 

「えぇ、大丈夫よ、大丈夫」

 

 白が眠っている間に起こったことを話す。顔を青ざめながら、冷や汗を流して六華と水琴を心配する。しかし、二人は笑顔で答える。

 

「「大丈夫」」

 

「少なくとも私は無事だよ白ちゃん、心配しないで」

 

「それより白は?背中傷んだりしない?」

 

「私なら大丈夫、ちょっと痛いだけだから」

 

 三人はお互いを心配するが、同時にお腹を鳴らす。二人が何かで落ち込んだ時、こんな時に場を和ませてくれるのは、いつも水琴だったことを二人は思い出す。

 

「……ご飯食べよ!そろそろ来るよ!鏡のおじさんも手伝ってくれるし大丈夫!きっと大丈夫だよ!」

 

「「……あははっ(ふふっ)」」

 

「そうね、次のことは後に考えましょうか」

 

 三人は運ばれてきた旅館のご馳走に舌鼓を打つ。白に刻まれてしまった背中の傷を見られるのを危惧し、部屋に備え付けの浴室で入浴を済ませる。狭い浴槽ではしゃぐ水琴をなだめつつ、なんだかんだと楽しい一日の終わりを過ごし、不安を胸に三人は眠る。

 

 一方、鏡は別件で事務所を離れているが、写真を詳しく見ながら鏡の怪の能力で情報を集めるが、その情報が全く見当たらない。

 

 強いて言うなら分からない。という一点のみ分かったようだ。

 

(あの刀……呪具としての情報が何処にもない。だが写真越しでも分かるあの気配……何なんだ?)

 

 翌朝、三人は資料館へと早朝から向かう。当然開館には早い時間だが、他の客がいないのは都合が良く、入口の前で待機する。

 

「開いてから来たほうが良かったんじゃない?」

 

「そうだったわね、誰か1人くらいいるものだと思ってたわ」

 

「どする?一旦戻る?」

 

「おや、御客様方は先日の……」

 

 三人が扉の前で右往左往しながら考えていると、先日六華が目にした館長が現れる。

 

「あら、噂をすれば……白。探偵に繋げて」

 

「?」

 

 六華は一歩前に出て頭を下げて頼み込む。

 

「お願い。あの刀を私に貸して」

 

「……念の為に聞きますが、それは"幕恋"のことでしょうか」

 

「えぇ」

 

「何か漫画や小説などの資料などでもなく?」

 

「いえ、実戦で使うわ。なんなら刀の無事も保証できない」

 

「ちょっ、六華、そこまで言うの?」

 

「良いですよ」

 

「そうよね、だから……え、なんて?」

 

 数個の質問の後、あっさりと許可が降りる。拍子抜けな程に要求が通り、三人は目を丸くする。事前に聞いていた村の宝刀。しかも"何故"なのかも安全の保証もしないと断言した上で、涼しく言ってのける。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、大切なものじゃないの?」

 

「えぇ、勿論大切な物です。それも金銭的な意味ではなく、心など形のない意味で」

 

「じゃあ……なんで?」

 

「それは」  

 

「西園寺の事を、巫女だと思ったからだよな?」

 

「!」

 

 通話の繋がった鏡がスピーカー特有の電子音で理由を先に話す。繋がったことを確認した三人は鏡の言葉に任せる。

 

「刀を貸してくれるってんならあんまり言う必要もないんだが、折角だし説明してやるよ」

 

「ふむ……貴方は彼女たちの保護者でしょうか?」

 

「俺はそこにいる黒髪の雇用主だ。"その手の話"の専門家。そっちの村について調べさせてもらったが、つい最近から温泉が枯れてるな。村の産業である野菜も、生活に困窮する程でないにしろ収穫量が著しく減ってる。詳しく調査しても原因は不明。考えられるのは気が枯れた。つまり"穢れ"が溜まったということ。だから、例年にない夕涼み会だなんて名目で祭りを催し、ハレの日を作ったわけだ。が、そこに、内内で終わらせる予定だったのに、予定外の客であり、語り怪の持つ違和感を持つ女子高生の三人が来た。伝承の舞台にしてはお誂え向きだったわけだ」

 

「……お見事です。恩を着せるような言い回し、大変失礼致しました」

 

 頭を深々と下げ、謝罪の意を見せる館長。鏡が集めた情報は答え合わせでしかなかったが、見事な推理を披露して館長の心の内を明かした。しかし、一つの疑問が残った六華は質問する。

 

「貴方は、ここは都市開発をしたりするべきなんて話をしてたし、私もだけど伝承を小馬鹿にすらしてたじゃない。なのに、その与太話を信用して私達に宝刀を預けるのはなんでよ」

 

「ふむ……つまり、私自身が貴方達や伝承を信じる理由がないと。それは簡単な話ですよ」

 

 館長は三人の後ろにある扉の鍵を開け、両開きの扉を二つとも押し出して開けながら答える。

 

「生まれも育ちもこの村や。単純に、この村が好きなだけやざ」

 

 館長は今までの標準語を崩し、方言を交えて理由を簡潔に答えた。生まれながらの郷土愛、村を悪く言うのも、皮肉のように伝承を騙るのも、村を愛するからこそ出てくる言葉だったことに六華は気付く。

 

「粋ね」

 

「きのどくな(ありがとう)」

 

「「??」」

 

「えっと、鏡さん、ありがとうございます。取り敢えず話しはまとまったので、何かあればまた連絡します」

 

「あぁ、ちょっと待て。白、あの抜けない刀あっただろ?」

 

「えぇはい。何か分かったんですか?」

 

「お前から見てあの刀は語り怪の気配だったか?」

 

「いえ、そんなことは……でも、明らかに"普通"の刀では無かったはずです」

 

「だよな。西園寺の言っていた鬼丸の言葉を信用するなら、恐らくその刀は語りの力を有しているはず。決闘の時は念の為持っていけ、お守りくらいにはなるかもしれん。俺もなるべく急いでこっちの件を終わらせる。そっちはそっちで死ぬなよ」

 

「了解です、それでは」

 

 鏡と話をしている内に刀を受け取った六華が戻って来る。何度か試しに振ったのか、刀についての詳しい説明を受けていた。

 

「以上が刀の特徴です。斬れ味も普段から手入れしている分、問題ないかと思います」

 

「えぇ、ありがとう。二人共、一旦旅館に戻りましょう」

 

「もーいいの?」

 

「今から鍛錬したところで焼け石に水。だったら二人と少しでも遊びたいわ」

 

「……強いなぁ、六華は」

 

「強くあれるわよ、二人の為なら」

 

「かっっ……こいい〜!」

 

 ボソリと呟いた白に、六華は刀を腰に挿して答える。

 

 二人から尊敬の眼差しを向けられる六華は得意げな凛とした顔で約束した。




語り怪リスト
名目 百怪談
十四番目 鬼丸国綱
能力 不明  
危険度 やや危険
詳細 
行方不明にの"本物"の鬼丸国綱。見つけ次第、厳重な封と共に祓師が保管すること。
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