ドラゴンクエストⅢ 呪文を知らない娘たち 作:Projectアリア
カザーブにて
盗賊の鍵を手に入れ、旅の扉をくぐるとロマリアという国だった。
ここでは魔物同士を戦わせるバトルロードという催し物が行われている。
なんでも3対3の勝ち抜き戦らしい。
私たちにその話をしてくれたのは、自らを「モンスターじいさん」と名乗る男性だった。
彼は魔性を失ったモンスターを保護しているらしい。
ヒオはこのことを噂程度に知っていた。
彼女曰く「ロマリアに着いたら皆さんを誘ってみようとは思っていた」とのこと。
彼と会ったとき、ちょうどヒオが一匹のスライムに懐かれた。
この子は魔性を失っているらしく、ベロベロとヒオの手を嘗め回し、プルプルと体を寄せてくる。
ヒオは頬を赤らめながら「この感触、最高です!」と声を弾ませていた。
仲睦まじいのはいいことだが、すっかり置き去りにされた私達は頬を引きつらせながら黙って見守ることしかできなかった。
またこの付近にはカザーブ、ノアニールと近くに町が点在している。
街があるということは、当然新しい武器と出会うということである。
このことに興奮を抑えられない人が私のパーティには一人いた。
サラが晴れやかな顔をしながら独り言ちている。
「大満足だ!これで一通りの武器は買い終わったな!」
道具袋にたんまりと武器が入ってご満悦である。
それに付き合わされた私達はというと
「ん~!いっぱい戦って、強くなって、武器も買ってクーは今輝いている!」
同じく大喜びのクーと
「私達どれくらいの数の魔物と戦ったんでしょうね」
目に見えて疲れているヒオと
「わかんない。とにかくいっぱい戦っていっぱい倒した。
ここら辺だと多分敵なしだよ。私達」
同じく疲労を隠せていない私がひとまず宿屋に向かって歩いている。
サラが満足している通り、この付近にある町の武器は全て買った。
幸い探索中に見つけて買わずに済んだものもあったりするので正直助かった。
節約できるところは節約するのが旅の重要なところだ。
ちなみにクーは拳一つでやっていくつもりだったらしいが、
アニマルゾンビなどの腐ってぐちょぐちょしたのは嫌だったらしい。
汚いし臭うしで全くもって乙女の敵である。
お金が貯まったら、すぐに鉄の爪を買ってあげた。
これにはサラも反対しなかった。
上機嫌なクーがにこやかに話しかけてくる
「それにしてもアリアの攻撃、蝙蝠男には鋭いよね!」
遠い目をしながら答える。
「ちょっと因縁があってね。許せないんだ、あいつら」
そうなのだ。この『マホトーン体質』のせいで・・・!
今回の資金集めだって私が呪文を使えたらもっと楽だったのに。
あぁ、ホイミしたい。
私が物思いに耽っている間に、ヒオとクーは仲良くお喋りしている。
「やっぱり武闘家さんってあんまり武器を好まないんですかね」
クーは顎に手を当て少し考える。
「んー。人によるとは思うけど。
私の場合はさ、例えば寝ている時、急に魔物に襲われたりしたとするでしょ」
一呼吸置き、芯の通った声でまた話し出す。
「その時に武器を探す余裕はないと思うんだよね。だから、クーはそのままで強くなりたいんだ」
そう話すクーはいつもの元気で無邪気な姿とは違い、歴戦の武闘家の横顔に見えた。
宿屋に到着し、体の汚れを落とした私達。
ヒオが「魔物に関しての考察をまとめたい」といって机に向かい、数分で寝落ちしたのを生暖かい目で見守った。
言っていること、やっていることはとても真面目なのだが。
動機のことを考えると苦笑いしかできなかった。
夕食の時間までまだあるので各々がゆったりとした時間を過ごす。
机に突っ伏しているヒオに毛布を掛けた後、人数分の白湯をもらおうと宿のキッチンまで足を延ばす。
宿屋の方とのコミュニケーションは情報収集も兼ねているので疎かにできない。
白湯をお盆に乗せ部屋に戻ってくると、サラとクーが盛り上がっている。
テンションが上がっているせいか、若干話が噛み合っていないのが面白い。
サラは満面の笑みで捲し立てる
「このチェーンクロスを見てみろよ!一振りで何体の敵を倒せるんだろうな!」
その鞭が振るわれているのを想像しているのかクーは目を細めていた。
「むぅ。一度に色んな敵に攻撃できるのはいいよね!そういう技を考えてみようかな」
買ってきた武器に想いを馳せるサラとそれにインスピレーションを受け自分を高めようとするクー。
サラは一応、周りに気を付けながら子供のように武器を持ってはしゃいでいる。
貴方、鞭系は使わないでしょう。後でそのチェーンクロスを私によこしなさい。
クーはクーで早速新しい技の練習なのだろう。空中に向かって鋭い蹴りを放っている。
鞭の動きを取り入れようとしているのか、しなやかさに重点を置いているようだ。
段々と動きが派手になってきたので、物を壊す前に止めておこう。
「二人とも、おばちゃんから白湯もらってきたら一息つかない?」
そういってテーブルの上に準備していく。
そそくさと椅子に座り、皆でずずっと啜り、ほっと息を吐く。
サラの低めの声が更に低くなり完全にリラックスしている。
「あー。この体の中から温まるのがたまらないよなー」
私はもう一口啜ってから同意する。
「そうですね。寒いわけではないし、むしろ暖かいんですけどね。
お腹の中に入る分は別なんでしょうかね」
休憩するときは筋トレをしないよう説得したのでクーもおとなしく座っている。
「ねー。動いた後には冷たい水が美味しいけど、ゆっくりするなら温かいものだよね」
今はこの頂いた白湯が精いっぱいだが、いつかは優雅にティータイムなどしたいものだ。
お茶を気軽に飲めるくらい裕福な旅ができればいいと夢見るが、おそらく私達には無縁のものになるだろう。
主に目の前にいる赤髪の戦士のせいで。
休憩していても頭の中は武器のことでいっぱいのサラ。
「それでクーよ。武器を使ってみた感想は?」
彼女も彼女で元気な笑顔で返事をする。
「殴るのと同じ感覚で使えるからいいね!これならどんな奴でも殴れるよ!」
晴れやかな顔で物騒なことを言うのはやめていただきたいものだ。
やはり優雅なティータイムは私達とは無縁である。
私は苦笑いを浮かべながら声を漏らす。
「あのぐちょぐちょ共相手に素手というのは流石に可哀そうでしたからね」
殴ったときの感触を思い出したのか身震いしているクー。
「あ、あの感覚はもう嫌だ・・・。ぐちょって・・・そしたら、べちゃっと・・・」
可哀そうにすっかりトラウマになっている。
見かねたサラが話の方向性を変えた。
「あー。確かに戦闘中の汚れとかは後々気になるよな。
髪につくのが嫌だから短くしなきゃいけないし」
私もサラも髪は短くまとめている。
慣れてしまえば便利なので全く気にならないが。
逆に長いのがクーとヒオだ。
ヒオはまぁ、何となくわかる。
クーはその性格を考えると意外であった。
毎朝、金色の長い髪を可愛くお団子にしている。
まだ顔色の悪いクーに声をかける。
「毎朝、大変じゃないですか?可愛いですけど」
クーはちょっと照れたようで
「んー。もう慣れたかな。お母ちゃんとの約束だしね」
サラの目が少し優しくなった。
「ほぅ。お母さんとの約束か」
キリっとした顔で鋭く言葉を放つ。
「髪は女の命!簡単に切ってはいけません!ってね」
元気な人なんだろうなと思いつつ
「それで律儀に長いままにしているのは親孝行なんでしょうかね」
クーは寂しげな笑顔で呟く。
「もういないから、これぐらいは、ね」
私は自分の失態に気付いた。
身の回りの誰かが亡くなっているというのは別段珍しくないのだ。
私とサラが言葉を失っていると
「あぁ!そんな気にしないで」
クーは慌てて笑顔を作る。
「もう自分の中で決着はついてるから」
本当に自分の心に折り合いはついているのだろう。
彼女から寂しさは感じるものの負の感情は見当たらなかった。
ふと旅立った父さんのことが頭をよぎり、思わず尋ねてしまった。
「お父さんは?」
クーの顔が歪んでしまうのを見て、私はハッとする。
馬鹿なことを質問してしまった。
「お父ちゃんもお母ちゃんも」
私はとっさに話を遮る。
「ごめん!いいよ。話さなくて。大丈夫だから」
こちらを見つめるクー。
私は固まり言葉が出すことができない。
しばし見つめあう形になった。
クーの中で何か区切りがついたのだろう。
ゆっくりと口を開いた。
「大丈夫だから」
そう言って一つ息を吸い込む。
「あんまり話すようなことじゃないかもしれないけどさ。
皆になら話してもいいのかなって思った。だから話したい」
静かな部屋にクーの声だけが響く。
「私の住んでた村が魔物に襲われちゃったんだ」
城壁がない村だと魔物に襲われることも珍しくない。
教会が周囲に聖水を撒いているが、それでも完全に防げるわけではない。
「お父ちゃんは私とお母ちゃんを逃がすために村に残ったよ。
だからお母ちゃんと一緒に逃げれた」
私達は黙って耳を傾ける。その表情は悲しいというより痛々しい。
それでも懸命に話すクーから目を背けることはできなかった。
「そしたら今度は別の魔物に襲われてさ。
お母ちゃん、そこらへんに落ちてた木の棒持ってね」
手をブンブンと振り回す動きをしながら
「向かっていくんだよ。私に大声で逃げなさい!って叫びながら」
クーの目は静かに閉じられた。
「戦ったんだぁ」
噛みしめるように、だけど強い思いは伝わるように言葉が出てきた。
閉じられた彼女の目には、きっとその時のお母さんの姿が映っているのだろう。
「もう必死で走ったよ。どうにか隣の村に辿り着いてたみたい」
声はところどころ震えている。
恐かったのだろう。悔しかったのだろう。
だが両親のおかげでクーはここにいる。
そこで一度深く息を吸い込むとクーの目に強い光が灯った。
「だからクーはね。どんな時でも戦えるようになりたい」
だが憎しみが宿っているわけではない。
「いっぱい鍛錬した。でも足りない。もっと強くなりたい」
一筋の道を見定めて歩んでいくような澄んだ目だ。
「もっと強くなって・・・」
クーは言葉を切り、黙り込んだ。
私達は静かに見守る。時計の針の音だけが静かに響いていた。
やがてクーから言葉が紡がれる。
「もっと・・・ううん、強いだけじゃなくて」
言葉を探しているのがわかる。彼女自身も、自分の中で向き合っているのだろう。
「守れるようになりたいんだ」
そう言い切ると小さな微笑みが浮かべた。どこか晴れやかな表情だ。
彼女が目指したのは魔物を倒す力ではなかった。
父と母に守られたように。
自分自身を守れるように。
彼女の両親は憎しみからも彼女を守った。
「馬鹿だね。クーは。理由をしっかり考えたことなかったや」
あはは、と笑うがその目には涙が浮かんでいた。
その瞬間、サラは静かに立ち上がるとクーを優しく抱きしめる。
最初はキョトンしていたが、ゆっくりとサラに体を預けるクー。
サラは優しく言葉を掛ける。
「話してくれてありがとな」
短く、でも嬉しそうに返事をする。
「ん」
優しく穏やかな雰囲気が部屋を包みゆっくりと時間が流れる。
私もクーに言葉を掛けようとするとヒオが勢いよく起きた。
「わっ!寝てしまいました!全然ノートが進んでない!」
空気が弛緩しヒオを除いた三人が苦笑する。
クーが照れくさくなったのかサラから離れる。可愛い。
ヒオはきょろきょろと辺りを見回し、時計を確認した。
「むぅ。全然進んでいませんがもうご飯の時間ですね。
お腹が空いては捗りません。ご飯食べに行きましょう!」
指摘されて気が付いたが、日も傾きいい時間になっていた。
意識すると途端にお腹が空き始める。
すると、クーのお腹から可愛らしい音が鳴った。
頬を少し赤くして恥ずかしそうだ。
微笑んだサラが元気に声を出す。
「そうだな。お腹が空いては何もできん。
食べに行こうか」
ヒオはワタワタと髪を梳き始める。
「寝癖ついてたら嫌なんで直してから行きますね。
先に行っててください。すぐ行きますから」
確かに寝癖が付いている。
私達は頷くとご飯を食べに部屋を出た。
部屋に一人たたずむヒオ。
髪を整え終えたものの、動き出す様子は見られない。
窓の外をぼんやりと見つめ、遠い目をしている。
そうしてぽつりと言葉が漏れ出た。
「魔物・・・使いだもんなぁ。私」
言葉にしてみて、改めてその響きの重さに気付く。
もう一度窓の外を見て、ため息が漏れた。
週に一回の投稿ペースで出来たらと思っています。
応援よろしくお願いします。