ドラゴンクエストⅢ 呪文を知らない娘たち 作:Projectアリア
アッサラームに向かう道中にて
王様から金の冠を取り戻してほしいと依頼され、シャンパーニの塔に向かった私達。
疾風怒濤の勢いで塔を駆け上がり、盗賊共を蹴散らした。
散々に叩きのめされた親玉が許しを求めてくる。
私達もやりすぎてしまったし良心の呵責を感じている。
これだけ痛い目にあったのだから、流石に悪事に手を染めることはもうないだろう。
それでもサラは「こいつ、また何かやらかしそうだな」と半眼で睨んでいる。
次に会うことがあれば真っ当な職についていてほしい。
関所の通行許可を得て、今はアッサラームに向かう途中。
無理のないよう休憩と野宿を繰り返す最中、魔物の強さが増しているのを肌で感じる。
油断して強行軍をすると犠牲が出そうで恐ろしい。
今日も見晴らしのいい場所で野宿をすることになった。
料理をするのは私かサラがメインであることが多い。
クーもヒオも得意ではないが手伝いはさせている。
クーは意外にもお手伝いが好きなようで、元気に手を動かしてくれる。
サラとクーが並んで料理している姿を見ると姉妹のようで微笑ましい。
前衛同士で気が合うのだろう。
一方でヒオは見るからに乗り気ではない。
どうやら自分が不器用なのを自覚しているらしく、なるべく関わりたくない様子が見え隠れしている。
しかし料理せざる者、食うべからず。最低限の調理は出来るようになってほしい。
調理が終わり湯気の立つ料理を皆で囲むとリラックスしてくる。
いざ夕食となると、いつものように賑やかな会話が始まった。
今日の話題はロマリアでの出来事ーーつまり、私が女王(仮)になったことだ。
サラがニヤニヤと笑いながら話しかける。
「アリア女王様はご立派な国王になったと思うんだけどなぁ」
私はサラを半眼で睨みつけていると、食事を飲み込んだクーが元気に褒めてくる。
「ね!かっこよかったよ!」
本心で褒めてくれる言葉だからこそ、どう対応していいか困る。
ヒオも柔らかく微笑みながら加勢してきた。
「実際、アリアさんが国を治めるとなったらどんな国になるんでしょうね」
こいつめ、ここぞとばかりに攻めてくるな。
真面目に考えて一晩中ねちっこく聞かせてやろうか。
「まぁ、魔王を倒してから考えることかな。それまで私は勇者でいるよ」
適当にあしらいながら食事を進めた。
食べ終わったクーが満足げに、ニコニコしながら話を切り出す。
「クーが王様になったら皆で鍛錬だね!強い国にする!」
彼女らしい答えだ。
きっと国民全員がムキムキになって笑顔が絶えないんだろう。
暑苦しくて嫌だなぁ。
「そして魔物をいっぱい倒してお金持ちの国にするんだ!」
お金がありすぎてインフレーションが進みそうな国策である。
そこでサラがふと思いついた疑問を投げかける。
「そういえばなんで魔物を倒したらお金を落とすんだろうな」
当たり前すぎて考えたことがなかったが確かに謎である。
三人が考えながら唸っている。
私は皆が食べ終えた後の食器を片付けながら静かに考え、
サラはさほど真剣には考えていない。暇つぶしのために考えているような感じだ。
クーだけは慌ただしく頭を抱えたりしている。
そんな中ヒオは考え込むような仕草を見せた。
ふと顔を上げ、小さな笑みを浮かべている。
「逆に考えるといいかもしれませんよ」
どういうことだろう。
サラは首を傾げ、クーはポカンとしている。
「お金を落とすから魔物を倒すってこと?」
首を振るヒオ。
「いえ。魔物が落としたものを人間がお金として扱っているんです」
ん?お金はお金じゃないのだろうか。
ヒオは続けて話す。
「魔物を倒すと『ゴールド』を落としますよね」
そうだ。落とす量は違えど必ず落とす。
「どんな地域でも、どんな種類でも、等しく手に入るもの。そこに価値を見出したんですよ」
魔物を倒して手に入るもの『ゴールド』を共通の資産と見なした。
だけど、それだけで通貨として機能するのだろうか。
誰もがそれに価値があると思わなければお金として機能しないはずだ。
クーはよくわかっていないのだろう。首を傾げながら質問する。
「そしたら魔物がいなくなったらお金は無くなっちゃうの?」
サラは真面目な顔で否定をする。
「それはないんじゃないか?今まで倒した分のお金は残っているだろう」
それには私も同意見だ。
魔物がいなくなった場合でも残っているお金はあるはず。
するとヒオは答えを用意していたのだろう。
「クーさんの不安はあながち間違いではないかもしれません」
私とサラは驚嘆しヒオの方に顔を向ける。
「消費する手段があると考えています。そうでなければ今頃ゴールドで溢れかえっているでしょうから」
一応、筋は通る。ゴールドには別の使い道があるならば辻褄は合う。
消費できるものを通貨として扱うのはどうかと思ったが、だからなのかと一人で納得する。
国民に勝手に消費されては困るから、私達はゴールドの使い方をお金として扱うことしか知らない。
サラが手を顎に当て考え込む仕草をしている。
「お金として使う以外の使い道なんて考えたことなかったな」
私だって同じだ。ゴールド=お金としか考えてこなかった。
だがそれなら国が税としてゴールドを集めるのもわかる。
国の運営のためだけではなく、単純に使用する用途があるから徴収するのだ。
「こう考えると魔物も資源に見えてきますね」
ヒオはそう言っていったん話を切った。
クーは頭から煙を上げながらも頑張って話についてこようとしている。
「とにかく別の使い道があるってこと?何に使ってるの?」
ヒオは困ったような表情で答えた。
「そこまでは私にはわかりません。今話してたのも自論にすぎませんから」
自論の割には妙に説得力があるんだよなぁ。
「ヒオの自論は面白いと思う」
こういう話が好きな私としてはついつい突っ込んで考えてしまう。
話を続けてほしいと視線で訴え話題を振る。
「そもそもゴールドって何なんだろうね」
苦笑するヒオ。
「確証も何もない自論でよろしければ」
どうせ今日は夜番を交代しながら寝るだけだ。
時間もあるし話してほしい。
コクコクと興味津々で頷いた。
そこでヒオは目を閉じてすぅと息を吸う。
「ゴールドとは魔性」
目をゆっくりと開け語りだす。
「私はそう考えています」
サラは勢いよく突っ込む。
「おいおい、待ってくれ。魔性ってあの爺さんが言ってたやつか?」
最近、モンスターじいさんと名乗る人物から魔性について少し耳にした。
「そうですね。その魔性です」
ヒオが相槌を打つ。
「魔物の死骸を依り代にして魔性が形になったものだと考えています」
私は疑問を口に出す。
「アンデットは?もう死んでいるはずだけど」
にんまりとヒオは笑う。
「いいところに気付きますね。ではそもそも魔物とはといったところから考えましょうか」
語る口調に熱が籠ってくる。
「魔物が生まれるには二つのパターンがあると思います」
私達の方を一瞥する。
「一つ目は魔物同士が交尾して生まれるパターン。
これはすでに確認されてますね。どんな魔物でもなぜか卵で生まれてきます」
知らない情報だった。
やはり専門で勉強している人は違う。
「二つ目は生き物や物質に魔性が宿り魔物となる場合です」
アンデットは後者のパターンですねと補足した。
「動物の死体に魔性が宿り生き返ったように見える。
アンデットは死体に魔性が宿り別の生物として生まれ変わっていると考えていいんじゃないでしょうか」
思わず顔をしかめる私。
「死体に宿るのは趣味が悪いわね」
これにはヒオも苦笑い。
「話を戻しましょうか。ゴールドは魔性が形になったものとまで話しましたね」
クーは知らぬ間にメダパニでもかけられたのか「あれ?えっと、えっと・・・」と首を傾げるばかりで言葉が出ない。
そんなクーを一瞥してサラは優しく微笑んだ後、ヒオに詰め寄る。
「そうだった。魔性なんてよくわからないものがお金になるのか?」
眉間にしわを寄せるヒオ。
「すみません。魔性については私もよくわかっていません。あくまで推察しただけです」
頭を下げたが、私達はそこまで気にしていなかった。完全に理解しているのなんてルビス様くらいだろう。
コホンと咳払いし仕切り直した。
「ゴールドとは魔性。この考えに至ったのは倒してきた魔物の強さと落とすゴールドの関係性を考えた時でした」
夜の静けさの中でヒオの声が響いていく。
「魔物によって強さが違う。それは当然といえば当然です。
ではなぜ強さが違うのか」
胸元で二本の指を立てる。
「これもざっと考えて二パターン。魔性が宿る素体が元々強かった場合。
もう一つは魔性が蓄積されて強くなった場合」
私とサラは頷きつつ耳を傾ける。クーは完全にショートしている。
「元々が強い生き物だった場合、倒しても落とすゴールドは少ないはずです。
逆に蓄積されて強くなった場合は落とすゴールドが多いはずです」
言われてみれば強さに見合わずたくさん落とす魔物もいた。
逆に苦戦したのに少ない奴もいた。苦労した分だけ損である。
サラは疑問を口にする。
「じゃあ、道具や武器を落とすのも魔性ってやつのせいなのか?」
そうだ。ゴールドを落とすだけではなかった。
ヒオは難しい顔をして答える。
「私達が宝箱と呼んでいるアレですか。
恐らくは同じような現象だと思うんですが。その場合なぜ精密に出てくるのかはわかりません」
武器が落ちたときのことを思い出しているのだろう。視線を上にあげるサラ。
「まぁ、そのまま使っている武器が落ちてる場合もあるけどな」
相手が魔物とはいえ、武器に関してはしっかり観察しているサラらしいなと思う。
その時の武器を思い出し口元がだらしなく緩んできた。
戦利品の武器はまた格別だとこの前言っていたことを思い出す。
私もサラに続いて思いついたことを口にした。
「魔物が取り込んだものが出てくるっていうのあるんじゃない?」
ヒオは盲点だったといわんばかりに目を見開く。
「それも確かにありそうですね」
バブルスライムが毒消し草を落とすのはもしかしたら自身の毒を治したいからなのかも。
そうだとしたら少し可哀そうだと思う。
ようやくショート状態が治ったクーがガバッと起き上がる。
「それじゃあさ、ヒオに懐いている魔物達はどうなるの?」
淡々と答えるヒオ。
「もしあの子達が死んだ場合、ゴールドになるのは少ないと思ってます」
私も疑問に思ったことを聞いてみる。
「というか、魔性がなくなったんなら元の姿に戻ったりしないの?」
ヒオは顎に人差し指を当て少し考え込む。
「そのケースもあるんじゃないですかね。ただ多くの場合変質してしまった肉体は戻らないんだと思います」
私は胸の前で手を打って納得する。
「あ、そういうことか」
話が一段落したところでヒオが背筋を伸ばし姿勢を正した。
落ち着いた声で話をまとめる。
「これが私の考える魔物とゴールド、そして魔性の関係ですかね」
そう言い切ると質問がないかの確認も兼ねて私達の方を見渡した。
聞きたいことは大体聞いたので満足である。
ご静聴ありがとうございましたと頭を下げた。
私達はパチパチと拍手を送った。改めてヒオの真面目さに感心する。
そんなところにサラが笑いながらオチを付ける。
「ゴールドは魔性か。そりゃお金に取りつかれる人もいるわけだ」
皆、くすくすと笑っている。
「秘密を知ってしまいましたか」
笑っているヒオだが、先程とは打って変わって説得力がなかった。
こうして楽しい時間は本当にあっという間に過ぎてしまう。
結構話し込んでしまったからそろそろ寝ないといけない。
私はなるべく穏やかな声で皆に提案した。
「さ、怪談みたいなオチが付いたところで今日はもう休もうか」
すると早寝早起きを地で行くクーは素早くタオルケットにくるまり横になった。
横になってすぐなのにもう寝息を立てている。
そんなクーを見て、つい微笑んでしまう。
「本当、こういうところも子供っぽいよね」
子供扱いされることを嫌うが、本人は夢の中で聞いていないからいいだろう。
それに別段、皆もこれで文句はないのだ。
ヒオが確認のため尋ねてきた。
「今日の最初の当番は誰でしたっけ?」
サラが冗談めかしながら告げる。
「今日は私だな。さ、早く寝な。夜更かしすると魔性に取りつかれるぞ」
三人で一しきり笑った後、ゆっくりと休むのだった。
旅は大変だがこうやって皆でご飯を食べて、語って、冒険するのはいいものだなと思う。
明日は明日でまだ歩くのだろう。だがそれも悪くないなと感じる。
そう考えながら瞼を閉じて夢の世界に誘われていった。
今更ですが、ドラクエ3をプレイしているのを前提で書いております。
まだ未プレイの方は読みづらいかもしれません。
ですが、ドラクエ3は傑作なので、この機会に是非プレイしてほしいと思います。