ドラゴンクエストⅢ 呪文を知らない娘たち   作:Projectアリア

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黄金の爪に込められた想い/サラの武器物語その一

イシス城下町にて

 

この灼熱の砂漠の中、イシスを目指して歩き続ける私達。

歩くだけでも体力の消耗が激しいのに、ここに生息している魔物達がまたしても最悪だった。

特にあの緑色のカニは許せない。

『地獄のハサミ』という名前らしいが『地獄の甲羅』とかに名前を変えてしまえばいいと思う。

とにかく外殻が硬いのだ。その硬い甲羅で殴られると滅茶苦茶痛い。

魔法の使えない私達はどれだけ硬かろうと殴ることしかできない。

その上、スクルトまで唱えるものだから始末に負えない。

力自慢のサラがいなかったら逃げ出してしまいたい相手の一匹だった。

 

 

文句を言いながらも砂漠を歩き続けなんとかイシスに到着した。

まずは魔法の鍵の情報を求めに女王様にご挨拶へと伺う。

驚くほど話が早く進み、魔法の鍵の場所を教えてもらうことができた。

女王様曰く、ピラミッドに眠っているらしいとのこと。

 

更にピラミッドについて情報収集を続けるため、手分けして聞き込みを行った。

サラとクーは他の冒険者や住人に話しかけている。

お宝があるらしいと聞くとサラは明らかに落ち着かない様子だった。

クーがサラを諫めるのも珍しい。

 

私とヒオは書物の中から情報を探す。

こういう時、お城は便利だ。

古い文献でもしっかり保管してくれている。

ピラミッドの魔物についてヒオが調べているとカリカリとメモを取る音が聞こえる。

さっきからページが進んでいないけど本当に調べているんだよね?

研究しているわけじゃないよね?

 

結果としてピラミッドの魔物は非常に強いということがわかってきた。

いつも通り武器を買い漁るついでに、いつも以上に鍛錬に励む。

クーはたっぷりと鍛錬出来てホクホク顔である。

あのカニを相手にした後で余裕でいられるのは素直に尊敬できる。

 

手強いダンジョンと聞いたので道具の準備もいつも以上に念入りに行う。

薬草もいつもの安いものではなく上薬草に持ち替えた。

値段が六倍もする高級品である。

アッサラームのぼったくりにでもあったような気分だ。

私が値段を聞いて店主に喧嘩を売りそうになったところ。

ヒオが肩にそっと手を置き首を振っていた。

「これ、正常な値段ですよ」

その一言で私は膝から崩れ落ちた。

 

ヒオ曰く、今までのお店でも売っていたらしい。

高級品だと思って目に入れてなかった。

というより、無意識に見ないようにしていたのかもしれない。

ただでさえうちのパーティは移動するのにキメラの翼を多用する。

道具にかけるお金はなるべく節約したいのに。

まぁ命には代えられないので払うところは払うけど。

必要なものとはいえ出費が多くなることに頭を抱えた。

 

 

準備に準備を重ねたピラミッド攻略。

結果だけを言えば、なんとか魔法の鍵を入手することが出来た。

ただ本当に苦労した。

何度もピラミッドとイシスを往復し少しずつ攻略していった。

キメラの翼代と薬草代が馬鹿にならないが仕方ない。

 

また最後の最後で地下のフロアに隠し通路があるのを発見したサラ。

彼女の言葉をそのまま借りるなら「こういうところに隠し通路は付き物」らしい。

皆で壁をペタペタ触っていると本当に隠し通路が出てきた。

サラの得意げな顔に腹が立つ。

 

奥へ奥へと進むと一際豪華な棺桶があり、恐る恐る開けると黄金で出来た立派な爪があった。

その爪を見るや否や真っ先にサラがそれに飛びつき喜んでいる。

 

するとどこからともなく声が聞こえてくる。

背筋が凍るような感覚に全員が襲われた。

空気が重さを得たかのような、押しつぶされるような重たい雰囲気だ。

初めての経験だが理解できてしまう。

これは絶対呪われてる。

間違いなく呪われた。

 

私達は一斉に目を合わせて臨戦態勢をとる。

気を抜かず出口までの道を辿るが魔物の攻勢が激しい。

あの墓を暴くものを許さないといったところだ。

 

力を振り絞り、どうにか脱出してキメラの翼を使いイシスまで戻ってきた。

そうして一息ついて今に至る。

 

 

宿屋に着くなり皆、力が抜けたようにへたり込む。

あのクーですら疲れた表情を隠せていないのが今回の冒険の激しさを物語っている。

ヒオは汚れを気にせずベッドに倒れ突っ伏したまま動かない。

せめて上着くらいは脱ぎなさい。後でおばちゃんに怒られるの私なんだから。

 

そんな中サラがクーにジェスチャーで黄金の爪を見せてくれとせがんでくる。

とりあえずクーが使えそうな武器だったのでクーに預けていたのを思い出した。

 

クーは体を重たそうに動かしながらも爪を取り出した。

それに目を輝かせたサラは這いつくばりながらクーの方に近寄り受け取った。

 

その爪を色々な角度から眺めニコニコと子供のように笑っている。

というか、欲しがっていたおもちゃを買ってもらった子供そのものだ。

 

しばらくその様子を見ていたクー。

微笑みながらサラに語り掛ける。

「良かったね。お宝見つかって」

サラは首を勢いよくクーの方に向けて満面の笑みで応える。

「うん!」

若干、幼児退行しているせいか不思議と可愛く見える。

 

呆気にとられたクーであったが続けてサラに話しかける。

「その爪、サラが使う?」

一瞬キョトンとした顔をしたサラ。苦笑いを浮かべて首を横に振る。

「私にはうまく使えないしな。クーが使ってくれ」

確かにあの武器はサラや私、ヒオには上手く使えないだろう。

 

しかし意外だった。明らかにお宝で一品物の武器をすんなり譲るとは。

疲れていたせいだろうか。思ったことがそのまま口から出た。

「意外だね。自分で使いたいって駄々こねると思った」

言われたサラは目を見開いた後、盛大に笑う。

「普段を見てたらそう思うよね」

優しく微笑んで言葉を続けた。

「でもさ、仲間が使うんだ。何の問題もないよ」

ニッコリと微笑むその顔は心の底からそう思っているとわかった。

 

私とクーが思わず黙っていると自分の言った言葉に恥ずかしくなったのか赤面して俯くサラ。

今までベッドに突っ伏していたヒオが顔を上げ、ニヤニヤしながら口を開く。

「こうしっかり仲間って呼ばれるとこっちも照れちゃいますねぇ」

更に俯くサラ。もう耳まで真っ赤になっている。

私とクーも顔を見合わせ悪戯気に笑う。

こうなったら行動は早かった。

私とクーでサラの両隣に行き挟み込んで逃げ道をなくす。

その様子をヒオは微笑ましく見ている。

 

しばらくからかっているとサラが声を大きな声で叫ぶ。

「だぁー!もういいだろ!」

いくら凄んだところで顔を赤らめ涙目になっているので可愛いものだ。

まぁこれ以上は流石に可哀そうなのでやめてあげるとする。

 

だけど大事なことだからこれだけは言葉にしておこうかな。

「私はサラのことも、クーのことも、ヒオのことも大事な仲間だと思ってるよ」

茶化すわけじゃなくてね、と付け足した。

するとクーも続けて「クーも!」と大きな声で叫んでサラに抱き着く。

ヒオも微笑んで「私もそう思ってますよ」と控えめながらに言っていた。

サラはプイっと他所を見ていたがちゃんと伝わっていると思う。

 

引っ付いていたクーが体を離し上目遣いにサラを見た。

「でもさ、本当にいいの?こういうの好きなんでしょ」

そういうと黄金の爪を指さしていた。

サラは軽く息を漏らすと

「あぁ、いいんだよ。武器そのものも好きだけど、なんていうのかなぁ」

首を捻りうんうんと唸っている。

「その武器にまつわる物語っていうのかな。そういうのも好きなんだよ」

私は疑問を口にしてみる。

「この爪だったらあの棺桶に入っていた理由とか?」

こちらの目を見てサラはしっかり答える。

「そうだな。あの棺桶に入っていた王様、なのかな。その人を死後も慰めるために一緒に入っていたんだろうさ」

遠い目をしながら言葉を続けた。

「武闘派の王様でその爪で勇敢に戦っていたのかもしれない。

そうじゃなくて、忠誠を誓っていた騎士が王様が亡くなったから、せめて自分の武器を一緒の棺に入れて王様を守ろうと祈っていたのかもしれない」

少し目を伏せた後、ゆっくりと瞼を閉じて夢想する。

「そうやって武器に込められたことを考えるのが好きなんだ」

そう告げるサラはとても穏やかな顔をしていた。

 

なんというか意外である。

いつも武器を振り回して豪快に笑っていたり、武器を見てうっとりしている人とは同じ人物と思えない。

これではまるで物語を読み、思いを馳せる文学少女のようではないか。

クーもヒオも目をパチクリと何度も瞬きをしている。

 

サラは私たちの様子に気付かず尚も続ける。

「でも今はそれだけじゃないかな」

ゆっくりと開けられた目には暖かい光が宿る。

「皆で冒険して、失敗もして、それで手に入れたお宝ってさ」

口元が柔らかく微笑む。

「もうそれが一つの物語みたいだなって思える」

すると今度は前を向いて、いつも通りの活気のある笑顔を見せた。

「だから誰が持っててもいいんだ。それがいいんだ」

言い切ると私達の方を見回した。

 

私達は呆気に取られていた。

いつも姉御肌で皆を引っ張っていってくれる彼女にこんな一面があったとは。

想いを馳せる対象こそ武器ではあるが、感性が乙女である。

こんなにロマンティックな人だとは考えもしなかった。

今もニコニコと微笑んでいるサラを見ると先程のように揶揄う気も湧き上がってこない。

この人、こんなに可愛かったっけ?

 

 

呆然としている私達を見てばつが悪くなったのか視線を泳がせるサラ。

あたふたとしながらも話題を変えた。

「そういえば、あの地下フロアの魔物達は間抜けだったな」

ハッとし応えるヒオ。

「間抜けといいますと?」

サラは首を傾げ

「気付かなかった?あいつら何度も呪文唱えようとしてたのに全部不発だったんだよ」

横からクーが元気に「あったあったー!」と声を上げている。

サラが両手を前に掲げて

「こう今にも呪文を唱えます!みたいな感じだったんだけど」

クーがそれに続く。

「何も起きなかったよね。隙が出来て良かったけど」

うんうんと頷くサラ。

 

私はブーメランを投げては拾ってを繰り返していたので気にする余裕がなかった。

前衛二人組だから気付いたのだろうか。

ヒオは私の方を見て確認しようとする。

だが私も首を横に振る。まるで気が付かなかった。

クーはヒオに尋ねる。

「魔物も自分の魔力が枯れてるのに気付かないってことあるの?」

首を捻るヒオ。

「どうなんでしょう。あまり聞く事例ではないですね」

専門家がわからないのではどうしようもない。

 

サラは笑って口にする。いつもの調子が戻ってきたようだ。

「ずっと暗いところにいたから寝ぼけてたんじゃないか」

私もつられて笑う。

「案外そうかもね。やっぱりお日様の光を浴びないと」

 

皆で笑っていると、窓の方から夕陽が差し込む。

こうやって話していたら疲れた体も少しはいうことを聞いてくれそうだ。

宿屋のおばちゃんが晩御飯を用意してくれるまでまだ時間はある。

 

とりあえずは体の汚れを落とそうか。

「今、お湯もらってくるから体綺麗にしちゃおっか」

よっこらしょといって立ち上がる。

やっぱり体はまだ怠いままだ。

部屋を出ようとするとクーもついて来てくれた。

「手伝うよ。一人だと重いでしょ」

ニコニコと笑うクーを夕陽が眩しく照らす。天使かな?

「ありがと。じゃあ手伝ってもらおうかな」

厚意に素直に甘えることにする。

 

ドアを閉めてしばらくすると部屋の方からヒオの情けない叫び声が聞こえた。

大方、ベッドを砂まみれにしたことに慌てているのだろう。

大声を出せるくらい元気が戻ったのならしっかり掃除してくれるはず。

おばちゃんに怒られないように出来るだけ綺麗にしておいてほしい。

心の中でそう願いながら、クーと仲良くお湯をもらいに行くのだった。

 

 

私達はピラミッドの秘密に全く気付かなかった。

地下のフロアは呪文がかき消されるということに。

だがそれに気付くことなど到底無理な話である。

だって私達は呪文を知らないパーティなのだから。




明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

拙作をお読みいただきありがとうございます!
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改めて感謝の言葉を伝えさせてください。
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