ドラゴンクエストⅢ 呪文を知らない娘たち 作:Projectアリア
ガルナの塔にて
考えが甘かった。
いくら悔いても悔いきれない。
そんなことを考えつつ歯を食いしばる。
それが怒りによるものなのか、悲しみからなのか。
頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
とにかく今は魔物に見つからないように息を潜め走り抜ける。
目を血走らせ、周囲を鋭く見渡す。
魔物の注意が逸れたのを確認して階段を飛ばし飛ばし駆け上がっていく。
もう少しなのだ。
もう少しで皆のもとに戻れる。
壊滅的な状況であったがサラが上手く立ち回ってくれたのを祈るしかない。
自分から漏れる荒い呼吸の音だけが私を満たす。
肺が限界に近い痛みを訴えるが、立ち止まるわけにはいかない。
サラが武器の手入れをして幸せそうに微笑んでいる。
クーが鍛錬で汗を流し爽やかに笑う。
ヒオはまた机の上で突っ伏している。疲れているのだろうが満足げな表情だ。
さっきから皆の顔が浮かんで頭から離れない。
階段の終わりが見えてくる。
すぐ先の広場に皆がいてくれるのを願った。
そして目の前に広がる光景は私の大切なパーティの亡骸だった。
意志とは関係なく涙が頬を伝う。
私達のパーティは全滅した。
魔法の鍵を入手した私達。
次の目的地であるポルトガへと向かうためロマリアの関所を通過していた。
次第に魔物も手強さを増してきたが、あのピラミッドを攻略できたのだ。
その結果は私達に自信を持たせた。
それを助長するかのようにここら辺の魔物は悪辣な魔物はいない。
旅は快適に進み、程なくしてポルトガに到着した。
恒例行事のようになっている王様へのご挨拶。
旅の目的を話していくと船を譲ってくれるそうだ。
ただその代わりに『黒コショウ』なる調味料が欲しいとお願いされた。
船一隻ほどの価値がある調味料とはどんなものなのか。
もしくは『黒コショウ』とやらにそれほど魅了されているのか。
どちらにせよアリアハン王よりも気前のいい提案に快諾する。
隠しきれていないがサラも調味料に興味津々だった。
一料理人としてどんな調味料なのか気になるのだろう。
本人は小さな声で呟いているつもりだろうが声が大きいので普通に聞こえてくる。
サラの方をじっと見ていると視線に気が付いたのか目を合わせて一言。
「スプーン一杯くらいなら・・・」
ダメです。
その調味料を生産しているのはアッサラームから山を越えて南東にある町バハラタ。
山越えは大変だから、麓に住むドワーフを尋ねるよう勧められた。
王様からもらった手紙を渡せば抜け道を教えてくれるそう。
旅路が楽になるのは助かるので勧められたとおりにする。
何事もなくバハラタへ到着。
しかしなにやら揉めている様子。
どうやら町の女の子が攫われたみたいだ。
黒コショウを取り扱っているところの娘さんらしい。
困っている人は見捨ててはおけない。
これでも勇者の端くれ。
その人攫い共から娘さんを取り戻すと約束する。
決して助けた恩で黒コショウを譲ってもらおうとは考えていない。
ヒオがジトっと湿った視線を投げかけるが気にしない。
「私は困ってる人を見捨てておけないだけだよ?ヒオ」
ため息をついて呆れている。
「まぁ黒コショウの値段を聞いたから気持ちはわかります」
そうなのだ。
山盛りの黒コショウの値段を考えると私達ではとても買えない。
そこら辺の魔物が絶滅してしまう。
だけど攫われた人を放っておけないのも本当だよと伝えると
「それもわかります。しっかり助けてあげましょう」
ニッコリと微笑んでそう話すヒオは本当にありがたい人である。
そのまま勢いで人攫い共のアジトへと強襲をかけた。
そこで何やら覚えのあるシルエットが見える。
カンダタである。
あれだけボコボコにしたのにまだ懲りていなかったようだ。
向こうも私達をしっかり覚えていたようで目に見えて慌てている。
やけくそになったのか。
突然襲い掛かってきたが、当然返り討ちである。
悪事しかしてこなかったものと、新しい町に着くたびお金を貯めるため魔物を狩っている私達とでは鍛え方が違う。
前回以上にボコボコにしたが今回は良心が痛まない。
また見逃してくれるよう懇願してくるが今回は許さない。
どこの王城に突き出してやろうかと悩んでいる間に隙を見て逃げられた。
追う気も起きなかったのでサラが大きな声でカンダタ達に
「次はないからなー!」と大声で凄み、鋭い睨みを利かしてくれた。
一瞬、ビクッと止まったがまた走り出したカンダタ達。
次見かけたときは問答無用で殴り倒そう。
だからあの覆面を脱いで真っ当に生きてくれ。
無事に女の子が町に辿り着いたのを確認すると黒コショウ屋からダーマ神殿に行ってくれとお願いされる。
そこで受け渡してくれるらしい。
ダーマ神殿は有名な場所なので是非行ってみたいとは思っていた。
黒コショウを受け取るついでに観光も兼ねることにする。
ダーマ神殿に着くとその変わった作りの建物に圧倒された。
見ごたえのある建物にクーがはしゃいでいる。
神殿内にある像なんて大きくて強そうだ。
これが動く石像になったらちょっと勝てそうにない。
はしゃぐクーが像と同じポーズをとって
「どう?強そうに見える?」
私達は目を細め穏やかな気持ちになった。
サラもヒオもクーの頭を撫でている。
またここは転職の聖地でもあるので、皆に一応確認は取ってみる。
サラは扱える武器が少なくなるから嫌だといい、
クーも武闘家を極めてないのに他の職に就く気はないらしい。
研究を生業にしているヒオも同意見のようだ。
折角、ダーマ神殿に来たのに誰も転職する気はないそうだ。
想像通りといえばそうなのだが本当に観光するだけになってしまった。
ダーマ神殿を練り歩いているうちにガルナの塔という場所にお宝が眠っているという情報を手に入れた。
腕試しも兼ねてお宝を手に入れようと思う。
クーは腕試しと聞いてテンションが上がっているし、ヒオも新しい魔物がいるならと乗り気になっている。
サラはお宝が武器ではないと聞いているので左程興味がなさそうだった。
塔に着き探索を始める私達。
魔物と出くわすも今まで戦ってきた相手と強さはそう変わらない。
一応の用心はしていたが、気を張りすぎていたのかもしれない。
二階に上がっていくと魔物の顔ぶれが少し変わる。
ドラゴンのような強敵も出始めた。
多少の苦戦はするものの倒せない相手ではない。
相手が強くなっていても自身の力が通じていることにクーは喜びを感じている。
胸の前で拳を強く握りしめ、幼い顔立ちの中でも瞳は力強く輝いている。
ヒオもまた希少なドラゴン種がいたことに喜び今は足を止めてメモを取っている。
色々な魔物を研究することが出来て嬉しいのだろう。メモを取る手が軽やかだ。
同様に三階の探索も順調に終わり、四階への階段を上るところでサラが私に近寄り耳打ちしてくる。
「少し緩みすぎじゃないか」
サラの言葉にハッとする。
確かに気が緩んでいたかもしれない。
魔物も多少の苦戦はするものの勝てないわけではなく、探索自体は順調だ。
今もヒオとクーが先行して塔に眠るお宝について話している。
「そう…かも。階段を上ったところで少し休憩を取って気を引き締め直そうか」
サラの言うこともごもっともだったので素直に提案を受け入れる。
私がそう答えると静かに歩みを進め、二人に近づいていくサラ。
ダンジョン探索なのだ。ずっと緊張しているのも良くないが今の雰囲気は確かに良くない。
頬を両手でパチンと叩き、皆に追いつこうと駆け寄った。
だが、最悪というのは蛇のように僅かな綻びから這い出てくる。
私が追いついたところで鳥型の魔物に強襲された。
臨戦態勢を取る間もなく風の呪文が幾重にも唱えられ私達は壁に叩きつけられた。
痛い、というよりも頭がパニックを起こしている。
今の一瞬だけで体中が傷だらけになり満身創痍だ。
少しでも落ち着こうと鋭く息を吐き、新しい空気を肺に取り込む。
まずは現状把握。
周囲を目の動きだけで素早く確認する。
すぐ目に入ったのはヒオとクーの二人だ。
壁に叩きつけられたままの体制でぐったりしたまま動かない。
気を失っているのかもしくは…。
悪い考えが頭の中を巡りそうになるのを無理矢理中断させるように大声を出す。
「サラッ!」
二人とは反対方向から大きな声で返事が返ってきた。
「生きてる!」
声のした方に目線を走らせサラの姿を確認する。
向こうもボロボロだが何とか立ち上がっている。
サラも私の姿を確認した後、二人の姿を捉え苦虫を潰したかのような顔をする。
魔物達の下品な笑い声が鼓膜を打つ。
ボロボロの私達を見てどう痛めつけるかを考え嘲笑しているのだ。
頭に血が上りそうになるが、唇を噛みしめ気を保つ。
二人を助けるにもまずは私とサラがこの場を凌がねばならない。
薬草を口にねじ込みすぐに飲み込む。
サラに指示を出そうと口を開く。
「物陰に隠れて体力を、うわぁーー!」
突如として暴風が私を襲う。
先程の風とはまた違う。キメラの翼で飛ぶ時に近い感覚に襲われた。
吹き荒ぶ風の中で必死にサラに手を伸ばすがどんどん遠のいていく。
景色が物凄い勢いで遠のいていく。
最後に見えた鳥野郎の歪んだ顔がひどく目に焼き付いた。
アリアが遠くに吹き飛ばされた。
伸ばしていた手を取れなかったことが悔やまれる。
その場から動けず、伸ばされていた手を引っ込める。
少しの間、呆然としていると糞鳥どもの下卑た笑い声が辺りに響く。
ボロボロになった戦士一人をどう料理しようか相談でもしているのか。
「腹を括るしかないね」
自分を奮い立たせるように独り言を呟く。
この状況はもう逃げ切れるようなものではない。
ならばせめて、一匹でも多く倒す。
少しでも手傷を負わす。
きっとあの勇者は後で駆けつけてくる。
そう思うと口が少し緩む。
その時に少しでも楽になるよう。
私が今できるのはそれくらいだ。
糞鳥どもの周りに風が漂い始める。
もう一回は耐えられないかな。
私は雄たけびを上げ、奴らに突撃した。
気が付くと塔の前まで吹き飛ばされていた。
ひどく酩酊したような感覚に襲われるが、そんなことに構っていられない。
一刻も早くあの場所に戻り皆を助ける。
ふらつく体でがむしゃらに大地を踏みつけてゆく。
真っ直ぐ進んでいるかもわからない。
だが道は覚えている。
少しずつだがあの場所へ近づいているのがわかる。
歩みを進めているとひどい吐き気が襲ってきた。
我慢できずにその場で嘔吐する。
血だまりが混ざっていた。壁に打ち付けられたときにどこか痛めのかもしれない。
胃液がでるまで吐き切ると少しすっきりとしてきた。
涙を拭い、薬草を口の中に突っ込んでおく。
次第に酩酊感もなくなってくるとサラの言葉が頭をよぎる。
「少し緩みすぎじゃないか」
思わず唇を噛みしめる。
噛んだ唇の端から血が流れてくる。
同時に自責の念で押し潰されそうになる。
何が勇者だ。
旅の管理をするだけならガイドでも雇えばいいんだ。
ただでさえ呪文が使えないんだぞ。
足りてないところを補うようにしなきゃ本当にただのガイドじゃないか。
でもそうじゃないだろ。
旅をするだけじゃないんだ。
魔王を倒して世界を救う。
それだけでもないんだ。
大切なパーティを無事に連れ戻すのが一番じゃないか。
誰かを犠牲にして世界を救ったって。
私達は、私は救われない。
我が儘だって何だって言われたっていい。
私はパーティの皆が好きだ。
誰かが欠けてまでなんて世界を救いたくない。
頭の中で考えていると涙が溢れそうになる。
必死にこらえて、そうなった時のことを振り払うかのように駆け出す。
でも一度頭をよぎった最悪は中々振り払われない。
ごちゃごちゃと考えすぎる頭を壁に打ち付ける。
痛みが私を目の前の問題に引きずり降ろしてくれる。
今は皆のもとに早く行きたい。
サラを一人残してしまっている。
サラなら上手く立ち回ってくれるだろうが長い時間は難しいだろう。
お願いだから。
お願いだから無事でいて。
魔物に見つからないよう注意を払いながらも走り抜けていく。
階段が続いていくところまで来た。
鳥野郎に襲われたところまであと少しだ。
近づくにつれ辺りが静かなことに気付く。
嫌な考えが頭をちらついて離れない。
悪い方に考えるな。
もしかしたらサラが火事場の馬鹿力で鳥どもをなぎ倒した後かもしれない。
私が到着したらボロボロになりながらも「私一人に押し付けてサボりやがって!」と叱られるだろう。
でも、それでいい。とにかく無事でいてくれ。
今は皆の声が聞きたい。
階段を駆け上がり、目の前の光景に言葉を失う。
そこには壁に打ち付けられたままのヒオとクーが変わらずにいた。
その前には先程よりもさらに傷つき、大量の血を流したサラがいる。
涙が溢れる。
私は赤ちゃんのように泣き叫んでいた。
書いていて辛いです。
現状のままにしたくないので出来る限り早く続きを書きます。