ドラゴンクエストⅢ 呪文を知らない娘たち 作:Projectアリア
ガルナの塔にて
周囲に魔物がいるかもしれないことを忘れ、ただ泣き叫んだ。
しかし、すぐに我に返り嗚咽を喉奥に押し込んだ。
このままでは魔物を呼んでしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
皆のもとに駆け寄りそっと手を伸ばす。
触れた瞬間、冷たさが指先からじわりと這い上がり胸を締め付ける。
また涙が出そうになるのをぐっと堪える。
泣いている場合ではないと自分に言い聞かせた。
一刻でも早く教会へと連れていき蘇生してもらう。
サラを背に抱え落ちないように紐で固定し、右手にヒオを、左手にクーを抱える。
魔物に見つからないよう最大限の警戒をして進んでいく。
きっと肉食獣の群れに放たれた小動物とはこんな気持ちなのだろう。
ただただ恐ろしい。
つい数時間前までは蹴散らしていたはずの魔物。
そんな魔物達でさえ今襲われてしまえば負けてしまう。
いや負けてしまうのではない。
死んでしまうのだ。
その言葉がよぎると体に一層冷たさが走っていく。
恐怖による震えと心細さを無理矢理押し込んで歩く。
腕が重い。
足が前へと進まない。
全身に疲労と痛みが駆け巡る。
キメラの翼が使える所までいけば町に行ける。
その希望だけを心の拠り所にする。
今は皆の声が聞きたい。皆の何気ない声が頭の中を過ぎる。
私の弱い心が三人を求めてやまない。
どうしても三人を意識してしまう。
しかし、返ってくるのはその体の冷たさだけ。
それがまた涙と鼻水を止めどなく引き出した。
今は拭う体力すらも惜しい。
もう少しだ。
もう少しで天井の開けた場所に出る。
そこでキメラの翼さえ使えれば。
あと数歩の所に日の光が差す場所が見える。
手を伸ばせば届きそうな距離なのに遠い。
後のことなど知らない。
今ある力を振り絞って日の光が当たる場所に出た。
後はキメラの翼を使うだけだ。
道具袋の中を力の入らない手で探す。
普段からもっと整理しておけばよかった。
どうにか目当てのキメラの翼を探し出し掴み取る。
もう一度、物言わぬ三人を絶対に離すものかと力の限り抱きしめる。
冷たいよ。
早く皆の温もりを感じたい。
震える手でキメラの翼を空中に放りなげた。
輝き始めたそれをを祈るような気持ちで見つめる。
場所はここから一番近く教会があるところ。
泣き叫んで枯れ果てた声で精一杯叫ぶ。
「ダーマ神殿まで・・・連れていけぇー!」
浮遊感が身体を包み込んだ。
しっかりと発動したのを確認すると安心感からか気が遠のく。
そこで私は気を失った。
どれくらい気を失っていたかはわからない。
気が付くとベッドの上に横たわっていた。
ここがどこだかわからない。
混乱している頭を落ち着かせ記憶を手繰り寄せる。
三人のことがすぐに頭を過ぎる。
勢いよく起き上がり辺りを見渡す。
どうやら宿屋の一室のようだ。
近くに三人の姿は見当たらない。
とにかくあの後どうなったかを知りたい。
焦る気持ちを抑えることが出来なかった。
早く三人の居場所を確認しなければと自身に言い聞かせる。
体が泥のように重いが気合を入れてベッドから這い出る。
歩くことすら辛いが一歩ずつ踏み出す。
宿屋なら主人がいるはずだ。
引きずるように足を運び、部屋から出て宿屋のカウンターを目指す。
幸いカウンターから一番近い部屋だったらしい。
主人らしき人がすぐに見えた。
向こうもこちらに気付いたらしい。
慌てた様子で駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!ひどい状態でしたよ!」
いい人なのだろう。純粋に心配してくれている。
「大丈夫です。ありがとうございます」
逸る気持ちを抑え、まずはお礼を。
「いえいえ、いいんです。放ってはおけないでしょう」
心遣いが身に染みる。
感傷に浸る間もなく我慢できずに宿屋の主人に質問する。
「私の仲間は近くにいませんでしたか。戦士と武闘家と魔物使いなんですが」
主人は顔を曇らせ言いづらそうに口を開く。
「うちに運ばれてきたのは貴方だけでした。お仲間はその・・・恐らく教会の方に」
改めてその事実を聞くと目頭が熱くなる。
目を閉じて我慢した後、再度お礼を言った。
一人分の宿代を払い教会へと向かう。
幸い宿から教会は近かった。
講壇の前に神父様がいらっしゃる。
軽く挨拶をした後、三人のことを尋ねた。
「こちらに三人の冒険者が運ばれてはおりませんか」
神父様は静かに答える。
「はい。こちらで預かっております。身は清めさせていただきましたが」
そういって冒険者用の棺桶の方へ案内される。
棺桶の中には汚れを落とし綺麗にしてもらった三人がそれぞれ入っていた。
喉が引きつって言葉が出てこない。
それでも神父様の方に向き直り、大事なことを確認する。
「蘇生はまだ・・・間に合いますか?」
心臓の音がうるさく鳴り響く。
神父様は真摯な瞳で優しく語り掛けてきた。
「大丈夫でしょう。安心なさい」
その言葉を聞くと足から力が抜けた。
へたり込む私に神父様も慌てるが手で制す。
「お願いします」
その一言しか言えなかった。
「わかりました。あちらで休んでいてください。貴方もお疲れのようですから」
椅子の方に指を差す神父様にお礼を言って何とか立ち上がる。
椅子に座ると力が抜ける。
教会であまりだらけるわけにもいかず、なんとか体裁を保つ。
しばらく待っているとシスターが状況を説明しに来てくれた。
蘇生の準備は順調らしいとのこと。
暗黙の了解なのだが、この時に教会への献金を渡す。
額は冒険者によって違うらしく足りていない場合はシスターとのお話が続く。
なんだか足元を見られているようで複雑な気持ちである。
シスターとのお話が長くならないように少し多めに包むのが冒険者の習わしだ。
幸いシスターとのお話は短めで終わり、また待つことになった。
安心して気が緩んでくると瞼が重くなってくる。
うとうとしていると三人分の足音が近づいてくるのに気付く。
ハッと顔を上げて音のする方へ顔を向ける。
そこには歩いている三人の姿が映った。
サラの私を心配する目がわかる。
クーが意気消沈といった感じで肩を落としている。
ヒオは真面目な顔で何か考えているのだろうか。
居ても立ってもいられず駆け出した。
サラが頬をかきながら呟く。
「あー。すまなかった。ってうわ!」
何か言っていたが知るもんか。
私は両手を広げて三人を一纏めに抱きしめた。
温かい。
皆の体温を感じると涙が零れてくる。
枯れるほど流した涙だと思ったが、どうやらまだ出てくるらしい。
まぁいいかと気にせず一段と力強く抱きしめる。
腕の中でクーがもぞもぞと動く。
サラの胸に顔が埋まっているようだった。
慌てて皆から手を放す。
「ごめんねクー。大丈夫?」
息を整えて私を見つめるクー。
そして優しく私を抱きしめ腰に手を回す。
「アリアごめんね。一人にさせちゃった・・・」
この子は優しい子だ。
あんな目にあったのに心配してくれる。
私も抱きしめ返しクーを感じる。
「ううん。ありがとう」
優しく温かい雰囲気に包まれ時間が流れる。
ヒオがコホンと咳払いをする。
困ったように眉を寄せ口を開く。
「気持ちはわかりますが場所を移しましょうか」
周りにサッと視線を走らせるヒオ。
私も周りを見渡す。
そういえば教会だった。
非常に名残惜しいがクーと離れる。
温かい目をしたサラが提案する。
「今日は宿を取って休もうか。ここダーマ神殿でしょ?」
その提案に同意する。
流石に今日はどこにも出かけたくない。
来るときは一人で来た道を四人で戻る。
色々とあったがまたパーティでいられることに幸せを感じる。
帰りの道は心なしか足が軽く感じた。
夜になり今日は早めに寝ようということでいつもより早いが就寝した。
ぐっすりと寝ていると体を揺すられる。
瞼を開けるとヒオが口に人差し指を当て、静かにというジェスチャーをしている。
私が起きたのを確認すると部屋の出口の方を指差す。
何か話があるのだろうか。
もそもそと起き上がりサラとクーの方を見る。
二人ともぐっすり眠っている。
起き上がってくる心配はなさそうだった。
ヒオに視線を戻し頷く。
二人を起こさないように静かにベッドから出て部屋を抜け出す。
宿屋から出て地上への階段を上る。
その間もヒオは一言もしゃべらない。
何か神妙な顔つきで考え事でもしているようだった。
外に出て夜空を見上げると星が輝いている。
少しの間見惚れているとヒオから話しかけてきた。
「今回のこと、すみませんでした。正直油断していました」
後悔しているのがわかる。
だがそれはお互い様だ。
「ううん。私も油断していた。パーティのリーダーなのにね」
自分自身に呆れるが今回のことで身に染みた。
いくら強くなってもこれではダメだ。
ヒオが慌てて私の言葉を遮る。
「いえ!それこそパーティ皆で気をつけないと・・・」
途中まで言葉にしてクスッと笑う。
「なんだかお互い謝ってばかりですね」
私もつられてクスリと笑う。
「そうだね。謝ってばっかりだ」
二人で笑いあった後、私はヒオに尋ねる。
「何か話したいことあるんじゃない。どうしたの?」
ヒオは目を伏せ眉根を寄せる。
話しにくいことなのだろうか。
意を決したのかヒオが語りだす。
「・・・以前、私が魔性とゴールドについて話したのを覚えていますか」
勿論、覚えている。
私としても興味深い話だった。
頷くとヒオが続ける。
「今回、私は死にました。そして蘇生してもらいました」
改めて言葉にされると心臓を掴まれたような感覚になる。
「そしてその対価に教会にゴールドを献金しましたね」
私はヒオを見つめたまま頷く。
一つ一つ確認するように質問したあとに考え込むヒオ。
「あの時、アンデットについても話しましたよね」
その話も覚えている。
「死体に魔性が宿って生まれ変わっているって話だよね」
ヒオの表情は硬い。
その表情を見て最悪の考えが頭に浮かぶ。
「まさか・・・蘇生するとアンデットに?そんな馬鹿な・・・」
思わず声が震えた。
「いえ、それはないでしょう。もしそうなら魔物になっているはずです」
きっぱりと断言するヒオにホッと胸をなでおろす。
安心したところに、ですが、と言葉を放つ。
「関係はあると思うんです」
今度こそ心臓を鷲掴みにされた気がした。
「ゴールドとは魔性が形になったもの。前にそう話しました」
目を伏せたまま話し出す。
私はヒオから目が離せずにいた。
「教会に蘇生を依頼したときにはゴールドで献金します。それも冒険者によって額が変わります」
そうだ。足りていなかったらシスターとずっと話すことになる。
「強い冒険者ほど必要なゴールドが多くなります」
聞いていると以前の話が頭の中で反芻する。
「魔性をそのまま利用しているとは思いません。教会で清めて利用しているのかもしれません」
話しているヒオの顔が青白く見える。
自身も話しているうちに恐ろしい考えがちらついているのだろう。
「ですが、本質はアンデットの魔物と同じ」
言い返すことが出来ない。
口の中はカラカラに乾いている。
「アリアさん、お願いです。答えてくれませんか」
ヒオは今にも泣きそうな顔になっている。
本当は縋りつきたいのだろう。
「私は私のままですか?」
言葉を最後まで言い切ると膝から崩れ落ちた。
地面に着く前に抱き留める。
胸の中で嗚咽を漏らしてヒオが泣いている。
私にはその答えを即答することが出来なかった。
「大丈夫だよ。・・・うん。大丈夫」
馬鹿のように同じ言葉を繰り返す自分に腹が立つ。
今は腕の中で悲しむヒオをきつく抱きしめることしかできなかった。
このどうにもならない思いを胸にしたまま空を見上げる。
こちらを気にせず無情にも煌めく星々が憎らしく思えた。
暗い話が苦手だということがわかりました。
筆が全然進まない。