日英同盟召喚   作:東海鯰

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未開の文明国の接触7

神奈川県横須賀市

海上自衛隊横須賀基地

 

「おはようございます、皆様ゆっくり休んで頂けましたでしょうか?」

 

待合室に集まっていたクルセイリース大聖王国の調査団をアキコら日英の案内役が迎えに行く。

 

「本日は皆様に我が国並びに英連邦王国の海上戦力を観ていただきます。間もなく迎えの者が参りますので、今少しお待ちください」

 

数十分後、複数人の制服姿の自衛官が現れる。

 

「それでは、皆様を護衛艦「いずも」までご案内致します。我々に続いてください」

 

クルセイリース大聖王国の調査団や日英の案内役は海上自衛隊が手配した車で近くまで移動する。

 

「灰色の艦が沢山ありますね、あの色には何の意味があるのでしょうか?」

 

ニースは基地内に停泊している多数の護衛艦を指さして案内役の自衛官にそう尋ねる。

 

「あの艶のないグレーの塗装には、敵に見つかりにくくする効果を期待してあの色になっています。海や空、曇天の風景に同化しやすくなっているのです」

 

案内役の自衛官は護衛艦の塗装の理由を簡潔に答える。やがて車は護衛艦「いずも」が係留されている桟橋に到着。タラップを使い、彼等は艦内に足を踏み入れた。

 

 

練習艦「かしま」後部ヘリコプター甲板

 

「いよいよか・・・」

「ヒロシ先輩も出世しましたね。内閣総理大臣と次期天皇がご乗艦される御召艦の艦長ですからね!!」

 

練習艦「かしま」の後部ヘリコプター甲板では、同艦の幹部らが高市沙苗内閣総理大臣と悠仁親王殿下が乗艦するのを待っていた。

 

「あ、来ましたよヒロシ先輩! 情けない姿は見せないでくださいよ?」

「わ、分かってる!!」

 

やがて、高市沙苗内閣総理大臣と悠仁親王殿下を乗せたMV-22Jオスプレイが着艦する。オスプレイから両名が降機し、隊員らは一斉に敬礼する。艦長であるヒロシはガチガチになりながら両名を案内し、医官であるが戦闘経験豊富なケントが護衛につく。同時に内閣総理大臣旗と親王旗が掲揚され、海上自衛隊第一回異世界観艦式がスタートした。当初は護衛艦「いずも」が御召艦になる予定であったが、潜在的敵国の調査団と総理大臣並びに親王を同乗させる訳には行かず、急遽御召艦が変更になった経緯がある。栄誉礼を経て、内閣総理大臣と親王を乗せた練習艦「かしま」を含めた4隻が西へ進む。それとすれ違う形で37隻の艦艇部隊が東へと進んでいく。その後航空機の編隊が「かしま」上空を飛行する。参加艦艇の内訳は先頭から、

 

 

西方面行艦艇

・護衛艦「ゆきかぜ」

・練習艦「かしま」

・護衛艦「いずも」

・護衛艦「もがみ」

 

東方面行艦艇

・護衛艦「あきづき」

・イージス艦「こんごう」

・護衛艦「はるかぜ」(ゆきかぜ型護衛艦の2番艦)

・護衛艦「たかなみ」

・練習艦「しまかぜ」(英連邦パラディオン王国海軍の2期生が海上自衛隊の訓練生と共に訓練中)

・補給艦「おうみ」

・輸送艦「ぼうそう」(ぼうそう型輸送艦の1番艦・就役したばかりの最新鋭輸送艦・F35Bの搭載が可能な実質的な強襲揚陸艦)

・原子力潜水艦「やまと」

・掃海母艦「うらが」

・掃海艦「ひらど」

 

祝賀航行艦隊(英空母打撃群・第一陣)

・イージス艦「はぐろ」

・空母「プリンス・オブ・ウェールズ」(イギリス海軍)

・駆逐艦「ドラゴン」(イギリス海軍)

・原子力潜水艦「ウォースパイト」

・フリゲート艦「オタワ」(カナダ海軍)

・フリゲート艦「バンクーバー」(カナダ海軍・ゆきかぜ型護衛艦の輸出仕様の1番艦就役に伴い、帰国後に除籍予定)

・駆逐艦「シドニー」(オーストラリア海軍)

・フリゲート艦「ハンター」(オーストラリア海軍)

・補給艦「ストールワート」(オーストラリア海軍)

・フリゲート艦「タラナキ」(ニュージーランド海軍)

 

祝賀航行艦隊(第三文明圏諸国・第二陣)

 

・護衛艦「によど」

・フリゲート艦「ギム」(クワ・トイネ公国海軍・もがみ型護衛艦の輸出仕様)

・フリゲート艦「タイラー」(クイラ王国海軍・もがみ型護衛艦の輸出仕様)

・駆逐艦「ジン・ハーク」(ロウリア王国海軍・あたご型護衛艦の輸出仕様・初の異世界国家へのイージス艦輸出)

・フリゲート艦「ビーズル」(ロウリア王国海軍・もがみ型護衛艦の輸出仕様)

・哨戒艦「ニヤサランド」(ローデシア連邦海軍・海上保安庁のつがる型巡視船がベースの重武装化仕様)

・フリゲート艦「ル・ブリアス」(アルタラス王国海軍・わかば(ゆきかぜ)型護衛艦の輸出仕様)

・フリゲート艦「デュロ」(パーパルディア皇国海軍・もがみ型護衛艦の輸出仕様)

 

 

祝賀航行艦隊(第一・第二文明圏諸国・第三陣)

 

・護衛艦「しらぬい」

・フリゲート艦「サタン」(ムー国海軍)

・フリゲート艦「ヒルス」(ムー国海軍)

・戦艦「グレート・ガルマ」(新生グラ・バルカス帝国海軍)

・巡洋艦「アルタイル」(新生グラ・バルカス帝国海軍・近代化改装済)

・補給艦「ガイア」(新生グラ・バルカス帝国海軍・14500トン級新型輸送艦の輸出仕様)

・哨戒艦「第3号」(神聖ミリシアル帝国海軍・さくら型哨戒艦の輸出仕様)

・輸送艦「あおぞら」(陸上自衛隊)

・巡視船「いず」(海上保安庁)

 

と、なっている。御召艦となった練習艦「かしま」では、高市沙苗内閣総理大臣の隣でガッチガチのヒロシと悠仁親王殿下と親しげにすれ違う艦艇について説明を行うケントの様子が後に観艦式の様子を収めた動画として公開されるのである。

 

 

護衛艦「いずも」艦橋

 

「クルセイリース大聖王国の皆様、ようこそ護衛艦「いずも」へ」

「そ、そなたは昨日横田基地にいた!!」

 

アバドンは出迎えたアキラを見てそう叫ぶ。

 

「改めて自己紹介をさせて頂くぜ。俺は護衛艦「いずも」の艦長、栄彰一等海佐だ。本日は皆様方には特等席で観艦式をご覧頂く事になるぜ」

 

やがて観艦式参加する艦艇が続々と出港していく。その艦艇の数の多さと洗練された艦影にクルセイリース大聖王国の調査団は言葉を失う。

 

(我が国にも水上艦艇は存在するが、此処まで洗練された艦艇は存在しない・・・・水上艦艇も究めればここまで発展するのか・・・)

(しかもイギリスの案内役によれば、イギリス海軍は2隻の空中戦艦を就役させたと聞く。水上艦艇のノウハウを転用する事は確実であり、本気になれば我々よりも洗練された飛行艦が多数就役する事になる・・・・)

 

アバドンとシエドロンは隊列を組み、一切乱れる事なく航行する海上自衛隊の艦艇を見てそのように考えていた。観艦式には、日本国のみならず、日英の同盟国の艦艇が参加するらしい。

 

「先頭を進むのは「あきづき」型護衛艦の1番艦「あきづき」だ。長崎県の佐世保を母港に活動している。「あきづき」型は第2世代の汎用型護衛艦として建造された艦で、4隻が建造されている」

 

アキラがすれ違う艦艇について説明を行う。

 

「ん?! あの平べったい艦は航空機を積んでいるぞ!?」

「昨日見たユーロファイタータイフーンとはまた違うぞ??」

 

調査団員2名がすれ違う輸送艦「ぼうそう」を見てそう叫ぶ。

 

「ああ、アレか? アレは我々海上自衛隊最新鋭の輸送艦、「ぼうそう」だ。「おおすみ」型輸送艦だけでは、この広い異世界では数が不足している為に新たに輸送艦が必要となったンだ。本格的な強襲揚陸艦としての機能を持たせる為にかつて存在した同盟国アメリカの艦艇を参考にしたぜ」

 

「ぼうそう」型輸送艦

 

アメリカ海軍が運用しているアメリカ級強襲揚陸艦をベースにやや拡大した艦として建造された新型の輸送艦。F35B戦闘機やMV-22J輸送機、LCACエアクッション艇を搭載し、輸送艦のみならずに軽空母としても運用可能な多用途艦である。現在2番艦が進水し、3番艦が建造中であり、4番艦まで予算が承認。更にイギリス海軍やオーストラリア海軍、ロウリア王国海軍にも採用が確定している。

 

1番艦∶ぼうそう(房総半島が由来)

2番艦∶まつまえ(松前半島・渡島半島先端の西側が由来)

3番艦∶建造中

4番艦∶予算承認

 

「あの鯨はなんだ?!」

「あれは我が国初の原子力潜水艦「やまと」だ」

「潜水艦? あの艦は海の下に潜るというのか?!」

「そうだ。だがそれだけじゃねえ。あの艦は核兵器を搭載し、我が国並びに同盟国に仇為す国に対して抑止力を提供し、有事の際には容赦なく核を撃ち込む最強の兵器だ」

「·····なんと」

 

クルセイリース大聖王国の面々は頭を抱えた。それもそのはず。クルセイリース大聖王国は飛行艦は発達しているが、潜水艦なんぞ考えた事がない。つまりは、対抗する手段がない。それに加えて核兵器を搭載し、何時でも敵国を滅ぼせる。原理などは詳しくは知らないが、使われれば都市一つを丸ごと消し飛ばせることだけはイギリスを訪問した際に聞かされている。その後は各国の祝賀航行艦隊が続く。

 

「栄一等海佐殿、あの馬鹿でかい艦はなんだ!?」

「あれは我が国の同盟国、新生グラ・バルカス帝国海軍の旗艦、戦艦「グレート・ガルマ」だ。近代化改装により、対空ミサイルやCIWSを搭載し、圧倒的な火力で上陸支援や敵艦に対して砲撃が可能だ。勿論、空中を飛行する物体にも攻撃可能だ」

 

暗にお前らの飛行艦も攻撃出来ると発言するアキラ。

 

「因みに、喰らったらどうなる・・・」

 

嫌な予感しかしないが、アバドンは聞くしかない。

 

「貴国の飛行艦がどれほどの装甲を有しているかは存じあげねえが、炸薬量の少ない対空ミサイルで致命傷になる事は分かってる。そうなれば、一発でも当たればお陀仏だろうぜ」

「・・・・・・・な、なんと・・・・・」

「命中精度は如何ほどに・・・・・・」

 

シエドロンは命中精度が低くあってくれと願いながら問う。

 

「詳しくは知らねえが、最新鋭の対空レーダーと連動して砲撃が可能だから、ほぼ100%当たるだろうな。そして戦艦は単独で行動する事は稀で、必ず護衛の艦艇や空母が加わって艦隊を組む事になるから、まず傷をつける事は叶わねえ。むしろ空母艦載機がご挨拶代わりに対艦ミサイルを撃ち込むだろうな」

 

続けて航空機部隊が飛来する。先頭を飛行するのは厚木航空隊所属のP-1哨戒機。海上自衛隊所属が2機、イギリス空軍所属が1機、編隊を組んで飛行する。

 

「また違った飛行艦・・・日本は多種多様な飛行艦を運用しているのですね・・・・」

 

続けて海上自衛隊の哨戒ヘリコプターSH-60Kが3機飛来。それに続くように陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプター、CH-47JA輸送ヘリコプター、V-22輸送機が飛来。

 

「船に似た飛行艦もあるのか・・・・逆に何ならないのだ!?」

 

続けて海上自衛隊のUS-2救難飛行艇が飛来。その後に続くように航空自衛隊のC-2輸送機、F-2戦闘機、F-15J戦闘機が飛来。その後ろをイギリス空軍のユーロファイタータイフーン、オーストラリア空軍のF-35Aが飛来。

 

「・・・・・・・・・」

 

その洗練された航空機に誰もが声を失う。その後訓練展示に移り、原子力潜水艦「やまと」による浮上潜航、P-1哨戒機によるフレアの発射、US-2による離着水、ブルーインパルスによる曲芸飛行が行われる。そして観艦式最後の訓練展示、護衛艦隊による艦砲射撃が始まった。フェン王国や旧東ロウリア王国の廃船や飛行試験艦としての任務が終了した「むらさめ」や「ゆきかぜ」型護衛艦の2番艦「はるかぜ」の就役に伴い退役した「はるさめ」が標的艦として浮かべられている。

 

「・・・・・・百発百中だと!?」

 

全ての砲弾が目標に命中する様子にクルセイリース大聖王国側は更に驚く。

 

「我々の飛行艦でさえ、百発百中の大砲なんてないぞ!!」

「あれは?!」

 

続けて護衛艦「はるかぜ」が対艦ミサイルを発射する。空に向けて放たれた矢にクルセイリース大聖王国の調査団員は目を丸くする。

 

「・・・・・なんという威力だ・・・・!!」

 

標的艦「はるさめ」に命中した対艦ミサイルは一瞬にして標的艦を血祭りに上げる。もしあれが我々の飛行艦に命中したら・・・・

 

「さあさあ、どうだったかな? 我々海上自衛隊の実力は?」

 

嫌味たっぷりにアキラはクルセイリース大聖王国側サイドに問う。

 

「・・・・・・・・・・・」

「まあ、せいぜい戦争にならねえように頑張ることだな。我が国だけなら大丈夫かもしれねえが、ブリカスを敵に回したら終わりだぜ? 彼奴等は平気な顔をして核兵器を撃ち込むンだからな」

「日本や英連邦王国は飛行艦すらまともに保有出来ないクソザコ国家連合だ。そう思っていたお前らクルセイリースの姿はお笑いだったぜ★」

「・・・・・・・(#^ω^)(てめーら・・・・)」

 

 

横須賀市内の旅館

 

「明日はいよいよ日本国と英連邦王国の陸上戦力の視察か・・・・シエドロン殿、嫌な予感しかせんな・・・・」

「自分もです、アバドン殿。空と海で彼等は我が国を圧倒していました。陸でも圧倒するのは明白でしょう・・・・・・」

 

翌日の富士総火演視察に向け、横須賀市内の旅館に案内されたクルセイリース大聖王国の一行。一行は朝に水揚げされた海の幸と日本酒を味わっていた。

 

「しかし、この日本酒とやらは肴に合いますな」

「非常に美味い。我が国にはこんな酒はない。悔しいが、食の分野でも我が国は劣っていると言わざるを得ないな」

 

男性一行は刺し身と日本酒を、女性一行は最後に出された和菓子や抹茶を甚く気に入った。その後彼等は温泉で汗を流し、翌日に備えて就寝する。

 

 

海上自衛隊横須賀基地医務室

 

「久々に見たな・・・・容赦なく男をフルボッコにするアキコを」

「いやあ、コテンパンにやられましたねこれ。不適切な発言の結果だから仕方ないんですけど」

「やれやれ・・・・調子に乗るんじゃないわよ」

 

医務室ではクルセイリース大聖王国の調査団を旅館まで送った後、不適切な発言でアキコにフルボッコにされたシンとアキラがベッドで寝かされていた。

 

「さてさて、明日は陸上自衛隊の富士総火演の視察。イギリス軍による銃剣突撃も公開予定ねえ・・・まあ、戦争の回避は無理でしょうけど、威圧にはなるわね」

「やっぱり避けられないすか? アキコ先輩」

「無理ね。ガハラ神国の大使が言っていた連中がやらかすでしょうから」

「へ〜。戰場ですよ? ヒロシ先輩! 海将補になるチャンスですよ!!」

「いや、そうだけども・・・・」

 

フルボッコにされたシンとアキラを他所に、アキコ、ヒロシ、ケントの雑談と考察は続く。一方、その頃カルトアルパスでは・・・

 

 

イギリス領カルトアルパス

カルトアルパス総督府執務室

 

「まず、我々の国教であるアッラー教について御説明致します。アッラー教とは、預言者であるドナルド・マークナルドが唯一神アッラーより御言葉を授かったとされ、その御言葉を教えとして言語化したのが始まりとされております。その教えは経典として纏められ、エルサレム島全域に広がりました。初めは一部の地域でのみ信仰されていたアッラー教ですが、現在のリグル王国に繋がるエルサレム王国国王、エルサレム3世がエルサレム島を統一したことで、島全域にアッラー教が広がりました」

「ほうほう」

 

ラン・ラン・ルー総主教の言葉に耳を傾けるハルト。総主教は更に続ける。

 

「しかし、繁栄を究めたエルサレム王国も長続きはしませんでした。エルサレム島に来訪者が来たからです」

「・・・・・・神聖ミリシアル帝国か?」

「流石は大英帝国の総督にございます。はい、その通りです。神聖ミリシアル帝国の艦隊4隻がエルサレム島北岸に出現。黒塗りの大型艦はエルサレム王国に対して、開国を要求。資源豊富かつ、外界とは殆ど交流のなかったエルサレム王国は抵抗する武力を持たず、開国を決断。神聖ミリシアル帝国を始めとした、第一文明圏諸国との貿易が始まりました」

「・・・・・・まさかだとは思うが、神聖ミリシアル帝国は治外法権と関税自主権の放棄を突き付けたのではないか?」

「何でそこまで御見通しなのですか? 大英帝国の総督はそこまで御見通しとは・・・・・」

「・・・・・・勘がそう告げたからな(我が国が昔日本に要求してたとか、口が裂けても言えないな)」

 

知らぬが仏。ラン・ラン・ルー総主教は大英帝国側の事情を知ることなく話を続ける。

 

「ここで国は真っ二つに分裂してしまいました。国王リグル20世は使節団を第一文明圏諸国に派遣。彼等からの報告を受けた国王リグル20世は第一文明圏諸国との対立は絶対に避けるべきと判断。同時に国内の近代化、宗教と政治の分離、国際化に合わせた宗教改革が必要だと。肥沃な穀倉地帯と多くの人口を抱える北部では、その労働力と第一文明圏諸国に近いという立地から近代化が進展。リグル20世の提唱する宗教改革を支持する者が多数派を占めました。彼等はアッラー教の教えを柔軟に解釈する事で、国を豊かにしようと画策しました」

「例えば、唯一神アッラーはあくまでエルサレム島における神であって、島の外には別の神がいるとか、他の宗教は唯一神アッラーの教えがその地域に合わせて変化した物であり、互いに不可侵の領域だとか考えたのかな?」

「その解釈で大丈夫です。また、リグル20世は神聖ミリシアル帝国の文化を甚く気に入り、これまでは暗黙の了解であった偶像崇拝の禁止を撤廃。国宝リグル観音を建立されました。現在でもリグル観音は我が国の観光名所であり、信仰の対象でもあります」

「リグル観音か・・・・一度は見てみたいものだ。さて、話が逸れてしまったな。北部は宗教改革により近代化を成し遂げたが、南部は拒否したのか?」

「その通りにございます。南部は乾燥地域が広がり、土地が痩せている一方で鉱物資源に恵まれております。また元々南部は別の国であった事もあり、北部への対抗意識から教義がが先鋭化。唯一神アッラーも嘆く程の原理主義になってしまいました。その後、南部はアッラー・エルサレム帝国を名乗り独立を宣言。我が国は独立を承認しておりませんが、南部は独自の軍を保有し、我が国の施政権の及ばぬ領域となっております」

「原理主義・・・・か。まさかだとは思うが、特定の方角に集団礼拝とか、特定の生き物は存在すら許されないとか、特定の食べ物は例え調味料であっても許されないとか、馬鹿でかい礼拝施設を建設したりとか、礼拝中に大声で叫んだりとか、女性の扱いが終わっていたりとかではあるまいな?」

「悔しいのですが、全てその通りにございます」

「な、なんと・・・・・」

「そもそもアッラー教の教えでは、特定の方角に祈りを捧げる事はあくまで信仰の意志と忠誠を示す手段の一つであり、必ずしもそうしなければならないとは書いてありません」

「では、何故に南部ではそうなったのだ?」

「国際化を進める北部への反発心、そして自らに都合の良い解釈をする事で、自らの利権を守るためにございます」

「・・・・・・・・・最早北部と南部では全く別の宗教ではないか。そう言えば、トュルキエ共和国もアッラー教を国教としていたな」

「メスマン帝国の事ですな。メスマン帝国は当時の皇帝が離婚したいが為に皇帝自らを総主教とする国教会を創設し、分離した派閥になります。基本的には、我々と同じではありますが」

「ああ、北部でも離婚は禁止なのね」

「流石に今は緩和の方向でして、時代に合わせた解釈を国王リグル23世自らが検討中にございます」

「柔軟と言えばそうだが、一貫性がないとも言えるな。だが、これも国と民の為なのだろう。高く評価したい」

「ありがとうございます」

「さて、本題に入ろう。我が国としては、貴国と国交を結ぶ事に大いに賛成だ。南には仮想敵であるアニュンリール皇国がある。同国が我が国の勢力圏に進出して来ることを阻止しなくてはならない。それに加え、古の魔法帝国を封印している7つの秘宝を我が国の手中に収めなくてはならない。しかし、それがどこにあるかは分からない。拠点はあって困る事はない」

「で、では!!」

 

身体を乗り出すラン・ラン・ルー総主教をハルトは右手で制する。

 

「ですが、タダで助ける程我が国は御人好しではない。何処ぞの日の丸の国とは違う。我が大英帝国は実利を求める。まさか、何も手土産なしで来たわけではあるまい?」

「・・・・・流石は大英帝国の外交官。無論にございます。国王リグル23世からは、神聖ミリシアル帝国に認めていた治外法権の承認と関税自主権の放棄、そして港の999カ年租借を認めると仰せにございます」

「・・・・・・治外法権? 関税自主権の放棄?」

 

笑みを浮かべるハルト。

 

「ははは、そのようなもの、必要ありません」

「なんと!?」

 

では、何なら喜ぶのだ?!頭を抱えそうになったラン・ラン・ルー総主教だったが、それは良い方向に裏切られた。

 

「我が大英帝国は戦争を望まず、共に歩む意志を示した国に対しては大いに寛大だ。リグル王国は大英帝国と共に歩む意志を示された。我が大英帝国はリグル王国と対等の外交関係を望んでいる。故に治外法権や関税自主権の放棄等必要ないのだ。我が大英帝国を始め、主要国には主権国家対等の原則があるからな」

 

圧倒的に大英帝国の方が国力が上。にも関わらず対等の外交関係を望む。呆気に取られるラン・ラン・ルー総主教。ハルトは大英帝国側の条件を示す。

 

1.大英帝国とリグル王国は対等の外交関係を樹立する

 

2.大英帝国とリグル王国の間に速やかに為替レートを設定する

 

3.大英帝国はリグル王国の近代化支援の為に低利で資金を貸し付ける

 

4.リグル王国は神聖ミリシアル帝国に租借している領土を大英帝国に割譲する

 

5.大英帝国はリグル王国の防衛義務を負う

 

6.大英帝国は軍事顧問団を派遣し、必要な支援を行う

 

7.大英帝国はリグル王国と神聖ミリシアル帝国の間の不平等な関係を是正する義務を負う

 

 

「・・・・・これは本当ですか?」

「あくまでたたき台であるから、ここから調整する事になります」

「・・・・・直ちに国王リグル23世に報告致します!! 暫しお待ちを!!」

 

色良い返事を貰えた。そう判断したラン・ラン・ルー総主教の顔に笑みが浮かぶ。

 

「それともう一つ」

「ははっ! 何なりと!!」

「リグル王国が大英帝国に割譲する領土に総督府を設置する事になるが、その総督を僕の弟カーレッジ・フェリックス・アーサー・ハミルトン、またはその子にしたい。推薦してくれないか?」

「了解しました!!」

 

その後、大英帝国はリグル王国と国交を樹立。同時に安全保障条約を締結。大英帝国はリグル王国への軍事顧問団の派遣、神聖ミリシアル帝国が使用していた港や空港の近代化、不平等な関係の是正等が進められた。リグル王国はG5の後ろ盾を得た事で南部に対する優位性を確保した。後に南部を実効支配するアッラー・エルサレム帝国はアニュンリール皇国の支援を受けていた事が判明。エルサレム島はイギリスとアニュンリール皇国の代理戦争の舞台となるのである。

 

 

イギリス領カルトアルパス

カルトアルパス総督府総督私室

 

「まさか、僕の家を終の住まいに選ぶなんてね。兄として、嬉しいよ」

「ハルトお兄様は誰よりも僕を愛してくれた。スペアに過ぎない僕の事を」

「僕のスペアなんかいないよ。カーレッジはカーレッジ、命は君の為の物だよ」

 

カルトアルパス産のワインを嗜むハルトとカーレッジ。

 

「・・・・ハルトお兄様は本当に優しいよ。僕はなんて幸せ者なんだろう・・・」

 

笑顔で涙を流すカーレッジ。

 

「僕が生まれた時、僕達のお父様は僕にこう言ったんだ。カーレッジ、君はハルトやアオイのスペアに過ぎない。君の物は全てハルトとアオイの物。その心臓でさえも・・・・・」

 

ハミルトン公爵家の跡取りとして完璧な存在として生まれたハルト。更に双璧を為すようにアオイも生まれた。完璧な存在のハルトとアオイ。カーレッジはそんな2人の生きるスペアとしての使命を与えられたのだった。

 

「でも、ハルトお兄様とアオイお姉様は完璧な存在だった。スペアとして生まれた僕を必要としないくらいだった。お陰で僕はスペアの僕は生き永えられる事が出来た」

 

ハルト、アオイと仲良く遊んでいた日々が脳裏に過ぎるカーレッジ。

 

「何時かは2人に臓器をあげなきゃいけない。そう思っていたんだ。だけど、ハルトお兄様はこう言ってくれた。君の臓器はいらない。君の臓器は君の物だ。僕の物じゃない、って」

「カッコつけてそんな事を言ったこともあったな」

「それどころか、僕が助かるならハルトお兄様は臓器をあげるとまで言ってくれた。実際には貰っても助からないから実現しなかったけど、ハルトお兄様の人間らしさを感じたよ」

「カーレッジ・・・・」

 

ハルトはカーレッジを優しく抱き締める。

 

「ハルトお兄様、今生の別れです。明日、僕はヨコハマに向かいます。ヨコハマにはハルトお兄様の御学友、アキコ・ネブの親族が経営する企業の研究施設があり、僕が大好きだった秘書官キリト君が主任研究員を勤めていて、僕はそこで実体験型RPGの実験体になるから・・・・」

 

根部商事は実体験型RPGの研究をミカドアイHDと競っている。日英両国政府は古の魔法帝国が仮想空間に逃げ込んでいる可能性があると考えていた。そこで両国政府は企業に仮想空間を活用した実体験型RPGの開発に予算の支援を行う事を表明。ミカドアイHDと根部商事の2社が開発を表明。ミカドアイHDは債務者等地下帝国送りのクズを実験体にする事が出来たのに対し、根部商事の方はそうは行かず、実験体の確保に難儀していた。悩んだキリトはダメ元でアキコに相談。アキコはハルトに話を持ちかけ、ハルトはカルトアルパス総督府を終の住まいに定めていたカーレッジに相談。大好きだった秘書官の力になれる。与える側になれる。そう判断したカーレッジは実験体の話を快諾。この日はハルトとの最後の会話になる日になる予定である。

 

「じゃあ、今日は存分に楽しもう」

「うん!!」

 

ああ、もうあの笑顔は見れないんだ。ハルトは涙を流した。翌日、日本へ旅立つカーレッジをハルトは妻のネモと共に見送った。

 

「・・・・・ネモ、僕達の子は近い内にバラバラになってしまう。でも、君だけは・・・・」

「大丈夫!! 私はハルトを二度と離さないんだから!!」

 

3男2女と子宝に恵まれたハルトとネモ。彼等の子は、長男は跡取りとしてスコットランドへ戻され、次男はアオイへ養子入りの為にニュー・ホンコン、三男はカーレッジへ養子入りし、リグル総督府へ、娘は将来的に嫁入りでいなくなる事になる。

 

「じゃあ、今日はベッドでやろう!!」

「今日は仕事できついかな〜」

「いいから!!」

 

※翌年、ハルトは三女を儲けました。

 

(続く)

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