静岡県御殿場市
東富士演習場
「いよいよ、日英両国の陸上戦力のお披露目か・・・・・」
空、海と来たら最後はやはり陸。昨日までの航空祭や観艦式は勿論、この東富士演習場への移動だけでも日本の国力には驚かされる事ばかりだった。
「細長い国土を縦横無尽に走り回る・・・新幹線でしたか? あれには驚かされました・・・・」
クルセイリース大聖王国の一行は横須賀市内から新横浜駅までをバスで移動。その後東海道新幹線に乗車し、三島駅まで移動。三島駅からは再びバスに乗り換えて東富士演習場へ辿り着いていた。
「東海道新幹線は時速285kmで走るが、その先の山陽新幹線とやらは時速300kmで走るそうではないか」
「更に東北新幹線は320kmで走り、将来的には360km? 化け物だ」
「しかも室内は快適な温度に保たれていた・・・・・滑るように進んで揺れも無い・・・・それで以て魔力が感知されない・・・・明らかにおかしい・・・・」
魔法技師テタルと、魔法武具士アニーナは終始脂汗をかいていたようだ。超高層ビル群を抜けて田舎を走り始める。これほど遠くまで大建造物群が続いていた事にも驚く。
「もうこれ以上は驚かんぞ!!」
今まで日本や英連邦王国の国力に驚き続けていた。魔戦騎士団長アバドンは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。今から陸における軍事部門の紹介が行われるという事、自国の騎士団が日英の陸上戦力にどの程度優位性があるのか、兵の強さはどの程度かを見極めようとする。広い敷地、眼前には雲の上まで伸びるとてつもなく高い山がそびえ立つ。
「左をご覧下さい」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
地響きかと間違うほどの音と共に、6両もの種類の異なる金属の巨大な箱のようなものが、高速で眼前に現れた。陸上自衛隊の10式戦車3両と、イギリス陸軍のチャレンジャーⅢが2両、オーストラリア陸軍のM1A2エイブラムスが1両である。
「な・・・・何だ?」
この箱が起こす地面の震動が圧倒的重みを、質量を物語る。
「て・・・・鉄の塊か!?」
騎士団には無い大質量の物体。あれがもしも高速で突っ込んできたら、我が方の爆裂魔法でも壊れないかもしれない。否、海軍と空軍の実力を鑑みれば、不可能であろう。
「これは・・・・脅威だ・・・・脅威としか言いようがない・・・・」
きっとこれは正面突破戦力なのだろう。
『これより、あちらの的を狙います』
「え?」
説明者が指示する先、遙か2kmくらいはあるだろうか。そこには四角い板があった。
「何を言っている?あんな所まで海上戦力なら分かるが、陸上戦力による攻撃が届くはずが無い! 近づく所から始めるのか?」
アバドンが横に立つシエドロンに話しかけた。
「いや・・・・・あれは砲ではないのか?」
戦車から突き出る棒状の物体をシエドロンは指す。
「まさか・・・・・」
これほどスマートでコンパクトにまとまった砲は今まで見たことが無い。クルセイリース大聖王国陸軍には、戦車は存在せず、装甲車すらない。
「それにしても、遠すぎる。とても届くとは思えんが・・・・仮に届いたとしても、いったい何発打ち込むつもりなのか」
思考は巡る。
「てーーっ!!!」
ドウン!!!
陸上自衛隊10式戦車は2km先の的に向かって撃つ。日本製鋼所製44口径120mm滑腔砲は、従来のライフル砲よりも遙かに速く飛翔し、2km先の的に向かう。信じられないことに、直線状に飛翔した弾は的の中心を打ち抜いた。
「!!!!」
絶句。アバドンはかっと目を見開く。
「続けて、英国王立陸軍、オーストラリア陸軍の戦車部隊による砲撃を行います」
イギリス陸軍の最新鋭主力戦車であるチャレンジャーⅢ。既存の120mmライフル砲とは異なり、更に大きい52口径130mm滑腔砲を採用。イギリスには主砲はおろか、戦車自体の製造能力を喪っていた事から、日本企業の指導を受けて開発された新型の砲塔である。日本政府は将来的な10式戦車の置き換えの際に、52口径130mm滑腔砲の採用を検討しており、イギリス陸軍での運用実績を踏まえ、カナダと共に新型戦車を開発する予定である。現時点では、チャレンジャーⅢはイギリスの他には、オーストラリア、ロウリア王国、アルタラス王国、パーパルディア皇国、新生グラ・バルカス帝国が運用、または導入が決定しており、第5世代主力戦車とも評される。
チャレンジャーⅢ
武装∶52口径130mm滑腔砲×1、7.62mmRWS×1、12.7mm同軸機銃×1、発煙弾投射機×4
採用国∶イギリス陸軍、オーストラリア陸軍、ロウリア王国陸軍、アルタラス王国陸軍、パーパルディア皇国陸軍、新生グラ・バルカス帝国陸軍
検討国∶ニュージーランド陸軍、トーパ王国陸軍、ポルスカ共和国陸軍、エスペラント王国陸軍、リーム王国陸軍、リグル王国陸軍(ただし、日本製戦車も並行して導入する見通し)、英連邦パラディオン王国陸軍
不採用国∶カナダ陸軍(日本国との共同開発を選択)、クワ・トイネ公国陸軍(日本が提唱する新型戦車を選択)、クイラ王国陸軍(74式を運用中、将来的には日本製を導入予定)、神聖ミリシアル帝国陸軍(国民感情からイギリス製の戦車の導入を見送り)、ムー国陸軍(日本国とカナダによる共同開発に参加を打診中)、トュルキエ共和国陸軍(国民感情への配慮から、日本製を選択)
「・・・・・す、凄まじい火力だ!!」
日豪の戦車砲を上回る火力を目標に叩きつけるイギリスのチャレンジャーⅢ。
「チャレンジャーⅢ・・・・なんて凄まじい戦車なんだ・・・・日本のヒトマルやオーストラリアのエイブラムスがまるでおもちゃのようではないか・・・・」
明らかに火力の違うチャレンジャーⅢに恐怖を抱くアバドン。将来的には130mm砲が日英両国の戦車の基本になる予定であり、チャレンジャーⅢはその先駆けである。
「続けて、スラローム射撃を実施します」
戦車は走り出し、スラロームを行う。走行しながら次々と砲を撃ち出した。
「こ・・・・こんな事が出来るはずが!!」
動きながら射撃しているにも関わらず、次々と的の中心部を破壊していく。不安定な土壌、動きながらの射撃、遠い的、当たるはずが無いのに当てる。
「あんなの人間業では無いぞ!!」
FCSによって射撃管制され、相手が移動していても砲は未来位置に飛んでいく。砲安定化装置によって砲身は揺れる地面でも安定して敵を向く。戦車はテクノロジーの塊であり、文字通り人間業では無かった。
ズドーン!
弾は1発1発が、騎士団の組織級魔法よりも遙かに威力が高い。射程、威力、おそらく防御力さえもすこぶる高いだろう。彼は圧倒的戦力差を感じざるを得なかった。
『次に、第一空挺団による、落下傘降下を行います』
アナウンスが流れ、東の空からいかにも鈍重な、しかし多くの物資が運べそうな物体が3機飛んでくる。しかし、それは見た目に反し、高速で侵入してきたそれに調査団は目を奪われる。航空自衛隊のC-130Hはやがて、第一空挺団の隊員を次々と放出する。
「空からあんなに効率的に兵士を降下させられるのか・・・・」
「恐らくは空港施設を速やかに占拠し、後続の飛行艦を着陸させる・・・・彼等を倒せなければ・・・・」
調査団の脳裏には、わが物顔で空を舞うユーロファイタータイフーン、それを尻目に落下傘降下してくる第一空挺団、彼等に駆逐されたクルセイリース大聖王国陸軍、そしてトドメを刺すかの如く送り込まれる後続部隊が過ぎる。
「シエドロン飛空艦隊長、大丈夫ですか?」
ニースはシエドロンの様子がおかしく、具合でも悪いのかと思って声をかける。シエドロンは小刻みに震え、顔からは脂汗が滴り、酷く具合が悪そうだった。
「あ・・・・あ…あ・・・・りえん!! ありえんんん!!」
「どうされました?」
ニースが聞くと、彼は日本国の者には聞こえないほど小さい声で話し始めた。
「今日まで陸海空の装備を見てきたがらあれは速すぎる。あんなのは対ワイバーン用の連射式魔光砲や、対空陣でも全く効果が期待できない。はっきり言って当たらんぞ。我が飛空艦隊の装備では制空権が確保出来ない。この差は練度で埋められるレベルを遙かに超えている!!」
完全に打ちのめされるシエドロン。
『続けては大英帝国陸軍による、銃剣突撃です』
銃剣を装備したイギリス陸軍による銃剣突撃。現代で銃剣突撃を行い、成功させるという、イカれた紅茶野郎の銃剣突撃の迫力は凄まじく、クルセイリース大聖王国の調査団らは、そのあまりの迫力に言葉を喪った。大英帝国陸軍のみならず、日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの陸軍部隊も銃剣突撃を行ったが、イギリスだけは明らかに雰囲気が違った。殺気立った紅茶のキレた野郎にしか見えない。
「日英は・・・・危険だ!!」
この日、様々な軍事技術の差を見せつけられ続け、調査団の一日は終了した。
夜 日本国東京都千代田区
帝国ホテル会議室
クルセイリース大聖王国調査団は会議を行っていた。
「1つだけ、確定した事があります」
ミラは皆を向く。
「日本国並びに英連邦王国は決して敵に回してはいけない。異論ある者はいますか?」
王国の要、主戦力を率いる飛空艦隊長シエドロン、陸戦の主力たる魔戦騎士団長アバドン、そして各種技術を支える魔法技師テタル、魔法武具士アニーナ。武を揃えるための力、国政経済学者イルナ、誰一人として異論がある者はいなかった。シエドロンが神妙な面持ちで話し始める。
「かつて、この周辺を治めていた列強国、パーパルディア皇国であれば、規模は向こうが大きいにしても、運用次第で戦いを有利に進める事が出来ただろう。しかし日本国並びに英連邦王国は別格だ。いや、この言葉は適切では無かった。格が違いすぎる。聞けば、その列強パーパルディア皇国でさえ、日本軍は戦死者を1人も出さずに圧勝したというではないか。英連邦王国軍は若干の戦死者を出したようだが、全体から見れば1%に満たない。圧勝だ。即ち、彼等と戦う事は、亡国への道を歩む事だ。反対する訳が無い」
国の中核戦力、飛空艦隊を知り尽くしたシエドロンの言は重い。皆一様に黙った。様々な意見交換が行われたが、日本国並びに英連邦王国を敵に回してはならないという1点は、皆一致するのであった。彼等調査団は衝撃を受けて帰国するのだった。
夜
クルセイリース大聖王国首都セイダー
軍王執務室
ロウソクの炎が部屋を微かに照らす。揺らめく炎はテーブルを挟んで2つの影を写し出していた。金色の正装を身に纏った短髪の初老の男が上座に座る。男の前にあるテーブルを挟んだ向かい側に、白色のローブを着た男が座っていた。
「軍王ミネート様、この報告書をどうなさるおつもりで?」
テーブルの上には1冊の報告書が置かれていた。しかも、王家の印が押印されているため、極めて重要視しなければならない公文書だった。
「日本国並びに英連邦王国とは敵対するな、日本国並びに英連邦王国は強すぎる・・・・・か。しかし内容は荒唐無稽だ」
ミネートは不機嫌そうに報告書の評価を行う。
(書いてあるのは恐らく真実なのだろう。だが、これを認めれば私の地位が危うくなるし、イブリース大元帥の機嫌を損ねる事になる・・・・・)
国のために、国富むために動こうとしているのに、荒唐無稽な報告書を入れて阻害しようとする。彼は師として崇めるイブリース大元帥に対して、これを書いた者が大元帥の仕事の邪魔をしているようにしか思えなかった。それはつまり、国民が富む事への邪魔であり、国民の敵に思えてならない。
「こんな報告書を書いた者は、幻惑魔法をかけられたに違いありません。しかし・・・・・」
「そう、王家の印のある公文書を軽視する訳にはいかん。北西には多くの可能性と、世界が広がっている。北西新世界を諦める訳にはいかないのだ。頭の片隅に入れつつ、考えるとしよう」
「では、シルカーク王国は?」
「簡単な事、聖王御前会議で否定すれば良い。そもそも当初の報告書では、日本国や英連邦王国にも飛空艦はあるが、小さくて武装は貧弱であったとの報告が上がっている。その飛空艦そのものが、彼等にとっても旧式だった可能性もあるが、旧式と新型でそこまで戦闘力が変わるとは思えん。それに・・・・・」
ミネートはイブリース大元帥の遣いに目を向ける。
「はい、万が一、いや億が一、日本国や英連邦王国が飛空艦隊を破ったとしても、我が国には『あれ』があります」
「黒月族の対ラヴァーナル用決戦兵器、キル・ラヴァーナル・・・・・か。あれを見つけた時は、嬉しさに震えたぞ。貴殿の占いは凄まじいな」
「軍王様にお褒めの言葉を頂けるなど、光栄の至り」
「キル・ラヴァーナルがあれば、地上を制圧される事は絶対に無い」
「はい、その他にも『あれ』がありますしね」
「それにしても、我が国に黒月族の遺産があるとは……」
軍王は棚から1冊の本を取り出してパラパラとめくった。伝承にはこうある
黒月族……遙か古代、古の魔法帝国に立ち向かった少数民族。ラヴァーナル帝国とは異なる独自の魔法技術形態を持ち、少数の人数で大きな軍事力を動かす術に長ける。性格は民族のためならば、他種族をあっさりと殺す、極悪非道であった。例示として、同族の擦り傷を癒やす為に他民族の命が必要だとしたら、何万何百万人を殺傷したとしても、何とも思わない。一説によれば、何処に住んでいるのか全く掴めず、いつしか空に見えない黒い月があり、そこに住んでいるのだと世界は思い始める。いつしか彼等は黒月族と呼ばれるようになった。
ラヴァーナル帝国は黒月族の首に大きな賞金をかけ、集落を見つけたら即座に軍を派遣して殲滅していった。数百人が他民族の都市に紛れていれば、都市ごとコア魔法で消滅させる等、徹底した殲滅戦を行った。黒月族のラヴァーナル帝国に対する憎悪は凄まじく、たった1人で動かすことの出来る超巨大決戦兵器を世界の各地に残す事となる。現在、黒月族が何処へ行ったのか、知る者はいないが、まれに遺産が世界の何処かで発見される事があった。
「軍王様、我らの切り札は、キル・ラヴァーナルだけではありません」
「聖王直轄軍は戦力には数えられんぞ」
「いえ、あの魔法の事でございます」
「あれか、確かにな・・・・しかしお主が国家級殲滅魔法を知っているとは・・・・・まあ、我らの負けは絶対に無い!!! クワーッハッハッハッハーーッ!!!」
国を動かす者達は大いに笑うのだった。
(仮にあの報告書が真実であったとしても、我が国が本気を出せば負ける事はないか。余計な心配であったな)
ミネートはそう考えると、報告書に火をかけた。こうして、貴重な報告書は闇に葬られたのである。
翌日朝
シルカーク王国王都タカク郊外
在シルカーク王国英国空軍基地建設予定地
「では本日より、シルカーク王国に初の国際空港兼空軍基地を建設します。ご安全に!!」
イギリスとシルカーク王国は、増大するクルセイリース大聖王国への脅威に対抗するべく、二国間協定を締結。その中には、イギリスがシルカーク王国の安全を保障する事を引き換えに、同国国内にイギリス軍が駐留する事を認め、同時に国際空港の新設をイギリス主導で認めると言うものだった。また、日本とも二国間協定を締結し、此方ではイギリス軍が駐留する基地や国際空港の建設に関しては、日本企業に優先して仕事を割り振ることが定められていた。
「1日でも早い完成が望まれますな」
英国空軍基地の建設を視察しに来たシルカーク王国の軍事部門の担当者はそう呟いた。建設現場では、自国では見たことのない重機が至る所で走り回っている。基本的には日本人の作業員ばかりだが、シルカーク王国人の作業員も、技術伝授の為に加わっている。
「しかし、我が国にも雇用をもたらすとは・・・・外務には日本国との友好関係は維持して頂きたいものだ」
経済部門の担当者は、日本企業がもたらす莫大な経済効果を期待していた。既に作業員らが飲食に多額の資金をシルカーク王国に落としており、王都タカクでは経済成長が止まらなくなっている。更に国際空港新設による、外国からの投資も期待出来、今後は地方都市への投資が課題である。
日本国東京都大田区
羽田空港パイロット控室
「・・・・・訓練そこそこで即座に実運用入りか。民間のパイロット不足は相当深刻なようだな」
航空自衛隊を退役し、ANAに再就職したオグリは控室でそう呟いた。
「最初は正気かと疑いましたが、流石は我が国が誇る伝説のエースパイロット。正直、今回機長を勤める私より上手いです」
隣でオグリにコーヒーを勧めるのは檜扇強兵。皆からはキョウヘイと呼ばれるベテランパイロットである。彼等が乗務するのはANA1549便。日本の東京/羽田を離陸した後、パーパルディア皇国のエストシラント国際空港/キングカズタカインターナショナルエアポート、神聖ミリシアル帝国のルーンポリスを経由し、ムー国の首都オタハイトを結ぶ定期旅客便である。
「言っておきますがオグリさん。貴方が操縦するのは民間機ですからね? くれぐれも無茶な操縦はしないで下さいよ。イーグルでもタイフーンでも、ファントムでもないんですから」
オグリとキョウヘイの会話に割り込んでくるのは同じくANAのパイロットである真皿翔。皆からカケルと呼ばれる中堅パイロットである。今回は交代機長として乗務を予定しており、羽田〜エストシラント間で機長として乗務する予定である。
「カケル、オレを信用出来ないのか?」
「いや、だって航空自衛隊で問題児だったと聞いていますから」
「・・・・・・ほう、それでそれで?」
明らかに悪そうな笑みを浮かべてカケルを見つめるオグリ。これはマズイと判断したキョウヘイは無理やり話題を変える。
「因みにオグリは自衛隊時代、どの機体が一番好きだったんだ?」
「一番操縦しやすい・・・・というか使い慣れたのはF15だな。小松基地配属時代も、那覇基地配属時代もイーグルが相棒だったしな」
「タイフーンはどうなんだ?」
「別に悪い機体じゃねえんだが、イーグルとはまた性質の異なる戦闘機だからな。イーグルは純粋な制空戦機、タイフーンはマルチロール機。役割が違うな」
「そうか。さて、そろそろ出番だな。行くぞ!!」
「ああ」
「はい!」
その後、彼等は乗務予定の機体の周囲を見て回り、異常が無いかを確認。その後、各種計器の異常の確認を開始した。
「・・・・・・・・」
「ん? どうした真皿交代機長。オレの顔に何か付いてるか?」
「い、いや、何でもない」
「残念だが、オレは既に既婚だぞ? そんなに見つめられてもラスティ以外の男を抱くつもりはないし、抱きたいなら今直ぐに窓から滑走路に投げ捨てやるぞ?」
「僕も既婚者だ! バカにするな!!」
「やれやれ・・・・変な奴だな」
呆れた顔をしながらオグリは慣れた手付きで各種計器を操作する。
(コイツ本当に今まで軍用機しか扱った事がない新人なのか?! あまりにも落ち着いていてかつ、的確かつ、正確かつ、迅速に必要な計器を操作してやがる・・・・)
「ん? 真皿交代機長、整備班がやらかした跡があるな」
「え?」
「与圧システムが手動になってやがる。恐らくは与圧システムの試験をした後に戻し忘れたんだろう。念の為、報告してくれ。それ以外は異常はない」
「・・・・・あ、ああ。分かった」
その後、整備担当者からの謝罪と共に、再度点検を実施。異常は確認されなかった事から、与圧システムの設定を自動に変更。キョウヘイ機長も加わり、再度点検を行い、異常はないとして、搭乗を開始。予定より2時間遅れてANA1549便は離陸に向けて移動を開始。管制官からの許可が下り、ANA1549便は無事離陸。巡航高度に到達した。
「カケル、前より腕を上げたな。スムーズに離陸出来たな」
「ありがとうございます」
「じゃあ、僕は暫く休んでるから、交代機長として頑張ってね。オグリ、何かあったら君が主体として対応してくれ。自衛隊時代に培った経験を活かしてくれ」
「「はい!!」」
機長であるキョウヘイはコックピットを出る。ここからはカケルが機長、オグリは副操縦士として機体を制御する。
「ご搭乗の皆様、こんにちは。当便の機長です。本日も、ANA1549便、エストシラント、ルーンポリス経由オタハイト行をご利用くださいまして、ありがとうございます。当便のエストシラントまでの飛行時間は3時間34分の予定でございます。エストシラントでは、搭乗のお客様には一旦降りた上で、空港施設内にて待機して頂く事になります。それでは、エストシラントまでの空の旅をお楽しみください」
まずはお決まりのアナウンスをするカケル。オグリは一切表情を変えることなく操縦席に座る。
「1549・・・・か。USエアウェイズ1549便を思い出すな」
「・・・・何を言いたいんだ? 真皿交代機長」
「いや、不穏な数字に見えたからな・・・・」
「不穏・・・・か。だが、その事故で死んだ奴はいねえ。それに、そうならないようにする為に訓練を受けているじゃねえか」
「まあ、そうだが・・・・・」
「それに、この便にはこのオグリが乗務しているんだ。心配する事はねえ。気にするな」
不敵な笑みを浮かべるオグリ。それを見たカケルはより一層不安になる。
(何だろう・・・・人生で一番不安なフライトだ・・・・)
「そんじゃ、そろそろオレに操縦桿譲ってくれないか? そう言う約束だろ?」
「・・・・・・・あ、ああ」
「I have control」
流暢な英語で操縦桿を握る事を宣言するオグリ。
「・・・・・・ん?」
何かを察したオグリは即座にシートベルト着用サインを客室に点灯させる。
「え?」
何をしている。そうカケルが言おうとした直後に機体は上下左右に揺れ始める。
「・・・・・・・やっぱり乱気流が発生していたな」
「まさか、揺れる前から予測していたのか?」
「長いこと空にいたからな。野生の勘がそう告げていたのさ。全てが全て、オートパイロットじゃねえし、ムー空軍の機体なら尚更だ」
乱気流の中、一切慌てることなく、むしろ余裕を感じさせながら機体を操作するオグリ。
「・・・・・・・乱気流を抜けたな。暫くは大丈夫そうだな」
オグリはシートベルト着用サインを消灯させた上で機内にアナウンスを行う。
「お客様、ただいまシートベルト着用サインが消灯致しました。ですがこの先、乱気流に遭遇すると判断された場合、再びシートベルト着用サインが点灯する事がございます。お手数ではありますが、座席にご着席の際はシートベルトの着用をお願い致します」
本当に航空自衛隊の問題児だったのか?そう思わせる丁寧な仕事ぶりにカケルは驚きを隠せない。
「本当にお前、オグリなのか? 聞いた話と違うんだが?」
「自分で言うのもアレだが、昔よりは丸くなったという訳だ」
「・・・・・・理由はあるのか?」
「そうだな・・・・戦闘機に乗ってた昔に比べれば、今は些か気持ちが楽だ。航空自衛隊時代は、いつ敵に撃たれて死ぬかが分からない日々だった。那覇基地配属時代は毎日のようにスクランブルがかかってたし、今だから言えるが、中国の戦闘機からレーダー照射されたりもしたな」
「へえー・・・・・・へ? レーダー照射?! ロックオンされたのか!?」
「あれは・・・・中国海軍の空母艦隊が演習をしてた時だな」
オグリは昔話をし始める。あまりにも貴重過ぎる経験談を聞き漏らすまいと、カケルは全ての神経を集中させる。
異世界転移前のある日
日本国沖縄県那覇市
航空自衛隊那覇基地
「中国海軍の空母遼寧を中心とした空母打撃群が沖縄本島と宮古島の間を通過か・・・・」
「あからさまな我が国に対する挑発だね〜」
スクランブル待機中のオグリとウッチーは格納庫で雑談をしていた。
「艦載機を上げたら即座にスクランブルだろうな」
「海自によれば、空母打撃群は我が国の防空識別圏の内側を航行中。海自は那覇基地のP-3C哨戒機と佐世保の護衛艦「すずつき」を派遣して監視中。米海軍も横須賀から駆逐艦「シャウプ」を派遣して監視活動に勤しんでるみたいだ」
ウーウーウー!!
「そんな事言ってたらスクランブルか。行くか!!」
「ま、撃ち落とされたりするなよオグリ?」
2人は格納庫を飛び出し、即座に目の前に駐機していたF-15Jに乗り込む。
「イーグル1、小栗出る!!」
「続けてイーグル2、内行く!!」
那覇基地を飛び立ったオグリとウッチーは誘導に従い、中国海軍の監視を開始した。
「敵は艦載機を発艦・・・・恐らくは訓練を兼ねた威圧行為だな」
レーダーには編隊飛行を行う中国海軍の艦載機5機が映る。引き続き、海上の護衛艦や米海軍部隊と協力して監視を続けていたオグリ。次の瞬間・・・・・
「あのバカ!!」
機内にロックオンされた事を報せる警報が鳴り響く。それが意味する事は即ち・・・・
「この感覚・・・・水上艦艇じゃない!! 艦載機からだ!!」
即座にオグリは回避行動を取ると共に、那覇基地へ速報する。
「ウッチー、もしミサイルを撃たれたらオレの菩提を弔ってくれよな!!」
米軍なら即座に反撃するのだろうと思いながら、オグリはミサイルの発射ボタンを押さずに自制する。同時にバディを組むウッチーに向けた願いを呟く。
「・・・・・どうした? 撃てるもんなら撃ってみやがれ!! この腰抜け腑抜け揃いが!!」
引き続きロックオンを報せる警報が鳴り響く機内。反射的にミサイルや機関砲を撃ちたくなる衝動を必死に抑える。
「・・・・・・やはり腑抜け揃いか!!」
レーダーには急に空母遼寧へ向けて急速離脱する戦闘機の姿が映る。同時にレーダー照射が止まり、警報が解除される。政治的な判断により、この事件は公にはならず、同時にミサイル発射を自制したオグリとウッチーは秘密裏に称賛され、2人は口封じを兼ねて2階級特進の上で2等空佐に昇進したのであった。
「まさか、我々の知らないところでそんな事が・・・・」
「だからさ、昔に比べたら今は気楽だよ。さて、そろそろ着陸態勢に入るか」
その後、ANA1549便はパーパルディア皇国首都エストシラント郊外にある、エストシラント国際空港/キングカズタカインターナショナルエアポートに着陸。その際オグリは機体を滑らかに着陸させ、機長のキョウヘイを唸らせたという。
「ほんじゃ、エストシラントからルーンポリスまでは休ませて貰う。何かあったら来る」
「あ、ああ・・・」
(続く)