日英同盟召喚   作:東海鯰

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新たな門出

第三文明圏中堅国

パーパルディア皇国首都エストシラント郊外

エストシラント国際空港/キングカズタカインターナショナルエアポート

 

「さて、そろそろまた乗務だな」

 

かつては第三文明圏最強の国として周辺諸国に対して大きな影響力を有していた国パーパルディア皇国。しかし、自らの実力を、そして相手国の実力を正しく評価出来なかった結果、日本国と英連邦王国を敵に回した。特に英国大使の婚約者を処刑したのは非常に不味かった。祖国と愛する人の為に己を犠牲にした姿は本国で英雄として称賛され、英国国民を戦争へ突き動かし、日本をなし崩し的に巻き込む事に成功した。日英の本格参戦はパーパルディア皇国の運命を、覇権を終わらせた。かつての覇権国家は今や第三文明圏の中堅国という地位に下がり、日英の経済圏へ完全に取り込まれた。エストシラント市内ではミカドアイHDが経済を牛耳っており、空の玄関口であるエストシラント国際空港は実質的にミカドアイHDの所有物となっている。空港の敷地内にはミカドアイHDの創業者である兵東カズタカの黄金像が建立されており、エストシラント市内と空港を結ぶ地下鉄路線である「兵東線」や、エストシラント市内を環状運転する「能登川線」、エストシラントからデュロまでを結ぶ「白崎線」が開業。全てがミカドアイHD100%子会社の「パーパルディア・ミカドアイ・レールウェイ・カンパニー」が運営しており、更なる鉄道路線の建設が計画されている。因みにパーパルディア皇国には同業他社である根部商事は展開しておらず、ミカドアイHDの独壇場となっている。

 

「まあ、エストシラントからルーンポリスまではオレの出番はないんだけどな」

 

パイロット達の控室にて夕食を取ったオグリ。機長のキョウヘイは和食、交代機長のカケルは中華を食べた一方、オグリはパーパルディア皇国独自の料理を食べていた。

 

「まあ、イギリス料理よりはマシだったかな?」

 

再度制服に袖を通したオグリは、右手に鞄を持ち、再度駐機場に向かう。

 

「さて、離陸して安定するまではコックピットにいねえとな」

 

オグリはコックピットに入る。まだ機長と交代機長はおらず、暫く待機する。

 

「待たせたなオグリ」

「パーパルディア料理を選ぶなんて物好きだな」

「食った事がなかったからな」

 

今回は機長であるキョウヘイが操縦、交代機長であるカケルが副操縦士を勤める。オグリはルーンポリス到着までは休憩室で休む事になる。

 

「・・・・・・・・無事離陸出来たな。じゃ、オレは休ませて貰うぜ」

「ああ。ルーンポリスから再度宜しく頼む」

 

オグリはコックピットを出ると、ギャレーの中にある秘密の扉に向かう。パスワードを入力し、休憩室に入室した。

 

「ふう〜、疲れ切った身体には簡易的ながらベッドは染みるぜ」

 

制服のジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けた後にオグリは簡易ベッドに身体を預ける。ここからルーンポリス到着までは自由時間。エストシラントで少し休んではいるものの、疲れを抜き切るには至らない。

 

「さて、暫し寝るとするか。今頃外は夜だしな」

 

ANA1549便のエストシラント〜ルーンポリス間は深夜便として運行される。この為客室は消灯し、機内の乗客の多くは眠りについている。

 

「・・・・・・夜間飛行か・・・・思い出すな。あのクソ教官を夜勤中にボコボコに殴り倒したあの日の事を」

 

 

石川県小松市

在りし日の航空自衛隊小松基地

 

「そんなんで日本の空を守れると思っているのか!? このクソアマ!!」

 

航空自衛隊小松基地の一角でどでかい罵声が響く。彼の名前は無田口廉也。小松基地にて教官を勤めるエリート中のエリートである。かつては多数のスクランブルをこなしたベテランパイロットで、その後長らく市ヶ谷での中央勤務を経た後に小松基地へ配属。現在は教官として後進の育成を任されている存在であるが・・・・

 

「たかが腹が痛いぐらいで1日も休む等、国防の意識に欠けとる!! 大和撫子ならば腹が痛いぐらいで休んだりはせん!! こなの無能が!!」

 

教官という優位な立場を利用し、気に入らない事があると直ぐに威圧する。謝ろうものなら罵声は更にヒートアップし、謝らなくてもヒートアップする。パワハラ等は当たり前で、酒の席では深酒を強要。女性自衛官へのセクハラも日常茶飯事の無能クソ親父であった。隊員らは日々、無田口教官の無意味な説教とパワハラに晒されており、一部の隊員からは、

 

「我々の敵はロシアでも中国でもなく、無能な教官殿である」

 

と言われてしまう程であった。この日は小松基地唯一の女性戦闘機乗りであるオグリがパワハラの対象であった。理由は昨日の突発的な休暇。事情は基地内の全ての幹部が知っており、小松基地司令官も同意しての休暇であったのだが、ただ一人無田口教官だけは納得していなかったのである。

 

「・・・・・・・・・・・・クズが」

 

ずっと言われたい放題されていたオグリはボソッと暴言を吐く。但し、無田口は自らのパワハラを正当化する為の演説で忙しく、彼女の暴言には1ミリも気付いていない。

 

「この無田口様が現役時代にはな!! 腹が痛いぐらいで休むなんて御法度!! 例え母親が死んだとしても葬式を切って戦闘機に乗ったもんだ!! にも関わらず今時の若いモンと来たら!!」

「・・・・・チっ、そんなに死にてえのか? オッサン?」

 

オグリは鉄拳制裁かましたろかと言わんばかりの表情を浮かべる。基地内では皆が遠巻きにパワハラされるオグリとパワハラする無田口を見つめており、殆どの隊員は、

 

「今日も機嫌が悪いな」

「オグリの奴、可哀想に」

「何であのクソ教官クビになんねえんだよ・・・・」

 

と同情的な気持ちでいた。ただし、オグリの双子の弟であるウッチーだけは、

 

「おいおい、死んだわアイツ(無田口教官が)」

 

と、これから起こるであろう、オグリによる鉄拳制裁で無田口教官が無残な最期を遂げる事を確信して教官の方に可哀想wwwと言う感情を持っていたのだが。

 

「されど、無田口教官。彼女が酷い生理で昨日動ける状況になかったのは事実です!!」

 

副官である藤原岩一はヤバすぎる空気を察して2人の間に入る。

 

「藤原! この私無田口の指導を邪魔するな!! このクソアマは言い訳しとるだけに過ぎん!!」

「無田口教官、私が彼女に休むよう指示を出しました。彼女は一切悪くありません」

「何だと?」

 

オグリに向けられていた無田口の視線が藤原の方に向く。この隙に藤原はウッチーに目配せをし、無言でオグリを連れて離れるようにハンドサインを送る。

 

「昨日の事です。何時もなら誰よりも早く出勤している彼女が出勤予定時刻を過ぎても出勤して来ませんでした」

 

 

昨日の小松基地出勤表前

 

「ん? 今日は小栗2等空尉と内2等空尉は出勤日な筈だが・・・・」 

 

小松基地に所属する隊員の出勤表を見た藤原は異変に気付いた。何時もなら誰よりも早く出勤している筈のオグリの出勤表が裏返されていなかったのだ。同時に、ウッチーの出勤表も裏返されていなかった。

 

「・・・・・・何かあったのか?」

 

これはおかしいと思っていた時だった。藤原の携帯電話に着信があった。

 

「もしもし藤原です。あっ、内2等空尉!! どうしたんだ? もうすぐ遅刻になるぞ・・・・・え? ああ・・・・いや、そりゃ無理だわ。はよ病院に連れて行ったれ。勤務指定はこっちで何とかする。無理をさせるな、良いな?」

 

電話を掛けていたのはウッチーだった。オグリの詳しい様態を把握した藤原は直ぐに病院へ送るように指示を出した。2人は突発休暇となり、ウッチーはオグリの介抱に務め、翌日には勤務に復帰した。

 

 

昨日のとあるアパート

 

「ふああ〜あ。今日は飛行訓練か・・・・」

 

小松基地に配属されたウッチーは、小松市内のアパートにオグリと2人で住んでいた。家事は基本的にウッチーが担い、オグリは買い物の際の荷物持ちを担っていた。

 

「ん? オグリの奴、まだ寝てるのか? 何時もなら朝のランニングをしてるはずなんだけど?」

 

ウッチーは綺麗に畳まれたままになっているランニングウェアに不穏な気配を感じ取る。

 

「・・・・・ロシア!?」

 

ウッチーは速やかにオグリの部屋に向かう。何時もなら施錠されている扉は施錠されていない。これはおかしい。

 

「オグリ! 入るぞ!!」

 

ウッチーが扉を開く。

 

「・・・・・お、おい!? しっかりしろよ!! オグリ!!」

 

そこには、扉の前で完全に気絶したオグリが転がっていた。寝間着のズボンは血で染まり、口元には昨日食べた物が吐き出されていた。

 

「・・・・・生理か・・・・だが、明らかに動けないレベルの酷さか!!」

 

ウッチーは直ちに汚物を回収し、清潔なタオルで口元を拭き、消毒を実施。更に血で染まったズボンと下着を脱がせ、血を回収すると共に、清潔な下着とズボンを履かせた。この間、オグリは完全に気絶しており、ウッチーのされるがままであった。

 

「・・・・・・ふう、取り敢えず応急処置は出来たけど、これじゃあ出勤は無理だよね〜。それに、俺は女の身体なんか分からないし、病院に連れて行くか。上官に連絡しないと」

 

ウッチーは上官である藤原に電話をかける。

 

「もしもし? 内2等空尉です。藤原2等空佐ですか? オグリの奴が酷い生理で、完全に気絶してるんです。朝起きて確認してみたら、ズボンは血で染まり、嘔吐してて、扉の前で倒れてました。恐らくは扉の鍵を開けたところで力尽きたんだと思います。これからヤツを病院に担いで行こうと思うんですが・・・・・はい、分かりました。そうします。では、行ってきます」

 

オグリ名義で所有しているプリウスミサイルの助手席に彼女を乗せ、ウッチーはミサイルを病院へ向けて走らせる。幸いにも、速やかに病院へ担ぎこんだ事、発見時の画像を見せた事で適切な治療を受ける事が出来、オグリは翌日には出勤出来るぐらいには回復したのである。

 

 

「・・・・それでも無田口1等空佐は出勤を命じるのですか?」

「無論だ。軟弱者は小松基地、いや防衛省には必要ない。明日にも彼女のP免を剥奪する。話は以上だ」

 

考えを一切曲げない無田口教官は遂にオグリからP免を取り上げる判断を下した。無論、藤原2等空佐を始め、小松基地の幹部らは猛反対したが、無田口教官はそれを強行。第6航空団司令兼小松基地司令に対して、オグリのP免剥奪を上申したのである。

 

 

小松基地喫煙所

 

「オレのP免剥奪〜? 馬鹿じゃねえ〜の? 無田口ってヤツは」

「まあ、馬鹿なんだろうね〜。あ、火ねえや。オグリ持ってない?」

「やれやれ・・・・お前は何時も火を忘れるよな」

 

呆れながらライターを取り出すオグリ。

 

「ほら、タバコ咥えろよ。火つけてやる」

「ありがたいね〜惚れちゃうよ〜?」

「ウッチーにしかやらねえよ、こんな接待はな」

 

喫煙所でタバコを吸うオグリとウッチー。

 

「ぷか〜、昨日はオグリの対応でヤニを吸う暇がなかったから、より美味く感じるね〜」

「その癖にヤニ吸わねえ奴より健康体なのはバグだよな、はあ〜」

 

2人ともタバコの煙を吐き出す。2人きりの喫煙所。互いに本音をぶつけ合う。

 

「んで、ウッチーは実際にオレのP免剥奪されると思うか?」

「されるだろうね〜。基地司令は無田口教官の高校時代後輩だし、頭が上がらないだろうからね〜」 

「基地司令の方が先に出世したのにな。言いなりとは情けねえヤツだ」

「オグリはP免剥奪されたら何をするんだ?」

「そうだな・・・ムカつくからクソ教官を皆の面前で殴り倒すかな」

「おっ、良いね〜。確か今日は俺達スクランブル待機で夜勤じゃん。あのクソ教官様も夜勤の筈だから、ワンチャン行けるんじゃね?」

「・・・・・・やっちまうか。どうせ剥奪されるんならな」

「やっちゃえオグリ!」

 

 

その日の夜

 

「今日は珍しくスクランブルがねえな」

「オソロシア空軍にも休みたい日があるのかもね〜」

「あっちも生理中か?」

「ロシア空軍版オグリか〜戦いたくないね〜絶対強いじゃん」

「そう言えば、この前話してた日米合同演習! あれ、オレとウッチーだったら完勝してたと思うんだよな」

「それは間違いないね〜。正直、オグリは空自で一番強いエースパイロットだからね〜。生理中はうんちになる事を除けば。露骨な人間アピールかな?」

「一応は女だからな。家事は出来ないが、ウッチーよりは筋力あるぞ」

「そりゃあ、第一狂ってる団とマジの殴り合いして、勝っちまうんだもね〜。まあ、オグリが買い物で荷物持ちしてくれなきゃ俺も困るんだけどね〜飯作れなくなるし」

「オレ達の不倫女は料理とか、洗濯掃除はピカイチだったからな。中身は終わってたが」

「お陰様で俺は料理洗濯掃除は完璧だからね〜自分で言うのもあれだけど」

 

和やかに待機しているオグリとウッチー。そこに水を差すようにあの無田口一等空佐が現れる。 

 

「む、無田口一等空佐!?」

 

その場にいた他の隊員が作業の手を止めて速やかに敬礼する。オグリとウッチーは無田口教官なんぞ知らんと言わんばかりにコーヒー片手に雑談を続け、挑発的な態度をとる。

 

「まあ、人としてはオグリの方が優れてるんじゃない? あれだけオーバーGしまくっても、気絶しないし、逆に教官が気絶するし、整備班からはオーバーGしても許されてるし」

「オーバーGする度に、整備班に焼肉奢ってんだよ。この前なんかそろそろ他人の金で焼肉食いてえからオーバーGしてくれって言われたぜ」

「集られてて草」

 

教官ガン無視の2人を周りの隊員らは、

 

(彼奴等・・・・正気か?!)

 

と思っていたという。腹が立った無田口はズカズカと足音を立てながら2人の元へと歩いていく。

 

「おやおや? 明日にもP免剥奪のズル休み女がいるな?」

「しかも彼奴等、態と高い肉ばかり注文しやがるんだぜ!? オレの財布は今月もスッカラカンだ!!」

「まあまあ、俺が養ってやるから大丈夫じゃね〜? やっぱりオグリは俺がいないと駄目だね〜結婚出来るのかな〜?」

「おい!! 小栗2等空尉!! 内2等空尉!!」

「結婚なんかしたら、あの不倫女の血が残るだろ。それは国益に適うのか?」

「ワカンネ★」

 

相変わらずの無視。周りの隊員は、やばくねやばくね、と右往左往し始める。

 

「貴様らー!!」

「ん? なんだお前?」

「イーグルのエンジンよりうるせえから黙ってくれないかな〜」 

「近隣住民から苦情来るぞ苦情」

「左翼が集まると面倒なんだよね〜」

「ああ、すまない・・・・あほかー!! 上官に対して何だその口のきき方は!!」

「あれ? 無田口一等空佐、いたんすか?」

「いるならいるってはっきり言って貰わないと」

「お前らが意図的に無視してたんだろが!!」

 

挑発的なオグリとウッチーの態度に無田口のイライラは最高潮に達した。

 

「まあ良い。上官への不適切な言動!! 小栗、貴様を明日付けでP免剥奪は確定だな!! ついでに内!! お前も剥奪だ!!」

「ただの私怨じゃん」

「職権乱用乙」

「反省の2文字は無いのか貴様ら!! そこは土下座して申し訳ありませんだろ!! 俺はお前ら、いや基地全体の規律規範を徹底し、生産性を上げるために指導してんだ!! 少しは司令官目線を持て!!」

「おい無田口!!」

「な、なんだ小栗!!」

「無意味に怒鳴って指導するな!! 周りの隊員が皆萎縮して、モチベーションが下がって作業ミスが起きやすくなるんだよ!! それで事故が起きて、貴重なパイロットが死亡したらどうすんだ!! 大切な仲間がいなくなってメンバーレスになるだけじゃなくて、残された連中は自責の念に晒されんだよ!!」

「なんだその口は!!」

「あれ? これが正しい司令官目線ですけど? 無田口一等空佐のはただ部下を虐めたい、独裁者目線じゃねえかよwww」

「あははー、傑作傑作!!」

 

手を叩きながら大爆笑するウッチー。無田口のイライラは更に溜まり・・・・・

 

「こんのー!! こうなれば無田口様自らが制裁してくれるわ!!」

「あっ?!」

 

無田口は近くの整備班が持っていた検査ハンマーを乱雑に奪い取ると、尖った方を向けながらオグリの眼球目掛けて振り落とす。周りにいた隊員らは一瞬の出来事に頭が真っ白になる。

 

「・・・・・・・・・クズが」

 

オグリは無田口の右手を思い切り蹴り上げる。

 

「ぐおっ?!」

 

持っていた検査ハンマーは宙を舞い、やがて地面へ落ちてくる。

 

カターン

 

無田口の後方に検査ハンマーは落下する。右手を思い切り蹴り上げられた無田口はあまりの痛さに悶絶し、膝をつく。オグリとウッチーは無言で無田口の前に歩み寄る。

 

「先に手を出したのは無田口一等空佐、お前だよな?」

「おのれえ・・・・・よくも上官であるこの俺の事を・・・・」

「まだ喋るか・・・・クズが」

 

今度は顔面を思い切り回し蹴りするオグリ。情けない声を出しながら無田口はその場で倒れる。

 

「あんたはオグリに危害を加えようとした。オグリへの攻撃は俺への攻撃と同義。集団的自衛拳を行使しても、良いよね?」

「このクズはオレ達のP免を剥奪しようとしている。つまりはオレ達の存立危機事態だ。集団的自衛拳は認められる」

「じゃあ〜、やっちまいますか〜」

 

笑顔で顔面から血を流している無田口を見つめるオグリとウッチー。周辺にいた隊員らは、

 

(え…これどうしたら良いんだ?)

(取り敢えず上層部に報告・・・だよな?)

(でも、殴られてるの・・・俺達の敵無田口だぜ?)

(正直、このまま殴られててくれた方が有り難くね?)

(それはそうだけど・・・・)

(取り敢えず上層部に報告してくるわ、お前ら無田口が死なない程度にはしといてくれや)

(お、そうだな)

(誰も無田口の味方しないのは草)

(お前もする気ないだろ)

(当たり前だよなあ?)

(そう言えば、この辺に美味い中華屋あるらしいっすよ?)

(じゃけん、後で行きましょうね〜)

 

という反応であった。その後数分間、オグリとウッチーは無田口をボコボコにしていたが、防空識別圏にロシアの爆撃機が接近。オグリとウッチーは何事もなかったかのように、スクランブル発進し、真夜中の空へと消えていったのである。

 

 

日本国東京都福生市

小栗・内家自宅居間

 

「内一等空佐は本当に上官をボコボコに殴り倒したんですか!?」

「やったよ〜その後はスクランブル発進もこなしたし」

「いや、普通上官を殴れませんよ?!」

「そりゃあ、ラスティには無理だよね〜優しすぎるもん」

 

帰国後、横田基地に転属したウッチーとラスティ。彼等は第三文明圏の首都東京の防空を担当する日英の精鋭部隊、第零航空団の隊員となっていた。因みにハイネはムーに帰国予定だったが、第零航空団へ志願。これが認められ、現在本国から家族を東京に呼び寄せているところである。

 

「それで、その後はどうなったんですか?」

「スクランブルを終えて着陸した後に基地司令に呼び出されたよ」

「・・・・・怒られたんですか?」

「ん? 謝罪されたよ?」

「え?」

 

 

スクランブル任務後の小松基地司令官室

 

「小栗2等空尉、内2等空尉。君達に謝罪しなくてはならない」

「「・・・・・・・・・」」

「確かに君達の無田口教官に対する言動は絶対に許されない。だが、元はと言えば私が高校の先輩であった無田口教官を制御出来なかったが故なのだ。他の隊員からも、無田口教官のパワハラ被害の相談を受けていた。だが私自身、彼からの報復が怖く、対応出来なかった・・・・むしろ、無田口教官がボコボコにされてありがたいぐらいだ・・・・」

 

一切表情を変えないオグリとウッチー。基地司令官は続ける。

 

「君達のP免剥奪だが、無論白紙撤回する。そもそも、貴重なパイロットである君達を辞めさせる余裕は我が国にはない。だが、何もお咎めなしとは出来ない」

「・・・・・・転属、ですか?」

「パイロットを続けられるのでしたら、何も問題ありません」

「流石は防衛大主席と次席。察しが良いな」

 

基地司令は2人に辞令を手渡す。

 

「・・・・・那覇基地・・・対中国の最前線ですか・・・」

「今後一番ホットになる場所・・・・」

「ああ。君達は間違いなく我が国が誇るエースパイロットだ。我が国は尖閣諸島や台湾を巡り、中国と衝突するだろう。その時には君達の実力を遺憾無く発揮して貰いたい。出来るな?」

「「はい!!」」

 

ビシッと敬礼するオグリとウッチー。その後2人は諸々の手続きの為に司令官室を後にする。

 

「・・・・・なんだ、お前ら暇なのか? ロシア空軍も休日か?」

「スクランブルした俺達の機体整備は終わったのかな〜?」

 

部屋の外では同僚が待機していた。皆、面会の結果が知りたくてしょうがない様子であり、居ても立ってもいられなかったようである。

 

「・・・・・それで、司令官からは何と?」

「P免剥奪は白紙撤回。ただし、那覇基地へ転属だそうだ」

「南西シフトに向け、腕利きのパイロットを集めてるんだろうね〜」

「・・・・・クビは避けられたんですね・・・」

「ああ」

 

オグリとウッチーを迎えに来た隊員らは安堵の表情を見せると共に、寂しさを覚える。内、一人のパイロットはショックだと言わんばかりに泣きそうな顔をしている。

 

「・・・・・・泣くなお前」

 

オグリは若い新米パイロットの頭を撫でる。

 

「オレとウッチーは確かに小松を離れる。だが、俺とお前は同じ空の下で戦う。もし、有事の時になったらお前が本土を守れ。オレとウッチーの背後を守れ。良いな?」

「・・・・・・はい」

 

この時オグリに頭を撫でられた新米パイロットは後に、精鋭部隊である第零航空団に選ばれ、最新鋭機F37の初期生産ロットを与えられる事になるのである。

 

 

「そんな人いましたっけ?」

「今日は小牧南に出張だからいないし、そもそも昨日まで小松基地配備だから無理もない」

「そうなんですか」

 

 

愛知県豊山町

三菱重工業小牧南工場

 

「・・・・・・これが僕の乗機・・・・」

 

かつては太平洋東アジア地域におけるF35の整備拠点だった。小牧南工場。異世界転移後に始動した国産の新型ステルス戦闘機配備計画の中核として機能すると共に、将来的な量産化に向けて設備の拡張が行われている。

 

「さて、行くか!!」

 

若き青年はF37に乗り込む。日英加豪4カ国共同開発で誕生した最新鋭機。初号機である本機には、4カ国の国旗が描かれている。無人機との連携を見据えた設計になっており、今後の活躍が期待される。日本製の部品や素材が多様されており、実質的には日本製の戦闘機であるが、エンジンはイギリスのロールスロイス社製を採用。アビオニクスは日英共同開発となった。

 

「・・・・・凄い機動性だ!! 心神の面影を感じるぞ!!」

 

開発にあたってはドッグファイトを前提とし、ベースとなったF-35を遥かに凌駕する機動性が求められていた。ステルス戦闘機ではあるが、異世界特有の対ワイバーン戦闘も出来る汎用機としての役割も期待されたのである。

 

「・・・・・小栗一等空佐なら・・・えげつない機動を披露してくれたんだろうな・・・・」

 

密かに彼女に恋していた青年は、横田基地での航空祭で静かに失恋していた。だが、それでも彼女への想いは消えずにいたのである。その後、幾つかの試験を実施した後にF-37は着陸する。試験結果を受け、防衛省はF-37の初期配備モデル14機を横田基地に配備し、日英の精鋭部隊第零航空団を編成すると発表。しかし、英国国内ではこのような声が上がった。

 

「何故我が国の精鋭部隊を日本に差し出さなくてはならないのか!!」

 

 

と。これについては、防衛省並びに外務省の関係者が連名で上申した提言を踏まえ、日英両国政府の合意の下で決まった事であるのだが、それはまた次回。

 

(続く)

 

 

 

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