日英同盟召喚   作:東海鯰

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国連軍集結

シルカーク王国 日本大使館

 

「朝田さん、かなりお疲れのようですが、少し休まれた方が良いのでは?」

 

文明圏外国家であるシルカーク王国。日本国としては特に重要視している国では無かったため、大使館の人員は少ない。人員が少ない場合、ひとたび大事が起これば地獄の忙しさとなる定めだった。

 

「根部さん、御気持ちだけ頂戴致します。私が休んでいる場合ではありませんので・・・」

 

本国から応援は来ていたが、元々の収容人数が少ないために多くは望めない。近隣国である駐英連邦パラディオン王国日本大使のアキコ以下、英連邦パラディオン王国大使館からの人員派遣に留まっていた。また、応援をもらっておいて当該職員が悠々と休む訳にもいかないため、朝田もまた、望まぬ忙しさに追い込まれていた。

 

「それに、根部さんもつい最近まで休みなくクルセイリースの一行の案内役をやっていたではないですか。息子さんも産まれて、休むべき存在なのに・・・」

 

朝田は手際よく書類を整理し、適当な対応を行っていくアキコを見て常々思う。

 

(自分もあれくらい、手際よく仕事をこなせたら楽になるのだろうか・・・・・)

 

高校卒業後、1回でケンブリッジ大学に合格し、学年2位の成績で留年することなく卒業したアキコ。彼女が外務省に入省した際、地政学を専攻し、ストレートでケンブリッジ大学を卒業した化け物が来る。同期入省で夫のシンや色々あって助け舟を出すことになったアスナと共にG3と言われていた。朝田はその時、外務省の本局で勤務しており、何度か彼女と仕事をした事があった。

 

(一族が総合商社の会長と社長、父親は著名な昆虫学者、母親は旧宮家の次女と、何で外務省に来たのかが分からないサラブレッド。その割には今の夫である大川さんには甘く、忙しくても彼と話をする時間だけは作りだす。はからずも見てしまったが、彼女に急遽割り当てた部屋で仲睦まじく並んで座っていた・・・)

 

「・・・・・・朝田さん」

「・・・・・・はっ!」

 

ぼーっとしていた朝田はアキコに話しかけられ、一瞬驚いた仕草をする。 

 

「やはりかなり疲れていますね。ウクライナ帰りのバーサークヒーラー、朝田さんを連れて行きなさい」

「バーサークヒーラーとか、間違いじゃないからな〜」

 

応援要員兼シルカーク王国への増援部隊の1人として赴任して来たケントがアキコの指示で朝田を羽交い締めにする。

 

「な、なにを!?」

「アキコ先輩からの命令だ。暫く休めってさ。じゃないと、過労死するよ過労死。まあ、俺はハルキウでロシア兵に殺されかけたけどな!!」

「我が国はウクライナに自衛隊を派遣していない筈なのに!?」

「まあ、色々言えない事があるんだわ!! そんじゃ、仮眠室まで強制連行しときますよ、アキコ先輩!」

「よろしくね、ケント。ヒロシより頼りになるわよ」

「うわ〜、意中の人にボロクソ言われてヒロシ先輩、カワイソ〜(棒読み)」  

 

こうして、過労死寸前の朝田を強制的にログアウトさせたアキコは、実質的にシルカーク王国大使館の全権を掌握した。

 

「私には休みをくれないのに、朝田さんには休みを与える外務省マジでクソ。ニッコニコ本社みたいに爆破されてしまえ」

「アキコ、もうすぐ関係国の担当者を集めた会議が始まるぞ。キリのよいところで済ませて来てくれ」

「そういうシンは与えた仕事を完遂したの?」

「ん? 降伏勧告に来たクルセイリースの使者との面会の事か? 彼奴等ならイギリス大使館で消息を絶ったから来てないよ。詳細は言わないでおくけど」

「流石はブリカス、祖国が壊滅する姿を見なくて済むように魂を現世から解放するなんて優しいなあ〜(棒読み)」

 

2人は会議室へ向けて歩き出す。

 

「しかし、シルカーク王国から発せられた「圏外文明国侵攻の可能性」という報告は世界中を駆け回ったな」

「中央世界や第二文明圏から我が国や大英帝国への要請は強かったわね。今国際秩序を保てる国は、日本国と大英帝国しかいない! ってね」

「この世界に転移した後、流れるように次々と戦いに巻き込まれていた大英帝国の意思決定は早く、異例の速度で派遣が決まる事となったな。我が国も高市沙苗総理の鶴の一声で派遣が決定。既にシルカーク王国を万が一の脱出部隊を配備すると共に、英連邦パラディオン王国を後方の支援基地として整備と物資の集積が完了。同国とニュージーランド、オーストラリアを結ぶシーレーンを確保」

「それだけではなく、日英同盟並びにフィルアデス大陸条約機構軍も動き出したわ」

 

そう、事は日本国並びに大英帝国のみでは収まらなかった。同情報は国際問題となり、直ちに国連安全保障理事会が招集されたのである。

 

 

数日前のニュージーランド首都ウェリントン

国連本部∶国連安全保障理事会

 

「・・・・以上から、我が国シルカーク王国はクルセイリース大聖王国による侵略の危機に瀕しております!! 直ちに有効的な対策を実施して頂きたいと存じます!!」

 

異世界転移後、新たな国際秩序構築の為、ニュージーランドの首都ウェリントンに置かれた国連本部では、ソロモン諸島、ツバル、シルカーク王国、英連邦パラディオン王国の要請により、各国の国連大使が緊急の安全保障理事会を開催していた。議題は無論、クルセイリース大聖王国に関する問題である。この時の安全保障理事会理事国は、

 

常任理事国∶日本国、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド

 

非常任理事国(2年毎の交代制)∶ロウリア王国、パーパルディア皇国、新生グラ・バルカス帝国、神聖ミリシアル帝国、ニグラート連合、マギカライヒ共同体

 

であった。第一、第二、第三文明圏それぞれから2カ国ずつ選ばれる仕組みであり、現在の非常任理事国は上記の6カ国となっている。なお新生グラ・バルカス帝国は、先の戦争で神聖ミリシアル帝国から領土を割譲させ、本国の機能が第一文明圏に移った事で、第一文明圏に属する国という扱いになっている。

 

「我が国、ソロモン諸島も同感です。彼奴らは飛行艦とやらで我が国の領空に接近し、あわよくば我が国を占領しようと試みました。もし、イギリス軍が展開していなければ、我々はここにいないでしょう」

「ソロモン諸島と隣接するツバルも同意見です。前回はたまたま奴等が我が国に手を出して来なかっただけに過ぎません。ソロモン諸島を陥落させていたら、間違いなく我が国にも刃を向けてきたでしょう」

 

先のクルセイリース大聖王国によるソロモン諸島侵攻作戦はイギリス海軍が派遣した空中戦艦「プリンスオブ·フィリップ」により迎撃に成功していた。しかし、もしイギリス海軍の機転がなければ、まともな防衛戦力を持たないソロモン諸島は間違いなく占領されていただろう。それこそ、デュロで起きた日英の邦人殺害のような悲劇が繰り返されるところであった。

 

「大英帝国の支援により、奴等からの独立を達成した我が国としても、クルセイリース大聖王国には国際社会が一体となって、断固とした対応を取るべきであると考えます!!」

 

実際に占領されていた英連邦パラディオン王国の大使の言葉には強い説得力があった。

 

「ご覧ください! 我が国が奴等の統治下にあった頃に起きた大量虐殺事件の証拠を!! 奴等は我が国の巫女が代々継承する祭祀の杖とそれを扱う資格の持つ巫女、そして巫女の婚約者である守護者を求め、手当たり次第に知ってそうだと判断した者を集め、最終的には殺害していたのです!!」

 

各国の大使には生々しい記録の数々が示される。パラディオン島を解放したイギリス軍は、各地でクルセイリース大聖王国による虐殺事件の証拠を確保しており、更に処刑寸前の現場をUKSFが強襲し、下手人や責任者の捕縛と被害者の保護も行なっている。クルセイリース大聖王国軍や軍属による被害の実態は未だ判明しておらず、日英の支援による調査と裁判が続けられている。

 

「我が国としては、直ちに国連軍を結成し、迫りくるクルセイリース大聖王国軍を迎撃。返す刀で本国まで攻め落としてしまうべきだと考えている。生半可な攻撃では、野心を持つ国を止める事は出来ない。我が国がそうであったように····」

 

パーパルディア皇国の国連大使リウスは国連軍の結成を主張。更に、

 

「我がパーパルディア皇国は国連軍結成にあたり、総勢20隻もの強襲揚陸艦(事実上の軽空母)を含む艦隊並びにシルカーク王国防衛任務の為に戦闘機10機(全てユーロファイタータイフーン)と陸上部隊5000名を派遣する用意がある。これにフィルアデス大陸条約機構に加盟する各国の軍を加えれば、そこそこの戦力にはなろう。既にエルト首相の命により、陸海空軍は出撃に向け用意を進めている」

 

このように述べ、パーパルディア皇国は大規模な戦力をシルカーク王国へ派遣すると表明。

 

「我が新生グラ・バルカス帝国は、第二文明圏にある海外領土ニュー・アーク防衛並びにグラ・バルカス帝国並びに正統グラ・バルカス帝国を自称する武装勢力と交戦中の為、大規模な部隊を派遣することは出来ない。だが、先の観艦式にて派遣した戦艦「グレート・ガルマ」以下8隻の艦隊をそのまま国連軍として差し出して良いと、皇帝陛下並びに皇太子殿下から許可を得ております。陸軍と空軍については、ご勘弁を」

 

新生グラ・バルカス帝国の大使は戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦4、補給艦1の計8隻の艦隊を派遣すると表明。神聖ミリシアル帝国、ニグラート連合、マギカライヒ共同体は軍の派遣は行わず、医療班等後方支援を約束。翌日に開催された緊急の国連総会にて、国連安全保障理事会の理事国らは共同で国連軍結成の提案を提出。途中退席したアニュンリール皇国を除き、圧倒的賛成多数で可決。同時に国連軍の最高司令官は日本国、副司令官は大英帝国から出す事も決定。各国は部隊の人選と派遣の準備を開始したのである。

 

 

「それに伴い、あの男達・・・・アキコとボクの幼なじみが更に出世したんだよね。まだ30歳だろ? その齢で海将補なんて凄く期待されてるじゃないか」

「その点に関してはそう。だけど2人セットで昇進か〜。まあ、優劣付け難いしね〜」

 

アキコとシンはいよいよ会議室の前に着く。

 

「しかし、パーパルディア皇国も変わったよな」

「これも日英の傀儡と化した、エルト首相の努力の結果ね」

 

パーパルディア皇国は日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドとの戦争の後、多くの国へと分裂した。しかし、永らく国家としての運用実績が無い1地方が国際社会の枠組みが無いこの世界で国家としてやっていける訳では無く、様々な弊害が生じる事となる。そこで日英の政治顧問らの意見を採用する形で、地球世界の欧州連合や北大西洋条約機構を参考にした国家連合を形成した。こうして発足した関税同盟である「フィルアデス連合」、集団安全保障である「フィルアデス大陸条約機構」が発足した。どちらの組織にも日英両国が一枚噛んでおり、パーパルディア皇国の政治はイギリス国王や天皇陛下の代理人である総督を介して行われ、パーパルディア皇国軍の最高司令官はイギリス国王と日本国首相、更に三軍の統合幕僚長は日英が交代で務める等、様々な規制が加えられていた。同時にそれはパーパルディア皇国が日英の後ろ盾を得ているという事でもあり、パーパルディア皇国と各国の関係改善を促した。悪名が高かったパーパルディア皇国の名を残したのは、かつての列強国時の影響力を考慮しての事であり、影響力を残しつつ、他国の信頼を勝ち取りたいと、一見矛盾する二つの果実を得るために舵取りを行っている。国際社会では、パーパルディア皇国は生まれ変わったと見る者が多く、一定の効果が出ており、エルトの国家運営は見事であるとの意見も多い。そんな国際社会の信用回復という意味においても、彼等は第3文明圏と周辺国家のため、皇国軍を派遣してくるのだった。

 

「日英両国はパーパルディア皇国軍の派兵に賛同。更にクワ・トイネ公国、クイラ王国、ロウリア王国、ローデシア連邦、アルタラス王国、ポルスカ共和国、ナハナート王国ら総勢48カ国の国連軍を結成。ここに我々G5が加わり、53カ国の国連軍。圧倒的だな」

「国際的に協力するよう求められているからね。多額の費用をかけてNATO式に再編した成果が実った形ね。彼奴等はどう担当区域を分けて運用するのか・・現場は本当に大変みたいだ。さあ、仕事仕事!!」

 

アキコとシンは窓の外を見る。上空にはオーストラリア陸軍とパーパルディア皇国陸軍のヘリコプターが空を舞うのだった。

 

 

シルカーク王国王都タカク

王軍本部兼国連軍最高司令部

 

間もなくクルセイリースから突きつけられた期限、2ヶ月が過ぎようとしていた。大きな楕円形のテーブルに各軍を指揮する者達が座る。

 

○シルカーク王国竜騎士団∶ヒーシル

 

○王都防衛騎士団長∶ビセキ

 

○パーパルディア皇国空軍シルカーク王国派遣軍∶ハムート大佐

 

○対圏外文明国防衛艦隊司令長官∶バイア大佐

 

○ジャスティス級イージス艦「ジャスティス」艦長∶ガーラス中佐

 

○日本国陸上自衛隊シルカーク派遣混成団長∶長命國男陸将補

 

○海上自衛隊第1護衛隊群兼国連軍最高司令長官∶羽田弘海将補

 

◯海上自衛隊護衛艦「いずも」艦長兼国連軍参謀長∶栄彰海将補

 

◯航空自衛隊シルカーク派遣軍団長∶海場湊空将補

 

◯英国王立陸軍シルカーク派遣軍団長兼国連軍副司令官∶アオイ・バイオレット・アリス・ハミルトン准将

 

◯英国王立海軍シルカーク王国派遣軍団長∶フリード・アダム・スミス大佐

 

◯英国王立空軍シルカーク王国派遣軍団長∶アーロン・エイブラハム・ジョーンズ大佐

 

その他国連軍に参加する諸国の代表らが一堂に介した。今後の東方世界を守護する者達の会合に、シルカーク王国も気合いが入る。

 

「ヒーシル殿、あれが日本の方々か」

 

自国やパーパルディア皇国の将達と比べると、日本国、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランドの将が着る服は酷く貧相に見えた。軍式はNATO式に再編されたものの、制服に付いては旧軍の仕様を踏襲している。

 

「はっ!! ビセキ様、あれが噂に聞く凄まじい強さを持つとされる日本軍並びに大英帝国軍の将にございます。私も見るのは初めてではございますが。ビセキ様、見た目はあんなに貧相な格好をしておりますが、伝え聞く力は本物です。決して失礼の無いよう、お願い致します」

「わ・・・・・解っている!」

 

やがて会議が始まる。パーパルディア皇国のハムートが日英の諸将に向かって話し始める。

 

「日本国並びに大英帝国の方々、シルカーク王国は現在急ピッチで飛行場整備を開始しているが、貴国の最新鋭戦闘機の運用レベルまでの整備をするにはまだ少し時間がかかると聞いている。それまでは、我がパーパルディア皇国空軍を主力とする、フィルアデス大陸条約機構軍のユーロファイタータイフーンが、シルカーク王国の空を守ることになる。日本国、大英帝国、シルカーク王国共に異論はありませんな?」

 

シルカーク王国は今まで国策として飛行場の整備を禁止してきたが、国家存亡の危機となり、急遽飛行場設置に舵を切ったという経緯がある。日英両国の支援により、最低限のユーロファイタータイフーンの運用が可能になってはいたものの、最新鋭のステルス戦闘機F-37フラッグを運用するにはまだ設備が不十分であった。また運用可能なユーロファイタータイフーンも、何十機と纏った運用は出来ず、殆どの航空戦力は更に後方の英連邦パラディオン王国に配備されている。F-37に至ってはオーストラリアの整備拠点で待機しており、到着は未だ見込めない状況である。この為、当面の航空戦力はパーパルディア皇国空軍のユーロファイタータイフーン8機とフィルアデス大陸条約機構軍のヘリコプター部隊だけであり、高射機関砲部隊や防空ミサイル部隊で穴埋めする事になっている。

 

 

「当面、国連軍はシルカークの宿舎を兵士の宿泊の為に使わせてもらう。シルカーク王国軍に異論はありませんな?」

 

ヒーシルの顔が曇る。しかし、自国のワイバーンに比べると、パーパルディア皇国を始めとする国連軍の戦闘機やヘリコプターは圧倒的な力を持ち、ユーロファイタータイフーンにあっては異次元の強さを持つ。更にそれ以上の戦闘機がオーストラリアまで進出している。言い方は癇に障るが、合理的意見のため、腹立たしさを感じながらも彼は納得するのであった。日本国並びに大英帝国にあっても、実戦経験が少ない部隊に防空任務を任せる事に不安はあるが、国連軍のエアカバーが後方の英連邦パラディオン王国にあり、更に最新鋭ステルス戦闘機は未だオーストラリアから出られない以上は納得せざるを得ない。

 

「次に海軍の配置だが・・・・我がパーパルディア皇国対圏外文明国防衛艦隊は、日本国並びに大英帝国艦隊と共に行動し、敵艦隊を殲滅する。特に大英帝国海軍の駆逐艦は不具合続きであり、戦力として見込めない状況であるからな」

 

艦隊司令バイアは大英帝国海軍を挑発する。海上自衛隊第1護衛隊群兼国連軍最高司令官羽田弘海将補は沈黙を保つ。それを見た護衛艦「いずも」艦長兼国連軍参謀長栄彰海将補は呆れながら発言する。

 

「大変失礼なンだが、パーパルディア皇国海軍を日英連合艦隊に同行させるつもりはねえ。確かにパーパルディア皇国海軍を始め、フィルアデス大陸条約機構軍はNATO式に再編され、装備の上では我が国並びに大英帝国と遜色ない。されど、再編から日が浅く、練度の面で同行させるには問題しかない。それに、我々海軍に与えられた任務は敵艦隊の撃滅だけではない。シルカーク王国の領海警備、同国と英連邦パラディオン王国、ニュージーランド、オーストラリア連邦に至るシーレーンの確保、ソロモン諸島やツバル等の島嶼国防衛もある。パーパルディア皇国を始めとするフィルアデス大陸条約機構海軍は、後方のシーレーン確保及びソロモン諸島、ツバル防衛任務に当たらせる予定だ」

「ぐっ!!」

 

パーパルディア皇国のバイアは沈黙し、シルカーク王国の面々は驚愕する。日本国の将の発言。これはシルカーク王国海軍の強さを遙かに凌ぐパーパルディア皇国海軍に対し、

 

(お前たちは弱すぎて、足手まといになるから付いてくるな)

 

と言っているに等しい。パーパルディア皇国としても、日英に比べて練度に劣り、先に近代化したクワ・トイネ公国らロデニウス連合艦隊にも劣る事は承知している。しかし、どうしても自国の軍事基準をもって考えているため、いまいち強さがどの程度なのかが掴めない。基本的技術力が圧倒的に異なり、瞬間的に多くの情報伝達システムの無い世界では、どうしても相手の強さが的確に読めない部分が多かった。NATO式に再編されてもそれは変わらない。未だ手探りなのだ。先の大戦において、日本国海上自衛隊及び大英帝国海軍に対して手も足も出ずに敗退している。そしてあの異界の超帝国、グラ・バルカス帝国でさえ屈服している。

この会議の場において、日本国並びに大英帝国の言はどの国家よりも発言力、そして説得力があった。議論が重ねられた結果、

 

 

1.シルカーク王国王都タカクの防衛は、空はパーパルディア皇国空軍のユーロファイタータイフーンを基本とし、陸はシルカーク王国騎士団を主体としてフィルアデス大陸条約機構陸軍が支援する

 

2.日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、クワ・トイネ公国、クイラ王国、ロウリア王国による連合艦隊は、タカク南東方向約150km付近のシルカーク王国ヒシー島付近海域に展開、パーパルディア皇国を中心とするフィルアデス大陸条約機構海軍は国連軍最高司令官が命令した海域に展開し、シーレーンの確保並びにソロモン諸島、ツバル防衛を担う

 

3.ジェット機が運用可能な飛行場が完成された場合は、部隊再編を行う

 

概ねこのような内容となった。会議後、諸将は意見交換を行う。その後諸将はそれぞれやるべき事を果たすために散っていく。

 

 

建設中のシルカーク王国タカク空軍基地

 

「早いこと、F-37が運用可能になってくれると有り難いのだがな」

 

国連軍空軍戦力を束ねる海場湊空将補は建設中の航空基地を視察しながら副官にそう述べる。

 

「あまりにも高額過ぎて、一部のエースパイロットにのみ配備される事になった最強の戦闘機、F-37フラッグですな」

「ああ。量産型はF-38を名乗るそうだな。そして、F-37に乗る事を許されたパイロットはフラッグファイターと呼ばれる」

「誰がそう名付けたので?」

「無論、この私だ」

「ははは、海場空将補の星座は確か乙女座でしたか。それならそう、呼びたくなりますなあ」

「残念ながら私は乗れないのだがな」

 

2人の頭上をパーパルディア皇国空軍のユーロファイタータイフーンが通過する。

 

「スクランブルのようだな」

「最近らクルセイリース大聖王国と見られる飛行艦が頻繁に防空識別圏に接近しているようですなあ」

「うむ。そうなれば、基地の建設を更に前倒しして貰わなくてはならぬな」

 

 

シルカーク王国日本大使館食堂

 

シルカーク王国の日本大使館では、国連軍に参加する海上自衛隊の諸将が集まり、夕食を摂っていた。

 

「羽田海将補、本当によろしかったのですか?」

 

海上自衛隊における、国連軍参加艦艇唯一の女性艦長が口を開く。

 

「京谷清華二等海佐、本当によろしかったとは、何でしょうか?」

 

階級こそはヒロシの方が上ではあるが、年齢や実績は周りにいる全ての艦長らに劣るヒロシは自然と丁寧口調になってしまう。

 

「先の国連軍の会合で、パーパルディア皇国海軍を艦隊に加える事に反対したそうではありませんか。パーパルディア皇国海軍はイージス艦を保有しており、防空戦力として使えます。艦隊に加えても良かったのでは?」

「京谷艦長の言われる事は分かるけどね、パーパルディア皇国海軍の練度を考えれば、艦隊に加えないという判断は妥当じゃないかな?」

 

ヒロシの隣に座っていた護衛艦「ゆきかぜ」艦長、松葉延寿一等海佐が代わりに口を開いた。

 

「松葉一等海佐に聞いていません。羽田海将補にお尋ねしているのです」

「構わねえ。松葉一等海佐、続けろ。俺が許可する」

 

味噌汁を飲みながらアキラがそう述べた。マツバは言葉を続ける。

 

「カタログスペックだけでみれば、パーパルディア皇国海軍のイージス艦を艦隊に組み込まないのはおかしく見える。だけど、パーパルディア皇国海軍のイージス艦が運用入りしたのは一カ月前。練度も十分じゃないまま実戦入りしている。そんな状態で死ねと、君は言えるのかい? 僕は可愛い後輩を4人も喪っているんだ。そんな命令は出せないし、国連軍最高司令官も出せないよ?」

「・・・・・・・」

 

京谷艦長は黙り込むしかなかった。彼女は成績優秀であり、誰もが飛び級試験に合格すると太鼓判を推すほどであったが、現実は非情だった。結果は1点足りずに不合格。翌年の試験で合格し、今年二等海佐に昇進。年齢自体はヒロシやアキラより若いが、負けん気な性格であり、ヒロシはたじろいでしまったのである。

 

「・・・・・・・・」

 

空気が悪くなったな。そう感じたアキラは一瞬ヒロシの顔を見る。

 

(・・・・・・やれやれ、なンだよなあ。俺がいなきゃ、コイツらを束ねられねえンだな)

 

「そう言えば、京谷二等海佐の出身は瀬戸内だったな?」

「・・・・・は、はい! 山口県下関市の出身です!!」

「下関か、良いなあ。下関の河豚は死んでも食べたくなる。それだけじゃない。瀬戸内の魚は骨まで美味いからな!」

「栄海将補は河豚を食べた事がおありなので?」

 

顰めっ面だった京谷二等海佐の顔に笑顔が蘇る。

 

「ああ。一度、コイツと食べに行った。なあ、ヒロシ?」

「・・・・あ、ああ。あれは本当に美味かった」

 

ヒロシの肩を叩くアキラ。急に話を振られたヒロシは驚きながら返事を返す。

 

「んで、松葉一等海佐の出身は京都だったな。海があるのに、ないと勘違いされる。天の橋立があるのにな!!」

 

アキラは場を和ませようと、2人の出身を利用して話を作り始める。すると、大使館食堂で働く職員らがデザートを置き始める。

 

「おっ!? どうしたンだ? この水饅頭!!」

「「水饅頭??」」

 

松葉と京谷の声がシンクロする。

 

「アンタが欲しがると思って、従弟のマサヨシに命じて長岡から取り寄せたのよ。あの連合艦隊司令長官、山本五十六が愛した水饅頭よ」

 

アキコが仁王立ちしながらアキラに向き合う。隣には配偶者のシン、そして医療担当のケントが控える。

 

「いやあ、すまねえなあ!! さてさて・・・・京谷二等海佐!」

 

水饅頭の器を寄せるように促すアキラ。よく分からないまま京谷はそれに従う。

 

「え? ま、饅頭に砂糖、です、か?」

「そうだよ?」

「さて、次は松葉一等海佐」

 

お約束、と言わんばかりに2人の饅頭に砂糖をドバーッと乗せていくアキラ。

 

「アキコ、倅と俺の嫁は元気にしてるか?」

「真義とアイ、2人とも元気にはしてるけど、中々一緒にいてやれないのが課題ね。早く休みが欲しいんだけど、外務省クソだからさあ、休みくれないのよ」

「ははは、違いねえな!!」

 

その後、自分の水饅頭にも砂糖をたっぷりかけるアキラ。京谷と松葉は呆気に取られながらアキラを見つめる。

 

「・・・・・・う〜ン、うンめぇ〜!!」

 

饅頭に砂糖という、甘党が過ぎるだろうというデザート。それを幸せそうに食べる参謀長。それを見た京谷と松葉は、自分達のいがみ合いやコンプレックスが段々とバカバカしいと思うようになる。後にこの2人は結婚し、2児をもうける事になる。

 

「・・・・・・・ケント、何でアキラは糖尿病にならないんだ?」

「ヒロシ先輩、気にしたら負けですよ」

 

 

シルカーク王国イギリス大使館

 

「・・・・・国連軍最高司令官のヒロシ・ハネダと言ったか? アイツはポンコツね。実質的には隣にいるアキラ・サカエが最高司令官ね」

 

紅茶を飲みながら国連軍副司令官であるアオイはそう呟いた。ニュー・ホンコン総督として、今日も変わらない日々を過ごしていた矢先に副司令官としてシルカーク王国へ向かうよう辞令を受け飛んできた。総督府は兄ハルトの次男であり、養子のキョウヤ・ハミッシュ・アーサー・ハミルトンと重臣らに任せ、彼女はシルカーク王国へやって来た。

 

「まあ、民政移管したニュー・ホンコンで総督府がやる事はあまりないし、軍の指揮ぐらいだし、暇ではあるけど」

 

紅茶を飲み干したアオイは外を眺める。

 

「・・・・・クルセイリース大聖王国。一筋縄では、いかないでしょうね」

 

 

クルセイリース大聖王国

聖都セイダー テンジー城

 

 

聖王ジュウジの急死により、一時的に実権を握る事となった聖王子ヤリスラを中心として、国の行く末を決める重要な会議が行われる。

 

「これより、北西新世界開拓に関する会議を開催します」

 

歴史は進む。但し、破滅に向かって。

 

(続く)

 

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