属領タルクリス攻略作戦開始と同時刻
「間もなくソロモン諸島の領空に到達致します」
本隊より先に属領タルクリスを出発していたソロモン諸島攻略艦隊。この艦隊はクルセイリース大聖王国によるシルカーク王国作戦と並行して立案された作戦、「ソロモン諸島作戦」を実行する部隊である。旧式の50門級飛行戦艦を旗艦とし、
50門級飛行戦艦4
30門級飛行巡洋艦4
飛行小型艦8
仮装飛行巡洋艦2(民間商飛行艦徴用)
飛行輸送艦8
特設飛行補給艦4(民間徴用)
の計30隻から成る艦隊である。この艦隊にはソロモン諸島の領土の一部であるサンタクルーズ諸島テモツ州ファトゥタカ島とアヌータ島の占領と拠点化を任務として与えられていた。
飛空艦隊旗艦50門級飛空戦艦「アタッグ」
艦橋において、ソロモン諸島作戦司令キスカと艦長アッツは話す。
「キスカ司令」
「如何なされたアッツ艦長?」
「いえ、今回の攻略作戦はまともな防衛施設のないエリアになります。全くの抵抗がないとは思えませんが、魔力にかなり余力が相当残ると想定されます。運用はいかがしますか?」
アッツ艦長は本国から命じられたソロモン諸島作戦に疑問を持っていた。確かにソロモン諸島はまともな軍隊が存在せず、警察官ぐらいしか抵抗勢力は存在しない。しかし、それだからと言ってわざわざこんな不毛の島を占領する意図が理解出来ない。
「キスカ司令、私は軍人であり、本国の命令には忠実であります。ですが、それでもこんなしょうもない島をこれだけの部隊で占領する意図を図りかねるのであります」
「一応本国は、ソロモン諸島は大英帝国とカナダの間にあり、両国の連絡を遮断するのに最適である・・・・とは言うが、方便であろうな」
クルセイリース大聖王国本国がソロモン諸島作戦を発動した理由。それは政治的意味合いが強かった。様々なルートから国連軍がシルカーク王国、英連邦パラディオン王国、ニュージーランド、オーストラリア連邦に主要部隊を配置している事は明らかであった。表向きの理由はシルカーク王国攻略を円滑に進める為、敵の戦力をソロモン諸島に振り向けさせると言うものであったが・・・
「本国はシルカーク王国攻略後、再度日本国と大英帝国に従属勧告を行うつもりだそうだ。特にソロモン諸島は大英帝国国王が治める地域の一つ。国王の土地を占領する事で、奴らに譲歩を迫るつもりらしい」
「・・・・・・しかし、こ〜んな島を維持出来るでしょうか? オーストラリアとカナダの連絡を遮断できると言う事は、両国から挟撃を受け続けると言う事でもあります。私には嫌な予感しかしないので・・・それと、もし現地人がいたら如何しましょうか?」
少し考えこむキスカ。
「・・・・やはり敵国の民には恐怖を植え付け、周辺国にはクルセイリース大聖王国に逆らうと民ごと殲滅されるという恐怖を与えなければならない。余力は全て拠点維持に回し、一人でも多くの敵国民を殲滅する事とする・・・・・と指示は出ているが、現実的ではないな」
キスカ司令自身、占領した島を維持出来るとは毛頭考えていなかった。にも関わらず現地人を迫害等すれば、恨みを買い、孤立した島で玉砕するしかない。キスカは軍人である。軍人としての矜持がある。クルセイリース大聖王国の軍人には国家運営能力や、外交能力等、今後100年を見据えた行動が求められていたため、政治的な見地を持つ。全ては部下の命を守るために。彼は続ける。
「弱腰に映るやもしれんが、無駄な殺戮で恨みを買い、撤退も降伏も許されぬまま犬死にする事だけはあってならぬ。部下には、現地人に対する迫害は即刻死刑と厳命せよ!!」
キスカ司令は遙か先を見据えていた。自分達の未来さえ。
「それがよろしいと存じます。このアッツ、最期までお供致しますぞ!!」
「お話中失礼します」
幹部が会話に割って入る。
「偵察の為に向かった飛行小型艦ガレロイより入電!! ファトゥタカ島周辺に敵影なし!! 敵方からの反撃の様子もありません!!」
「罠でしょうか?」
「・・・・・仮に罠であったとしても、我々は前進する以外に道はない。直ちに上陸作戦を開始せよ!!」
キスカ司令の命令により、ソロモン諸島作戦は実行される。無人島であるファトゥタカ島にクルセイリース大聖王国軍が上陸。同軍は島を無血占領し、王国軍旗を掲げた。この日、部隊は島周辺にて拠点化を開始。しかし・・・・・
飛空艦隊旗艦50門級飛空戦艦「アタッグ」
「何だと!?」
「通信員、間違いはないのか?!」
島を占領し、拠点化を開始した矢先であった。キスカ司令とアッツ艦長が狼狽する。本国からの緊急通報。それは・・・・・
「ま、誠にございます!! シルカーク王国攻略の準備を進めていた本隊が属領タルクリス駐留中に日英を中心とする国連軍の奇襲攻撃を受けました。部隊は命からがら脱出した飛行艦1隻を除き全滅しました!!更に属領タルクリスにてレジスタンスが一斉に蜂起し、属領タルクリスはタルクリス共和国として独立したとの事!!」
国連軍による奇襲作戦、タルクリス解放作戦であった。
「キスカ司令!! 本隊が壊滅した今、陽動である我々がこ〜んなしょうもない島に居座り続ける意味等ありません!! 直ちに撤退するべきです!!」
アッツ艦長が即時撤退論を掲げる。
「左様!! 無血占領した島を放棄するのは陸軍としては口惜しい限りだが、玉砕しては意味がない!!」
「そもそも本隊が壊滅した以上、我々しかまともな外征艦隊が残っていないのだ!! 直ちに撤退するべきだ!!」
幕僚らは一斉に撤退論を口にする。本隊を支援する為の別働隊であり、肝心の本隊が壊滅したとあっては存在意義がないのは明らかだった。しかし・・・・
「私は諸君の言うように撤退するべきであると確信している。だが、本国はそう思っておらぬようだ・・・・」
本国からの指示は以下の通りであった。
・ソロモン諸島作戦の第二段階、アヌータ島の攻略は無期限延期とする
・ソロモン諸島作戦参加部隊は、確保したファトゥタカ島を要塞化し、維持する事に総力を上げるものとする
・補給の観点から、飛行巡洋艦以上の大型艦は旗艦アタッグを除き、本国へ撤退させること
・飛行戦艦1隻、飛行小型艦3隻と仮設飛行巡洋艦2隻をファトゥタカ島駐留艦隊として配備する
・本国より仮装飛行巡洋艦6隻を増援として派遣する
・同時に陸軍部隊を補給物資と共に派遣する
・艦隊司令キスカを元帥に昇進。その他幕僚らは二階級特進とする
・撤退は絶対に許されない。是が非でも島を死守せよ
本国よりの命令が通信員を通して読み上げられる。幕僚らは皆、死んだ魚のような目をしている。
「本国は一体何を考えているのだ!?」
アッツの語気は強まる。
「我が艦隊は崇高な目的を持ち、聖王子ヤリスラ様の命により動いている。故にこの神聖な行軍によって島を無血占領する事が出来た!! だがしかし!!」
アッツは更に怒りを露わにする。
「我々は聖王様よりお預かりした兵士達を無闇矢鱈に死なせる事はあってはならぬ!! 無意味な犠牲は大罪だ!!」
彼は語気を強めたが、本国からの指示は変わる事がないのは明らかであった。
「だが、この命令書にはその聖王様の署名がある・・・故に我々はこの島を維持する他ない・・・」
幕僚らは約束された死が眼の前にある事を悟る。
「・・・・せめて未来ある若い兵士達は本国へ帰してやるべきだろう。各部隊、精鋭中の精鋭で島を守らせると言う名目で若い兵士を本国へ戻る飛行戦艦や飛行巡洋艦、飛行輸送艦に乗艦させよ。名目は慣れない気候の為、体調不良者が続出したとしておけ」
艦隊司令キスカは最悪の状態の中で最善の策を撃ち続ける。幕僚らはそれを全面的に支持する。
「直ちに対応致します!!」
「飛行艦の乗員も若い兵士を本国へ戻しましょう。こんなしょうもない島で玉砕させるべきではないでしょう」
「うむ、そうしてくれ」
クルセイリース大聖王国ソロモン諸島作戦参加部隊は翌朝、本国並びに艦隊司令キスカの命令により、参加部隊の一部を本国へ引き上げさせる。この間、国連軍がクルセイリース大聖王国側の行動を妨害する事は一切なく、若い兵士達は次々と本国へと帰っていく事になる。
「しかし、敵方からの妨害がないのが気になる・・・やはり、我々は罠にはまっているのではないか?」
艦隊司令キスカ元帥は去りゆく飛行艦部隊を見ながらそのような事を考えていた。一方、国連軍は・・・・
シルカーク王国王都タカク
サルカ城国連軍作戦会議室
「栄海将補!! 敵がソロモン諸島へ侵攻!! サンタクルーズ諸島の一番端、ファトゥタカ島を占領した模様です!!」
クルセイリース大聖王国ソロモン諸島作戦部隊がファトゥタカ島を無血占領して3時間後。周辺海域で哨戒・監視活動を行っていた国連軍ソロモン諸島防衛艦隊に所属する新生グラ・バルカス帝国海軍の小型潜水艦(旧日本海軍波号潜水艦に酷似)からの報告が多数司令部には届けられていた。
「敵は無血占領したファトゥタカ島を要塞化する動きを見せています!!」
部下は一大事であると考え、必死の形相でアキラに報告を入れる。しかし・・・・
「zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz」
完全に寝ており、話を聞いていなかった。報告の途中で寝ている事に気付いた部下はアキラを叩き起こす。
「参謀長!! ソロモン諸島が!!」
「うるさいンだよ!!」
分かってるわ!!と言わんばかりに怒鳴り返すアキラ。明らかに不機嫌であり、ポケットから饅頭を取り出して食べ始める。
「そんなに叫ばなくても聞こえてるンだよ!」
「それは栄海将補が寝ているからで・・・」
「ンで、どうして欲しいンだ? 逆にどうするべきだと思うンだ?」
「え?」
「せっかく寝ているオレを叩き起こしたンだ。君の考えを聞きてえなあ。言ってみな?」
試すかのように尋ねるアキラ。部下は率直な意見を述べる。
「ソロモン諸島は我が国にとって、海産物を輸出し、更にはオーストラリアとカナダを結ぶ線上にある国です!! 一部とは言え、そこを占領されたのです!! 直ちに奪還作戦を行うべきではありませんか?! 何のためにパーパルディア皇国を中心とする第三文明圏諸国軍をソロモン諸島やツバルに配置しているのでしょう? 奪還に備えてではないのですか?!」
必死に奪還作戦の実施を訴える部下に対して、アキラは・・・・
「30点。不合格だな」
「へ?」
気の抜けた返事。部下はアキラの意図が分からなかった。アキラは続ける。
「確かに、俺は国連軍の一部をソロモン諸島とツバルに振り分けた。だが、それは両国の首都防衛及び攻撃予想地域の住民避難の為だ。決して奪還作戦の為じゃない」
「で、では・・・敵を放置するのですか?!」
「そうだが?」
「な、何故に?」
「逆に何で直ぐに取り返さなきゃいけないンだ? 放置しておけば勝手に干上がるのにか?」
「え?」
アキラはソロモン諸島やツバル周辺海域の海図を取り出し、艦に模した模型を配置していく。
「サナダ公国の情報から、敵がソロモン諸島のファトゥタカ島を占領しようとする事は分かっていたンだ。だが、ファトゥタカ島はまともな資源を産出しない不毛の島。ここを占領されたところで、我々には何の痛みもねえ。むしろ、敵に不必要な支出を強要出来る。その為に・・・・」
アキラはファトゥタカ島周辺海域に4つの駒を配置した。
「既にソロモン諸島周辺海域には、我が国の潜水艦を配置している。内2隻は練習潜水艦ではあるが、能力は申し分ない。習熟を兼ねて、実戦で一人前になってもらう」
国連軍の頭脳、アキラの作戦はこうだ。まず、敵がソロモン諸島のファトゥタカ島を占領する事は分かっていた。しかし敢えてそれを防がず、無血占領させる。占領しに来た部隊は陽動である事は暗号解読、諜報員、衛星画像から明らかであり、人口密集地域さえ守れれば良い。わざわざ手間暇かけて防ぐ等馬鹿馬鹿しい。そんな余裕があるのであれば、敵の本丸を叩きたいぐらいである。
「いいか? 敵はミッドウェー作戦とアリューシャン作戦を実行したようなもンなンだ。ミッドウェー作戦がシルカーク王国攻略作戦、アリューシャン作戦がソロモン諸島攻略作戦だ。敵はシルカーク王国攻略作戦を円滑に進める為に、我々の戦力の一部をソロモン諸島方面に振り向けさせたかった。それこそ、ソロモン諸島方面に本隊が向かうかもしれないと疑心暗鬼にさせ、あわよくばソロモン諸島方面に振り向けた陽動部隊とタルクリスから出撃させた本隊で挟み撃ちにしようと考えていただろう。だが、令和のミッドウェー海戦こと、シルカーク王国作戦は我々国連軍の圧勝に終わった。そうなると、敵はどうすると思う?」
再び部下に問うアキラ。
「・・・・・私が陽動部隊の指揮官であれば、撤退もやむなし・・・・はっ?!」
部下はやっと状況を飲み込めたようであった。
「つまりは、栄海将補は・・・・敵が逃げるようにソロモン諸島から撤退する可能性があると判断しているので?!」
「ああ。敵に残された選択肢は2つだ。一つは君が言うように即時撤退。もう一つは・・・・・」
アキラは一呼吸置いてから言う。
「アッツ島、キスカ島のように島に固執し、撤退出来ずに玉砕するか・・・・だ。配置した練習潜水艦を含めた「おやしお型」は敵の補給線遮断の為だ。敵飛行艦を発見し次第、在庫処分を兼ねたハープーンで攻撃し、敵水上艦を魚雷で攻撃する。また一部の艦には最近開発が終了した18式魚雷(B)を装備させ、試験も行わせる」
アキラは更に続ける。
「更にセントヘレナのイギリス軍基地に新生グラ・バルカス帝国空軍の爆撃機を展開し、定期的に爆撃を行わせる。敵が撤退するなら引かせればよく、引かないなら支出を強要させる。奪還作戦は少なくない犠牲が出る。最低限の戦力で勝てるなら、その方がいい」
「・・・・・つまりは、ファトゥタカ島は栄海将補の仕掛けた・・・」
「罠だ。それも、二度と出られない泥沼のな」
この日以降、ソロモン諸島周辺海域では国連軍の活動が活発化した。ファトゥタカ島周辺海域には、海上自衛隊の潜水艦4隻が展開。更にセントヘレナ島からは日英のP-1哨戒機や新生グラ・バルカス帝国空軍のグティマウン2が出撃し、偵察や爆撃により心理的ダメージを与える。またフィルアデス大陸条約機構軍所属のコルベット艦も時折演習を兼ねた威力偵察を行い、艦砲射撃を実施する等、ファトゥタカ島を占領するクルセイリース大聖王国軍に対する圧力を強化。クルセイリース大聖王国は今後の日英との交渉や国威発揚の為に必死に島を死守しようとした事から、血を吐き続けるマラソンを強いられる事になるのである。
タルクリス共和国再独立から1週間後
タルクリス共和国
国連軍仮設飛行場セキトメイ空軍基地
「国連軍最高司令部で協議した結果、貴方方クルセイリース大聖王国の捕虜の皆さんはあちらの飛行艦で帰国して頂く事になりました」
クルセイリース大聖王国の搾取に苦しんだ属領タルクリス。かつては警察組織のみを保有し、軍隊を持たない平和主義国家であったが、拡張政策を推し進めたクルセイリース大聖王国により制圧され、属領として植民地支配を受けた。民はクルセイリース大聖王国本国の為に重税を課せられ、男は労働力として、女は慰み物として使い捨てられた。国連軍が解放するまでにタルクリス人は制圧前の3 割にまで減少する等、悲惨な状態であった。
「クソヤロウ! 何で俺達まで乗せられるんだよ!!」
国連軍の兵士達に連行されているのは、クルセイリース人。激減したタルクリス人と入れ替わるように入植してきたクルセイリース人達は、先住民であるタルクリス人の土地や富を奪い、好き勝手していた。国連安全保障理事会では、解放した属領や植民地に住むクルセイリース人を全て本国へ強制送還する事を決定しており、彼らは不法滞在者と言う扱いである。
「我が子も産まれたばかりなんだぞ!!」
「この子はタルクリスで生まれたのだから、タルクリス人です!!」
今まで好き勝手してきた不法滞在者達は口々に国連軍の兵士達に懇願するが、誰も相手にしない。
「お前達クルセイリース人は、タルクリス共和国に不法滞在している罪人と言う扱いだ。命があるだけ有り難いと思え」
たまたま付近を歩いていた、フィルアデス大陸条約機構軍の陸軍部隊を率いる、パーパルディア皇国陸軍大佐のパラガスは拡声器を使い、不法滞在者達に現実を突き付ける。
「そもそも、お前達はタルクリス共和国の国民からどれだけ恨まれているかを分かっているのか? 大多数のタルクリス人達は、お前達クルセイリース人を八つ裂きにしたくてたまらないのだぞ? 我々国連軍が治安維持に当たっているからこそ、この程度の扱いで済んでいる現実を受け入れる事だな」
基地の外では、フェンスの向こう側から強制送還待ちのクルセイリース人に対し、タルクリス人達が罵声を浴びせる。
「悪逆無道のクルセイリース人は出ていけー!!」
「国連軍はクルセイリース人を民族浄化しろー!!」
「タルクリス共和国はタルクリス人の物だー!! クルセイリース人を八つ裂きにさせろー!!」
タルクリス人が今まで積み重ねてきた恨みつらみが一斉にクルセイリース人に向けられる。中には基地の中へ投石し、フェンスを乗り越えようとして治安維持部隊に制圧される者もいる。運良く侵入出来ても、警備中の国連軍兵士に即刻拘束されてどこかへ連れて行かれる。国連軍や各国の警察機構から選抜された国連治安維持部隊が暴発に備え、装甲車や警察車両を展開して警備に当たっている。各地ではクルセイリース人達が建立したイブリース大元帥像が薙ぎ倒され、一部からは令和のフセイン像とも呼ばれている。
「クズが・・・・血祭りにあげてやろうか?」
パラガスの息子で、パーパルディア皇国陸軍中尉のブロリーは不満を口にする不法滞在者達を睨みつける。
「くそったれがー!!」
ヤケになった不法滞在者の1人がブロリーに殴りかかる。しかし・・・・
「もう終わりか?」
一瞬にして何故か生えていた岩盤に不法滞在者を押し付ける。それをみた他の不法滞在者達は恐怖の余り、震えが止まらない。やがて不法滞在者達を乗せた飛行輸送艦3隻が離陸する。誤射防止の為、艦は赤十字のペイントがなされ、専用のIFFが割り当てられる。
「カムーラ殿、我々国連軍の力、如何だったかな? 国連軍等恐れるに足らず等と、その気になっていたお前の姿はお笑いだったがな」
パラガスは帰国の準備をするカムーラに話し掛ける。
「・・・・・・私が見たもの、ありのままの姿を本国には報告するつもりだ」
「まあ、そうするしかないだろうな」
「また、昨日には日本国の外交官・・・確かアキコと言ったか。女性の外交官と話をした。国連安全保障理事会として、どのような処罰を考えているのかをしかと聞いた。本国にそれも併せて報告し、これ以上の戦闘行為を行わぬよう働きかけるつもりだ」
「アキコ・・・・大人のお姉さんか。美しい女性と聞いているが、どうだったかな?」
「私の好みではなかったが、美形であるのは間違いない。されど、自身の決めた事に責任を強く感じ過ぎているようにも感じたな」
「まあ、それはさておきだ。この先貴国が国際社会に受け入れられるのか、それとも大英帝国の一部になるのかはそなたにかかっている。さて、そろそろ時間だ。生きて帰れる事、有り難く思え」
「ああ・・・・・」
力無くカムーラは帰国用の飛行巡洋艦で本国へ帰還する。国連軍は奇襲作戦により、奇跡的に離脱した1隻を除き、停泊していた飛行艦全てを使用不能としていた。しかし、補給物資輸送の為にタルクリスへ向かっていた飛行巡洋艦1隻、飛行輸送艦3隻は攻撃を免れていた。この小艦隊は、国連軍艦隊を率いていたガルマ皇太子の説得により降伏。飛行巡洋艦を除いて軍需物資を没収し、純粋な病院船に改装の上で捕虜や不法滞在者の送還に用いられる事になったのである。
「親父ぃ、戦争は終わるのか?」
「ブロリー。お前は彼奴等にそんな頭があると思うのか?」
「・・・・・いや、ないと思う」
「そういう事だ。さて、私はバイオレット准将へ報告の為、御暇させて貰うよ。後のことはガルマ皇太子閣下の指示を仰ぐようにな」
クルセイリース大聖王国から解放されたタルクリス共和国。同国の政治は一時的にに国連軍の軍政下に置かれる事になり、新生グラ・バルカス帝国皇太子であり、国連軍タルクリス共和国駐留軍司令官グラ・ガルマ大佐が実権を握った。当初は多少の混乱はあったものの、ニューアーク総督時代の経験を活かし、柔軟な統治を進めた事から、国連軍はタルクリス人からの大きな支持を集める事になるのである。
シルカーク王国王都タカク
日本大使館出入口
「もう帰られてしまうのですか・・・・寂しく思いますね」
外務省はシルカーク王国への侵略の可能性は完全になくなり、応援の必要はなくなったと判断。応援の為に英連邦パラディオン王国から来ていたアキコらは帰還する事になったのである。
「既にクルセイリースの外交官には我が国の要求を突き付けました。後は朝田さんが好きなようにしてくれれば」
玄関でアキコを見送る朝田。既に帰国に向けて準備は完了しており、あとはアキコと彼女の夫シンが車に乗り込むだけである。
「さあさ、早く帰ろうぜアキコ。パラディオンで僕たちの子がまっているし」
「そうね。それじゃあ、後はお任せします。では」
昨日のタルクリス共和国
タルクリス総督府(旧クルセイリース大聖王国タルクリス統治省本部)総督執務室
(酷い有様だな・・・・)
各方面から届けられたタルクリス共和国の惨状について纏められた資料に目を通すガルマ。そこには酷く痩せこけた子供達や国連軍の医療班をクルセイリースの役人と勘違いして娘を売ることで難を逃れようとする母親、生気を喪ったタルクリス人男性の姿が収められていた。
「この世の地獄だ・・・・タルクリス統治省の奴等は統治能力の欠片もないカスの集まりだったようだな」
髪をくるくると右で巻く仕草をするガルマ。占領軍の大将でありながら、現地人と友好関係を築き上げ、占領地であるニューアークの発展と同地の新生グラ・バルカス帝国残留を勝ち取った名君は怒りに震える。
「兎にも角にもクルセイリースの人々が元気を取り戻し、皆を健康にしなくてはならない。ミカドアイHDと根部商事に対し、直ちに関連物資を寄越すよう連絡しろ」
「ははっ!!」
「ガルマ様!! 日本国の大使が参られました!!」
「うむ。クルセイリースの外交官、カムーラを連れて来るんだ。あの者に我々からの最後通牒を突き付けさせる」
タルクリス総督府応接室
「根部駐英連邦パラディオン王国日本大使殿、この度は態々タルクリスまでご足労頂き、感謝致します」
「此方こそ、帝国の皇太子自らの歓待を受けまして、光栄に至り」
互いに社交辞令を済ませた後に、国連各国全体の代表者として来訪したアキコとガルマが席につく。向かい側には、クルセイリース大聖王国の軍外交官カムーラが待機しているか。
「カムーラさん、お久しぶりですね」
「・・・・・・・・・・あの時の女外交官か」
力無く答えるカムーラ。現実を突き付けられ、生き地獄を味わっていると言わんばかりにやつれていた。
「まず事実として、我々国連軍はクルセイリース大聖王国による侵略を防ぎ切り、更にはタルクリスを解放した。ファトゥタカ島のみは未だに貴国の支配下にはあるが、連日、同島と貴国の間の補給線を寸断しており、事実上奪還された状態だ。このまま返す刀で本土侵攻となれば・・・・分かるな?」
脅しをかけるガルマ。カムーラは静かに頷く。
「本国の者達は信じないでしょうが、このまま戦えば我が国は負けます。下手をすれば、クルセイリース大聖王国いや、クルセイリース人そのものが全滅すると・・・・」
「私はタルクリス総督として、この地を統治している。貴国の統治は本当に酷いものだ。人を人として扱わず、犬や猫、いいやネズミ、違うな、ムシケラ未満の扱いをしていた。そんな輩は民族浄化されても文句は言えないだろうな」
民族浄化。その言葉にカムーラはピクッと反応した。
「だが、我が国がそうであったように、国連軍の中心国である日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、クルセイリース人そのものの民族浄化を望んでいない。無論、国家に対しては一定の罰を与えるが、共に国際社会にて手を取り合い、共に栄えたいと考えている。そして、国連軍に参加する全ての加盟国もそれに賛同している」
ガルマが目配せをし、アキコが外交文書を読み上げる。後に「タルクリス宣言」と呼ばれる、条件付き降伏である。
日本国及び大英帝国の政府首脳による宣言
1.我々、日本国首相と大英帝国首相は、我々の数億の国民並びに国連加盟国を代表して協議を行い、クルセイリース大聖王国にこの戦争を終結する機会を与えることで意見が一致した。
2.日本国と大英帝国及び我々に与する各国の巨大な陸海空軍は、西方から自国の陸空軍による数倍の増強を受け、クルセイリース大聖王国に対して最後の一撃を与える態勢を整えた。この軍事力は、クルセイリース大聖王国が抵抗を停止するまで、対クルセイリース戦争を遂行する全ての連合国の決意により支持され、また鼓舞されるものである。
3.覚醒した世界の自由な人々の力に対するパーパルディア皇国、グラ・バルカス帝国による無益かつ無意味な抵抗の結果は、クルセイリース国民に対する極めて明白な先例である。現在、クルセイリース大聖王国に対し集結しつつある力は、先の2カ国の抵抗に対し適用され、必然的に全両国国民の土地、産業および生活様式に荒廃をもたらしたそれとは比較できないほど強大である。我々の軍事力は我々の決意のもとで最大限に行使され、それはクルセイリース大聖王国軍隊の不可避かつ完全な壊滅と、同じく不可避的なクルセイリース大聖王国本土の完全な荒廃を意味することになる。
4.愚かな打算によりクルセイリース大聖王国を消滅の寸前まで陥れた身勝手で軍国主義的な助言者らに支配され続けるのか、それとも理性による道を歩むのかを、クルセイリース大聖王国が決定すべき時が来たのである。
5.我々の条件は次のとおりである。我々は、これらの条件を逸脱することはない。これらに代わる条件は存在しない。我々は、遅延を許容しない。
6.クルセイリース国民を騙して道を誤らせ、世界征服に乗り出させた者たちの権力および勢力は、永久に除去されなければならない。無責任な軍国主義が世界より駆逐されるのでなければ、平和と安全および正義の新秩序が生じ得ないことを、我々は主張するからである。
7.そのような新秩序が建設され、かつクルセイリース大聖王国の戦争遂行能力が破壊されたことについて確証を持つことができるまでは、連合国が指定するクルセイリース大聖王国領域内の諸地点は、占領されなければならない。我々がここで述べる基本的な目的の達成を確実とするためである。
8.クルセイリース大聖王国の主権はクルセイリース島(本国)並びに我々の決定する諸小島に限定されなければならない。
9.クルセイリース大聖王国軍隊は、武装を完全に解除された後、NATO式に再編する。また、兵員には各自の家庭に復帰して平和的かつ生産的な生活を営む機会を与えられなければならない。
10.我々はクルセイリース人を民族として奴隷化したり、国民として滅亡させる意図を有さないが、我々の捕虜に対して虐待を行った者を含む一切の戦争犯罪人には、厳格な処罰が下されなければならない。クルセイリース大聖王国政府は、クルセイリース国民の間における民主主義指向の再生および強化に対する一切の障害を除去しなければならない。言論、宗教および思想の自由、ならびに基本的人権の尊重は確立されなければならない。
11.クルセイリース大聖王国は、自国の経済を支え、正当な現物賠償の強制取立てを可能とするような産業の維持を許される。ただし、戦争のための再軍備を行うことを可能とするような産業の維持は、国連安全保障理事会が認めたもの以外原則許されない。この目的のため、原材料の統制とは異なる形で、原材料の入手を許されるものとする。クルセイリース大聖王国は、将来的には世界貿易関係への参加を許されるものとする。
12.これらの目的が達成され、クルセイリース国民の自由意思に基づき、平和指向かつ責任ある政府が樹立された場合は、連合国の占領軍は、直ちにクルセイリース大聖王国から撤収するものとする。
13.我々は、クルセイリース大聖王国政府に対して、直ちに全クルセイリース王国軍隊の無条件降伏を宣言することを要求し、その行動における同政府の誠意について、適切かつ充分な保証を提供するよう要求する。これ以外のクルセイリース大聖王国の選択肢は、迅速かつ完全な破壊のみである。
「以上となります。無論、これは交渉において我々国連加盟国が絶対に譲る事の出来ない条件であり、断る事は国の破滅を意味します」
「・・・・・もし、否と申せば?」
「私の友人(ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトン)が笑顔で核兵器の発射ボタンを押すでしょうね」
「そ、それは困ります!!」
実は先程まで、大英帝国の代表団から同国軍の最終兵器(という割には簡単に使ってませんか?)である核兵器についての説明を受けていたカムーラは慌てる。
「では、これらが正式な外交文書になります。此方を帰国の際にお持ちください」
アキコはカムーラに正式な外交文書を手渡す。ボールはあちらに渡った。後はクルセイリース本国次第である。
「・・・・・・根部大使、一つだけお願いしたいことが」
「なんでしょうか?」
「聖王子ヤリスラ様の御命だけはお救い頂きたい。聖王ジュウジ様が崩御し、王位継承権1位のヤリスラ様が我が国の国家元首ではありますが、政に関しては右も左も分からず、ただ大人たちに促されるままに、良いように使われている、謂わば操り人形にございます!! あの御方には責任は御座いません!!」
必死に懇願し、土下座を披露するカムーラ。外交官としてはあまりにも屈辱的だが、やらざるを得ない。
「・・・・・貴方の想いは分かりました。されど全ては、そのヤリスラとやらの発言次第になります。もし、ヤリスラとやらが我々国連加盟国に対して好戦的であれば・・・・こうなるでしょう」
左手で首を切る仕草をするアキコ。
「ヤリスラ様はそのような愚かな方ではありません!! お約束致します!!」
「ふむ。ガルマ大佐はどう見ますか?」
「確か、ヤリスラ殿は5つ。あまりにも若すぎる。逆に言えば、我々の良いようにも操れるだろう。ここは一旦カムーラ殿の願いを聞き入れるべきだと考える」
「成る程。では、本国にはそのように報告する事に致します。では、私はこれで」
その後カムーラは捕虜や不法滞在者らと共に本国へ帰国。しかし、本国では・・・・
(続く)