日英同盟召喚   作:東海鯰

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偽りの和平交渉

クルセイリース大聖王国 

聖都セイダー 軍王前会議

 

豪華絢爛を体現したかのような白い建築物、上空から見ると十字型に立てられたクルセイリース大聖王国の軍本部。既に大英帝国に買収された売国奴らにより、全ての部屋に盗聴器と監視カメラが仕掛けられ、全ての動きが丸裸になった同所において軍の最高意思決定を行う軍王前会議が始まろうとしていた。

 

「・・・・・今日の決定次第では・・・・やむ無しか・・・」

 

大英帝国に買収された将軍の1人は会議前に廊下でそう呟いた。やがて各方面の将軍、策士等が会議室に集まる。会議室内で行われる軍の最高会議では、各人の前に紙が配られていた。各員席に着く。

 

「・・・・・想像以上だ・・・」

「なんと・・・・」

 

それを読む出席者達の顔は曇る。事前に根回しは行われていたものの、実際目にする大敗北の詳細報告に衝撃を隠せなかった。

 

「・・・・そろそろ怒り出しそうですな」

「ああ・・・」

 

会議に参加する将軍や策士は一人の男に視線を向ける。やがてその男が戦過が書かれた紙を手に取って震え出す。震えは徐々に大きくなり、彼は黙っていられずに声を上げた。

 

「何ですかぁ!!これは!!」

 

聖都防衛竜騎士団長セイルート

 

彼は額に青筋を浮かべる。透き通るような銀髪、背も高く、顔立ちも良い若き竜騎士団長、包み込むような声もあいまって女性ファンも多い。そんな彼が悲鳴のような甲高い声で、猛烈な怒りを隠さずに叫んだ。その甲高い声は盗聴している国連軍本部にも響き渡り、あまりの声の高さに盗聴担当の国連軍兵士(クワ・トイネ公国軍所属、種族エルフ)が鼓膜を破壊され、病院に緊急搬送された程である。

 

「敵の長距離攻撃に1ミリ手も足も出ず、戦力の殆どを損失ですと? 我が竜騎士団のエアカバーを不要と言い放っておきながら、なんたる醜態だ!! 軍王様、ご説明願いたい!!」

 

セイルートの物言いに見かねた軍幹部が割って入る。

 

「軍王ミネート様に向かって何たる物言いか!竜騎士団が不要と言い放ったのは飛空艦隊司令のターコルイズ殿だ。軍王様に詰め寄る事事態が間違っている!!」

「いいや、無関係では無い!! 私はエアカバーが無いと飛空艦隊がダメージを受けるため、竜母型飛空艦の派遣をするようお伝えしていたはずだ!! 最終決定権は軍王様にある!」

 

会議は紛糾する。

 

「・・・・・・・・・」

 

軍王ミネートは何も言えない。

 

(私はあくまで、イブリース大元帥に従ったまでの事だ。私には関係ない!!)

 

そんな中、末席から低い声が響く。

 

「セイルート様、失礼ながら竜騎士団が出て行っても結果は同じだったかと思われます」

 

自分に意見する者に怒りがこみ上げた。外交官の制服を着用した男の発言だった。

 

「なにぃ? 貴様・・・・名前は何だったか。軍外交担当ごときが、この私へ意見するというのか?」

 

カムーラは眼光鋭くセイルートを見る。

 

「私はカムーラと言います。ところで、報告書はきちんと読まれたのか?」

 

カムーラの語気が強まった。

 

「私は国連軍の攻撃をこの目で見たのだ!! 目に見えないほどに速く、そして強い攻撃が正確に行われる。その威力は竜騎士団の火炎弾の比ではない!!いや・・・・艦隊級の極大爆裂魔法を超える威力だった。ターコルイズ司令は考える暇もなく、攻撃を防ぐ事は不可能だったのだ!!」

 

カムーラ自身、日英の強さなんぞ認めたくなかった。しかし、日本国と英連邦王国の中心とする国連軍の攻撃を眼前で見て感じた。圧倒的なる戦力差と技術格差を意識せざるを得ない、真の恐怖を味わった。真実を伝えなければ国の意思決定に関わり、意思決定が誤れば国滅ぶ可能性さえも感じる戦力差、彼は国のために己の信を貫く。

 

「貴様! 我々が弱いとでも言いたいのか!!」

 

セイルートの強い言動に、カムーラの眼光が鋭くなる。

 

「飛空艦隊に歯の立たない儀礼的な意味で残されている竜騎士団が今更出てきたところで、この次元の戦いにおいては的以外の意味は無いと言っているのですよ。犠牲が増えるだけだ。失礼ですが、聖都に長くいすぎて、現実離れしているようにしか見えません。竜騎士団では日本国と英連邦王国には歯がたたない。今我々がこうして会議が出来ているのも、日英の手加減によるものでしかない! 彼らは本気を出せば、我が国の本土を焼け野原、いや、人の住めぬ不毛の大地にする事さえ出来るのだ!!」

「き・・・・き・・・・貴様ぁぁぁぁっ!!!私を侮辱するのかぁ!!」

 

議場は紛糾する。

 

「もう良い!!!!!」

 

軍王の一括により、場の空気が震え、皆が沈黙した。

 

「セイルートよ、カムーラの言っている事は事実だ。この戦いのレベルにおそらく竜騎士団はついて来られない。ただ、それを否定するなら戦う「場」を与えてやる。言のみではなく、実績で・・・結果で示せ」

「ぐっ・・・・解りました。結果で示しましょう」

「そしてカムーラ、言っている事は正しいかもしれぬが、セイルートはお前よりも序列が上、言い過ぎだ。言動に気をつけろ」

「はっ!! 失礼いたしました!!」

 

軍王の苦言の後も会議は進んだ。

 

「一方で、同時並行して進めていたソロモン諸島作戦は成功しております。同国の領土を一部占領しているにも関わらず、敵は奪還に動いていない。これは敵に余力がないと言う事なのでは?」

 

幹部の1人がそう呟く。クルセイリース大聖王国が成功した唯一の作戦、ソロモン諸島作戦。シルカーク王国作戦が破綻した為に、ファトゥタカ島占領のみに留まったものの、島そのものは未だにクルセイリース大聖王国の支配下にある。

 

「言われてみれば・・・・奴等は国連軍等と、あたかも正義の味方を自称しているが、その中心国の一つ、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は自国の国王が国家元首を兼務する国の領土、即ち国王の土地が占領されているにも関わらず何もしていない・・・・」

 

将軍や策士らは自分達に都合の良い解釈を行う。

 

「資料には、小型飛行艦や水上艦にて補給線の遮断を試みているとあるが、直接陸上戦力を送り込んで来てはいない。成る程な」

 

セイルートはミネートに進言する。

 

「軍王様、ここは占領したファトゥタカ島の防衛力を強化し、敵による補給線遮断を阻止するべく、我ら竜騎士団の派遣をお願いしたい!!」

「・・・・・・・ならぬ」

「な、何故に!?」

「シルカーク王国作戦が失敗した今、あの島に固執する意味はない。本音を言うならば、さっさと撤退させたい。だが、政治的意味合いを考えれば、今はまだ維持しなくてはならぬ。やがて我が国と日英の外交官で交渉となる」

「外交部はどのような内容で交渉するつもりで?」

「詳しくは分からんが、我が国は占領したファトゥタカ島を返還し、属領タルクリス並びに周辺諸島をグレートブリテン及び北アイルランド連合王国に割譲する。その見返りに日本国並びにグレートブリテン及び北アイルランド連合王国は我が国と和睦する案が出ているそうだ。故に、竜騎士団の派遣はまだだ」

「ぐっ・・・・・解りました。暫くは待ちましょう」

「問題はそれだけではありませぬぞ」

 

資源調達担当の将軍と策士が意見を述べる。

 

「開戦以降、我が国へ向かう貨物船や客船の遭難が相次いでおります。恐らくは国連軍とやらの仕業でしょう。特に開戦初日には我が国の豪華客船トロイメア号が沈められる等、属領からの資源輸送が滞っています」

「民間商船組合から昨日、軍による護衛や国からの補償がなければ、資源輸送船の運航は難しいと通告されています。また会議の2時間前、敵水上艦が我が国の近海に出現。迎撃に向かった飛行巡洋艦が返り討ちにされ、守るべく貨物船も沈められたと報告を受けています」

 

現在のクルセイリース大聖王国の資源輸送は悲惨な状況であった。開戦初日から国連軍の潜水艦が活動を活発化させており、国連安保理決議に基づく飛行禁止区域、航行禁止区域の設定を口実とした攻撃が行われていた。また、タルクリスにて主力部隊が壊滅してからは同地を拠点とし、対空対艦装備が充実した水上艦艇が通商破壊任務を付与され派遣されていた。日本の「もがみ型護衛艦」並びに同級をベースとした水上艦艇がクルセイリース大聖王国周辺海域に展開。今こうして会議している間にも貨物船や客船が沈められている。その為、資源輸送は開戦前の1/5に低迷している。

 

「そろそろよろしいでしょうか?」

 

戦闘分析室の職員が手を挙げる。ミネートは発言を許可する。

 

「戦闘分析室からご報告します。敵は明らかに強い、いや、強すぎると言って良いでしょう。しかし、これほどの損害を我が方に与えるという事は、敵も主力たる大戦力を属領タルクリス周辺海域に集結させていると見て間違いありません。そしてその大戦力は我が国に向けられるでしょう」

 

流れる沈黙。突然訪れた想定外の国家の危機に、皆焦燥感を隠せなかった。ただ一人の人物を除いて。

 

「今我らに向けられた大戦力を1カ所に集めて殲滅してしまえばよい。我が国にこれほどまでに損害を与えた大戦力を失えば奴らも簡単に再建出来ないだろう。そして、我が本土にはとてつもない戦力があることが解ると、簡単に攻めてはこれまい」

 

軍王ミネートの言葉に耳を疑う。それが出来れば苦労は無い。軍王は続ける。

 

「西の軍事都市、ワカスーカルトへ敵艦隊を誘い出せ。罠を貼るのだ。一斉攻撃で効果が無ければキル・ラヴァーナルを起動して殲滅する」

 

荒唐無稽な案に、カムーラは軍王に問う。

 

「軍王様、いったいどうやって敵戦力を集中させるというのですか?」

「例えばだ、和平交渉がしたいので大使を我が国の歴史ある都市へ来てほしい。和平の気持ちが本物である事を示すため、単艦ではなく艦隊でワカスーカルトまで派遣してほしい・・・・とでも伝えればどうか。外交部は交渉したいらしいな」

「警戒されます。私なら単艦を先行させ、艦隊は少し離れた位置、街をいつでも攻撃可能な箇所に配置します」

「ふむ・・・・まずは艦隊を派遣させる事は、外交部の連中と外交努力で何とかしろ。我が国民を納得させるために艦隊を見える位置まで派遣してほしい等、言い訳はお前ら外交部で考えろ。目視出来ぬ位置まで下がられたら私に考えがある。まだ言えぬが艦隊が我が国の200km圏内に入るのであれば後は何とかする。ムーラ、お前は敵の艦隊を派遣させる事を考えろ」

「ワカスーカルトへ被害が出る可能性があります」

「そこは気にするな、元々軍人ばかりの街だ。家族の避難も迅速に出来る」

「ミネート様、恐れながら我が国が和平を申し入れ、それによってやってきた大使や艦隊を攻撃すると、国として約束を守らないと思われ、今後の統治に大きなマイナス要因となります。なによりも、聖王子ヤリスラ様が猛反対なさるかと」

「ん? 何を言っている、カムーラよ。お前は軍へ拝命する際、命をかけて国に仕えると誓ったはずだが?」

「?? 誓いましたが、この行為は国益に反します」

「勘違いしているようだな。国として動くのでは無い。国際的にはお前が独断で突っ走るのだ。この件に国は感知しない。解ったか?お前が自主的にそれを行うんだ。さすれば最悪の場合であっても国へのダメージは少ない。お前に愛国心があるなら・・・・よく考えて自主的に行動せよ、解ったな」

「!!!!」

 

組織に切り捨てられた!!カムーラに衝撃が走る。軍王という絶対的圧力。任意という名の強制。軍王の言葉はとてつもなく重い。またミネートはイブリース大元帥の傀儡。彼の発言は事実上の大元帥の御言葉。会議に参加する他の将軍や策士らも驚愕の表情を浮かべる。

 

「軍王閣下! それはあまりにもカムーラ殿が不憫過ぎますぞ!!」

「そもそも、外交部の顔に泥を塗ることになりまする!! 同時に聖王子ヤリスラ様に対して、軍をまともに掌握出来ぬ愚かな君主との汚名を着せる事になりますぞ!!」

「もし、本気でそのような指示をカムーラ殿に出すのであれば、我々も黙っている訳には参りませぬぞ!!」

 

大英帝国に買収されている将軍や策士らは最後の良心でミネートに翻意を促す。しかし、ミネートの考えは変わらない。

 

「そなたらの主張は最も。その正しさに対して、一点の曇りはない。だが、正しさだけでは勝てぬのだ。今は我慢するのだ。よいな?」

 

指示を受けた場合、「はい」「承知しました」「解りました」しか選択肢は無い。もしも断ると、物理的に首になるだろう。軍王ミネートは無能には厳しいが、成功者には手厚い事で知られる。

国益になれば、昇進がまっているに違いなかった。

 

「・・・・解りました」

 

カムーラは胃に痛みを感じる、穴が開きそうなほど痛い。彼は生き残るため、そしてチャンスをつかむために頭をフル回転させるのだった。

 

 

会議後聖都セイダーのとある料亭

 

「・・・・・最早これまで、だな」

「ああ。まさかミネート様がここまで愚かであり、イブリース大元帥の傀儡であったとは・・・・」

 

大英帝国に買収されている将軍や策士らが料亭で一同に会す。

 

「卑劣なる騙し討ち・・・・これは明らかに我が国の国益に反し、同時に聖王子様の顔に泥を塗る行為。絶対に許されぬ!!」

 

策士の1人は怒りに震えながら酒を一杯飲む。

 

「大英帝国側からは何を言われている?」

 

将軍の1人は、大英帝国側が派遣しているスパイとの交渉を担う策士に発言を促す。

 

「大英帝国側からは、聖王子ヤリスラ様の身柄を保護して欲しいとの事。ヤリスラ様を安全な国連軍支配領域まで移送し、ミネート様らを逆賊として国連軍が討伐する用意があると」

「ヤリスラ様を保護か・・・・要は我々が拉致してこいという事だな・・・・」

 

大英帝国は買収したクルセイリース大聖王国の将軍や策士らを通じて終戦、更にその先の戦後に向けた外交工作を行なっていた。当初大英帝国は、クルセイリース大聖王国の王族を一掃し、大英帝国国王を君主とする英連邦王国の一部とする予定であったが、内情偵察を通じ、君主ヤリスラは周りの大人達に良いように使われる操り人形であり、本人には実権がない事、本人は戦争について本当は否定的である事、彼を利用し、国内に反乱を起こさせ、内部からガタガタに出来る等、利用の価値があると判明。その為方針を転換し、ヤリスラの身柄を拘束し、彼を利用する事に決定。同時に軍王ミネートらクルセイリース大聖王国首脳陣に不満や不安を抱く者らを招き入れ、今こうして同志が集まっている。

 

「ヤリスラ様は基本的に城から出る事を許されていない。それが余計に大英帝国への身柄引き渡しへのハードルを上げている・・・・」

 

君主とは言え、聖王子ヤリスラはまだ5歳。君主としての教育の為、常に教育係や乳母らが傍に控え、更にその周りを精鋭の近衛兵らが守る。加えて暗殺を避ける為、基本的に城から出る事はなく、国民と対話するのは聖母ラミスら成人王族に限られる。

 

「近衛兵らに同志はおらぬし、下手に近付けば怪しまれる。どうしたものか・・・・」

 

将軍や策士らは頭を抱える。国の未来、君主ヤリスラの命、そして自分達の地位。それらを維持する為に彼等は思考を巡らせる。

 

「大英帝国側にヤリスラ様の身柄を保護して頂く事は出来ないのか? もし、人員や機材を置く拠点が必要なのであれば、我々の邸宅や所領に匿う事も出来よう。既に彼等のスパイを匿う為の小規模な拠点を抱えている者も中にはいるであろう?」

「・・・・・・だが、それは大英帝国側からは拒否された。我が国にはそこまでの余裕もなく、あったとしてもやる旨味がない、と」

「まあ・・・・そうだよな。あちら側からしてみれば、我等は何時でも切り捨てられる存在でしかない」

「我々だけでやるしかないのか・・・・」

「ちなみに外交部は今回の偽装和平にどれだけの時間をかける見込みなのだ?」

 

策士の1人が外交部の者に尋ねる。

 

「現時点では確定してはいませんが、2週間後にタルクリスへ使者を送るとの事です。何より、軍外交官カムーラ殿が持ち帰りました、タルクリス宣言の内容が衝撃的でして・・・・」

「あの無条件降伏勧告か・・・とは言え、ここにいる我々からすれば、まだ慈悲を感じる内容であるがな」

 

かつて大日本帝国が連合国から突き付けられたポツダム宣言を丸々模倣したタルクリス宣言。これを受け取った外交部は当初激怒したものの、同時にカムーラが持ち帰った日英の国力を見せつける品々や画像を見せられると、皆が顔面蒼白となり、血の気が引いたという。これ以降、外交部は政府首脳陣に対し、直ちに和平交渉を開始するよう勧告。同時に週一回行われる聖王子ヤリスラへの上奏でも、外交部は戦闘の速やかな終結と和平交渉を望む旨を伝える等、和平派として動いていた。ヤリスラも和平交渉に乗り気であったが、実権を握るラミスは和平交渉に反対しており、ヤリスラの御言葉は政策に反映されない状況であった。

 

「今週の上奏に至っては、上奏文をヤリスラ様へ渡す前にラミス様に取り上げられ、目の前で破られた・・・・このような臆病風に吹かれた上奏文は教育に悪い? お前の存在が一番教育に悪いんだよこのクソBBA!!」

 

外交部のエリート官僚が怒りを露わにする。

 

「だが大英帝国側の準備もあるし、最早我が国は詰みなのではないか?」

 

悲壮な空気が料亭を包み込む。

 

「しかし、カムーラ殿も辛い役回りを与えられたものだ」

「我らとしても、何とかしてやりたいものだが・・・・」

「幸いにも聖王女ニース様は聖王子ヤリスラ様に気に入られておられる。ニース様を介して、ヤリスラ様を城外にお連れして頂かなくては・・・・」

 

ニースの名前が出ると誰かが叫んだ。

 

「それだ!!」

「成る程な・・・ニース様は開戦前から戦争に反対されていたし、一部情報ではG5へ視察に行かれ、その圧倒的国力差や技術格差を痛感されたと!!」

「しかもニース様はれっきとした王族!! 我等とは異なり、違和感なくヤリスラ様に接触出来る!!」

 

方針が決まると、売国奴らは動き出す。一方、国連軍では・・・・

 

 

シルカーク王国王都タカク

王軍本部兼国連軍最高司令部

 

「偽りの和平交渉か・・・・」

 

シルカーク王国に設けられた国連軍最高司令部。その一室では、国連軍の中枢であるヒロシ、アキラ、アオイの三名が円卓を囲み鎮座していた。諜報部が纏めた資料や音声を聞き、今後の動きについて密会していたのである。

 

「しかし、流石は大英帝国なンだよな。既に敵国の主要施設全てに盗聴器を仕掛け、多数の将軍や策士、更には外交官すら手籠めにしてやがンだからな!」

「褒めても何も出ないけどね」

「しかし、聖王子ヤリスラ、聖王女ニースの身柄を引き渡す為に支援して欲しい・・・か」

 

やや呆れ顔のヒロシ。あれよあれよと言われ、いつの間にか国連軍の最高司令官にまで担ぎ上げられてしまった男は内心、自分には重すぎる役回りを与えられてしまったと思っていた。

 

「それだけ彼等は必死なのさ。俺達は奴等をこのまま見殺しにする事も、利用するだけ利用して切り捨てる事も出来る」

「正直、我が身可愛さに簡単に祖国を売り飛ばすような輩、生かしておいても無駄だしね。一瞬でも我々が劣勢なり、隙を見せれば簡単に寝返るのは明白」

 

ヒロシはアキラとアオイが恐ろしい事を考えている事に気付いた。同時に、それが一番合理的であり、国益である事にも・・・

 

「良いかヒロシ? 敵に対して、必要以上に情をかける必要はないンだ。今は我らの味方かもしれないが、敵は偽りの和平交渉で不意打ちを仕掛けようとしている。無いことではあるが、我らが大きな被害を受ければ、奴等は簡単に裏切るのは明らかだ。ここは彼等に一筋の光明を示しつつ、何時でも切り捨てられるようにするべきだ」

「もし彼等が奮起して、自分達の手で事を成し遂げれば良し。成し遂げれられなくても、事を起こせば敵国の内部は混乱状態に陥る。それに事を起こさないのなら、此方からミネートなり、イブリースなりに情報を流してあちら側から内部で権力闘争をして貰えば良い」

 

アキラとアオイはヒロシの目を見て言った。

 

「「司令官、御決断を」」

「・・・・・分かった。君達の言うようにする。彼等に対する返答は・・・思案致す、これで、良いかな?」

「実に無駄のない適切な返答だと思うぜ」

「早速、手の者にそう返答するように伝えておくわ。そなたらの働きぶりや本気度次第では支援を惜しまない、と付け加えた上でね」

 

国連軍最高司令部の密会では、クルセイリース大聖王国内部の不穏分子達を引き続き生かさず殺さずの状態を維持し、機会があれば聖王子ヤリスラを拘束し、傀儡として利用する。拘束出来ない場合、当初の予定通り大英帝国国王をクルセイリース大聖王国聖王に即位させ、英連邦王国の一部に組み込む。どちらに転んでも困らない。圧倒的強者の余裕を日英両国は見せ付けていくのである。 

 

「ちなみに交渉期間中は停戦するのか?」

「それは国連軍最高司令官様がお決めになることだろう?」

「まあ、常識的に考えるのならば、補給を兼ねて部隊を下げ、別の部隊を再配置するのが定石かと」

「そ、そうか。じゃあアキラ。部隊の再配置、補給の一切は任せる。アオイは今後行われるであろう、偽りの和平交渉に国連軍最高司令官の代理として参加してくれ。タルクリス総督ガルマ大佐、フィルアデス大陸条約機構軍陸軍代表パラガス大佐を補佐に付ける。補給や再配置には時間がかかるだろう。アキラと相談の上、外交官らと協力して対処するように」

 

 

シルカーク王国日本大使館

 

「・・・・・本当か?」

「はい。先ほど国連軍最高司令部より入りました情報によりますと、クルセイリース大聖王国の外交担当が2週間後にタルクリスに到着する見込みであると。しかも国連軍最高司令部によると、停戦に向けた話し合いがしたいとの事で」

 

怪訝な表情を浮かべる朝田。クルセイリース大聖王国の空中艦隊を国連軍が一方的に退け、タルクリスにある敵基地に打撃を与えた事は聞いている。初戦で大きな打撃を与えたため、戦略が大きく変わった可能性もある。しかし・・・・・

 

「猛烈にいやな予感がする」

 

組織とは合理的に考えて動けるものではない。それは現代日本やイギリスでさえ、信じられないほど非効率な動きになる場合もある。あれほどの国力差を見せつけたにも関わらず、戦争に舵を切った国が、急に合理的になるなど不自然だ。

 

「会談には、国連軍最高司令部副司令官アオイ・バイオレット・アリス・ハミルトン准将以下三名の軍人が我らを補佐する為に加わるとの事です」

「・・・・・アオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンか。確か、根部さんの友人、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンの妹だったか・・・より一層嫌な予感がして来たぞ!?」

 

胃がキリキリと痛む音がする。それでも朝田は休む事が出来ない。

 

「さて・・・・準備をしなくては・・・・」

 

 

2週間後タルクリス共和国

国連軍セキトメイ基地

 

「あれが偽りの和平交渉に臨む外交官を乗せた飛行巡洋艦か・・・」

 

国連軍により、クルセイリース大聖王国から解放されたタルクリス共和国。同地には戦争集結までの間は国連軍が駐留する事が認められており、来たるクルセイリース大聖王国本土侵攻に向けて部隊が集まりつつある。飛行巡洋艦の艦内から集結する巨大戦力をクルセイリースの外交官らも見えているだろう。

 

「敢えてタルクリスを経由させる事で、我々の結束力の固さと圧倒的戦力差を見せつける・・・という訳だあ!!」

 

偽りの和平交渉に補佐役として参加するガルマ大佐とパラガス大佐はクルセイリースの外交官らを笑顔で出迎える。

 

「私は国連軍タルクリス総督府総督、グラ・ガルマ大佐です。この度は一刻も早く、不幸かつ不毛かつ意味のない戦争終結の為、貴殿らと会談出来る事を喜ばしく思います」

「同じく国連軍フィルアデス大陸条約機構軍陸軍代表パラガス大佐でございます。貴殿らの到着をお待ちしておりましたぞ」

「・・・・私はクルセイリース大聖王国の代表として参ったカムーラである。お見知りおきを・・・」

 

カムーラは内心は穏やかでは無い。前回の外交での言動は、反発しか生まないだろう。加えて栄えあるクルセイリース大聖王国の軍外交ともあろう私が、芝居のようなものとはいえ蛮族どもに頭を下げなければならない屈辱。国のため、国のためと自分に言い聞かした。

 

「ここから先は我々が用意しました輸送機で移動して頂きます」

「もし断れば、無慈悲な攻撃(核の雨)が待っているという訳だあ!!」

 

カムーラ以下クルセイリース大聖王国の外交官らは国連軍の兵士らに囲まれながら航空自衛隊のC-130H輸送機にてシルカーク王国へ移動。

 

「・・・・・・・どうするべきなのか?」

 

偽りの和平交渉をしなくてはならないという事実にカムーラは苦しむ。既に偽りの和平交渉は国連軍に筒抜けであるとい事を知らないまま、輸送機は予定通りシルカーク王国に到着。この日は国連軍側が用意した宿泊施設に滞在し、翌日の会談に臨むのである。

 

(続く)

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