シルカーク王国日本大使館
大使執務室
「今日はいよいよクルセイリース大聖王国の外交官らとの和平交渉か・・・・」
朝田は大使館の窓から東の空を見ていた。
「朝田さん、そろそろお時間です。玄関前に馬車が停まりましたので、ご移動をお願い致します」
「ああ、ありがとう。直ぐ向かう」
大使館職員に促され、朝田は玄関前に向かう。
「しかし、本当に何の風の吹き回しであろうか?」
朝田は疑問が尽きない。
「2週間前に国連軍並びに外務省から入った情報では、クルセイリース大聖王国の外交担当が国連軍の最前線拠点であるタルクリス共和国に来訪。しかも事前に入った無線では停戦に向けた話し合いがしたいとの事だったな?」
朝田は大使館職員に情報を確認する。
「はい。また、クルセイリース大聖王国の空中艦隊を日英を中心とする国連軍が退け、タルクリスにある敵基地に打撃を与えた事も事実です。やはり、初戦で国連軍がクルセイリース大聖王国軍に致命的な打撃を与えたため、戦略が大きく変わったのでは?
「それは一理ある。しかし・・・・猛烈にいやな予感がするのだ・・・・組織とは合理的に考えて動けるものではない。それは現代日本やイギリスでさえ、信じられないほど非効率な動きになる場合もある。あれほどの国力差を見せつけたにも関わらず、戦争に舵を切った国が、急に合理的になるなど、やっぱり不自然だ。何かあるのではないか?」
やがて朝田らは玄関前に着く。
「さて、行くとするか・・・・」
クルセイリース聖王国は会談を日本国並びに大英帝国へ申し込んで来た。会談については、シルカーク王国の求めにより王城で実施する事になった。朝田ら日本側の代表団はシルカーク王国の用意した馬車で王城へ向かう。
同国グレートブリテン及び北アイルランド連合王国大使館
大使執務室
「・・・・・・・それは本当かい?」
ビデオ通話中の駐シルカーク王国イギリス大使のカルム・フレンチ・ホワイトはそう呟いた。
「・・・・・・・それで、本国からの指示は?」
日本とイギリスがクルセイリース大聖王国と交戦中の中、新たな火種が持ち込まれた事を悟ったカルム大使。
「・・・・・・・受け入れ先を検討中か。それまでは君に任せるしかないか・・・・」
カルム大使はその後いくつかやり取りを重ねた後、ビデオ通話を終了。彼も偽りの和平交渉の為、馬車にて王城へと向かう。
「方針が決まるまでの間、セレナには頑張って貰うしかないか・・・・」
王城
カムーラは会議室の扉の前に立っていた。
「・・・・・これは自分の独断でやっているという事になっている。組織は守ってくれず、上手く行けば良いが、失敗すれば最初から切り捨てるつもりだ。私には成功させるしか道は無い・・・」
カムーラは胃に痛みを覚えながら、会議室の扉を開く。
「ぐっ!!」
会議室はピリピリとした空気が漂う。前回とは明らかに異なるメンバーが既に着座しており、皆厳しい目つきをしていた。
「こちらへお座り下さい」
促されて席につく。会議が始まった。大円卓には、
・日本国外務省駐シルカーク王国日本国大使∶朝田泰司
・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国外務・英連邦・開発省駐シルカーク王国英国大使∶カルム・フレンチ・ホワイト
・英国王立陸軍シルカーク派遣軍団長兼国連軍副司令官∶アオイ・バイオレット・アリス・ハミルトン准将
・新生グラ・バルカス帝国シルカーク王国派遣軍総団長兼タルクリス総督兼国連軍タルクリス駐留軍司令官∶グラ・ガルマ大佐
・フィルアデス大陸条約機構シルカーク王国派遣軍陸軍代表兼国連軍タルクリス駐留軍副司令官∶パラガス大佐
・シルカーク王国外務郷∶カルク
その他速記担当が着座していた。また周りには国連軍の兵士が万が一に備え、完全武装で待機している。
「お前が良からぬ動きをすれば生きては帰れない、という訳だあ!!」
「親父ぃに手を出してみろ。お前からまず血祭りにあげてやる」
「くっ!!」
パラガス、ブロリー親子に煽られながらカムーラが着席する。シルカーク王国外務郷カルクが低い声で問う。
「してカムーラ殿、今日はどういったご用件で来られたのか?」
カムーラは湧き上がる屈辱感に耐えながら頭を下げる。
「国の方針が変わりました。私は和平交渉のために参りました」
静まりかえる会場。
「ハッ・・・ハハハ・・・ハーッハッハッハ!! 笑うしかないという訳だあ!!」
パーパルディアの将パラガスはカムーラを見下して大声で笑う。
「前回の会議の威勢は何処へ行ったのかな? お( ^ω^)おっ?? 我ら国連軍の攻勢に貴国の艦隊が惨敗し、大打撃を被り、前線基地を喪い、属領は独立を達成された。このままではとても勝てぬと思って和平に来たのか? 貴国の戦力はあれが全てではなかろうに。早々に我らの強さを悟ったという事かぁ?」
「・・・・・・honhonhon!」
彼はさらに煽る。隣に座るカルム大使は笑いを堪えるのに必死である。
「尻尾を巻くのが早い国だなぁ。我が国が降してきた蛮族でも、もうちょっと骨があったぞ! フアーッハッハッハ!!! あーう☆」
シルカーク王国陣営の顔は曇り、日本国の者達は苦笑いし、英連邦王国の者達は笑いを必死に堪える。一方カムーラの顔は渋い。
(日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国は強い。このような作戦を取らざるを得ない程に・・・・栄えあるクルセイリース大聖王国の軍外交が頭を下げなければならない程に!!)
カムーラの手は湧き上がる屈辱に震える。
「パラガス殿、そろそろよろしいですかな?」
カルクがパラガスの発言を遮る。シルカーク王国陣営からすると、パーパルディア皇国の煽りによって和平への道が閉ざされては困る。どういう条件なのか、話だけでも聞きたい。
「おお、カルク殿。これは失礼致しました。何分、あまりにも嗤わざるを得なかったもので」
クルセイリース大聖王国と日本国。敵国であるはずのこの2国の考えは、奇跡的にも共通点があった。
『クルセイリース大聖王国へ打撃を与えたのはお前ではない』
と。カムーラは国旗の入ったファイル入りの書面を日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国へ手渡した。日英両国にのみに手渡したのは、彼の僅かな抵抗だった。我々は、シルカークやパーパルディアが原因で侵攻計画が頓挫した訳では無いと。日本国と英連邦王国の影響によるものであると。
「・・・・・・・・・」
蛮族と見下していたパーパルディア皇国から煽られたため、屈辱で手の震えが強くなる。
「これが我が国の考えです」
同文章は長々と記載されていたが、要約すれば下記のとおりとなる。
○クルセイリース大聖王国とシルカーク王国及びそれを支援する国々(国連軍参加48カ国)は相互不可侵条約を結ぶ
○紛争当事者の代表者をクルセイリース大聖王国の西部の都市ワカスーカルトへ招き、調印式を行いたい
○我が国の和平への意思が本物である事を示すため、シルカーク王国、パーパルディア皇国、日本国、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国艦隊も調印式に招きたい
という旨が記されていた。また、ワカスーカルトに決定した経緯として、都市の歴史が記されて格式の高さを出そうとしていることが伺える。つまりクルセイリース聖王国としては、都市への砲撃が届く箇所での調印式を行う事により、聖王国が本気であるという事を伝えたいようであった。
「・・・・・・・・・・」
外務郷カルクはすぐにでも調印したい気分に駆られた。これが調印されると、国が滅亡の危機から回避される。しかし解せない。
「いったいどういう風の吹き回しだ?」
文章を日本から受け取ったカルクはカムーラに問う。
「国の方針が融和路線に変わったのです」
「先の交渉との差が激しすぎる。クーデターでも起きましたか」
「いいえ、ただ詳細は申し上げる事が出来ないが、この文章は本物です」
カルクは朝田とカルムの顔色を伺う。シルカーク王国は国連軍の一員として今回の戦争に参戦している。国連安保理決議に基づき、単独講和は一切認められておらず、先に発表されたタルクリス宣言が交渉の叩き台である。それが国連軍参加48カ国の総意である。
「Nous sommes désolés, mais notre réponse se trouve ici. Veuillez la consulter.(大変申し訳ありませんが、我々の答えは此方に記されております。ご覧下さい)」
フランス生まれフランス育ちのフランス系イギリス人、カルム・フレンチ・ホワイト大使は流暢なフランス語でカムーラに返答すると共に、タルクリス宣言の全文を記した文書を手渡す。ちなみに彼は長らくフランスの首都パリに住んでいたが、イギリス本国のEU離脱ブレグジットに伴い、家族と共に帰国した。
「Nous, les 48 nations participantes à l'ONU, exigeons que votre pays accepte ce qui précède. Tout refus équivaut à une reprise des hostilités.(我々国連軍参加48カ国は、貴国に対し、以上の内容の受け入れを要求している。拒否は即ち、戦争の再開と同義である)」
カムーラは絶句する。国連軍は無条件降伏以外は認めない。それを悟ったからである。
「・・・・・解りました。今し方、本国に連絡を取り、確認して参ります。暫くお待ち頂けないでしょうか・・・」
そう返答するので精一杯だった。
「・・・・・言っておくけど、現時点では停戦協定は締結されていない。故に、貴国の本国周辺で国連軍は引き続き作戦行動を継続する。返答が遅れれば遅れる程、犠牲は増えるわよ」
暗に最近頻発している民間船舶への被害は自分達によるものであると圧力をかけるアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトン准将。
「我々はそなたらとは違い、徒に銃後の民に不幸を味あわせたいとは思っていない。よく考えることだな」
実際にタルクリスを統治するガルマ大佐はタルクリスの民に代わり、カムーラを睨みつける。容姿端麗かつ、危険な最前線基地であり、敗残兵がゲリラ化し、治安も安定しているとは言えないタルクリスにて、防弾チョッキを着用せずに民と触れ合う姿は、今やタルクリスの民には救世主のように映っており、民らは自発的にクルセイリース大聖王国初代国王の石像を破壊し、その台座にガルマ大佐の石像を作り始める始末であった。結局この日は散会となり、交渉は続く事に決まった。
夕方
シルカーク王国日本大使館
大使執務室
「そうかそうか、交渉は成立しなかったンだな」
外務省の朝田、海上自衛隊のヒロシとアキラ、そしてビデオ通話を利用して英連邦パラディオン王国からアキコとシンが事務レベルで会議を行う。
「今回の和平について、どうも私は引っ掛かるのです」
朝田は皆に問う。
「和平は日本国にとっても良いことである。いや、全世界に良いことだ。だが・・・・」
『しかし、組織の意見は簡単に変わるものではない。増してクルセイリースは国内に相当数の戦力を残しており、たったの1回の戦いで惨敗したからといって、突然和平に舵を切るとは考えにくい、といったところかしら?』
アキコが朝田にそう話しかける。
「アキラ、クルセイリースの国内でクーデターの線は?」
ヒロシがアキラに話しかける。
「人工衛星からの情報からはそのような状況は見受けられねえンだよな。むしろ活発的にワカスーカルトから人が出入りしている。まるで何かを仕掛けようとしているかのように・・・な」
アキラは人工衛星の画像を示す。そこにはここ一ヶ月のワカスーカルト周辺の様子を写した画像には、多数の車両や飛行艦等、激しい人の出入りを示していた。
『何か罠を仕掛けているんじゃないのか? アキラだったら、和平と見せかけて罠を仕掛けるくらい考えるんじゃないのか?』
いや、これ絶対罠だろという表情のシン。
「まあ、罠だな。普通に考えて」
そりゃあ、罠よという表情のアキラ。それを見てヒロシは朝田に国連軍としての方針を示す。
「朝田さん、我々は先進11カ国会議の教訓を忘れてはならない。戦略的に一カ所にまとめて総攻撃をしかけてくる可能性を考慮した方が良いでしょう。となると、大艦隊はタルクリスに待機させ、イギリスの飛行戦艦プリンス・オブ・フィリップに代表団を便乗させるのが最善だと思う。だが、同艦はイギリス海軍の所属であり、日英両国間での調整が必要だ。また、降伏文書調印までの間の休戦協定を先に締結するべきだと考える」
「では、本国の意思決定が整うまで回答時期を延ばすよう、シルカーク王国に打診します。政府の意思決定が降りた後、具体的な日程調整に入ることになるでしょう」
朝田は時期を調整するためシルカークに申し入れる事とした。かつて、神聖ミリシアル帝国で行われた先進11カ国会議。世界の指導者達が集う場所を、グラ・バルカス帝国艦隊は強襲した。この世界は異常で、万全に万全を尽くすべきである。クルセイリースの言を信じないといった意見が多く出された。今回は敵国の街で開催されるため単純な比較は出来ないが、用心に越した事は無い。特に、本能が警笛を鳴らしている場合は理屈では通らない事でも当たってしまうものだ。今回の件は他国との調整もあるため、日本国としては和平を進める事を前提とするが、外交文章に関しては注意しつつ事を進めることとした。
シルカーク王国イギリス大使館
大使執務室
「敵はあからさまにワカスーカルトにて騙し討ちを行う腹づもりよ。諜報部やスパイからの情報を照らし合わせましたので、間違いはないわ」
イギリス大使館では、カルム大使やバイオレット准将らが今後の対応について話し合われていた。
「そうなると、敵に慈悲をかけてやる必要は全くないね」
「ええ。既に国連軍最高司令部には敵国への無慈悲な報復攻撃を行う作戦案を提出したわ」
アオイはカルムに作戦案を示す。
「・・・・・・・やはり使うんだね」
「むしろこれでも我慢したのよ。本音を言えば、敵本国全土への報復攻撃を予定していたのだから」
「うむ。では、準備の為に何ヶ月必要かい?」
「補給、整備、根回しを考えると、3カ月あると嬉しいわ」
「分かった。3カ月引き延ばしてみるよ。休戦協定は締結する?」
「して欲しいわ。敵本土周辺に展開させている潜水艦部隊にも補給や整備、休息も必要だしね」
「分かった。明日カムーラと話し合うよ」
後日、他国との調整の結果、クルセイリース大聖王国西部の都市ワカスーカルトにおいて、シルカーク王国の代表が出向き、和平に関する調印式を行う事となる。 クルセイリース大聖王国の言うとおり、艦隊を派遣する事になり、イギリス海軍の空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」、「プリンス・オブ・フィリップ」の2隻を派遣。各国の代表団は「プリンス・オブ・フィリップ」に便乗し、国連軍最高司令部は「クイーン・エリザベス・2世」に乗艦する。
3ヶ月後
双方すべての準備が整う。和平を信じるシルカーク、そしてパーパルディア。疑いを向ける日本国、無慈悲な報復を予定している大英帝国、そして強襲を企むクルセイリース大聖王国・・・・・歴史の歯車は衝突へと・・・・多くの被害を生む原因となる戦いに向かって回り出すのだった。
国連軍クルセイリース大聖王国報復攻撃艦隊旗艦
イギリス海軍空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」
艦橋CIC
「まさかな・・・・俺があのボタンの発射命令を出す事になるなんてね・・・・」
国連軍最高司令官としてイギリスの空中戦艦に乗り込むヒロシは、イギリス人の船員らに聞こえない声でそう呟いた。
「国連軍最高司令官になった以上は避けられねえってもンだ。しかもバイオレット准将は陸軍の人だから、この場にはいねえしな」
」
ヒロシの副官であるアキラも今回空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」に乗り込んでいる。
クルセイリース大聖王国
西部の軍事都市ワカスーカルト
30代の男が足を組み、眼前の男をにらみつける。鋭い眼光に、男は直立不動となった。
「ほう・・・・では奴らは貴重な空中戦艦を総動員し、我が領域に侵入する・・・・という事だな?」
「はっ!!」
「外交部の罠・・・・敵主力艦隊の殲滅か・・・・無慈悲な作戦を考えつくものだ。すでにワカスーカルト全住民の避難が完了している。港へ向けられた全魔導砲増幅装置、ワカスーカルト飛空艦隊、そして本庁直轄の竜騎士団もすでに配置についている。我らが防衛は完璧だ」
「さすがワカスーカルト防衛長官、エル・ガンエン様!!すばらしい!!」
「そう、私は完璧なのだ。ふむ、良いことを教えてやろう。私の圧倒的なる魔力量と、有り余る実績が原因で、私は軍王様に国の行く末を左右する重大な任務を任された」
エル・ガンエンという男は扱いやすい。しかし人に比べて圧倒的に高いプライドを傷つけ、物理的に消されたという噂が絶えない。報告を行う男は、エル・ガンエンの機嫌を損ねないよう、身を乗り出して話しを聞く。エル・ガンエンは誇らしげに大きな鍵を取り出した。
「それは・・・・まさか!!」
正直何の鍵なのか、全く検討はつかないが、自慢げに取り出すという事は相当なものなのだろう。なんですか、それは?と言って物理的に消されてはたまらないため、何か思いつく事があるかのような振る舞いをする。
「フフフ・・・・ッこれはな。神話級の兵器、古代黒月族の対ラヴァーナル帝国決戦兵器、キル・ラヴァーナルを起動させ、思いのままに操るための鍵だ!! もしも通常兵器で処理出来ぬ場合、我が絶大なる魔力を持って起動させた決戦兵器が敵を消滅させる!! この戦いは軍王様が聖都でしっかりと映像で確認なさる。どう転んでも我らには勝利しか無いのだ!!! フアーッハッハッハーーー!!!!」
「さ・・・・さすがはエル・ガンエン様!! そのような神話級兵器を個人に託されるとは!! 私そのような事例は初めて伺いました!!! 本来使用されない事が好ましいのでしょうが、もしもこれが起動され、エル・ガンエン様が敵を倒せばもはや軍神、後の世まで語り継がれる事でしょう。やはり実力のみならず、軍王様からの信も厚いのですね。次期軍王様に最も近いのはエル・ガンエン様かもしれませぬ!!」
「お主言いよるのう、良く解っているじゃないか。フハハハハッ!!」
「ハーッハッハッハーー!!!」
様々な思惑が交差する。時は進み、調印式の日を迎えるのだった。
クルセイリース大聖王国西部軍事都市ワカスーカルト沖合
イギリス海軍空中戦艦「プリンス・オブ・フィリップ」
艦橋CIC
「まもなくワカスーカルトの港に入ります」
艦橋に報告が上がる。
「ついに・・・この時が来たか」
国連軍の外交部代表の1人であるカルムはそう呟いた。
「これから更地になる土地。実に美しいじゃないか」
空中戦艦「プリンス・オブ・フィリップ」は水上航行モードに移行し、ワカスーカルト港へ向かっていた。
「万が一、本艦が攻撃を受けた場合すぐに・・・・無慈悲な報復攻撃をワカスーカルトに実施される。いや、間違いなく実施される」
カルムは後方待機する「クイーン・エリザベス・2世」に目を向ける。
「哀れだ。実に哀れだよ」
クルセイリース大聖王国
ワカスーカルト防衛支部
「あれがグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の空中戦艦か? 実に大きく、更に飛行形式もかなり違うな」
ワカスーカルト防衛長官エル・ガンエンは冷静に分析する。彼は続けた。
「それで、こちらに向かってくるのは1隻だけか」
「もう1隻は沖合で待機する模様ですな」
クルセイリース大聖王国軍は地上及び飛空艦、そして離島等に設置された計測機器等、あらゆる情報活動を通じ、大英帝国の空中戦艦の位置を把握していた。
「警戒心が強いな。艦隊の展開範囲は?」
「展開範囲は10kmの円状の中に入ります」
エル・ガンエンは不気味に笑う。
「軍王様に報告、座標を送る事を忘れるなよ」
「しかし、軍王様は何をなさる御つもりで?直径10kmの円状範囲にいるかどうかを報告しろとは」
「解らぬ、我らの常識では計り知れぬほどのお方だ、しかし国民の事を誰よりも考えておられる器の大きなお方だ」
エル・ガンエンは遠い目をする。彼は続けた。
「ところで、攻撃準備は出来ているな?」
「はっ!! すべて完了しております!!」
部下は自信をもって答える。
「では、準備が出来次第、殲滅的総攻撃を行う・・・・準備完了し次第、攻撃を開始せよ!!」
攻撃の準備は進む。
イギリス海軍空中戦艦「プリンス・オブ・フィリップ」
艦橋CIC
「本艦のレーダーが飛行物体を探知!! 南南東方向距離70km!! 敵機数120、速度211km、高度400m!!」
「直ちに離水!! 対空戦闘ヨーイ!! 同時にクイーン・エリザベス・2世に通達!! 敵は騙し討ちをした。国王陛下に代わり、敵に裁きを降せと!!」
水上航行中だった空中戦艦「プリンス・オブ・フィリップ」は出力を全開にし、緊急離水を敢行。それにより発生した大きな波が無人の港町に押し寄せる。やがて1分も経たない内に同艦は空中飛行モードへ移行し、後方の「クイーン・エリザベス・2世」と合流し、隊列を整えるべく移動を開始する。
クルセイリース大聖王国ワカスーカルト南南東約70km
本土防衛秘匿航空基地コニア
小高い山に円筒状の巨大洞窟があった。同所を整備し、ワイバーンの滑走路や空中戦艦の待機所を整備した基地、コニア。上部は森に覆われ、上から見たならば森にしか見えない。整備された飛龍の滑走路からは、聖都防衛竜騎士団が次々と飛び立つ。生物だからこそ出来る、同時瞬間的離陸により、瞬く間に120騎が離陸した。力強い羽ばたきは、絶対に勝つことが出来るであろうと、見る者に絶大なる信頼を与える。
「やはり・・・・・我が軍の練度はすばらしい!!!」
聖都防衛騎士団長セイルートは、配下の軍の動きを見て笑う。飛空戦艦の登場により、空の主戦力たる地位は奪われたが、ワイバーンにはまだ圧倒的な機動性がある。効果的運用が出来ればさらなる戦果を期待出来るはずだ。この戦いで、ワイバーンの有用性を認めさせ、竜騎士の地位向上を図る。セイルートにはこのような目論みがあった。彼自身、戦果を見届けるため、ワイバーンに騎乗して飛び立つ。120騎にも及ぶワイバーンの大編隊はワカスーカルト港に侵入した敵を殲滅するため、コニアを飛び立つのだった。
国連軍クルセイリース大聖王国報復攻撃艦隊旗艦
イギリス海軍空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」
艦橋CIC
「先行するプリンス・オブ・フィリップより入電!! 敵ワイバーン部隊接近! その数120!! 明らかに攻撃態勢であるとの事!」
自動翻訳機を通じ、リアルタイムで情報がヒロシとアキラに伝えられる。イギリス海軍所属である本艦は無論、英語が飛び交っており、幾ら優秀なヒロシとアキラと言えど、瞬時に英語を日本語に翻訳し理解する、また逆に翻訳して返答するのは難儀であった。
「プリンス・オブ・フィリップは離水したのか?」
「はい。あと3分後には本艦と合流し、隊列を整える事が出来るとの事!!」
「そうか・・・・しかし、高純度オリハルコンエンジンはバケモンだな」
あまりの速さに感嘆するヒロシ。だが直ぐに気合を入れ直し、司令官としての責務を真っ当する。
「了解。では、事前の計画通りに行く。防壁を展開し、まずは敵に先制攻撃をさせるように。その後は対空ミサイルや対空砲で迎撃し、敵航空戦力を排除。その後、28式艦対地誘導弾による攻撃で一帯を更地にする!!」
「お前ら! ぬかるンじゃねえぞ!!」
やがて離脱してきた「プリンス・オブ・フィリップ」と合流した「クイーン・エリザベス・2世」は、本艦を先頭に単縦陣で進む。勇ましく翻るユニオンジャックと国連旗が誇らしげである。
「敵航空戦力、間もなく会敵します!!」
「敵航空戦力、本艦に向けて急速接近!! その数35!!」
今当に、クルセイリース大聖王国の敗戦を決定付ける戦闘が開始されようとしていた。一方、特命を帯びた部隊は・・・・
クルセイリース大聖王国南部
寂れた漁村
「・・・・・ニースよ、ここに鉄の鯨とやらが来るのか?」
フードを被り、黒い布で目と鼻以外顔を完全に隠した幼き少年はそう尋ねた。
「はい。この戦争を終わらせ、クルセイリース大聖王国を国家として存続させる為にやって来ます」
「うむ。しかし私が幼いのを良いことに、聖母ラミスやミネート軍王、イブリース大元帥が私腹を肥やす為に私を裏切っていたとは・・・・」
「許されない事です。しかし、この国の主は貴方なのです。貴方の御言葉で救われる命もあるでしょう」
その後、彼等の眼前に一隻の潜水艦が浮上した。その潜水艦は浮上すると、社旗を掲げた。それを見て漁船が横付けし、潜水艦の乗員数名が漁船で我が方へと向かってくる。
「お初にお目にかかります。私はミカドアイHDの役員、能登川でございます。以後お見知りおきを」
スーツ姿の能登川は、サングラスに白スーツ姿の部下を数名引き連れて上陸。やがてニースらに接触してきた。
「貴方が約束した鉄の鯨の関係者ですか?」
「聖王女ニース殿下、左様にございます。しかし、あまり長居しますと、流石に怪しまれるでしょうから、早速我等と共に潜水艦に移ってくださいませ」
「それもそうですね。能登川さん、よろしくお願い致します」
ニースは能登川と握手を交わし、漁船へと乗り込んだ。フードと黒い布で顔を隠している少年は、白服の者らに支えられながら漁船に乗り込む。その後彼等は無事、ミカドアイHDが所有する輸送用原子力潜水艦「カズタカ」に乗艦した。その後、「カズタカ」は急速潜航し、現場海域を離脱した。
「・・・・・・これが日本国の鉄の鯨・・・・本当に海の下にいる・・・・」
少年は能登川の案内で艦内を進む。やがて特別に用意された個室に到着する。
「狭い部屋でございますが、タルクリス到着までは此方でお過ごしください。クルセイリース大聖王国聖王子ヤリスラ陛下」
(続く)