クルセイリース大聖王国 聖都防衛竜騎士団
「見えたぞ!! 馬鹿みたいにデカい飛行艦2隻!!」
前方には単縦陣を組んで飛行するイギリスの空中戦艦2隻。主砲を此方に向けており、あからさまに戦闘態勢だ。
「ふん! 所詮は形だけ。撃ってこようとしない腑抜けめ!!」
やっと巡ってきた出番にセイルートは喜びに震える。主砲を向けるだけで撃ってこようとしないイギリスの空中戦艦2隻を嘲笑すり?
「ふ・・・・フフフ・・・・・フハハハハッ!! 神は我らを見放さなかった!!!」
眼光鋭く敵を睨み付け、邪悪な笑みで微笑んだ。
『まずは左側の敵を蹴散らせぇ!!!』
彼は大声で司令する。
『了解!!』
歓喜に震えた兵達は、士気が高く、大声で返信した。クルセイリースの守護者達は、前方に展開する侵略者を滅するために力強く羽ばたくのだった。
国連軍クルセイリース大聖王国報復攻撃艦隊旗艦
イギリス海軍空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」
艦橋CIC
「敵編隊、本艦に接近!! 主砲の射程圏外に入ります!!」
「そのまま引き付ける。進路そのまま!!」
戦場に入り、鋭い眼光で指示を出すヒロシ。やがて敵編隊が攻撃態勢に入る様子がモニターに映し出される。
「クリスタルシールド展開!!」
クリスタルシールド
イギリスが保有する空中戦艦に搭載された、実弾ビーム問わずに敵の攻撃を弾くシールドである。艦全体に展開することも、一部分にだけ展開することも可能なシールドだが、最大で5分間までしか継続使用出来ず、その間攻撃が一切出来ない完全防御用の装備である。日本側の通称は「波動防壁」。
「クリスタルシールド、展開完了!!」
「敵編隊、本艦に向けて火炎弾を次々と投射!!」
全員が固唾を飲んで直撃の瞬間を迎える。次々と火炎弾が「クイーン・エリザベス・2世」に被弾する。
「・・・・火炎弾、全弾被弾するも、ダメージなし!!」
「「おおお!!」」
「ブラボー!!」
艦橋要員からは歓喜の声が上がる。クリスタルシールド、通称波動防壁の効果が証明され、技術担当者はガッツポーズをし、中には抱き合いながら喜ぶ者もいる。
「・・・・・凄いな・・・これが異世界にしかない鉱石オリハルコンと、日本の技術力、そしてイギリスの変態発想の融合か・・・恐ろしいな・・・」
ヒロシも艦橋要員と共に、感嘆していた。
「お前ら!! 浮かれてンじゃねえぞ!! 迎撃戦闘を開始だ!!」
冷静に状況を俯瞰していたアキラが喝を入れ直す。ヒロシを始め、皆がハッ!という表情を浮かべ、配置に戻る。
「た、対空戦闘ヨーイ!!」
「対空パルスレーザー砲、発射準備完了!!」
「プリンス・オブ・フィリップとのデータリンク完了!!」
「ヒロシ、お前の命令で何時でも行ける。国連軍最高司令官としての責務を果たすンだな」
「そ、そうだな。対空パルスレーザー砲を発射!! 離脱する敵機にはESSMで迎撃!!」
完全に攻撃を受けきった空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」。我々は和平交渉の為に来た。しかし、先に手を出したのはクルセイリース大聖王国側である。報復を行う大義名分を国連軍、ひいては日英は手に入れた。事前の計画通り、国連軍は報復攻撃を開始する。
「ん? 何故反撃しようとして来ないんだ?」
クルセイリース大聖王国竜騎士団の小隊長、エジルキは違和感を覚えた。敵は主砲を我々に向けている。にも関わらず、敵は全く迎撃戦闘をして来ようとしない。戦術思想の違いかもしれないが、何もしないという行為。それはひどく不可解に見えた。
「・・・・・恐れをなしたのか? いや、そんな事はないはず・・・・」
嫌な予感がする。ベテランとしての勘が告げている。これは罠だ。今すぐ逃げるべきだと。しかし、根拠がないため、そのまま突き進む。
「・・・・・・ふん、まあ良い。新世界の飛行艦を、たったの2隻を葬っても自慢にもならぬが・・・・物量で一気にカタをつけてやる!!」
竜対艦の戦いでは、機動性が取れる方が圧倒的有利であり、彼も勝利を疑わなかった。間もなく火炎弾が直撃し、敵は大混乱に陥るだろう。たたきつけられる合成風、轟音に近い風切り音。近づく決戦、緊張がピークに達した時。エジルキの左前を飛んでいた部下の騎が突然無数のレーザーで蜂の巣にされた。
「ギャァァァァァッ!!!」
『モウブ騎被弾!!』
魔信で誰かが叫ぶ。モウブ騎は、竜共々猛烈なレーザーに焼かれ、断末魔をあげながら落ちる。
「モウブ!! モーウブ!!! ちくしょう!!」
煙が晴れ、彼は眼前の敵艦を見た。
「ば、バカな!? 敵は・・・・健在だと!?」
あれだけの火炎弾の直撃を食らったにも関わらず、敵の空中戦艦は全くの無傷だった。それどころか、丸で急に目が覚めたかのように猛烈な対空砲火を打ち上げていた。
ゴウッ!!!
当たれば一撃で撃ち落とされ、当たりどころが悪ければ身体が一瞬にして蒸発するレーザーが近くを掠めていく。レーザーは焼けるような熱を感じるほど近くを通り過ぎた。まっすぐに飛んでいたら丸焼けになっていただろう。
「て、撤退だ!! 退け!! 退けー!!」
エルジキは全身から汗が噴き出した。同時に周囲の味方に撤退の指示を出した。しかし次の瞬間、5騎にレーザーが直撃し、一瞬にして蒸発した。
「な、なんて猛烈な対空砲火なんだ!! わざと我々を近付けさせたのか!!」
2隻の空中戦艦が打ち上げる猛烈な対空砲火に仲間達の命が一つ、また一つと刈り取られていく。
「くっ!! 負けるものかっ!!」
大きな敵に対して闘志を燃やす。エルジキは敵に火炎弾を当てるため、懐に潜り込もうとする。
「なっ!!!」
目の前のパルスレーザー砲が味方騎の方に向きながら旋回してくる。
『ギャァァァァァッ!!!』
『は・・・・速い!! なんて速さだっ!!』
『あれは化け物だっ!! あんなのに勝てる訳が無い!!』
魔信は混信し、混沌を極める。友軍ばかりがまた落ちる。こちらの方が数が多いはずなのに、圧倒的戦力比であるはずなのに、落ちていくのは友軍騎ばかりだった。焼かれた竜の落下により、炎の雨が降る。
「そんなっ!! これほど・・・・これほどまでに技術力に差があるというのかっ!!!」
自分に狙いを付けられている事に気づく。右へ、左へ旋回して必死で避ける。エルジキは、間違いなく国一番の竜騎士である。自分の操竜技術を超える者はいないと自負してきた。そんな自分が異国の空中戦艦に対して遅れをとっている。もはや友軍の心配をしている場合では無かった。圧倒的に速く、大きく、そして旋回能力も高く、レーザー砲の威力も高い。そんな敵が自分を狙ってくる。
「くそっ!! おのれ、おのれおのれおのれぇぇぇぇっ!!!」
3発の火炎弾を愛騎に直撃した刹那、4発目が彼自身に着弾した。
「ぐあっ・・・・」
敵の強さを悟った時、パルスレーザー砲のレーザーが被弾し、彼の意識は虚空に消えた。
「ば・・・・・バカな・・・・」
混迷を極めた魔信は静粛を取り戻していた。クルセイリース大聖王国王都防衛竜騎士団120騎は、大英帝国の空中戦艦2隻と交戦し、騎士団長セイルートを残して全滅した。
「あ・・・・あ・・・・あああっ!!! ああああああっ!!!!」
騎士団長セイルートは、離れて飛んでおり、戦場を見渡せる位置にいたため、撃墜を免れていた。眼前に広がる光景は、多くの友軍が火だるまとなって雲の海に落ちる様であり、敵はすべて健在。我が軍よりも、圧倒的な速度、大きさ、攻撃力を持つ空中戦艦であり、明らかに種類が異なる艦だった。栄えある聖王都防衛竜騎士団が全滅した。夢であってほしいが、紛れもない現実。
「ううう・・・・うわぁぁぁぁぁつ!!!」
怖い、怖い。部下達は死んだ。あれほどの操竜技術を持っていた部下はすべて撃墜された。異界の列強国とはさも恐ろしいものであったというのか。とにかく生き残りたい。我が方にはまだ飛空戦艦の艦隊がある。常々竜をバカにしていたのだから、奴らに戦わせるべきである。命を守るため、ひたすら自分に言い訳をする。最後の1兵となったセイルートは、もはや敵への恐怖しか無く、戦場から逃げ出す。しかし、死の運命は彼だけを逃したりはしなかった。
「く・・・・く、来るなー!!」
必死に逃げようとするセイルートを嘲笑うかの如く、白い槍が赤い尾を引きながら接近してくる。
「うわあああ!!」
鼻水を流し、泣きながら左右上下に逃げ惑いながら逃げ回るセイルート。しかし、竜如きがミサイルの速さから逃れるはずもなく・・・・
「クルセイリース・・・・・万歳!!」
空中に汚い黒い花火を咲かせる。セイルートはイギリスの空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」が放った艦対空ミサイルESSMにより、その人生に幕を閉じた。
国連軍クルセイリース大聖王国報復攻撃艦隊旗艦
イギリス海軍空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」
艦橋CIC
「レーダーに感あり!! 東方向から敵飛空艦と思われる艦隊が約50!! 内1隻は異常に反応が大きい!!」
「敵の主力艦隊のお出ましか!! この主力艦隊を殲滅してしまえば、制空権、制海権を完全に掌握出来る。さすれば、俺の立案した上陸作戦を発動出来る!! 絶対に負ける訳にはいかねえ!! 総員奮励努力せよ!!」
「・・・・・司令官よりも司令官らしい事をしているよな・・・アキラは」
作戦の第一段階、「敵からわざと攻撃させ、敵の航空戦力の完全排除」は完遂した。続いて作戦の第二段階、「敵主力艦隊の完全排除」に移行する。
クルセイリース大聖王国 ワカスーカルト
「エル・ガンエン様!!!」
息を切らしながら部下が部屋に走り込んでくる。
「どうした!!これ以上まだ何かあるというのかっ!!」
陸上からの包囲攻撃、山に配置された砲撃陣地は敵空中戦艦が全速力で飛行モードに移行されてしまい、射程圏外に離脱されてしまった事により、実質的に無力化された。高低差を利用した山から、長射程魔導砲による砲撃は、一定の効果をあげるはずだったのだが、空中目標を狙うためには作られておらず、若干試しに撃ってみたものの、全く効果が無し。エル・ガンエンは衝撃を受けたが、まだ竜騎士団による攻撃及び、飛空艦隊による強襲が控えており、それでも駄目な場合は切り札、古代兵器キル・ラヴァーナルがあるため、敵の強さには衝撃を受けながらも、少し心の余裕は持っていた。
「報告は2点あります。1点目、王都防衛竜騎士団120騎は敵空中艦2隻と会敵し、戦闘状態となり、魔信が途絶えました。全滅した模様です」
「は?? はぁっ!? その戦力比で負ける事など、あってはならないだろ!! 戦果は?」
「明確な戦果は不明です」
「1隻も撃沈報告が無いと言うのか?」
「・・・・・はい」
「・・・・・・・」
エル・ガンエンは思考が追いつかない。部下は構わず続ける。
「2点目、軍王令通信を受信ワカスーカルト防衛隊はその持てる力全てをもって、新世界国艦隊の殲滅に当たれ。聖王命が下った。キル・ラヴァーナルを起動セヨ。聖王直轄飛空艦隊全隊が異国艦殲滅のため、ワカスーカルトへ向かう」
「え??」
エル・ガンエンの背中に衝撃が走る。
「な・・・・な・・・・何だと? 軍王令通信は間違いないな!? 間違いないのだな!!」
「はっ!! 間違い有りません」
「聖王直轄飛空艦隊がすべて来る? 全て来るだと!? 信じられん。それほどの敵なのか・・・? 聖王家は、異国艦隊にそこまで脅威を感じているというのか。情報は細目漏らさず報告せよ!!」
「エル・ガンエン様、聖王直轄飛空艦隊とは?」
「ああ、そうか。お前は知らんだろうな。これは一定以上の幹部にしか存在を知らされていない極秘の軍隊。聖王家は、万が一軍が謀反を起こしたとしても、それを全て押さえるほどの力を有している。つまり、すべての国内の飛空艦隊を使用しても、聖王直轄飛空艦隊を相手にすると必ず破れる」
現実場慣れしたエル・ガンエンの言葉に部下は異論を挟んだ。
「しかし、それは不可能では無いでしょうか? 軍の装備というのは最新式のものが来ます。最新式の装備、しかも数がそろっている軍隊に、いくら優秀な人材がいたとしても、勝てるとは思えませぬ。もしも勝つほどの数をそろえると、それは民衆の知るところとなり、極秘とはとても言えません」
「そうだ。聖王室が、絶大な力を持って長年続いている事には意味がある。持っているんだよ。高度に偽装され、外からは見えない位置に。古の超兵器・・・・「聖帝ガウザー」古の魔法帝国の名では、空中戦艦パル・キマイラという。お前も御伽話で聞いたことはあるだろう?」
「なっ!!! まさか、あの・・・・あの古の魔法帝国の空中戦艦が?? 我が国でも発掘されていたのですか!!!」
「いや、これは東方世界の国を統治した900年前に出てきたものだ。国の拡大期、わが国に莫大な富をもたらした歴史上唯一の聖帝の名がつけられた。魔力を凄まじく食うから、これを注入するだけで途方も無い時間を要するらしいがな。いずれにせよ、聖王直轄飛空艦隊がすべて出てくるなら、旗艦は間違いなく、古代兵器、聖帝ガウザー(空中戦艦パル・キマイラ)だ。虎の子の艦を出してくるとは・・・王家が本気になったという事・・・・軍王様もびっくりなされただろうな」
「で・・・・では、ラヴァーナル帝国と、黒月族の神話旧兵器が計2つも投入される訳でしょうか?」
「軍王令通信が聞き間違いの類いでないなら・・そういう事だな。これほどの軍事力で勝てない理由は無い。それだけ、新世界艦隊に脅威を感じているという事か、もしくは国内向けのアピールなのかは解らないが・・・・まあ良い。軍王様の命令だ。我はこれよりキル・ラヴァーナルへ向かう。ワカスーカルト防衛飛空艦隊は全艦出撃、聖王直轄飛空艦隊の到着に呼応して全隊で同時攻撃を行え。後を頼んだ」
「はっ!!」
エル・ガンエンは、神話級古代兵器、キル・ラヴァーナルを起動するため、黒月族遺産発掘所へと向かうのであった。
南方世界新オーストラリア大陸
英領ニュー・オーストラリア ニュー・ダーウィン
ニュー・オーストラリア総督府総督執務室
「南方世界にも我が国の領土を獲得。大英帝国の勢いは留まる事を知らないわね」
一番新しいイギリス領であるニュー・オーストラリア。異郷の地で総督を勤める女性外交官、フランス系イギリス人のセレナ・フランソワ・ミアレはそう呟いた。
「カルムは今頃、敵地でクルセイリースの外交官と会ってる頃かしらね?」
彼女は遥か彼方にいる恋人の身を案じる。数カ月前の電話では、偽りと思わしき和平交渉が行われた。そしてそれが本当に偽りか否かを確かめる為に、飛行戦艦で殴り込み、その遥か後方に上陸作戦部隊を満載した輸送艦や民間徴用の貨物船、それらを護衛する水上艦艇や潜水艦、航空機が待機していた。もし、本当に偽りの和平交渉であるならば、クルセイリース大聖王国の無条件降伏は更に近付き、最悪の場合は国家解体の上で、イギリスの傀儡政権が樹立されるのは明白であった。
「愚かな指導者を持つと苦労するわね。己の実力を過信したがゆえの悲劇。哀れ」
セレナは机に絵図を広げる。そこには、現在日本とイギリスが把握している新オーストラリア大陸に関する情報が記されていた。
「しかし、このニュー・オーストラリア大陸も突如として出現した。英連邦パラディオン王国の例もあるけど、世界には科学では説明出来ない事が、まだまだあるみたいね」
まだまだ未知の世界が広がる異世界。日本は多数の人工衛星を打ち上げ、その全容解明に努めてはいるものの、何しろ地球の何倍もある大きさの星である。星の大きさに対して、人工衛星の数が圧倒的に足りていない。更に人工衛星打ち上げ能力を持つ国は世界に日本しかなく、それも全容解明の妨げになっていた。
「しかもいきなり出現したかと思えば、急に黒い雲が大陸のほぼ全てを覆い、宇宙から把握する事が不可能になった。一体何が起きてるのかしら?」
新大陸が発見されたのは約1年前の事。一夜にして、オーストラリア大陸の4倍の大きさの新大陸が突如として南方世界に出現したのである。しかも形はほぼ完全にオーストラリア大陸と同じであり、新オーストラリア大陸と名付けられるのも納得の姿であった。しかし、新大陸発見から1週間後、突如として大陸の一部に黒い雲が出現。始めは悪天候かと思われたが、黒い雲は徐々に広がり、やがて大陸のほぼ全てを覆い被さる程の規模にまで拡大したのである。そんな中、英連邦パラディオン王国政府、エモール王国政府からイギリス政府に対して、緊急の連絡が入る。内容を総合すると、
・祭祀の杖に封じられた情報を日本・イギリス・パラディオン3カ国合同で解析した結果、突如として出現した新大陸、新オーストラリア大陸は、神を滅ぼす為に古の魔法帝国が作り出した生物兵器にして、最高傑作である邪竜の完全復活に必要な台座と祭壇が存在している
・台座に治める宝玉は新オーストラリア大陸全域に散らばっており、古の魔法帝国が作り出した邪竜の完全復活には、散らばる宝玉を台座に納め、祭壇で儀式を行う必要がある事も判明した
・新オーストラリア大陸には世界に散らばる7つの秘宝の一つ、聖剣ツヴァイハンダーが眠っており、今は聖王の嫡子である聖王女が有している
・空間占いの結果、新オーストラリア大陸を包む黒い雲は悪天候に非ず。古の魔法帝国復活を目論む勢力による、邪竜復活の影響である
・邪竜が復活した要因は、永きに渡る封印で対となる神竜の力が弱まり、更に第三勢力が邪竜側に手を貸した事によるものであると推察されるが、第三勢力がどこであるかについては、不明である
・北部地域のみが黒い雲に包まれていないのは、救いを求める神竜の加護を受けている為であり、速やかに上陸し、拠点を作るべきである。さすれば、新大陸の戦士達が助けを求めて来訪し、共闘を求めてくるであろう
・神竜の支配地域として唯一残った北部地域は、神竜の加護による豊かな恵みをもたらすのは間違いない
というものであった。異世界転移前であれば、ただのカルト宗教の教にしか聞こえないが、ここは異世界。地球の常識が通用しない世界である。これを受けてイギリス政府は、日本政府に対して協議を申し入れた。理由としては、
・古の魔法帝国対策について、日英両国が足並みを揃えて対応する必要がある
・日英同盟に基づいた協力関係を新大陸にも構築する
・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の世界展開には日本企業の技術力が必要不可欠である
・日本側に対して警戒心が強まるような行動をし、日英関係が悪化するのをグレートブリテン及び北アイルランド連合王国側は望まない
等であった。協議は大きな問題なく進み、
・新大陸、新オーストラリア大陸北部地域はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の海外領土である事を日本国は認める
・新大陸解放後、日本国は新オーストラリア大陸北部地域をグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の領土であることを現地の異世界国家に認めさせるよう、仲介を行う
・日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、新オーストラリア大陸解放後、現地の異世界国家と不可侵条約並びに軍事同盟、経済協定を締結する
・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、新オーストラリア大陸北部地域のみが自国領であり、それ以上の領土を現地の異世界国家に要求しないことを宣言する
・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、新オーストラリア大陸北部地域のインフラ整備を日本企業に優先的に事業を割り振る
・現時点ではグレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、日本国に対して軍事行動を求めない。必要に応じて追加で協議を行う
等が決まった。その後、大英帝国首相キア・スターマンが来日。日本国首相高市沙苗の地元奈良県で首脳会談を実施し、以上の内容が合同記者会見で発表された。これを受け、一番近い大英帝国の拠点、英領カルトアルパスから部隊を派遣。無事上陸作戦は成功し、速やかに滑走路を整備。完成した滑走路を利用し、カルトアルパスから追加の物資や人員を送り込み、拠点化を実施。3ヶ月後には、現地で活動するには最低限の設備の整備は完了。現在はミカドアイHDがG5各国の囚人や債務者を使い捨ての労働力として活用し、港湾施設の整備を進めている。ちなみに彼等に対してミカドアイHDは、
「1年間生き残れば債務を免除する」
「1年間真面目に働けば、終生現地で暮らす事を条件に罪の一切を恩赦する」
と伝え、更に囚人や債務者の上澄みを指導者階級とし、特権を与える等、会社や大英帝国にヘイトが向かわないように仕向ける徹底ぶりである。たまに耐えかねて逃げ出す輩もいるのだが、一番近いG5領である英領カルトアルパスからは、旧地球世界の日本からブラジル以上離れており、海流はカルトアルパスに向かうには逆向きであり、更にカルトアルパス行の航空機に紛れても、経由地であるセイロン王国で摘発されて送り返されている。送り返されるのはまだ良いほうであり、殆どの者は帰らぬ人になるのだが。
「生き残った者達は入植者として、後世に名が残るでしょうね。しかし、新大陸を犯罪者の島流し先に使うなんて・・・・真の意味で新オーストラリア大陸ね」
完成したばかりのプレハブ総督府の一室から街並みを眺めるセレナ。異世界国家からの侵攻に備え、星型要塞のど真ん中に総督府は建てられており、要塞内部には多数の兵器が集積されている。更には如何にも飛行場を作ってくださいと云わんばかりに開けた土地があり、そこには必要最低限の空港管制機能が設置され、今日も輸送機がカルトアルパスからセイロンを経由してひっきりなしに飛来する。総督府の周りでは、ミカドアイHDを中心とした日本企業が電気、水道、ガス、通信等のインフラ整備を進めており、沖合にはインフラ整備に必要な資源を運搬するタンカーや貨物船が待機し、中型小型船舶に積み替えて陸揚げしている。
「星型要塞も無事に完成。兵力不足を補う為に、サナダ公国からは2000、英連邦パラディオン王国からは1500、新生グラ・バルカス帝国からは2500、神聖ミリシアル帝国からは500の兵が派遣。我が大英帝国の500と合わせ、7000の兵がこの新大陸に展開。内、サナダ公国と英連邦パラディオン王国の部隊は更に外側に進出。ここから300キロ程南に進んだ盆地にサナダ公国が3つの城を築いた」
セレナは新大陸の地図を見ながら独り言を呟いていく。現在、イギリス側が把握している新大陸の最前線には、カムイ城、ビャクヤ城、アンヤ城の3つの城が築かれており、平城であるカムイ城を本拠地に、山城のビャクヤ城を支城とし、近くを流れるビャクヤ川とアンヤ川、カムイ城背後のカムイ山で防衛戦を構築していた。そしてカムイ城から北の方角には、ニュー・ダーウィンから伸びる鉄道があり、その終着駅を管理する城であるアンヤ城がある。仮にカムイ城とビャクヤ城が落ちた場合、アンヤ城を最終防衛ラインに戦う手筈である。最終防衛ラインのアンヤ城を除き、戦国時代を彷彿とさせる城が並んでおり、如何にも時代錯誤に思えるが、実態は鉄筋コンクリート製であり、火災に強くする為に耐火呪術(水)や(土)が各所に埋め込まれ、更に敵の攻撃に晒される外側の外壁は分厚いトーチカと化している。屋根は瓦ではなく、太陽光パネルが設置され、最低限の電源を確保。それに加えてビャクヤ城は、背後にダムと浄水場を備えており、平時は職員の宿舎、戦時は要塞として機能する。この為、両施設で働く職員は兼業軍人であり、有事の際にはアサルトライフルを持ち、刀や槍を携えて敵と戦う。この他、下水処理施設を急ピッチで建設を進めており、ここにも平城を設け、城内に下水処理施設を内包する形にする予定である。
「なんか嫌な予感がするのよね・・・」
コンコン、
ドアをノックする音がする。
「ほら来た。入りなさい」
「失礼致します!!」
報告書を携えた陸軍兵士が入室する。
「カムイ城より緊急報告です!! 哨戒中の英連邦パラディオン王国の第一騎兵師団が少年少女の集団を発見!! 国境線を越え、素性を尋ねたところ・・・・」
一連の報告を聞くセレナ。
「はあ・・・・面倒事が転がり込んできたわね。カルトアルパス総督府に報告書を書かないと・・・・」
セレナはこれから忙しくなるな。そう感じて嫌気がするのであった。
英領カルトアルパス
カルトアルパス総督府総督執務室
「・・・・・・ほほう!! せっかくだから、アキコにも連絡しちゃおうかな〜」
セレナからの報告書を読んで悪い顔をするハルト。
「止めろ!! やっとパラディオンで親子水入らずで子育て出来るはずだったのに仕事を割り振ろうとするな!!」
と、天の声がしたが、ハルトは構うことなく本国へ報告。イギリス政府から日本政府に対して、新大陸国家との外交交渉が始まる可能性があり、貴国も外交官を派遣して欲しいと要請。外務省は困った時はアキコを使い倒せと言わんばかりに、英連邦パラディオン王国大使を務めていたアキコを新大陸ニュー・オーストラリア大陸へ派遣する事を決定。伴侶のシンを代理公使として英連邦パラディオン王国に残し、アキコは単身新大陸へ赴く事になるのである。
「ふざけやがて!! このブリカス!!」
(続く)