南方世界
アオネイア聖王国北方の森の道なき道
「・・・・・・・・・・」
逃避行を続ける10人程の少年少女の集団は、ひたすらに北へ、北へと休む事なく歩き続けていた。
「・・・・・・(うぐっ・・・既に足の感覚が・・・・でも、私が弱気になってはいけない!! 今、皆を引っ張って行かないといけないのは私なのだから!!)」
猫っ毛の青髪ロングヘアーの少女は、誰よりも重い荷物を持ちながら集団の先頭を歩いていた。
「運命を・・・・変えるのが私の役目・・・それがお父様とお母様が命じた・・・最後の願いだから・・・」
彼女の名前はルキナ・アオネイア。一ヶ月前までは、アオネイア聖王国の第一王女かつ、聖王位継承順位第一位という、将来を約束された地位にいた16歳の少女である。父譲りの青髪と猫っ毛、武勇、そして母譲りの容姿端麗さを併せ持ち、仲間思いで非常に真面目な性格という、まさに理想的な王女であった。彼女を臣民達は深く敬愛し、聖王家に対する高い支持率の基盤であった。しかし、今はその面影はない。ひたすらに敵からの追跡を逃れる為、傷だらけになりながら歩いている。
「・・・・・・(姉さん・・・・かなり無理してる。これじゃあ持たないよ・・・・)」
「・・・・・・(お姉様・・・・あたしがもっと強ければ・・・お姉様に全てを背負わせる事なんてないのに!!)」
そんなルキナの後ろにくっつくかのように並んで歩く双子の兄妹がいた。彼等の名前はマークで14歳。正確には、兄はマーク・フレイ・アオネイア、妹はマーク・フレイヤ・アオネイアという。兄のマークは、姉のルキナと同じく父親譲りの猫っ毛の青髪で、髪型はショートヘアー、そして母親譲りの容姿端麗さと軍師としての才覚を併せ持つ王子である。一方で妹のマークは、父親譲りの猫っ毛で、母親譲りの薄い暗めの銀色の髪と軍師としての才覚を併せ持つ王女である。ちなみに何故2人ともマークと名乗っているのかと言うと、当初から聖王と王妃は、第二子は男女関わらずマークと名付ける予定であった。ところが、いざ出産してみたところ、まさかの双子。
(ルキナを支える一門衆は多い方が良いに決まってるけど、双子なんて想定してないぞ・・・)
(頑張り過ぎたかもしれません・・・・けど、後悔はしていませんよ。でも、名前はどうしましょう・・・)
双子が産まれてくる事を想定していなかった聖王と王妃は当初、どちらかに別の名前を付けようと考えていたものの・・・
「すまん、名前は考えたんだが、どちらに名付けるかを決められない」
「私も決められません。この名前は次に産まれてくる子に使いましょう」
どちらに名付けるかを決められず、結果として2人ともマークになったのである。こうして、第一王女のルキナを、第一王子のマークと第二王女のマークという、双子の軍師が常に傍らに控え、支える構図になったのである。
「・・・・・・ルキナ姉さん、ここいらで休息を取るのはどうかな?」
「・・・・・・あたしも同じ考えよルキナお姉様。皆も疲労困憊。それに、地図によればこの先はカムイ盆地。開けた場所に出るわ。防御が難しい地形だから、一気に走り抜けるように休むべきよ」
「・・・・・・それもそうですね。ここで休息しましょう。流石はお母様の血を色濃く引く軍師兄妹ですね」
彼女らはその場に座り込む。ルキナは王女でありながら、積極的に仲間達に水を配り、労をねぎらう。
「・・・・・ふう、正直疲れました。マーク、貴方達の休息提案、助かりましたよ・・・・うっ!」
急に顔を顰め、その場に倒れ込むルキナ。
「姉さん!!」
「お姉様!!」
直ぐにルキナに駆け寄るマーク兄妹。
「あ、熱い!!」
「どうしましょう・・・・もう回復薬は底をついてしまいましたし・・・・」
高熱を出して倒れてしまうルキナ。騒ぎを聞きつけた仲間達が血相を変えて駆け寄る。
「ルキナ!! しっかりしろよ!! おい!!」
「・・・・・・酷い熱です。思えば、今日のルキナは歩みが少しばかり遅かった気がします・・・・クソ! あの時、疑問を口に出来ていたら!!」
「考えてみれば、俺達はルキナのカリスマに頼り切りだった・・・そしてルキナはそれに応えようとして・・・・」
皆がルキナに視線を送る。ルキナは呼吸か荒く、顔は赤く、汗が止まらない。
「姉さん! ルキナ姉さん!!」
「お姉様!! しっかり!!」
遥か昔、アオネイア大陸は深く、暗い闇に閉ざされていた。古の魔法帝国こと、ラヴァーナル帝国が神を滅ぼす為に作り出した史上最強最高傑作の生物兵器「邪竜ホズル」の実験台にされたのである。「邪竜ホズル」の力は強大であり、一夜にして世界を闇で包み、倒した者を「邪竜ホズル」の意志でのみ動く兵士「フレースヴェルグ」として組み込む事で勢力を拡大。アオネイア大陸のほぼ全域をラヴァーナル帝国の支配下に落ち、絶望が大陸全域を包みつつあったその時だった。本来であれば存在するはずのない存在、「神竜バルドル」がアオネイア大陸北部地域に降り立ったのである。実はラヴァーナル帝国が「邪竜ホズル」を作り出した際、同時に相反する存在である「神竜バルドル」を神達は創り出していたのである。「神竜バルドル」は勇者に聖なる力を与えた。勇者の持つ剣に「邪竜ホズル」を倒す力を付与し、「聖剣ツヴァイハンダー」として覚醒させた。「聖剣ツヴァイハンダー」の力は強大であり、勇者マルスは頼れる仲間達と力を合わせ、「邪竜ホズル」を討伐することに成功する。しかし、討伐時には未だにラヴァーナル帝国は健在であった為に完全に倒す事は出来ず、数万年間封印することで精一杯であった。やがてラヴァーナル帝国が未来へ転移した事で北部地域のみの統治に甘んじていた勇者達の末裔は聖都奪還の為に進軍を開始。その際、神竜は勇者達に強力な援軍を授けり。それは、白地に赤い丸ないし、太陽の如く伸びる旗を掲げし部隊と、赤、紺、白の3色を斬り刻むかの如く組み合わせた旗を掲げし部隊なり。その後勇者達と援軍は、数万年ぶりに聖都イリースに帰還。かつて「邪竜ホズル」を討伐した勇者マルスは英雄王と呼ばれ、その英雄王の直系であるロイを初代聖王とするアオネイア聖王国を建国。神竜が授けし援軍は気付けば姿を消し、彼等が使用した旗のみが残されり。以後、古の魔法帝国封印の為に7つの秘宝としての機能を付与された「聖剣ツヴァイハンダー」を有する国として、神により世界から切り離された。以後は平和主義を前面に押し出し、正規軍を持たず国内の治安維持を担う自警団、王族護衛の騎士団のみを保有し、アオネイア大陸の大部分を支配する大国として君臨していた。しかし、古の魔法帝国封印の一翼を担うパラディオン共和国が巫女の乱心により結界が崩壊。その結果、古の魔法帝国封印の為、外部と隔離する役割を果たしていた結界が急速に崩壊。アオネイア大陸を包んでいた結界も崩壊してしまったのである。
「み、皆さん・・・・」
必死に目を空けながらマーク兄妹の顔を見るルキナ。
「先に・・・先に進んでください。足手まといな、私は・・・・置いて・・・」
「な、何を言っているんですか!?」
「お姉様はこの国最後の希望!! 置いていけるわけないわよ!!」
「・・・・・・・・」
彼女は身体を起こし、聖剣ツヴァイハンダーを覆っていた布を剥ぎ、剣先を自らの腹に突き立てる。
「私は聖王女として・・・仲間を見捨てる事はしないし、出来ない。皆さんが助かるのなら・・・・ここで切腹し、先にお父様、お母様にお会い・・・・お会いしま・・・・す」
意識が薄れ、聖剣ツヴァイハンダーを手から離し、再び倒れ込む。
「だったら!! 行くよフレイヤ!!」
「勿論よフレイ!!」
マーク兄妹は2人でルキナを抱きかかえる。
「僕達は映えある姉さんの一門衆!!」
「お姉様を支えるが私達の努め!!」
これをみた仲間達が一斉に立ち上がる。
「そうだそうだ!! 俺達はルキナを守り、支える事を聖王クロム様、聖王妃ルフレ様から仰せ使っているんだ!!」
「今まではルキナ、貴方に頼っていました。ですが、今は貴方が我々を頼る時です。仲間を信頼し、時には任せる。それも聖王女としての役目だと、私は思います」
「木を切って担架を作るぞ!! 俺に付いてこい!!」
「ならば僕は、未熟ですが、風魔法で少しでも涼しくしようと思います」
ルキナの仲間達は各々、自らの出来る範囲で彼女を助けようとする。周囲から期待され、過度な重圧に晒され、極限状態にありながらも皆を率いようとした。そんな彼女を支えたい。力になりたい。皆の思いにルキナは涙した。
「・・・・・皆さん・・・本当にありがとう御座います・・・」
やがて即席の担架が完成し、ルキナを横たわらせる。マーク兄妹が担架を担ぎ、進軍を再開する。
「必ず・・・・・僕達が!!」
「お姉様を守りますから!!」
一行は更に進軍し、カムイ盆地へと差し掛かりつつあった。やがてカムイ盆地では、彼等の運命を変える出会いが待ち受けているのであった。
英領ニュー・オーストラリア
カムイ盆地ビャクヤ川岸部
「はあ!!」
一人の若き男性軍人が馬を走らせる。
「異常・・・・なし!!」
新大陸ニュー・オーストラリア大陸北部地域。ここをイギリス領とする事にG5諸国は同意していたが、どこまでをイギリス領とし、どこからは現地の異世界国家の領土とするか。森林地帯の手前までをイギリス領とするカナダ案、ビャクヤ川から森林地帯側に10キロ進んだ場所までをイギリス領とするオーストラリア案、大陸の北半分全てをイギリス領とするイギリス案等、様々な案が出された。協議の結果、日本とニュージーランドが共同で提唱した、カムイ盆地を流れる2つの河川、ビャクヤ川とアンヤ川の中間線を国境とし、そこから北側をイギリス領とする案が採用された。分かりやすい自然河川を活用する事で、防衛線も作りやすいという利点もあった。
「しかし、騎兵師団が生き残るとはな」
ニンギルスは槍を持ち、腰に拳銃を装備して馬を走らせる。NATO式に再編された英連邦パラディオン王国軍であったが、同国では伝統的に騎兵師団が存在していた。当初は廃される話もあったが、あまりにも長い歴史があり、更には今まで現世とは切離されていた存在を無くすのは、あまりにも惜しい。そして異世界では、基本的に道路事情、補給事情は最悪であり、更には補給の面からも、現代兵器を持ち込むのは手間がかかる。一方で、馬やラクダ、牛などの家畜はこの異世界でも牽引用に使われていた。日英が0から騎兵部隊を整備するよりも、既に存在している部隊を改良した方が安上がりである。英連邦パラディオン王国第一騎兵師団は、日英の補完要員として伝統的な存在を現代に引き継ぐ事になったのである。
「今のところ、異世界国家との遭遇はない。だが、油断は出来ん」
妹イヴは巫女、友人のアウラムは彼女の守護者。ならば自分は2人を守る存在とならん。そう考えた彼は、再編された英連邦パラディオン王国軍に入隊した。2人を守るために鍛え上げた槍の技術は、第一騎兵師団にて活かすことになり、今こうして馬上から槍を振るっている。
「ん? なんだあれは?」
ニンギルスは眼前に広がる森林地帯に動きがあったように感じた。直ちに首から下げた日本製の双眼鏡を手に取り、異変を感じた方角に向ける。
「・・・・・・!!」
ニンギルスは腰に下げた無線機を握り、本部や周りの部隊に連絡する。
「此方哨戒中の第一騎兵師団ニンギルス大尉!! 異世界国家側の森林地帯に人影を見ゆ!! その数およそ10!! ゆっくりとイギリス側に向かって来ている!!」
ニンギルスからもたらされた第一報を受け、哨戒中または訓練中の第一騎兵師団は直ちに急行。万が一に備え、カムイ城からはサナダ公国の歩兵部隊500が、アンヤ城からはイギリス陸軍の装甲車部隊が出撃の準備を開始していた。
「人影はヨロヨロとよろけながらも、なお国境に接近中!! 内、一人は担架のようなもので運ばれている模様!!」
引き続き監視するニンギルスは逐一報告を行う。
「・・・・・こ、子供達ばかりではないか!! 俺より少しばかり若い程度の!!」
段々と人影の輪郭がはっきりと見えつつある。そこには身体中傷だらけで、今にも力尽きそうな子供達、ニンギルスよりも若く、イヴやアウラムよりは年上の子供達が必死にイギリス側へと歩いてきていた。
「人影に大人と思わしき者は一人もいない!! 全員、傷だらけの子供達である!! あの状況では、とても川を渡河する事は出来ない!! 司令部!! 直ちに国境線を越え、彼等を保護するべきと考える!! 渡河の許可を!!」
カムイ城本丸
サナダ公国新大陸派遣軍司令部
「ニンギルス大尉は、傷だらけの子供達が此方に向かって来ており、直ちに保護する為、国境線を越える許可を求めてきている、ですか?」
サナダ公国新大陸派遣軍総司令官のノブシゲ・サナダは部下に内容を確認する。彼は父マサユキ・サナダの次男である。
「はい。また、医療班を急行させて欲しいとも」
「傷だらけの子供達の集団ですか・・・何やら臭いますなあ・・・」
ノブシゲの部下、ナイキ・タカナシがそう呟く。
「タカナシはどう見るのですか?」
「彼等は誰かに追われており、保護すれば戦争に巻き込まれる可能性が高い、そう見ております」
「では、彼等を見殺しにするべきだと?」
「まさかまさか。そのような真似をする程、我が国は落ちぶれていませんよ」
「そうだな。ニンギルス大尉には、直ちに渡河するよう指示を出そう。また、医療班はカムイ城より装甲車で急行させよ。手空きの者は受け入れ態勢の準備をさせる」
「それが宜しいかと」
「了解。これよりビャクヤ川を渡河し、あの少年少女達を保護する!! 俺に続け!!」
再編された英連邦パラディオン王国第一騎兵師団は、ニンギルスと同年代の若者で編成された新鋭気鋭の部隊である。一斉にビャクヤ川を渡河し、英連邦パラディオン王国の旗を対岸に向けて突き進む。なお、同国は左上にユニオンジャックを配した新しい旗を採用している。
「・・・・・!! 騎馬隊がビャクヤ川を渡河し、此方に向かって来る!!」
先頭を進む護衛の少年が騎馬隊の接近に気付く。やがてある程度近付くと、騎馬隊は一斉に停止。その内の一騎だけがゆっくりと近付いてくる。
「まさか、敵が先回りを!?」
「だが、ペレディア帝国の騎馬隊とは全く違う装備だ」
「それにあの旗は・・・!?」
「あ、あれは・・・・」
ルキナを寝かせた担架を担いでいた兄マークは、騎馬隊の1人が掲げる英連邦パラディオン王国旗の左上に気付く。
「・・・・・あ、あれは・・・・英雄王に力を貸した異国の軍が採用していた旗と同じ紋章だ!!」
「な、なんですって!?」
妹マークも英連邦パラディオン王国旗を確認する。
「・・・・・た、確かに。あれは間違いなく英雄王に力を貸した異国の軍の旗と同じ紋章・・・・まさか、伝説の軍が私達を助けに来たの?!」
ゆっくりと近付いてきた騎馬が停止する。
「俺は英連邦パラディオン王国軍第一騎兵師団のニンギルス大尉だ!! 貴殿らを保護せよとの命により参った!! いきなり信じろと言われても無理があろうが、どうか信じて頂きたい!!」
「保護だって?!」
「じゃあ、俺達助かるのか!?」
喜びに沸く一行。すると、後方に待機していた騎馬隊が一斉に動き始めた。ニンギルスも異変に気付き、愛馬を突撃させる。
「な、なんだ!?」
騎馬隊は彼等を素通りし、更に奥深くへと突き進んでいく。
「はああ!!」
騎馬隊は槍やサーベル、英国製のアサルトライフルL85を片手に攻撃を開始する。銃声や馬の鳴き声が盆地に木霊する。
「我等第一騎兵師団に勝てると思うてか!!」
「手柄を挙げる好機ぞ!」
「大将首は頂く!!」
戦闘は一瞬にして終了し、そこには第一騎兵師団に倒された敵兵の姿があった。
「あれは・・・・ペレディア帝国の追手。恐らくは僕達を亡き者にする為の・・・・」
「いきなり恩を売られたわね・・・って、そんなこと言ってる場合じゃない!! ルキナお姉様を!!」
その後、増援のサナダ公国軍とイギリス軍が到着。実況見分や残党狩りを英連邦パラディオン王国軍とサナダ公国軍に任せ、保護した一行はイギリス軍が収容。殆どの者が何処かしらに怪我を負っていた事から、統治の拠点であるカムイ城ではなく、鉄道結節点であるアンヤ城に搬送。適切な治療を受ける事が出来たのである。こうして無事、彼女らはイギリスの勢力圏に逃げ込み、保護されたのである。同時に、イギリス側に次なる戦争の口実をとある国は与えてしまうのである。
アニュンリール皇国本国
魔帝復活管理庁復活支援課支援係
「古の魔法帝国が作り出した最高傑作、邪竜ホズルは予想以上の成果を出した模様です。既にアオネイア聖王国は崩壊し、大陸の95%は我が国の支援するペレディア帝国の支配下に落ちましたですじゃ」
「素晴らしい!! 実に素晴らしい!!」
魔帝復活対策庁長官ヒスタスパ・デュラは部下(タコの科学者)からの報告に満足そうな表情を浮かべた。部下は更に報告を続ける。
「うわへへ★。デュラム長官、今し方落ち着きください。更にペレディア帝国からは、アオネイア聖王国の王妃にしてペレディア帝国の裏切り者、ルフレ・アオネイアを捕縛したとの事ですじゃ」
「確か、彼の国では邪竜ホズルの器となる者は、男女問わず「ルフレ」と名付けるのであったな?」
「はい。また同時に彼女の世話役にして、聖王国への亡命を手引きし、邪竜の紋章を抑える呪術をかけた呪術師ヘンリーを殺害。更に聖王クロム・アオネイアは激戦の末に討ち取ったと。クロム・アオネイアの首は城下に晒し首にされ、近々ペレディア帝国に送られるとの事ですじゃ」
「良き判断だ。確か、今はペレディア帝国皇帝の長男が邪竜ホズルの器であったな?」
「それが、クロム・アオネイアの三女マールが邪竜ホズルの器として覚醒。我等がより操りやすい幼子に、力が移ったようですじゃ」
「ほう、それは良い知らせだ!!」
「ここは、ペレディア帝国を噛ませる形で、邪竜ホズルを我が国の支配下に置くべきですじゃ」
「うむ。後の事は外交部に任せるとして、邪竜ホズルの制御を万全にするよう、技術開発と幼子のご機嫌取りを頼むぞ!!」
「ははっ!!」
アニュンリール皇国は古の魔法帝国復活の為に暗躍し続ける。
ペレディア帝国従属化
アオネイア聖王国聖都イリース
イリース城王の間
「・・・・・・これで私はこの国の王。下剋上を成し遂げたわ!!」
王の間の玉座に座り、満足そうな笑みを浮かべる少女。彼女の名前はマール・アオネイア。聖王クロム・アオネイアの第四子である。長子ルキナが大好きなマーク兄妹とは異なり、自分こそが王の座、聖剣を引き継ぐに相応しいという、野心を持った王女であった。
「それに、これは邪竜・・・・神竜ホズルの紋章!! 紋章を持たぬルキナよりも、紋章を持つ私の方がこの座に相応しいのよ!!」
彼女の右手には、邪竜ホズルの器である事を示す紋章が刻まれていた。彼女の母親は、ヒトとしての情に耐えきれず、邪竜の器としての役目を捨てて亡命したルフレ・アオネイア。彼女の世話役の呪術師ヘンリーの手により、ルフレ自身は邪竜から解放されたものの、邪竜の血筋を消すことは出来なかった。長女ルキナ、長男次女のマーク兄妹は神竜の加護を受けたものの、三女マールは産まれながらにして邪竜の器として産まれてしまった。邪竜の器という事実は、彼女の人生を変えてしまう。王城に入る事は勿論、父母兄姉と会うことも赦されず、辺境の地で飼い殺しにされ、ルフレの紋章を解除したヘンリーの監視下に置かれた。これを邪竜の器たる彼女はこう判断した。
「お父様とお母様は、自分達の良いとこ取りをした長女ルキナに王位を継がせたい。しかし、私の方が全てにおいて優れており、何れは私をヘンリーに抹殺させ、その地位を盤石にするつもりだ。つまりは、私が優秀過ぎて恐れている」
と。実際のところは、ルフレを邪竜の器から解放したヘンリーに、マールも邪竜の器から解放し、本当の家族として迎え入れたいというものであったが、両親はそれを伝えていなかった。更に・・・
「それに、お母様はあろうことか、実子である私ではなく、側女の子を可愛がった。絶対に赦す事は出来ないわ!!」
聖王クロムには、側女のリズがいた。彼女との間に男児ウドーを設けており、マールにとっては同い年の弟である。しかし、ここにもマールを激怒させる要素がある。母親が側女の子をまるで実子の如く可愛がったのもそうだが、実はウドーはマールより3時間程早く産まれていたのである。だが、ウドーは側女の子の為、大人の事情でマールの弟として扱われていた。両親に嘘をつかれた。その事実もまた、マールの邪竜としての器と野心を増幅させていく。
「マール聖王女陛下・・・・いえ、邪竜ホズル様」
ペレディア帝国からの出向者がマールに話し掛ける。今、大陸を闇に包む邪竜ホズルはマールである。先程までは、ルフレの兄が邪竜ホズルだったのだが、
「あんた、弱いんだからさあ、邪竜の器、辞めて死んでくれない?」
と、ルフレの兄(彼の名前もルフレ。そもそも、ルフレはペレディア帝国では、邪竜の器足りうる人物を指す言葉であり、器にはヒトとしての名前は存在しない)をペレディア帝国軍の目の前で殺害。その後邪竜の魂を右手の紋章に取り込み、完全に邪竜の力を掌握したのである。
「捕縛しました、ルフレ前王妃・・・ホズル様の母君は如何しましょうか? 斬りますか?」
「斬るのは簡単なんだけどねー・・・・」
玉座を立ち、家臣の元に向かうマール簒奪王。自身の首に手を当ててこう言った。
「あの女には、自らの腹を痛め、邪竜の器にも関わらず、ヒトとしての情に溺れ、愛情を注ぎ込んだ三人の子が首を撥ねられるところをね、特等席で見てもらおうと思うの。だから、それまでは生かす」
「成る程。ホズル様の恨みを晴らすと同時に、誰が支配者なのかを民に知らしめる。良き策と思いまする」
「そうでしょそうでしょ!! 特にバルドルの寵愛を受け、聖剣ツヴァイハンダーを持ち逃げしたルキナは一番惨たらしく、じっくりと、じわじわと、苦しませて殺すのよ。前王妃の処刑はその後よ。アハハハ!!」
無邪気に笑いながらえげつない事を言い放つマール簒奪王。
「畏まりました」
「それで? その民を見捨て、両親見捨てて逃げ出したルキナ、マーク兄妹とその一味は捕まえたの? 早く連れてきて欲しいんだけど?」
「・・・・・ホズル様、大変申し上げにくいのですが・・・ペレディア帝国の差し向けた追手が、第三国の者と思わしき武装集団が敵方に加勢し、目標には逃げられたと。その上、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国を自称する勢力圏に庇護されている様子です・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
暫しの沈黙。
「じゃあ、そのグレートなんちゃらも私の敵、ということね。30000の部隊を編成し、この大陸を統一しちゃいなさい」
マールはイギリスは敵国であると認定。直ぐにでも軍を差し向けるよう、指示を出す。
「ですが、部隊の編成、移動には時間がかかります。それに、ペレディア帝国皇帝ジャファウダー様にも御報告しなくては・・・」
「ふ〜ん。まあ、その内ジャファウダーの持つ邪竜ホズルの力も殺して取り込んでやろうとは思うけど、今はまだ時期尚早ね」
「それに、話し合いで済むに越した事はありませぬ。ここは、敵方に使者を送り、話し合いでの解決を模索されては。その裏で部隊を編成し、脅しと実力行使を兼ねさせましょう」
「素晴らしいわ! じゃあそれで!! さて、おやつにしようかな〜」
ルンルン、と無邪気に笑いながら歩いて食堂に向かうマール。
「・・・・クソガキ風情が我がアニュンリール皇国の者に命令する等、片腹痛いわ!!」
ペレディア帝国を隠れ蓑に、アニュンリール皇国は多数の工作員を新大陸に送り込んでいる。簒奪王マールの家臣団の殆どはアニュンリール皇国の工作員であり、彼女は知らず知らずの内に同国の操り人形と化していた。
「邪竜の力が散らばっていては、管理が面倒であるからな。それに、あのクソガキは産まれながらの劣等感のみで動いている。故に、それを満たしてしまえば・・・」
アニュンリール皇国の工作員は1枚の外交文書を取り出す。そこにはこう記されていた。
「アオネイア聖王国併合に関する条約」
1.アオネイア聖王国は、主権を放棄し、アニュンリール皇国に併合される
2.アニュンリール皇国は、アオネイア総督府を設置し、以後は総督府が統治を担う
3.アオネイア聖王国女王マール・アオネイアを初代アオネイア総督に任ずる
4.アオネイア聖王国の通貨は3年間の移行期間以内に換金しない場合、無価値となる
5.以後、条約に定めていない不明な事態が発生した場合、アオネイア聖王国は、一切をアニュンリール皇国の判断に委ねる
「せいぜい今の内に味わっておくことだな。偽りの女王様よ」
(続く)