クルセイリース大聖王国
ワカスーカルト北東約400km先上空
この世界においても、そして地球世界においても見慣れない物体が空を行く。空を飛ぶとは思えない程に大きな物体、リング状の中に3本の線が通ったかのような形状。日本人が見たならば、三菱のロゴにリングが付いている、もしくはメルセデスベンツのロゴが空を飛んでいるとも形容するだろう。かつて、隔絶した魔力と技術により、全ての種を恐怖によって支配した古の大帝国。時折発掘される凄まじき技術は国を歓喜させ、その技術に人々は畏怖を持つ。古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国の発掘戦艦、聖帝ガウザー(空中戦艦パル・キマイラ)は高度300mを時速200kmで南西へ向かっていた。超兵器の周辺には、船にプロペラが付いたかのような、飛空艦が約50隻、取り囲むように空を飛ぶ。
クルセイリース大聖王国聖王直轄飛空艦隊
旗艦聖帝ガウザー 中央司令室
クルセイリース大聖王国の空中戦艦、聖帝ガウザーは聖王直轄という事もあり、極秘中の極秘扱いであった。乗務員達は決して身分がバレることの無いよう、幹部以外はコード番号で呼ばれ、白い異形の面を被る。また、聖王直轄としての格式を損なわぬよう、まるで礼服のような煌びやかな服を着て勤務する。艦長は赤い服、白い面、そしてとんがり帽子を被っていた。異形の面は、クルセイリースで考えられたものではなく、古の魔法帝国の伝承で司令官は赤い服に白い面、とんがり帽子を被っていたという記載がと映像があり、自分たちもその力に近づきたいという意味もある。ちなみに、神聖ミリシアル帝国の乗務員も近い格好をしていた。どうやら魔法帝国はどこも狂ったデザインを好むようである。大きな空間の中心部では、聖王直轄飛空艦隊司令長官アエロリット、そして空中戦艦、聖帝ガウザー艦長ガンドライトが浮かび上がった立体映像を眺めていた。
「フフフ・・・・まさか聖王様が我らの出撃を許可して下さるとは・・・・敵が可哀想だねぇ」
「はい、全くでございます。しかし、何故この程度の敵に我らに下命されたのか、部下達は疑問に思っているようです」
「聖王家の決断だ。我々はただ従うのみ。ただ、大元帥イブリースや軍王ミネートが入れ知恵したのではないかとも言われている。彼の行動には注意が必要だねぇ。ガンドライト艦長、聖王家命では全戦力をもって叩き潰せとある。あれを使用するとするか。まだ倉庫に在庫は相当あったよね?」
「対艦誘導魔光弾・・・・魔法帝国製の超兵器ですね。
解りました。我らの全力をもって、ワカスーカルト上空に展開している異国艦隊は殲滅しましょう」
「そうだねぇ、彼らには悪いが一瞬で消えてもらおう。それが、聖王家の力を軍に知らしめることともなるだろう」
「はっ!!」
古の空中戦艦と飛空艦はワカスーカルトへ向かうのだった。その先に待ち受けているのは、圧倒的技術格差の暴力である事を知らずに・・・・一方、ワカスーカルト防衛司令長官エル・ガンエンは喜びに震えていた。
「すばらしい・・・・なんて素晴らしいんだ!!! これほどの大きさの超兵器をたったの1人で動かせるなんて・・・・・」
体育館のように広いスペース、壁には古代文字が描かれ、空間には四角の物体に集積回路のような模様が刻まれた物体が浮いていた。中央部に操縦席が設けられ、彼は座る。座ると映像が切り替わり、外の様子がはっきりと見えるようになった。黒月族の神話級兵器、キル・ラヴァーナルのすさまじさに感極まる。
「おおおぉっ!!!」
エル・ガンエンの頭の中に操縦方法、兵装等、キル・ラヴァーナルの動かし方が入ってくる。
「ぐうっ!!!」
多くの情報を短時間で詰め込まれ、頭がおかしくなりそうだった。
「はあっはあっはあっ!!!」
情報の入力が終わる頃、エル・ガンエンはヨダレを垂らしながら頭を抱え、息を切らす。そして不気味に笑い始めた。
「フ・・・・フフフ・・・・フハハハハっ!!! 素晴らしい!! 素晴らしいぞっ!! 凄いぞぉ!! カッコいいぞ!! この兵器はっ!!!」
粉砕玉砕大喝采しそうな勢いで彼は笑い続ける。
「これは正しく神の力。私は・・・私こそがクルセイリース大聖王国の守護神だ!!! さあ、我が聖なる神域を犯す侵略者どもに神の怒りを・・・・殲滅の裁きを与えようではないか!!」
エル・ガンエンはキル・ラヴァーナルを起動した。
ゴゴゴゴゴゴ・・・・・
「フハハハハハッ!!!」
付近は大音響の地響きが鳴り響く。キル・ラヴァーナルが埋まっていた採掘場は、山ごと盛り上がり、2足歩行する岩のごとき、とてつもない大きさのゴーレムが現れる。目は鋭く、角のようなものが張り出していた。大質量のそれは動き出しす。
ドゴーン……ドゴーン……
大きな地響きと共に、200mから300mはあろうかと思われる大きな太いゴーレムのような物体が歩く。ゆっくりと歩いているように見えるが、その歩幅はとても大きく、相当な速度が出ていた。彼は異国の艦隊を殲滅するため、ワカスーカルト沖へ向かうのだった。
ワカスーカルト沖合
イギリス海軍空中戦艦「プリンス・オブ・フィリップ」
艦橋CIC
「なっ!! 何だ!! あの化け物はっ!!!」
モニターに映し出された常識離れした巨大構造物にレーダー員は大きな声を上げる。
「山が歩いて向かってくる・・・・と言った表現が正しいかもしれんな」
艦長のフィリップは紅茶を飲みながらそう呟いた。緊張の表情を浮かべる艦橋要員とは異なり、彼だけは酷く冷静であった。
「1歩1歩が途轍もない音を発し、地面を陥没させ、海の表面まで震わせる。民家を踏み潰しながらこちらへ向かう姿・・・・まさに化け物の行進という言葉がふさわしいな」
モニターには、民間人の財産なんぞ知らんと言わんばかりに進撃する巨大構造物の姿が映っていた。通常のレーダーと共に搭載している魔導レーダーを見ると、魔力が強すぎて、敵兵器を中心に画面が真っ白に近い状態となっていた。凄まじい魔力を放出しているのが解る。
「ゴーレムのように見えるが、それは山ほど大きく、骨太で力強さがある。歩幅が大きく、見た目よりも高速で近づいて来る。この世界も面白きものよ」
敵に砲撃をするような素振りはない。
「砲撃が無いのであれば、此方から撃っても良かろう。既に我々は攻撃を受けたのだからな」
フィリップは紅茶を飲み終わり、ショックカノンによる砲撃の指示を出す。
「全主砲を敵に向けよ。ショックカノンの斉射で敵の耐久力を確かめる。その様子を旗艦クイーン・エリザベス・2世にも共有せよ」
「サー!!」
「それと、紅茶のお代わりをくれ。紅茶がキレたら・・・何をしでかすか、分からんぞ?」
プリンス・オブ・フィリップの主砲が敵の巨大構造物に向けられる。エネルギーが充填され、砲撃の準備が進んでいく。
「主砲、エネルギー充填完了!!」
「測敵よし、照準よし、旗艦クイーン・エリザベス・2世とのデータリンクよし!」
「Fire!」
プリンス・オブ・フィリップの主砲が一斉に火を吹く。青白いビームが真っすぐ進み、クルセイリース大聖王国の誇る神代兵器、キル・ラヴァーナルに命中して爆炎と煙に包まれる。
「さて、どうなるかな?」
圧倒的技術格差による砲撃。その迫力は凄まじく、まるでSF映画のようであった。
ゴゴゴゴゴォォォォォ……
敵ゴーレム様の者は上半身が煙に包まれている。
「敵魔力、出力がさらに上昇!!!」
「ほう・・・ショックカノンを耐え切ったのか。もしかすると、我々と同じクリスタルシールドを搭載しているか、あるいはビーム撹乱膜を展開したのか・・・・実に興味深い。カナダで鹵獲した2号機とは仕様が異なるのか、あるいは解析が間に合っていないだけか。実に興味深い。本当に興味深いな」
紅茶を飲みながら分析するフィリップ。周りの艦橋要員は、
「なんでこのおっさんはこんなに冷静なんだ?」
という顔をしている。
「クリスタルシールドを展開したまえ。敵の反撃が来そうだ」
ゴーレムの上半身部分から多数の光が出現する。これをフィリップは発射炎と判断し、クリスタルシールドを展開させる。キル・ラヴァーナルから発射された120発もの魔導砲弾は、空中戦艦プリンス・オブ・フィリップに向けて放たれる。
「・・・・・・・・・・効かんな」
クリスタルシールドを展開したプリンス・オブ・フィリップに魔導砲弾が多数命中する。砲弾はクリスタルシールドを貫通する事は出来ず、目に見えるダメージは確認出来ない。
「被害報告はあるか?」
フィリップは各所に点検を指示する。程なくして各所から異常なし、との報告が届く。
「おおお、ジブ◯みたいな城だな」
煙が晴れ、モニターには、先ほどの岩に包まれた姿とは裏腹に、上半身に巨大な城が出現していた。 城には砲門も多数設置されている。
「これが、クルセイリースの秘密兵器の真の姿か」
そんな中、敵方から通信が入る。
『フフフ・・・・蛮族の諸君、あいさつは受け取ってくれたかな? 我が名はクルセイリース大聖王国の守護神、エル・ガンエンである。この神話級兵器、キル・ラヴァーナルの外殻岩石を剥がす手間が省けた。礼を言おう』
超大音量で敵は語りかける。
『挨拶は凌いだようだな。フフフ・・・・だが弱い、弱すぎる。あまりにも弱い。もっと楽しませてくれよ』
キル・ラヴァーナルの顔の前に六芒星が出現した。
『これほどの魔力と記憶容量があれば、我が国の魔法を組み込んで使用することなど造作も無い。フフフ……殲滅の裁きだ。神に矢を引いた愚か者どもよ、死ね。クルス……カリバーに焼かれるが良い!!』
次の瞬間、敵空中要塞の中心付近に強力なエネルギー反応が観測される。
「・・・・・・あれは装填したか?」
「はい。しかし、旗艦からは何も・・・」
「直ぐにでも指示が来る。あの参謀長であるならな」
その後、旗艦クイーン・エリザベス・2世から命令が届く。それを読んだフィリップは砲撃の命令を下した。
「全砲門開け。主砲、副砲問わずありったけの火力を叩き込んでやれ!!」
国連軍クルセイリース大聖王国報復攻撃艦隊旗艦
イギリス海軍空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」
艦橋CIC
「・・・・・どうやら、敵は高出力圧縮ビーム砲・・・・所謂波動砲を放つようだな」
「波動砲だって!? 日英ですら実用化出来ていない装備をなんでクルセイリースが?!」
波動砲と聞いて狼狽するヒロシ。
「理論上は日英でも実用可能だが、実際に運用しようとすれば、如何に高純度オリハルコンエンジンでもエネルギー不足で行動不能になりかねない!! それに、先のプリンス・オブ・フィリップの砲撃が効いたかも分からない・・・・アキラ、どうすれば・・・」
素直に助けを求めるヒロシ。アキラは満足そうな表情を浮かべる。
「お前のそういう素直なところ、俺は好きなンだぜ。こンなこともあろうかと、既に主砲副砲には28式弾は装填済みだ。ビームが効かないなら、物理で殴ってやれ、ってな!!」
「さ、流石はアキラ・・・・お前が傍にいてくれて良かったよ・・・・プリンス・オブ・フィリップは準備が出来次第、砲撃を開始!! ありったけの砲弾を叩き込め!!」
クルセイリース大聖王国聖王直轄飛空艦隊
旗艦聖帝ガウザー 中央司令室
「さて、忌まわしきイギリスの飛行艦もこれで終わりだな」
キル・ラヴァーナルとデータリンクしているガウザーのモニターには、横っ腹を向ける2隻の空中戦艦の姿があった。
「イギリスよ、如何にお前達が我が国より優れたレーザー兵器を所持していようとも、対レーザーコーティングされたキル・ラヴァーナルにはカスリ傷しか与えられん」
艦長ガンドライトは勝利を確信していた。
「ん?」
突如として敵空中戦艦から爆煙が上がる。
「なんだなんだ?」
艦長以下艦橋要員が疑問に思った次の瞬間、キル・ラヴァーナルから転送されている映像が上下左右に激しく揺れる。
『うわああああ!!』
同時に悲鳴も聞こえる。
「どうした?! 一体何事だ!?!?」
『砲弾だ!! 敵は砲弾で攻撃を!!』
ドカン! ドカン! ドカン!
全ての砲門がキル・ラヴァーナルに向けられ、猛烈な砲撃を浴びせる。パーパルディア皇国の戦列艦とは比べ物にならない速射性、命中率、そして威力を誇る28式弾が次々と被弾していく。撃てば何処かには必ず当たる。射撃演習と言わんばかりにクイーン・エリザベス・2世とプリンス・オブ・フィリップは実弾を叩き込む。その鉄の暴風はキル・ラヴァーナルの装甲を糸も容易く引き裂き、その装甲をズタズタにしていく。
『おのれええ・・・・・野蛮人めえ!!』
次の瞬間、画面に映り込んだのはクイーン・エリザベス・2世の2番砲塔が放った28式弾と炎上し、爆発するキル・ラヴァーナルの操縦席の姿であった。
『クルセイリース、万歳!!』
その直後、通信が途切れた。それが意味するのはただ一つ。
「キル・ラヴァーナルが・・・・し・・・・沈んだ・・・・」
ガウザーの艦橋は静寂に包まれた。皆が信じられない、という態度をしていたのである。
国連軍クルセイリース大聖王国報復攻撃艦隊旗艦
イギリス海軍空中戦艦「クイーン・エリザベス・2世」
艦橋CIC
「目標、本艦及びプリンス・オブ・フィリップの砲撃により崩壊、海へ崩れ落ちて行きます!!」
神話級兵器キル・ラヴァーナルは、2隻の空中戦艦による実弾攻撃により、炎に包まれながら崩れ落ちていく。
「撃ち方やめ!! 主砲をショックカノンへの切替、急げ!!」
空中要塞は完全に無力化したと判断したヒロシは、後方の敵主力艦隊をアウトレンジ攻撃するべく、切替を急がせる。
「主砲切替完了!! いつでも行けます!!」
「撃ち方始め!!」
ワカスーカルト東側約120km上空
クルセイリース大聖王国聖王直轄飛空艦隊
旗艦聖帝ガウザー 中央司令室
「・・・・・・キル・ラヴァーナルが・・・・落とされた・・・私は・・・・おしまいだ・・・」
ガンドライト以下艦橋要員は絶望していた。しかし、死神は彼らにも等しく死を与える。
「て、敵艦が我が艦隊に向け発砲!!」
ズガァァン!!
「飛行巡洋艦キーロフ、轟沈!!」
「敵のレーザー兵器によるアウトレンジ攻撃と思われます!!」
「・・・・・・・」
「艦長、指示を!!」
「私は・・・・私は!!」
完全に戦意を喪失したガンドライト。その間にも、味方艦の損害は拡大し続ける。
「飛行巡洋艦モスクワ、爆沈!!」
「飛行巡洋艦スラヴァ、戦列を離れる!!」
やがて画面には、本艦に向けて突き進む青白いビームが映る。
「・・・・・・死して聖王家にお詫びを・・・」
旗艦聖帝ガウザーは、イギリスの空中戦艦プリンス・オブ・フィリップが放ったショックカノン3発を浴びて轟沈。内、1発は艦橋を撃ち抜いていた。クルセイリース大聖王国は、地上部隊を除き、作戦に投入した全ての戦力を喪失。大敗北を喫した。同時に、和平を偽り、騙し討ちをした国家として、無慈悲な報復を与える口実を、大英帝国に与えてしまうのである。
クルセイリース大聖王国
聖都セイダー テンジー城
「な・・・・な・・・ば・・・・ば・・・馬鹿な!!」
軍王ミネートは、映像を見て目を見開く。飛空艦によって中継されたリアルタイムの映像は、彼の心を粉砕するのに十分な威力を持っていた。歴史上無敵の強さを誇った聖帝ガウザーが粉砕されて地上に墜ちる姿は、とてもこの世のものとは思えなかった。
「ガウザーだけではない!! キル・ラヴァーナルすら・・・私は沈めてしまった・・・・・私は見誤ったというのかっ!!」
狼狽する軍王ミネートに、黒色ローブの男が近づいた。
「ほっほっほ、何を慌てふためいておられるのか」
「貴様・・・・イブリース大元帥から賜った空中戦艦も、古代兵器も全て喪ったのだ!! 狼狽せずにいられるか!!」
「フフフ、確かに敵は強い。信じられぬほどにな。だが、狼狽していても現実は動かぬぞ。考えるは今後の事、私が敵ならば、聖都攻略の橋頭堡を築くため、ワカスーカルトへ大規模な上陸作戦を行うであろうな」
軍王の額から汗が伝う。
「・・・・・もし、あの空中戦艦が怖い。そう申すのでならば、あれを使うが良い。本土から200km付近に敵輸送艦と護衛艦艇が展開している。今なら本土にダメージが無いため、好都合ではないか」
「・・・・・・」
「何を迷っている? 今使わずしていつ使うのか? 国に与えられし無限にあふれ出る神通力は、神からこの時のために遣わされた力であろう?」
ローブの男はミネートを煽る。軍王ミネートの眼光が光る。
「後方の輸送船団さえ叩いてしまえば、如何に空中戦艦が無敵であろうと、我が国は戦略的勝利を収められよう。ほれ、これはイブリース大元帥からの作戦指示書だ。ソナタの真の力を見せてみよ、とな」
「・・・・・・・・」
新大陸ニュー・オーストラリア
ニュー・ダーウィン港
イキスギ帝国輸送艦「ケンシン」艦橋
「いよいよだな」
イキスギ帝国皇帝イキスギ・ダンジョウダイ・カゲカツは、段々と近付いてくる新大陸ニュー・ダーウィンを見てそう呟いた。ミカドアイHDにより、労働基準法ガン無視工法で完成した港湾施設が数日前に本格的に稼働を開始。人員・物資の輸送効率は上昇し、街はさらなる成長が見込まれていた。
「しかし、国連軍に形だけの参戦になる予定でしたのになあ」
カゲカツの腹心、ナオエ・ヤマシロ・カネツグは嫌味を込めて応じる。それもそのはず。日英を中心とする国連軍結成に際して、カネツグは自国の兵を派遣せずに済む方法を探っていた。イギリス政府との交渉の結果、日英両国に莫大な資金を提供する事で、国連軍の一員とする事で交渉が妥結。イキスギ帝国が誇る金山や銀山から産出する圧倒的な資金力が為せる力業であった。ちなみに、金・銀・レアアースの埋蔵量は、クイラ王国の10倍というバケモンである。これらの資源はクイラ王国からも産出するものの、資源の多角化としてイキスギ帝国からも輸入していた。故に、イキスギ帝国との関係悪化は日英にとって愚策でしかなかったのである。
「カネツグ、新大陸にはノブシゲがおるのだ。あやつは儂が見込んだ男。それに、パラディオンの巫女の兄、ニンギルスと申す青年も気になる」
ニュー・オーストラリア総督府からの援軍要請を受け、日英両国政府は対応を協議。国連軍から部隊を引き抜くことは出来ない為、日英両国は部隊を派遣していないイキスギ帝国に対して、新大陸への部隊派遣を要請。カネツグは難色を示したものの、カゲカツの一存で新大陸への援軍派遣を決定。元々日本から派遣予定であった、陸上自衛隊新大陸特別派遣部隊小隊50名、航空宇宙自衛隊・イギリス空軍・オーストラリア空軍合同特別派遣部隊50名と共に、カゲカツ以下1000の兵がイキスギ帝国海軍輸送艦「ケンシン」、「カゲトラ」に分乗して出撃。経由地カルトアルパスにて、補給と整備を受け、イギリス海軍と新生グラ・バルカス帝国海軍の護衛を受けて出撃。この時、新生グラ・バルカス帝国からは、新生グラ・バルカス帝国皇太子ガルマの異母兄ドスルが率いる教導隊1500も援軍として、新生グラ・バルカス帝国海軍輸送艦「マイア」にて派遣。こうして合計2600の兵が援軍として、新大陸に上陸しようとしていたのである。
「親方様の事ですから、そうであろうとは思いました、た!! 故に屈強な者達を選抜しておきまし、た!!」
嫌味たっぷりにわざと誇張するカネツグ。
「ははは、流石はカネツグよ。さて、そろそろ上陸だな」
タグボートが輸送艦を岸壁に係留させる為に近付く。やがて輸送艦2隻が無事ニュー・ダーウィン港に入港。人員・物資の揚陸作業を開始。援軍派遣の2600は、翌日貨物列車に乗せられアンヤ城へ移送。来たるべき戦いに備えるのである。
英領ニュー・オーストラリア
ニュー・ダーウィン
ニュー・オーストラリア総督府総督執務室
「これはこれはミスター・ダテ、良くぞ来てくれました。私が総督のセレナ・フランソワ・ミアレです」
「此方こそ、到着が遅れまして大変申し訳ありません。某が日本国を代表して馳せ参じました、陸上自衛隊新大陸特別派遣部隊小隊長の伊達宗重にございます」
陸上自衛隊新大陸特別派遣部隊小隊長伊達宗重二等陸佐がセレナと握手を交わす。元々日本は国連軍とは無関係に新大陸に部隊を派遣予定だったのだが、派遣部隊輸送任務への投入を予定していた輸送艦「ぼうそう」が、クルセイリース大聖王国本土上陸作戦に急遽投入する事になり転進。脚を失った彼らだったが、イキスギ帝国が新大陸への部隊派遣を決定し、日本側に便乗を持ち掛けた事で脚を確保。こうして新大陸に日本の部隊が到着したのである。
「何を申されますか。むしろ、到着が遅れたおかげでニュー・オーストラリアの戦力は大幅に増強出来ました。感謝しますわ!」
「然らば、お近付きの品としまして、ずんだ餅は如何ですかな?」
「まあ! 日本の菓子を頂けるとは!! ミスター・ダテは、このずんだ餅がお好きなので?」
「如何にも! 好き過ぎるが故にこうして、初対面の方々に配って回っておりまする!!」
「では、頂きますわね・・・・お上品な甘さ、これはイギリスにもフランスにもない・・・・実に美味です!!」
「・・・・・・・」
ずんだ餅で話が弾む伊達二等陸佐の隣には、酷く疲れた表情の女性外交官の姿があった。
「本来だったら自衛隊には、ここニュー・ダーウィンを守備して欲しい。そう言いたいところだったのだけど・・・」
「カムイ城に行け。私は総督府を離れる事は出来ないから、日英両国の代表として、新大陸の王女殿下に会いに行け、でしょ?」
「・・・・ミス・ネブ、機嫌悪いの?」
「誰のせいだか。して、分かってる情報はないの?」
「それについては此方に」
セレナは数枚の資料をアキコと伊達に手渡す。
「・・・・・・・これは間違いなく戦争になるわね」
資料を読んだアキコはそう断言した。
・サナダ公国軍並びに英連邦パラディオン王国軍が保護した少年少女の集団は、アオネイア聖王国の王女一行である
・集団の長は、アオネイア聖王国聖王女ルキナ・アオネイア。副官は、彼女の弟妹のマーク・フレイ・アオネイアとマーク・フレイヤ・アオネイアである
・我々がニュー・オーストラリア大陸と呼んでいるこの新大陸の現地語表記は、アオネイア大陸である
・アオネイア聖王国は、アオネイア大陸の東半分を支配する平和主義国家であり、古の魔法帝国に関連する秘宝「聖剣ツヴァイハンダー」を有する存在である
・聖剣ツヴァイハンダーは聖王の血を引きかつ、素質のある者しか触る事が出来ず、ルキナ以外の者が触れようとしたが、誰一人として触る事が出来なかった
・一行は治療の為、鉄道結節点であるアンヤ城に収容。治療が行われた。現在では全員回復し、引き続きアンヤ城に滞在中である
・アオネイア聖王国では、バルドルを神竜として崇めており、建国に関わる存在である。また、建国に関連する神話には、旧日本軍やイギリス軍と思わしき描写が存在している
・その名残か、アオネイア聖王国では、王位継承順位第一位には日章旗、第二位にはユニオンジャック、第三位には旭日旗、がそれぞれの存在を意味する紋章として使われている。現在ではそれぞれ、ルキナ、マーク(兄)、マーク(妹)の紋章として使われている模様
・アオネイア聖王国では邪竜とされているホズルを神竜として崇める隣国ペレディア帝国とは昔から仲が悪く、小競り合いが絶えなかった
・ルキナ、マーク兄妹の母親は、ペレディア帝国からの亡命者であり、同国皇帝の娘である
・彼らの妹のマールがペレディア帝国に内通し、クーデターを決行。同国のみならず、第三国がマール方を支援、更にどのような手を使ったかは不明なるも、邪竜ホズルが復活した
・聖王や王妃は、ルキナ以下少年少女達に最後の希望を託し、北へと逃亡させた。詳細は不明なるも、神話では彼等の先祖は現在のニュー・ダーウィンから南下し、聖都を奪還した為だと思われる
・情報はないが、既に彼等の両親は死亡したものと推定される
・英連邦パラディオン王国第一騎兵師団が彼等の追手と交戦。遺留品や彼等の証言から、ペレディア帝国並びに第三国の部隊と思われる
・英国国防省では、第三国とはアニュンリール皇国の可能性があるとの見立てが出ており、詳細な調査が必要
「もしかしてだけど、私が最初にアオネイア聖王国の王女一行と会う外交官になるの?」
「安心出来ないと思うけど、明日カルトアルパスから狂人が到着するわ・・・・」
「あ・・・・(察し)」
あの男の顔が脳裏に浮かぶアキコ。あの狂人と親友である事を憎いと思った回数は数え切れない。
「まあいいわ。ルキナとか言う王女から、更なる深掘りをしないといけないし、場合によっては我が国を見てもらい、信用足りうる国だと思って貰わないと」
この日の夜、質問事項について纏めたアキコ。翌日には、カルトアルパスからわざわざハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンが到着。アキコや援軍派遣の部隊と共に、アンヤ城へと向かう貨物列車の最後尾に連結された客車に乗車し、最前線へと向かう。
アンヤ城に向けて移動中の客車の一室
「戦争の匂いがするから遥々来てみたよ!」
「来んな帰れ消えろこのブリカス」
「シンがいないからかな? 口悪くない?」
「あんたのせいで育児休暇、なくなったんだけど?」
「アキコは使い倒さないと損だからね!! ミスター・アサダと同じ!! 女版朝田? それとも男版アキコ?」
「まじで魚の餌にしてやろうか? でも、新大陸だから犯罪者として来たのか? いや、この大陸の神話なら邪竜の生贄か?」
闇堕ちし、目にハイライトのないアキコ。だが、ハルトは変わらない。
「アキコさあ、僕だって暇じゃないんだよ? 最近アッラー教の中でもたちの悪い宗派が当局の許可なしに礼拝所を作ったり、路上で礼拝したり、猫は悪魔の使いだと惨たらしく殺したりとかで大変なんだよ?」
「異世界転移前の某宗教かよ。まあ、十字軍ヒャッハーしてたあんたの宗教が人の事言えるのか分からないけど」
「ま、僕はプロテスタントだから大丈夫大丈夫。それにら対策ついてはリグル王国と綿密に綿密を重ねた素晴らしい弾圧策を策定中だから!!」
「何? 三河一向一揆みたいに弾圧するの?」
「よく分からないけどそうなるんじゃない?」
数日後、貨物列車はアンヤ駅に到着。隣接しているアンヤ城にアキコとハルトは向かう事になるのである。
「・・・・・・なんだろう? 戦争があっちからコンニチワして来そうなんだけど?」
「根部殿、ルキナと申す王女に贈り物をしたいのだが・・・」
「どうせ、ずんだ餅でしょ? 食中毒にならなきゃ良いわよ。既に材料は従弟に手配させて、カムイ城に送るよう手筈を整えておいてやったわよ」
「ありがたい。必ずら会談が成功するよう、お手伝いさせて頂きますぞ!!」
「・・・・・・(なんで私の周りにはロクな人間がいないんだろう・・・・)」
(続く)