アンヤ城に向かう貨物列車
最後尾に連結された客車の一室
「・・・・・・・成る程。サナダ公国の使者、報告感謝する」
燃料補給兼行き違いの為、信号場に停車したアンヤ城行の貨物列車。その停車中の貨物列車に、カムイ城から発せられた急報が届く。
「カムイ城城主ノブシゲ・サナダ殿は、日本国と大英帝国の外交官達の安全が保障出来ないとして、ニュー・ダーウィン行の貨物列車が信号場に到着し次第、引き返して欲しいとの事です」
カムイ城から駆けつけたサスケは、ノブシゲからの要請を伝える。
「・・・・・確かに。危険が生じた場合、速やかに引き返せ。本国からそう言われているわ」
「では、引き返されるのですな?」
「ええ。パーパルディア皇国の時みたいに、また外交官が殺されるのは御免。口惜しいけど、引き返すしかないわ。私達が行けない場合に発動する、乙作戦を!!」
「承知致しました。では!!」
日英両国は2つの作戦を立てていた。1つは、日英の外交官がアオネイアの王族一行とカムイ城で会談し、戻りの貨物列車でニュー・ダーウィンへ向かう「甲作戦」。もう1つは・・・
「あれはサナダ公国のオスプレイね」
「サナダ公国の当主、マサユキ・サナダとその家臣達が乗っている輸送機だね」
元々、新大陸で日々奮闘する次男を激励する為に向かう予定であったマサユキ・サナダが搭乗するオスプレイでニュー・ダーウィンにアオネイアの王族一行を緊急搬送する「乙作戦」である。また、どちらの作戦でも、有事の際にはマサユキ・サナダが司令官として指揮を執るとされている。
「さて、私達は戻りましょう。ニュー・ダーウィン総督府で王族一行をお出迎えしないといけないし」
「まあ、ニュー・ダーウィンも現地の支配者層を滅ぼして手に入れた土地だから、あまり良い感情を抱かれないかもしれないけどね」
こうして、アキコとハルトはニュー・ダーウィンへと引き返した。
カムイ城本丸
「・・・・・これより軍議を開きます」
ノブシゲ・サナダによる緊急招集により、各国の将官クラスがカムイ城本丸に集結していた。議題は無論・・・・
「皆皆方御承知であると思うが、我が国の偵察部隊が国境線の向こう側の森林地帯に、国籍不明の武装集団を確認した。ざっとその数、少なくとも10000」
プロジェクターを用いて、壁にモリキヨ・イデウラが収めた写真が投影される。異国の兵士達が木を伐採し、陣城を構築。更に続々と部隊が到着している様子が映し出されていた。
「見たところ、敵は鎧に槍に斧、そして剣を装備した中世ヨーロッパを彷彿とさせる軍隊!! 魔導書を持つ兵士の姿も見られるが、NATO式の装備を持つ我等の敵ではないのではないか?!」
サナダ公国の将官の一人がそう呟く。
「されど、10000というのはあくまで下限値。儂の見立てでは、30000、いや40000に膨らむと見ておる」
「い、イデウラ殿!! それは真か!?」
「もし仮に40000の部隊で攻められては、如何に我が大英帝国陸軍と言えど、弾薬が足りん。貨物列車は明日の午後到着。時間稼ぎをしなくてはならんな」
「しかし、時間稼ぎと言いますが、このカムイ城はおろか、アンヤ城、ビャクヤ城に外交官はおりませぬ。明日、アンヤ城に到着する見込みではありますが・・・・」
「いや、サスケが先程走ってきた。外交官達は引き返すそうだ」 「イデウラ殿、それは真か!?」
そんな中、轟音がカムイ城本丸に響き渡る。
「な、何事?!」
「あれは・・・我が国のオスプレイ?!」
本丸から外を見つめる将官達。そこには、カムイ城本丸な設けられているヘリポートに着陸する2機のオスプレイの姿があった。
「・・・・ち、父上?!」
オスプレイから出てきた人影にノブシゲは驚く。
「・・・・これは、どうにかなるかもしれませんなあ」
「ああ。父上なら、何とかしてしまうかもな」
ノブシゲとナイキは、本丸に向かってくる主君を見てそう呟くのであった。
カムイ城本丸ヘリポート
「ここがノブシゲの城か・・・現代戦とやらには不向きな城じゃのぉ・・・目立つ本丸の構造物は、敵の大筒の標的にしかならん」
カムイ城本丸ヘリポートに降り立ったサナダ公国当主マサユキ・サナダ。彼は国連軍の一員として、国連軍司令部護衛隊を率いていたが、クルセイリース大聖王国との戦争が終結に向かいつつあった事から、嫡男ノブユキに任せ、自身は辺境の地で奮闘する次男に会いに来たのである。
「殿!!」
カムイ城に降り立ったマサユキの前に、サナダ公国の忍サスケが現れる。
「おおサスケ!! どうしたんじゃ?」
「長くなります故、手短に申し上げます。乙作戦を発動致します!!」
「・・・・・・承知した。サスケは指示があるまで、どこかで待機せよ」
「ははっ!!」
「乙作戦発動じゃ!! 支度を急がせい!!」
マサユキは同乗してきた技術担当者に補給と整備を急がせる。同時に護衛兵と共にカムイ城本丸に入った。
カムイ城本丸
「ち、父上!!」
「ノブシゲ、そなたが息災か心配で来てやったぞ!!」
「お気持ちは嬉しいのですが父上・・・今は」
「御託はよい。今の状況を教えろ」
再度状況が将官らに共有される。マサユキは顎に手を当てる仕草を見せる。
「敵は40000。それが森林地帯の中に広がる平地ヤエハラに布陣・・・・今は陣城の構築に務めており、動きは見られない・・・か。それならば、暫くは仕掛けて来ない。時間はまだ稼げるな」
「では、貨物列車の到着を待つのですな?」
「されど、カムイ城は平地の城。更にカムイ城の東側は十分に陣地が構築されていない。邪魔になるのは、小さな沼と兵士達の官舎ぐらいしかない。カムイ城は放棄し、アンヤ城で決戦してはどうか?」
イギリス陸軍の将官は、より強固なアンヤ城での迎撃を主張した。統治を目的に作られたカムイ城とは異なり、アンヤ城は各地に砲台が設置され、装甲車や戦車もアンヤ城に集められていた。カムイ城には、サナダ公国軍の装甲車しか配備がない状態であり、40000の敵を迎え撃つだけであれば、アンヤ城で迎え撃つのが定石。皆はそう考えていた。
「いや、儂はそうは思わん。むしろ、このカムイ城で迎え撃つべき。敵は貴国からみれば大砲すら持たぬ骨董品部隊。このカムイ城で籠城し、敵を誘き寄せて殲滅する」
マサユキは自らが立案した策を各国の将官らに説明する。
「まず、カムイ城周辺に柵を大量に立て、守りを固める。そして我が倅ノブシゲを大将とする別働隊は、ビャクヤ川沿いに柵を作り、鉄条網を配置し、渡河する敵を叩く。少し闘ったら退却する。さすれば、敵は必ず食いついてくる」
「儂の提案じゃが、敵はルキナ王女の首が欲しいそうだ。それを上手く利用すれば、確実に食いついてくる。仮に王女がこの城にいなくてもな」
イデウラは邪悪な笑みを浮かべながらマサユキに自らの策を伝える。これにはマサユキもニンマリと笑みを浮かべた。
「その王女一行は、乙作戦発動により、儂が乗ってきたオスプレイでニュー・ダーウィンに退避させる」
その直後、1機のオスプレイが離陸し、ニュー・ダーウィン方面へ飛び去って行った。
「貴殿らも至急退避させる必要がある人員や物資があれば、もう1機のオスプレイにて護送させる。この軍議の後に対応されよ」
「サナダ殿、誠に感謝致しますぞ!!」
「正直、万が一を考えますと、王女一行を城に残したまま戦うのは避けたいところでした。感謝致します」
イギリス陸軍の将官らがマサユキに謝意を伝える。
「いえいえ、大英帝国には恩がござる。その恩義に報いたまでじゃ。して、イデウラ。敵を食いつかせる策はあるか? 王女がどうとか言っていたが」
「これだ」
イデウラが指示すると、一人の女性が入室する。
「我等が有するサナダ忍軍のクノイチを王女の恰好をさせた。顔は仮面やフードで包み隠せば、奴等には本物の王女にしか見えぬ。それに、殆どの敵兵は王女の肉声なんぞ知らぬであろう。少しばかり挑発すれば、必ずや動く」
「流石はイデウラじゃ!!」
満面の笑みのマサユキ。マサユキの策は更に続く。
「敵を我等が有する銃火器の射程圏内に入れるため、二の丸を敢えて放棄する。そうすれば、敵は確実に二の丸に殺到し、本丸を攻め落とし、王女を亡き者にせんと本丸に迫る。そこを本丸から巨石や巨木を落とし、銃火器の一斉射撃にて敵を大混乱に陥らせる」
マサユキは絵図に置かれた駒を動かしながら話を続ける。
「その後、一斉に我がサナダの兵が突撃致しまする。さすれば、敵は瓦解し、大混乱に陥る。そこを徹底的に追撃し・・・」
その後、各国の部隊配置について調整を行う。その後、援軍や補給物資を満載した貨物列車が定刻通りに到着。到着した援軍の諸将に対して、作戦を説明。カムイ城周辺は、迎撃戦に向けて準備が進められる。
「サナダ殿、このドスルが来たからには、このカムイ城は絶対に落ちぬ!!」
「これはこれはグラ・ドスル大将閣下!! 閣下が率いる教導隊1500は精鋭揃い。貴殿らと共に本丸に籠もれると知り、大変心強うござる!!」
カムイ城を始め、各地に配置された部隊は以下の通りである。
カムイ城本丸
サナダ公国陸軍1500
イギリス陸軍50
陸上自衛隊50
カムイ城城外
サナダ公国陸軍100
新生グラ・バルカス帝国陸軍教導隊1500
ビャクヤ城
サナダ公国軍400
英連邦パラディオン王国陸軍1500
アンヤ城
イギリス陸軍450
イキスギ帝国陸軍1000
アンヤ城本丸
「我等は留守番か。ノブシゲと共に戦いたかったのだがな」
「御館様、我等はただの留守番ではありません。むしろ、機を見て適切に動かねばならないのですぞ」
アンヤ城に待機となったイキスギ帝国皇帝のカゲカツと宰相のカネツグは、整備中の自動車部隊を視察しながら会話をする。ガッカリする主君を忠臣が冷たい言葉で諌める。この国では見慣れた光景である。
「しかし、TOYOTAの車。特にこのハイラックスとやらは本当に良いな」
「民生品でありながら、雑に扱っても壊れず、仮に壊れても修理が容易。軍事用車両としては明らかに見劣り致しますが、数を揃えられるのは、確かに良いですな」
今回新大陸に派遣されたイキスギ帝国陸軍の自動車部隊。その部隊の主力は、日本製のピックアップトラック50台である。その内30台はテクニカルに改造されており、多連装ロケットシステムや機関銃を搭載している。残りの20台は兵員物資の輸送用として、防弾性能を強化した、イキスギ帝国陸軍仕様である。
「TOYOTAの車は世界一じゃ。プリウスとやらを儂は実際に運転したが、あれは良いものじゃ!!」
「一部界隈からはミサイルと呼ばれ、恐れられているようですが?」
イギリスを介して日本と国交を結んだイキスギ帝国には、様々な日本製の製品が流入。その中には、TOYOTAのピックアップトラックが含まれていた。民生品でありながら、その汎用性の高さに気付いたカネツグは主に対して、ピックアップトラックのテクニカル改造を提案。この頃にはプリウスを公用車にしていたカゲカツはこれを了承。更にTOYOTAに対して、第三文明圏諸国向けの輸出用車両生産の為の工場建設を誘致。これにより、イキスギ帝国は自国内で整備や補給が可能となり、来年度の予算ではハイラックスを新たに10台購入する事が決まっている。
「さて、サナダの戦。見せて貰うとするか」
ペレディア帝国従属化アオネイア聖王国
ヤエハラ陣城本丸
「あとどれくらいの時がかかる?」
「小荷駄隊の到着を待つ必要があります故、3日ほどかかります」
「うむ。それでよい」
一方、森林地帯の中の開けた平地にアオネイア・ペレディア連合軍が結集しつつあった。総勢40000にのぼる大軍がカムイ城攻略の為に集まる。陣城の本丸では、連合軍の諸将が集まり軍議が行われる。
「これだけの兵がおれば、敵は戦わず降伏するのではありませんか?」
「違いない。だが、そもそもペレディア帝国を除くこの大陸全土は我等アオネイアのもの。降伏だけではマール陛下は納得されますまい」
「我等ペレディア帝国も納得せぬ。皇帝ジャファウダー様は我等に、ルキナ、マーク兄妹、ウドー。邪竜バルドルの加護を受ける4人を確実に討ち取り、首を届けるように命じられた」
簒奪王マールと皇帝ジャファウダーの思惑は一致していた。前者は恨みをぶつけ、実の母親を絶望させる為に、後者は邪竜ホズルの完全復活並びに封印されるのを阻止する為にルキナらの首を、それぞれ求めていたのだ。ただし、邪竜ホズルはラヴァーナル帝国が魔王ノスグーラと共に創り出した生物兵器であり(最高傑作ではあるが、採算性度外視の為、量産化には至らず)、日英の近代装備以外では、聖剣ツヴァイハンダーでなければダメージを与えられないというだけであり、回復量を上回るダメージを与え続ければ聖剣ツヴァイハンダーに拘る必要も、恐れる必要もない存在なのだが。つまりは、日英がこの世界に来てしまった以上、邪竜も日英のおやつでしかないのである。というか、最悪の場合、核兵器の波状攻撃で更地にしてしまえば済むので。無念。
「まずは交渉で降伏するかを見るべきかと。条件は、貴殿らが匿っているルキナら少年少女の身柄を我等に引き渡す。それを認めるのであれば当面の間、国境線はこのままとし、後日アオネイア、ペレディア、そして北部地域を統治している国家で取り扱いを協議する。これならば、奴等の顔も立つのではないでしょうか? 小荷駄隊が到着しても、部隊の再配置にも時が必要です。その時間を稼ぐ為にも、ここは使者を立ててみては?」
策士の一人が交渉を提案する。
「成る程・・・・確かに、徒に時間を浪費するよりも得策であるな」
「仮に拒否すれば、大軍で潰してしまえば良いしな」
「うむ! 妙案じゃ!!」
こうして、アオネイア・ペレディア連合軍はカムイ城に向けて使者を送る。使者は柵並びに鉄条網を設営中のサナダ公国陸軍に発見され、カムイ城へと送られた。
ビャクヤ川岸部
イギリス側実効支配地域
「鉄条網、柵の設置状況はどうだ?」
「はっ! 英連邦パラディオン王国陸軍第一騎兵師団の協力もあり、予定より早く設置が出来ております!!」
ビャクヤ川のイギリス側実効支配地域では、マサユキ・サナダの策を実行する為、様々な準備が進められていた。その策の一つ、ビャクヤ川一帯に柵と鉄条網を張り巡らし、敵の進撃を抑止・誘導するというものである。その様子をカムイ城主ノブシゲ・サナダは配下の者と共にTOYOTA・ハイラックス・指揮通信車・サナダ公国陸軍仕様で見て回っている。
「しかし、私が人質としてイキスギ帝国に居た頃を思い出す。イキスギ帝国の居城カスガサン城の城下には、TOYOTA車で溢れかえり、日英の企業が積極的に進出していた。城下は活気に溢れ、行き交う人々は豊かな暮らしを送っていた。私は人質であるにも関わらず、カゲカツ様と2人きりでプリウスでドライブに出掛けた事もある」
「カゲカツ様は、自動車はTOYOTA以外認めぬ!と、同社以外の自動車に高額な関税をかけようとした程ですからな。流石に断念したそうですが」
哨戒活動を兼ねてサナダ公国・英連邦パラディオン王国は自動車部隊と騎兵部隊を国境線に展開。敵の接近に目を光らせる。
「しかし、ビャクヤ川の渡し場だけは敢えて柵も鉄条網を設置しないのですな。私はビャクヤ川の渡し場の隘路で敵を待ち受けるのかとばかりに思っていましたが・・・」
マサユキの立てた策では、ビャクヤ川一帯に柵と鉄条網を設置して進路を遮断する一方で、不自然にそれらを設置していない箇所があった。それが隘路となっている、ビャクヤ川の渡し場である。マサユキの策では、ここには有効な兵力は配置せず、ノブシゲの隊100を配置させるだけ。それもL85A2(イキスギ帝国国営工廠製造・イギリスからのライセンス生産品)とP229自動拳銃(同じくイキスギ帝国国営工廠製造・ドイツ、スイスが元だが、異世界転移に伴いイギリスに権利譲渡認定、イギリスからのライセンス生産品)、日本刀(サナダ公国製)を装備しているのみであり、TOYOTAハイラックスはノブシゲが乗車する指揮通信車以外は輸送用に特化した仕様であり、重機関銃や対戦車ミサイルすら装備していなかった。
「敵もビャクヤ川の渡し場で待ち受ける可能性を考えてしまうからな。故に敢えて明け渡すことで、此方に戦意がないと思わせる。もし仮に柵や鉄条網を突破しようとするのならば、策を変えて後方の砲台から遠距離射撃で始末出来る」
カムイ城の後方、アンヤ城周辺には多数の砲台がある。そこには、「もがみ型護衛艦」並びに改良型の就役に伴い退役した「あぶくま型護衛艦(アルタラス王国海軍からも退役)」、「あさぎり型護衛艦」、「むらさめ型護衛艦」から取り外された76mm単装速射砲が10門設置されていた。本来であれば、155mm榴弾砲を設置したいところであるが、単純に76mm単装速射砲が余っていたこと、速射性は同砲が勝っており、更に対空戦闘も可能である事が評価されて設置されていたのである。155mm砲は、昨日貨物列車で到着したイキスギ帝国陸軍の99式155mm自走榴弾砲が3門配備されているだけである。
「敵はどう出るでしょうか?」
「父上の策に嵌めるためにも、我等が働かなくてはならぬのだ。それに、これもある」
ノブシゲは、綺麗に畳まれた三枚の旗に視線を送る。
「日本国の国旗と軍旗、そしてグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の国旗ですな?」
「ああ。何でも、アオネイアでは神聖な旗らしい。それが目に入れば、奴等は突撃せざるを得まい。仮に怖気づき、陣城から出ないのであれば、更に強固な防衛線が築かれるだけ。時間は我等に味方する」
無線機に一報が入る。
『此方、英連邦パラディオン王国第一騎兵師団ニンギルス大尉! 哨戒中に国境線に迫る敵軍兵士を確認! 事情聴取したところ、ペレディア帝国軍の使者であり、交渉したいと言ってきている!!』
哨戒中の部隊からの一報にノブシゲが応答する。
「此方指揮車! ニンギルス大尉は使者を丁重にカムイ城に護送せよ! 敵の真意を父上に判断して頂くとする!!」
『了解! 使者を護送します!!』
「使者を送って来ましたか・・・・」
「恐らくは、敵も可能なら戦わず屈服させたいのだろうな。その裏で攻勢の準備もしているのだろう」
その間にも来たるべくカムイ城の戦いに向けた準備が進む。
カムイ城本丸
「マサユキ、敵が動いたぞ」
「おお、イデウラ殿。いよいよ敵が攻めてきてくれたか?」
「いや、此方に使者を敵が送ってきた。英連邦パラディオン王国の部隊が此方に護送中だ」
「ほう〜交渉する気か。どう見る?」
「儂が放った忍びによれば、敵は荷駄隊の到着を待っているらしい。交渉は形だけ、あわよくば戦わずに降伏させようというものだろう」
「成る程のぉ〜まあ、話は聞いてやるか。二の丸の客間に通すよう、伝えておくか」
「そうなると思い、既に手配してある」
「流石じゃ。因みに、アレも準備出来たか?」
「ああ。機が来れば・・・・何時でも行ける。御主も、悪い策を考えるな」
ニヤリと互いに笑うマサユキとイデウラ。
カムイ城二の丸客間
「暫しの間、此方でお待ちください」
「フン!!」
ペレディア・アオネイア連合軍の代表として送り込まれた男は不満そうに答える。待つこと30分、ようやくマサユキが姿を現す。隣にはイデウラの姿もある。
「いやあ〜、お待たせして申し訳ない。丁度腹の調子が良くなくての〜、厠に駆け込んでおったのじゃ。すまんすまん」
明らかに申し訳ないと思っていない態度に男は内心、ここで討ち果たしてやろうかと思うも、怒りを抑える。
「して、何用じゃ?」
「聞くがよい。我が主ペレディア帝国皇帝ジャファウダー陛下、同盟国アオネイア聖王国マール陛下はそなたらに慈悲をお与えになる事を決められたのだ」
「慈悲? 別に我等は悪いことはしとらんが?」
「とぼけるでない!! このアオネイア大陸に土足で踏み入り、更には城まで築きおったではないか!!」
「ああ、築いた。実に立派な城、そうは思わんか?」
終始笑顔のマサユキ。使者はイライラが止まらない。
「ケッ!! 何が立派な城だ!! こ〜んな美的センスの欠片もない城が立派なものか!!」
やがて使者は文書を取り出すと、それをマサユキの従者に投げつけた。
「投げつけるとは、穏やかではないのぉ」
「さっさと読みやがれ!!」
「はいはい」
マサユキは文書に目を通す。そこにはこう記されていた。
偉大なるペレディア帝国皇帝ジャファウダー並びに従属国アオネイア聖王国聖王マールからの勅命
1.異世界の軍は、速やかにアオネイア大陸から立ち去る事
2.異世界の軍は、本国の位置をペレディア帝国並びにアオネイア聖王国に開示する事
3.異世界の軍は、逆賊ルキナ、マール兄妹、ウドー、他従者の身柄を引き渡す事
4.異世界の軍は、築き上げた城や砦を破却し、武器弾薬をペレディア帝国並びにアオネイア聖王国に引き渡す事
5.これらの勅命を受け入れるのであれば、異世界の軍全員の身柄の安全を保障する
と、記されていた。
「・・・・はてさて、どうしたものかのぉ〜」
これは困った、という表情を作るマサユキ。
「使者殿、大変申し訳ないが我等は外交官では御座らぬ。故に、外交交渉並びにこれに値する行動は出来ぬのじゃ」
「では、我等と戦うおつもりかな? 我等は40000の大軍じゃ!! それも百戦錬磨の強者揃いぞ!!」
「そう言われましてもな・・・それに、ここは我が国の領土では御座らん。我が国の同盟国の領土で御座る。故に、同盟国と示し合わせなくてはならぬ。我等は、同盟国の要請でここにおるのじゃ」
マサユキは続ける。
「明後日にも、その同盟国の外交官が到着される。明後日以降、出直して頂けると幸いなのですが・・・」
「フン! まあ、良かろう!! 明後日にまた来る!! 外交官にも伝えておくのだぞ!!」
そう言い残してペレディアの使者は帰っていった。
「帰って行ったな」
「ああ。しかし、なんと態度の悪い使者じゃ。端から交渉のつもりはないじゃろなあ」
「ああ。しかも、我等は王女一行がいないとも、いるとも言わなかった。故に奴等はこの城を攻めざるを得ない。いるかもしれない。そう思わせ続ければな」
「イデウラ、得意の吹聴を頼む」
「お安い御用だ」
王女一行がニュー・ダーウィンに到着するまでの時間稼ぎに成功したサナダ公国は、更に手を打っていく。突如として、ビャクヤ川のイギリス側実効支配地域にルキナやマーク兄妹が出現したのである。更にこんな噂がペレディア・アオネイア連合軍の間に広まり始めた。
「異世界の軍はルキナ王女を担ぎ上げ、異世界の軍が同地を支配する事を認めさせるつもりだ」
「異世界の軍は、ルキナ王女を王位につけるつもりだ」
「異世界の軍は、カムイ城をルキナ王女の居城として譲渡した」
これらは全てサナダ忍軍による吹聴であり、ルキナはおろか、マーク兄妹やその仲間達ですらカムイ盆地にはいない。イギリス側実効支配地域に出現したルキナやマーク兄妹は、サナダ忍軍の変装であり、更には先の3つの噂は何れも現時点では真実ではない。だが、彼らにはそれを確かめる術はなかった。ビャクヤ川には柵と鉄条網が張り巡らされ、偵察の為にイギリス側実効支配地域に赴いた者は何れも帰って来なかったからである。これらは全て、イデウラ率いるサナダ忍軍の餌食となっていた。一部は迂回してアンヤ川を渡河してカムイ城やアンヤ城に向かったものの、此方はイキスギ帝国陸軍のプリウスに轢き殺されて帰らぬ人になった。因みにそのプリウスはカゲカツが運転し、助手席にはカネツグが乗車していたという。
「御館様、また人身事故ですか?」
「敵のスパイを始末しただけじゃ。適当に火葬せい」
「御意」
因みに、新大陸に派遣されている連合軍は、敵の遺体を火葬していたのだが、これが後にペレディア・アオネイア連合軍の秘策を無力化する事になる。
カムイ城本丸
「それと、奴等にもっと揺さぶりをかけてやる。例え40000の大軍と言えど、一枚岩ではない。むしろ嫌々で従ってる連中も多いはずだ。カムイ城での戦いに間に合わなくても、この先必ず役に立つ。それに、新大陸の情勢を知るためにもやっておいて損はせん」
同時にマサユキはイギリスと示し合わせた上で調略の手を伸ばす。調略の手を伸ばすと最初から分かっていたイデウラは調略出来そうな領主のリストを提示していたのである。
「まず、取り込めそうなのは若干16歳で家督を相続する事になったタクミ・ビャクヤ。ここから直線距離にして50キロしか離れていない匠城(タクミ城)周辺に所領を持つ貴族。イデウラの調べによれば、元々ビャクヤ氏の所領は今より広かったらしいが、簒奪王マールがクーデターを起こした際、ビャクヤ氏は聖王クロム及びその嫡子ルキナ王女を支持した為に、戦後処理でタクミが治める所領以外全てを没収された。因みに匠城は直線距離にして50キロだが、真っ直ぐ行こうとすれば険しい獣道であり、現実的にはかなり迂回し、整備されている街道を通る必要がある・・・か」
マサユキはイデウラ率いるサナダ忍軍が調べ上げた情報を確認していく。
「しかも当主と嫡男である長男は聖都イリースの戦いで討死、人質として城下にいた正妻と長女は乱捕りにあい、慰み物にされ自害。また、運悪く両親や兄姉に会うために聖都イリースを訪れる途中だった次女は行方不明。一方庶流筋であるタクミは、彼の居城である匠城にいた為に死を逃れ、ビャクヤ一族の居城、須佐之男城を没収し、庶流筋であるタクミがビャクヤ氏の当主になる事を条件にお家は存続。明らかに本意ではないだろう。恐らくは、彼の家臣の誰かが諌めたか、武勇が優れていて殺すのは惜しいと判断されたのだろう」
そこには、当主に担ぎ上げられた悲運の少年、タクミ・ビャクヤのプロフィールが記載されていた。
「流石は我がサナダの忍び。よく調べたのぉ・・・・弓の名手であり、感情の起伏が激しい。また、産まれたばかりの嫡男キサラギがいる。成る程のぉ〜、産まれたばかりの嫡男をみすみす殺させる訳にはいかない。だが、一族の恨みをぶつけたくて仕方なさそうじゃな」
マサユキは更に読み進める。
「ビャクヤ氏は現在、ビャクヤ本家を根絶やしにされ、所領も減らされたにも関わらず本家の家臣達の子や使用人達を庶流筋であるタクミ一派が全て抱え込まなければならず、財政は火の車。民に重税を課すことを決断出来ず、この戦いには、徳政令を餌に参加させられている・・・か。これは調略出来るな!!」
マサユキはそう言うと、日本製の紙と万年筆を取り出す。ボールペンやシャーペン、マッキーペン等、手軽に書ける様々なペンを試したものの、彼が一番書きやすいと絶賛したのが、日本製の万年筆だった。家臣達はボールペンを気に入る中、彼だけは拘りを貫く。
「よし、これで良かろう。サスケ!」
「ここに!」
「これを、匠城のタクミ・ビャクヤ殿に届けてくれ」
「畏まりました」
一瞬にしてサスケは姿を消す。
「さて、どうなることやら」
(続く)
ネタがある時は水曜日も更新します