ペレディア帝国従属化アオネイア聖王国
ビャクヤ氏居城匠城本丸執務室
「・・・・・はあ〜!! クソッ!!」
ビャクヤ氏居城、匠城本丸執務室で感情を抑えられない若き当主の姿がある。彼の名前はタクミ・ビャクヤ。ビャクヤ宗家の生まれではあるものの、次男にして第三子であった彼は、家督争いを避けるため、一門衆にして世継ぎのいない庶流筋のケンゾク氏に養子入り。以後はタクミ・ケンゾクを名乗り、城持ちながらも僅かな禄を喰む質素な、こじんまりとした御家の当主になっていた。因みに、ビャクヤ氏は残留日本兵の末裔であり、和風な名前や装備、食事、生活スタイルが受け継がれる家柄である。宗家はアオネイア聖王国聖都イリースに人質として妻子を住まわされる一方で、政の中枢を担う家柄でもあり、聖王家からの信頼も厚い。元々はイリースにほど近い場所に所領を持っていたものの、先々代の聖王の命により、不穏な動きを見せるアンヤ氏を監視する為の領地替え。その際、宗家は新たな居城として須佐之男城、庶流筋筆頭のケンゾク氏は匠城を築城した。
「庶流筋の当主として、僅かな信頼出来る家臣達と細々と暮らせるはずだったのに!! なんで僕が・・・しかも聖王家に刃を向けなきゃならないんだ・・・・どうして父上、母上、兄者、姉者の仇に従わなきゃならないんだ!!」
湯呑を畳に投げつけるタクミ。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
投げつけた湯呑を自ら律儀に拾い、机の上に置き直した後に再度帳簿とにらめっこする。傍らには算盤が置かれ、如何にも和の雰囲気を醸し出す。その時、彼の腹が鳴る。
「僕自身、ここ3日は何も食べてないな・・・・」
力なく畳に倒れるタクミ。宗家を相続したは良いものの、宗家に仕えていた家臣団やその妻子、使用人に足軽達もそっくりそのまま継承する形になり、重すぎる人件費が彼にのしかかる。当初は浪人として放逐する事も考えたが、彼等は先祖代々宗家を支えてきた忠臣達。切り捨てる事は、一度庶流筋に出された彼には出来なかった。また、簒奪王マールからも、忠臣切り捨てるべからず、との御達し。結果、毎月の収支は大赤字。膨れ上がる赤字は、聖王家からの借金で賄わざるを得ず、既に首が回らない状況。家臣団への俸禄を切り詰めに切り詰めて維持しているものの、既に限界であった。
「何で次男の、庶流筋の僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ・・・・」
自身の運命に絶望するタクミ。しかし、それの絶望が余計に彼の空腹を加速させる。少しでも経費を切り詰める為、彼は質素倹約・・・というレベルではない程切り詰めていた。食事は3日に1回、他は水のみで我慢し、服も当主が着る高級品ではなく、麻で作られた粗末な物。下手したら領民よりも酷い品質だ。それもツギハギだらけであり、みすぼらしい恰好だ。それでも当主である以上は武芸を怠る訳にはいかず、毎日弓の鍛錬に勤しむ。それでいて、家臣団には質素倹約は強要せず、気丈に振る舞う。そして領民には重税を課すことはなく、只管に我慢、我慢、我慢。その痛々しさに、家臣団は無論、領民らも涙を禁じ得なかったという。家臣団は自ら田畑を耕す者、領民らは自ら農作物や衣服をタクミに献上しようとする等、非常に同情されていた。
「・・・・・・明日には5000の兵を率いて出陣か。最前線に送られないと良いけど・・・・」
完全に空腹で動けないタクミの様子を、彼直属の家臣のは一人襖の隙間から見ていた。タクミが力尽きて倒れると、音も立てずに別の場所へ向かう。
「タクミ様のご様子は?」
「相変わらず、感情を抑えきれておりませんでしたわよ」
ケンゾク氏時代からのタクミの家臣、ヒナタ・カゲツとオボロ・カオリが別室で主君の様子について話し合う。
「そうであろうな・・・本来であれば、質素ながらもひっそりと暮らせた筈が、いきなり宗家を継げ、宗家の家臣団はそっくりそのまま維持せよ、ビャクヤ家を完全に制御化に置きたい簒奪王とペレディアによる借金漬け・・・・抑える方が無理があるよな」
「おまけに空腹で力尽きてしまわれました。明日には出陣なのに、あれでは采配を握れるのか・・・」
「・・・・本日はお食事の日ではないが、あのままでは確実に死んでしまう。タクミ様をお守りする立場にある我々が座して死ぬのを見ていたとかでは、面目が立たぬ。オボロ、炊事場に向かうぞ」
「無論です! 確か、今晩ペレディア帝国の将官らを饗す宴会が催されましたから、使われなかった食材や切れ端がまだあるはずです。それでどうにかしましょう!!」
「その宴会には、家老らを参加させる一方で、タクミ様は参加しなかったんだよな。あれはタクミ様の精一杯の抵抗だろうな」
忠臣達は主君の為に動き始める。一方、本丸執務室では・・・
「・・・・・・何者だ」
タクミは不穏な気配に気付くと、脇差に手をかける。
「この僕の目を欺けると思うのか?」
タクミは天井に視線を向ける。
「・・・・・・これは失礼致しました」
天井板が外れ、サスケがタクミの前に姿を現す。
「・・・・・・貴様、我等と同じ、先祖は日本人か?」
サスケの顔を見たタクミはそう問うた。
「如何にも。我が主君は大阪夏の陣にて徳川を追い詰めた真田左衛門佐幸村を先祖に持ち、以後異世界にて真田の血筋を現代まで存続させました」
「真田左衛門佐幸村・・・・まさか、あの真田幸村か!? そうなれば、表裏比興の者と言われた真田安房守昌幸の!!」
「よくご存じで」
「たわけが!! 我がビャクヤ家は初代聖王ロイ・アオネイアを支えし日本軍の末裔。残留日本兵を祖とする家柄だ。日ノ本の英雄は教養として、知らぬ者はおらぬ!!」
「そうでしたか」
「して、そなたは忍びだな? 何用だ? まさか、僕の首を取りに来たのかい?」
「いえ、我が主君、マサユキ・サナダからタクミ・ビャクヤ様へ密書を渡すよう命じられております」
「マサユキ・サナダ・・・・あの表裏比興の者が現代に蘇ったという訳か。まあ、良い。読ませよ」
その時、襖の向こうからドタバタ音がする。
「サスケと言ったか? すまぬが、少し席を外して頂きたい。僕の家臣が乱入して来そうだ。それからでも、遅くはないだろう? 僕の為に尽くしてくれる忠臣には、報いなくてはね」
「畏まりました」
サスケは一瞬にして姿も気配も消す。直後に襖が勢いよく開き、タクミ直属の家臣、オボロとヒナタが入室してくる。
「「タクミ様!!」」
「オボロにヒナタ、一体どうしたんだい?」
本当に信頼している一部の人にしか見せない、柔らかな笑顔で接するタクミ。
「いえ、タクミ様は苦しい当家の財政状況を想い、必死に質素倹約に励まれております。ですが、あまりにも自分の身体に顧みず過ぎではないかと」
「そうです! 先程、執務室で力尽きておられましたでしょう!! 明らかに栄養失調そのもの!! それでは、明日軍配を握る事は出来ません!!」
ヒナタは食膳を机の上に置く。オボロは温かなお茶を淹れる。
「家老らから聞きました。タクミ様は本日催された、ペレディア・アオネイア連合軍の将官らを催す饗応には参加されず、体調不良を理由に辞退されたと」
「・・・実際、体調は良くないよ。主君である聖王クロム様を殺めた輩を饗応なんて・・・義に反する事、僕には出来ないよ」
「ですが、タクミ様。何も食べないまま戰場に臨まれるのは・・・」
「だって・・・今日はまだ二日目。我慢の日だからね。領民から年貢を取り立てるのは簡単だけど、それは一時の凌ぎにしかならない。なら、領主である僕が徹底的に切り詰めないといけない。領民あっての領主だ。如何に庶流筋の当主と言えど、武士としての誉れはあるよ。武士は食わねど高楊枝、だからね」
「ですがタクミ様。貴方が倒れられては遅いのです」
「領民らからは、毎日のように農作物や獣、魚、酒、絹で出来た上等な反物をタクミ様に献上したいと陳情が届いているのです」
「・・・・・僕みたいな、都合の良いように生かされてる僕にそこまでする謂れは・・・・」
「ではタクミ様! 俺とオボロはどうでも良い人間に仕えてると言いたいのですか!!」
「私達はタクミ様にお仕えする事に誇りを持っております!! どうか・・・私達の好意を踏みにじらないでください!!」
涙ながら訴える忠臣の姿に、タクミも涙を流す。彼は箸を手に取り、出された食事に口をつける。献立は、余った魚や野菜の切れ端で作った天ぷらのかき揚げ丼、沢庵、余り物の野菜の味噌汁である。
「・・・・・美味しい・・・・美味しいよ・・・」
久々のまともな食事にタクミは涙が止まらない。食事のある日は冷え切った米に水をぶっかけただけの領民よりも粗末な食事しか食べれないタクミにとって、ご馳走以外の何物でもない。
「「タクミ様・・・・・」」
感極まり、釣られて涙を流すオボロとヒナタ。
「・・・・・そろそろ良いでしょうか?」
タイミングを見て、サスケが再度現れる。
「な、何奴・・・・敵の忍びか!?」
「タクミ様絶対死守!!」
「待て! 彼は敵ではない!!」
タクミは手を広げ、オボロとヒナタを止める。
「彼は僕達と同じ、日本人を先祖に持つ者だ。そして主君はかの有名な真田安房守昌幸、真田左衛門佐幸村の末裔だ」
「「さ・・・真田安房守昌幸に左衛門佐幸村の末裔?!」」
驚くオボロとヒナタ。タクミはサスケに改めて問う。
「して、僕に渡したい密書があるのだろう?」
「ははっ。此方に」
「ヒナタ」
「ははっ!」
ヒナタがサスケから密書を受け取り、毒物が無いかを簡易的に確認した後、タクミに手渡す。
「・・・・・これは本当かい?」
タクミは密書の内容をサスケに問う。
「はい。更に我が主マサユキはこの場での返答を求めております」
密書にはこう記されていた。
・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、アオネイア聖王国のルキナ王女、マーク王子、マーク王女、ウドー王子の身柄を保護している
・日本国、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランドは、現在10万の大軍を援軍としてカムイ城に向けて進軍中であり、ペレディア・アオネイア連合軍に勝ち目はない
・日本国、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド、並びにそれに与する国々は、ルキナ王女を正統なる後継者と認定し、彼女を首班とする正当政府を樹立する用意がある
・ルキナ王女は、日本国、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド、並びにそれに与する国々に対して、正当政府樹立後、従わぬ諸侯を逆賊とみなし、討伐する事を要請された
・ルキナ王女は、タクミ・ビャクヤの能力を高く買っておられる。聖王家に忠義を尽くすのであれば、反逆者マールにより召し上げられたビャクヤ氏の所領を回復させ、その上でアンヤ氏が統治していた所領の一部を与えると申された
・我等に与するのであれば、当座の資金として黄金1キロ、兵糧を献上する
内容の一部はかなり誇張されているものや、空手形も含まれている。しかし、彼も独自の情報網で日英について、アオネイアでは一番情報を持っていた。故に答えは決まっていた。むしろ、調略が来るのを待っていたまである。
「・・・・・・相分かった。僕としても、無駄な戦いをしたくない。徒に兵を消耗したくないし、何より聖王クロム様のご嫡子ルキナ様に刃を向ける事は出来ない。それに、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、一夜にしてアンヤ氏を滅ぼした国と聞いている。敵対して自らも滅ぼされるは愚策。領民を守る事にならない」
「では?」
「体調不良と称して、我がビャクヤは兵を出さない。ビャクヤが兵を出さずとも、連合軍は40000。とやかく言われる事はない」
「有難き幸せ。主も喜ばれましょう」
「条件が一つある。聞き入れられるのであれば、我がビャクヤはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国、それに与する国々に味方する」
「その条件とは?」
「当家は、貴殿らが40000の大軍を退けたところを見計らい、反旗を翻すつもりでいる。さすれば、敵の補給線は遮断され、この匠城は敵に攻め込まれる。故に、この城に後詰めを送って頂きたい。後詰めが来るまでは僕がなんとかしてみせる」
「分かりました。主に伝えて参ります」
「そうだ。ここより南に15里行った場所にも城がある。そこには、聖王妃ルフレ陛下お気に入りの呪術師ヘンリーの嫡男、ヘンリー・ダーク・マージが城代を務めている。彼もまた、マールを恨んでおろうで、彼も取り込めるだろう。人材不足故に、マールに敵対した者の子世代は多数いる。それらに働きかけるのが良いと思う。今、ヘンリーに宛てた書状を認める故、暫し待たれよ。オボロ、サスケに茶の一杯を出してやってくれ。何れは当家の味方になる者だ。丁重に扱うんだ」
「ははっ! 承知しました!!」
タクミが書状を認める間、サスケはオボロ、ヒナタと談笑する。同じく日ノ本の民を先祖に持つ者同士、気が合うところが多々あったようである。
「これを南に15里行った黒城にいるヘンリー・ダーク・マージに渡して欲しい。書状には、当家の花押と僕個人の花押が押してある。それを見せれば、話は早いだろう」
「貴重な情報、感謝致します。では!!」
サスケは一瞬にして姿を消した。気配も完全になくなっており、優れた忍びである事を伺わせる。
「・・・・・当家の忍びは情けないな。僕でさえ、彼の気配に気付けたのに、未だに気付いていないみたいだ」
同じ日本人を祖先に持つとは言え、戦国時代の武士の末裔であるサナダ公国人と昭和時代の日本兵の末裔であるタクミらでは、そもそもの土台が違う。
「当家の忍びをサナダ公国とやらに指導して貰わなければな・・・まあ、生きて帰れればの話だけどさ」
タクミは決意を固める。
「オボロ、ヒナタ」
「「はい!!」」
「明日の出陣は、大将である僕、タクミ・ビャクヤは腹痛により軍配を握れる状況に非ず。大将が出陣出来ないと知ったビャクヤ兵は士気が上がらず、合流を強行すれば全軍に波及し、勝てる戦も勝てなくなる。口惜しき事なれど、城にて療養し、補給線を死守する。そういう事にするから、細工を頼むよ。家老らにも伝えておいて」
「畏まりました!」
「そもそも、タクミ様は毎日体調が万全ではなかったのです。むしろ、何もせず、おかゆでも食べながら休まれるのが宜しいかと思いますわ」
「ははっ、オボロの言うとおりだね。今のうちに体調を万全にして、来たるべく日に備える。それが良いね」
こうして、最大8000の兵を動員出来るビャクヤ氏は出陣を取りやめた。表向きは大将の体調不良であるが、裏では別の忍びが届けた無線機を用いてカムイ城のマサユキ・サナダと密に連絡を取り合い、ペレディア・アオネイア連合軍の動向を伝えていたのである。並行して籠城戦の準備を進めており、牙を研ぎ続けていた。
「父上、母上、兄者、姉者・・・・一族の仇、マールはこの僕が討つ!!」
ペレディア帝国従属化アオネイア聖王国
黒城本丸執務室
「・・・・・あのタクミが戦わずして従う・・・それ程に強いんですか? グレートブリテン及び北アイルランド連合王国という国は?」
若干15歳のヘンリー・ダーク・マージはサスケに問うた。
「その書状にも書かれている通りに御座います。仮に、カムイ城の我がサナダ公国軍を撃破したとしても、大英帝国はまだまだ本気を出しておりませぬ。それに、ルキナ王女は我等の支配下にあります。大英帝国並びに同盟国日本国は、ルキナ王女をアオネイアの新たなる王に担ぎ上げ、王国再建を支援する事を計画しております。その時、ルキナ王女・・・ルキナ女王に忠義を示す事こそが、両親の想いに報いる事になりましょう!!」
タクミの調略に成功したサスケはその足でヘンリー・ダーク・マージ、通称ヘンリー・ジュニアの調略に向かった。元々行けたら行くように言われていた為、タクミからの誘いは渡りに船だったのである。
「・・・・・しかし・・・・信じられないんです。今やこの大陸は邪竜に支配されつつあります。不本意ながら、邪竜に従わなければ生き残れません。更にマールの背後にはペレディア帝国、そして別の大国の影があります。噂によれば、南方世界の超大国がペレディアを支援しており、ペレディア帝国軍は超大国の支援を受け、銃とか言う装備を導入しつつあるらしい。今カムイ城に向かっているペレディア帝国軍は、本国では問題児の集まり。近代化の為に死んでくれて構わない部隊だそうです」
黒城城代であるヘンリー・ジュニアは大英帝国の実力を測りかねていた。
「しかも、ここは直接ヤエハラ陣城に展開する連合軍の補給線上にある城。反旗を翻した場合、真っ先に攻め落とされる。匠城は補給線上にはない城だから、大丈夫かもしれないけど・・・」
「しかし、ルキナ王女は申されました。例え母君お気に入りの呪術師の倅であったとしても、従わぬ者には容赦せぬと」
無論、ルキナはそんなこと一言も言っていない。正確に言えば、現時点では・・・である。
「・・・・・今はまだ返答出来ない。そなたがここに来た事は内密にするから、今はお引き取りを・・・」
「承知致しました」
サスケはそう言って本丸から姿を消す。
「・・・・・・お父さん・・・・僕はどうしたら良いんでしょうか・・・・」
ヘンリー・ダーク・マージ。父親は王妃ルフレお気に入りの呪術師ヘンリー。父親には正式な名前がなく、ヘンリーというのは呪術師として活動する際にペレディア帝国軍から与えられた記号のようなものであり、便宜上ヘンリーと名乗っていたに過ぎない。更に深掘りしていくと、教会の牧師の子に産まれたヘンリー・ジュニアの父親は、闇の力を使える事から忌み子として家庭内暴力を受けており、ある日その力が覚醒して家族全員を殺害。同時に感情が壊れてしまい、常に笑い、戦争が生き甲斐の狂人になってしまった。ペレディア帝国軍呪術師部隊に入隊後、実績を積み上げた彼は、後のアオネイア聖王国王妃となるルフレの監視役となる。暫くは任務を遂行していたものの、
「ヘンリーさん・・・私・・・邪竜になりたくない!! ここから逃がしてください!!」
と懇願される。後にヘンリーは息子にこう語った。
「あの時アオネイアに亡命した理由はね、彼女を取り返しに来るペレディア帝国軍と殺し合いが出来ると思ったからなんだよね〜。僕、戦争好きだし、実際に追手を少なくとも1000人は一人で殺したよ〜」
こうしてヘンリー・ジュニアの父親はアオネイアの呪術師になった。亡命後、軍師としての才覚を発揮したルフレの護衛隊隊長として獅子奮迅の働きを見せた彼は、当時はまだ王子であったクロムからも信頼を獲得した。
「・・・・・お母さん、僕は・・・・・」
母親はアオネイア聖王国天馬騎士団団長ティアモ・フォルテス・マージ。密かに王子クロムを愛していた赤髪の女騎士である彼女は、王子直属の部隊として活躍。ルフレを取り返すべく、侵攻して来たペレディア帝国軍を僅か50騎の手勢で奇襲。ルフレの策ではあったものの、それを着実に実行できるのは彼女しかいなかった。後に王子クロムの右腕のティアモ、軍師ルフレの右腕のヘンリーと称され、アオネイア国内で人気が爆発した。戦争終結後、クロムの姉にして聖女王のカリタス・エメリナ・アオネイア(エメリナ1世)が流行病に倒れ、危篤となった際にはクロムの妃候補として名前が挙がるも、クロムは戦で互いに半身と呼び合い、関係を深めていたルフレとの結婚を決断。失恋する事になったものの、主君の婚儀を歓迎した。後に聖女王エメリナ1世は崩御。聖王位継承権第一位のクロムがクロム1世として即位。ティアモはこの時に天馬騎士団団長に就任した。ヘンリーとの婚儀は、クロム、ルフレ双方からの勧めであった。
「・・・・・呪術師のお父さんと天馬騎士のお母さんの血筋を継いでいる僕は、本来ならルキナ王女を支持しないといけない。だけど、それをすれば・・・・僕は真っ先に殺される・・・・補給線上にあるこの黒城を無視する筈がない・・・」
悩める若き少年。呪術師にして天馬騎士という、最強のサラブレッドである彼の悩みは続く。
「・・・・・・お父さん、お母さん・・・・僕はどうしたら・・・・」
カムイ城二の丸客間
「本日、日本国とグレートなんちゃらの外交官が来る予定であったはずだ!! 何故におらぬのだ!!」
約束通りカムイ城に訪れた使者は怒りを露わにする。
「まあ、そう興奮するでない。此方にも此方なりの事情がござる。伊達殿、ずんだ餅とやらを出してやってはどうか?」
対してマサユキは何の悪びれもなく、冷静に諭す。
「貴殿は、甘い物はお好きか? ずんだ餅は如何で?」
流れるようにずんだ餅を提供する日本国陸上自衛隊新大陸特別派遣部隊小隊長伊達宗重二等陸佐。
「・・・・・素朴な甘さが良いな。ペレディアにはない」
率直な感想を述べるペレディア帝国の使者。
「して、貴様らの事情とはなんだ?」
ずんだ餅を食べ、興奮が少しおさまったペレディア帝国の使者。
「昨晩、酷い雨で御座ったであろう? 此方に向かっていた日英の外交官らが酷い雨で足止めを食らってしまいましてな。しかも、明日以降は晴れそうじゃが、地面が酷く泥濘んでおる。故に3日程更にかかりそうとの事じゃ」
マサユキは空を指さす。昨晩から降り続く雨は止むどころか激しさを増しており、雷も時折響くほどである。
「・・・・・確かに、これでは到着が遅れるのも、やむ無しであるな。3日後だな? 必ず!! 3日後には外交官をここに連れてくるのだぞ!! 良いな!!」
「無論に御座る。このマサユキ、神に誓っても約束を守り申す」
どの口が言ってんだ・・・・と一部の人々が思いそうな発言だが、ペレディア帝国の使者はそのまま帰って行った。
「更に3日時を稼いだな」
いつの間にか現れたイデウラがマサユキの隣に座る。
「これで策は万全になる。ニュー・ダーウィンからは、王女一行は無事到着し、更に必要があれば航空支援も可能と連絡があった。しかも、匠城の調略は完了し、黒城も間もなく我等に寝返る」
「それに加え、南方世界諸国連合軍総勢10000がセイロン王国に到着。順次輸送艦・民間徴用貨物船で移動を開始したそうですぞ」
「伊達殿、それは真か?!」
「何でも南方世界諸国はイギリス政府からの要請により、派遣を決定。NATO式に再編後、まともな実戦経験がない故、実戦経験を積むために派遣したようです」
イギリスが影響力を強めつつある南方世界。アニュンリール皇国から解放、あるいは離反した南方世界諸国はイギリスとの同盟を選択。イギリスはカナダ、オーストラリア、ニュージーランドと共に軍事顧問団を派遣し、訓練を指導。日本は官民一体で南方世界市場に進出し、経済分野で影響力を確保。日英の防衛装備品では、L85、26式自走対空高射機関砲、ブッシュマスター防護機動車の売れ行きがよく、イキスギ帝国に設置した第三文明圏向け兵器工廠は連日フル稼働状態。更に旧ミリシアル帝国海軍工廠を改装した三菱重工業カルトアルパス造船所では、「ゆきかぜ型護衛艦」の量産を開始。最初にイギリス海軍向けに10隻を建造し(代わりに26型フリゲート艦はシェフィールドで、31型フリゲート艦はフォーミダブルで打ち切り、以後は本級とそれぞれのフリゲート艦のキメラに変更。その上で32型フリゲートとして完全な改もがみ型護衛艦を採用)、更に神聖ミリシアル帝国海軍向けに4隻、南方世界諸国向けに30隻を受注する等、こちらも大盛況。南方世界諸国の海軍戦力は続々と近代的な艦艇に置き換わりつつあり、アニュンリール皇国は警戒を強めていたのである。
ニュー・ダーウィン郊外
ニュー・ダーウィン飛行場格納庫
「これが日本版A-10か〜」
カナダの次は新大陸と、上層部に良いように盥回しにされているウッチーは、目の前に駐機されているピカピカの新鋭機に目を奪われる。
A-1攻撃機「雷電」
日本が異世界転移後、アメリカ空軍のA-10サンダーボルトⅱをべーに開発した、航空宇宙自衛隊初の近接航空支援専用機である。異世界転移後、日本は爆撃任務にF-2戦闘機とP-1哨戒機の二種類の航空機を充てていたが、どちらも小回りが利かず、地上部隊に必要な近接航空支援が出来ずにいた。そこで開発されたのが雷電である。ベース元のA-10が非常に完成度の高い機体である為、仕様は大きく変わらないものの、細かいところに日英の要求や異世界に適応した機能が付与されている。
「早くコイツの30mmガトリング砲で邪竜の背中をぶち抜いてみたいな〜」
機首に固定された30mmガトリング砲を撫でるウッチー。
「オグリはANAに帰っちゃったからな〜。一番似合うのに、残念残念」
「まあ、内一等空佐も大概ですけどね」
「おっ? ラスティも言うようになったじゃないか」
「相変わらずオストフルス中佐は僕の事を何だと思っているんですか?」
「クソガキ」
「中佐あ!!」
新大陸でも、狂人達の日常がそこにあった。
(続く)