英領ニュー・オーストラリア
カムイ城二の丸客間
「サナダ殿!! 本日こそは回答せよ!! そう主は仰せです!!」
再三に渡り、ペレディア・アオネイア連合軍はカムイ城に対して、降伏を勧告していた。しかし、マサユキはそれを、
「外交官が不在である」
「悪天候で外交官の到着が遅れている」
「外交官が慣れぬ異世界の気候で寝込んでいる」
「マサユキが腰痛で起きれない」
等と、如何にもな理由で回答を引き伸ばしに引き伸ばしていた。期間にして実に2週間。流石のペレディア・アオネイア連合軍も、これはおかしいと気付き始めていた。しかし、確たる証拠がない。
「おお、使者殿よくぞ参った」
何の悪びれもなく軽い口調で語り始めるマサユキ。彼の口からは衝撃的な発言が飛び出す。
「実は戦の支度に手間取っておってのお!! お陰様で準備万端。ルキナ王女殿下以下一行の首が欲しいのであれば、我等は城を枕に討死する覚悟じゃ。思う存分かかってくるが良いぞ!! ガハハハハハ!!」
「な・・・・・な・・・・なにィ!!?」
ハメられた。使者は怒りのあまりに血管が切れ、鬼の形相を浮かべていた。
「ぐぬぬ・・・・サナダ殿、その言葉・・・しかと承った!!」
使者は大急ぎで本陣へ戻って行く。その時マサユキは邪悪な笑みを浮かべていたという。
「マサユキ、南方世界諸国連合軍10000は無事、全部隊がニュー・ダーウィンに到着した。ルキナ王女殿下も参列しての市内行進後、鉄道でこっちに来るそうだ。それと必要であれば航空支援も出来ると、総督府から連絡があった」
いつの間にか現れたイデウラがマサユキに報告する。
「そうなると、タクミ殿への後詰めは、南方世界諸国連合軍がカムイ城に到着してからになるな。耐えられるのか? 匠城は?」
「耐えられなければその程度の器だったというだけだ。潰し合いをさせ、空っぽになった城を我等が抑えてしまえば良いだけだ」
「うむ、そうじゃな。よし、軍議を開くとしよう! 本丸に諸将を集めよ!!」
「承知した」
ペレディア・アオネイア連合軍本陣
「あのマサユキとか言う男、絶対に生かしてはおけん!!」
「その通り!! 我等の恐ろしさを植え付けてやりましょうぞ!!」
「敵兵は皆撫で斬りだ!! 慈悲なんぞいらん!!」
使者が持ち帰った情報を聞いた将官らは皆怒りを顕にする。完全に時間を無駄にさせられた。更に敵の陣にはルキナがいる可能性があった。無論、それはサナダ忍軍のクノイチや似た体格の忍者の変装なのだが、そんなの知る由もない。因みに、ルキナ王女の胸は・・・・なくないです。
「伝令!! 伝令!!」
「何事だ?! まさサナダか!?」
「いえ、匠城のタクミ・ビャクヤ様からです!! 昨日、タクミ・ビャクヤ様を総大将、ヒナタ・カゲツ様を副将とする総勢3000の部隊が黒城に向けて移動を開始したとの事!!」
「おお!! 戦上手のタクミ殿が動いたか!!」
「タクミ殿と言えば、僅か300の手勢でアンヤの6000の大軍を撃退し、その後須佐之男城の戦いでは5000の兵と共に籠城し、50000の周辺諸侯の軍を撃退。その武勇がジャファウダー皇帝陛下、マール聖王陛下の目に止まり助命された若き秀才!!」
「タクミ殿の3000は30000の大軍を得たに等しい!! この戦、勝ち戦ですぞ!!」
既にタクミが日英両国と誼を通じている事を知らない将官らは勝ちを確信する。黒城城代ヘンリー・ダーク・マージは、幾度となくタクミが日英に内通している事を知らせる使者を本陣へ送っていたのだが、城の周囲に配置したビャクヤの忍者により誰一人として本陣に辿り着く事はなかったのである。因みに捕らえられた使者は匠城の三の丸に収監されている。
「よし! 軍を進めよ!! ビャクヤ軍には、カムイ城より後方のアンヤ城攻略を任せる事とし、我等はあのカムイ城を攻撃する!! 全軍出撃!!」
ペレディア・アオネイア連合軍は本陣を発ち、ビャクヤ川に向けて進軍を開始した。それをサナダ忍軍やドローンで確認したマサユキは・・・・
カムイ城本丸
「いよいよ敵も動いたか。ノブシゲ、ビャクヤ川の渡し場で敵を挑発して来い。軽く戦い、城へゆっくりと退却するのだ。出来るな?」
「無論に御座います!!」
「イキスギ殿、貴国の自動車部隊は予定通りに展開して頂きたい。最初は何もせず、敵を素通りさせ、息を潜めて頂きたい」
「ああ、分かった」
「ドスル閣下はカムイ城とビャクヤ川の中間に位置する高台ソメヤダイに展開。城から逃げ出す敵の側面を突いて頂きたい」
「承知ぞ!! サナダの戦、見せて頂こう!!」
「英連邦パラディオン王国軍は、騎兵師団のみを動かし、敵の本陣を荒らして回れ。だが、もし敵の本陣が固いのであれば速やかに撤退するのだ。それ以外のカムイ城の部隊は本丸で待機」
「「「「了解!!」」」」
「では、各々方、抜かりなく!」
迎撃する新大陸派遣連合軍は動き出す。
ペレディア帝国従属化アオネイア聖王国
カムイ盆地ビャクヤ川(アオネイア側)
ビャクヤ川の渡し場付近
「川沿いには漏れなく柵が築かれており、渡河は困難です」
「下手に渡河すれば、敵の弓隊や魔道士隊の餌食になるな」
「そうなると、隘路ではあるが、このビャクヤ川の渡し場を通るしかない」
「だが、敵は何故にこの隘路を手放すのか・・・」
諸将らは疑問を持ちながら、ビャクヤ川の渡し場付近を慎重に渡河する準備を進めていた。そんな時であった、
「おやおや、ペレディアにアオネイアの皆様方。大軍を引き連れて鷹狩りですかな?」
朱色の鎧で身を固めた若き武士が対岸に現れる。
「何だ? あの小僧は?」
「この辺り一帯の獣は皆、ペレディアにアオネイアの方々の殺気に押され、逃げ出した。我らで良ければお相手致すが如何であろうか!!」
マサユキの次男ノブシゲがペレディア・アオネイア連合軍を挑発する。
「お、オイ! あれを見ろ!!」
兵士の一人が指を指して叫ぶ。
「あれは・・・・ルキナ王女ではないか?!」
ノブシゲの傍らには、青髪の少女と思わしき人物が立っていた。ローブを被り、顔はよく見えなかったが、彼等が欲している首級ルキナに酷似していた。更に近くには日章旗とユニオンジャックが掲揚されていた。
「ほ、本当だ!!」
「あれは間違いねえ!! ルキナ王女だ!!」
「それにあの旗! あれはマーク(弟)の旗だ!!」
「討ち取れれば大手柄や!!」
「うおお! こうしちゃいらんねえそぜ!!」
「あの朱色の小僧もそこそこの将だろう!!」
「鷹狩り? そうだな!! ただし、狩られるのはてめえだ!!」
兵士達はノブシゲやルキナの首級をあげんと、勝手に渡河を始めてしまう。川沿いに柵を立てまくったサナダ公国軍だったが、ビャクヤ川の渡し場付近だけには柵がない。大軍が一斉に渡河してくる。
「よし! 釣れたな!!」
挑発に成功したノブシゲは、ルキナ(影武者)と共に後退。予め停めておいたハイラックスに乗り込む。
「どうしたどうした?! ペレディアにアオネイアの皆様方は足が遅いのですかな?」
拡声器で野次を飛ばすノブシゲ。因みにハイラックスを改造した指揮通信車にはスピーカーも搭載しており、車内のマイクを使い、安全に野次を飛ばす事が出来る。
「おお、釣れる釣れる!! ルキナ王女殿下がこう申されたぞ? お父様亡き後のアオネイアの兵は腑抜け揃いなのか? とな!!」
無論、そんな事ルキナは言っていない。というか、そもそもカムイ城にルキナはいない。しかし、敵にはそれを確かめようがない。
「腑抜けだと?! 何の苦労もなくぬくぬくと暮らしてきた小娘風情が!!」
「必ずや討ち取ってやる!!」
「やっちまえ!!」
挑発に乗った兵士達は速度を上げ、ノブシゲが乗るハイラックスを猛追する。
「へ、兵達が我々の指示なしに勝手に渡河を開始しただと?!」
前線からの伝令で司令部は状況を把握する。
「とは言え、今まさに渡河の指示を出すところだったではないですか。手間が省けたと考えれば」
「それもそうだな。して、敵には憎きルキナがいるのだな?」
「ハイ! 顔はローブではっきりと見えませんでしたが、あの出で立ちや振る舞いは間違いなくルキナでした!!」
「うむ! ヤエハラの陣城に500を残し、タクミ隊の出迎えをさせよ。9500は渡河せずに本陣として待機。残り30000は順次渡河し、カムイ城を攻め落とせ!!」
始めは最前線の兵達が功を焦り独断で渡河したものだったが、正式に命令が下り、ペレディア·アオネイア連合軍はビャクヤ川の渡し場から一斉に渡河を開始。逃げるノブシゲのハイラックスを追跡し続ける。追い付けそうで追い付けない距離感を維持しながら逃げるノブシゲ。追い掛けるペレディア・アオネイア連合軍は、市中に仕掛けられた千鳥掛けの柵に目もくれず、追走。こうして、ペレディア・アオネイア連合軍は知らず知らずの内にカムイ城の奥深くに引き込まれていたのである。
「よし! 速度を上げ、横郭に入れ!!」
ノブシゲは運転手に速度を上げるように指示。ノブシゲとルキナ(影武者)は横郭へと姿を消した。追撃の手を緩めないペレディア・アオネイア連合軍。突入に集中するあまりに、連合軍は側背への注意が散漫になっていた。
「城に火を放って丸裸にしてやらあ!!」
「エルファイヤー!!」
一部の魔道士が火を放つ。しかし、城は鉄筋コンクリート製な上に耐火呪符、水呪符が掛けられている。それに加えてスプリンクラーや防火シャッター、粉末消火剤も整備されている徹底的な防火仕様。放った火は全く燃え広がることは無く、ただ魔力と魔導書を浪費したに過ぎなかった。
「進め進め!! 本丸まであと少しだ!!」
「うおお!! マサユキの外道の首はどこだー!?」
「一気に揉み潰せ!!」
勢いに乗ったペレディア・アオネイア連合軍は二の丸に殺到。大手門にまで迫った。サナダ忍軍の流布により、カムイ城に向けて援軍(南方世界諸国連合軍の事)が向かいつつある事を知っており、一日でも早く攻め落とす必要があった為である。
カムイ城本丸
「して、敵はどうじゃ?」
本丸にて側近と囲碁に勤しみながら戦況を確認するマサユキ。
「はっ! 敵は殿の策にまんまと嵌まり、大手門を打ち破り、本丸へ突入せんと二の丸に殺到しております!!」
部下からの報告にマサユキは満面の笑みを浮かべる。
「よし、頃合いじゃ。木石を落とせ。鉄の雨を敵に浴びせてやれ!!」
「本丸へ一番乗りするは俺だあ!!」
「梯子をかけよー!!」
「突撃ー!!」
一部の兵は梯子をかけ、壁をよじ登ろうとする。しかし、
「うわああ!!」
「前から巨石に大木が!!」
サナダ公国軍の猛反撃が開始された。城壁門からは大木や巨石が次々と落とされ、壁際にいた連合軍兵を物理的に容赦なく叩き潰していく。度肝を抜かれ、混乱する連合軍へ、更に追い討ちをかけるように、城内からはサナダ公国軍により、L85や20mm多砲身機関砲、40mm単装機関砲による猛烈な鉄の雨を頭上から浴びせられる。
「うああ!!」
「俺の腕が! 腕がああ!!」
「に、逃げろー!!」
「こ、こっち来るな!! 下がれ! 下がれよ!!」
たちまち多数の死傷者を出し、連合軍は完全に大混乱に陥った。
「怯むな! 残りは本丸のみぞ!! 敵は少数!! 押し進んで残らず討ち取れ!!」
武勇ある将官が必死に味方部隊を鼓舞するも、それが余計に目立ってしまう。
「進め、進め・・・・」
城内の狙撃手に狙い撃ちにされ、ペレディア帝国の将官が馬上から崩れ落ちる。
「空から攻め込んでやれ!!」
「真上がガラ空き・・・・」
アオネイア聖王国の天馬騎士が空から直接本丸を目指すも、ドローン対策で配置されていた20mmCIWSや40mm単装機関砲が一斉に火を吹いた。かつては聖王直属として、国の誉れであった天馬騎士達が次々と肉片となり、地上の味方部隊の頭上に崩れ落ちる。それが更に混乱に混乱を呼び込む。
「ゲホゲホ! 何だこの煙は??」
一部の連合軍兵士が誤って粉末消火剤の噴射ボタンを押してしまい、消火剤が彼等を襲う。これは全く想定していない出来事ではあるが、煙により視界すら奪われた連合軍兵士の混乱は更に増していく。
「よし、敵は怯み、混乱しとる!! 伊達殿、我等は直ちに突撃して敵を一掃致す。城内の残党狩りと遺体の始末をお頼み致す」
「了解。イギリス軍と共に、貴殿の留守を預からせて頂きます!! ご武運を!!」
マサユキの号令一下、大手門が開かれる。26式自走対空機関砲や重武装型ハイラックス、更には時代錯誤にも見える刀や槍で武装したサナダ公国軍が怒涛の勢いで突撃を開始した。本丸の守りには、日英軍100のみを残し、残りを全て敵にぶつける。端から見ればそれは、NATO式の装備で完全武装し、扱いにも長けた戦国時代の屈強な武士達が襲い掛かってくるようなものであった。そんなバーサーカー集団を前に、狭い城内にひしめき合い、既に指揮もままならない連合軍は為すすべもなく崩れ落ちる。
「皆の衆、大いに手柄をあげよ!!」
「「「「「うおおお!!」」」」」
鬨の声を上げながら突っ込んでくるサナダ公国の武士達。26式自走対空機関砲の水平射撃で前方の敵を蹴散らし、その周囲をL85で武装した武士が囲み、最後に重武装型ハイラックスや輸送用ハイラックスと共に刀や槍で武装した武士が突入する。
「ば、バケモンだああ!!」
「あんな狂人達に勝てるわきゃねーよ!!」
「逃げるんだよー!!」
運良く無傷でいられた連合軍の兵士達は二の丸から逃げようとするが、状況を把握しないまま二の丸へと雪崩込んだ味方部隊と衝突。恐怖のあまりに精神に異常をきたし、同士討ちも多数発生した。そこへサナダ公国軍の追撃も加わる。大混乱に陥る連合軍は、城内から逃げ惑う味方部隊の波に飲み込まれ、城外に控えていた部隊も統制を喪い、総崩れとなった。
「撤退、撤退ー!!」
「ぐああ!!」
「敵将、討ち取ったりー!!」
「逃げるな!! 首をおいてけー!!」
「俺の槍の錆になりてえ奴はいねえのか?!」
混乱の中、将官及び副将官クラスの戦死も相次ぐ。やがて二の丸から追い立てられるように城外へと逃れた連合軍だったが、サナダ公国軍の追撃は止むことはなかった。むしろ、その激しさは増していった。逃げ惑う連合軍の前に、城下に張り巡らされた千鳥掛けの柵が立ち塞がる。
「な、何だよこの邪魔な柵は?!」
「早く進めよ馬鹿!!」
「行けたら苦労しねえんだよ・・・ぐふっ!!」
行く手を阻まれた連合軍は、サナダ公国軍の追撃で被害と混乱が拡大した。
「あれがカムイ城から叩き出された敵軍だな? 予定通り攻撃を開始しろ!!」
予め城外で待機していた、グラ・ドスル率いる新生グラ・バルカス帝国軍は、敵軍の先頭集団が差し掛かったのを見て、側面からの攻撃を開始。更に予め集めておいた枯れ草に火を放ち、連合軍を窮地に追い込む。
「頃合いじゃな。流石はカネツグ、気が利くの」
「地図を見れば、敵がこの付近で大渋滞を起こすのは、目に見えておりまし、た!!」
そこにアンヤ城から出撃し、先回りしていたイキスギ帝国軍のロケットシステム部隊がMLRS(但し、クラスター弾は非搭載)で千鳥掛けの柵により、列の真ん中付近で大渋滞する連合軍に頭上から鉄の雨を降らせる。最早一方的な殺戮劇。連合軍には為すすべなく崩れ落ち、敗走を始める。
「よし! 我々も行くぞ!!」
カムイ城横郭に退避していたノブシゲ麾下の部隊も、敵側面を突くべく攻撃を開始。王女ルキナに扮したサナダ忍軍を伴い、敵に大打撃を与える。反撃の糸口すら掴めない連合軍は総崩れとなり、ビャクヤ川方面へと逃れていくしかなかった。
「突撃、突撃じゃー!!」
「「「「「うおお!!」」」」」
士気は最高潮のサナダ公国軍は、六文銭の旗印を靡かせ、新生グラ・バルカス帝国軍やイキスギ帝国軍の支援を受けながら突撃を繰り返す。カムイ城周辺にて歴史的大敗北を喫した連合軍は、城下やビャクヤ川沿いに設置された柵に阻まれ、多くの犠牲者を出した。この時点で連合軍の死傷者は10000人に達していたと、後に英国王立防衛安全保障研究所は指摘している。
ビャクヤ川上流
ビャクヤ城本丸兼ビャクヤダム制御室
「さて、頃合いだ。貯めていた水を解き放て!!」
イデウラの指示により、城兵はビャクヤダムから水を緊急放水する操作を行った。ダムから一気に放水された水がビャクヤ川に流れ込み、茶色い濁流となって下流を襲う。
ビャクヤ川下流
「こ、ここまで来れば大丈夫だろうな・・・・」
「対岸まで渡れりゃ、何とか・・・・」
ようやくビャクヤ川まで辿り着いた連合軍兵士達。対岸にいる本隊に合流するべく、渡河を開始した。しかし・・・・
「な、なんだ?! 川の水位が急激に・・・・」
「鉄砲水だあ!!」
「た、助けてくれー!!」
ようやくビャクヤ川に辿り着いた兵士達の多くは濁流と化したビャクヤ川に呑まれ、多数の溺死者を出す事になった。まさに背水の陣となった連合軍をサナダ公国軍、新生グラ・バルカス帝国軍、イキスギ帝国軍が追い討ちをかける。そして、マサユキの策はこれだけではなかったのである。
ペレディア帝国従属化アオネイア聖王国
連合軍陣城ヤエハラ付近
「あれが敵の陣城か」
英連邦パラディオン王国軍の先陣、騎兵第一師団の隊員ニンギルスは双眼鏡を用いて敵陣城の様子を確認する。ニンギルスは無線機を手に取り、偵察結果を報告する。
「此方ニンギルス。敵陣城に敵兵は僅か。多く見積もっても1000はいない。今なら落とせる!!」
マサユキの策はカムイ城周辺だけではなかった。機動力に優れた騎兵師団を有する英連邦パラディオン王国軍を迂回させ、ヤエハラに威力偵察をさせる。状況次第では陣城を攻略し、補給物資に放火してカムイ城に引き揚げるよう指示を出していたのである。
「・・・・了解。英連邦パラディオン王国陸軍第一騎兵師団ニンギルス大尉、先鋒として突撃する!!」
英連邦パラディオン王国軍1500が陣城に突撃を開始する。最低限の部隊しか配置しておらず、また戦闘になるとは思っておらず、武具をまともに身につけていなかった陣城の兵達はたちまち大混乱を起こし、蜘蛛の子を散らすかのように離散していった。
「奴等の陣城、我等パラディオン王国軍が占領したぞー!!」
陣城を落とした兵士が鬨の声を上げる。これに釣られて他の兵達も鬨の声を上げる。
「予定通り陣城を焼き払う!! 二度と使えぬよう、徹底的に破壊し、補給物資も奪え!! 持っていけぬ物は全て焼き払え!!」
ヤエハラから立ちのぼる炎は、ビャクヤ川に本陣を置いた本隊9500からも見えていた。しかし、前方では味方部隊が潰走しており、それの収容で手一杯であり、後方の敵を討ちたくとも討てない状況にあった。
「な・・・・なんという惨敗・・・・異世界転移した国が関わっていると噂では聞いていたが、これほどとは聞いておらん・・・・」
本陣では、何とか逃れる事の出来た兵士達を収容し、治療を施していた。サナダ公国軍、新生グラ・バルカス帝国軍、イキスギ帝国軍はビャクヤ川を渡河してまでは追撃せず、そこで追撃を止めて戦後処理を開始した。
「40000いた我が方は本陣の9500、ヤエハラから逃げ込んできた300、そして潰走した約10000。合計して20000も残っておりませぬ・・・・」
「半分以上が敵に討ち取られるか捕虜になったという事か・・・」
「このような惨敗、マール聖王陛下は無論、ジャファウダー皇帝陛下もお赦しにならないでしょうな・・・・」
「我等には死者を兵士として再利用出来る呪術が使える者はおりませぬ。かくなる上は、タクミ隊の到着を待つ他ありませぬ。彼ならば・・・」
今頃タクミ隊は予定通りならば、既に黒城を発ち、ヤエハラに向けて進軍しているはず。タクミ隊3000と彼の策謀、そして彼に仕える2名の勇士。それのみが連合軍に残された勝ち筋であった。しかし、それは呆気なく裏切られる事になる。
「緊急事態!! 緊急事態であります!!」
一頭の天馬が本陣に駆け込んでくる。全速力で飛ばしてきたのか、着くなり天馬から崩れ落ちる。本陣の兵達に支えれながら、早馬を務めた伝令兵が火急の知らせを報せる。
「も、申し上げます!! ビャクヤ家当主、タクミ・ビャクヤ様がグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の調略に乗り、アオネイアから離反しました!! 今頃、黒城は敵の手に落ちたと思われます!!」
「な、何だと?!」
「あの野郎、皇帝陛下の慈悲で生かされているのを知らんのか!!」
「まさか、あのマサユキとやらが手を回したのか!!」
「伝令、伝令!!」
別の天馬が本陣に駆け込んでくる。こちらも顔色が悪く、どう考えても悪い予感しかしない。
「申し上げます!! タクミ・ビャクヤはアオネイアに反旗を翻した。白凰砦の兵は死兵として戦い、尽く玉砕を遂げた。そうお伝えせよと、ピエリ様は私に申し付けられました・・・白凰砦300に対して、オボロ・カオリ率いる1500の兵が向かいましたので・・・・」
黒城と白凰砦。前者はカムイ盆地に向かう街道沿いにある城であると同時に、北には匠城がある。故にここはタクミ・ビャクヤを監視する役目があった。優柔不断なヘンリー・ダーク・マージであれば、逆に裏切らないだろう。そう考えたマールは、敢えて彼を最前線の城の城代に任命していた。後者はカムイ城と匠城の中間に位置する山間部に設けられた砦であり、匠城の防衛並びに監視を担っていた。
「黒城は元々ビャクヤ家の城。領民も、籠る兵達もヘンリーの世話役を除けば元はビャクヤ兵。かつての主と戦うことは出来ぬ・・・か」
「白凰砦にオボロを差し向けたという事は、黒城にはヒナタを差し向けたのでしょうな」
「タクミ殿は昔から、激戦地にはオボロ、それ以外にはヒナタを差し向けて来ましたからな。恐らく、ヘンリーはタクミ殿が直々に匠城へ拉致したでしょう・・・・・」
前方と後方に敵を抱える形になったペレディア・アオネイア連合軍。緊急事態をそれぞれ本国へと報告すると共に、撤退に向けて動き始める。
ビャクヤ家占領下
黒城本丸
「戦わずして城を手に入れましたね! タクミ様!! しかも補給物資もそっくりそのまま!! 流石はビャクヤ家1の知略を持つ美男子!! そんな御方の直臣で俺、幸せ者です!!」
満面の笑みで主君を褒めちぎるヒナタ。言われているタクミは何時もの事で慣れており、そっけなく返事する。
「ヒナタ、戦というのは屈強な兵士、優秀な軍師、そして最新鋭の兵器があっても勝てるわけじゃない。事前の準備で全て決まるんだ。戦う前から、黒城の落城は決まっていたんだ」
「つまり、タクミ様は黒城で戦になる事はないと分かっていて俺を呼んだんですか?」
「ああ。ヒナタに激戦地を任せたくないからな。決して信頼出来ないからじゃなくて、武士故に撤退の判断を下せずに討死してしまいそうだし、君が犬死するところを僕は見たくないんだ。両親や兄姉に先立たれ、孤独で凡庸な僕を一人にしないで欲しいんだ」
「そんなまさか!! 俺やオボロがタクミ様より先に死ぬ事があるわけないじゃないですか!!」
「そう言っていると本当に死ぬよ。仮に僕が死んだら、君とオボロには、妻と子を任せたいと思っている。というか、君達にしか任せられないんだ。サクラとユヅルマルから太陽を奪わないで・・・太陽に照らされる月にしかなれない僕から・・・」
「勝ち戦なのにそんな暗い顔しないでくださいよタクミ様!!」
「・・・・・さて、そろそろご対面だね」
タクミとヒナタは、護衛の兵士と共に本丸執務室に入る。執務室にて、力なく座り込むヘンリー・ジュニアと対面する。両手足には城兵により縄をかけられ、身動き一つ出来ない状況だった。その気になれば、この場で斬首にするのも容易い状況だ。
「ヘンリー・ダーク・マージ、惨めなものだね。僕は再三に渡って投降を勧告した。その優柔不断さが仇になったね」
「お前が生きていられるのも、タクミ様の御慈悲によるものなんだぜ? 少しばかりは感謝しとけよ?」
「僕が言うのはあれだけど、やっぱりオボロに攻めさせなくて良かったよ。オボロなら問答無用でヘンリー、君の首は彼女の薙刀で胴体から離れていただろうね」
「ヒィッ!! そ、それだけ・・・・それだけは!!」
魔王顔で薙刀や槍、小刀を振り回すオボロが自身の首を斬り落とす様子を想像したヘンリー・ジュニアは情けない声をあげる。
「さて、この城は我等ビャクヤの手に落ちた。この城は街道沿いにある重要拠点。故に僕が一番信頼する家臣にこの城は任せる。ヘンリー・ダーク・マージ、君を城代から解任し、代わりにヒナタ・カゲツを城代に任命する。ヘンリー、君は僕と共に匠城に来てもらうよ」
「・・・・・殺さないんですか?」
「ん? そんなに両親の元に行きたいのか?」
「いえ・・・・敗軍の将である僕を何で生かしておくのかな?って・・・・」
「そりゃあ、タクミ様の御慈悲だろう。元城代はさっさと出て行きな」
「それじゃあヒナタ。この城は任せたよ。もし、ペレディア・アオネイア連合軍が来たら迎え撃て。グレートブリテン及び北アイルランド連合王国軍ならは、城に迎え入れるんだ。僕やオボロは多分、後詰めには向かえない。だめと分かったら、素直に匠城に退くんだ」
「了解しました!!」
「僕はヘンリーを連れて匠城に戻る。動員令もそろそろ完了するだろう」
カムイ城の戦いは終わった。マサユキの策略にまんまと嵌ったペレディア・アオネイア連合軍は、兵力の半分を喪っただけでなく、後方の補給拠点も喪った。更にタクミ・ビャクヤは、旧ビャクヤ家の所領にて一揆を画策しており、混乱に乗じてビャクヤの所領回復を図ろうとしていた。
「・・・・・(いずれはビャクヤはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の委任統治化に入る。サナダ公国の忍びによれば、何れは委任統治は終了し、ルキナ王女を聖王女に即位させた上でアオネイア聖王国を再建させるらしい。委任統治は、行政制度や軍の再編の為に行われると。それならば、少しでも我がビャクヤの所領が広いほうが好都合であろう。グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の統治制度では、政は民から選挙なる物で選ばれた者が担い、王族や貴族は政治的特権を喪い、王族は民を束ねる象徴的地位に収まると。正直、サクラにユヅルマル、そしてオボロとヒナタさえ居れば僕には充分。武官の子世代は軍学校に通わせ、文官らは新たなアオネイアの中枢として即戦力になってもらうか。僕自身は政や軍からは退き、匠城の城下でひっそりと静かに暮らしたい。それが許されるかは、知らないけどね。あ、あとついでにヘンリー・ジュニアはルキナ王女のお側に仕える使用人的地位には置いて貰えるよう、口添えしてあげるとしようか)」
重圧から解き放たれて早々と隠居し、悠々自適に暮らしたいタクミだったが、彼はビャクヤの民からあまりにも人気があり過ぎてしまい、更に内政軍事共に当代1と名高く、イギリスの委任統治終了、独立承認の際、隠居したいタクミと隠居させたくないルキナで一悶着起きるのである。
「何故だろう・・・・中々行政の長の座を辞めさせて貰えない気がしてきた・・・」
(続く)