カムイ城本丸
「サナダ殿!! 実に見事な采配であった!! あれほどの見事な采配、ガルマ以外では見たことがなかったぞ!!」
戦闘が終わり、諸将がカムイ城本丸に集結し、酒宴が開かれていた。完全なる勝ち戦に、諸将の顔色は非常に良い。一部の者は既に酔い潰れていた。
「いやいや、ドスル閣下が上手いこと側面から奇襲してくれたからにござる。敵を引きつけるだけ引きつけ、効果的な場面で一気に撃つ。これは簡単なように見えて、非常に難しいのでござる。流石は新生グラ・バルカス帝国兵学校の校長でござる。ささ、もう一杯」
「これは有難い!! しかし、伊達殿!! そなたが持ち込んだ伯楽星とやら、非常に美味い!! こんな美味い酒は飲んだ事がないぞ!!」
「私の故郷、宮城県は日本有数の米どころ。故に、酒造りも盛んなのですよ」
「そうかそうか!! ならば、来年の兵学校の卒業前最後の演習先を宮城県にしようぞ!! 美味い酒、美味い飯を祖国の兵達にも食わせてやりたいぞ!!」
将官らが大盛り上がりな一方で、現場の兵達は黙々と戦後処理に勤しんでいた。
「ある程度集まったな・・・・ガソリンをかけろ!!」
激しい戦闘が行われたカムイ盆地では、イギリス軍の指導の下、サナダ公国軍や英連邦パラディオン王国軍が遺体の回収及び火葬を行っていた。本来であれば、一人一人身元を特定し、遺族の元へと返してやりたいのであるが、何しろ20000人近くが死傷したのである、遺体の数は尋常ではなく、更に腐敗も始まっている。速やかかつ適切に処理しなくては、土壌汚染の原因になる。
「点火!!」
英連邦パラディオン王国軍の魔道士が数人集まり、ガソリンをかけられたペレディア・アオネイア連合軍の兵士の遺体に火を点ける。遺体は勢いよく燃え上がり、更に風魔法で火を効率よく広げる事で、火葬の効率を上昇させる。
「しかしノブシゲ、敵は何者なんだろうな?」
ニンギルスは隣に立つノブシゲに話し掛ける。
「何者とは・・・どういう事でございましょうか?」
「考えてみよ。敵は20000もの犠牲を出した。にも関わらず、此方側に対して、停戦の遣いを送ろうとしない。そして、日本の気象庁の観測によれば、大陸を覆う雲は更に分厚くなり、太陽の光が届かない可能性があるらしい。もし、太陽の光が届かないのならば、奴等は人口を維持する事は出来ない」
「・・・・・申し訳ありません。自分には、到底理解出来ない内容でして・・・・」
「要は、敵はわざと我々に殺させたのではないか?という話だ」
「・・・・・何故にそのような御考えに?」
「俺の勘だ。だが、妹イヴも同じ事を言うはずだ。もしかすると、敵にとって生きたアオネイア人は邪魔なのかもしれん。例えば、肉体さえあれば復活させて使い捨ての兵士として使える技術とか」
「そ、そんな死者復活の呪術があるのですか?!」
「そんなの俺は知らん。だが、司令部はしつこいぐらいに、遺体を速やかに火葬しろ、と通達して来ただろう? 今朝なんて、総督府からも通達が来たらしいぞ。上層部は何か情報を掴んでいるかもしれないな」
英領ニュー・オーストラリア
ニュー・ダーウィン
ニュー・ダーウィン総督府会議室
「では、ここ数週間の間、ニュー・ダーウィン郊外の草原に頻繁に出現した異形兵、我が国では「Undead Soldier(アンデッド兵)」と呼称している物体は、貴方方の言う「フレースヴェルグ」であると?」
「はい。昨晩、イギリス軍の方々と共に確認しましたが、あれは間違いなく、邪竜ホズルが生み出す死兵、フレースヴェルグに相違ありません」
ルキナ以下、アオネイア王族一行がニュー・ダーウィンに到着して以降、ニュー・ダーウィン郊外では、夜中に不審な異形兵の目撃証言が相次いでいた。そして目撃される際には決まって謎の魔法陣が形成されており、その魔法陣の下にその異形兵の姿があるのである。異形兵は、剣や槍、斧に弓と言った、何かしらの武器で武装しており、警察官の装備では対処が困難であった。今のところ市街地への侵入は確認されていないが、魔法陣が出現する度にニュー・ダーウィン守備隊に出動命令が出ており、対策案の策定は急務であった。
「フレースヴェルグは、肉体を持った人の亡骸に、邪竜が邪悪な魂を吹き込む事で生成する事が出来ます。しかも、ほんの僅かな肉片だけからでも生成する事が出来る為、実質的には無尽蔵の戦力を有します。かつて、このアオネイア大陸を邪竜が支配した際に、英雄王が数多のフレースヴェルグ相手に聖剣で斬り伏せたと、我が国では伝わっています」
「ルキナ王女殿下、一つ質問してもよろしいですかな?」
ニュー・ダーウィン守備隊隊長のアーロン・リー・フォックス大佐がルキナに問う。
「無尽蔵とルキナ王女殿下は申されたが、例えば30000の遺体があったとしても、アンデッド兵を遺体の数より多く生成する事は出来ないのではありませんか?」
日英の関係者は、一体の遺体につき、アンデッド兵は一体しか生成出来ない。そう考えていた。しかし、ルキナの回答はそれを悪い方に裏切る。
「いえ、フレースヴェルグはほんの僅かな肉片さえあれば生成する事が出来ると申し上げましたが、仮に同じ人間の肉片であったとしても、2つあれば二体、3つあれば三体のフレースヴェルグを生成する事が出来ます」
「つまりは、遺体をわざと小さく細かく分割してしまえば、幾らでも生成出来ると?」
「はい。邪竜ホズル復活を想定した研究において、お母様お気に入りの呪術師、ヘンリーさんが纏めた資料がございます。昨晩、マーク(弟)を徹夜させて日本語と英語に翻訳させました。ご覧ください」
しれっと弟に強制労働を強いたぞこの姉、と一部の参加者は思ったが、フレースヴェルグに関する資料を読み進めていく。
「フレースヴェルグ自体は、屈強な一般兵よりやや強い程度であり、単体であれば対処は可能。だが、敵は明確な意思を持たず、ただ生きた者を殺める事でしか動かない為、中途半端な攻撃では意味ない。焼け石に水程度ではあるが、遺体は火葬し、完全に肉体と骨を分離すべし・・・か」
「まさか、衛生環境を配慮して行ってきた火葬が偶然にも効果があったとはな・・・・」
「ですが、我が国では国教であるイリース教は死者を土葬する事が基本です。残留日本兵の末裔が治めるビャクヤ家や、残留英国兵の末裔が多数派を占めるここニュー・ダーウィンを除き、死者は土葬されています。そこに邪竜に堕ちた妹マールによるカムイ城侵攻・・・・フレースヴェルグを増やすための布石にしか思えません・・・・」
「気象庁の観測によれば、アオネイア大陸を包む黒い雲は更に厚くなり、太陽の光が届かぬ可能性があるそうだ。餓死者が出れば、遺体は更に増えるでしょうな」
重苦しい空気に包まれる会議室。
「ですから、私は絶望に包まれる民の希望とならなくてはならないのです。お父様の形見である聖剣と共に!!」
ルキナは腰に差している聖剣ツヴァイハンダーの柄を強く握る。
「・・・・・(こんな・・・まだまだ両親に甘えていたい年頃なのに、こんな辛い経験と覚悟をさせてしまうなんて・・・神よ! なんて酷いんだ!!)」
敬虔なプロテスタントであるフォックス大佐は目の前で震えながら俯く少女を憐れむと共に、イギリス国教会の信徒として何を成すべきかの覚悟を決める。
「ルキナ王女殿下、ご安心ください。我が大英帝国が、この大陸全体に希望の光を照らして見せましょうぞ!!」
「もし、イギリスが参戦するのであれば、我が国も同盟国として、親友として、その義を果たすため、志を共にする有志国と共に、大陸全体を照らす太陽となってみせましょう!!」
フォックス大佐の隣には、日本から派遣されていた軍医ケントが座っている。彼は海自の軍医だが、異世界転移前にロシアによるウクライナ侵略において、義勇兵としてウクライナ方に参戦。クルスクの闘いに従軍し、戦果を挙げていた。アオネイア聖王国からの亡命者一行の健康管理が今回のメインだが、ニュー・ダーウィンに駐在する日本の武官がいなかった事もあり、会議に参加していた。
「・・・・ほ、本当ですか? お気持ちは嬉しいのですが、貴方方が我が国に対して、積極的に肩入れする理由がわからないのです」
「無論、戦後の復興のお手伝いと称して、我々の企業が進出し、経済活動をして儲けたいのは当たり前。更に南方世界に影響力を行使し、軍事的優位を確立したいのも当たり前。古の魔法帝国への対策の為、貴国を利用したいのも当たり前。ですが、それは国家としての方針。我々の個人的思いとしましては、力無き者、か弱き者を救う力となりたい。絶望の淵にいる者達の力となりたい。その思いに、相違はございません」
「フォックス大佐だけじゃない。ここにいる、各国の代表者は皆、君達の力になりたい。そう思っている。だから、今は我々を信用して欲しい。君の弟君が翻訳してくれたこの資料、大変参考になるよ。ありがとう」
その後、対策案について話し合われた後に会議は終了する。当面の間は、警備の強化、遺体の火葬徹底、市街地郊外への夜間の外出制限を実施し、市街地郊外と市街地を分離する壁の建設と要塞化を行う事に決まった。壁の建設と要塞化については、ミカドアイHDの債務者集団を労働力として活用する事になる。
同日夜
ニュー・ダーウィン総督府医務室
「ケント、連れてきたわよ」
「おっ! 約束通りに来てくれたんだね、アキコ先輩!! ルキナ王女殿下!!」
アキコがルキナを連れて医務室を訪れる。数日前、駐在武官兼軍医としてニュー・ダーウィンに赴任して来たケントは、新天地に知り合いが居て安堵していたという。
「あの・・・・未来一佐」
「ルキナ王女殿下、そんな肩苦しい肩書で呼ばなくて大丈夫ですよ。ケント。そうお呼びください」
「ですが・・・」
「ルキナ、ケントの言う通りにしなさい」
「はい。分かりました、お義母様」
「やれやれ、アキコ先輩には従順なんだねえ。まあ、ヒロシ先輩が未だに未練タラタラな魔性の女だし、王女を虜にしても・・・」
「お義母様に何て事を言うんですか!! 聖剣ツヴァイハンダーの錆にしてくれますよ!!」
「ルキナ!! 医務室で剣を抜くのが王女として素晴らしい行為なのですか!!」
「っ! も、申し訳ありません・・・冷静さを著しく欠いていました・・・」
「・・・(なんだか、本当の親子関係みたいだな〜既に一児の母でもあるってこともあるのかな?)まあ、座ってよ」
促されるように椅子に座るアキコとルキナ。
「それで、今夜は何用でしょうか?」
「いや、ちょっと君と話がしたくてね」
「はあ・・・・」
「単刀直入に話すね。ルキナ王女殿下、僕には君が死に急いでるように見えてならないんだ。アキコ先輩から聞いたよ? 匠城に援軍として行きたがってるって。その為に今日はアサルトライフルの扱い方を勉強しに行こうとして、断られたって」
やはり隠せなかったか・・・・観念したルキナは正直にケントに向き合う。
「それは・・・タクミさんは、聖王家の為に・・・私の為に逆賊マールに反旗を翻してくれたのです。忠義の将を見捨てては、以後誰も私に着いてくる事はないでしょう」
「流石は王の器。人々を導く事に重きを置いた発言。お父様やお母様も、大変素晴らしい世継ぎを持ったことだ」
一度も会った事のないルキナの両親を素直に褒めるケント。
「だけど、君はあまりにも他人に頼ろうとしなさ過ぎるよ。アキコ先輩も言ってたけど、自分で全てを抱え込んで、一人で悩んでる。実の御両親を喪い、辛いのはよく分かるよ。そして、ここニュー・ダーウィンに至るまでの間、壮絶な逃避行を強いられた事だろう。水、食料、睡眠。ありとあらゆる事に欠いたまま行軍を強いられ、心休まる事も、楽しい事もなかっただろう」
「はい。私は聖王位継承権第一位の王女ですから、弱音を吐くわけにはいきません。王というのは、常に孤独なのだと、お父様から教わりました」
「確かに、王というのは辛い立場だよね。成功して褒められる事はなく、失敗すればクーデターに遭って失脚。権威はあるけど、見返りが全く見合っていない。君のお父様の発言は、凄く的を射ていると思うよ」
「ありがとう御座います。亡き父も、空の上で喜んでおりましょう」
「だけど、今はどうなの?」
「・・・・・・どう、というのは?」
「当ててあげるね。今の君は悩んでいる。それは何故か。それは、今の生活が楽しいからだ」
「・・・・・・」
「図星だね。もう二度と手に入ると思わなかった楽しい日々。一日でも長く、この楽しい日々が続いて欲しい。そう思ってるよね?」
「・・・・・流石はお義母様が名医と御認めになられる御方です」
「名医なんて照れるな〜まあ、それ程でもあるけど」
「あるのかよ・・・」
「・・・・そうです。私はお父様やお母様と今生の別れをして以降、仲間達と命懸けの逃避行を強いられました。夜も休むことなく行軍し、怪我をしても止まる事は出来ず、風邪を引けば意識が朦朧としながら歩くしかありませんでした。そして時折現れる追手や懸賞金目当ての庶民、更には山賊や盗賊と戦わなくてはなりませんでした。楽しいと思う事なんて、忘れていたんです。でも、ここニュー・ダーウィンに来てから、全てが変わってしまいました。衣食住は聖都イリースの時よりも質、量ともに良く、何よりお義母様からは無償の愛を思う存分受け取れます。私、今の生活が楽しいんです」
「やっぱり。でも、話にはまだ続きがあるよね? 楽しいのに、ルキナ王女殿下は浮かない顔をしているよね?」
「だって! 祖国は今や邪竜に支配され、民達は喘ぎ苦しみ、大変な状況だと言うのに、民を導く立場にある私だけが楽しいだなんて、良くないと思います!! だからこそ、気を引き締め、祖国の為に尽くす者達を直ぐにでも救いに行かないと!!」
「・・・・・(ああ、これが上に立つ者の辛さと孤独さなんだろうな・・・何て健気で、可憐で、強く、美しく、凛々しい姫君なんだろうか・・・・)」
「姫、お気持ちはよく分かります。やはり貴方は、アオネイア聖王国を率いるのに相応しい存在であると確信しました。ですが、だからこそ今は耐えて頂きたいのです。闘いの事は、我々に任せて、姫はあの時喪われた日々を少しでも取り戻して頂きたい。四六時中張り詰めていては、身体も心も持ちません。今は、我等日英とビャクヤ家を信じ、待っていて頂けますか? もし、また悩みがあれば何時でも医務室にお越しください」
「分かりました。本日はありがとう御座いました。流石はお義母様が認めた名医でした。少し気持ちが楽になった気がします」
「そうかい? なら良かったよ」
「しかし医者というのは、傷を治すだけではないのですね」
「いいかいルキナ王女殿下、病というのは、表面的に見える傷だけではないんだ。表面的には見えない、心の傷。それこそが本当の病だと僕は思う。僕は地獄のウクライナ戦線や東京動乱の最前線で医療活動に当たってきた。魔法があれば、治してやれるのに・・・そう思いながら治療を断念した事も多々あるよ。自分の無力さを痛感せざるを得なかったね。だけど、一番辛い病というのは、過去の悲劇の記憶が繰り返される病、PTSD心的外傷後ストレス症なんだ。ルキナ王女殿下は、その兆候が見られる」
「・・・・詳しく教えてください」
「延長を希望か。良いよ、その為に今日は僕もアキコ先輩も時間を作って来たんだからね」
歯を見せながら笑みを浮かべるケント。
「まず、PTSDとは何か。米国精神医学会診断統計マニュアル第5版の基準で話をするんだけど、ああ米国って言うのは異世界転移前の我が国やイギリスの宗主国・・・・同盟国の事だよ」
遠回しに日英より強い国が存在した事を示唆するケント。
「PTSD(心的外傷後ストレス障害Post-Traumatic Stress Disorder)とは、実際にまたは危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる、特徴的なストレス症状群のことをさす。
出来事の例としては、災害、暴力、深刻な性被害、重度事故、戦闘、虐待などだね。そのような出来事に他人が巻き込まれるのを目撃することや、家族や親しい者が巻き込まれたのを知ることもトラウマ体験となる。また災害救援者の体験もトラウマと成り得るよ」
「・・・・・なるほど?」
「まあ、簡単に例えるね。ルキナ王女殿下は、実の御両親や親族を喪ったよね? そして、アキコ先輩に過剰とも言えるほど抱き着いたり、愛を求めたりしてない?」
「・・・・・心当たりしかないです」
ニュー・ダーウィンにてルキナはアキコと会って以降、毎日彼女の隣で過ごしていた。そして事あるごとに愛を求め、無言の圧を掛けたりもしていた。
「それはね、無意識の内に今生の別れになった日の事を思い出してしまっているんだよ。それで、確認の意を込めてアキコ先輩に愛を求める。一時はそれで寛解するけど、暫くしたら再発してしまう」
「・・・・どうしたら良いのでしょうか?」
「薬を出すのは簡単だけど、僕はあまり使いたくないんだよね。君は16歳。まだまだ親に甘えてよくて、守られるべき年齢だ。いや、自立はするべきなんだよ。自立出来ている点、ルキナ王女殿下は素晴らしいよ。だけど、もっと自分に正直になって良いんだ。王女としての鎖が君を正直にさせていない。この際、王女としての立場を忘れよう。そして、本当の親子のような関係をアキコ先輩と築いて、明日を、未来を、前だけを見て進もう!! 運命は変えられる。君が望むのなら、ね」
優しい笑みを見せながらルキナの右手を両手で優しく包むケント。
「・・・・・(流石はヒロシの精神安定剤。患者の扱いが上手いこと上手いこと)」
ふっ、と少し笑うアキコ。ルキナの事を背後から優しく抱き締める。
「だからね、今のこの時だけは・・・私を本当の母だと思って接しなさい。例え血が繋がっていなくとも、私達の絆は絶望の運命よりずっと強い。そう信じているわ」
「そうそう。少しずつで良いので、過去を一歩、また一歩乗り越えて行きましょう」
「・・・・・ありがとう御座います。何だか、憑き物が落ちたような・・・・すっきりとした気持ちです」
「それは良かったよ。でも、君の仲間にはもっと深刻な子がいてね・・・・・・・明日面談予定なんだよ」
「・・・・・・もしかしてなんですが、その子はナンパばかりしていて、黙っていればイケメンで、常に笑っていませんか?」
「そうだね。僕がここに着任した時から何か変だな、とずっと思ってはいたんだけど、本当に常に笑っているんだ。今朝の健康診断でやんわりと聞いてみた時は大丈夫だって言うんだけど、大丈夫というのは大丈夫じゃない人間が使う言葉だからね。絶対何か闇を抱えているだろうな、と思ってカウンセリングをさせるよう、総督府に要請したんだ」
「そうですか。未来一佐・・・・ケントさんにはお手数をお掛けしますが、彼はナンパばかりしていて、女好きにしか見えませんが、本当は良い子です。なので・・・」
「分かってるよルキナ王女殿下。変な事は」
ウーウーウーウー!!
『此方は、ニュー・ダーウィン総督府です。郊外にて、アンデッド兵の出現が確認されました。住民の皆さんは、不要不急の外出を控えてください。外出中の方は、速やかに近隣の建物に避難し、扉や窓を施錠してください。万が一、アンデッド兵を発見した際は、身の安全を確保した後、近隣の警察官、または駐留軍に連絡してください』
「今日も出たみたいだね」
アンデッド兵が出現した事を報せる防災無線がニュー・ダーウィン市内全域に流れる。総督府医務室の窓からも、駐留するイギリス軍や神聖ミリシアル帝国軍が慌ただしく動く様子が見て取れる。
「あの魔法陣がそうね」
アキコが指さした先には、淡い水色をした魔法陣があった。その周りの雲は赤黒くなっており、如何にもヤバそうな雰囲気を醸し出していた。
「あの魔法陣に攻撃って出来るのかな?」
「ジャベリンでも撃ち込むの?」
「ジャベリン? ああ、使った事あるよ。あれロシアのT-90をぶっ壊してやったなあ〜懐かしい懐かしい」
震えるルキナをアキコとケントが優しく頭や背中を撫でる。
「ここはニュー・ダーウィンで一番安全な場所だから、安心しなさい。お母さんもいてあげるから」
「・・・・はい。大変恥ずかしいのですが、寝付けるまで隣にいてくれませんか?」
「勿論。ケントも一緒にいてくれるから、安心して寝なさい」
「ありがとう御座います」
「さあさ、良い子は寝るんだよ〜」
ニュー・ダーウィン郊外
ニュー・ダーウィン空軍基地
「夜間の外出禁止令?」
「でもそんなの関係ねえ! でもそんなの関係ねえ!」
「「はい、軍人〜!!」」
相変わらず、ウッチーとハイネは空軍基地の格納庫で悪ふざけをしていた。拡張が続けられているニュー・ダーウィン空軍基地では、ムー空軍及び同国から払い下げの上で南方世界諸国連合軍に配備された紫電改2やJu-88スツーカ2を中心とした二戦級の戦闘機や爆撃機が配備され、最低限の制空権確保が可能になっていた。
「ハイネそう言えばさ、今スツーカあるよね〜? あの魔法陣、焼いてかない?」
「37mm砲を叩き込んでみるのか? 面白え、その話、乗ったぜ!!」
そうと決まれば出撃だ。ウッチーとハイネは格納庫を走り、スツーカ2の駐機エリアに向かう。
「誰もいねえな?」
「まあ、夜間に爆撃機なんか飛ばさないだろうからな」
その中でピカピカに整備された37mm砲搭載型のJu-88スツーカ2を2人は見つける。ウッチーが慣れた手付きでエンジンを始動させると、ハイネが格納庫の扉を開扉する。
「よし、行けるぜ!!」
滑走路に向けて走り出したスツーカに飛び乗るハイネ。彼は後部機銃座に座り、操縦や37mm砲の操作はウッチーが担う。
「此方、内闘也一佐空佐。聞こえるか管制塔? あの魔法陣に37mm砲を叩き込んでやりたいので離陸する!!」
『此方管制塔。面白そうなので許可する。ただし、名目は試験飛行とし、37mm砲の発射は試験飛行の一環であるものとする。良いな?』
まさかの管制塔もノリノリである。この時管制塔でも、
「あの魔法陣にミサイル叩き込んだらどうなるんだ?」
と話題になっており、実際に実弾の試射を計画していた。そんな中、まさかの自発的の実弾発射提案。受け入れない理由などなく、更にムーでは伝説のパイロットとして名高いウッチーが操縦する。
「お前ら!! オグリと並ぶ伝説のパイロットが自らの手でバケモンに手を下すらしいぞ!!」
「ダニィ?! イイナ!!」
「やっと能天気な邪竜も我等の恐ろしさに気付く時が来たようだな」
「腐★腐★」
「申し上げます!! 魔法陣からアンデッド兵が出現! 更なる出現の可能性ありと現場から報告がありました!!」
「よし、内一等空佐にアンデッド兵並びに魔法陣への実弾試射を命じる!!」
「汚物は消毒すべし!!」
と、まさかの全会一致で出撃が承認。スツーカが独特のエンジン音を響かせてスクランブル発進。スツーカは魔法陣に向けて前進する事になる。
「あれが魔法陣か!!」
「地上のアンデッド兵は、地上部隊が掃討中だ。俺達は・・・」
「・・・・やるか」
ニヤリと笑うと、ウッチーは機首を魔法陣へと向ける。そして、
「利息、受け取っておくんだよ〜!!」
主翼の両端に装備された37mm砲が火を噴く。砲弾は全弾魔法陣に命中。アンデッド兵が出てきた場所から魔法陣内部に突入し、爆発を起こす。
「ぎゃあああ!!」
女性の悲鳴が辺り一帯に木霊する。魔法陣が爆発を起こし急速に消えていく。
「何か聞こえた〜?」
「女の声が聞こえたな」
「もしかして、邪竜は女だったりして?」
「魔法陣の向こうに邪竜自らが居るとは思えねえけどな」
「まあ、何か魔法陣が爆発して消えたし、帰投するかな〜」
原理はよく分からないが、魔法陣に攻撃を叩き込むと爆散する。という結果が得られた事から、魔法陣は発見し次第、哨戒任務中の紫電改2やJu-88スツーカ2で迅速に攻撃するという事になった。その為か、魔法陣はニュー・ダーウィン周辺ではめっきり見られなくなるのである。
「代わりに別のところに出まくるとか?」
「それはあるな」
ペレディア帝国従属化
アオネイア聖王国聖都イリース
イリース城医務室
「赦さない!! この私を傷付けた私を絶対に赦さない!!」
邪竜の器、簒奪王マールは医務室で怒りを顕にする。例え、神に祝福されし土地であっても平和ではない。その事を知らしめるために彼女自らが魔法陣を生成し、ニュー・ダーウィンにフレースヴェルグを送り付けていたのである。
「まさか敵に魔法陣を攻撃する手段があるとは・・・だが、私が真の邪竜として覚醒すれば・・・・」
身体中大怪我をするも、一命を取り留めるは流石は邪竜の器と言うべきところ。医務室ではアニュンリール皇国から派遣されている研究員らが最新鋭の治療と称してデータ取りを行っている。マールがそれを知る事はなく、最終的には同国から見捨てられてしまうのである。
「・・・・・(この小娘は邪竜の器として最的確。我が国最新鋭の魔導技術により、覚醒を促進しているにも関わらず、その進行は頭打ち。一体何が・・・まさか・・・?!)」
アニュンリール皇国の研究員は地下牢の様子を見に行くよう指示を出す。
イリース城地下牢
「・・・・・・ここに閉じ込められ、生かされているのは何日目になったのでしょうか?」
イリースが陥落したあの日、自決を試みたにも関わらず死ねなかったルフレ・アオネイア。虜囚となり、マールの手によって地下牢で飼い殺しにされていた。かつてほどよく肉付きの良かった身体は痩せ細り、魔力も殆ど生成する事が出来ないレベルにまで弱っていた。
「ルフレ〜」
「!?」
聞き覚えのある声。忘れる事なんて出来ない声。ペレディア帝国時代からの付き合いであるあの声。
「時間がかかっちゃってゴメンね〜」
「ヘンリー?!」
ルフレは鉄格子の向こうに立つ呪術師の姿に驚く。そこには、生死不明で遺体すら見つからず、戦死と判定された最凶の呪術師が両足で立っていたからである。
「さあ、僕と一緒に逃げようよ〜」
(続く)