月読尊城本丸執務室
「あれがタクミが率いる精鋭部隊か」
本丸から城下を進軍するビャクヤ軍を見つめるベレト。
「ビャクヤ軍は侍の集団と聞いていましたが、違和感を覚えますわ」
傍らに控えるベレスは率直な感想を述べる。彼女がイメージしていたビャクヤ軍というのは、鎧や兜を身に着け、刀や槍、弓で武装しているものだった。しかし、眼前に見えるタクミが率いる2000のビャクヤ軍は、鎧や兜を身に着けておらず、身軽な軍服を着用している。知っている人が見れば、南方戦線に従軍する大日本帝国陸軍に似ているように映るだろう。
「あの鉄の筒、聖都イリースに駐留するアニュンリール皇国の軍隊が装備している物に似ている気がします。確か、小銃とかいう、敵に向けて鉄の弾を目にも止まらぬ速さで放つ飛び道具だとか」
ベレスが指差した先には、旧日本軍が使用した38式歩兵銃に酷似した武器を持つ兵士の姿があった。異世界残留日本兵の末裔であるビャクヤ家では、彼等が遺した旧日本軍や英国軍が使用していた兵器のリバースエンジニアリングを行なっていた。工業力や資源の問題から、完全に再現とは至らなかったものの、充分な殺傷能力を有する小銃、「ビャクヤ式歩兵銃」が完成した。弾薬についても製造が行われ、職人による緻密な手作業にて生産態勢を確立した。完成した小銃と弾薬は、毎年一定数が特産品として聖王家に献上され、ビャクヤ家での製造の独占が許されていた。先のイリース城の闘いでは、聖王家に献上された「ビャクヤ式歩兵銃」がビャクヤ軍により使用され、反乱軍に対して多大な犠牲を強いることに成功していた。なお鹵獲を避けるため、残った「ビャクヤ式歩兵銃」や弾薬は爆破処分されている為、マールやペレディア、そしてアニュンリール皇国は鹵獲する事が出来ていない。
「牽引式の大筒もあるのか・・・ビャクヤ軍の精鋭中の精鋭は全く別物なのだな・・・」
旧日本軍が運用していた一式機動四十七粍速射砲に酷似した牽引砲が出現する。無論、本砲をリバースエンジニアリングし、「ビャクヤ式速射砲」として配備されている。この砲は聖王家に一門献上されており、やはりイリース城の闘いで実戦投入。聖王の自害までの時を稼ぐ事に成功し、最後はお約束の爆破処分された。
「城下の者達は、先程まで一揆をしていたのが嘘みたいね」
「それだけ、ビャクヤの統治を懐かしんでいるのだろう」
月読尊城城下町メインストリート
「おお!! ビャクヤの棟梁、タクミ様じゃ!!」
「あれは噂のビャクヤ家の精鋭部隊だ!!」
「神話で見た太陽神の部隊に似てる!!」
「そりゃあ、おらが領主様は太陽神の末裔なんだからな!!」
「ありがたやありがたや・・・」
沿道に集まった領民らが両手を挙げ、タクミ達を歓迎する。部隊を率いるタクミは白馬に跨り、何時もの兜や甲冑ではなく、旧日本軍の上級将校を彷彿とさせる軍服に、「太陽神弓」、そして亡き兄から引き継いだ「太陽神刀」を装備している。
「・・・・・」
沿道に集まる領民に手を振るタクミ。領民らの歓迎具合は天を突く程である。
「バンザーイ!!」
「ビャクヤ家バンザーイ!!」
「タクミ様〜!! こっちみて〜!!」
「・・・・やれやれ、まだ戦は始まったばかりだと言うのに・・・」
少々呆れながらも、自分を信じて待っていてくれた民に手を振り、笑顔で応えるタクミ。
「だからこそ、この闘いに負けるわけには行かないんだ・・・一族の仇は・・・僕が・・・討つ!!」
月読尊城本丸執務室
「タクミ殿、よくぞ参られた・・・いや、戻られたと言うべきか」
「ベレト殿こそ、よくぞ当家並びに聖王家のお味方になって頂けた。やはり、聖王家御抱えの教師は先見の明があるね」
互いに若干の笑みを浮かべながら握手を交わす。
「その言葉、亡き父も彼の世で喜びましょう。しかし、奴等も哀れなものです。日本国やグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の実力を知らないのですから」
聖王家御抱えの教師、アイスナー家の嫡男であるベレト。父と共に聖都に滞在し、見習いとして経験を積む傍ら、各地の諸侯から差し出された人質らへの教育を担当していた。教師である以上、最新の情報に触れ、見聞を深めておかなくてはならず、機密情報となると国許に戻るしかなく、聖都と国許を行き来する事もしばしばあった。先のイリース城の闘いでは、一部の教え子を連れて国許に帰っていた為に戦火を免れる事が出来たが、多勢に無勢。臣従を余儀なくされていた。その過程で既存の所領は良質な魔石を産出するヌマタ群を除き召し上げられ、現在の月読尊城周辺に転封となった。唯一残ったヌマタ群も、所領なのは形ばかりで実質的には在青アニュンリール皇国軍の傀儡となったマールの支配下にある。アイスナー家の支配下にあるのは屋敷ぐらいなものであり、今回の離反に伴い、屋敷は放棄し、撤退している。
「当家も独自の情報網で大英帝国について知った。そして即座にあれを敵にしてはならぬ。むしろ速やかに臣従し、ルキナ王女殿下への忠義を示すポーズを取るほうが良い、と」
「その点は同感だね。全く、大英帝国を敵に回すなんて、愚かだよね。待っているのは死だけなのに」
「それを望んでいるのだ、奴等は。致し方ない」
「そうか・・・さて、そろそろ本題に入ろうか。今の状況を知りたい」
「それについてはこれを」
「現在、我等がいるのがここ月読尊城。ここから先、一揆勢が籠城している須佐之男城に至るまでには、伊弉諾城、伊奘冉城、三国砦、黄昏砦、天地砦、切札砦、そして益荒男城がある。何れも自分が行なった調略には応じておらず、それどころか先生と手合わせ願えるのは、一生の誉、として徹底交戦の構えだ」
「須佐之男城は補給線が繋がっていないが、大丈夫なのか?」
「その点については問題ない。須佐之男城には元々、食料武器弾薬の蓄えが充分ある。加えて、当家の家臣・・・正確には教え子を2人程守将として派遣した。そう簡単には落ちぬ。それより警戒すべきは・・・」
「黒城か?」
「ああ。黒城にはタクミ殿の忠臣ヒナタ殿が率いる3000が籠城しているが、周囲を20000のペレディア・アオネイア連合軍に包囲されている。連合軍の士気は低く、落ちる可能性はないが、気になるのがアニュンリール皇国軍の動きだ」
「アニュンリール皇国? 知らない国だな」
「タクミ殿は、聖都におられなかった故、致し方ないが、ペレディアと同盟を結び、マールを担ぎ上げた国がアニュンリール皇国だ。彼の国の軍が動き出したとの情報がある。到着には3ヶ月程かかると思われるが、自分の予想では黒城に攻めてくるのではないかと考えている」
「そうなると・・・・匠城の守備に回す予定であった増援は黒城に振り向けるべきか・・・・かと言って須佐之男城救援を諦めて帰るわけにもいかないしな・・・・」
「故に至急、大英帝国に援軍を乞う他ない。そして、須佐之男城は我等だけで救援しなくてはならぬ」
「既に5000の援軍が黒城に向かっているが、それでは不十分なのか?」
「黒城だけなら充分かもしれないが、アニュンリール皇国軍は10000との情報がある。加えてペレディアに駐留している海軍部隊がニュー・ダーウィンに向かい始めたとの情報もある。ルキナ王女殿下を直接狙う可能性もある」
「それは速やかに大英帝国に報告しないとね。海軍部隊に関しては、我々にはどうにも出来ないし。まあ、我等はまず伊弉諾城を攻略しないと」
「ああ。既に城内に内応者を確保した。我等が攻め込めば、容易く落ちよう」
タクミとベレトは2500の兵を率い、月読尊城を発った。また、総督府のセレナ宛にペレディアに駐留するアニュンリール皇国海軍が動き出している可能性があるとの情報を送った。これを受けて、イギリス政府は日本政府に対して、海軍部隊の援軍を要請。これを受けて日本政府は、カルトアルパス沖合にて公試運転中だったイージスシステム搭載艦の一番艦「はるな」を旗艦とし、護衛艦「ながら」、「たつた」、「よしい」、「ふゆづき」の5隻を派遣。アニュンリール皇国海軍の迎撃準備を行うのである。
カムイ城本丸執務室
「黒城の状況はどうじゃ?」
カムイ城の戦いで見事敵軍を撃退したマサユキは側近らに状況を確認させる。
「黒城の城将ヒナタ殿は、3000の精鋭で20000の敵軍を何度も跳ね返している上に夜襲をかける等敵を眠らせないようにしているようです」
「既に南方世界諸国連合軍5000が黒城に向けて進軍中です。これらで挟み撃ちにしてしまえば、黒城は救援出来るかと」
「ああ、目先の救援はそれで完了出来るな」
「・・・・その先を見据えているのだな?」
いつの間にか本丸執務室に現れたイデウラ。マサユキは彼を見て笑みを浮かべる。
「おお、ちょうど良いところに来たのう。んで、何か収穫はあっか?」
「ああ。聖都イリースに放った忍からの報告だ」
イギリスと肩を並べるスパイ育成大国であるサナダ公国。国交樹立以降、両国は諜報員の育成や派遣、情報共有に関する軍事協定を締結。サナダ公国はイギリスと合同で各地にサナダ忍軍を派遣し、情報共有を行う事で、イギリスからは軍事・財政・技術支援を受け取っていた。サナダ公国がイキスギ帝国を介して国交を樹立した際、この軍事協定に基づいてイギリスはイキスギ帝国名義で支援を行い、後に「サナダ城の戦い」と呼ばれるパーパルディア皇国によるサナダ公国侵攻戦で、これを完膚なきまでに撃退したサナダ公国はパーパルディア皇国との和議を勝ち取る事になった。
「もう、首都にまで諜報員を送ったのか!! 流石はイデウラ殿。無線は傍受されておらんな?」
「むしろ、此方が傍受し放題だ。どうやら奴等には、無線が傍受されるという概念がないらしい。中継地との無線は暗号化された形跡すらない。これでは逆に傍受している側が偽情報を疑うレベルだ」
イギリスの要請を受けたサナダ公国は、アオネイア大陸各地にサナダ忍軍の派遣を開始していた。カムイ城から聖都イリースまでを結ぶ街道沿いに諜報員を配置し、日夜無線の傍受やスパイ活動に勤しんでいた。同時に現地人の生活の困窮ぶりを調べ、いずれ来る国連軍による新大陸解放作戦に向けた下準備を行っていた。既に確保すべき街道や都市は選定されており、日英の上層部で作戦の立案や補給計画、更に部隊配置について検討が開始されている。準備完了まで2年かかるとされており、それまでは外交交渉にて時間を稼ぐものとされた。
「なんでも、奴等の本国は大荒れだ。鎖国して魔帝復活までは耐え忍ぶ体制派と積極的に第三文明圏方面に進出して資源確保を主張する皇道派が対立。皇道派がクーデターを起こす可能性すらあるそうだ」
「クーデターか・・・・まあ、我等にはどうにもならん事じゃな。むしろ、クーデターを起こして貰って、我等に戦いを挑んでくれた方が楽かもしれん」
「それはそうと、聖都イリースに駐留するアニュンリール皇国軍10000が動いた。黒城を経由し、匠城を攻略するようだ。そしてニュー・ダーウィンを直接狙うべく、ペレディアに駐留する海軍部隊も動き出した。どちらも3カ月後には目的地に着く予定らしい」
「なんと! それは誠か!!」
「なれば、速やかに黒城を救援せねばなりませんな」
「ああ。黒城周辺から敵を一掃し、防衛線を構築せねばならん。イデウラ殿に頼みがある」
「何を望む」
「アニュンリール皇国軍相手だと、黒城の南で敵を待ち受ける事になるだろう。しかも装備は我等にやや劣る程度。これまでの旧態依然とした連中とは違う。城に籠る作戦は使えん。そうなれば、要塞陣地を構築しておく必要がある。それに適した場所を探すのじゃ。この際、ビャクヤ家の所領の外側まで侵攻してもよい。将来的には取り戻す土地。問題なかろう」
「承知した」
イデウラは一瞬にして姿を消した。
「さて、まずは黒城を救援じゃ。出陣じゃ!」
黒城本丸執務室
「敵はあれだけの数がいるのに、たった3000の軍勢しかいないこの城を攻め落とせないなんてね」
城代として黒城防衛の重責を担うヒナタは、本丸から敵軍を見下ろす。
「さて、今夜は何処に夜襲をしてやるかな? そろそろ警戒してくる頃だから止めとくか?」
この日、城方は夜襲を行わなかった。しかし、攻城方は夜襲を恐れてまともに眠る事が出来ず、精神をすり減らされていた。更に斥候からは、異世界の軍隊が援軍として向かって来ているという報せがもたらされる。しかもその中には自分達を散々に打ち破ったマサユキ・サナダがいる。加えて聖都からは黒城を攻略せよとの命令。士気はさらに下がり、崩壊寸前であった。
黒城攻略部隊本陣
「こうなれば、一気に黒城に攻め込みましょうぞ!!」
「しかし、兵の士気はだだ下がり・・・加えて敵の増援が接近しております!!」
「伝令!! 第三小隊が部隊ごと敵に投降しました!!」
「伝令!! 第六大隊が無断撤退した模様!!」
黒城攻略部隊の指揮系統は完全に崩壊していた。そもそも、連合軍はアオネイアとペレディアの寄せ集めでしかなく、指揮系統も装備も統一されていない。そして彼等は何のために戦うのか。それさえはっきりしていなかったのである。その後、黒城攻略部隊は黒城の城兵と南方世界諸国連合軍に挟み撃ちにされて全滅。途中、アンデッド兵が召喚される等ハプニングはあったものの、大きな被害を受ける事なく、黒城方面の脅威を一掃したのである。
黒城本丸執務室
「そなたが、黒城城代のヒナタ殿であるか?」
「ああ!! 俺がビャクヤ家当主、タクミ様の忠臣、ヒナタだ!! あんたが、カムイ城で敵を散々に追いかけ回した名将、マサユキ・サナダか?」
「如何にも。儂がそのマサユキじゃ。儂が来たからには、この黒城が落ちることはない。安心されよ」
「これはありがてえ!!」
「しかし、なんと元気のある若き侍じゃのう! ノブユキもこれぐらい元気でいて欲しいものじゃ!! 」
まるで我が子を見るかのように笑みを浮かべるマサユキ。異国の地と言えど、同じ日本人を祖先に持つ者同士、通じ合うものがあるようだった。
「さて、本題に入りたいがよろしいか?」
「おうよ!!」
「我軍の忍びによれば、敵はこの黒城を落とし、匠城を攻略する予定だそうだ。敵の装備を鑑みるに、この城では戦えん。黒城の南で敵を待ち受けたい。敵を待ち受けるのに、適した場所を知りませぬか?」
「敵を待ち受ける・・・か。生憎俺は迎撃戦というか、考えるのが苦手で・・・ない脳みそを絞って考えるなら・・・騎馬隊が上手く使えない急な斜面や沼地が多い、サトウガオカぐらいしか・・・・」
「ほう・・・急な斜面や沼地か・・・具体的にはどのような地形なのだ?」
「黒城方面には複数の丘があって、聖都方面から突っ込んできた敵は、丘の上から弓や魔法で狙い撃ちにされる、防御側が圧倒的に有利な地形だ。そして唯一の街道も、周りの丘から狙い撃ちに出来る。オキナワ出身の御先祖様が同地をシュガーローフと呼んだりもしていたかな。まあ、大英帝国からしたら、役に立たないかもしんねえけどさ」
「・・・・いや、これは良いことを聞きましたぞ!! ヒナタ殿!! 感謝致しますぞ!!」
「マサユキ」
「うわっ!」
何の気配もなく現れたイデウラにヒナタは純粋に驚く。いつもの事だと気にしないマサユキは慣れたように報告を受ける。
「おお、イデウラ殿!!」
「お主がヒナタ殿から聞いたサトウガオカ。あれは良い土地だ。しかも、それぞれの丘を繋ぐ古い地下通路もある。補修すれば、全然使えるぞ。早速、我軍が制圧を完了し、工兵部隊に工事を命令した。お前から、日本国と新生グラ・バルカス帝国に支援を要請すれば、戦闘に間に合うだろう」
「仕事が早いのう!! ヒナタ殿、最前線の防衛はこのサナダにご一任願いたい」
「おうよ!! 俺は何をすれば良いんだ?」
「ヒナタ殿は黒城の城代。この城でどっしりと構えて頂きたい。むしろ、今までの戦で休む暇もなかったであろう。ゆっくり休まれよ」
要は邪魔だから出てくんな。という意味だが、主であるタクミを守る事にしか脳がない彼は嫌味に全く気付くことなく、
「おうよ!!」
と返したという。
「何なら、白凰砦にいるオボロに会いに行っても良いか? マサユキがいるなら、黒城は落ちねえんだろ? アイツの顔をそろそろ拝みてぇし」
「城代が良いと言うなら、良いのではないか?」
「よっしゃ!! じゃあ、この城はサナダの方々に任せるぜ!!」
翌日、黒城に駐留していたビャクヤ家の部隊は最低限の部隊を残して匠城へと引き揚げた。その他、カムイ城で待機していた部隊が前進。更に貨物線の延伸工事が開始され、サトウガオカから黒城を結ぶ線の防衛陣地を強固にするべく、24時間態勢で工事が続けられるのである。
英領カルトアルパス
カルトアルパス総督府応接室
「ランランルー総主教、お待ちしておりましたぞ」
「なんのなんの。ハミルトン殿からの要請とあれば、行かない理由はありませぬ」
「うむ。では、例の策を実行に移す。準備はよろしいか?」
「何時でも行けますぞ」
「よし!」
応接室での密談を終えたハルトは、総督執務室に陸海空三軍に加え、警察機構の幹部を集める。
「諸君らにこれより大英帝国カルトアルパス総督、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンからの命を伝える。カルトアルパスにて乱暴狼藉を働き、市民生活を脅かすのみならず、当局への申請なしに宗教施設を建設し、解体命令に従うどころか武装化を進めるアッラー教原理主義を自称するテロ組織に対する強制捜査を開始する!! これは大英帝国首相、キア・スターマンからの了承を受けたものである!!」
大英帝国と世界の覇権を巡り水面下で対立するアニュンリール皇国は従属国であるアッラー・エルサレム帝国を利用し、同国人を第三国経由でカルトアルパスに流入させていた。彼等は時代錯誤な原理主義を是としており、それを実現する為であるのなら犯罪行為も辞さない過激派集団であった。表向きはアッラー教の一部であるとし、信仰の自由を盾にこれまでは当局からの取り締まりから逃れていた。一方でカルトアルパス総督のハルトは徹底的な弾圧を望んでおり、度々警察機構の幹部らに強制捜査の為の準備をするよう指示を出していた。加えて市民からは、
・礼拝と称して路上を堂々と集団で占領している
・あまりにも数が多く、市民側では太刀打ち出来ない
・猫は不浄な生き物であるとし、室内で飼っていた猫を惨たらしく殺された
・幼女や美形の男子を平気で慰み物にしている
・いつの間にか宗教施設が建設されていた
・宗教施設の中から銃声が聞こえた
・特定の時間になると、大声で礼拝が始まる
などの苦情が総督府宛に届けられていた。とても警察機構のみでは手に負えない。更に宗教絡みである以上、宗教弾圧と誤認されぬよう手配をしなくてはならない。その下準備に手間取ったが、アッラー教総本山であるリグル王国からの全面協力を取り付ける事が出来た。そして遂に、その時が来たのである。
とあるアッラー教原理主義者の宗教施設
「頭! 大変でっせ!!」
「何だ何だ? 何があった?」
「総督のハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンがテレビで声明を!!」
男らはテレビを点ける。そこにはカルトアルパス総督府総督執務室からの緊急中継による声明発表が行われていた。総督執務室には、大英帝国国旗、英領カルトアルパス旗、そして彼の故郷スコットランドの旗が掲げられている。
「カルトアルパスにお住まいの大英帝国臣民の皆様、こんにちは。私は大英帝国カルトアルパス総督府総督のハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンです。私は、偉大なる大英帝国国王チャールズ3世陛下の代理として、カルトアルパスの統治を担ってまいりました。様々な困難がありながらも、皆様の御協力もあり、何とか統治を続けて参りました。しかし、今カルトアルパスは信教の自由を盾に、アッラー教原理主義を掲げ、乱暴狼藉を働く武装勢力により急速に治安が悪化し、臣民の皆様の生活が脅かされる事態に至っています。私はあらゆる宗教に対する信教の自由を守護するカルトアルパスの統治者として、彼等に対して法の遵守と他の宗教に対する尊重を求めたが、彼等はそれを拒絶し、更に宗教に対する課税の免除を悪用し、最早独立国としか言えぬ状況となっている!! 総督府の調べにより、奴らが武装し、大英帝国による統治体制を根底から覆さんと画策している!! このまま座視していれば、我が国が統治する前から慎ましくこの地に順応しながら生活している真のアッラー教徒に対して不必要な軋轢を作り出すのは明白!! 私は宣言する!! 民の暮らしと信教の自由を守護する大英帝国国王の代理として、アッラー教原理主義を標榜する連中をテロ組織として認定すると共に、陸海空三軍とカルトアルパス警察に対して、カルトアルパス全土の強制捜査を開始する!!」
ハルトの宣言を狼煙に、カルトアルパスに駐留する大英帝国軍と支援要請を受けたリグル王国軍がカルトアルパス各地のアッラー教原理主義者の拠点に対して、武力行使を開始する。
「頭!! 大英帝国軍の戦車が突入の構えです!!」
「戦車だけではねえ!! 装甲車も多数!!」
カルトアルパス全土の宗教施設に籠城するアッラー教原理主義者の教徒は、アニュンリール皇国の支援を受けて武装しており、激戦が展開された。しかし戦車や装甲車を持たず、地元住民のみならず同じアッラー教を信仰するアッラー教世俗派を敵に回した彼等に味方する者はおらず、総督府に対する抗議活動などは一切起こらなかった。
「過激派の拠点を更地にしろ!! ブルドーザー突撃!!」
日本製のブルドーザーを重武装化したカルトアルパス駐留軍仕様のブルドーザーが多数突入する。原理主義者達は小銃で応戦するも、随伴する戦車や装甲車に機銃掃射されるか、ブルドーザーにより物理的に潰されるかされて昇天する。
「抵抗した場合は市民と隊員の命を守る為、脅威を徹底的に排除せよ!!」
カルトアルパス総督府からは、抵抗した場合は生け捕りにする必要はない。殺処分せよ、という非情な命令が下っていた。後に日本の左派勢力からは信教の自由を軽視し、市民を虐殺した悪逆非道として、東京の大英帝国大使館前で抗議活動が起きる事になるが、本人は全く気にしないどころか自身のSNSにて、
「安全なところからスマホポチポチするだけの簡単なお仕事、お疲れ様です!!」
「カルトアルパスに住まう大英帝国臣民並びに外国人の方々の生活を脅かし、昔から同地で順応しているアッラー教徒の皆さんに不必要な軋轢を産み出す猿に連帯とは・・・そんなんだから選挙に負けるんですよ?」
「流石は某サリン事件を引き起こした元凶だ。反省していないし、する気もない。貴方に日本国民が銃弾を飛ばしてこない事を感謝するべきだ」
「ニュー・ホンコン総督府は今日も協力的で助かります」
と、挑発的な発信をする事になる。1ヶ月間に渡って行われたカルトアルパス総督府によるアッラー教原理主義者に対する宗教弾圧は、大英帝国とアッラー・エルサレム帝国(但し、同国を大英帝国並びに国連は国家承認していない)、その背後にいるアニュンリール皇国との対立を更に深めると共に、大英帝国の狂犬ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンの名を更に世界へ広める事になったのである。
「・・・・・・・(これでルキナ王女殿下を迎え入れる準備の第一段階は完了した。速やかに混乱を収拾すると共に、カルトアルパス総督府にて即位の礼を行えるよう、本国と調整しなくては。本国ではキア・スターマンが退任し、アンディ・バウムが大英帝国首相に就任した。今回の軍事作戦は前任者の命令であるから割と好き勝手に出来たが、今後はどうなる事やら・・・・)」
伊弉諾城城下
「・・・・・特に妨害は受けなかったな」
「最初は罠を疑ったけど、罠にしてはお粗末過ぎるからね」
タクミとベレトは城下にて交戦状態になる可能性が高いと判断し、慎重に進んでいたが拍子抜けする程抵抗を受けなかった。それどころか領民が両手を挙げて歓迎し、簒奪王マールが送り込んだ代官らを殺害し、その首を献上しにくる有様であった。
「伊弉諾城はそこそこ堅い城だけど、確か内通者がいるんだろ?」
「ああ。守将の一人は私の教え子だ。その者が搦手の門を開ける。タクミ殿は正面から城を攻める素振りを見せて頂きたい。実際に攻撃する必要はない。成功すれば無傷で城が手に入る」
「そう。なら、ベレト先生のお手並みを拝見させて貰おうかな?」
「では、これで」
「ああ。ご武運を」
伊弉諾城側からよく見える位置にタクミ隊3000が布陣。これを見た伊弉諾城側は籠城の構えを見せると共に、搦手を除く全兵力をタクミ隊の方へと集める。しかし、搦手にはベレトが率いる500の精鋭が接近。しかし搦手の守将、アッシュ・デュエルはベレトの聖都イリース滞在時代の教え子であり、彼の誘いに応じ、搦手から彼を迎え入れると共に、本丸を占領する手筈を整えていたのだ。
伊弉諾城搦手
「アッシュ様!! あの旗指・・・間違いなくアイスナー家の家紋!! 更にベレト様の馬印もあります!!」
「よし! これよりアッシュ・デュエル隊300は聖王クロム・アオネイア陛下のご嫡子、ルキナ・アオネイア王女殿下に忠誠を誓う!! 搦手より先生を迎え入れ、本丸へと攻め上がれ!! 敵は城下の方にほぼ全ての兵を向けている!! まともな守り手のいない本丸なんぞ、恐るるに足らず!!」
搦手を守備するアッシュ・デュエル隊300の謀反により、伊弉諾城は大混乱に陥った。アッシュ隊とベレト隊は瞬く間に本丸を抑えると共に、武器庫と兵糧庫を確保。数では城方は2000と圧倒していたものの、前面のタクミ隊からの攻撃の可能性を考慮しなくてはならず、加えて武器庫と兵糧庫を奪われた事により士気が低下。タクミ隊の砲兵部隊が支援の為に砲撃を開始すると、士気が崩壊。伊弉諾城は陥落した。
伊弉諾城本丸
「先生!! 実に見事な城攻めでした!!」
「いやいや、君が自分の求めに応じてくれたからだ。君が裏切ってくれなかったら、多大な犠牲を払っていただろう」
「とはいえ、此方は刀傷を負った者はいても死者を出すことはなかった。完全に奇襲に近い戦いだったんだろうね。見事だったよ」
「タクミ殿にそう言って頂けて恐縮です」
「それで先生! 次はどの城を落とすんですか? 伊奘冉城ですか?」
「それについてタクミ殿と話し合ったんだが・・・次に狙うのは須佐之男城だ」
「ええ?!」
(続く)