日英同盟召喚   作:東海鯰

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新たな戦争の予感

パーパルディア皇国第三外務局

 

「あの計画はどうなっている!」

 

怒気のある言葉で怒鳴りつける。

 

「はい・・・間もなく皇国監査軍東洋艦隊22隻がグレナダに懲罰のため出撃します」

 

冷や汗をかきながら部下が答える。パーパルディア皇国第3外務局。皇宮を離れ施設の外側に位置するこの部署は、日本でいうところの外務省であり、諸外国との外交活動を行うが、パーパルディア皇国では第1、第2、第3の3つに分かれている。

 

第1外務局は、皇宮の内部に位置し、第3文明圏の5大列強国のみを相手として外交を行う。対外関係に細心の注意が必要であり、高度な政治判断が求められ、勤務員はエリート中のエリートである。

第2外務局は、皇宮の外側に位置し、列強国以外の文明圏に属する国家を相手にする。国力を後ろ盾にし、無理な要求を押しつつ、国益をいかに引き出すかが求められる。列強保護国もいるため、一方的に高圧的に出るわけにもいかず高度な判断が求められる。なので第1から漏れたエリートが属する。

第3外務局は文明圏以外の国、いわゆる蛮国相手の仕事である。いかに高圧的に出て、相手から絞りとれるかが試される。蛮国は量が多いため、外務局人員の6割がここに属する。更に独自の皇国監察軍と呼ばれる軍に命じ、懲罰行動を行わせる権限を有する。ロウリア王国の資源獲得計画の裏工作は国家戦略局が独自に動いて失敗した。投資額が大きいので隠しきれないのは明白であるが、現時点では内部で隠蔽されており、今の段階で日本やイギリス連邦王国という名の国を知る者はこの第3外務局の人間以外にはいない。

 

話を戻そう。

 

グレナダ首都セントジョージズ

グレナダ総督府

 

「パーパルディア皇国を名乗る輩が私を呼んでいる? どういうことだ? グレナダの首相なり、外相が対応するのではないのか?」

 

対ロウリア戦争が終結し、ハーク城にて休戦協定が締結されて1年後のことだった。講和会議も終わり、戦後統治が軌道に乗り始めてようやく安定が旧地球国家群に訪れた矢先、イギリス連邦王国の一員にしてかつてのカリブ海諸国の1国グレナダにパーパルディア皇国を名乗る1隻の軍艦・・・と呼ぶにはおこがましい軍船が現れた。魔信を通じてグレナダ沿岸警備隊の哨戒艇に対して、

 

「我々は第3文明圏の盟主パーパルディア皇国皇帝ルディアス様の使者を乗せた軍艦である。グレナダ沿岸警備隊とやらに命ずる。直ちに我らをお前達の首都まで誘導せよ。またグレナダ国王を会談に同席させよ。拒否した場合、我々はグレナダに侵攻する用意がある。繰り返す。我々には侵攻する用意がある」

 

と初見の相手に対して明らかな命令口調で話をしてきたのである。それも話し合いを拒否すれば戦争するとまで言ってきたのである。沿岸警備隊はパーパルディア皇国の軍艦を誘導しつつ、事の次第を本部へ報告した。

 

「それで国王陛下の代理である私を呼びつけたというのか。無礼な輩だ」

 

沿岸警備隊からの報告を受けたグレナダ警察軍は直ちに政府に報告。グレナダ政府は緊急事態であるとして、本来であればお飾りの名誉職であるグレナダ総督に出席を要請。同時に異世界転移によりグレナダ領カリアク島と国境を接することになったイギリス領ジブラルタルや東カリブ海諸国による地域安全保障システムに支援を要請した。

 

 

イギリス領ジブラルタル

ジブラルタル海軍基地

 

「本艦は全速力でセントジョージズに進路をとれ!」

 

これを受けてイギリス領ジブラルタルからは旧カリブ海諸国防衛の為に海外展開中のオーストラリア海軍の駆逐艦ホバートがセントジョージズの沖合いに向けて出港。更に地域安全保障システム加盟国の陸上部隊がジブラルタルに向け輸送機で移動を開始した。

 

 

グレナダ首都セントジョージズ港

 

「住む蛮族はあれだが、グレナダの首都セントジョージズとやら、まあまあ美しい街並みではないか!!」

 

グレナダ沿岸警備隊の誘導により入港したパーパルディア皇国の使節団一行はイギリス統治時代の面影が残る街並みを見て率直な感想をわざわざグレナダ人に聞こえるように述べる。その後、高圧的な態度を取りながらグレナダ側が用意した自動車でグレナダ総督府へ向かう。グレナダ政府は使節団一行のみに上陸許可を出していた為、兵士達は停泊中の軍艦の中で待機することになっている。一応・・・・は。その後使節団はグレナダ総督府に到着し、グレナダ総督、首相、外相、その他官僚らとの間で外交折衝が行われた。

 

 

グレナダ総督府

 

「遠路遥々グレナダまでようお越しくださいました。私が国王陛下の代理でグレナダ総督を勤めております・・・」

 

国王陛下の代理と聞いた瞬間にパーパルディア皇国の使節の一人が瞬間湯沸し器の如く怒り出す。

 

「代理だと!? 未開の蛮族の分際でふざけるな!! 我々はグレナダ国王を同席させるように命令した!! 代理等は呼んでおらぬわ!!」

 

テーブルに乗せられていた水の入ったコップをグレナダ総督に投げ付けるパーパルディア皇国側の使節。幸いにも総督がかわした為、コップは当たらず怪我はなかった。コップ自体は割れてしまったが。

 

「同席させろとおっしゃいますが、我が国の国王はグレナダにはおられません」

「ふざけたことをぬかすな! グレナダ国王がグレナダにいない訳がなかろうが!!」

 

瞬間湯沸し器は目が血走っており、明らかに冷静ではない。

 

「我がグレナダはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国と同君連合を組んでおります。イギリス国王がグレナダ国王を兼務しており、私はグレナダ国王にしてイギリス国王である陛下の代理として、グレナダの統治を担っているのです。ちなみに私自身には政治的決定権はなく、グレナダの政治はグレナダ国民による選挙で選ばれた政治家が担います。その為此方に控えます首相がグレナダの事実上の代表になります」

「御託はよい!! さっさとそのイギリス国王とやらをここに連れてこい蛮族共!!」

「そうだそうだ!! 我が国は世界5大列強の一角パーパルディア皇国であるぞ!! 我々の発言は皇帝陛下の命令だ!!」

「落ち着けお前ら。今日はこの蛮族らに選択の余地を与える為に派遣されているのだ」

 

代表と思われる人物が瞬間湯沸し器を宥める。

 

「では、私からパーパルディア皇国皇帝ルディアス陛下からの勅命をグレナダ総督以下グレナダ国民に伝える故、心して聞くがよい」

 

1.グレナダの王は皇国人とし、皇国から派遣された者を置くこと

 

2.グレナダ国内の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする

 

3.グレナダ軍は皇国の求めに応じ、必要数を指定箇所に投入できることとすること

 

4.グレナダは皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと

 

5.グレナダは今後外交において、皇国の許可無くして新たな国と国交を結ぶことを禁ず

 

6.グレナダは現在把握している資源や農作物の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じてその資源を差し出すこと

 

7.グレナダは現在知りえている魔法技術のすべてを皇国に開示すること

 

8.パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、グレナダ国民の生殺与奪権利を有する事とする

 

9.グレナダはグレナダ島を除く全ての領土をパーパルディア皇国に割譲すること

 

その他にも要求があったが、9まで読み上げたところでグレナダの首相が激怒した。明らかに植民地になれという内容であり、グレナダが小国であることを良いことに無茶苦茶な要求をしている。

 

「ふざけるな! 黙って聞いていれば良い気になりやがって!! 我がグレナダは再び他国の植民地に戻るつもりはない!!」

「これはこれは・・・愚かな蛮族らしい断末魔にございますなあ。ですが皇帝陛下は非常に慈悲の深い御方です。3日の猶予を与えましょう。3日後までに考えを改めない場合、グレナダ国民は皆奴隷になり、国そのものがなくなるでしょうなあ・・・可哀想に・・・」

 

交渉は決裂し、グレナダ政府は直ちにジブラルタルへ一報を入れた。その日の夜、ジブラルタルから出港したオーストラリア海軍の駆逐艦ホバートが到着。主砲をパーパルディア皇国の軍艦に向け、何時でも撃沈出来る態勢を整えた。

 

 

グレナダ首都セントジョージズ

 

「おらおらあ! 俺とヤろうじゃねえか!!」

「いやあああ!!」

 

交渉が決裂して日の夜、パーパルディア皇国の軍艦に乗艦する水兵らがグレナダ政府の許可なく上陸。無銭飲食や略奪破壊行為、婦女子暴行を繰り返した。更に取り締まりに来た警察官をマスケット銃や剣で殺害する等、やりたい放題であった。

 

「警察官を助けるんだ!!」

「俺達の手で国を守るんだ!!」

 

警察官が殺害された現場では乱暴狼藉を働くパーパルディア皇国兵に対して市民が激怒。兵士と市民の衝突が発生した。双方に死傷者が発生し、警察だけでは対処不能と判断したグレナダ政府は沖合いに展開するオーストラリア海軍駆逐艦ホバートに支援を要請。ホバートはパーパルディア皇国軍艦への威嚇射撃や即席の陸戦隊を上陸させる等で対応。グレナダの緊張は頂点に達した。翌朝ジブラルタルから輸送機でイギリス軍や地域安全保障システム加盟国の陸上部隊が到着し、治安回復に勤めることになる。

 

「蛮族の分際でおこがましいことを・・・」

 

このままでは沖合いに展開するオーストラリア海軍の駆逐艦ホバートに撃沈されると判断したパーパルディア皇国側は兵士を収容し撤収。この事態を受けてグレナダを始めとする地域安全保障システム加盟国やバハマ等旧カリブ海諸国は旧宗主国であるイギリスに軍の派兵を要請。イギリス、カナダは駆逐艦やフリゲート艦を1隻ずつ、オーストラリアはフリゲート艦を新たに1隻を追加でジブラルタルへ派遣した。航空戦力もジブラルタルへ派遣するべく、現在イギリス本国で準備中である。

 

そんなこんながあり、勝手に来て勝手に要求して勝手に逃げ帰った癖に、

 

「列強国の顔をつぶされた」

 

第3外務局はこのように判断し、局長カイオスの命により監察軍東洋艦隊のグレナダ派遣が決定された。フェン王国も皇国の要求を拒否していたが、グレナダの方が皇国に近い為、グレナダ制圧後にフェン王国へ転進する。ということになったのである。

 

 

パーパルディア皇国第3外務局窓口

 

「すいません、局長様が無理なら、課長様でも良いので権限のある方にお目通りをお願いしたいのですが・・・」

 

日本国外務省の一団は、この3ヶ月間、窓口で足止めされていた。

 

「しばらくお待ち下さい。順番に手続きを行っていますので・・・しかし、貴方たちの要求内容を見ましたが、かなり高度な・・・いわゆるハードルが高い事が記載されていますので・・・・」

「と、いいますと?」

「あなた方は・・・もしもパーパルディアの民があなた方・・・日本国でしたか?の中で犯罪を犯したとして、治外法権を認めないと言ってらっしゃるので・・・・」

「それが何か? 国と国の間では通常の事と理解いたしますが・・・」

「・・・我が国は列強ですよ?」

「それが何か?」

「あなたの国は、出来たばかりですか? 文明圏以外の国とはいえ、国際常識を知らないにもほどがある」

 

窓口勤務員は語気を強める。

 

「?」

「いいですか?今世界において治外法権を認めないことを我々が了承している国は4カ国のみです。つまり列強国のみなのです」

 

話は続く

 

「列強国でない、まして文明圏にも属していない、国際常識すら理解していないあなた方の国が、治外法権を認めない、対等の国として扱えとか、列強国のごとき要求をしている。課長はあと2週間くらい後には空きますので、あと2週間待って下さい。ただ、私としてはこれはかなりハードルが高いと言わざるを得ません」

 

日本の国土は文明圏の外側に位置しているため、その国力の1万分の1以下の国と同等に扱われていた。話が通らなければどうしようもない。外務省職員はトボトボと帰っていった。この2週間がパーパルディア皇国にとって大きな2週間になる事は、このとき誰も知らなかった。

 

 

アルタラス王国王都ル・ブリアス

接見の間

 

パーパルディア皇国の目と鼻の先にある地域大国アルタラス王国では、イギリスから派遣された大使による信任状奉呈が行われていた。アルタラス王国国王ターラ14世に対して駐アルタラス王国大使となる予定の若いイギリス人の男性が信任状を奉呈する。

 

「我が国は正式にハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンをグレートブリテン及び北アイルランド連合王国並びにイギリス連邦王国の駐アルタラス王国大使に信任することを認める!」

 

日本がパーパルディア皇国に門前払いされる中、イギリスはパーパルディア皇国周辺諸国に対して使節団を派遣。この日、正式にイギリスはアルタラス王国と国交を樹立した。

 

「大変身に余る光栄にございます陛下。大英帝国とアルタラス王国が共に世界平和の為に歩んでいけることを楽しみにしております」

 

信任状奉呈の翌日、建設中だったイギリス大使館が完成。外装はアルタラス王国式である一方、内装はイギリス本国や日本から資材を持ち込んで建設された。その為、やや不便さはあるものの普通に仕事するのであれば問題ないレベルであった。

 

(我が大英帝国がパーパルディア皇国と国交樹立の交渉はせずに周辺諸国と積極的に交渉するのは当然狙いがある。なんかどこぞのチョビヒゲみたいだが、何れはあの腐った納屋は一蹴りで崩壊する。それにアルタラス王国は第1文明圏に向かう際に使える。仲良くするにこしたことはない。さて、最初に核の火に焼かれるのは誰になるのやら)

 

日本とイギリス。双方の国民性の違いが異世界における外交交渉にも現れ始めたのである。

 

(続く)

 

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