フェン王国 首都アマノキ 上空
ガハラ神国風竜騎士団長スサノウは、隣国、フェン王国の首都上空を飛行していた。今日は、フェン王国が5年に1回開催する「軍祭」が行われるため、その親善として3騎で上空を飛ぶ。軍祭は、文明圏外の各国の武官も多数参加し、武技を競い、自慢の装備を見せる。各国の、軍事力の高さを見せる事により、他国をけん制する意味合いもある。文明圏の国も呼びたいが、「蛮国の祭りには興味が無い」のが本音らしく、「力の差を見せ付けるまでもない」といった考えもある。スサノウは、上空から下を見た。
「しかし、デカイな・・・」
常軌を逸した大きさの灰色の船9隻と、小さいが綺麗に白く塗られた船1隻が見える。そのうち1隻は、着陸出来そうなくらい大きい。白い船を含めて9隻は日本、灰色の船の内全く違う国旗を掲げている1隻はオーストラリアという名の新興国家らしい。
「まぶしいな」
相棒の風竜が話しかけてくる。風竜は知能が高い。
「確かに、今日は快晴だ」
太陽がまぶしく、雲の少ない日だった。
「いや、違う。太陽ではない。あの下の灰色の船から線状の光が様々な方向に高速で照射されているのだ」
「船から光?何も見えないが」
「フッ、人間には見えまい。我々が遠くの同胞と会話をする際に使用する光、人間にとっては不可視の光だ。何かが飛んでいるか、確認も出来る。その光に似ている」
「飛行竜が判るのか? どのくらい遠くまで?」
「個体差がある。ワシは120kmくらい先まで判る。あの船の出している光は、ワシのそれより遥かに強く、そして光が収束している」
「まさか、あの船は、遠くの船と魔通信以外の方法で通信出来たり、見えない場所を飛んでいる竜を見ることが出来るのか?」
「あそこにいる9隻すべてがそのようだな・・・」
「日本にオーストラリアか・・・すごい国だ」
上空では、このような会話が行われていた。
オーストラリア海軍駆逐艦シドニー
「アメージング・・・」
「しかし、間違いありません」
先に旧カリブ海諸国の仲介によりフェン王国と国交を樹立していたイギリスは当初空母打撃群を参加予定であったが、航行中にイギリス本国からの極秘指示を受けて参加を中止。苦肉の策として、空母打撃群に参加していたオーストラリア海軍の駆逐艦シドニーをイギリス連邦の代表として参加させた。上空に飛んでいる風竜と呼ばれる生物から、レーダー波に酷似した電波が照射されている。故障を疑い、日本艦隊にも確認したが同様の回答が寄せられた。このレーダー波は、航空機の物として見れば、それなりに出力が高い。文明圏から外れた国で、レーダーを持つ飛行物体が確認された。つまり文明圏にはこれを大量に運用出来る部隊がある可能性もある。
「一部ではイギリス、ジャパンとの新型ステルス戦闘機の共同開発やF35のリバースエンジニアリングは無駄という声がありましたが、これは懐疑派を黙らせる口実になりますな」
「ああ。速やかに本国に報告だ。イギリスの代理とは言え、艦を派遣した甲斐があったな」
この報を機に、転移により一部からは予算削減や計画離脱が囁かれていたF35のリバースエンジニアリングやF3開発の予算が昨年度の倍増以上となり、ハイスピードで開発が始まることとなる。
「あれが日本とオーストラリアの戦船か・・・・まるで城だな」
剣王シハンは正直な感想を洩らす。
「いやはや、ガハラ神国やバハマ等から事前情報として聞いてはいましたが、これほどの大きさの金属で出来た船が海に浮かんでいるとは・・・イギリス、カナダ、ニュージーランドも同様の船を保有しているというのは事実みたいですな」
騎士長マグレブが同意する。
「私も数回、パーパルディア皇国に行った事がありますが、これほどの大きさの船は見た事がありません」
「本来でしたら、イギリスのクウボダゲキグンとやらが参加予定でしたが、中止になったのが悔やまれますなあ」
彼らの視線の先には、海上自衛隊の護衛艦が8隻とオーストラリア海軍の駆逐艦1隻が浮かんでいた。
「剣王、そろそろ我が国の廃船に対する日本の艦からの攻撃が始まります」
剣王シハン直々に日本の外務省に頼んだ、
日本の力を見せてほしい
その回答が今出る。護衛艦のさらに沖合いにフェン王国の廃船が4隻標的船として浮かんでいた。距離は護衛艦から2km離れている。剣王シハンは望遠鏡を覗き込む。今回はイージス艦とかいう船が、1隻だけで攻撃を行うらしい。日本の船から煙が吹き出る、僅かな時間の後、音が聞こえる。
ダン・・・・ダン・・・・ダン・・・・ダン・・・・
4回爆発音が響く。直後、標的船は猛烈な爆発を起こし、水飛沫をあげ、船の残骸が空を舞う。標的船4隻は爆散、轟沈した。
「・・・・・これは・・・・声も出んな・・・・なんとも凄まじい。バハマやベリーズ、グレナダらが日英の傘に入る訳だ・・・」
剣王シハン以下フェン王国の中枢は、自分たちの攻撃概念とかけ離れた威力を目の当たりにし、唖然としていた。1隻からの攻撃で4隻をあっさり沈める。しかもとてつもない速さの連続攻撃で沈めた。列強パーパルディア皇国でも、そんな芸当は出来ない事をここにいる誰もが理解している。
「すぐにでも、日本と国交を開設する準備に取り掛かろう、不可侵条約はもちろん、出来ればイギリス連邦王国と結んだ安全保障条約も取り付けたいな・・・・」
剣王は満面の笑みで宣言した。
オーストラリア海軍駆逐艦シドニー
「レーダーに感! 軍祭に参加している飛龍ではない何かが接近中!!」
日豪連合艦隊の一番外側で上空警戒を行っていたオーストラリア海軍駆逐艦シドニーのCICに緊張が走る。
「このタイミングで奇襲・・・事前に警戒するよう本国から指示が入っていたパーパルディア皇国の航空隊か!!」
「見張り員から報告! 真っ直ぐアマノキに向けて接近中!!」
同時刻、とある見張り員が
「F○ck!! あのバカ本当に来やがった!!」
と叫んでいた。直ちに他の見張り員と共に艦内へ退避する。
「対空戦闘用意!!」
「対空戦闘よーい!!」
「これは演習ではない!! 繰り返す!! これは演習ではない!!」
艦内に非常ベルが鳴り響く。シドニーは即刻対空戦闘に入り、速力を上げる。
「まず先頭を飛ぶα、βを対空ミサイルで撃ち落とし、注意を本艦に引き付ける!! その後主砲の対空射撃で全て叩き落とす!!」
「目標捕捉! シースパロー攻撃始め!!」
「Fire!!」
シドニーのVLSから対空ミサイルとして発展型シースパローが2発放たれる。
「インターセプトまで10秒!!」
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタンバイ!」
「マークインターセプト!!」
「ターゲットα、βを撃破!!」
一寸の狂いなく飛行したシースパローにより皇国のワイバーンロード2騎が蒸発する。
「残りが此方に向かって来ます!!」
「主砲、撃ち方始め!!」
「Fire!!」
同じ頃、イージス艦みょうこうのレーダーを見ていた者は西側から近づく飛行物体に気がついた。時速にして約350kmで、20機ほどが近づいてくる。艦隊指令に報告があがる。
「西は、パーパルディア皇国という国があったな」
「はい」
「フェン王国の軍祭に招かれているのではないのか?」
「とは思いますが・・・一応確認をします」
「し、指令! シドニーからシースパローが発射されました!! 飛行物体に向けて2発!!」
「何だと!?」
「シドニーが主砲を西側からの飛行物体に向けています!!」
「何!?」
直後にシドニーは飛行物体目掛けて主砲を発射した。日本艦隊は慌ててシドニーに連絡を取ることになり、指揮系統が混乱した。
「シドニー! どうした!! 一体何があった!? シドニー!! 応答せよ!!」
パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊20騎は、フェン王国に懲罰的攻撃を加えるために、首都アマノキ上空に来ていた。軍祭には文明圏外の各国武官がいる。その目前で、皇国に逆らった愚か者の国の末路はどうなるか知らしめるため、あえてこの祭りに合わせて攻撃の日が決定されていた。これで各国は皇国の力と恐ろしさを再認識することだろう。最近日本やイギリス連邦とやらに靡く国が増えているが、それは愚かだというかと、そして皇国に逆らう者の末路、逆らった国に関わっただけでも被害が出ることを知らしめる。
「グアアァ!!」
ガハラ神国の風竜3騎も首都上空を飛行している。風竜が皇国ワイバーンロードに失せろと言わんばかりに唸ったり、睨み付けるとワイバーンロードは不良に睨まれた気の弱い男のように、風竜から目を逸らす。
「ガハラの民には、構うな。フェン王城とそうだな・・・あの目立つ白い船に攻撃を加えろ!!」
ワイバーンロードは上空で散開した。直後に先頭を飛ぶワイバーンロードが2騎が爆散した。
「なんだ!?」
ふと目を海上にやると、1隻の灰色の船が此方に大砲を向けている。どうやらあの船の仕業のようだ。
「目標変更! 目障りなバカデカイ船を沈める!!」
その後も灰色の船はジグザグ航行をしながら空に向けて砲弾を発射する。1騎、また1騎と撃墜されていく。
「バカな・・・・バカな!!」
次々と皇国のワイバーンロードは撃ち落とされていく。一部のワイバーンロードは恐怖の余りに竜騎士を海上に振り落として逃げようとする有り様だった。
「何のデモンストレーションだ!?」
軍祭参加者は急に火を吹き出したシドニーに注目する。直後ワイバーンロードが爆散し、空中に黒い花を二つ咲かせた。
「なんと!!」
軍祭参加者は一瞬の内にワイバーンロードが爆散したことに驚く。
海上自衛隊ミサイル駆逐艦みょうこう
「シドニーより入電!! 本艦は現在敵航空隊と交戦中!!」
「あれは敵・・・更に同盟国が攻撃を受けた・・・本艦隊も対空戦闘に突入せよ!!」
各護衛艦はシドニーを援護するべく、「敵」への反撃の意思決定を下す。みょうこうの主砲が上空に展開する「敵」へ向く。各護衛艦で的が重ならないように、振り分けられる。FCS射撃管制システムにより、敵との相対速度が計算され、飛行する敵の未来位置で迎撃できるよう、寸分違わず主砲の砲身が上空を向く。次の瞬間、各護衛艦の主砲が炸裂し上空にいたワイバーンロードはすべて消滅した。
「・・・・・・・・」
剣王シハン及びその側近たちは、開いた口が塞がらなかった。ワイバーンロードは、間違いなくパーパルディア皇国のものだろう。我が国が、ワイバーンロードを追い払おうと思ったら至難の技だ。1騎に対して一個武士団でも不足している。そもそも、奴らは鱗が硬く、弓を通さない。バリスタを不意打ちで直撃させるか、我が国に伝わる伝説の剛弓、「ベルセルクアロー」を使うしか無いが、ベルセルクアローは、硬すぎて、国に3名しか使える者はいない。戦闘態勢にあるワイバーンロードを仕留めるのは、事実上不可能に近い。文明圏外の国で、1騎でもワイバーンロードを落とすことが出来れば国として世界に誇れる。我が国は、ワイバーンロードを叩き落すことが出来るほど精強であると。それを、日本とオーストラリアはいともあっさりと、怪我をして動けなくなったハエを踏み潰すかのように、自分はほとんど怪我を負わず、列強の精鋭、ワイバーンロード竜騎士隊を20騎も叩き落してしまった。日本とオーストラリアは文明圏外の武官が集まっている軍祭で、各国武官の目の前で各国が恐れる列強パーパルディア皇国の精鋭ワイバーンロード部隊を赤子の手をひねるように叩き落とした。歴史が動く、世界が変わる予感がする。ワイバーンロードはおそらく自分たち、フェン王国への懲罰的攻撃に来ていたのだろう。日本をこの紛争に巻き込めたのは、天運ではなかろうか・・・更に安全保障条約を締結しているイギリスは日本の同盟国。確かイギリスの外交官は大英帝国の復活とか言っていた。この戦を口実に介入するのではないか。
「すごいものだな・・・あの船は・・・」
風竜は感嘆の声をあげる。
「あの船からトカゲどもに人間にとっては不可視の光を浴びせ、船の砲はそこから反射する光の方向を向き、トカゲどもの飛行する未来位置に向かって撃っている・・・あの船は、見た目以上の技術の塊だな」
「そ、そうなのか? そんなにすごいのか!?」
「古の魔法帝国の伝承にある、対空魔船みたいなものだろう」
「ゲ・・・そんなにすごいのか・・・帰ったら報告書が大変だな」
上空では、ガハラ神国の風竜騎士団長スサノウと風竜の間で、そんな会話が行われていた。
パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊竜騎士レクマイア
フェン王国懲罰の命、簡単な仕事だと思っていた。栄えある列強パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊にかかれば、フェンのような蛮族の国など、自分1騎で1個騎士団を相手にしてもおつりが来る。軍祭などという、各国武官や船まで招いての祭りが行われているのであれば、蛮族どもにパーパルディアの力を再認識させる機会にもなる。フェン王国などという、パーパルディアに反目する国の祭りに参加していると、痛い目を見るということを解らせるために、目立つ白い船を狙った。しかし、その直後仲間の竜騎士が爆散した。ふと目を海上にやると、巨大な灰色の船から何かが飛んできた。相棒は恐怖から自分を振り落として逃げようとした。相棒は撃ち落とされ、自分は海へ落下し、海上から上空を見上げたところ、仲間たちはさらなる悲劇にみまわれていた。仲間たちは、他の超巨大船から放たれた大砲によって、木っ端微塵に吹き飛ばされていた。大砲が空を飛ぶ物に当たるということも、理解しがたい現実であるし、この世で自分たちの敵となりうる存在は、列強しか無いと思っていたが、自分たちがなすすべもなく破れた相手に興味も持った。彼は海に浮遊中、攻撃する予定であった白い船に救助された。
「フェン王国に進軍させた竜騎士隊との通信が途絶しました」
艦隊に衝撃が走る。
「いったい何があった・・・」
提督ポクトアールは嘆きたくなった。いやな予感がする・・・。しかし、これは第3外務局長カイオスの命である。国家の威信をかけた命令である。実行しない訳にはいかなかった。皇国監査軍東洋艦隊22隻はグレナダへ懲罰を加え、その後フェン王国を懲罰し、今回ワイバーンロードを倒した皇国にたてつく者に対し、各国武官の前で滅するため風神の涙を使用し、帆をいっぱいに張り、東へ向かった。一方、迎撃の艦隊が同じ頃ジブラルタルを出港していたが、彼らは知らない。
(続く)