アルタラス王国 王都ル・ブリアス郊外
イギリス租借地アルタラス軍港
「国王陛下! 彼方が我が国の空母クイーン・エリザベスになります!!」
「これが空母・・・パーパルディア皇国の竜母とは比べ物にならんデカさじゃ・・・」
イギリスとアルタラス王国との国交樹立に関する条約である「英有条約」において、イギリス海軍艦艇が入港出来るように整備する目的でアルタラス王国から99ヶ年租借しているアルタラス軍港。元々は何もない寂れた廃漁村であったが、イギリスに租借されたことでその情景は一新された。近代的な港が整備され、軍艦の整備補給を可能にする設備類が完備。更には軍艦の乾ドッグの建設が行われており、日英の企業が昼夜を問わずに作業を行っている。将来的にはアルタラス王国に技術指導を行い、アルタラス王国海軍の近代化を支援することが英有条約で定められており、パーパルディア皇国への従属体制からの脱却を図るアルタラス側に配慮した内容になっている。また、建設労働者向けの料理店や雑貨屋が多数進出し、アルタラス軍港周辺は好景気に湧いている。
「ハルト大使、貴国はあのクウボとやらを何隻保有しているのか?」
「我が国が保有する空母は彼方のクイーン・エリザベスと本国で整備中のプリンス・オブ・ウェールズの2隻になります。いかんせん転移前の予算不足で満足な整備が出来ていたとは言えない状態でしたので、このクイーン・エリザベスが実質的には唯一の空母になります」
港に接舷しているクイーン・エリザベスにアルタラス王国の一行が乗艦する。艦長の誘導で艦内見学を受ける。流石に機密の区画は見せなかったが、彼らからすれば全てが機密区画のようなものであり、ただ唸ることしか出来なかった。
「これよりクイーン・エリザベスの艦載機部隊による親善飛行を行います」
ターラ14世以下一行は航空管制用のアイランドに案内され、艦載機であるF35Bの発艦作業を視察した。
「・・・・あの鉄竜は我が国の・・・いや皇国のワイバーンロードを遥かに凌駕している!!」
「普通に闘えばパーパルディア皇国を名乗る自称列強国の蜥蜴等、一捻りでございます」
「う~む・・・余の目は確かだったようじゃな・・・」
イギリスとの国交樹立に関しては慎重な意見が多かったアルタラス王国。列強のパーパルディア皇国の眼前にあり、もし皇国が機嫌を損ねれば一瞬で滅ぼされかねない。ゆえに皇国を刺激する内容が多数含まれていた英有条約に関しては軍部から反対の声が大きかったのである。しかし、実際にこうして見せつけられると反対の声をあげることが恥だと感じさせられる。
「航空隊はル・ブリアス上空を飛行。途中パーパルディア皇国アルタラス出張所上空で曲芸飛行を披露致します」
一行は双眼鏡片手に様子を見守る。
「・・・・・あれが有事の際には我が国を防衛する・・・本当に良いのか? ハルト大使・・・何故格下の我らをそんなに守ろうと?」
「・・・・・陛下には正直に申し上げましょう。アルタラス王国が・・・正確にはその島そのものが我が国には必要だからです」
「・・・・・どういうことじゃ?」
「我が大英帝国は国交樹立の際に申し上げたように、非常に小さな国です。ですが、産業革命や技術格差を背景に世界中の主要な海上交通路を植民地として確保しました。世界中の主要海上交通路を掌握することは戦わずして勝ちを得るに等しいのです」
「戦わずして・・・勝つ」
「一方で植民地経営は莫大なコストがかかる割には得られるリターンが少なすぎるのです。故に我が国は最終的にカナダやオーストラリア、ニュージーランドを手離すことになりました。ですが、植民地にしなくても同盟国にしてしまえば、植民地経営する必要はなく、現地政府に統治を任せればよいのです。また、現地政府も主権を維持することが出来ます」
「すなわち、イギリスはアルタラス王国を植民地にするつもりはなく、同盟国として傘下に加えたいと?」
「無論です。そしてゆくゆくはあの目障りなパーパルディア皇国を解体し、この世界に再び大英帝国の威光を取り戻します。ルールブリタニア! 海を統べよ! 英国の民は隷属せじ!」
世界征服の野心を隠さない大英帝国の大使に若干恐怖を覚えるアルタラス王国の一行。一方で、パーパルディア皇国を遥かに凌駕する技術力を持つ国と手を結べば皇国からの干渉はなくなるかもしれない。
「・・・流石にパーパルディア皇国の出張所に爆弾を落としては不味いですかね?」
「ハルト大使、それだけは止めて頂きたい」
「冗談ですよ」
その後航空隊は空母クイーン・エリザベスに帰投した。その後同艦の甲板にて、イギリスとアルタラス王国の安全保障を定めた英有航海通商条約が調印された。この条約は先の英有条約締結時には見送られていたイギリスとの軍事同盟に関する条項の追加をメインにしたもので、英有条約を置き換えた。この条約に基づき、イギリスは半永久的にアルタラス軍港の使用や基地内を治外法権とすることが認められた。同時にイギリスはアルタラス王国軍の近代化を支援することになった。更にイギリスはアルタラス王国に兵器工場の建設を決定。後にこの工場はアルタラス王国軍やシオス王国軍向け装備の製造・修理の拠点になることになる。ちなみに主な支援内容は、
陸軍向け
・歩兵用アサルトライフル及び弾薬の整備工場の建設
・軍事顧問の派遣
・次期主力戦車の共同開発(イギリス、カナダ、オーストラリア、アルタラス王国の共同出資・日本企業も参加)
・その他歩兵用装備品の売却
・対価として大使館防護(実質的には王都防衛補助)の為にイギリス大使館の敷地を拡大し、イギリス連邦王国陸軍を配備する
海軍向け
・もがみ型護衛艦5隻をイギリスが購入し、イギリスないしオーストラリアで訓練を実施した上で供与
・日英の大型艦艇の修繕が可能なドッグを整備し、アルタラス王国海軍艦艇の修繕も行えるようにする。費用の一部をアルタラス王国も負担する
・その他補助艦艇をアルタラス王国で建造可能とする為、必要な設備の整備を行う(日本企業も参加)
・対価として新たに99ヶ年海軍基地をイギリスに租借し、英有共同使用とする
空軍向け
・ユーロファイタータイフーン4機の売却と訓練の支援
・アルタラス空港の近代化と軍民共用化
・対価としてイギリス連邦王国空軍がアルタラス空港に駐留する権利を認める
となった。その他イギリスのみで賄えない範囲の装備品は日本からイギリスないしオーストラリアへ輸出、その後アルタラス王国へ供与する三店方式が採用された。これは未だに武器輸出に関して国内世論がうるさい日本側への配慮であり、日本は実質的にアルタラス王国を支援することになった。
「では、我々は間もなくパーパルディア皇国に向かいます」
「はえ? ハルト大使、イギリスは皇国とは国交樹立しないのではなかったのでは?」
「国交樹立はしませんが、交渉しないとは言っていません。実はつい最近我が国と同君連合を組んでいるグレナダに皇国の輩が現れましてな、あろうことかグレナダの民を殺害したのであります。我が国としてはグレナダ人殺害はイギリス人殺害に等しい。彼らに落とし前を付けさせなくてはならないのです」
「はあ・・・お、お気をつけて・・・」
ターラ14世はそれしか言えなかった。翌日、イギリス連邦王国海軍が出港。ユニオンジャックを掲げた艦隊は一路パーパルディア皇国の都、エストシラントに向けて前進する。
アルタラス王国駐イギリス大使館向かい側
パーパルディア皇国アルタラス出張所
「イギリスは無礼にも我らの命令を拒否、更には我らに玩具の引き渡しを要求しているだと!? アルタラス王国は何をしているのですかあ!!」
アルタラス大使のブリガスは激怒する。
「アルタラス王国は我々の命令を、主権国家に対する主権侵害であり、断固として認められない。我がアルタラス王国は法の支配を重視しており、パーパルディア皇国側職員による婦女暴行に抗議する・・・と」
「アルタラスの分際で我が国に楯突く? 笑わせる!! 直ぐにでも滅ぼしてくれようぞ!」
次の瞬間、親善飛行中のイギリス海軍航空隊のF35Bがアルタラス出張所の真上で曲芸飛行を披露する。パーパルディア皇国側に見せつけるかのように接近したことでアルタラス出張所の窓ガラスの一部が割れる。
「あれは何だ?!」
「飛行機械のようですが・・・ムーのとは明らかに異なっています! プロペラがありません!!」
「まさか・・・ムーが試作機をイギリスと共同開発したのでは?」
彼らの常識では飛行機械を作れるのは列強のムーのみである。まさか自力で飛行機械が作れる国がほかに有る等思いもしなかったのである。
「直ちに本国に報告しなさい! ムーが飛行機械を輸出している! これはムーによる第三文明圏侵略の意思に他ならないと!!」
誤った認識のままパーパルディア皇国は突き進む。その間、グレナダ懲罰艦隊はグレナダ島に向けて前進していたが、イギリス海軍の哨戒機に見付かっていた。
イギリス海軍ジブラルタル基地海軍航空隊
P8哨戒機
「本機の西にパーパルディア皇国の船団を確認! 数はおよそ20から30!」
「直ちに報告!」
「うわあ! すげえあ! ドラマで見た帆船ばかりだ!! 当に無敵艦隊って感じだ!!」
副機長がパーパルディア皇国艦隊をかつてのスペインの無敵艦隊になぞらえて冗談を言う。
「じゃあ、我が国の艦隊に敗北するってことか! 副機長! 当に無敵艦隊だな!! コイツの有終の美に相応しい発見だ!」
「機長、そういえばコイツも暫くしたら引退でしたね」
先のパーパルディア皇国によるグレナダへの従属要求を受けてジブラルタルに派遣されていたイギリス海軍の哨戒機P8ポセイドン。アメリカ製の哨戒機である本機は異世界転移に伴い整備に支障が出ることが見込まれていることから日本のP1哨戒機に調達変更並びに置き換えが決定しており、現在運用中の機体は予備パーツがなくなれば運用終了となる運命にあった。
「よもや選考落ちした方が大逆転復活なんて聞いたらアメカスは昇天するだろうな!」
「いやいや、植民地に戻りたがるやもしれません!!」
「ガハハハ! ちがいない!! よし、さっさとずらかるぞ! 航空戦力がいると不味いからな!」
皇国艦隊上空を旋回し、細かい情報収集を実施した後にP8はジブラルタルへ戻る。そして入れ替わるようにして哨戒中だったイギリス、カナダ、オーストラリアの艦艇が洋上に集結し単縦陣を形成。皇国艦隊殲滅に向けて全速力で移動を開始した。
イギリス連邦艦隊ジブラルタル基地派遣隊
旗艦駆逐艦デアリング
「敵艦隊を発見!」
「総員戦闘配置!」
イギリス、カナダはそれぞれ1隻、オーストラリアは2隻の計4隻から成るイギリス連邦艦隊は主砲をグレナダ懲罰艦隊に向ける。
「威嚇はしますか?」
「不要だ。我が大英帝国に喧嘩を売るということはどういうことかを分からせなくてはならぬ」
「ですよね!」
「まあ、ジャパンならマストを狙い打ちにして航行不能にするのだろうが、それでは奴等は学習出来ないからな。徹底的にやれ!!」
デアリングの合図でイギリス連邦艦隊は砲撃を開始した。ここにイギリス連邦王国とパーパルディア皇国初の海戦、グレナダ島沖海戦が始まる。後に歴史書にはパーパルディア皇国にとって国家存続最後のチャンスと記されることになる。
(続く)