日英同盟召喚   作:東海鯰

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開戦前夜

パーパルディア皇国エストシラント港

第一文明圏向け船着き場

 

「ようやく上陸許可が降りそうだ」

 

イギリス連邦王国艦隊の旗艦である空母クイーン・エリザベスの艦橋からエストシラント港を見つめるハルト全権大使はそう呟く。

 

「少しは抵抗すると思ったが、思いの外だな」

 

その後イギリス側の代表団はクイーン・エリザベスを退艦。パーパルディア皇国側が用意した馬車に乗り、第三外務局へと移動した。

 

「日本の外交団はこの第三外務局とやらに門前払いを食らって少なくとも1ヶ月になるらしいな」

「その間は何してるのかしらね?」

「全くわからんね。まあ、いきなりグレナダに侵攻してくる蛮族相手に地球世界の考え方で外交しようとしてる国だから、理解出来なくて当然かな」

 

第一文明圏向けの外交官専用の馬車に乗るハルト全権大使と妹のアオイ武官は他の馬車に乗る代表団と共に第三外務局に到着した。その様子は順番待ちをしていた日本の外交団の目に留まることになり、日本の外務省職員は大慌てで本国に連絡することになる。

 

 

第三外務局局長室

 

「本日はお忙しい中、我々との会談の場を設けて頂きありがとうございます。僕はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の外交官にして駐在のアルタラス王国大使のハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンと申します。今回は僕がUKの全権大使となります。以後お見知りおきを」

「私は同じくグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の軍人にして、外務省出向中のアルタラス王国駐在武官のアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンと申します。今回は兄の補佐役となります。以後お見知りおき」

 

礼儀正しく挨拶をするイギリス側の代表団。続けてパーパルディア皇国側の代表団が挨拶をする。

 

「私はパーパルディア皇国第三外務局局長のカイオスです。此方に控えるのは、タール、 バルコ、ニコルス、メンソルです」

 

パーパルディア皇国側は第三外務局の重役を揃えてきた。ハルトとアオイは肩書きから皇国もそれなりに本気であると判断した。

 

「まず勘違いしないで頂きたいことがある。我々は貴方方と国交を結ぶ為に参ったのではない。我々は貴国に要求を突きつけに参ったのだ」

「要求だと!? 蛮族の分際で生意気な!!」

 

第三外務局東部担当部長のタールがハルトに激怒する。

 

「蛮族・・・ですか。いきなり国交のない国に軍艦で乗り付けて従属要求を突き付け、挙げ句の果てには現地住民に対して犯罪行為を平気で行う貴国のことでしょうか?」

「なにぃ!? 我々を蛮族だと!!」

「カイオス様! こやつらの首を刎ねましょう!」

「そうです! パーパルディア皇国を侮辱した罪を償わせなくては!!」

「はい? 僕はただ、事実を羅列しただけですがねえ?」

「貴様ああ!!」

 

メンソルが立ち上がりハルトに向けて殴りかかる。しかし、隣に控えていたアオイにあっさり受け止められると、腹部を殴られ一瞬で撃破される。

 

「軍人が隣に控えていたのをお忘れかしら?」

「お前達、そこまでにしろ。この会談は皇太弟エルフェウス様の御意志が入ったものであるぞ」

 

カイオスが部下達を宥める。

 

「ハルト殿にアオイ殿、部下が失礼致した。早速で申し訳ないが、貴国の要求とやらを聞かせて頂きたい」

「では申し上げます」

 

ハルトは懐から一通の封筒を取り出した。封を切り、中の紙を取り出すと内容を読み上げ始めた。内容としては、

 

1.パーパルディア皇国は先のグレナダに対する主権侵害並びに兵士によるグレナダ人への殺害、暴行、破壊、略奪及びグレナダ島侵攻を認め、グレナダに対してパーパルディア皇国皇帝の名で全面的に謝罪する

 

2.パーパルディア皇国は1の実行に関わった責任者並びにグレナダ当局が指名した犯罪者をグレナダに引き渡すこと

 

3.パーパルディア皇国は1の賠償としてグレナダに300億東カリブ・ドルを一括で支払うこと

 

4.グレナダ島防衛にかかった費用として、以下の国に以下の金額を支払うこと。分割も可

 

グレートブリテン及び北アイルランド連合:9000万ポンド

カナダ:3000万カナダ・ドル

オーストラリア:1000万オーストラリア・ドル

ニュージーランド:500万ニュージーランド・ドル

アンティグア・バーブーダ:115億東カリブ・ドル

セントクリストファーネイビス:120億東カリブ・ドル

セントルシア:200億東カリブ・ドル

セントビンセントグレナディーン:100億東カリブ・ドル

 

5.パーパルディア皇国は先のフェン王国軍祭に合わせて領空侵犯を行い、オーストラリア海軍に対して武力行使した事実を認め、フェン王国に対してパーパルディア皇国皇帝の名で謝罪すること

 

6.5の賠償として以下の国に以下の金額を支払うこと。オーストラリアに関しては分割も可

 

フェン王国:200万東カリブ・ドル

オーストラリア:500万オーストラリア・ドル

 

7.パーパルディア皇国はアルタラス王国において、パーパルディア皇国アルタラス出張所職員がアルタラス王国大使婦女子に対して性的暴行を繰り返し行っていた事実を認め、パーパルディア皇国皇帝の名で謝罪すること

 

8.現在パーパルディア皇国アルタラス出張所にて監禁しているアルタラス王国人を即刻解放し、責任者並びにアルタラス王国が指名した犯罪者をアルタラス王国に引き渡すこと

 

9.パーパルディア皇国は8の賠償として以下の金額を支払うこと。分割も可

 

アルタラス王国:1000万ターラ

 

10.パーパルディア皇国は駐アルタラス王国イギリス大使館に職員が不法侵入したことを謝罪し、身柄を引き続きイギリス側が拘束することを認めること

 

11.何れか1つでも拒否した場合、我が国は断固たる措置をとる

 

 

「な、なんだこれは!」

「こんなものを受け入れると思っているのか!」

「蛮族め! 余程自国を滅ぼしたいようだな!!」

 

第三外務局の幹部達は口々にハルトとアオイを罵る。一方で局長のカイオスからは血の気が引いており、完全に青ざめていた。

 

(かなり不味い・・・イギリスは本気でこの内容を飲ませようとしている・・・第三外務局の極一部とエルフェウス様しか知らぬことだが、様々な角度から調査した結果、グレナダ懲罰艦隊がイギリスを中心とする艦隊に惨敗したことは事実と判明した。そしてフェン王国に向かった部隊はイギリスの従属国オーストラリアとイギリスの同盟国日本に全滅させられたことも確定した。軍部は日英の技術力は我が国に及ばない蛮族の集まりとしているが、付き合いの長い御用商人の調べで彼等はむしろ神聖ミリシアル帝国を軽く上回ることも判明している・・・クソッタレ! 日本の外交官らを門前払いするんではなかった! もし日本と国交があれば、彼等に仲介を依頼することも出来た。だが時計の針は戻らぬ。されどこのような内容をルディアス様や第一外務局が受け入れるはずがない・・・・)

 

「カイオス殿、如何されましたか? 顔色が優れないようですが?」

 

お前のせいじゃい! と内心言いたいのを我慢しながらカイオスは口を開く。

 

「な、内容がかなりデリケートですから・・・その、我々だけでは決定出来ませぬ・・・皇帝陛下は現在外遊中ですので、帰国するまでお待ち頂けませんか?」

 

何とかルディアスと第一艦隊が帰国するまで結論を引き伸ばそうと画策するカイオス。が、ハルト全権大使は容赦なく切り捨てる。

 

「ほう・・・そんなに我が国と戦争がしたいのですか」

「ち、違いまする!! ただ意思決定が出来る方がいない故」

「貴方方の事情等知ったことではありません。受け入れるか、戦争するかを選びなさい。YesかNoか!!」

 

アオイが拳を机に叩き付けて威圧する。それを横目にハルト全権大使が最後通牒を突き付ける。

 

「返答の期日は本日を含めて3日以内とします。もし我々の要求を受け入れない、または返答がなかった場合、我が国と戦争継続状態であると認定し、武力行使致します」

「そ、それだけは!!」

 

開戦宣言にカイオスは酷く狼狽する。局長の慌てぶりを見て部下達も今自分たちが置かれている立場を理解して言葉を失う。

 

「何とかなりませんか?!」

「なりません。グレナダやフェン王国に対して貴国の監察軍とやらが軍事侵攻をした時点で我が国はパーパルディア皇国と戦争状態にあります。先に宣戦布告無しに我が国の同盟国に先制攻撃をしたのは貴方方ではないのですか? 確か、監察軍は第三外務局局長の指示で動くのですよね?」

「は、はい・・・」

「では、カイオス殿以下第三外務局の幹部はグレナダ人殺害や略奪、破壊、暴行を指示した疑いがあります。貴方方の身柄をグレナダまで移送しなくてはなりませんなあ」

「あんたらの命と金で国を救うか、それとも我が身可愛さに国を滅ぼすか、好きな方を選びなさい。私達はこれで失礼するわ」

 

イギリス側の代表団は縋るカイオス以下第三外務局の職員を振り払いながら部屋を後にする。カイオスらは必死に後を追いかける。

 

「ハルト全権大使! お待ちください!!」

 

カイオスが玄関で追い付き、必死にハルトのスーツの裾を掴み、交渉の継続を嘆願する。

 

「何をする!」

「この忌々しい愚か者めが! 兄上に汚らしい手を触れるな!!」

 

カイオスの顔面を思い切りアオイは蹴り飛ばした。同時に拳銃を取り出し、ハルトを守る動作に入る。

 

「カイオス様!!」

「では、色好い返答をお待ちしております。ではまた」

 

イギリス側の代表団は第三外務局を後にし、日本の代表団が宿泊しているホテルへと向かった。

 

「クイーン・エリザベスに戻らなくて良いの?」

「英国紳士として、友人に危険を知らせないといけないからね。まもなくエストシラントを砲撃する。巻き添えにしたくないから共にクイーン・エリザベスに来い、ってね」

 

 

エストシラント郊外のとあるホテル

 

「イギリスの代表団が来ているだって!?」

 

パーパルディア皇国との国交樹立に向けた交渉役として派遣されている外務省の官僚朝田は突然のイギリスの代表団訪問に驚く。

 

「イギリス側はエストシラント沖に艦隊を展開。空母クイーン・エリザベスが停泊しているところまでは知っていたが、一体何をしようと言うんだ? まあよい。とにもかくにも会わなくては」

 

その後、カイオスによってスーツの一部が破れてしまった為に予備のスーツに着替えたハルト全権大使とアオイが朝田と会談した。

 

「この度は急な訪問をお許し頂き感謝致しますぞミスターアサダ」

「此方こそお会い出来て光栄です、ハミルトン駐アルタラス王国大使」

 

軽い社交辞令の後、イギリス側からこれまでのいきさつについて説明がなされた。グレナダ、フェン、アルタラスで起きた事についての謝罪と賠償を要求する為に空母打撃群を派遣していること、おそらくはパーパルディア皇国は要求を拒絶するであろうこと、そしてエストシラント沖に展開する艦隊による武力行使に踏み切る予定であること、巻き添えにする訳にはいかないことから日本の代表団を空母クイーン・エリザベスへの退避させたい、ということだった。同時に時間がないため、直ぐに荷物を纏めて欲しいと。突然の事態に朝田を始め日本側は動揺する。

 

「何とかなりませんか?!」

「パーパルディア皇国の輩と同じことを言うのですね。これは決定事項です」

「それに、いきなり戦争というのは・・・」

「ミスターアサダ、既に我が国はパーパルディア皇国と戦争状態にあります。グレナダ侵攻やフェン王国への領空侵犯並びにオーストラリア海軍艦艇への攻撃。宣戦布告無しに我が国はパーパルディア皇国から戦争を仕掛けられており、未だに講和条約は結ばれていません。そして講和条件を彼等に突き付けた。しかし、彼等は拒んだ。となれば、戦争継続しかありませんよね?」

「ぐっ!」

「時間がありません。直ぐに荷物を纏めて、我々と共にクイーン・エリザベスまで来て頂きます。外務省へは退避後に連絡すればよいでしょう」

 

(日本の外交官がここにいられては困る。万が一巻き添えにしては不味いし、何より国交樹立を餌にパーパルディア皇国に利用される可能性がある。奴らは何とか我々の要求を撤回させようと躍起になっている。そんな中穏便に国交樹立を図るお人好し国家があれば都合よく利用される。日本はいい加減外交というものを理解して欲しいものだ!)

 

荷物の整理に追われる日本の代表団を横目にハルトは内心でそんなことを思っていた。この日の夜に停泊していた空母クイーン・エリザベスがパーパルディア皇国側に通告なしに出港。皇国側は沿岸警備隊の船舶を出して妨害しようとするも、下手に近付けば攻撃の口実を与えかねないことから有効な手を打つことが出来ず、空母クイーン・エリザベスは無事日英の外交官を乗せてエストシラント沖に移動。艦隊と合流した。また、翌朝にはシオス王国を経由して向かって来たイギリス海軍の揚陸艦アルビオンとニュージーランド海軍の多目的艦カンタベリーが到着。両艦は完全武装した陸軍または海兵隊を乗艦させており、上陸作戦も辞さない構えであった。

 

 

海上自衛隊イージス艦あたご

 

「急ぎ外交官を迎えに行かねばならん! 全速前進!!」

 

親善訪問の為にシオス王国へと向かっていた海上自衛隊のイージス艦あたご。本国からの緊急命令により、シオス王国への寄港を中止。イギリス海軍の空母クイーン・エリザベスに退避した外務省の職員を引き取る為にエストシラント沖へと進路を変更し、全速力で移動中である。

 

 

日本国 東京都 首相官邸

 

「我が国と致しましては、英国の立場を尊重し、支持致します。もし仮に戦闘に突入した場合、日英同盟に基づき英国軍が必要とする物資の提供並びに船舶の海上護衛をお約束致します」

 

イギリスとパーパルディア皇国の軍事衝突が避けられない状況であることから、日本政府はイギリス政府に対して電話会談を要請。日本政府は直接的に戦闘に参加することは否定した一方で、英国が必要とする水、食料、武器弾薬の提供とそれらを輸送する船舶の護衛を行うことを確約した。また日本国内の在日英軍基地(旧在日米軍基地)の使用制限の撤廃も認めた。イギリス側は日本側の立場を理解した上で謝意を表明。佐世保基地からは海上自衛隊の補給艦おうみが英軍向けの補給物資を満載して出港。イギリス艦隊に合流する為に佐世保に停泊していたカナダ海軍のフリゲート艦モントリオールと共にエストシラントへ向かった。イギリスはカナダ、オーストラリア、ニュージーランドから艦艇を、日本からは補給物資の提供を受け、パーパルディア皇国に大英帝国の恐ろしさを植え付けようとしていた。

 

(続く)

 

 

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