パーパルディア皇国中核市アルーニ
アルーニ総督府前
「パーパルディア皇国はアルーニから出ていけ!!」
「傀儡の国王エルフェウスは我々の国王ではない!!」
「アルーニは死せず!!」
パーパルディア皇国自治アルーニ王国ではアルーニ市民による大規模なデモ行進が起きていた。元々は独立国であったアルーニ。しかし今から10年程前にアルーニ王国国王アルーニ6世が世継ぎを残せぬまま若くして病死したことで、パーパルディア皇国とリーム王国によるアルーニ王国国王継承戦争が勃発した。パーパルディア皇国皇太弟エルフェウスはアルーニ6世の妹を妃にしていたことから、パーパルディア皇国はエルフェウスをアルーニ王国国王に据えようとしたのに対して、リーム王国国王バンクスはアルーニ6世の従弟であったことから同君連合を組み併合を試みた。やがて両国は同時に国境線を越えてアルーニ王国領へ侵入。守備隊が抵抗し、1ヶ月持ちこたえたものの、他国からの支援のないアルーニ王国軍はリーム戦線で崩壊。海岸沿いの領土をリーム王国に占領された。直後にパーパルディア皇国軍が国境線沿いの防衛戦を突破し、怒涛の早さで首都アルーニ近郊に到達。リーム王国もその翌日に到達した。アルーニでは守備隊と市民が頑強に抵抗。市街戦ではパーパルディア皇国並びにリーム王国双方の軍に死傷者が続出した。開戦から2ヶ月後、アルーニ王宮(現アルーニ総督府)に立て籠っていたアルーニ王国軍は最後の突撃を敢行。アルーニ王国軍は全てが討ち死にし、パーパルディア皇国軍が王宮を制圧。アルーニ王国旗が降ろされ、パーパルディア皇国旗が掲揚された。その後パーパルディア皇国とリーム王国で新たな国境線に関する話し合いが行われ、沿岸都市を中心とする3割をリーム王国が、首都アルーニを含む残り7割の穀倉地帯をパーパルディア皇国が領有することに決まった。形式上はアルーニ王国がリーム王国に領土を割譲し、アルーニ王国国王にはエルフェウスが就任する形となった。その後アルーニ王国国王となったエルフェウスが兄であるパーパルディア皇国皇帝ルディアスに皇国への編入を求め、即日了承。こうして豊かな穀倉地帯や牧草地、良好な港を持っていたアルーニ王国は分割されて消滅した。
「アルーニ語教育の廃止を許すな!!」
「我々はアルーニ人だ! パーパルディア人でも、リーム人でもない!!」
国を喪ったアルーニ人に待っていたのは辛いものであった。パールネウス語やリーム語と繋がりのあるアルーニ語を話していたアルーニ人に対して両国は公式な場でのアルーニ語の使用を禁止。学校教育ではアルーニ語の授業が禁止され、パールネウス語やリーム語が強制された。更に両国はアルーニ人を2等臣民として扱い、権利を制限。アルーニ人は一定額以上の資産の保有を禁止され、職業選択や移動の自由を取り上げられた。更にアルーニ人は老若男女問わず強制労働に従事させられ、パーパルディア皇国側では農業や畜産、リーム側では漁業で属国よりはマシレベルの待遇となった。不満を常にアルーニ人は抱いており、両国は治安維持の為に警察や軍隊を派遣。特にパーパルディア皇国側ではエルフェウス傘下のエルフェウス騎士団が昼夜問わず、反抗的な住民の取り締まりを行い、恨みを買っていた。
「アルーニ人に自由を! アルーニに平和を!!」
「パーパルディアやリームは出ていけ!!」
その後集まった群衆はアルーニ王国の国旗を振り回しながらアルーニ王国の国歌を歌い始めた。無論、パーパルディア皇国でもリーム王国でもアルーニ王国旗を保有することも、アルーニ王国国歌を歌うことも固く禁止されている。
アルーニ王国国歌「アルーニは滅びず」
1.
アルーニの栄光と自由は滅びず!!
運命は未だ我らアルーニの兄弟に微笑みかけるだろう
我らの敵は太陽の元で露となり消え失せるだろう
我ら兄弟絶ちは自らの土地に君臨しようではないか
我らは自由の為に身も心も魂も捧げ
我ら兄弟がアルーニの民であることを示そう
2.
兄弟よ、パールネウス川からリーム川まで血の戦いに立とう
如何なる敵にも我が故郷を支配させはしない
母なる大地は未だ微笑み、祖父なるフィリポスは喜ぶだろう
我らのアルーニに幸運が熟すのだ
我らは自由の為に身も心も魂も捧げ
我ら兄弟がアルーニの民であることを示そう
3.
我らの熱意と努力がその正しさを証明し
未だアルーニに自由の大きな歌が響き渡るだろう
歌はグラメウスまで届き、草原にまで響き渡り
アルーニの栄光が人々の間に立ち現れるだろう
我らは自由の為に身も心も魂も捧げ
我ら兄弟がアルーニの民であることを示そう
我らは自由の為に身も心も魂も捧げ
我ら兄弟がアルーニの民であることを示そう!
アルーニ王国は豊かな穀倉地帯や牧草地、良好な港を持っていた。それ故に長年周辺国の都合で領土を勝手に分割され、時には国家そのものが消滅したりした。今から100年前、アルーニ王国国王の分家筋の末裔であり、アルーニ独立運動のリーダーであったフィリポスがパーパルディア皇国に独立戦争を挑んだ。卓越した指揮と補給線の遮断により、アルーニは独立を回復。フィリポスはその後アルーニ3世を名乗り、アルーニの人々に愛される存在となった。その後アルーニ独立運動で歌われていた運動歌が国歌に採用され、更に独立運動の象徴であった上半分が水色、下半分が山吹色の旗が国旗に採用された。ちなみに元々の歌詞は「祖父なる太陽」であり、アルーニ3世の死後、孫のアルーニ5世が「祖父なるフィリポス」に歌詞を変更し、今に至る。ちなみにこのアルーニ独立はパーパルディア皇国にとって最大の屈辱であり、アルーニの解放(併合)はパーパルディア人の悲願であるとパーパルディア皇国国民全員に教育されていた為、アルーニ王国を滅ぼしたルディアスの支持率が高い要因の一つとなっている。
「デモを止めろ!! お前たちは治安維持法に違反している!!」
エストシラント防衛の為にエルフェウス騎士団は引き抜かれていたが、引き続き警察や正規軍は駐留しており、デモ隊に対して解散を命令していた。
「パールネウス人は帰れ!!」
「俺達の国から出ていけ!!」
デモ隊の一人が警察に石を投げつける。次の瞬間、
「撃て!!」
パーパルディア皇国軍の歩兵第810連隊通称ビースト連隊がデモ隊に向けて発砲。デモ隊に多数の死傷者が出る大惨事となった。後に血の土曜日事件と呼ばれたこの日以降、アルーニ全土でパーパルディア皇国に対する抗議デモやサボタージュ、ストライキが頻発。この動きはMI6の手によりイギリス本国へ伝えられると、日本国沖縄県嘉手納基地に空挺師団と空中給油機を含めた戦闘機・輸送機部隊が集結。アルーニ解放と称して同地域を占領し、親英国家を樹立する動きに出たのである。
イギリス海軍空母クイーン・エリザベス
客人用個室
「あははは!!枢密院の連中は馬鹿しかいねえのかよ! 自ら穀倉地帯を譲るって言って来やがったよ!! 金さえあれば良いのかよ!! どんだけ腐敗してんだ!! まあ、確かにアイツらにとってはアルーニが無かろうが関係ないだろうけどさ!!」
本国からの追加指示を受けて、枢密院の連中と接触して来たハルト全権大使は笑いが止まらない。エルフェウスに知行されている土地だから、と簡単に穀倉地帯アルーニを手放すと言ってきたのである。エルフェウス失脚後、帰ってくる皇帝ルディアスと共に再度アルーニに侵攻するのだろうが、簡単に取り戻せる訳がないことを彼らは知らない。
「無知とは罪だよ!! あはははは!! あ、でも奴らのことだからさ、輸入費用と称して架空発注とか横領の種にするだけか!!」
(続く)