パーパルディア皇国 首都エストシラント
第三外務局会議室
「今日がイギリス側が設定した最終日か・・・・」
皇太弟エルフェウス、第三外務局局長カイオスを始めとしたパーパルディア皇国留守居組は完全にお通夜状態であった。限られた時間で必死にイギリスに関する情報収集を行い、戦争した場合のシミュレーションを実施。導きだされた結果は・・・
「少なくとも海上では惨敗は確実。陸においては未知数だが、国力や技術力を鑑みれば敗北の可能性大、空は惨敗確定か・・・」
勝てない。どんなに手を尽くしても無駄である。そう結論付けられた。出来ることなら早いことイギリス側の要求を受け入れたい。この場にいた者全員の考えであった。しかし、それが出来ない事情があった。
「外国との交渉に関する決定権は皇帝または皇太子が有すると憲法には規定されている。皇太子はいない為、即ち兄上だけが有する。皇位継承権第一位である私は皇太子ではなく皇太弟である為に、憲法上存在しない扱いである為に外国政府との交渉の決定権はない。ゆえにイギリス側の要求を受け入れることが出来ない・・・」
パーパルディア皇国憲法では、皇帝並びに皇太子の権力が絶対的な物であり、如何なる存在であってもこれを侵すことは出来ないと定められていた。エルフェウスが皇太子であれば話は違ったのだが、彼は皇太弟。暫定的に皇位継承権第一位であるだけの存在である。
「更には軍全てに出撃を拒否された・・・・だから私は兄上にこの憲法は欠陥品だと申し上げたのに!!」
神聖ミリシアル帝国に対抗するべく、皇帝ルディアス自らが作り上げたパーパルディア皇国憲法。本人はこれ以上に素晴らしい出来の憲法はこの世界には存在しないと言うが、現実は穴だらけの欠陥品であった。憲法には、
・パーパルディア皇国皇帝は陸海空三軍の大元帥として、指揮権と人事権を有する
・パーパルディア皇国軍はパーパルディア皇国皇帝並びに皇帝が認めた人物の指示にのみに従う
・パーパルディア皇国皇帝は政府が諸外国と結んだ条約や協定を否認する権利を有し、政府は皇帝の許可無しに諸外国と条約や協定を結んではならない
・パーパルディア皇国皇帝が公務執行が困難となった場合、皇太子がこれを代行する
とされている。一見すると当たり前の内容が書いてあるように見えるが、現在のパーパルディア皇国に当てはめると何の役にも立たないどころか、むしろ留守居組を縛る内容となっていた。憲法では大元帥であるパーパルディア皇国皇帝または皇太子が全てを決定する権利を有している一方で、皇太子がおらず、皇帝に代わり職務を代行する存在がいない場合を全く想定していなかった。パーパルディア皇国憲法制定時にエルフェウスは指摘していたが、立憲君主制国家への移行を提唱していた彼の意見を採り入れればいずれは自分たちの既得権が侵害されると判断した枢密院は案ずるに及ばずとして却下。結果パーパルディア皇国皇帝は外遊中かつ魔信の届かない大海原で艦隊と共に移動中の為に存命であり、公務執行を代行する皇太子は誕生していないというエルフェウスが懸念した事態となってしまった。
「されど、エルフェウス様はルディアス様から留守の間は頼むと言われていたではありませんか。留守の間は頼む、これはルディアス様が帰国されるまでの間はエルフェウス様が全権を握ると解釈しても良いのでは?」
「カイオス、私もそう思う。だが枢密院の連中は憲法に皇太弟に関する記述はなく、皇帝の補佐を担う枢密院としては憲法違反の可能性が高い行為に対して承認は出せない、と回答しやがった・・・奴らはイギリスのスパイか!!」
その指摘、実は事実であった。イギリスはMI6を潜入させ枢密院議員と接触。皇帝の補佐を担うと憲法に規定されている彼等を金で買収し、軍の出動や全権委任に関して徹底的に憲法を遵守させた。建前上は憲法違反の可能性が高いからとしておき、裏では莫大な金品を受けとる。仮に指摘されても憲法に書かれてるからで言い訳が出来る。更に枢密院議員らは枢密院の廃止を提案した過去があるエルフェウスを失脚させることも狙っていたことから、呆気なくイギリスに買収された。ちなみに買収の際に使用した貨幣はイギリスの造幣局で製造された偽造品である。また軍の高官にも枢密院経由で賄賂を送り買収。完全に腐敗しきっていた首都防衛隊はエルフェウスの指示を枢密院と連携して黙殺。基地からは一歩も出ず、エストシラントに繋がる街道の出入口を封鎖し、亀のように引きこもっている。
「カイオス、監察軍の方はどうだ? どれくらい出せそうか?」
「監察軍につきましては、エストシラント沖に向けて海軍が竜母5隻を含めた100隻の艦隊で移動中ですが、急な召集でしたので到着にはあと2日はかかります。艦隊からはイギリスの物と思われる鉄竜の接触を受けたとの報告があり、艦隊の移動については筒抜けになっていると思われます。陸上戦力につきましては、沿岸防衛陣地に5000の兵を展開し、砲台陣地を構築中でありますが主要砲台陣地は首都防衛隊の管轄であり、立ち入りを拒否された為有効的な場所を確保出来ていません。また砲台陣地に隣接してワイバーン部隊の仮説飛行場を構築。100騎を配備しました」
「うむ。そして明日には我が領からエルフェウス騎士団15000のが到着予定だ。20000の兵で兄上が戻るまで耐えてみせようぞ!」
パーパルディア皇国留守居組は完全に両手足が縛られた中で最善の行動を取る。そんな中、イギリス連邦王国艦隊旗艦クイーン・エリザベスでは、報道陣への対応が行われていた。
神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス とある酒場
中央世界にある誰もが認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国。その交易拠点となっている港町カルトアルパス。とある酒場では、酔っ払い達が話しをしていた。
「そろそろ始まるぞ!」
酒場に設置されたテレビに酔っぱらい達が注目する。
「こんばんは、夜のニュース速報です。本日は緊急特番でお伝え致します。まず始めに連日お伝えしています、パーパルディア皇国首都エストシラント沖に突如として出現した謎の大艦隊についての続報です。今回、ミリシアル放送の記者が艦隊の旗艦への取材と乗艦が許されました。現地に繋ぎます。第三文明圏担当記者バルキアさん?」
画像が切り替わり、イギリス海軍の空母クイーン・エリザベスの飛行甲板に立つ記者の姿が映し出される。
「へえー! ムー以外にも空母ってあったんか!!」
「ムーの支援を受けてるんかな?」
酔っぱらい達が口々に思い思いのことばを発する。
「はい。私は今、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の空母クイーン・エリザベスの飛行甲板に立っています。3日前に突如として出現した大艦隊は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランドの4か国による連合艦隊と判明しました」
「バルキアさん、それぞれの国について何か詳細な情報はありますか?」
「はい。まずグレートブリテン及び北アイルランド連合王国についてですが、244820平方キロメートルの面積を持つ立憲君主制国家であり、主にイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4地域による連合王国とのことです。この他多数の島々を保有しており、国土面積に対して広大な排他的経済水域を有している模様です。また国王が国家元首を務めてはいるものの、政治は国民から選挙によって選ばれた国会議員や功績のある者が務める貴族院議員が担うとのことです」
テレビに気付いたクイーン・エリザベスの乗員が誇らしげにユニオンジャックを振り回し、カメラがそれを映し出す。
「今彼等が振り回している旗がグレートブリテン及び北アイルランド連合の国旗、通称ユニオンジャックです。イングランド、スコットランド、北アイルランドの3地域の旗を合体させたデザインだそうです。ウェールズは入っていない模様です」
記者は即席のユニオンジャックが完成する経緯を記したフリップを見せる。ウェールズの全く毛色の異なる旗も合わせて表示し、視聴者に対して分かりやすい説明を心掛ける。
「ちなみに今バルキアさんがいる空母はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の艦、で大丈夫ですか?」
「はい。私がいます空母クイーン・エリザベスはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の航空母艦であり、ムーが保有している物と運用思想は全く同じであるとのことでした。また、試しに魔力探知機を使用しましたが、殆ど検出されなかったことからグレートブリテン及び北アイルランド連合王国は機械文明国であるとみて間違いない模様です」
「ありがとうございます。続いてカナダはどんな国なのでしょうか?」
「はい。カナダは9984670平方キロメートルの面積を持つ立憲君主制国家です。国家元首はグレートブリテン及び北アイルランド連合と同じ人物が務めています。これはかつてカナダがグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の植民地であった時の名残だとのことです」
その後、オーストラリア、ニュージーランドに関する簡単な説明が行われ、更にイギリス連邦王国やコモンウェルスについての解説がなされた。視聴者は第三文明圏に突如として出現した超大国に釘付けになる。
「更に驚くべきことはこれらの国々を遥かに上回る国力を有する国が存在しているということです。この場に艦はいませんが、日本国という国はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の親密な同盟国であると同時に1億2000万の人口を有する経済大国だとのことです。今回は日本国について詳しい情報を得ることは出来ませんでしたが、今後お伝えする機会があればと思います」
イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドだけでなく、まだ見ぬ日本の存在に視聴者は言葉が出ない。酔っぱらい達は真剣にテレビ画面を見つめていた。
「また今回はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の全権大使に直撃インタビューが許可されました」
直後に軍服姿の女性と共にシルクハットにスーツの格好をした英国紳士が記者の隣に立った。日本人から見ればレ○トン教授、神聖ミリシアル帝国の者達からすればキテレツな格好に皆目を奪われる。
「神聖ミリシアル帝国の皆様初めまして。僕はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国もとい、大英帝国の駐アルタラス王国大使にして、パーパルディア皇国との外交交渉における全権を委任されている、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンです」
「では早速ですがハミルトンさん。今回の大艦隊派遣の意味を教えて頂けますでしょうか?」
「今回の艦隊派遣の目的は単純明快です。驕り高ぶったパーパルディア皇国に対して現実を突き付けるためです。パーパルディア皇国は主権国家対等の原則を無視し、グレナダやフェン王国、更にはアルタラス王国にて不当な従属要求や武力による威圧、更には大使館職員による現地人への強姦等とても文明圏国家とは思えない蛮族としか言い様のない状態です。そのような国に最後の慈悲を我が国は与えました。我々は賠償金の支払いと犯罪人の引き渡しを要求したのです。しかし、彼等は我々の最後の慈悲を拒絶しました。その証拠に日に日に沿岸部には軍が集結しており、エストシラントに向けて10000は超える陸軍部隊が向かっています。もはや彼等に現実を突き付ける他ない。明日にも貴女方は我が国の実力と歴史が変わる瞬間をご覧頂けることでしょう」
その後幾つかのやり取りがらなされ、インタビューは終了した。また神聖ミリシアル帝国の記者らは引き続きクイーン・エリザベスに残り、開戦の様子を速報で伝えて頂きたいとイギリス側から申し出があった為、このまま取材を続けることが伝えられた。
「以上、現場からバルキアがお送り致しました」
「バルキアさん、ありがとうございました。引き続き取材をよろしくお願いいたします」
その後映像はスタジオに戻り、これまでに取材したイギリス艦隊の詳細が報道される。一部はイギリス側の要請でモザイクがかけられているものの、軍艦の内部を公開した為テレビの前の酔っぱらい達は更に驚く。現在のイギリス艦隊の戦力は、
イギリス
空母クイーン・エリザベス(旗艦)
揚陸艦アルビオン
駆逐艦ダイヤモンド
フリゲート艦リッチモンド、ポートランド
カナダ
フリゲート艦ハリファックス、トロント、モントリオール(移動中)
オーストラリア
駆逐艦ホバート
フリゲート艦アランタ、スチュアート、パース
強襲揚陸艦キャンベラ
ニュージーランド
補給艦アオテアロア
多目的艦カンタベリー
である。この他外務省職員回収任務として海上自衛隊のイージス艦あたご、イギリス艦隊への補給物資提供の為補給艦おうみ、他海中にはイギリスの原子力潜水艦が展開している。この内、ポートランド、ハリファックス、ホバートの3隻はエストシラントに向けて移動中の監察軍艦隊迎撃の為に既に離れており、まもなく軍事衝突すると思われる。しかし進行方向に海上自衛隊のイージス艦あたごがいる為、現在あたごに対して艦隊に加わるように要請中である。アルビオン、キャンベラ、カンタベリーは上陸作戦に備えてとある島に向けて移動中、クイーン・エリザベスは艦載機の発艦させる準備が完了、リッチモンド、トロントを除く他の艦艇は沿岸部に陣取る監察軍砲撃の為に移動しており、まもなく砲撃が開始予定。更に日本国沖縄県嘉手納基地からは空中給油機を伴いながらユーロファイタータイフーンやC-130輸送機が離陸。此方はアルーニに向けて飛行している。そして日が代わり、翌朝早朝のことだった。
イギリス海軍駆逐艦ダイヤモンド
「Fire!!」
先頭を進んでいたイギリス海軍の駆逐艦ダイヤモンドが沿岸砲台に向けて砲撃を開始。これを皮切りにオーストラリア海軍のフリゲート艦アランタ、スチュアート、パースも砲撃を開始した。後に英羽戦争、または第一次エストシラント沖海戦と称された戦いが幕を開けた。
(続く)