パーパルディア皇国エストシラント臨時砲台
「眠い・・・そろそろ交代かあ・・・」
緊急招集を受けて駆け付けてきた監察軍の兵士達は疲労困憊だった。彼等はつい最近まで各地の属領やリーム王国との国境線で起きた小競り合い鎮圧の為に派遣されており、それらも片付きやっと休めると思っていた矢先にイギリス連邦王国艦隊が出現。休む間もなくエストシラントまで駆り出されていたのだ。
「しっかし、エルフェウス様は嫌われ過ぎだろ。別にルディアス様と仲が悪いわけじゃねえのに」
「国民は戦争と強い祖国を求めてるからな・・・ルディアス様が周辺諸国を武力で制圧しまくることに成功。強い祖国に国民は歓喜し、対称的に平和的解決を訴えるエルフェウス様が軟弱者に見えてしまう・・・実際は無茶ばかりするルディアス様の尻拭いをエルフェウス様が担っているのだがな・・・」
先代にして父親のルディアヌの急逝により、15歳で即位したルディアス。初めは父や祖父の代から仕える枢密院議員の傀儡に近かったものの、17歳の頃から統治者としての才覚を発揮。第三外務局並びに監察軍の創設と周辺諸国への圧力強化により領土を拡大。その結果パーパルディア皇国は僅か10年で72ヵ国を支配下におく大帝国にのしあがり、列強の仲間入りも果たした。27歳にして第三文明圏最大の帝国の統治者。そんな彼を神と崇める国民は多い。しかし、それが出来るのは裏で弟のエルフェウスが手を回していたからである。
「神聖ミリシアル帝国やムーの介入をあの手この手でかわして来たのも、両国に留学経験のあるエルフェウス様だから出来たこと。ルディアス様はそれを強く理解している為に皇太弟に褒美としてコンホン島を初め、広大な土地を与えられた。しかし、国民や枢密院は理解していないが為に全く支持されていない」
「枢密院廃止提案は痛かったよな。ルディアス様でさえ言い出せない爆弾だよアレ」
初めは若き皇帝を支えていた枢密院。しかし、ルディアスが統治者としての才覚を発揮し始めると徐々に亀裂が生じ始めた。若僧風情がと馬鹿にする枢密院議員らは次第にルディアスの指示を聞かなくなり始めた。この事を憂慮したエルフェウスは兄に代わって汚れ仕事を引き受けるようになった。具体的には皇帝の本音を皇太弟が語ることで、本来皇帝に向かうべきヘイトが皇太弟に向くようにしたのである。そしてルディアスもエルフェウスを臣下の面前で叱責する等、エルフェウスという共通の敵を作り出すことで亀裂を最小限に抑えていた。しかし、腐敗している枢密院議員や彼等の影響下にある首都防衛隊は予算の横領や他の家臣の土地を接収したり等好き勝手にやっていた。更には属領統治機構と結託して属領に過大な税を課して私服を肥やす等、裏では緊密に連携しているルディアスとエルフェウスは枢密院の廃止と粛清を計画。その一環でエルフェウスが枢密院の廃止を主張したのだが、これが彼等の反発を招いた。彼等は
ルディアス様を支える枢密院を廃止し、エルフェウスが兄を倒して皇位を簒奪するつもりなのだ!
と流布。国民から人気のあるルディアスから皇位簒奪を企てていると騙された多数の国民は反エルフェウスとなり、今や支持率は0.810%ととんでもない支持率になっていた。アルーニに至っては支持率0%と酷く嫌われていた(ただし、アルーニではルディアスの支持率も0に近い)
「て、敵艦隊が接近!!」
双眼鏡片手に見張りをしていた兵士が声色を変えて叫ぶ。
「敵艦発砲!」
「この距離から届くのか!?」
次の瞬間、彼等の陣地に隣接する隣の砲台が爆発する。運の悪いことに初弾が弾薬庫に着弾。せっかく輸送してきた貴重な砲弾が一瞬でパーになってしまう。
「反撃を!」
「馬鹿者! この距離で届くわけないだろ!! 総員退避! 退避ー!!」
圧倒的射程圏外からの艦砲射撃に監察軍の兵士は何も出来ないまま陣地を放棄する。
「ワイバーン部隊は??」
「それが昨夜何者かが餌を沢山やっていたようで、全てのワイバーンが満腹で飛べません!!」
エストシラント市内に潜伏しているイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの諜報部員は監察軍兵士に扮してワイバーン部隊特設陣地に潜入。夜間の内にクワ・トイネ公国産の高カロリーかつ消化の遅い餌を与え、全てのワイバーンを満腹状態にしていた。旨すぎる餌を与えられた監察軍のワイバーンはぐっすりすやすやと眠っており、イギリス連邦王国艦隊の砲撃にさえ反応しなかった。家畜にさえ旨い餌を与えられるクワ・トイネ公国の名は伊達ではなかったと後にニュージーランドの諜報部員が証言したという。
「なにぃ!? 直ちにエルフェウス様に報告を・・・うわあああ!!」
イギリス連邦王国艦隊の砲撃は彼等の陣地にも及び、猛烈な爆風で吹き飛ばされる。一通り監察軍の陣地を破壊し尽くしたイギリス連邦王国艦隊は続けてエストシラント港に移動。停泊していた商船や監察軍の艦艇を一方的に撃沈した。先んじてイギリス政府は各国大使館に対して一方的にエストシラント港からの退避命令を通告。神聖ミリシアル帝国で放送された特番を見た各国大使館は出港可能な船は洋上避難、不可能な船は人員を退避させていた。その為第三国の死傷者は0となった。一方でパーパルディア皇国側は港湾職員や監察軍兵士を中心に100名が死亡。一部市民も巻き添えになった。
イギリス海軍駆逐艦ダイヤモンド艦橋
神聖ミリシアル帝国報道陣
「たった今! たった今、イギリス海軍による艦砲射撃が始まりました! 驚くことに我が国の艦艇より圧倒的に速いスピードで射撃を行っています!!」
神聖ミリシアルにより、世界中に速報としてイギリスとパーパルディア皇国の戦争開始が伝えられる。テレビの前では皆が作業を止め、イギリス艦隊の砲撃の凄まじさに言葉がでないでいる。
第二文明圏列強ムー首都オタハイト
国防総省
「なんという速射性と正確さだ! 砲の大きさは我軍の高角砲レベルだが、それとは比べ物にならない程の性能だ!!」
「これはイギリスの勝利だな。話にならなさすぎる」
「第二文明圏にグラ・バルカス帝国、第三文明圏には大英帝国・・・とんでもない超大国が現れたもんだ・・・」
神聖ミリシアル帝国の放送を受信しているムーでは国防総省の幹部全員が固唾を飲んでイギリス艦隊による艦砲射撃を見守る。
「そう言えば、昨日イギリス艦隊と似た艦がマイカルに入港していたな」
「でも、あれは白地に赤い丸の旗じゃなかったか? 確か日本って国の練習艦かしまだろ?」
「その練習艦にイギリスの使節団も乗っていると聞いたぞ!?」
「何故それを先に言わん! 国防総省の総意を政府に伝えよ!! 大英帝国とは絶対に敵対してはならぬと!!」
この前日、国交樹立と長距離航海訓練を兼ねて海上自衛隊の練習艦かしまがムーのマイカル港に入港していた。日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの使節団を乗せており、現在国交樹立に向けた交渉中であった。幸いにも日英両国はムーとの友好関係構築を望んでおり、国防総省の危惧した大英帝国との戦争に至ることはなかった。その後日英とムーは共に地球から転移した国家と判明すると、更なる友好関係構築に向けて両者は歩みより始めるのである。
パラディス城執務室
「砲台や港湾は瓦礫の山・・・・ワイバーンは飛べず監察軍は市街地へ撤退・・・なんて破壊力・・・イギリスの大砲は化け物か!!」
部下からの報告にエルフェウスはただ驚くことしか出来ない。
「援軍はどうなっている!?」
「それが、正規軍がエストシラント市内に繋がる全ての街道を封鎖。エルフェウス様直属の騎士団のエストシラント市内流入を阻止しているとのこと・・・」
「なんだと!? 枢密院の仕業か!!」
「はい。枢密院はエルフェウスによるクーデターの目論見を阻止するとして、正規軍に街道封鎖を指示。市民も加わり騎士団はエストシラント市内に入れません・・・」
イギリスと内通している枢密院は徹底的にエルフェウスを妨害する。エルフェウス直属の騎士団を皇帝不在の隙をついたクーデター軍であると認定。正規軍も自らの利権を守り、エルフェウスを排除する為に結託し騎士団のエストシラント市内入場を阻止。市内に展開する監察軍は1000名の死傷者を出し、パラディス城まで撤退した。
「申し上げます!! コンホン島、ロークン半島にイギリス軍が上陸! 守備隊は即座に壊滅し、コンホン島、ロークン半島、そしてカイシンが占領されました!!」
「な、なに!? いつの間にイギリス軍は陸軍を上陸させたんだ!?」
「どうやら前もって揚陸艦を移動させていた模様です!」
パーパルディア皇国コンホン島
エルフェウス別荘
「随分豪華な別荘だな。流石は皇太弟の屋敷だよ」
「総督府を設置するのにはピッタリね」
空母クイーン・エリザベスから揚陸艦アルビオンに移乗していたハルトとアオイはイギリス軍とカナダ軍が無血占領したコンホン島に上陸していた。エストシラント港から西に100キロ離れたコンホン島。形大きさは地球世界の香港島に酷似しており、近くには九龍半島に酷似したロークン半島、新海に酷似したカイシンと呼ばれる地域があった。戦後の賠償請求を見据え、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドは3隻の揚陸艦で上陸作戦を決行。空母クイーン・エリザベス以下空母部隊の支援を受けイギリス軍がコンホン島に上陸。島は全体がパーパルディア皇国皇族が使用する別荘となっていたが、現在は使用されない時期であったことや戦場になるとは予想されていなかったことから僅かな管理人のみが在住。完全武装のイギリス軍に抵抗出来るわけなく降伏。パーパルディア旗が降ろされ、ユニオンジャックが掲揚された。その後コンホン島に抑えの部隊を残し、他は対岸のカイシンに上陸。ここでも戦闘らしい戦闘はなく、カイシン行政庁舎をカナダ軍が制圧。その後圧倒的劣勢を悟った警備隊が戦わずして降伏し、カイシンも制圧した。
イギリス海軍空母クイーン・エリザベス
飛行甲板
「ご覧ください! 先ほど出撃したイギリス海軍航空隊の艦載機が戻ってきました! イギリス海軍航空隊による爆撃が終了したものと思われます!!」
イギリス海軍の空母クイーン・エリザベスの飛行甲板でも神聖ミリシアル帝国により、イギリスとパーパルディア皇国の戦争がリアルタイムで報道されていた。カルトアルパスの酒場では朝にも関わらず多数の客が押し寄せ、イギリス軍の兵器に度肝を抜かれる。
「なんだありゃ!? ムーの飛行機械みたいなプロペラがねえぞ!!」
「むしろウチのエルペシオ3に似てるな・・・にも関わらずエルペシオ3より圧倒的に速い!!」
「どうやって作ったんだアレ!?」
「大英帝国か・・・こりゃあ歴史が変わるぞ・・・・」
ロークン半島先端
「何なんだあの軍は!?」
「こっちの武器じゃ歯が立たねえ!」
「うわ! 撃たれた!」
「くそったれ! 撃ち返せ!!」
ロークン半島に上陸したオーストラリアとニュージーランドの連合軍は僅かに駐留する警備兵を装甲車で蹴散らしながら前進する。
「撃ち漏らした砲台を確認!」
「沖合いのモントリオールに砲撃支援要請!」
やがて部隊はロークン半島先端の砲台に到達。砲台は既にイギリス軍海軍航空隊のF35Bにより破壊されていたが、一部の砲台が残存しており、頑強に抵抗していた。やがて沖合いに展開するカナダ海軍のフリゲート艦モントリオールが艦砲射撃を開始。守備隊は最後の砲台を喪った。
「突撃ー!!」
オーストラリア軍とニュージーランド軍が砲台陣地に突入する。内部では銃剣を用いた激しい戦闘が行われ、守備隊は全滅した。逃げ場のない守備隊による必死の抵抗により、此方ではオーストラリア、ニュージーランド双方に死傷者が発生したが、目標を達成。砲台跡地にはオーストラリアとニュージーランドの国旗が掲げられた。
パーパルディア皇国パールネウス
パールネウス基地
「アルーニの援護に行かなくて良いのですか?」
「良いのだ。逆に行きたいのか? アルーニを守備するビースト連隊は犯罪者で構成される囚人連隊、謂わば皇国の恥さらしだ。それをイギリスとやらが殺処分してくれるならありがたい話だ」
「それもそうですな」
「それに、仮に占領出来たとしてもあの広大な領土を守りきることは出来まい。ルディアス様帰国後、我らにアルーニ占領の命が与えられるだろう。上手く行けば我らがアルーニの支配を任せられるやもしれん」
枢密院から動かないように指示を受けていたパーパルディア皇国パールネウス守備隊はアルーニ守備隊を見殺しにした。このことを知らないアルーニ守備隊は突如として現れたイギリス軍の空挺部隊と戦闘に突入していた。
パーパルディア皇国中核市アルーニ
アルーニ総督府
「総督代理!! て、鉄竜が多数出現!! 馬鹿でかい鉄竜から人が降ってきます!!」
「な、なに!? 空から部隊を送り込むだと!! 一体どこの軍隊だ!?」
「分かりませんが、上陸した敵軍と我軍が戦闘に突入。敵の銃の射程や連射能力を前にビースト連隊は敗走しています!!」
「現在、警察や敗走して来たビースト連隊で総督府を固めており、パールネウス基地に援軍を要請しています!!」
「くそ! エルフェウス総督の騎士団さえいれば!!」
「なんだ!? あれ!!」
「パーパルディア皇国軍と戦ってるぞ?! 一体どこの軍隊だ!?」
「あの旗は・・・昨日ラジオで聞いたヤツだ! あれはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の旗だ!!」
「グレナダ沖で監察軍を全滅させた国がなんでこんなところに!?」
市民らは市街地を走り回るイギリス軍の空挺部隊を遠巻きに見守る。空にはイギリス空軍の戦闘機が警戒し、輸送機から次々と補給物資が投下される。明らかにアルーニ占領を試みる行動だ。
「着剣せよ!! 突撃ー!!」
イギリス軍は総督府に突入。イギリス軍は士気の下がったアルーニ守備隊を瞬く間に討ち取り、総督府は陥落。ユニオンジャックが翻り、アルーニの占領を宣言。講和条約締結まではイギリス軍が街の治安維持を行うと布告すると共に、アルーニ市民への発砲を指示した人物の逮捕並びに軍事裁判の実施を宣言した。後にアルーニはパーパルディア皇国から賠償としてイギリスに割譲後にイギリス連邦王国の一員、アルーニ王国として独立。アルーニの英雄フィリポスと現在のイギリス国王の父親の名前が非常に似ていることが判明すると、本人は既に亡くなっているにも関わらず神格化され、更にその息子であるイギリス国王も神のように崇められることになるのは後の話でたる。
エストシラント沖東100キロ海上
海上自衛隊イージス艦あたご
「結局逃げ切れなかったか・・・」
外務省職員回収の為にエストシラントに向かっていた海上自衛隊のイージス艦あたご。しかし、進行方向右側からはパーパルディア皇国監察軍艦隊、左側からはイギリス連邦王国艦隊が接近していることが判明。計算の結果、どうやってもパーパルディア皇国監察軍艦隊と衝突するとの結果が出た。これ受けてあたごはやむ無くイギリス連邦王国艦隊に合流。艦隊の最後尾につけ、上空警戒にあたった。
「レーダーに感! 本艦隊に接近中のワイバーンと思わしき飛行物体を確認! 100はいます!」
「対空戦闘用意! 全て撃ち落とせ!!」
監察軍艦隊が発艦させた総勢150のワイバーン部隊を発見したイージス艦あたごは直ちに対空戦闘に移行。対空ミサイルを発射し、イギリス連邦王国艦隊の上空警戒任務に就いた。
「本艦のSM-2、目標を撃墜!」
「敵はまだまだいる。構わず撃て!!」
あたごが対空戦闘を行う中、イギリス連邦王国艦隊は監察軍艦隊に対して主砲による艦砲射撃を開始。フリゲート艦ポートランドの砲撃を皮切りに次々と監察軍艦隊が沈んでいく。
オーストラリア海軍駆逐艦ホバート
「ハープーン発射用意ヨシ!」
「Fire!!」
監察軍の航空戦力を削りきる為に駆逐艦ホバートはハープーンを発射。4発のハープーンは一寸の狂いなく飛行し続け、発艦作業中の監察軍の竜母4隻に直撃する。
「ターゲット撃沈を確認!!」
「ジャパンのクルーザーを援護する。本艦も対空ミサイルを発射せよ!」
対空戦闘に参加していなかった駆逐艦ホバートも対空ミサイルを発射する。あたごと同じくイージス艦であるホバートは日本の物よりは劣るものの、異世界からすればオーバースペックの性能を持つ。日豪の対空ミサイルにより、監察軍のワイバーン部隊は全滅。上空の脅威が去ったことにより、ホバートとあたごも砲撃任務に加わり、艦砲射撃の密度は更に濃くなる。
「チクショウメェー!!」
監察軍艦隊旗艦の艦橋では司令官が断末魔をあげた。直後にハリファックスが放った砲弾が被弾。浸水により海中に没した。監察軍艦隊は99隻が撃沈。被弾するも、運良く生き残った竜母1隻はワイバーンを全て喪っており、日英加豪艦隊に降伏。あたごに曳航されて中立国であるシオス王国の港に入港。あたごと共に終戦まで港で待機することになる。この報せが届けられると、エルフェウスら留守居組の士気は低下。彼等は決断を迫られることになる。
パラディス城執務室
「・・・・最早打つ手なしか・・・」
第三外務局の官僚らと共に作戦会議を開いたエルフェウスは力なくそう呟いた。
「はい・・・監察軍は戦力の殆どを喪いました。あとは属領統治の為に展開している部隊のみですが、属領統治機構軍指揮下の部隊でもありますので事実上回せる部隊はありません。また街道は引き続き正規軍が封鎖しています・・・」
カイオスも力なく事実を淡々と並べる。イギリス連邦王国艦隊が現れて1週間も経たずして監察軍は壊滅し、領土の一部が占領された。正規軍は全く動かず、上陸した敵を撃退は不可能であった。
「エルフェウス様! 枢密院の使者が!!」
「・・・・ろくでもない内容だろうな・・・お通しせよ」
「ははっ!」
その後枢密院議長の使者が執務室にやって来る。
「皇帝陛下に反旗を翻した挙げ句、国土の一部を占領された。恥ずかしくないのですかな?」
「反旗を翻した? 戯けたことを!! 私は兄上に反旗を翻したこと等ない! むしろ枢密院の連中が足を引っ張っているではないか!!」
「ほほう、この期に及んで責任転嫁とは・・・呆れましたなあ」
「責任転嫁だと!? 事実ではないか!! 正規軍の出動を拒否し、更には予算の横領等私服を肥やすことに尽力していた貴様らがそんなことを言えるのか!!」
「はあ・・・本当に困った皇太弟ですなあ・・・憲法上では存在しない癖にやりたい放題しておきながら・・・まあよいでしょう。枢密院からの助言を御伝え致します。直ちにイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本と講和せよ! 但し、今回の戦闘はエルフェウスの独断により行われたものである為、賠償などはエルフェウス並びに第三外務局で行うべし!!」
「・・・・はあ!?」
戦闘の終結は受け入れ可能であったし、戦闘継続は不可能だと考えていたエルフェウスやカイオスだったが、枢密院からの事実上の命令に驚愕していた。
「待て! そもそも正規軍の出動を拒否したのは枢密院ではないか!! 枢密院にも責任があるはずだ!!」
「エルフェウス様の言う通りですぞ! 正規軍が出動していれば、まだ戦えたはず! 勝てはしなくとも、ルディアス様が帰国するまで時間稼ぎは出来たはずだ!!」
抗議するエルフェウスとカイオス。しかし、枢密院からの使者は冷たい目で切り捨てる。
「国民は貴様らを、クーデターの首謀者として首をはねよ!と息巻いているが? これは我らからの慈悲だ。国民を我らが宥める故、交渉を纏めてこい。以上だ」
枢密院の使者が去った後、パラディス城周辺ではイギリスとの戦争の責任を取れとエストシラント市民が押し掛けデモを行っていた。
「クーデターの首謀者、エルフェウスを許すな!!」
「ルディアス様の留守居の癖にクーデターとは許せんぞ!」
「エルフェウスとカイオスの首をはねよ!!」
内外から圧迫されたエルフェウスとカイオスは魔信にてイギリス連邦王国艦隊に対して、和議を打診。イギリス軍が占領するコンホン島のエルフェウス別荘にて講和会議が開催された。イギリスや日本に加えて神聖ミリシアル帝国の報道陣が講和会議の様子を中継。世界中にその様子が伝えられた。会議ではイギリスが開戦前に要求した内容に加え、以下の内容が追加された。
1.パーパルディア皇国は以下の領土をそれぞれ永久割譲すること
コンホン島→グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
カイシン→カナダ
ロークン半島北部→ニュージーランド
ロークン半島南部→オーストラリア連邦
2.戦争の賠償金として以下の金額を支払うこと。不可能な場合は領土の割譲でも可
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国→2億ポンド
カナダ→2000万カナダ・ドル
オーストラリア連邦→1500万オーストラリア・ドル
ニュージーランド→1200万ニュージーランド・ドル
日本国→5000万円
3.パーパルディア皇国はグレートブリテン及び北アイルランド連合、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド並びに日本国から輸出される全ての製品に対する関税を放棄すること(関税自主権の放棄)
4.パーパルディア皇国はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド並びに日本国に領事裁判権を認めること
5.パーパルディア皇国はエストシラント、デュロをグレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド並びに日本国に対して開港し、自由な商売を認めること
6.パーパルディア皇国はエストシラント、デュロにグレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド並びに日本国の軍隊が居留民保護の為に常駐することを認めること
今まで諸外国に不平等条約を飲ませて来たパーパルディア皇国だったが、でたらめ過ぎる強さを持った国々による集団リンチにより、今度は自分たちが飲まされる側になっていた。無論賠償金の全てをエルフェウスの資産のみで支払うことは出来ず、枢密院に予備費の活用を要請。即刻却下され、やむなくアルーニを含むエルフェウスの知行されている全ての土地と保有している全ての芸術品をイギリスに割譲することを条件に条約が調印された。コンホン条約と呼ばれた不平等条約により、日英は巨大市場への参入を果たすと共に、世界にその名を轟かせることになった。条約調印から2ヶ月後にエルトが、そこから更に2ヶ月後にルディアスが帰国することになるが、その間に変わり果てた祖国にルディアスは激怒することになる。
(続く)