パーパルディア皇国皇都エストシラント
とある呉服屋
「・・・はあ、商売にならねえよ・・・こんなんじゃ」
パーパルディア皇国の皇都エストシラントで親子3代に渡り呉服屋を営む店主は開店休業な状況にため息をついた。日英との講和条約であるコンホン条約締結後、日本企業が続々と進出。圧倒的経済力と工業力を背景に高品質かつ安価な製品がパーパルディア皇国国内に大量に流入した。特にポリエステルでできている服が安くて高品質な上に着心地も良いとしてエストシラントで大流行。既存のパーパルディア皇国の伝統的な服装は廃れてしまった。関税がかからないことから国内の産業保護も出来ず、日本企業との争いに敗れ廃業または買収される企業や個人店は後を絶たない。
「うちも日本製の服を売るかな・・・食うためには仕方ねえ・・・」
同じくエストシラント
とある個人商店
「しっかし、日本の缶詰にビールの売れ行きは好調だなあ」
「関税がないから安いし、それに加えて旨いんだからな。仕事帰り自宅で一杯やるには丁度良いんだろうなあ」
エストシラントの大通りで個人商店を営む此方の店舗ではいち早く日本製品の取り扱いを開始していた。この商人はクワ・トイネ公国と商売があったことから、日本やイギリスに関する情報を掴んでおり、コンホン条約にて日英の製品に関税がかからないと知ると真っ先に日本製品を大量に発注。パーパルディア皇国ではんだ付けが甘く、鉛が溶け出してしまいとても食えた物ではないのが常識であった缶詰がここ最近は好調。手軽に持ち運べ、食卓にも出しやすく、安くて美味しいとして、一般家庭に広く普及していた。またわざわざ日本から冷蔵庫と発電機を取り寄せてキンキンに冷えてやがるビールの販売を開始すると、これがまた飛ぶように売れた。またおつまみとして乾物類も販売すると更に売れる。今や店の商品の8割が日本製品となっており、最近ではマヨネーズやケチャップ、ソースに醤油が売れているという。
「もはや完全にバブルやな」
「そう言えば店長、日本のコンビニとやらがうちとフランチャイズ契約をしないかと申し出がありますが、どうしますか?」
「日本製品を更に売り込むチャンスだな。是非ともやりたいと返答するんだ!!」
後にこの店舗はパーパルディア皇国初の日本企業によるコンビニとなるのだが、彼らはそれを知らない。
エストシラント外れ
とある賭博場
「チクショウ! 負けちまった!!」
パーパルディア皇国に進出した日本企業は良いものばかりではなかった。北朝鮮に金が渡っていると噂が絶えないギャンブル依存性の巣窟、パチンコもパーパルディア皇国に進出していたのだ。消費者金融と手を組み、金がなくてもパチンコが出来ると謳い、欲求を刺激。ほとんどの者は勝てずに土地や家を消費者金融に差し押さえられ浮浪者と化し、エストシラント外れでは治安が悪化。更に一部の企業は地下送りと称して地下強制労働施設で働かせているという真偽不明の噂もあり、エストシラントでは急速にパチンカスが増え始めていた。
「ふへへ・・・儲かった儲かった! さあ換金するか!!」
本来であればパーパルディア皇国皇帝の許可がなければ賭博場は運営出来ない。パチンコも本来はそこに含まれるが、そこは日本と同じく三店方式。パチンコ台と換金施設を別にするで規制をクリア。なんならパチンコ台の店舗と換金施設は別企業扱いにしていた。更に枢密院の腐った輩にはパチンカスから召し上げた金の一部を賄賂として渡すことで警察の介入を未然に防止。むしろ警察にまで賄賂が渡っており、エストシラントの外れでは警察が機能しておらず、賭博場防衛の為に存在しているという有り様だった。一部の調べではエストシラントにギャンブル依存性の患者は114514人いると言われており、パチンコ目当てに集まってきた地方の人間も含まれている。
エストシラント官庁街
とある牛丼屋
「日本の飯屋と聞いて最初は不安だったが、今となっちゃ毎日食ってるな」
「うちんとこの食堂より安くて旨いしな!!」
エストシラントの官庁街には日本の牛丼屋がオープン。日本産の米とオーストラリアやニュージーランド産の牛肉、クワ・トイネ産の野菜を用いた牛丼を官公庁の職員達は毎日食べていた。
「聞いたか? 明日にはハンバーガーとやらを販売する店がオープンするらしいぞ?」
「ハンバーガー? なんだそりゃ?」
「聞いた話によると、パティと呼ばれる肉や魚、あとは野菜をバンズと呼ばれるパン2枚で挟んだ料理らしい。あとは付け合わせでフライドポテトやチキンナゲットも付いて来るんだとよ」
「はえ~。最近牛丼にも飽きてきたし、明日行ってみるか!!」
「他にもメニュー表よりデカイ料理を提供する茶店が出来たんだよ。昨日行ってきたんだけどさ、サンドイッチがバカでかくてビックリしたぜ」
「家の嫁なんて居酒屋のバイトを辞めて最近は昨日から向かいのハンバーグレストランでバイトしてるぜ。明日行ってみようと思うわ」
この他日本の外食産業がこぞってエストシラントに進出。現地の外食産業を駆逐する勢いで展開していた。その結果、既存のパーパルディア皇国の外食産業では労働者が待遇のよい日本の外食産業に転職してしまい、店を畳む店舗が続出。空き家になればそこに日本企業が進出する。戦争ではほとんど見せ場のなかった日本は経済的にパーパルディア皇国に侵略しつつあった。この事からパーパルディア皇国国民の中に日英に対する強い敵対心が芽生え、コンホンやアルーニを奪われたことや自分たちは列強であるという愛国心も合わさり、日に日に不満は溜まりつつあった。
エストシラント港イギリス租借地
イギリス海軍エストシラント根拠地隊
哨戒艦モス
「あれがパーパルディア皇国第一艦隊か。時代遅れの集まりだな」
先のコンホン条約にて賠償金の代わりとしてイギリスに999ヶ年租借されたエストシラント港の一部ではイギリス海軍の哨戒艦がパーパルディア皇国第一艦隊の動向を注視していた。
「パーパルディア皇国皇帝ルディアスが帰国したのは確実。何か行動に出る可能性があるとして、警戒監視を求められているが・・・さあどうなることか」
エストシラント根拠地隊はエストシラントに在住する日英の居留民保護の為に駐留しており、イギリス軍、カナダ軍、オーストラリア軍が交代で展開している。今月はイギリス軍の番である為、イギリス海軍の哨戒艦モスが入港。同時にイギリスの海兵隊がエストシラントの租借地で訓練を実施している。ちなみに哨戒艦モスは日本が異世界転移前に計画していた哨戒艦構想をベースに建造された最新鋭艦であり、日本の長崎造船所でモス級哨戒艦として建造された。2番艦以降は日本からの技術指導込みでイギリス本国で建造予定であり、現時点で4番艦までの建造が決定。更にパプアニューギニアやバハマと言った他のイギリス連邦王国も老朽化した既存の哨戒艦の置き換えとして採用が決定しており、日英の艦艇は徐々に日本由来の物に置き換わりつつある。
モス級哨戒艦
武装:30mm機関砲×1門
排水量:1900トン
ヘリコプター甲板有り
1番艦:モス
2番艦:ドラゴンフライ(建造中)
3番艦:ビートル(予算承認)
4番艦:スタッグビートル(予算承認)
パーパルディア皇国皇都エストシラント
パラディス城皇帝の間
「エルトよ、余が不在の間に何があったか、調べはついたのだな?」
4ヶ月ぶりに帰国したパーパルディア皇国皇帝ルディアスは先に帰国していた第一外務局局長エルトから報告を受ける。神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル8世即位30年の祝賀会から帰国したルディアスは変わり果てた祖国の姿に驚愕した。エストシラントの一角に見たことのない建築方式で建築されつつある多種多様な建物や我が物顔で駐留し白昼堂々訓練を実施している外国軍、皇国の製品より安く高品質な商品を多数販売する小売店、浮浪者が屯する賭博場、伝統的な皇国の服装とは明らかに違った服装を身に付けた皇国国民等、本当にパーパルディア皇国の皇都エストシラントなのかと疑う光景であった。
「はい。此方が調査結果になります」
エルトは端的に纏めた調査結果をルディアスに手渡す。そこに書かれていたのは、
・皇帝ルディアス不在中にイギリスが艦隊を率いて我が国に不当な従属要求を突き付けてきた
・皇太弟エルフェウスは皇帝ルディアスの帰国まで待つように求めるも、分別を弁えていないイギリスはこれを拒否した
・一方的に期限をつけ、エルフェウスが黙殺すると突然攻撃を開始した
・皇帝は皇太弟に代理として皇太子と同等の権限を与えていたにも関わらず、枢密院が憲法を理由に正規軍の出動を拒否
・それどころかエルフェウス騎士団のエストシラント入場を認めなかった
・監察軍のみで戦闘に突入するも、旧式の監察軍では対処出来ずコンホン、ロークン、カイシン、アルーニが占領された
・正規軍の支援を受けられなかったエルフェウスとカイオスはイギリスの要求を受け入れざるを得ず、屈辱的な条約を押し付けられた
・コンホンはイギリス、ロークンはオーストラリアとニュージーランド、カイシンはカナダに割譲され永久領土、アルーニは賠償金の代わりとして割譲、エストシラント港の一部は999ヶ年イギリスに租借された
・日英の製品には関税がかからないことから安価な日英の製品が大量に流入。アルーニがイギリス領となったことも加わり、外貨が日英に大量に流出している
・日本企業により違法な賭博場や闇金融が多数運営されているが、何故か警察は取り締まっていない。枢密院や警察に賄賂が渡されているという噂がある
・浮浪者がエストシラントに溢れており、治安が悪化している地区がある
・これを受けて神聖ミリシアル帝国とムーは最恵国待遇を我が国に要求してきており、日英と同じように関税自主権の放棄や領事裁判権の容認を求めている
・皇太弟エルフェウスは先の敗戦の責任を取り妻子と共に自害。カイオス以下第三外務局の幹部クラスはグレナダ侵攻の責任を取らされグレナダ当局に引き渡された
・カイオス以下幹部全員が不在となり、第三外務局は機能不全に陥っている
・皇太弟エルフェウスの自害のショックからか、友人にして第二外務局局長のリウスの病状が悪化し、昨夜息を引き取った
と言ったものであった。これを読んだルディアスは涙を浮かべた。
「我が弟よ・・・何で死におった!! 御主は何も悪くないのだ!! 悪くないのに何故責任をとったのだ!!」
「誠に残念でございます・・・」
「ああ残念だ! エルフェウスの仇を取らねばならぬ!!」
「では、日英に宣戦布告されるので?」
「いずれはする。だがまずは国内の不穏分子を取り除くことからだ!!」
「・・・・皇帝陛下、まさか枢密院を!?」
「無論だ! そもそも枢密院が憲法を曲解し、弟の命に従わなかった! これは立派な余に対する反逆罪である!!」
「されど枢密院は先代や先々代から仕える者もおります。中には強大な軍事力を有する議員もおり、簡単には行かないかと」
「何時かはあの腐った納屋を破壊しなくてはいけなかった。それが今だっただけのことだ!! エルトよ、アルデとレミールを呼べ!!」
「は、はは!」
数分後、エルトに連れられてアルデとレミールが皇帝の前に現れる。
「皇帝陛下、如何なさいましたか?」
「アルデよ、そなたに武功を与える機会を与えようと思ってな」
「と、言いますと?」
「アルデ、余の弟エルフェウスは枢密院の謀略で自害に追い込まれた。この国に巣くう腐った納屋を全て取り壊さなくてはならぬ。アルデ、そなたに命ずる。近衛兵を率いて枢密院議会を襲撃せよ! 捕虜はいらぬ!! 全て撫で斬りにせよ!! 首尾よく行けばそなたをパーパルディア皇国軍の最高司令官に任命してやろう!」
「まことにございますか!?」
「余は嘘をつかん。分かれば直ぐに・・・」
「ははーっ!!」
この時のアルデは近衛兵を率いる近衛団長の立場にあり、事実上のルディアスの私兵であった。そこから一気に皇国軍最高司令官に昇進させてやると言うのだから信じられないという状態だった。アルデはその言葉に嘘はないと確信すると、ルディアスの言葉を待たずに近衛兵の出動に向けて走り出した。
「アルデは陛下の言葉を待たずに行かれましたが・・・」
「エルト、よいのだ。さてレミールよ、そなたには第三外務局局長に命ずる。カイオスがグレナダ当局に不当に引き渡された為に機能不全に陥っている。更には蛮族共が我が国に対して舐めた態度をとっている。始めはそうだな・・・最近イギリスの後ろ楯を受けて調子に乗っているアルタラス王国を挑発せよ。幸いにもエルフェウス騎士団は無傷だ。彼らを監察軍に編入する形で監察軍を再建し、アルタラス王国側から国交断絶を言わせよ。その後、再編した監察軍にてアルタラス王国を消滅させるのだ。蛮族共の教育を頼むぞ」
「かしこまりました!!」
「手足となる幹部についてはそなたの裁量で決めよ。良いか? 我が国は列強であり、世界平和の為に邁進している。何れは神聖ミリシアル帝国を打倒し、世界を統一する。その為に励むのだ!!」
こうしてパーパルディア皇国は国内の不穏分子粛清を実施し、周辺国に対する軍事力の行使を本格的に再開した。パーパルディア皇国は知らず知らずのうちに破滅への道を突き進む。
(続く)