パーパルディア皇国皇都エストシラント
枢密院議会
「ではこれより、議会を開会致します」
パーパルディア皇国皇帝の補佐として存在する枢密院。幼くして即位したルディアスの補佐として功績のあった者や貴族によって発足した議会であったが、その実態は自らの私腹を肥やすために予算をちょろまかす腐った納屋であった。先のコンホン条約締結においても彼らは暗躍しており、イギリスからの賄賂を受け取りエルフェウスを失脚、自害に追い込んだ。更にはイギリス領となったアルーニから穀物の輸入代金と称して予算を水増し請求して差額をポケットに入れる、違法な賭博場であるパチンコからも賄賂を受けとる。自らの為なら国さえ売り飛ばす腐った輩の集まり枢密院。そんな彼らの議会に対して、武装した兵が向かって来ていた。
枢密院議会正門
「なんだおまえたちは?! ここは例え近衛兵だとしても入ることは許されん!!」
正門を守備していた警備員が此方に迫る殺気立つ近衛兵に気付く。サーベルを抜き、去るように指示を出す。
「私は近衛師団長のアルデである!! 皇帝陛下より、枢密院に巣くう逆賊を全て打倒せよとの命を受けた!! 直ちに道を開けよ!!」
「ならぬ!! 仮に本当だとしても枢密院議会に如何なる兵を入れてはならぬと我々も指示を受けている!!」
「皇帝陛下の命に逆らうのか? 殺れ!!」
近衛兵が警備員を射殺する。
「皆の者! 枢密院議員全員を撫で斬りにせよと陛下は仰せである!! 情けは無用だ!! 例え女子供であっても撫で斬りにせよ!!」
アルデの指示で近衛兵が議会の扉をぶち破り、内部に武装した近衛兵が一斉に突入する。
「何なんだ貴様らは!!」
「問答無用!!」
枢密院議会開催に伴い、議会には全ての枢密院議員が集結していた。更には議員の家族も見学の為に参加しており、彼らも同様に命を落としていく。
「赤ん坊であろうと容赦はするな! 我が国に巣くう腐った輩は全て成敗せよ!!」
味方以外の近衛兵は動く者全てを切っていく。中には妊娠している妊婦もいたが、彼女は腹を切られ胎内の赤ん坊をほじくり出され赤ん坊の首を落とされた。1時間も経たずして枢密院議員と家族の始末が完了し、生き残りはたまたま枢密院議会の裏庭で子育てをしていた野良猫の親子のみだけであった。ちなみに此方はアルデにより丁重に保護され、皇帝ルディアスの元に献上。皇帝ルディアスは、
猫の親子には何の罪もなく、一方的に住みかを奪ってしまい申し訳ない
として野良猫から皇帝の猫に昇格することになる。
「よし! 議会に火を放て!! 全てを燃やし尽くすのだ!!」
近衛兵の手により枢密院議会に火が放たれる。ダイナミック火葬となった火は3日3晩燃え続け、議会は遺体もろとも完全に燃え尽きたという。
とある貴族の屋敷
「何!? 父上と母上が殺された!?」
「突然現れた近衛師団により枢密院議員全員が殺害。更には見学の為に訪れていた多数の女性や子供も殺されました!!」
「近衛師団だと!? まさか皇帝陛下が?!」
枢密院議員全員が殺害された事実は瞬く間に各地の貴族の屋敷に届けられた。中には一家全滅となった貴族もおり、各地の貴族は大混乱となっていた。
「更に近衛師団は皇国軍本部やエストシラント警視庁も襲撃。幹部全員の首を刎ねたとのことです!!」
「・・・・まさか皇帝陛下、いやルディアスがここまで強硬手段に出るとは・・・」
「如何致しましょう!?」
「逃げる!! カナダ領となったカイシンに亡命だ!! じいや、直ぐに支度をせよ!! 屋敷にいる者は一時間以内に荷物を纏め、カイシンに向かうように指示を出せ!!」
「は、ははっ! 直ぐに!!」
この貴族は直ぐにカナダ領となったカイシンに亡命。カイシンに逃げ込んだ翌日にはパーパルディア皇国皇帝ルディアスの勅命により動いた正規軍の手によりこの貴族の所領は制圧された。他にもロークン、コンホン、アルーニそしてエストシラントのイギリス租借地に多数の貴族が亡命。逃げ切れずに近衛師団や正規軍に斬られた者も多数おり、こうしてパーパルディア皇国皇帝ルディアスは国内の不穏分子を一掃した。その後ルディアスは国家機関の長を自身の影響力を強く受ける人物にすげ替え、権力基盤を強化。一定の混乱はあったものの、皇帝の座に相応しい采配で国内を纏めることに成功するのである。
イギリス領ニュー・ホンコン
ニュー・ホンコン総督府
「へえ~、ルディアスって皇帝、中々やるじゃない。敵ながらあっぱれだわね」
イギリスに割譲されたコンホンはニュー・ホンコンと名を改め、ニュー・ホンコン総督府を設置。ニュー・ホンコン総督にはアルタラス王国の駐在武官であったアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンが任命され、総督府には香港旗が香港返還以来28年ぶりに掲揚されていた。
「多数の貴族が我が国やカナダ、オーストラリアにニュージーランドの割譲地に亡命してきております。今のところパーパルディア皇国が我が国や同盟国の領土に向けて軍を進める様子はありませんが、予断を許さない状況です」
「まあ、アイツらからしたらホンコンは取り返したい土地だもんね。されど、ホンコンにはほとんど軍はいないわ。精々ホンコン守備隊として1個小隊とリバー級哨戒艇1隻がいる程度。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと合わせても1000人いるかどうか・・・圧倒的戦力不足ね。アルタラス王国にいる兄上からは何かないの?」
「何でもパーパルディア皇国がエルフェウス騎士団を監察軍に編入し、アルタラス王国に侵攻する用意をしており、アルタラス王国防衛に関する話し合いをしていると」
「はあ~、そう来たか~。もしかすると、アルタラス王国侵攻とホンコン侵攻を同時にやるかもしれないわね。名目は逃げ込んだ逆賊逮捕の為とかでさ」
「如何致しましょう?」
「取り敢えずは本国に報告ね。正直出来ることはないし、精々邦人には本国に帰って貰うぐらいね」
「最悪の場合、ホンコンを放棄して撤退でしょうか・・・?」
「それはないわ。私はホンコン総督。国王陛下から授かりし総督の職務を放棄することは断じてない! 私はホンコン総督府を枕に討死する用意があるわ!!」
「・・・・かしこまりました」
イギリス領アルーニ首都アルーニ
アルーニ総督府
パーパルディア皇国からイギリスに割譲されたアルーニ。ここアルーニ総督府では、イギリス本国からやってきたアルーニ総督とアルーニ独立運動の最高指導者による覚書の批准が行われていた。
「今、イギリスのアルーニ総督とアルーニ独立運動の最高指導者が互いに握手を交わしました! 両者満面の笑みです!!」
日英の報道機関が一斉にシャッターを切る。今回交わされた覚書の内容は以下の通りである。
・今後最低3年間に渡りアルーニはイギリスの直接統治下に置かれる
・アルーニ自治政府を発足させ、今後3年間の間徐々に権限をイギリス政府からアルーニ自治政府へ移管する
・アルーニ議会を発足させ、速やかに民主的な選挙を行う
・アルーニはアルーニ・ポンドを新たな通貨として採用する
・アルーニ国防軍を速やかに発足させ、アルーニの防衛を担う
・将来的にアルーニはイギリス連邦王国の一員として独立し、イギリス国王はアルーニ国王を兼務する
・独立後アルーニ王国はイギリス連邦王国と軍事同盟を締結する
・リーム王国の統治下にある旧アルーニ王国領の領有権をイギリスは承認するが、武力での奪還は行わず、話し合いでの解決をアルーニ王国は模索することを確約する
この覚書を元にアルーニは独立に向けて歩み始める。同時にイギリスはカナダ、オーストラリア、ニュージーランドと共にリーム王国に対して砲艦外交を展開。リーム王国の統治下にある旧アルーニ王国におけるアルーニ人への人権侵害への抗議を名目に白昼堂々とリーム王国の領海に軍艦を侵入させる等圧力をかけていた。これはアルーニに物資を運ぶにはパーパルディア皇国の領空を通過するか、陸路でリーム王国を経由する必要がある為であり、リーム王国が実効支配している旧アルーニ王国領が必要だったからである。これに対して、リーム王国は既に国交のある日本を通じてイギリス政府に抗議するも、アルーニ人への人権侵害停止またはアルーニに向かう物資がリーム王国を無条件で通過することを認めるまでは航行の自由作戦は停止しないと回答。リーム王国政府は渋々後者を飲んだものの、イギリスの支援を受けている国内のアルーニ人勢力の反乱に悩まされ続けることになる。
パーパルディア皇国属領エストビア首都リタン
「パーパルディア皇国はエストビアから出ていけ!!」
「エストビア万歳!!」
「アルーニに我らも続け!!」
アルーニの独立計画は日英のみならず、第三文明圏の国々の報道機関によりラジオで伝えられていた。パーパルディア皇国各地の属領でもアルーニの話は入ってきており、無理やり併合された属領では独立運動が活発化していた。パーパルディア皇国の西海岸に位置するバトル三国の一角エストビアではアルーニ王国独立計画に触発され、首都のリタンではパーパルディア皇国に抗議するデモが行われていた。同様の動きはラトアニアの首都ガリ、リトアビアの首都ニュスヴィリでも同様であり、バトル三国の首都ではデモ隊と治安部隊が一触即発の事態になっていた。幸いにも衝突までには至っていないが、イギリスが彼らにガソリンを盛大にぶっ込んで大炎上させるのは時間の問題であった。
第二文明圏列強ムー首都オタハイト
首相官邸
「パーパルディア皇国は我が国や神聖ミリシアル帝国からの最恵国待遇を拒否。むしろ世界征服を目論む日英を共に打倒しよう、か」
「首相、如何致しましょう? 日本やイギリスとは先に国交を結んだばかり。情報分析課からの報告では、パーパルディア皇国を見捨て、日英と手を組むべしとあります」
第二文明圏列強のムーでは、パーパルディア皇国への対応について協議が行われていた。皇国が日英に関税自主権の放棄と領事裁判権を認めたことから、最恵国待遇を結んでいるムーも同様の権利を要求。これを拒否され、逆に日英打倒の軍事同盟を提案されていた。
「先に彼らと外交関係を結んだばかりだが、日英は神聖ミリシアル帝国を上回るとみて間違いない。そんな国々を敵に回すなど愚の骨頂。むしろ我らもパーパルディア皇国というパイを切り取るべきかもしれんな」
「首相、流石にそれは・・・」
「無論そんなことはしないさ。だが、この先日英はパーパルディア皇国に代わり第三文明圏の盟主になる。今のうちに彼らと友好関係を結び、グラ・バルカス帝国に備えるべきだ」
「それがよろしいかと」
パーパルディア皇国の知らぬうちに日英と国交を樹立していたムーはパーパルディア皇国の提案を一蹴した。ムーは第三文明圏の争いには一切関与しないことを日英両国に通達。日英は見返りとして、ムーから空軍の訓練生を受け入れた。ムーはこうして、将来的なユーロファイタータイフーン売却に向けた足掛かりを築くことになるのである。
神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス
国防総省
「国防相、イギリスという国をご存知でしょうや?」
「イギリス? ああ、この前マスコミが報道していた国か。最近パーパルディア皇国との局地的な戦闘に勝利したとは聞いたが」
「そのイギリスとパーパルディア皇国が再戦する流れだそうで」
「・・・・そうか。あまり興味のそそる話ではないな」
世界最強を自称する神聖ミリシアル帝国は第三文明圏で起きようとしている戦乱には全く興味を示すことはなく、ただ傍観するのであった。無論、パーパルディア皇国からの共闘要請も黙殺し、引き続き魔帝の遺跡からのリバースエンジニアリングに勤しむになる。
パーパルディア皇国皇都エストシラント
第三外務局
「して、アルタラス王国は・・・いや、蛮族はどうでるであろうか?」
新たに第三外務局局長に就任したレミールは部下達にそう訊ねた。
「あれだけの内容ですから、間違いなく激怒して国交断絶でしょうな。更にアルタラス出張所も私利私欲が詰まった内容を足すでしょうから、滅亡は不可避かと」
「うむ、それでよい。して、再編した監察軍の方はどうだ?」
「新たに監察軍に編入されたエルフェウス騎士団ですが、いつでも出撃可能です。彼らはエルフェウス様の仇討ちだとして、エストシラント港を不法占拠するイギリス軍と戦いたいと言っています」
「うむ、気持ちは分かるが今はその時ではない。まずはアルタラス王国だ。エルフェウス騎士団は一先ず待機させよ」
「ははっ・・・しかし、エルフェウス騎士団抜きでアルタラス王国を攻撃は戦力的に困難ではないかと」
「問題ない。予定より早く粛正が終わった故、正規軍を派遣可能になった。エルフェウス騎士団は来るべきエストシラント港やコンホン奪還に備え鍛錬に励み、時を待てと陛下が仰せだ。これはそれを証明する指示書だ」
「・・・・成る程。しかしレミール局長、先のコンホン条約により帰国した捕虜らがイギリスとの戦争には断固反対すると、嘆願書を送って来ております」
官僚は嘆願書をレミール局長に手渡す。嘆願書にはグレナダ沖海戦で敗北し捕虜となった提督ポクトアールやフェン王国で撃ち落とされたレクマイア等捕虜全員が名を連ねている。
「・・・・くだらん。我が国を遥かに凌駕し、神聖ミリシアル帝国さえ吹き飛ばす国力だと? ポクトアールにレクマイアは小説家にでもなったのか? まさか・・・彼等はイギリスとやらのスパイか? イギリスは我が国を混乱させる為に敢えて捕虜を殺さずに返還したのではないか?」
官僚はレミールがとんでもないことを言い出すのではないかと危惧する。
「この嘆願書に名を連ねている者らを呼び寄せるのだ。皇国を混乱させるスパイは即刻処刑しなくてはならぬ」
「・・・・な、なんと・・・・」
翌日、第三外務局に呼び出されたポクトアールやレクマイアは道中でエルフェウス騎士団に襲撃された。彼らは何の証拠も裁判もなしにイギリスのスパイと決めつけられ、その場で命を落とした。不穏な気配を感じていた一部の捕虜は第三外務局に向かわずエストシラントの日本大使館やニュージーランド大使館に逃げ込み、その場で保護された。その後彼は日本大使館やニュージーランド大使館内で第三外務局局長レミールの手により、ポクトアールやレクマイアがイギリスのスパイと決めつけられ暗殺されたことをパーパルディア皇国国営放送の報道で知ることになる。また、集団で移動していた捕虜のグループはエルフェウス騎士団に襲撃され、ほとんどが命を落とすも、襲撃を受けた場所がたまたまエストシラント港のイギリス租借地近くであったことが幸いし、捕虜の一部が僅かな差でイギリス側に逃げ込むことが出来た。追い掛けて越境して来たエルフェウス騎士団はイギリスの海兵隊員やエストシラント港警備隊によりその場で射殺され、怪我人は即座にイギリス軍の軍医による治療を受けることになった。租借地との境界線ではイギリス軍とエルフェウス騎士団が対峙し、一触即発の事態となったが、レミールが撤収の指示を出したことで更なる衝突は回避された。一方で捕虜がイギリス側に逃げ込んだことでレミールは捕虜らがイギリスのスパイであるという誤った認識を改めることが出来なくなり、パーパルディア皇国はイギリスとの再戦に向けて走り出すのである。
「・・・・ん? 待てよ? 確か奴らはデュロにも居留地を持っていたな? ・・・ちょうどよい。奴らに対する人質に使うとしよう」
レミールはエルフェウス騎士団に対して、特命を与えデュロに向かわせた。その後デュロではイギリス側を激怒させる事件が起きることになる。
(続く)