パーパルディア皇国工業都市デュロ
デュロ駐留軍合同司令部
「イギリスとやらがデュロに攻撃をすると宣言していたが、未だに攻撃が来ないな」
「蛮族の言うことです。ホラを吹いただけでしょう」
「そうです! 今やデュロは皇都エストシラントより鉄壁の守りが敷かれております。これを突破することは例え神聖ミリシアル帝国でさえ不可能です」
パーパルディア皇国の工業製品の製造を一手に担う工業都市デュロ。陸海空軍の合同司令部が置かれる皇国の最重要拠点であり、監察軍も駐留している。イギリスによる報復宣言を受けて以降、防衛力を強化しており、陸軍は15万人、海軍は第二艦隊とデュロ根拠地隊、監察軍合わせて400隻、空軍は最新鋭のワイバーンオーバーロード200騎を配備。常時陸軍は街道を封鎖し、海軍50隻、空軍は20騎が警戒態勢に就いており、正に鉄壁の布陣。更に市民に武器を配り追加で5万の兵力を補充する予定であり、如何にイギリスであっても防衛可能どころか、逆に旧カリブ海諸国を制圧出来るレベルであった。彼らの常識では。
「さて、明日も攻撃がない場合はイギリスの従属国並びにフェン王国に対する懲罰を開始する。作戦の立案はどうなっている?」
「では、此方の絵図にて・・・」
その直後であった。イギリスの放った懲罰の光がデュロ上空で炸裂したのは。
「一体何の光!?」
海の向こうから飛翔する物体を視認した軍人や市民は作業を止め、ただその飛翔体を見つめていた。次の瞬間、光が炸裂。放たれた5つの核弾頭がデュロ各地で核の炎を産み出した。軍施設2、工場群2、民間人居住区1でそれぞれ炸裂した核の炎。爆心地にいた彼らは何が起きたのか分からないまま即死した。運良く即死しなかった者らは直後に降り始めた黒い雨により徐々に身体を蝕まれていく。経験したことのない地獄に彼らは苦しみ、もがき、そして死んでいく。この様子はデュロに隣接する漁村でも確認することが出来、彼等もまた死の灰を浴びて苦しむことになる。
「我々は一体どうすれば・・・」
イギリスによる核攻撃により、陸軍と空軍は全滅。海軍は沖合いで哨戒中だった50隻を残して全滅した。陸海空合同司令部は更地と化し、たまたま哨戒艦隊を率いていた大佐が最高司令官になってしまっていた。
「とにかくエストシラントの本部に報告せよ! デュロはイギリスのものと思われる攻撃で壊滅した。その様子はまるで古の魔法帝国が使用したコア魔法に酷似していると!!」
一方、エストシラントにある神聖ミリシアル帝国大使館では・・・
パーパルディア皇国皇都エストシラント
駐パーパルディア皇国神聖ミリシアル帝国大使館
「コア魔法がデュロで使用された可能性が高いだと!?」
「間違いなくデュロに駐在する領事から今にも息絶えそうな掠れた声でそう言っていました。また、デュロの周辺都市に滞在する邦人からの画像提供が此方です」
そこには複数のキノコ雲がデュロで炸裂した様子が収められていた。イギリスによる核攻撃の瞬間が鮮明に、である。
「しかし、邦人からは魔法の反応は一切なく、科学技術が使用されている可能性が高いと」
「馬鹿を言うな! 世界一の科学文明国ムーですら作れない兵器、それもコア魔法が第三文明圏外の国が作れるわけないだろ!!」
「もしや、彼らも我々と同じく古の魔法帝国の遺産を解析しているのでは?」
「なるほど、それは有り得るな。そうなれば彼らと対立するのは不味い! 急ぎ本国に報告せよ! 日英とは絶対に対立してはいけない!! 絶対にだ!!」
神聖ミリシアル帝国大使館はイギリスによる核攻撃に即座に反応。本国へ情報を送った。しかし、本国はイギリスをパーパルディア皇国並みの国としか評価しておらず、世界一の驕りが災いし正確に評価することが出来なかった。その為デュロの領事館職員や邦人が巻き添えとなり死亡した件について、神聖ミリシアル帝国政府は謝罪と賠償を要求することに決定。同時にパーパルディア皇国と日英に対して講和するよう勧告したのである。
グレートブリテン及び北アイルランド連合
イングランド ロンドン ダウニング街10番地
「神聖ミリシアル帝国から先の核攻撃により、自国民が巻き添えとなったことに強く抗議すると共に遺族に対する誠実な謝罪と賠償を要求。そしてこれ以上無駄に血が流れることはとても容認出来ず、速やかな講和会議開催を希求する、か。ふざけているのか?」
エストシラントの神聖ミリシアル帝国大使館から伝えられた同国政府による公式声明はイギリス大使館を通じて本国へ届けられていた。具体的な要求は、
・イギリス軍による民間人や他国の外交官を含めた無差別攻撃に強く抗議する
・イギリス政府は被害を被った神聖ミリシアル帝国を含めた第三国に対して、誠実な謝罪と賠償を行う必要がある
・神聖ミリシアル帝国政府はイギリス政府に対して、先のコア魔法(核兵器)使用に強く抗議すると共に、英国国王による謝罪と賠償として3億ポンドを要求する
・神聖ミリシアル帝国の仲介のもと、パーパルディア皇国との講和会議を開催する用意がある。場所は神聖ミリシアル帝国の港町カルトアルパスとする
であった。これに対してイギリス政府は以下の内容で返答した。
・此度のデュロに対する攻撃はパーパルディア皇国による我が国ならびに同盟国の外交官及び邦人殺害に対する報復措置である
・核攻撃前に我が国は第三国に対して待避勧告を行っており、謝罪及び賠償に応じる合理的理由は存在しない
・貴国が仲介のもとでの講和会議開催には強く同意するが、パーパルディア皇国側のニュー・ホンコンからの全部隊撤収並びに先に結ばれたコンホン条約の有効性を再確認することが必須条件であり、それが認められるまでは停戦には応じることは出来ない
要はイギリス政府は核攻撃による損害に対して賠償も謝罪もしない、そしてコンホン条約の有効性を認めるように神聖ミリシアル帝国に要求したのである。逆に要求を突きつけられるとは思っていなかったのか、神聖ミリシアル帝国政府からの返答は1週間後となる。その間に日英軍はアルタラス王国に集結。ニュー・ホンコン救援の為に戦闘機や輸送機を飛ばし、補給と制空権を確保し続けていた。
パーパルディア皇国皇都エストシラント
第一外務局局長室
「・・・・皆さん、覚悟は決まりましたね?」
局長室に全ての幹部を集めたエルトは幹部らに最後の確認を行った。
「無論です。このままエミール様やアルデ殿、そして陛下の思うがままにさせていては我が国は完全に崩壊してしまいます」
「デュロは壊滅し、ニュー・ホンコンはおろか、外側のニュー・テリトリーさえ攻略出来ない状況では勝つこと等不可能。神聖ミリシアル帝国からの講和仲介さえ、昨日の御前会議で蹴り飛ばしてしまいました・・・」
「既にエストシラント市民の不満は最高潮に達しており、陛下の勅命を無視して日英の製品の使用を継続。更には逮捕された市民の解放を要求して刑務所や警察署が襲撃される事件が多発しております。一部の者は日本の福岡県とやらから密輸された兵器を使用しているとか・・・」
「既に日英軍にパラディス城の内部構造は通達済みです。また、皇都守備隊は昨日の陛下の勅命により、パラディス城周辺を防衛する近衛兵2000を残して全軍がニュー・ホンコンに移動。海軍も全て移動し、不在です」
「明日にも日英軍は海と空から軍勢をエストシラントに送り込み、パラディス城やイギリス租借地、そして大使館区域を制圧するとのこと」
「そうか。しかし、これで私達は裏切り者ね。もしカイオスが生きていたら、彼がその役目だったでしょう」
ちなみにカイオスら第三外務局幹部はグレナダで開廷した軍事法廷で死刑判決が下されており、昨日処刑されている。
アルタラス王国アルタラス国際空港
「いよいよですな」
「ああ、驕り高ぶった蛮族に裁きを下すときが来たのだ」
アルタラス国際空港のイギリス空軍基地には日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの輸送機が集結していた。各国の精鋭である空挺師団を乗せ、今にも飛び立とうとしている。更に護衛として日英のユーロファイタータイフーンも到着しており、航空管制としてE-767も飛来している。
パーパルディア皇国エストシラント沖合い150キロ海上
海上自衛隊護衛艦かが
「遂に終わるのか」
「ええ、このふざけた戦争ももうすぐ終わります」
アルタラス王国に集結した日英加豪新連合艦隊は海上自衛隊の護衛艦かがを旗艦とし、総勢40隻でエストシラントに迫りつつあった。
「事前の偵察や内通しているパーパルディア皇国第一外務局からの情報によると、既にエストシラントの海軍部隊はもぬけの殻であり、僅かな哨戒艦を残して全軍ニュー・ホンコンに向かっていることがわかっています」
「我々の目的はエストシラントのイギリス租借地の安全を確保し、エストシラント市民に日英の製品の供給を再開。更にパラディス城に籠る敵を可能であれば誘き出す。もし出てこない場合は、最低限の抑えを残してニュー・ホンコンに転進する」
参加している艦艇は以下の通りである。
海上自衛隊(21隻)
護衛艦かが(旗艦)、イージス艦こんごう、あたご、まや、護衛艦あきづき、てるづき、たかなみ、おおなみ、しらぬい、もがみ、くまの、のしろ、みくま、やはぎ、あがの、によど、ゆうべつ、輸送艦おおすみ、くにさき、補給艦おうみ、ましゅう
イギリス海軍(8隻)
駆逐艦ダンカン、フリゲート艦アーガイル、ランカスター、ウエストミンスター、セント・アルバンス、輸送艦ブルワーク、マウンツベイ、原子力潜水艦トライアンフ
カナダ海軍(4隻)
フリゲート艦ハリファックス、バンクーバー、トロント、カルガリー
オーストラリア海軍(5隻)
駆逐艦シドニー、フリゲート艦スチュアート、パース、強襲揚陸艦キャンベラ、アデレード
ニュージーランド海軍(2隻)
フリゲート艦テ・マナ、補給艦アオテアロア
海上戦力の半分を占める日本艦隊は現在動員可能なもがみ型を総動員していた。これは、もがみ型を本格的にイギリス海軍に売り込むべく、性能面で全く問題がなく、量産性に優れたフリゲート艦であることを示したいという思惑があった。
「艦隊の右舷よりパーパルディア皇国艦隊が接近! その数50!!」
「おそらくはデュロで撃沈を免れた生き残りだな。だが彼らを沈めてしまえば、皇国はニュー・ホンコンに艦隊を振り向けている関係で迎撃に使える艦隊はなくなるな・・・よし! 全滅させるぞ!! 総員戦闘配置!!」
「総員戦闘配置!! これは演習ではない!! 繰り返す!! これは演習ではない!!」
「迎撃はもがみ型とイージス艦こんごうで行う! イギリス海軍にもがみ型の実力を見せつけろ! こんごうは対空戦闘に専念せよ!!」
程なくして、デュロから脱出したパーパルディア皇国艦隊50隻と日本艦隊9隻が激突することになる。第二次エストシラント沖海戦の幕開けとなるのである。
(続く)