日英同盟召喚   作:東海鯰

35 / 111
英国国王の手紙

パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇族レミールの邸宅

 

「う……うう!! やめろ! やめろ!! やめろぉぉぉぉ!!!」

 

レミールは自室で目を覚ます。息は乱れ、体中の汗腺から汗が噴出している。

 

「またか・・・また悪夢を・・・」

 

時を暫し戻す。昨日パラディス城で開催された御前会議にて、皇国最大の工業都市デュロが壊滅したことが報告された。調査に入った皇国軍兵士が撮影または模写した画像やイラストが配られ、炭と化した人だった物が多数写し出されていた。あまりの衝撃さに会議に参加した多数の者らは直視することが出来ず、第一外務局局長のエルトに至っては気を失い、病院に担ぎ込まれた程だ。誰もが言葉を失う中、更に急報が入る。

 

「会議の途中失礼します!!」

 

第一外務局の職員が血相を変えて入室する。

 

「よい。発言を許可する」

「は! 申し上げます!! イギリス大使館より文書が送りつけられました!! 皇帝陛下に絶対に見せるようにとも!!」

「・・・・・渡せ」

「ははっ!!」

 

職員から手渡された文書を皇帝ルディアスは受けとる。大変質のよい、ユニオンジャック柄の封筒に入れられた文書に目を通す。

 

「・・・・・なんだこれは!!」

 

ルディアスは文書を叩きつける。周りの者らは恐る恐る文書を拾い上げ、内容を確認する。

 

 

拝啓

 

近頃昼夜問わず大変お暑くなり、中々寝付けない日々となりました。自称第三文明圏盟主パーパルディア皇国皇帝ルディアス殿におかれましては、我等英連邦王国並びに盟友日本国に対して善戦されていること、お喜び申し上げます。

 

この度は、我が英連邦王国並びに盟友の領事館職員及び邦人を不当に虐殺するのみに留まらず、我が国の正当な領土であるニュー・ホンコン侵略、そして自国の民に対しても不便を強いる等、これぞ自称第三文明圏盟主。正に感銘の至りにございます。

 

それらに対する我が英連邦王国並びに盟友からの返礼品と致しまして、貴国最大の工業都市デュロに対して建国史上初めての核兵器の実戦運用を実施致しました。その絶大な威力の程を肌で感じて頂けたことかと思われます。

 

幸運なことにも、この世界において自称最強の神聖ミリシアル帝国より、講和会議開催の打診がありました。我が国としても、貴国の民に無駄な血が流れることは避けたいと存じます。されど、我が国並びに盟友として譲れぬ条件がございます。

 

1.先に結ばれたコンホン条約の有効性を再度確認すること

 

2.コンホン条約にて、租借地として借り上げている土地を我が国に割譲すること

 

3.英連邦王国並びに日本国、ロデニウス連合へ適切な賠償金を支払うこと

 

4.ニュー・ホンコンに亡命して来た貴族らの所領を全て安堵し、彼らが引き続き貴国に忠誠を誓うか、英国国王に忠誠を誓うかを選ぶことを認めること

 

5.先のデュロにおける領事館職員及び邦人殺害を指示した者らを引き渡すこと。少なくとも第三外務局局長レミールは必ず引き渡すこと

 

6.パーパルディア皇国皇帝ルディアスは退位し、パーパルディア皇国皇族は皆、カナダに移住。以後生涯カナダ当局の監視下に入ること

 

7.パーパルディア皇国の次期皇帝はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国並びに日本国が協議の上で決定する。ただし、両国より総督を派遣し、内政の助言を行う

 

以上の条件は今後の講和会議における最低条件となります。開催地や日時につきましては、現在仲介国となる神聖ミリシアル帝国と交渉中となります。またこの文書が届くころには、我が国並びに盟友の大艦隊及び航空隊がエストシラントに向かって来ていることでしょう。また、もしかするとエストシラントにも核兵器の雨が降るかもしれません。一刻も早い皇帝陛下の御聖断を期待致します。

 

末筆ながら、皇帝ルディアス殿の一層の御活躍を心よりお祈りしております。戦局をひっくり返すことは不可能であります故、くれぐれも民間人に無駄な血を流させないよう、ご自愛下さいませ。

 

敬具

 

グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国国王

カナダ国王

オーストラリア国王

ニュージーランド国王

ジャマイカ国王

バハマ国王

グレナダ国王

パプアニューギニア国王

セントルシア国王

アンティグア・バーブーダ国王

ソロモン諸島国王

ツバル国王

セントビンセントグレナディーン国王

ベリーズ国王

ローデシア国王

アルーニ国王

 

「なんと無礼な・・・・」

「蛮族の王風情が皇帝陛下に向けてこんなものを・・・・」

 

会議に参加していた者らは憤りを露にするも、日英両国にどう対抗するかは浮かばない。特にレミールは、

 

「エストシラントにも核兵器の雨が降るかもしれません」

 

この一文に恐怖していた。下手すれば自分もデュロの民のように無惨な姿を・・・・この日は皇帝の機嫌が優れないとして解散となり、結論は先送りとなった。そして今に至るのである。

 

「まだ時間はあるな・・・今一度寝るか」

 

しかし、一時間後には再び目が覚める。何度も見た悪夢、今回も皇国がイギリス軍と日本軍によって蹂躙される悪夢を見た。自分を処刑しようとするイギリス人・・・いやグローリア駐パーパルディア皇国大使の顔、デュロで私の命により殺された者たちの顔だった。

 

「ちっ!!」

 

レミールは再びベッドに倒れこみ、うつ伏せになる。自分はやってしまった。皇国のためになると思い、仕事に打ち込み、突き進んできた。しかし、自分は・・・・結果として皇国の存続さえも危うくなるほどのミスを犯してしまった。信じられない! どう考えても信じられない。しかし、皇国の兵士らが嘘をつく筈がない。核兵器とかいう、古の魔法帝国のコア魔法に酷似した兵器を使いこなす敵と戦わねばならない。レミールは戦いを回避するため、思考を廻らす。彼女は独り言をつぶやく。

 

「属領の献上、いや、領土の割譲・・・イギリスと日本は何を望むのか・・・・・はっ!!!」

 

レミールは英国国王からの手紙を思い出す。

 

 

先のデュロにおける領事館職員及び邦人殺害を指示した者らを引き渡すこと。少なくとも第三外務局局長レミールは必ず引き渡すこと

 

 

「だめだ!だめだ!!絶対にだめだ!!!」

 

自分は皇族だ。しかも、世界5列強国の皇族、将来は皇帝ルディアス様に嫁ぎ、皇妃となって、共に世界征服に向かって突き進み、世界の女王となる予定だ!! こんな事で、たかが文明圏外の民間人を数百人処分した程度の事で、あきらめてたまるか!!!

 

「私は、イギリスや日本には絶対に捕えられんぞ!!!」

 

レミールは最後まで生き残る事を決意する。

 

 

駐パーパルディア皇国イギリス大使館 大使執務室

 

「ニュー・ホンコンからヘリコプター部隊が無事出撃、更に大使館から送り出した追跡部隊も順調に進撃中。夜中故に出歩いている者もおらず予定より速く着きそう、か」

 

イギリス大使館にて、武官から説明を受けるグローリア駐パーパルディア皇国大使は満足そうに呟く。

 

「ちなみに、レミールとやらはボロ宿にはいないのか?」

「宿泊客として送り込みました、パプアニューギニアの武官からは、逃げ込んだ者らに女性はいなかったとのこと」

「そうなると、このバカデカイ邸宅にいると?」

「その可能性が高いかと」

「う~ん」

 

少し考え込むグローリア大使。

 

「下手に放置すると、レミールが邸宅から逃げ出してしまう可能性があるわね」

「されど、回せる兵力は皆無です」

「それが口惜しいのよね。出来ることならこの手で捕まえてやりたい。だけど手持ちがない。貴重な手持ちは皇帝捕縛の為に出払っているし、空挺師団はパラディス城制圧の為に向かっている・・・」

 

何か策はないかと考え込むグローリア大使。しかし、結論は出ることはなく、援軍を待つのであった。

 

 

パラディス城執務室

 

「陛下は無事逃げられたであろうか・・・」

 

皇帝ルディアスの影武者マサーヤンはポツリと呟いた。

 

「・・・・相手は大英帝国。逃げきれるかは疑問かと・・・」

 

皇帝の側近が話しかける。

 

「まあ、そうであろうな」

「しかしマサーヤン殿、何故影武者を引き受けられたので? 今ならまだエルト殿が画策しているクーデター計画に間に合います。陛下の居場所の情報を横流しすることも」

「確かに出来る。まあ、そんなことしなくても大英帝国は気付いているであろうが、どのみち陛下が失脚すれば私はお役御免。地方都市の一料理人に戻れればよい方で、最悪の場合死罪であろう。結局死罪であるのなら、陛下の忠臣として散るべきと考えたまでぞ」

「なんと・・・・」

「そんなことより、陛下が逃げる時間を稼がねばならぬ。イギリス大使館に対して兵を差し向けよ。パラディス城ががら空きになっても構わぬ。奴らは陛下捕縛の為に守備隊を派遣してしまっている。上手く行けば大使を人質に陛下と交換出来るやもしれん」

「!! 直ちに実行致します!!」

「いいか、チャンスは一度きりだ。明日にも日英軍が侵攻してくるだろう。いいな?」

「ははっ!!」

「それともう一つ」

「まだ策があるので?」

 

パーパルディア皇国皇帝の影武者は一か八かの賭けに出る。

 

「もし、イギリスが大使館の守りを固めるようであれば、最低限の抑えを残し、残り全てで第三外務局局長レミールを拘束するのだ。イギリス大使は彼女を死ぬ程恨んでおる。イギリス国王は陛下をカナダに島流しするとしているが、そのままカナダで死罪にしかねない。だが、我々がレミールを引き渡せば、イギリス大使から助命嘆願も出来よう。上手く行けばだがな」

「なるほど!」

「レミールを自然な形で呼び出すとする。そうだな・・・・確かレミールはルディアス様の妃になりたいとかほざいておったな・・・まあ、そんな感じの理由でここまで呼び出すのだ。もし拒めば軍を突入させろ。いいな?」

「ははっ! 直ちに!!」

 

マサーヤンの指示を受け、近衛師団は直ちにイギリス大使館に向け出撃。同時にレミールをパラディス城に呼び出すべく、使いを派遣した。

 

「どちらかが成れば私の勝ちだ。さあ、賽は投げられた」

 

マサーヤンはエストシラント市街地を見つめる。

 

「・・・・陛下、どこで我々は道を間違えてしまったのでしょうや・・・」

 

一方、パラディス城に潜伏しているカナダの諜報員によりイギリス大使館へ近衛師団が出撃したことが伝わった。これを受けてイギリス大使館はオーストラリアやニュージーランドの兵と共に籠城。これを見た近衛師団は予定通り、最低限の抑えを残してレミールの邸宅へと移動を開始したのである。

 

「・・・・・攻め込もうとはしない・・・か。一体どういうこと?」

「分かりませんが、レミールの邸宅に向けて移動している模様です」

「成る程・・・さては皇帝のお気に入りを連れて逃げるつもりか。されど、下手に討って出ることは出来ないし、それに明日には援軍が来る。今は様子見ね」

 

イギリス大使館側はパーパルディア皇国側の狙いが分からず、現状維持を決め込む。そして翌日、運命の日を迎えるのである。

 

(続く)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。