メスマン帝国首都アンコラ
在メスマン帝国日本大使館
「アキコ、そう言えばパーパルディア皇国って今どうなってるんだ?」
「いやシン。仮にも貴方は大使でしょ。本国から来る情報とか、町中に出回ってる新聞とか見れば分かるじゃない」
「アキコに聞いた方が早いし、確実だし」
「・・・・大丈夫なの? この大使? 早いことクビにしなきゃ・・・」
「で? どうなってるんだ? パーパルディア皇国は」
「はあー。仕方ないわねえ・・・・今頃我が国とイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドがP1で爆撃しているはずよ。まあ、更地になっただろうけどね」
「あれか! 石器時代に戻ったのか!!」
「にしてはショボすぎる爆撃だと思うけど」
「そう言えば、メスマン帝国は相変わらず火事場泥棒を続けているみたいだな。既にメルアニアは全土を制圧。隣のアセルバアチャンは属領統治機構軍が戦わずして逃亡したらしいぞ!」
「それ昨日私が言ったやつなんだけど?」
「あれ? そうだったか? まあいい。しかし、メスマン帝国がこの調子なら、そろそろリーム王国も火事場泥棒に参加しそうだな」
「あんたにしては珍しくまともな分析をするじゃない。アヘンでも吸った?」
「アヘン? そんな汚ならしいヤクブツをこの僕が吸うわけないだろ!! そんなことしたら君に嫌われて・・・・けふんけふん! 外務省をクビになるからな!!」
「・・・・・・やっぱりあんたは私がいないとダメなのね」
少し呆れながらも笑顔をみせるアキコ。
「ん? どうしたアキコ? 何かあったか?」
「いや、なんでも?」
(・・・・・アキコのヤツ、少しは僕のことを男として見てくれたのかな?)
(シンは昔から側にいてあげないといけない気がするのよね。男としては見れないけど、ほっとけないというか・・・)
大使館では両者が互いに相手のことを意識し、春が近付こうとしていた。一方、話題に上がったリーム王国では。
リーム王国王都ヒルキガ
セルコ城
「メスマン帝国がパーパルディア皇国に宣戦布告だと!? こうしてはいられん!! 我が国も急ぎパーパルディア皇国に宣戦布告を!!」
リーム王国国王バンクスは家臣達に軍の召集と宣戦布告の命を出す。多くの家臣が賛同する中、唯一宰相のみが異議を唱えた。
「お待ち下さいませ陛下!! それはあまりにも危険過ぎまする!!」
「むむっ!! 宰相! 何故だ! 申してみよ!!」
「ははっ! 僭越ながら申し上げます!!」
宰相はリーム王国からすれば質が良すぎる紙でできた書類を国王に手渡す。
「な、なんだこれは?」
「昨日、イギリス大使館から送り付けられた書簡になります!! もし、メスマン帝国のように火事場泥棒をするのであれば、パーパルディア皇国戦後に懲罰すると!! 更にはメスマン帝国に対する懲罰は既に決定しており、そこに加わりたいのであれば喜んで鉄の雨を降らせるとも!!」
リーム王国国内に潜伏させているスパイからの情報でイギリス政府はリーム王国が火事場泥棒的に宣戦布告してくることを把握していた。日英から離れているメスマン帝国と違い、リーム王国は比較的日本に近く、潜在的な脅威は取り除く必要があった。また、終戦後のパーパルディア皇国における利権を日英で独占する為にもリーム王国は邪魔でしかなかった。事前調査で石油と思わしき黒い液体が噴出するメスマン帝国とは異なり、これといった資源のないリーム王国は戦争しても何も得しない、その癖に野心はあるという、日英からは価値のない国であった。
「し、しかしだ!! 日英はパーパルディア皇国にかかりきりだ!! メスマン帝国の侵略も阻止出来ていない!! 問題はないのではないか!?」
ドーン!!
「な、何の音だ!!」
「会議中失礼致します!!」
兵士が会議中の部屋に息を切らしながら入ってくる。
「申せ!!」
「ははっ!! イギリス大使館より、本日からヒルキガの沖合いでイギリス海軍と地域安全保障システム加盟国の海軍部隊による軍事演習を行うと一方的に通告!! イギリス、アンティグア・バーブーダ、グレナダ、セントクリストファーネイビス、セントルシア、セントビンセントグレナディーン、フェン王国、ガハラ神国の艦艇を我が国の領海に侵入!! 更にはバハマ、ベリーズ、ジャマイカ、パプアニューギニアも艦艇を派遣する予定であると!!」
イギリスによる露骨な砲艦外交にリーム王国政府は大混乱に陥る。
「まさかイギリスは本気で我が国に攻め入る気なのか!?」
「陛下がパーパルディア皇国に宣戦布告すれば間違いなく・・・」
「だが海軍だけなら上陸作戦は出来まい!! それにイギリス以外は小さな島国ばかりではないか!!」
「ですが、イギリスは日本と同盟を結んでいます!! 日本にはまだまだ動かせる艦艇が残っており、1隻だけでも送ってきた場合、我が国の海軍は勝てませぬ!! 海上封鎖となれば、我が国は大いに疲弊し、国民の不満は高まるでしょう!!」
この間にもイギリスを中心とする国々はリーム王国の領海で堂々と軍事演習を実施している。基本的には哨戒艇ばかりではあるが、イギリス海軍が派遣しているフリゲート艦グラスゴーによる威圧は効果的であり、哨戒艇群を束ねる司令塔の如くその姿をリーム王国に見せ付けていた。
「ぐぬぬ・・・・日英を・・・・特にイギリスは敵に回せぬ・・・仕方ない・・・宣戦布告は中止じゃ!! 直ちにその旨をイギリス大使館に伝えよ!! 伝えるのじゃ!!」
リーム王国はイギリスによる砲艦外交に屈し、パーパルディア皇国に対する宣戦布告を直前で断念した。後にこの時の国王の様子を描いた「ヒルキガの屈辱」という絵画が描かれ、最終的には大英博物館に収蔵されることになる。この結果、リーム王国は現在の領土を保持し、暫くの間は国家を維持することとなったのである。
オラパ諸島ロコール島
オラパ諸島特別行政区仮庁舎
「しっかし、パーパルディア皇国も領土にしてた癖に放置し過ぎだろ。島民は文字の読み書きも満足に出来ないじゃないか・・・」
「逆にチャンスなンだよなあヒロシ・・・島民は日本語で教育すれば良い。そもそも島によって話す言語が違うせいで纏まりがとれてないンだ。酷いときは意志疎通すら出来ない。日本語をオラパの共通語にする。これを本国に上申だな」
「アキラは良くそこまで頭が回るよなあ・・・・お前が行政区の長官やれよ」
「それは無理な相談なンだよなあ。本国からは休戦後速やかに帰国しろって言われてる。何でも神聖ミリシアル帝国駐在の武官にしたいらしいからな」
「じゃあ、俺も帰国するか」
「ヒロシは引き続きオラパに残れってさ」
「はあ~、マジでついてねえよな~、俺」
「ヒロシ、俺も好きで帰国したい訳じゃない。だが、メスマン帝国に赴任しているアキコから聞いたんだ。俺の代わりに各省庁から補佐役を派遣するってな。外務省からはシンが大使を外されて送られて来るってな」
「よりによってシンかよ~。アキコみたいに保護者は無理だぜ~」
「じゃ、頑張れよ!! まだ暫くはいるけどな!!」
メスマン帝国首都アンコラ
在メスマン帝国日本大使館
「何で僕が大使を外されるんだアキコ!! 何で!?」
「いや、あんなことやって無事なわけないでしょ」
「しかも君はこの世界最強と言われる神聖ミリシアル帝国に赴任じゃないか!! カルトアルパスに設置予定の領事館で、しかも総領事になると!!」
「流石に大使にはなれなかったから、腐っても大使のシンよりは下かな?」
「僕を置いていくのか!! 置いていくのか!?」
「二回言うな」
「大事なことだからだ!! アキコ! 君は僕を置いていくのか!?」
「外務省は置いていけと・・・」
すがるようにアキコに泣きつくシン。
「お願いだアキコ! 僕を置いていかないでくれ!! 外務省には君しか僕の味方はいないんだ!!」
「逆によく辞めなかったよね」
「君がいたからだ!!」
「それはどうも。でも、オラパにはヒロシがいるから、大丈夫じゃない?」
「嫌だあああああ!! ヒロシよりもアキコの方が良いんだよ!!」
「駄々こねんなクソガキ」
「同い年だろうが!! じゃああれか!! 君と結婚したら良いのか!!」
「ならシンが姓を変えて婿入りしなさいよね」
「・・・・・・・・え?」
「ん?」
「嫌じゃ、ないのか?」
「別に? まあ、結婚したらシンには外務省を辞めて貰うけど」
休戦後にシンは外務省を退職。アキコと結婚し、夫婦で神聖ミリシアル帝国に赴任することになったようです。
「まあ、外務省のお偉いさんからシンを何とかしてくれ、退職金マシマシにするからシンを辞めさせてくれって言われてたし、別に私はシンのこと嫌いじゃないし、いい加減結婚しないと色々とうるさいから丁度良かったのよね」
「僕は懲戒されるようなことはしないからな!!」
「だからタチが悪いのよ!! はよ婚姻届にサインしなさい!! 帰国したら出すから!!」
ヒロシ君、オラパ諸島で一人ぼっち確定演出の模様。
「さてさて、パーパルディア皇国はどうなったかな~、と」
「僕にも見せるんだアキコ。まだ一応僕はメスマン帝国大使だからな!!」
二人は最新の情報をテレビで仕入れる。メスマン帝国ではモノクロではあるがテレビ放送が行われており、そんな中でも唯一フルカラーで映る日本製のテレビがよく売れている。
「爆撃した陸軍基地、完全に占領したのね。復旧も早いわね~流石は軍隊」
「イギリス租借地の港も再度占領、こりゃあ結婚・・・・休戦協定はもうすぐだな」
(続く)