パーパルディア皇国海軍本部警備艦隊
旗艦「ルディアス」
「偵察を行うとする。各艦ワイバーンを発艦させよ!!」
パーパルディア皇国海軍唯一の装甲艦である「ルディアス」級は偵察・哨戒を目的として最大2騎のワイバーンが運用出来るように改装されている。ワイバーンロードやワイバーンオーバーロードを採用していないのは、最低限の魔法石で発艦出来るようにする為、そもそも偵察・哨戒が目的であり、戦闘行為は想定されていない為である。旗艦の指示を受け、ワイバーンが次々に発艦し、予め振り分けられた偵察範囲に向けて飛行を開始する。
「彼らには申し訳ないが、撃ち落とされた方角に敵はいる。彼らの犠牲を無駄にするではないぞ!! 通信員は絶対に聞き漏らすな!!」
「ははっ!!」
パーパルディア皇国海軍本部警備艦隊偵察・哨戒隊
「日本にイギリスめ!! 我が国をこけにしたことを後悔させてくれようぞ!!」
敵を求め、哨戒中の彼の眼前には雲が広がっていた。雲を避けるべく、高度を下げる。
「!! 敵艦隊発見!!」
偶然にも彼は、雲の真下にいた日英加連合艦隊を発見した。無線は予め繋ぎっぱなしになっており、直ちに情報が海軍本部警備艦隊にもたらされる。
「! 敵艦発砲!!」
その言葉を最後に彼は愛騎と共に撃墜された。海上自衛隊の護衛艦「もがみ」が放った砲弾が命中したのである。敵に発見された日英加連合艦隊であったが、彼らもパーパルディア皇国海軍を発見していたのである。
海上自衛隊潜水艦「そうりゅう」
「敵装甲艦隊を視認!!」
「本艦が担当する海域に現れたか」
海上自衛隊と英国海軍はパーパルディア皇国海軍最後の水上艦隊が出撃してきた場合を想定し、潜水艦隊をエストシラント周辺に複数展開させていた。海上自衛隊はそうりゅう型を5隻、英国海軍はアスチュート級1隻を派遣し、水中から監視を実施していたのである。
「直ちに報告せよ」
「ははっ!!」
哨戒中の潜水艦からの報告を受け、第38遠征航空団は進路を変更。航空部隊による攻撃後の戦果確認の為、一番近くにいた原子力潜水艦アスチュートを急行させると共に、「そうりゅう」も待機することになった。
「艦長! 魚雷は撃たないのですか?」
「馬鹿者!! 撃てば敵が離散してしまうだろうが!! 纏まってくれていれば、一回で済むのだ!!」
海上自衛隊潜水艦「はくりゅう」
「現地に潜伏しているオーストラリア軍からです。海軍本部に艦隊はおらず、もぬけの殻。ミサイルを発射する好機とのこと!!」
「よし! 作戦通り、ハープーンによる対地攻撃を実施する! 射程圏内に向けて移動を開始せよ!!」
敵艦隊がいないことを確認した潜水艦「はくりゅう」は、海軍本部を攻撃するべく移動を開始した。同様の指示は哨戒中の「けんりゅう」、「こくりゅう」、「とうりゅう」にも伝えられ全艦が所定の位置に移動を開始。日英両国は、敵艦隊を発見するまで潜水艦を哨戒線に配置して待機させ、発見した場合は戦果確認の為に2隻を差し向け、残りでもぬけの殻となった海軍本部を攻撃させる作戦を練っていた。水上艦隊を囮にし、航空部隊と潜水艦部隊でとどめをさすという、パーパルディア皇国が経験したことのない作戦である。
航空自衛隊・英国王立空軍合同第38遠征航空団
「AWACSより攻撃命令が出た! 全機ミサイルを発射せよ!!」
最新の情報を元に進路を変更し到着した日英のユーロファイタータイフーン10機がASM-2を合計40発発射する。相手は現代の戦闘艦艇より分厚い装甲で覆われていることから、1隻辺り3発のミサイルを食らわせることにしており、まずは先頭から13隻を狙う。数の関係で1隻だけ4発となるが、そもそも3発で沈むか分からない為、効果判定の意味合いも有する。
「発射後は離脱し、アルタラス王国の飛行場に帰還せよ!!」
ミサイルを発射した第38遠征航空団は離脱し、後続のP1部隊に引き継がせる。引き継いだP1部隊も合計40発のミサイルを発射する。
パーパルディア皇国海軍本部警備艦隊
装甲艦「アルデ」
「本艦の哨戒騎が敵艦隊を発見した模様!!」
「よくやった!! 二階級特進だ!!」
「旗艦より、敵艦隊に向け速力を上げるようにとのこと!!」
「うむ。哨戒騎の犠牲を無駄にはせん!! 全速前進!!」
「見張り員より報告!! 海面付近を謎の飛翔体が飛行中!!」
「なに?!」
次の瞬間、前を進んでいた味方艦にASM-2が被弾する。装甲板にぶつかり、激しい爆発を起こす。
「・・・・おお! 敵の攻撃を受けきったぞ!!」
彼らの眼前にはASM-2を被弾しても航行を続ける味方艦の姿があった。日英の攻撃を受けきったとして、兵の士気が上がる。
「つ、続けて多数の飛翔体!!」
更に2発のASM-2が被弾。内一発が弾薬庫に被弾し、誘爆し轟沈。先ほどの歓声は静まり返り、静寂が海を支配する。
「味方艦13隻が敵の攻撃を受けている模様!!」
「なんだと!? 一体どこに敵がいるのだ!! 敵艦隊は遥か彼方だぞ!!」
「味方艦12隻轟沈!! 1隻は大破炎上中!! 艦を放棄し、撃沈処分するとのこと!!」
悲報を知らせる報告に艦内は御通夜状態になる。
「ムーの装甲艦を持ってしても勝てぬというのか!!」
「艦長!! 本艦にも攻撃が!!」
「使える砲を使え!! 撃ち落とせ!!」
手当たり次第に砲を撃ちまくる海軍本部警備艦隊。しかし、一発も撃ち落とすことが出来ないままミサイルは接近。次々と被弾した。1隻辺り2ないし3発のASM-2を被弾した海軍本部警備艦隊は全艦が大破炎上。一部の艦は炎上後弾薬庫に引火して爆沈したり、浸水が酷くなりそのまま海中に没したり、航行不能となり味方艦に接触する等散々であった。唯一、旗艦である「ルディアス」は消火に成功し、航行が可能であったが、浸水が始まっておりまともな戦闘は不可能であった。そして、唯一の生き残りを見逃してくれる程日英は甘くなかった。
海上自衛隊潜水艦「そうりゅう」
「敵艦隊残り1隻!!」
「やはりミサイルでは装甲艦には不十分か。よいデータが取れたな。魚雷発射用意!! 敵の戦闘能力を完全に奪え!!」
「1番に魚雷装填完了!!」
「発射!!」
18式魚雷が発射され、装甲艦「ルディアス」に向け進んでいく。
「・・・・・・爆発音がしました。敵艦に何らかのダメージを与えた模様です」
「うむ。本艦は一旦離脱し、安全を確保する」
その後、戦果確認のために展開していたイギリス海軍の原子力潜水艦アスチュートより敵装甲艦隊全滅の報告がされ、「そうりゅう」と「アスチュート」は撤収。一時退避していた水上艦隊は再度侵攻を再開した。そして、海軍本部攻撃部隊も準備が完了しようとしていた。
海上自衛隊潜水艦「はくりゅう」
「全艦配置に付きました!! 海軍本部、射程圏内です!!」
「各艦、ハープーンを4発ずつ発射せよ!!」
異世界転移に伴い、米国製のハープーンの調達が不可能となった日英両国。水上艦艇用は国産化しているものの、潜水艦用はなかった為、日本が主導する形で国産化が進められており、現在試作品が試験艦「あすか」に搭載され、実射試験を実施する予定である。良好であれば、実際に潜水艦に搭載して効果判定を実施する。本作戦に投入する案もあったが、流石に主砲すらない試験艦を脅威度の高い地域に投入するのは危険過ぎる、潜水艦への搭載も検討されたが、ぶっつけ本番はあかんでしょ、ということで見送りになっている。
「各艦、ハープーンを発射!!」
4隻の潜水艦から放たれた計16発のハープーンは海軍本部を目指して飛行する。たまたま付近で操業していた漁船の船長は後に、
「神が降臨したのかと思った」
と、非現実的な光景に腰を抜かしたという。
パーパルディア皇国海軍本部のある港
臨時職員として雇われていたシルガイアは、港で掃除をしていた。
「おい、おまえ!! その地面にゴミが落ちてるじゃないか!!掃除という、簡単な単純作業が仕事なんだから、掃除くらいきちんとしろ!!」
「すいません」
シルガイアは、海軍の下っ端兵から罵声を浴びながら掃除をする。情けない。今の自分があまりにも情けない。彼は、パーパルディア皇国海軍本部を見上げる。
「奴は・・・・出世したな」
彼は、目に涙を浮かべ、先日の同窓会を思い出す。同窓会には、皇国海軍の将、バルスが出席していた。学生時代、バルスとはライバルだった。成績、運動能力、ほとんど変わらなかったが、少しだけ自分が劣っていた。学生時代のほんの僅かな差、この差の積み重ねが、今の圧倒的な差となって現われていた。月とスッポン、天と地、神と虫けら、それほどの差があるように、彼には感じられた。同窓会で戦死の話が出た時の海将バルスの言葉が思い出される。
「はっはっは!! 前線に出る事の無い列強国の海将が戦死する事などありえぬよ。もしも、私が暗殺以外で戦死し、断末魔をあげるような事があれば、その断末魔は列強パーパルディア皇国の滅びの呪文となろう!!」
「すべてを手に入れた者と、何も手に入らなかった者か・・・・」
彼は、人生の不条理に、嘆きたくなる。シルガイアは、ふと違和感に襲われ、海を見る。彼は目が良い。
「!? 何だ? あれは・・・・」
海面スレスレを、何かが多数。猛烈な速度で近づいてくる。それは彼の前を通過し、海軍本部へ向かっていく。シルガイアは本能的に、それが皇国へ向けられた攻撃であると理解する。海将バルスは、シルガイアにとって、ライバルではあったが、良き友だった。バルスはシルガイアの誇りでもあった。彼は、海軍本部へ向かうそれを見て、海将の身を案じ、本能的に叫んでいた。
「バルス!!!」
次の瞬間、16発のハープーンが連続して海軍本部に突き刺さり、猛烈な閃光を放つ。
「・・・・・ば、ばか・・・・な・・・・」
轟音。装飾が施された海軍本部、威厳と威容を放っていた同建物よりも、遥かに大きな爆炎が吹き上がる。猛烈な爆発に耐え切れず、建物は音をたて、跡形も無く崩れ落ちる。他国を恐怖で支配し続けてきた列強パーパルディア皇国、その恐怖、力の象徴であった海軍本部が崩れ落ち、爆発音は再び皇都エストシラントにこだまする。ここにおいて、パーパルディア皇国は、海軍全体の指揮能力を失った。
日英加連合艦隊旗艦
護衛艦「かが」
「潜水艦隊の攻撃により海軍本部は消滅。後は陸上砲台を叩くのみ。砲撃部隊は前進!! 上陸作戦前の露払いをせよ!!」
旗艦の指示により、エストシラント港砲撃部隊は前進する。かつてイギリスに租借されていたエリアには海軍本部警備隊により砲台が設置されており、これを排除しなければ揚陸艦を近づけることは不可能であるからだ。海上自衛隊の護衛艦「あたご」を先頭に日英加の水上艦艇12隻が砲撃を開始する。
パーパルディア皇国海軍本部のある港
「な、何なんだこの音は!?」
魔導砲を発射するかのような戦闘音が皇都エストシラントにこだまする。先ほどの陸軍基地攻撃の恐怖から、外にでて確認する住民はおらず、皇国臣民は自宅に入り、窓と鍵を閉め、ただただ震える。海軍本部のあった港では、崩れ落ちた本部建物を見て、皆唖然としている。臨時職員のシルガイアは海を見る。戦闘音は徐々に、そして確実に港に近づき、その音を出している原因が水平線上に現われる。灰色で、大きく、そして速い。敵が発砲した音の数だけ陸地に砲弾が着弾しているようだ。
「やばい!! 化け物が来た!!!」
シルガイアは立ち尽くす。その傍ら、港の兵は慌しく動き回り、陸上に設置され、海へ向く砲を稼動させる。シルガイアは敵の脅威を正確に理解し、動かない足を手で叩き、ようやく動かし始める。彼は兵舎、弾薬庫、そして陸上設置砲台等の重要施設から走って離れる。港から離れ、高台に上り、振り返る。敵の攻撃が港の砲台に連続して命中し、砲台は火柱をあげる。続いて弾薬庫に命中し、港全体が猛烈な爆発と黒煙に包まれる。
「ちくしょう! ちくしょう!! これではなす術が無い!!!」
日英加連合艦隊による、敵海軍本部のある港に対する攻撃により、港湾施設、武器弾薬貯蔵庫及び兵舎は完全に破壊された。水上艦艇はルディーニングラードに拠点を置く西海艦隊81隻を残して壊滅。西海艦隊もエストシラントの海軍本部からの連絡が途絶えたこと、属領である旧ポルスカ王国各地で発生している武力を伴った反乱に対処するため救援に向かうことが出来なかった。また、エストビア、ラトニア、リトアビアのバトル三国では属領統治機構に対して人民達が人間の鎖で独立運動を活発化。バトル三国各国の統治機構は、自分たちの身の安全を確保する為に、エストシラントの本国政府を無視して現在、独立運動の指導者と秘密裏に交渉。平和的に政権を統治機構から現地の独立運動指導者に委譲させるべく、話し合いが行われている。
「・・・・敵の軍隊が上陸・・・・もう終わりか・・・・」
シルガイアの眼前には、我が物顔で揚陸作戦を開始する日英加豪新連合艦隊の姿があった。揚陸艦からは多数の戦車や自走対空機関砲を始めとする陸上兵器や皇国の物より洗練された銃を携行する兵士、大使館や親日英派の市民に配給する補給物資を満載した輸送トラックが次々と上陸。また先に爆撃したパーパルディア皇国陸軍基地には、皇帝を捕縛したヘリコプター部隊と入れ替わるようにしてニュー・ホンコンからC-130とCH-47が飛来。C-130からは空挺部隊が降下。もぬけの殻となり、廃墟地と化していた基地を占領。安全が確認されると、滑走路復旧部隊が機材と共に着陸。速やかに滑走路を仮復旧させると、次々に物資を満載した輸送機がアルタラス王国やニュー・ホンコンから多数飛来。港と空港を押さえた日英陣営は着実にパーパルディア皇国を降伏に追い込みつつあった。
エストシラント郊外
ミカドアイHD地下強制労働施設
「そうか! 遂に日英軍が上陸したか!!」
金融業を中心に幅広く事業を展開するミカドアイHD。かつては漢字で「帝愛」と表記していたが、絶対的権力を持つ会長が戦争中に死去。新たに会長に就任した長男により、社名を片仮名表記に変更。新時代の到来を世間に知らしめた。ただし、裏でやることは全く変わらないのであるが。
「能登川先生!! これで、我々の苦労も報われますな!!」
エストシラント郊外の地下に建設された地下強制労働施設では、日英各地の債務者や頂き女子や金目当てで子供に食事を与えず育児放棄をする親、任意保険に入らずに交通事故を起こし遺族を苦しめる輩のように、法ではまともに裁けないどうしようもないクズ、更にはエストシラントで地下送りになった沼パチンコの敗北者を集め、様々な製品を作らせていた。その中には、エストシラントに駐留するイギリス軍向けの武器弾薬やエストシラント市民向けの日用品も含まれており、ミカドアイHDは日英両国政府が存在と行為を黙認する闇企業であった。ちなみに地下帝国では独自通貨「リペカ」が流通しており、その価値はパーパルディア皇国通貨パソの1/10という劣悪ぶりである。また作業中は白服と呼ばれるスーツ姿の男達が監視しており、逃げることは不可能。夜には、中サイズのご飯一杯、具のない味噌汁、小ぶりのメザシ二本、申し訳低度の薄切りにされたきゅうりの漬物3切れという人として最低限の扱いしかされない、クズにはぜいたく過ぎる食事が提供されている。ちなみに朝は薄切りにした食パン二切れと小分けにされたイチゴジャム1個、昼はカップ麺1個が提供される。
「エストシラントの英国大使館が使い物にならなかったのが残念だったが、アルタラス王国の英国大使館やニュー・ホンコン総督府が協力的だったのが幸いだったな」
地下強制労働施設を仕切るミカドアイHDの能登川幸男は煙草に火をつける。
「あれ? 煙草は確か品切れのはずじゃ?」
「エストシラントの空港を押さえたイギリス軍からの補給品だ。ハルト大使からで、何でもイギリスの支援でパーパルディア皇国軍を蹴散らしたことに対して、アルタラス王国国王から下賜された物だそうだ。ただ彼は煙草を吸わないから私に横流ししたという訳だ」
白い煙を吐く能登川。
「しかし、旨いなこの煙草は。異世界の煙草と聞いてどんなものかと思ったが、想像以上だ。しかし、あのグローリアとかいう女はダメだな。綺麗事しか言わん。我々の支援あってのエストシラント駐留軍であることを全く認識していない」
パーパルディア皇国の宣戦布告により、エストシラントに駐留するイギリス連邦王国軍に対して正規ルートでの補給が不可能となった。窮地に陥るかと思われたエストシラント駐留軍であったが、エストシラント郊外に地下帝国を築き始めていたミカドアイHDが助け船を差し伸べた。死んでも構わないクズをただ働きさせることが出来るミカドアイHDは元々地下帝国に武器弾薬の製造工場を建設していた。本来なら操業はまだ先であったが、緊急事態ということもあり操業の前倒しを提案。同時に必要な資材の提供を要請した。グローリア駐パーパルディア皇国英国大使は、
「偉大なる大英帝国軍は決して悪魔には魂を売らぬ!!」
と、ミカドアイHDの申し出を断固拒絶。しかし当のイギリス軍は武器弾薬や日用品を欲しており、グローリア大使の言葉に落胆。悩んだ大使館職員や軍関係者、諜報部はニュー・ホンコン総督府に相談。アオイ総督はグローリア大使を無視してミカドアイHDとの間に武器弾薬や日用品のイギリス軍への供給と生産に必要な資源の提供を総督権限で決定。同時に兄である駐アルタラス王国大使のハルトに支援を要請。ハルト大使はアルタラス王国に資源や資材の販売を手掛けるペーパーカンパニーをアルタラス王国に設立。ミカドアイHDニュー・ホンコン支社との間で取引を開始した。ニュー・ホンコンから先はエストシラント市内に本社を置いていることになっている別のペーパーカンパニーを通じて既存のパーパルディア皇国の物流網に乗せることで、怪しまれることなくエストシラントに資源や資材を届けた。
「途中で我々が暗躍していることに気付いた彼女は激昂していましたね」
「ああ・・・・ふぅー。綺麗事しか言わなかったがな。貴様らのせいで偉大なる大英帝国が汚れただの、人権軽視のクソ企業だの散々だった。勝たなければゴミ!! ふぅー・・・・それをあの女は分かっていない。もし我々を無視して武器弾薬の補給なしで戦えば、早々と死んでいた。流石のパーパルディア皇国もバカではない。武器弾薬をそのまま物流網に乗せようとすれば直ぐにバレる。だが、何に使うのかさっぱり分からんパーツや材料単位にしてしまえば途端に分からなくなる。そもそも我々の生産量はパラディス城を攻め落とせる程ではないのだ。あくまでも平時の使用に耐えられる量しか本来は作る予定ではなかった。我々はかなり無理をしたのだ」
能登川は煙草を吸い終わると、吸い殻を携帯型の灰皿に捨てる。
「だが、まもなくこの戦争には勝てる。勝てば新たなクズも手に入る。ミカドアイHDはこれからも成長するのだ。我々の仕事に終わりはない」
戦後、ミカドアイHDはイギリス軍への物資提供の功績を認められ、会長や能登川ら重役は英国国王からナイトの爵位が与えられると共に、爆撃した陸軍基地跡地に建設されることになるエストシラント国際空港の経営権を取得。空港周辺にはミカドアイHD系列のホテルや大型商業施設、カジノに空港から市内を結ぶ地下鉄が建設され、ミカドアイHDは更に潤うことになる。ちなみに、エストシラント国際空港の別名はキング・カズタカ・インターナショナル・エアポート、最初に建設される空港から市内までを結ぶエストシラント地下鉄1号線の名前は兵東線である。
「能登川先生も地下鉄の名前になりますかね?」
「わ、ワシ!? ないない!!」
後に環状線であるエストシラント地下鉄2号線の名前が能登川線になることを彼は知らない。
皇都エストシラント パラディス城
「それでは、これより緊急御前会議を始めたいと思います」
国家の危機的状況となった時のみ開催され、通常であれば一切の根回しなく、生の情報をぶつけ合う会議が始まろうとしていた。会議は国のトップ、皇帝ルディアス(実際は影武者のマサーヤン)を筆頭として、国の重役が顔を連ねる。皆顔は暗く、誰1人として笑顔を見せる者はいない。会議の面々には、第一外務局長エルトや皇軍最高司令官アルデや臣民統治機構長パーラス等重役が勢揃いしていた。ただし、一部を除いて。
「エルト殿、レミール様の姿が見えませんが?」
「アルデ殿、レミール局長は本日つわりがかなり酷く、とても会議には耐えられぬと報告がありました故。皇帝陛下も致し方なし、とお認めです」
「そうでしたか。そうであれば致し方ありませんな」
「・・・・・・」
実際には逃亡を阻止する為にパラディス城地下に閉じ込めているのだが、マサーヤンやエルト、他には極一部の兵士以外はこの事実を知らない。
「エルトよ、そろそろ始めよ」
「陛下、かしこまりました」
事前に打ち合わせをしていた二人は何食わぬ顔で会話をする。今、皇国の未来を左右する、日英対策の会議が始まろうとしていた。
パラディス城裏手口
「はあ、はあ、はあ、はあ」
人通りの少ないパラディス城の裏手口。普段は見張りの兵が立っているが、日英軍の攻撃による混乱からか、この日に限っては見張りが全くいなかった。
「待ってなさいレミール・・・・私がこの手で始末してあげるから・・・・」
英国大使館を抜け出したグローリア大使は見張りがいないことを確認して内部に突入する。彼女の懐には軍の倉庫からくすねた拳銃が隠されており、殺意の高さが伺える。
「内部の構造はスパイからもたらされた情報がある。腐っても大使だったからね。情報はちゃんと見てたのよ!!」
「!!」
パラディス城に潜伏しているオーストラリアの諜報部員がグローリア大使の存在に気付く。急ぎ英国大使館に連絡を取ろうとしたが、
「Why shoot at your allies?」
「・・・・ごめんなさい。でも、私の邪魔をした貴方がいけないのよ」
サプレッサー付きの拳銃でオーストラリアの諜報部員を殺害したグローリアは死体から武器を回収すると、進行を再開した。しかし、詰めが甘かった彼女は完全に息の根を止めないまま進んだ為、諜報部員が事の次第を死の間際に英国大使館に通報していたことに気付いていなかったのである。
パーパルディア皇国皇都エストシラント西方上空
「あのバカやりやがった!!」
ヘリコプターで移動中にエストシラントの英国大使館からの緊急通報を受けたハルト大使とアオイ総督は怒りを露にする。
「直ちにグローリアのバカを捕らえなさい!! パーパルディア皇国はまもなく降伏する!! パラディス城の諜報部員は直ちにグローリアを捕縛しな!! 死ななければどんな怪我を負わせても構わない!! 死ななければよい!! 直ぐにやりなさい!!」
ニュー・ホンコン総督からの指令を受けた英国大使館は直ちに行動を開始。十数分後、城内の清掃担当者として潜伏しているカナダの諜報部員がグローリア大使の両脚を撃ち抜いた。その場で崩れる大使を背後から城内の警備兵として潜伏しているニュージーランドの諜報部員に後頭部を拳銃で殴られ気絶。速やかに城外へ担ぎ出され、装甲車でエストシラントのイギリス租借地に入港している海上自衛隊の護衛艦「かが」に移送。道中市内を爆走したが、市民らは恐怖で家に閉じ籠るか、日英軍が配給する物資に列を作るかをしており、爆走する装甲車には目もくれなかったという。彼女は護衛艦「かが」で治療を受け、終戦まで同艦の独房に収監されることになる。
護衛艦「かが」独房
「チクショウ! チクショウ! チクショーメェー!!」
同盟国の護衛艦(???)に収容されたグローリア大使は復讐を果たせぬまま実質的に大使を解任された。数日後、降伏文書を英国大使館で署名後に本艦にやって来たハルト大使やアオイ総督と対面することになる。
パーパルディア皇国旧陸軍基地
日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによるP1爆撃隊によりとどめを刺されたパーパルディア皇国陸軍基地。廃墟と化した飛行場はイギリス軍により飛行場を復旧させられ、多数の人員や物資で溢れ帰っている。同時に飛行場の瓦礫撤去と生存者の救出も進められ、多数のパーパルディア皇国軍兵士が捕虜として捕らえられ、治療を受けていた。
「貴女方から見たら私達は敵でしょう? どうしてそこまで丁重に扱うのですか?」
最初に飛行場占領の為に降下したイギリスのニュー・ホンコン駐留軍により捕虜となった皇都防衛隊の魔信技術士パイは目の前にいるイギリス軍の軍医にそう尋ねた。彼女の周りには同じく捕虜となった多数の兵士が野戦病院に収容されており、また彼女の上司であるメイガは緊急手術の為にヘリコプターで護衛艦「かが」まで緊急搬送されていた。
「我々はジュネーブ条約を批准しています。条約では捕虜や文官の保護、虐待の禁止が定められています。また、そもそも医者ならば、敵味方問わずに救える命は救わねばならぬのです」
それだけ言うと軍医は他の患者の元へ向かっていった。自分たちとは全く違う価値観に触れた兵士達は次第に日英に対する認識を改めていく。同時にどんなに背伸びをしても勝てない相手であることを悟るのであった。
「おい! 日本の輸送機が来たぞ!!」
捕虜らはイギリス連邦王国軍以外の輸送機が到着したことに気付く。輸送機からは赤い十字の描かれた物資が多数の降ろされ、野戦病院の方へと運ばれてくる。
「パイさん、此方へ」
「あ、はい!」
日本の輸送機からはベッドを始めとした医療器具や直ぐに建てられるプレハブ式仮設住宅の機材が降ろされる。日英軍により仮設住宅は速やかに組み立てられ、患者の収容が開始される。パイは他の患者と共に仮設住宅に移され、ベッドに寝かされた。横になると急に疲れが出てくる。
「なんて国々を敵に回したのかしらね・・・」
ベッドの上で彼女は眠りについた。日英陣営は空港と港を完全に掌握。あとはパーパルディア皇国政府の降伏を待つのみとなった。
メスマン帝国首都アンコラ
在メスマン帝国日本大使館
「さて、シンそろそろ出国するわよ。荷物を纏めた?」
「ああ! ぬかりはない!!」
日本側の代表団の一員として、パーパルディア皇国との休戦協定締結後に実施予定の日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと神聖ミリシアル帝国による外交折衝に参加する為に彼らは帰国の途につく。港に停泊している小型船に乗り、メスマン帝国の領海外で迎えのUS-2に乗り換え、ニュー・ホンコン経由で帰国する予定である。
「メスマン帝国、講和会議の内容次第ではイギリスにぼこぼこにされるでしょうね」
「イギリスは親メスマン帝国派が多数のアセルバアチャンは与えてもよいと考えているみたいだが、親パーパルディア皇国派が多数派のメルアニアを渡すつもりはないからな」
「でも、メスマン帝国はイギリスからの通告を無視している。昨日もイギリス大使館からメスマン帝国外務省宛にメルアニアからの撤退を要求していたみたいだし」
「とはいえ、メスマン帝国も振り上げた拳は下ろせない。それもかつては自国の一部だった地域とあってはな」
「その時、我が国は仲介国として両国を取り持つことになりそうね。一応、我が国とメスマン帝国は友好国。何処ぞのバカのせいでイギリス並みの覇権国と勘違いされた結果だけど」
「それは謝るから蒸し返さないでくれ」
(続く)