日英同盟召喚   作:東海鯰

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皇帝の責任

パーパルディア皇国 皇都エストシラント 

パラディス城

 

緊急御前会議。国の重役の中でもトップのみが参加し、実質的に皇国の意思決定が行われる緊急会議が始まろうとしていた。会議の議題は無論、日英対策である。会議のメンバーは、皇帝ルディアスを筆頭とし、各局のトップや補佐役がズラリと並ぶ。会議に先立ち、今までに判明した日英についての資料が配布される。第1外務局により作成された資料に各幹部は目を通す。

 

「・・・・・・・」

 

各員は、言葉が出ないまま配布資料を読み終わる。一様に顔は暗い。

 

「まずは軍の現状からご説明いたします」

 

軍の最高指揮官アルデは説明を開始する。

 

「海軍の状況については、ムーから輸入した装甲艦も含め主力が壊滅し、残存戦力は西洋艦隊所属の81隻であり、その戦力は日本軍との戦い前に比べ、規模は大幅に縮小しています。海軍本部は瓦礫の山と化し、海軍提督や参謀等が根こそぎやられました・・・イギリスに租借させられていたエストシラント港を日英軍は取り返し、多数の兵士や兵器、その他補給物資が揚陸されています」

 

アルデの額には汗が滴る。残存艦のみであっても、第3文明圏周辺国の海軍よりも戦力は上であるが、主力をあっさりと葬り去ってしまった日英軍と対峙することを考えた場合、その戦力はあまりにも小さく見える。しかも敵は完全に港を抑えている。空から攻撃出来るならしたいが、その力さえ奪われており、成すすべがない。

 

「次に、陸軍の状況についてご説明いたします。皇軍3大基地の1つ、皇都防衛隊が全滅いたしました。空から行われる攻撃としては、その爆弾投射量はあまりにも規模が大きく、今まで全く想定しておりませんでした。今後基地を作る際には、戦力を集中しすぎないように配慮する必要が生じましたが、本戦いには間に合いそうにありません。また、破壊した陸軍基地を日英軍は空から兵士を送り込み占領。どのような手を用いたかは不明ですが、滑走路を復旧させ、輸送用の飛行機械を送り込んでいます。此方も多数の兵士や兵器、補給物資を運びいれています。我々は港と空港を完全に掌握されました」

 

説明は続く。

 

「皇都の防衛に大きな穴が開いてしまったため、属領統治軍を撤収し、皇都防衛の任に当たらせます。本件は皇都防衛といった最重要課題であり、緊急を要したため、軍最高司令の権限に基づき、すでに撤収指示は出しております。なお、属領統治軍を全て撤収したとしても、攻撃を受ける前の皇都防衛隊の戦力までは回復不可能です」

「ちょ・・・・ちょっと待って下さい、アルデ殿!」

 

臣民統治機構パーラスはアルデの話に割って入る。

 

「属領統治軍を撤収する!? そんな事をすれば、反乱が起こりかねません!! それに、メルアニアやアセルバアチャンのようにメスマン帝国により陥落した属領や、ポルスカのように既に大規模な反乱が起きている地域もあります!! 他の2大陸軍基地から引っ張ってくるわけには行きませんか?」

 

「無理だ。他の基地も重要拠点であるしな。参考だが、陸軍の最大の強みは地の利、この大基地から皇都に軍を引っ張って来たと仮定して、開いた穴に属領統治軍を当てる事は考えたが、それだと全体戦力が低下しすぎる。パーラス殿には本当に申し訳ないとは思っている。ですが 臣民統治機構は、反乱を起こさせないために存在しているのでしょう? 万が一、属領を失ったとしても、皇都防衛の重要性を考えると、天秤にかけるまでも無いと思うがいかがかな?」

「そ・・・それは・・・・」

「それに、先ほどの説明どおり指示済みだ。すでに各統治軍は皇都に向かう準備を開始している。ポルスカに展開している軍を含めてもだ」

 

パーラスは黙り込む。すると、だんまりしていた皇帝が口を開いた。

 

「アルデよ、もうよい。現在の軍の状況から、日英が決し侮ってはいけない存在であり、そして脅威であるという共通認識は皆は持ったと思う。ここで問題となるのが」

 

皇帝の影武者であるマサーヤンは一呼吸置く。

 

「今回の戦争の終わらせ方、落としどころであろう」

「!!!!」

 

一同に衝撃が走る。誰もが感じているが、最も口に出しにくい言葉。それも皇帝自らが話し始める。皆マサーヤンの行動に注目する。

 

「余の直臣、アルデ最高司令に問う。残存戦力で・・・そうだな、まずは日本に上陸を行い、余の命である日本人の殲滅をなす事は可能か?」

「皇帝陛下の御意思達成のため、全身全霊をかけて取り組む所存であります!」

「愚か者!!」

 

皇帝の叱責に皆が一瞬身体を震わせる。

 

「精神論など聞いてはおらぬわ! 余は現有兵力で可能かどうかを聞いておるのだ!!」

「・・・・現有戦力では不可能であります。達成のためには、兵の数をそろえ、もっと船を作る必要がございます。何より時間が必要であります・・・・」

「だが、日英は待ってはくれぬであろう。既に港と空港を押さえておるからな。それでは今回の戦端を開いた第3外務局のレミール・・・は、つわりが酷くていないのだったな・・・誰か代わりはいるか?」

「では、私から」

「おお、エルト。お主は第1外務局だったはずだが・・・まあよい」

 

マサーヤンはエルトと目配せをする。会議前からマサーヤンはエルトに話を振るように双方で仕向けていたのだ。

 

「この戦争、お主はどのように収束させるべきだと思う? お主の考えを聞きたい」

 

皆がエルトに注目する。普通であれば緊張のあまり喋れないだろうが、既に双方で内容は打ち合わせ済み。震える演技をしながら話し始める。

 

「こっ、国家として、す、既に日英両国にせ、殲滅を表明しております。い、今、こ、皇国が意志を変更すれば、他国や属国に示しがつかないでしょう。国益を考えたとしても、このまま進むしかないでしょう・・・・」

「それは第1外務局や第3外務局として見た場合の立場であろう。エルトは、それが可能と思っておるのか?」

「軍の最高司令のアルデ殿が時間をかければ可能と言っている。軍事における戦略的な事に私は口を出す立場には無い。ですが」

 

エルトは一呼吸おく。そしていよいよマサーヤンと打ち合わせした内容を喋る。

 

「私は、パーパルディア皇国の独立と臣民の命が保証されるのであれば、日英に降伏するべきであると思います」

 

一時の沈黙。降伏を皇帝に打診。前代未聞の発言に皆は驚いた。

 

「へ、陛下の御前で何を申されるエルト殿!?」

「そうですぞ!! 時間をかければ軍の再編は可能であると申し上げたばかりですぞ!!」

「ですが日英軍は港と空港を完全に抑えており、北からはメスマン帝国が侵攻中。リーム王国も不穏な動きをみせており、これ以上陛下の赤子の命が徒に奪われることは避けるべきです!! 一部の者しか知りませんが、メルアニアにて特に日本は敵であるはずの我々の民を命懸けで救助し、オラパでは撃沈した艦から脱出した兵士を攻撃したメスマン帝国を懲罰したのです!! イギリスは避難民や捕虜をニュー・ホンコンにて受け入れ、我が国への侵攻を企てるリーム王国に対しては軍事演習を行うことで参戦を抑止している。これは明らかに早く降伏しろという意味ではないでしょうか? それともアルデ殿やパーラス殿はエストシラントがデュロのようになることをお望みか!!」

 

エルトの鬼気迫る演説に皆が圧倒される。頃合いと判断したマサーヤンが演説を予定通り打ち切る。

 

「もうよい!!!!」

 

エルトの発言に割って入る怒声、すべての者はその声を誰が発したのかを瞬時に理解し、黙り込む。マサーヤンはエルトに向く。

 

「エルトよ。よくぞ言ってくれた。そなたのような諫言する忠臣がいて余は幸せである。皇国臣民のためを思い、何をすべきかを臆することなく言う。実に素晴らしい」

 

そして遂にマサーヤンが自らの考えを表明する。

 

「余はこれ以上、臣民の血が流れることは望まぬ。余に加え、日英の民殺害を実行したレミール。この二人の首と引き換えに日英に対して降伏する。レミールも救えるのであれば救いたいが、日英。特にイギリスが許さぬ。エルト、そのことを記した書状を作成した。これを英国大使館に届けよ。アルデ、軍に対して戦闘中止を命令を出せ。属領統治機構軍は引き続き撤退させる。パーラスは属領統治機構に対して今年の税金徴収の中止、治安維持を除く軍事力行使の禁止を指示せよ」

「陛下・・・・」

 

皇帝の影武者マサーヤンによる決断により戦争終結が決定した。その日の夜、アルデは敗戦の責任を取り自害。レミールは引き続き監獄で監禁し、エルトは降伏文書を携え英国大使館に向かった。数日後、正式な降伏と休戦協定の署名が行われる。

 

 

パーパルディア皇国皇都エストシラント

在パーパルディア皇国英国大使館

 

「また貴殿方ですか」

 

パーパルディア皇国側の代表団はイギリス側の代表団の一員として参列したハルト大使とアオイ総督を見てそう呟いた。

 

「はい。ですが、僕達で貴殿方は幸運ですよ。復讐心に駆られた大使は独房送りになってますから」

「もしハル兄じゃなければ、貴殿方の首は飛んだでしょうね」

「は、はあ・・・・」

 

エルトは気の抜けた返事しか出来なかった。その後日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを始めとする日英陣営とパーパルディア皇国により、降伏文書と休戦協定の調印が行われた。この時、オーストラリアの代表団が調印箇所を間違えるハプニングがあったものの、文書は無事調印され両国の軍事衝突は終了することになる。

 

 

パーパルディア皇国属領クーズ

 

列強パーパルディア皇国によるカスのような統治、その統治に耐えかね、ハキは独立するための仲間を集めていた。皇国の統治に反感を持つ者は多く、ハキ自身全く信じられない事であるが、協力者は2500名にも上っていた。

 

反乱組織名、「クーズ王国再建軍」

 

実質的な戦力は1500名程度ではあるが、大きい戦力といえる。組織は十数人単位の仲間がネットワークのように繋がり、2500名が一同に会して話をすることは無く、その活動は表立っていないため、奇跡的に臣民統治機構には認知されていない。その日の朝、ハキは朝食を食べていた。

 

コンコンコン

 

自宅のドアがノックされる。ドアを開けると、1人の男が息を切らして玄関前に立つ。

 

(いったい何があった?)

 

ハキは彼を自宅に入れる。パーパルディア皇国に対する反乱組織「クーズ王国再建軍」、その長ハキの右腕とも言えるイキアは息を切らして彼の前に立つ。

 

「どうした?こんなに朝早くから・・・・何があった?」

 

イキアは息を整え、話し始める。

 

「属領統治機構本部に高札が掲げられていた!! パーパルディア皇国は日英に降伏。属領統治機構軍は撤退し、今年の税金徴収はなし。強制労働も免除。日英との休戦協定により全ての属領で独立の賛否を問う住民投票を実施するとのことだ!!」

 

絶句。ハキはあまりの展開にすぐには言葉が出ない。

 

「あ・・・いや、待て待て、では何でまだニュースになっていないんだ? 他文明圏のニュースくらいにはなっていてもおかしくないではないか?」

「信じられないほどの大戦果だからかもな。この情報が本当なら、日本はもはや列強のレベルをも大きく超えている事になる。適当な事を言って信用を失ってはいけないし、双方の国も、他国も正式発表をしていない。情報が来ていないだけかもしれないが」

 

第3文明圏列強パーパルディア皇国との戦いに敗れ、糞のような統治を受け続けたクーズ王国、奴らは我らの土地を属領クーズと呼び、我らが民の事をクズのクーズなどと呼んでいた。自らの国を取り戻したかったが、列強軍はあまりにも強く、クーズ王国が最盛期の軍をもってあたったとしても、皇国の属領統治軍にあっさりと敗れていただろう。まして、大した装備も無く反乱したとしても、あっさりと滅せられるのは目に見えていた。列強軍と我らの軍は、圧倒的・・・・いや、絶望的な開きがあった。しかし、日本とイギリスという国が現れ、状況が変わる。突然のパーパルディア皇国降伏を受けてクーズ王国再建軍は会議を開催した。そして会議中に壊れかけた映像受信機が光り始める。第1文明圏の魔信を拾っていたその受信機に、組織の人間とイキアは振り向く。

 

 

「番組の途中ですが、臨時ニュースをお知らせします。エストシラントの英国大使館にて、日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドとパーパルディア皇国の間で降伏文書と休戦協定が調印されました。また調印を受け、イギリスのハルト全権大使とアオイニュー・ホンコン総督による記者会見が開催されました」

 

各国の報道陣を前にハルトとアオイが壇上に立つ。

 

「あ~、皆さんお疲れ様です。本日我が国の大使館にて、我々グレートブリテン及び北アイルランド連合王国並びに日本国とパーパルディア皇国の間での戦闘行為を終了する文書に調印となりました。今後、神聖ミリシアル帝国にて講和会議を開催し、戦争状態を完全に終結させる予定です」

「講和条約締結までの間はエストシラントに我が国や同盟国の軍が駐留し、講和会議の内容に関わらず民主化政策や属領の独立の賛否を問う住民投票を実施することが文書では定められており、可能な限り速やかに全ての属領で住民投票を実施します。属領統治機構は当面の間は存続しますが、治安維持を除き全ての業務を停止致します」

「属領の皆さん、パーパルディア皇国が憎いと思います。今すぐにでも悪の統治機構本部をぶっ壊したいと思うでしょう。ですが、それでは徒に混乱を生むだけです。独立後、我が国や日本が経済支援する計画を立てております。どうか、今は耐えていただきたい。そして今直ぐに必要な支援は惜しみません。既に少しずつではありますが、各地の属領へ我が国や同盟国の軍が進駐を開始しており、当面の治安維持や物資の支援を開始しています」

「また、パーパルディア皇国が抱えている課題を解決しなければ、再び戦争が起きます。この機会を活かして平和な日々を取り戻す。その為にどうか力をお貸しください!!」

 

その後記者たちが質問をはじめる。緊急放送は終了した。

 

沈黙。皇国が降伏した事は本当だった。日本とイギリスはとんでもない国のようだ。

 

「・・・いよいよ独立出来るのか」

 

組織の人間は同放送を聞き、彼らは独立賛成派を多数派にする為に動き出した。他の属領でも独立賛成派を多数派にする為に動き始める。一方でパーパルディア皇国への残留を望みながらメスマン帝国に占領されているメルアニアやメスマン帝国への帰属を望むアセルバアチャン等住民投票実施が困難な地域については混乱が続くことになる。

 

 

メスマン帝国首都アンコラ

メスマン帝国外務省

 

「メルアニアとアセルバアチャンをパーパルディア皇国に返還しろだと!? そんなふざけたことが認められるか!!」

 

パーパルディア皇国の降伏を知ったメスマン帝国は更なる領土奪還を画策していたが、イギリス大使館から警告文が届いた。内容は、

 

・貴国が占領しているメルアニア、アセルバアチャンはパーパルディア皇国の領土である

 

・メルアニア、アセルバアチャンでも他の属領と同じく独立か、パーパルディア皇国残留かを問う住民投票を実施する予定である

 

・拒否するのであれば、我が国は貴国と戦争する用意がある

 

「ですが、イギリスと戦っては・・・」

「更にメルアニアとパーパルディア皇国属領カザスフタンの国境線に数日以内にイギリス軍が進駐するとも通達がありました。ここは下がるしかないのでは?」

「だがメルアニア占領はスルテン肝煎りの政策。今更引き下がれん!! それ以上に民が許さぬぞ!!」

 

メスマン帝国はパーパルディア皇国に奪われたメルアニア、アセルバアチャン、カザスフタン、ギリギス、トルクメン、ジョジア、ダジギス、ウズベクステンの奪還を掲げていた。大多数の国民は熱狂的に旧領奪還を支持しており、今更引き下がれない状況だった。

 

「ここは日本に仲介を依頼するしか・・・・」

「外相! 日本大使館から連絡です!! オオカワ大使が昨日離任! 後任は未定とのこと!!」

「なんだと!? だが、他に手はない! 日本大使館に今回の問題の仲介を依頼するよう伝えよ!!」

 

メスマン帝国はイギリスとの軍事衝突を回避するべく、日本に仲介を依頼。日本側からは、メスマン帝国はメルアニアからは撤退する。その見返りにイギリスはアセルバアチャンのメスマン帝国領有を承認し、日英はメスマン帝国に投資(主に日英による石油利権の独占)を行うとした内容が提案された。メスマン帝国外務省や国防省は日英との圧倒的な国力差を認識しており、この内容の受け入れをスルテンに上申。メフメト6世はこれを受け入れ、軍に対してメルアニアからの撤退を命令。しかし、現地軍はこれを無視して駐留を継続した。

 

 

旧メルアニア統治機構本部

現メスマン帝国メルアニア解放司令部

 

「スルテンは何を考えているんだ!! 折角手に入れた土地を手放せとは!!」

「メルアニアは我々の旧領! イギリス等と言う新参者の言いなりになるものか!!」

「イギリス軍のいない今こそカザスフタンに攻め入る好機!!」

 

日本の仲介案受け入れを表明したメスマン帝国は、自国内の熱狂的な旧領回復運動を抑えきれなかった。報道陣はこぞってメフメト6世は弱腰だと非難。国民は宮殿前に集まり、イギリスへの宣戦布告を主張した。

 

「・・・・クソ!! 国民は我が国を滅ぼしたいのか!!」

(スルテンが宣戦布告したからなのに・・・・)

 

日に日に高まる国民の不満。せっかく取り返した旧領を新参者に易々と渡せるかと騒ぐ国民。イギリスの強さを知らないナショナリストらはイギリスへの宣戦布告を叫ぶ。

 

「イギリス討つべし!!」

「英国本土まで攻め入り、英国国王の首をはねろ!!」

「日本の仲介案受入れはんたーい!!」

「イギリスに速やかに宣戦布告しろ!!」

 

やむ無くメフメト6世はデモ隊に対して警察力を行使。鎮圧を試みると共に戒厳令を出して事態の収拾を図った。その後スルテン直々にメルアニアからの撤退を命ずる勅命を発布。国防省を越え、スルテン直々の勅命とあっては現地軍も逆らえず、しぶしぶメルアニアから撤退した。その後メスマン帝国には日英による莫大な投資とそれにより雇用が生まれることになるが、イギリスに対する不満は燻り続け、メフメト6世の死後完全に抑えが利かなくなったメスマン帝国はイギリスに宣戦布告。最終的には国家そのものがなくなることになる。

 

 

パーパルディア皇国皇都エストシラント

パラディス城皇帝執務室

 

「皇帝陛下・・・・いや、マサーヤン殿。お勤めご苦労様でした」

 

降伏文書の調印を終え、彼とレミールの身柄を引き取りに着たハルトとアオイを始め各国の代表団や軍がパラディス城に進駐しに来ていた。日英軍は近衛兵らの武装解除を進めさせており、各国の代表団は広い城内を護衛の兵士らと共に散策していた。

 

「いえいえハルト全権大使殿。この度は某の願いを聞き入れて頂きありがとうございます。これで影武者としての勤めを全う出来ます」

「・・・・・そのことなのですが・・・・」

 

ハルト全権大使は一通の書状をマサーヤンに手渡した。宛名はマサーヤンであり、差出人はルディアスであった。

 

「陛下から直々に?」

 

マサーヤンは封を切り、中に入った書状を読み始める。すると、マサーヤンは目に涙を浮かべた。

 

「ハルト全権大使!? これは本当に陛下の御気持ちなのですか?!」

「はい。僕からも貴方の願いを強く伝えたのでありますが、皇帝陛下は・・・・」

 

ハルトとアオイがエストシラントに向かう前のことである。

 

 

イギリス領ニュー・ホンコン

ニュー・ホンコン総督府

 

「皇帝陛下、無礼な真似を御許し下さい。某はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国外務・英連邦・開発省駐アルタラス王国大使のハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンと申します。此方はニュー・ホンコン総督のアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンでございます。どうかお見知りおきを」

 

ニュー・ホンコンまで拉致されたパーパルディア皇国皇帝ルディアスは二人の様子をじっと見つめていた。

 

「・・・・そなたらは世襲貴族だな?」

「流石は陛下。我がハミルトン家は英国国王より公爵の爵位を与えられし家系。将来的には某が公爵として地位を継承することになっております」

「そうか。してハミルトン公爵」

「陛下、その称号は我が叔父が名乗っております。爵位付きで呼ばれるのでしたら、それより下の下のアンガス伯爵と御呼び下さいませ」

「・・・・・よくわからぬが、まあよい。アンガス伯爵よ、そなたらの目的はなんだ? 余の首をはねるつもりか?」

「そうでしたらわざわざニュー・ホンコンまで陛下をお連れ致しません。我々は陛下の命を救う為に連れて参ったのです」

「・・・・・ほう。理由は?」

「一つは我が大英帝国にパーパルディア皇国が速やかに降伏するよう仕向けること。もう一つは陛下の影武者の願いにございます」

「・・・・・マサーヤンのことか」

「おっしゃる通りです。マサーヤン殿はレミール並びに影武者である自身の命と引き換えに陛下の助命を嘆願して参りました。我々はマサーヤン殿にはレミールを拘束し、皇帝を演じて頂き、速やかに降伏する。そのように命じました。もうまもなく事は成るでしょう」

「現在、本国は陛下の命をカナダで奪うつもりです。ですが、我々としては約束を違えることはしたくありません。そこで、マサーヤン殿には陛下の身代わりとしてカナダに渡って貰い、陛下は生涯我々ハミルトン公爵家の土地に匿いたいと考えております」

「・・・・・・・」

「隠居先について纏めたリストが此方になります。不自由なく暮らせるよう取り計らいます故・・・」

 

ハルトはルディアスに隠居先について纏めた書類を手渡そうとしたが、ルディアスはこれを拒んだ。

 

「・・・・陛下?」

「馬鹿者が・・・・」

 

ルディアスは目に涙を浮かべた。

 

「本来は余が決断しなくてはならなかったのだ。途中から気付いてはいたのだ。そなたらの国と日本国は我が国より遥かに強い。どんなに背伸びしても勝てぬと! だが、余は失敗を認められなかった。認める度胸がなかったのだ!! そして責任から逃れようとした!! 余はマサーヤンの忠義を理由に皇帝としての責務を放棄したのだ!! 押し付けたのだ!! にも関わらずマサーヤンは我が国の為に、臣民の為に、なお余の為に尽くそうとしている!! そんな忠義の臣を見捨てて生き延びられようものか!!」

 

ルディアスは続ける。

 

「今回の敗戦の責任は余にある!! 責任を取るべきは余のみである!! マサーヤンに伝えたい。そなたは生きよ!! 生きて、余が生きた証を伝えよと!!」

「・・・・そこまでおっしゃるのでしたら、我々は止めません。ですが、陛下一人だけの責任とはしません」

「国民感情を鑑みて、陛下のお気に入りであるレミール。彼女には責任を取らせます。ですが、二人の命と引き換えに他の皇族の命は保証しましょう。カナダ移住もなしにし、彼らは英国国王に仕える下級貴族となって頂きます。陛下の命に関しても、マサーヤン殿の為に助命するようにカナダ側に働きかけさせて頂きます」

「陛下から他の皇族に御説得願えますか?」

「無論だ。責任を取るとは、本来そういうものだ。それとパーパルディア皇国皇帝の地位をそなたらの王に与えようぞ」

「陛下の御覚悟、確かに承りました」

「アンガス伯爵よ、筆と紙を貸しては頂けぬか? マサーヤンに手紙を書きたい」

「畏まりました。アオイ、お願い出来る?」

「勿論よ」

 

その後、ルディアスはマサーヤン宛に手紙を書いた。そこには長年の忠義に対する感謝と苦労をかけ、責任を押し付けてしまったことへの謝罪、そして自身が保有している爵位の一部を与えることが記された。

 

「これでよい。アンガス伯爵よ、頼んだぞ」

「ははっ!!」

「それと・・・・そなたは何と呼べばよいのだ?」

「皆からはバイオレット総督、兄上からはアオイと呼ばれております」

「そうか。ではバイオレット総督。大変申し訳ないが、話をして腹が空いた故、なにか食事を出して頂けるとありがたい」

「では、此方のメニューから御選び下さい」

 

アオイは総督府近くにある日本料理店の出前メニューを差し出す。

 

「うむ・・・・ではこの醤油ラーメンと餃子のセットにいたそう。見たことのないメニューばかりだが、一番安い。安いということは、庶民に一番親しまれているということだろう」

「承知致しました」

 

その後、日本料理店から届けられた食事に舌鼓を打つルディアス。ハルトとアオイはその場で直立不動で見守る。

 

「非常に美味であった。やはり余は愚かであった。今少し、視野を広くするべきであったな。今更だが」

「では陛下。我々もそろそろ時間ですので、客人用の部屋にお移り願えますか?」

 

ルディアスはその後、総督府の客人用控え室に移された。部屋は冷暖房完備、テレビや机、ベッドにシャワールームも完備されている。

 

「万が一逃亡しようと試みれば」

「バイオレット総督、余にその気はない。それに逃げたところでここは島。簡単には脱出出来ん」

 

ルディアスはその後二人に振り向く。

 

「まだ皇国は貴国に降伏してはおらぬ。即ち、余はまだパーパルディア皇国皇帝である。余からそなたらにパーパルディア皇国皇帝として、爵位を与えようぞ。これは余からのささやかな礼である」

「「ありがたく拝命致します」」

 

こうして二人はパーパルディア皇国皇帝より、公爵の爵位を与えられた。元々は皇帝の弟エルフェウスとその妻に与えた爵位だということで、ハルトはアルーニ公爵、アオイはコンホン公爵となった。後にパーパルディア皇国皇帝を英国国王が兼務することになった際に、パーパルディア皇国における爵位が英国貴族に組み込まれることになる。

 

 

「陛下・・・・」

 

ハルトとアオイから事の次第を聞かされたマサーヤンは涙が止まらない。

 

「近日中にも、貴方とレミールの身柄はニュー・ホンコンに移送となります。そこで皇帝陛下と最期の別れを告げる場を設ける予定です」

「・・・・アルーニ公爵にコンホン公爵。かたじけない・・・・感謝してもしきれぬ・・・・」

 

泣き崩れる影武者を暫くの間二人は慰めていた。一方でパラディス城の監獄では・・・・

 

(続く)

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