日英同盟召喚   作:東海鯰

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ヒルキガ合意

日本国 防衛省技術研究本部

 

防衛省技術研究本部の小野と岡本は、資料を見ながらこの世界の兵器について考察をしていた。

 

「まずは、この世界でメジャーな航空兵器、ワイバーンについてですが」

 

小野は資料をめくりながら、上司の岡本に話しかける。

 

「ワイバーンが火炎放射を行う時は、火炎魔法と呼ばれる方式をとるようですが、導力火炎弾を発射する時は、体内の粘性のある燃焼性の化学物質と、火炎魔法、そして風魔法を組み合わせているようです。風で火を包み込み、燃焼物質も混ぜて、放出するため、導力火炎弾を発射するときは、首を伸ばし、胴体から首までを1直線に伸ばす必要があるようです」

「では、振り向いて後方に発射する事は出来ないのか?」

「火炎放射に関しては可能ですが、火炎弾は前方にしか撃てません。」

「意外と不便だな」

「そうですね。デリケートな生き物で、病気にもかかりやすいし、糞もする。空戦時のスタミナ切れもありますし、火炎弾は連続発射が出来ない。対地支援兵器としては有用性があるかもしれませんが、制空戦闘には全く使えません。ですが、警察官相手には脅威になるでしょう」

「確かに・・・福岡県では暴力団がワイバーンを使用し、警察官に殉職者が出ていたしな」

 

話題が移る。

 

「歩兵用の兵器についてはどうだ?」

「はい、今回戦ったロウリア王国は、この世界で文明圏と呼ばれる外の国としては、比較的戦闘能力が高い水準にありますが、未だ剣と弓が主力であり、取るに足りません。第三文明圏の列強と呼ばれたパーパルディア皇国も、未だフリントロック式マスケット銃です。地球基準でいえば、1620年に開発された方式であり、骨董品にしか見えません。弾の速度、命中率、次射までの時間、どれも現代に比べるとあまりにもレベルが低く、軍隊としては全く脅威になりません。もちろん、それでも当たれば死ぬ場合があるため、十分に注意する必要があります。骨董品レベルとはいえ、それでも皇国は、周辺他国と比べると、技術力が突出しています。今まで勝すぎた事が、自国に大ダメージを与える事につながったため、日英も決して慢心してはならないと思います」

 

話はつづく。

 

「しかし、パーパルディア皇国で驚くべきは竜母と、戦列艦です。戦列艦の大砲は、明らかに1800年代の威力がありますし、ワイバーンの船での運用などの思想は、1900年代前半のレベルです。明治初期の大英帝国や日本ならば、負けていたでしょう。宇宙のレベルで言えば数百年は誤差の範囲に入るので、日英は幸運でしたね」

 

二人は、文明レベルに日英がアドバンテージを握っていた事に安堵する。パーパルディア皇国についての考察が終わり、次に神聖ミリシアル帝国について、話が移る。

 

「この付近で最強と言われている神聖ミリシアル帝国についてはどう考える?」

「魔法と呼ばれる訳の解らない兵器を進化させているため、何とも言えません。未知数ですね。もっと研究する必要があります。

神聖ミリシアル帝国には、第零式魔導艦隊と呼ばれる世界最強と謳われる艦隊があります。たいそうな名前ですね。戦力は未知数ですが、艦のサイズは第2次世界大戦クラスの大きさであり、砲のような兵器も写真からは見て取れます。もしも戦うならば、現代戦をしているつもりで、細心の注意を払う必要があると思います」

「神聖ミリシアル帝国については、不明な部分が多すぎるな。もっと情報がほしいところだ」

 

彼らは、次にグラバルカス帝国について考察を開始する。

 

「グラ・バルカス帝国についてはどう考える?」

 

岡本の問いに、小野は興奮しながら資料を取り出す。

 

「これを見てください!!」

 

1枚の写真を岡本に見せる。

 

「なんと!! これは!!」

 

「少し前にグラバルカス帝国によって滅ぼされた列強国、レイフォルの首都から撮影した、魔写と呼ばれる技術、まあ、写真ですね。どう見ても戦艦大和です。衛星写真を分析したところ、やはり寸法も砲の位置も、アメリカ軍に沈められる直前の大和型戦艦に酷似しています。ただ、レイフォルの竜騎士団による空からの攻撃について、生き残りの証言からですが、近づいた砲弾の破裂状況から考えるに、近接信管を実用化しているものと思われます。つまり、第2次世界大戦のアメリカ並みの電子技術を持ち、日本的な設計思想を持っているものと思われます。」

「第2次世界大戦レベルか……核兵器の所有も念頭に置いた方が良いな。となると、イギリスと協力し、原子力潜水艦の建造や核実験を急ぐべきだな」

「はい、技術レベルは明らかに第2次世界大戦の先進国レベルにありますので、核兵器の保有も十分に考えられるかと思われます。

グラバルカス帝国は、他国を強襲している点も踏まえると、現時点では最も注意すべき国かと思います」

 

二人の考察はつづく。

 

「次に、この世界の伝説についてですが」

 

小野は資料を持ち出す。

 

「クワトイネ公国のリーンの森に、過去に魔王を打倒したと呼ばれる太陽神の使いの船が保管してあり、調査団を派遣した結果、信じられない事に、零式艦上戦闘機21型が、更には付近の湖の湖底を水中ドローンによる調査を実施したところ、インド洋で沈んだはずの英空母ハーミーズを始めとするイギリス東洋艦隊が保管してありました。過去に旧日本軍やイギリス軍が来ていたという事実が政府を揺るがしています。旧日本軍やイギリス軍が元の世界に帰れたのならば、日本国も地球に戻れる可能性が生じる事になります。それが幸せかは解りませんが・・・・現在この事象については調査中ではありますが、この世界の神話や伝説は、ある程度事実に基づいて構成されています」

 

小野は続ける。

 

「そこで気になるのが、トーパ王国に現れた魔王軍を作ったとされる、古の魔法帝国です。魔王軍の有害獣には、遺伝子操作に酷似した高度な技術が使用されています。様々な国で語られる古の魔法帝国は、人類とは別の種が統べる国であり、他種を見下し、まるで家畜のような扱いをしていたと記されています。さらに、この国は技術レベルが高く、列強エモールの伝承に記されていた、過去に龍神の国を攻撃したコア魔法ですが、状況から判断するに、どう考えても単弾頭の大陸間弾道弾に酷似しており、さらに使用された弾頭は、核です」

 

岡本は、核兵器が使用されたという過去の事象に驚愕する。

 

「何故核と言える?」

「カルアミーク王国をご存じですか?」

「ああ、最近国交を結んだ国か。確か、近日中にイギリスと軍事同盟を締結するとか」

「カルアミーク王国に高度な古代遺跡があり、現在調査中ではありますが、おそらく古の魔法帝国の遺跡と思われます。ここに、コア魔法の基本原理が記されていました。円筒状の石柱内部に、起爆部分の球状のコアを入れ、同コアは爆裂魔法により多方向から同時に爆圧で包み込むことにより、原子の分裂をもって、高威力の爆発を発生させるとあります。また、円筒状の石柱は、魔光呪発式放射エンジン(空気圧縮放射エンジンではない)で、空気の層の上まで飛び、垂直に対象国に落下、星の何処でも攻撃できるとあります。多弾頭弾に関する記載が無かったのが幸いですが、この国は大陸間弾道弾の核兵器を実用化し、迷うことなく使っていたようですね。近年復活するとも言われており、もしもこの国が現れたなら、最大の脅威となるでしょう。日本にも、アレルギーはあるものの、核兵器と大陸間弾道弾の整備が必ず必要かと、個人的には思います。核の整備については、政府が潜水艦発射型の大陸間弾道弾と、核兵器の整備を決定しています。自衛官の私が言う事ではなかったですね」

 

彼らの話はつづく。

 

 

カルアミーク王国王都アルクール

駐カルアミーク王国英国大使館

 

「では、此方の条約に調印をお願いいたします」

 

カルアミーク王国国王ブランデとイギリス側の代表がアルクール条約に調印する。条約では以下の内容が決められた。

 

・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国とカルアミーク王国は主権国家であり、対等であると互いに認める

 

・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国はカルアミーク王国の安全保障を担う責務を負う

 

・カルアミーク王国は外海と繋がる山脈がイギリス領であることを認める

 

・イギリスはカルアミーク王国軍の近代化支援を行う

 

・カルアミーク王国は同国の資源開発の優先権を英国企業に与える

 

等が定められた。一部からは対等とは名ばかりの保護国化であるとの指摘があったものの、国王ブランデの判断により調印となった。

 

「国王陛下、この度は条約調印ありがとうございます」

「いえいえ、むしろ礼を言わなければならないのは我が国の方です。貴国や日本国の支援がなければ、今頃我が国は壊滅していたでしょう」

 

カルアミーク王国、ポウシュ国、スーワイ共和国を日本の人工衛星で発見した日英両国は国交樹立を決定。しかし外周を断崖絶壁の山脈に囲まれており、外交官をどうやって送るかが課題となった。日本側は外交官をワイバーンに乗せ、穏便な形で派遣することを提案したのに対して、イギリス側は本国で待機している空母「プリンス・オブ・ウェールズ」に陸上自衛隊が運用しているオスプレイを搭載。空から堂々と外交官を送り付けるというパワープレイを提案して来たのである。イギリス側の提案に日本側は頭を抱えたものの、正直他に手がないことからイギリス側の提案が採用された。こうして、イギリス海軍の空母プリンス・オブ・ウェールズを旗艦とする艦隊が派遣され、外交官や自衛官、英連邦王国軍を乗せたオスプレイ3機が離陸。堂々とカルアミーク王国の首都に乗り付けたのである。

 

「あの時は我々も無礼な真似をしましたので、その詫びとお考え下さい」

 

いきなりの空からの来訪に驚いたカルアミーク王国側は軍を出動させ、着陸したオスプレイを包囲。中から日英の外交官が出てくると、彼らは驚きを隠せなかった。王国軍の兵士らは自衛官や英連邦王国軍の兵士にオスプレイや携行する武器について質問攻めにし、興味深く日英軍の装備を見て回った。数時間後、外交官を迎えに来た王国側の馬車が到着。外交官は僅かな護衛の兵士と共に国王に謁見。日英側が知る情報を提供すると彼らは目を丸くし、王国軍の兵士同様、質問攻めにしたのである。その後、国王自らもオスプレイを視察した。

 

「しかし、あの時見た貴国の空母とやらは本当に大きかった。あんなものがあれば世界征服出来るのではないか?」

「植民地支配というのは、コストばかりかかって良いことがないのです。ロマンはありますがね」

「そうなのか・・・・そうじゃ! オスプレイとやらを買いたいのだが、どうにかならぬかのお?」

「日本側に相談してみます」

「是非ともお頼み致しますぞ」

 

謁見後にオスプレイを視察した国王は、日英の外交官が乗ってきたという空母に大きな関心を寄せた。国王の強い希望により、空母プリンス・オブ・ウェールズ視察が実現。オスプレイにて、同艦に降り立った。ちなみにこの時にカルアミーク王国国王はオスプレイの購入を決断しており、先の会話に繋がっている。空母の中でも質問攻めにしていた時に王国3大諸侯マウリ・ハンマン公爵が謀反の報せが届く。イギリス側は空母からF35Bをスクランブルさせ、偵察を開始。垂直に離陸する戦闘機に驚くカルアミーク王国側を他所に日英軍は情報を次々に纏めていく。その中にはカルアミーク王国の地方都市ワイザーが王国3大諸侯、マウリ・ハンマンの手の者により焼かれ、灰となったという情報もあった。更には戦車のような兵器も確認されていた。

 

「国王陛下、ここは我々にお任せ下さい。逆賊を血祭りにあげる瞬間をご覧にいれられましょう」

「うむ・・・他に手はなさそうじゃからな・・・」

 

イギリス海軍は稼働可能なF35B全機を直ちに発艦させ、制空権確保の為に動き出す。続けて陸上自衛隊のAH64Dアパッチ3機とAH1Sコブラ5機も発艦。また空母護衛の為に随伴しているイージス艦「みょうこう」から国産化並びに量産化に向けて少数生産された26式艦対地誘導弾(トマホークの国産化仕様)が発射される。常識外れの光景にカルアミーク王国側はただただ口を開けて見ているしかなかった。

 

「勝算は十分に、というか勝算しかございません」

 

その後、制空権確保の為に飛来したF35B軍団により有翼騎士団は次々に撃ち落とされていく。ミサイルを撃ち尽くせば機関砲を浴びせ、全ての有翼騎士団は撃ち落とされる。一部のF35Bは地上目標に対して攻撃している。制空権を確保した日英軍は続けて魔炎駆動式戦車を対戦車ヘリのミサイルやF35Bの胴体格納庫に搭載した爆弾にて駆逐していく。その後反転攻勢に出たカルアミーク・日英連合軍によりマウリ・ハンマンと、大魔導師オルド、その他の者たちは王国軍に捕らえられ、反乱は終結したのである。

 

「そなたらのお陰で余の今がある。本当に感謝しておる。それに、マウリの残党はまだ地方に残っておる。その時は是非とも力を貸して頂きたい」

「無論です。その為の条約ですから」

 

後にカルアミーク王国は英国の支援により近代化が進められると共に、マウリ残党狩りを強化。その過程で謎の遺跡をカルアミーク王国軍が発見。日英に対して協力を要請し、大規模な調査が行われることになるのである。またカルアミーク王国において地質調査が実施されると、かつては活火山であったことが判明。鉄や金等1000年分は軽く下らない豊富な鉱物資源が発見されると日英の企業が多数進出。カルアミーク王国は鉱物資源の採掘・精錬により莫大な富を得ることになる。

 

 

日本国福岡県福岡市博多区

福岡空港事務室

 

「いよいよ今日来るんだな」

「この世界では最強とされる国がね」

 

国交樹立後はカルトアルパスに領事として赴任するアキコと彼女の秘書官として行動を常に共にするシンが資料を見つめる。

 

「しかし、なんだこの飛行機? 全く意味が分からない形をしてるんだが?」

 

シンはアルタラス王国で撮影された神聖ミリシアル帝国の飛行機を見てそう呟く。

 

「素人で見てもそう思うよな。はっきり言ってメチャクチャな見た目なンだなあ、これ。アルタラス王国のマスコミが着陸する様子や離陸する様子をカメラに捉えてたが、ジェット機にしては遅すぎる。なンつーか、プロペラ機に毛が生えた程度だ。仮に戦闘機仕様や爆撃機仕様があったとしても相手にすらなンねえ」

 

国交樹立後に駐在武官として同じくカルトアルパスに赴任するアキラは映像も交えながら答える。

 

「細かい技術的な話はさておき、海自の俺から見ても技術レベルが分かンねえ。だが、パーパルディア皇国やムー相手なら簡単に勝てるぐらいの性能はありそうだ」

「確か、補給整備の時にアルタラス王国に駐留するイギリス空軍からの資料がこの辺に・・・・あった!」

 

3人はイギリス空軍が撮影した天の浮舟35型の画像を確認する。

 

「ジェット機って音速で飛ぶんだよな? でもボーイングとかエアバスの旅客機みたいな形状ではないんだな」

「音速を越えないンじゃないか? 護衛の為に途中まで同行したタイフーンよりも遥かに遅いみたいだし」

「・・・・・分かりました。すぐいきます」

 

まもなく使節団を乗せた飛行機が空港に着陸するという連絡が入り、各員せわしなく動き始める。

 

「シン!! ネクタイ曲がってる!!」

「あははは! 相変わらずだなお前らは!!」

 

 

リーム王国王都ヒルキガ

セルコ城

 

「・・・・・という訳で、我々大英帝国は貴国に対して以下の内容をご提案させて頂きます。ご検討の程、よろしくお願いいたします」

 

イギリスの大使がリーム王国国王に対して、イギリス政府からの提案を伝える。内容としては、

 

・リーム王国はフィルアデス大陸条約機構に加盟する

・リーム王国軍の戦時作戦統制権をフィルアデス大陸条約機構軍最高司令官に譲渡する

・リーム王国には、イギリス軍を中心とするフィルアデス大陸条約機構軍が駐留し、同国の安全保障を担う

・リーム王国はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間で地位協定を締結する

・これらの提案を全て受け入れた場合、イギリスはリーム王国軍の近代化支援を行う

 

というものであり、事実上の従属要求であった。主権は維持されるが、肝心の軍隊はイギリスに握られる。また、イギリスだけでなく何れは日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドからも同様の要求が来るのは確実である。

 

「こんなもの、受け入れられるか!!」

「ですが、我々が元々いた世界には、戦時作戦統制権を他国に譲渡している独立国もございました。別におかしいとは、思いませんが?」

「黙れ! 我がリーム王国が他国に従属なんぞせん!!」

「では、戦いますか? 我が大英帝国と?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 

暫しの沈黙。イギリスの大使は余裕綽々である。港は既にイギリス、アンティグア・バーブーダ、グレナダ、セントクリストファーネイビス、セントルシア、セントビンセントグレナディーン、フェン王国、ガハラ神国、バハマ、ベリーズ、ジャマイカ、パプアニューギニアによる総勢3000の多国籍軍(イギリス軍2500、その他500)により制圧されている。制海権も多国籍軍に完全に掌握されており、制空権はフェン王国から戦闘機を演習を兼ねて飛ばして確保している。イギリスは日英両国の近くに敵対国家があることを快く思っておらず、この機会に黙らせようと考えたのである。ちなみに日本は参戦していないが、沖縄の嘉手納基地の使用を承認している。

 

「暫し待たれよ」

「待てません、待ちません、待ちたくありません」

「・・・・・・・・・・・・」

「受け入れて大英帝国の傘下に入るか、それとも国土を焼き尽くすか。好きな方をお選び下さい。陛下?」

 

イギリス側は強気の態度を崩さない。

 

「・・・・・・・今日のところはお引き取り願いたい。重臣を集め、会議を開く」

「はあ・・・・残念です。ですが、前向きな返事を期待しておりますよ」

 

その後、妥協案として多国籍軍が制圧している港をイギリスに租借すること、イギリス軍並びに軍属が犯罪を犯した場合に関するイギリス側優位の地位協定締結をリーム王国は提案。イギリス側はこれを一部修正の上で承認。租借する範囲を拡大し、港の周辺の島々も対象としたヒルキガ合意を締結。こうしてイギリスは合法的にリーム王国を監視し、有事の際には即時に行動出来る態勢を整えた。後にリーム王国は、イギリスを追い出すためにグラバルカス帝国と手を結んだ結果、グラバルカス帝国との同盟締結の翌日には滅ぼされるのだが、この時はまだ知らない。

 

 

日本国 九州地方 南西方約700km先 上空

 

雲1つ無い青い空を、白く塗られた機体が飛んでいた。機体に2つあるエンジンの後方は、青く光り、空気を噴射し、それは進む。

第3文明圏の技術レベルでは、決して作れない技術の結晶たる航空機、中央世界にある世界最強の国、神聖ミリシアル帝国の「天の浮舟35型」は、使節団を乗せ、時速310kmで日本国に向かっていた。

 

「間もなく日本国の領空に入ります。なお、日本国の戦闘機が2機、我が機を先導する予定となっております。戦闘機が来ても、先導が目的ですのでご安心下さい」

 

機内放送が流れる。

 

「長かった!あと2時間ちょっとで、やっと着きますね」

 

情報局員ライドルカは、隣の外交官フィアームに話しかける。

 

「しかし、やはり遠いですね。もうちょっとで、東の果ての文明圏外国家、それも列強レベルを相手にしなければならないかと思うと頭が痛いです。戦闘機が2機先導のために来るとの事ですが、文明圏外国がワイバーンではなく戦闘機を持っていた事自体が驚きですね。日本はイギリスの恩恵を受けているのでしょう。パーパルディアに勝った理由も何となく理解できた気がします。どんな戦闘機で登場してくれるのかが、楽しみですよ」

 

外交官フィアームの脳裏には、アルタラス王国で見たイギリスのユーロファイタータイフーンが浮かぶ。

 

「フィアームさん、イギリスだけでなく日本に対しても文明圏外の蛮国といった先入観なしに見た方がいいかと思います。それに日本国はイギリスの同盟国。侮っては」

「解りましたよ」

「いやぁ、私も日本国がどのような航空機で来るのか、非常に興味がありますね」

 

技官ベルーノも話に入ってくる。3人は窓の外を見る。遥か下には海が見え、機内には魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの発する甲高い音と、機体が空気を裂く音のみが聞こえる。突如として、2機の機体とすれ違う。遅れて轟音。2機の機体は、遥か後方で向きを変え、あっという間に天の浮舟に追いつき、1機が先導し、もう1機が横につく。

 

「なっ・・・・何!? 速すぎる!!!」

「ムーの飛行機に使用しているプロペラが無いぞ!! はっ!! 機の前方に空気取入口がある!! まさか日本国もイギリスと同様、魔光呪発式空気圧縮放射エンジンを実用化しているのか!!」

 

技官ベルーノは、驚愕する。

 

「しかし、なんて速さだ!! 日本の戦闘機も制空型の天の浮舟の速度を凌駕している!!」

 

武官アルパナが話に割って入る。

 

「あの翼型は後退翼か!! アルパナ殿、あの戦闘機はイギリスの戦闘機と同様、少なくとも音速を超えますぞ!!」

 

技官ベルーノは興奮気味に話す。航空機が音速を超えた場合、機体先端から斜め後方に向かい、衝撃波が発生する。衝撃波境界層が翼に触れると、安定飛行を妨げるため、より影響が少ない後退翼が採用される。ベルーノは後退翼の特性を見抜く。外交官フィアームは、ワナワナと震え、話始める。

 

「バカな!! 文明圏外国が、我が国を凌駕する航空機を持つはずがない! それも二か国もだ!! あってはならない事だ!!」

「しかし、あの機体は明らかに音速越えを想定している。無意味な形の航空機は作らないでしょう。それに、アルタラス王国に派遣されているイギリス軍もそうでした。どうやら日英は少なくとも戦闘機においては我が国を遥かに凌駕しているようですな」

「我が国は、先進的な学問体系もさることながら、古の魔法帝国の遺産を多数研究出来るという、他国に比べても大きなアドバンテージがある。にも関わらず、航空機技術という、最も重要な一分野において文明圏外の二か国に完全に負けるとは!! いったいどういう事だ!!」

 

外交官フィアームは、困惑しながら日本国航空自衛隊の主力戦闘機、F-15J改を眺めるのだった。天の浮舟35型は、日本国の戦闘機に先導され、九州の上空に至る。やがて、大きな先進的都市が眼下に見えてくる。これほどの大都市が文明圏外にあり、かつそれが1地方都市に過ぎないという事に、全員が衝撃を受ける。

 

「日本国には魔法が無いと聞いていたが、魔法なしでこれほどの大都市が作れるものなのか?」

 

技官ベルーノは疑問を呈する。やがて機はアルタラス国際空港よりは狭いが、それでも不必要なほどに大きな滑走路に着陸し、旅客機の横の駐機場に誘導される。

 

「つっ!!」

 

外交官フィアームは、眼前の光景に、プライドが破壊され、屈辱的な気分となる。中央世界の、誰もが認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国の技術の結晶ともいえる天の浮舟35型。その美しい機体、高度に洗練された技術、行く国々で、各国との技術差、国力差を実感し、見るたびに誇りに思ったものであるが、今横にある機体はいったい何だ!!! アルタラス王国では体感しなかった、この惨めな気持ちはいったい何なのだ!!! アルタラス王国では、イギリス空軍のエリアに駐機した為に民間機と隣接しなかった神聖ミリシアル帝国だったが、福岡空港ではボーイング777型機と、ボーイング787型機に挟まれて駐機する。やがてタラップが取り付けられ、機を降りた使節団は、日本国の出迎えと挨拶を交わす。

 

「この度は遠路遙々日本国までお越し頂き、ありがとうございます。私は今回皆様を東京までお連れすると共に、国交樹立後は貴国のカルトアルパス駐在の領事を勤めます、根布でございます」

「・・・・・日本にも女性の外交官がいるとは・・・はっ! 失礼!!」

 

アキコの柔らかな笑顔に、同じ女性にも関わらず思わず見惚れてしまったフィアームは一瞬我を忘れる。その後ろではシンとアキラが明らかに睨み付けていたのだが、二人は気付いていない。その後、フィアームら使節団は日本側の用意した移動手段、車で福岡市内のホテルに向かう。

 

「しかし車という乗り物は、我が国の魔導車に似ているが、形が洗練されており、車速も非常に速く、何よりスムーズだ」

「我が国は転移前から世界有数の自動車メーカーを多数抱える自動車大国でしたので。特に一部の自動車メーカーは紛争地帯で官民どころか反政府勢力御用達な程です」

「反政府勢力御用達? よく分かりませんが、それだけ高性能なのですか? それも民間の車が?」

「あれの場合は高性能というより、整備性の良さですけどね」

 

外交官であるフィアームは日本側の外交官であるアキコと同じ車で移動する。ちなみに車の運転手は彼女の秘書官であるシン、助手席にはアキラが座っている。二人とも明らかに不機嫌なのだが。

 

「しかし、何よりも驚くべきはその車の量です。貴女の話を聞けば民間人の下層でさえ車は持っていると」

「はい。むしろ地方では車なくして生活出来ませんので・・・ちょっと運転荒くない?」

「・・・・・・・荒いか?」

「・・・・・・・さあな?」

「・・・・・・・・・・はあ」

「・・・・・・・・・・(アキコ殿も大変みたいね。運転手のあの子が夫か何かかしらね?)」

 

その後一行は旅の疲れを癒すためホテルに直行した。ちなみに使節団一行をホテルにぶちこんだ後、アキコが二人をしばいたのは言うまでもない。

 

「シンさあ・・・・大国の外交官が乗ってたんだよ? あの運転はないでしょ?」

「だってミリシアルの外交官が君を拐かして!! 同じ女性なのに!!」

「誰が夫を裏切る尻軽女だって?!」

「あー、こわいこわい」

「てめえもだゴルアアア!!」

「「.......ギャアアアア!!」」

 

10分後

 

「あー、さっぱりした。さて、報告書作らなきゃ」

 

(続く)

 

 

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